木曜日, 7月 16, 2015

ロバート・ソローの説明、クズネッツ再考



参考文献

近代経済成長の分析 上 クズネッツ 第4章 (東洋経済新報社、 1968年)
三章では農業工業サービス業、三部門のデータ比較あり
労働経済学 小野旭



■ロバート・ソローの説明

   では、資本収益率rがつねに成長率gより大きくなる必然性はどこにあるのでしょうか。

  この点を理論的に明らかにしたのが、ロバート・ソローの書いた長文の書評です。ソローは「資本主義の根本的矛盾」を、彼のつくった新古典派成長理論で説明しています。 

 新古典派成長理論は、経済が定常状態に近づくと考えます。これは資本と労働の投入によって経済が成長した結果、その比率が一定になる状態です。ミクロ経済学で「均衡状態」と呼ばれるものに対応するのですが、ここでは労働/資本比率が最適になるので、労働が一定だと資本も一定で、成長率もゼロになります。

  労働人口が一定でも、技術進歩などで生産性が上がると成長します。賃金が労働生産性で決まるとすると、生産性が上がると賃金も上がります。国民所得は労働生産性×労働人口で決まるので──人口が増えているときは──成長率は労働生産性の上昇率より高くなります。  

 簡単にいうと、これが資本収益の上昇率が賃金上昇率を上回る原因です。ソローはこう書いています。


   経済が資本/所得比率が一定の「定常状態」に到達達したと考えよう。労働からだけ所得を得る人々の賃金は、技術進歩によって生産性が上がるのと同じぐらいのスピードで上がる。それは経済全体の成長率より少し低いだろう。なぜなら成長率は人口増加率を含むからだ*


 この結果、資本収益率が成長率を上回り、格差が拡大します。これをソローは富める者がますます富むダイナミックと呼んでいます。 

 資本と人口を一定とすると、労働者の生産性が毎年1%ずつ上がると国民所得も1%増えますが、人口が1%増えると国民所得は2%増えます。この差の1%の部分が資本所得になるわけです。

  これは海外生産を考えると、わかりやすいでしょう。 

 アジアに工場をつくって生産を増やした場合、その分の利益は資本家に配当として入りますが、労働者には還元されません。この部分の国民所得(GDP+海外収益)が資本所得の増加になるのです。これ以外にも、地価の上昇などの「外部性」はすべて資本家のものになります。

  のちほどみるように、ピケティは新古典派成長理論を「寓話」として否定しているのですが、その元祖であるソローがピケティのデータを新古典派成長理論で説明しているのはおもしろい。


* Solow "Thomas Piketty Is Right", New Republic, April 22, 2014、強調引用者


日本人のためのピケティ入門

池田信夫

より


■ロバート・ソローの説明

   では、資本収益率rがつねに成長率gより大きくなる必然性はどこにあるのでしょうか。

  この点を理論的に明らかにしたのが、ロバート・ソローの書いた長文の書評です。ソロ

ーは「資本主義の根本的矛盾」を、彼のつくった新古典派成長理論で説明しています。 

 新古典派成長理論は、経済が定常状態に近づくと考えます。これは資本と労働の投入に

よって経済が成長した結果、その比率が一定になる状態です。ミクロ経済学で「均衡状態」

と呼ばれるものに対応するのですが、ここでは労働/資本比率が最適になるので、労働が

一定だと資本も一定で、成長率もゼロになります。

  労働人口が一定でも、技術進歩などで生産性が上がると成長します。賃金が労働生産性

で決まるとすると、生産性が上がると賃金も上がります。国民所得は労働生産性×労働人口

で決まるので──人口が増えているときは──成長率は労働生産性の上昇率より高くなります。  

 簡単にいうと、これが資本収益の上昇率が賃金上昇率を上回る原因です。ソローはこう

書いています。


   《経済が資本/所得比率が一定の「定常状態」に到達達したと考えよう。労働から

だけ所得を得る人々の賃金は、技術進歩によって生産性が上がるのと同じぐらいのスピー

ドで上がる。それは経済全体の成長率より少し低いだろう。なぜなら成長率は人口増加率

を含むからだ》*


 この結果、資本収益率が成長率を上回り、格差が拡大します。これをソローは富める者

がますます富むダイナミックと呼んでいます。 

 資本と人口を一定とすると、労働者の生産性が毎年1%ずつ上がると国民所得も1%増え 

ますが、人口が1%増えると国民所得は2%増えます。この差の1%の部分が資本所得になる

わけです。

  これは海外生産を考えると、わかりやすいでしょう。 

 アジアに工場をつくって生産を増やした場合、その分の利益は資本家に配当として入り 

ますが、労働者には還元されません。この部分の国民所得(GDP+海外収益)が資本所得

の増加になるのです。これ以外にも、地価の上昇などの「外部性」はすべて資本家のもの

になります。

  のちほどみるように、ピケティは新古典派成長理論を「寓話」として否定しているの

ですが、その元祖であるソローがピケティのデータを新古典派成長理論で説明しているの

はおもしろい。


* Solow "Thomas Piketty Is Right", New Republic, April 22, 2014、強調引用者


『日本人のためのピケティ入門』池田信夫より


ピケティ『21世紀の資本』の参考文献として


ピケティ関連の書籍を一通り集めたが、これが一番重要だ(ただし、ピケティが直接言及しているのは1955年に原著が刊行されたクズネッツ『経済成長と所得格差』及び1953年刊行のデータ本[Shares of Upper Income Groups in Income and Savings(高額所得層の所得と貯蓄 )]の方で、本書の原著は1966年刊行)。

(統計データがメインの書籍ではないが)特に上巻の第4章はピケティが反駁したデータが載っている。クズネッツはフリードマンを褒めていることからもわかるように(上193頁)、自由競争が格差を是正すると考えていたのだ。

農業工業サービス業と三部門間の比較をした第3章も重要だ。

関係ないがワイン生産工場などは工業に入るのだろうか?この三部門を一括して引き受ける分業の拒絶が今後の持続的成長の鍵だろう。



Front matter, Shares of Shares of Upper Income Groups - National ...

(Adobe PDF)

 

-htmlで見る

www.nber.org/chapters/c3054.pdf

Volume Author/Editor: Simon Kuznets, assisted by Elizabeth Jenks. Volume Publisher: NBER. Volume ISBN: 0-87014-054-X. Volume URL: http://www.nber. org/books/kuzn53-1. Publication Date: 1953. Chapter Title: Front matter, Shares of ...



Economic Growth and Income Inequality

https://www.aeaweb.org/aer/top20/45.1.1-28.pdf



経済成長-不平等-貧困削減 の三角関係に関する一考察  
―The Eternal Triangle of Growth, Inequality, and Poverty Reduction―  A Survey of Findings  
  大坪 滋  Shigeru OTSUBO  October 2007 

3.経済成長の所得分配に及ぼす影響―クズネッツの逆U字型曲線は存在するか? 

 Kuznets (1955)は実証研究によって米国、英国、ドイツ(1913年以前はPrussiaとSaxony地域)で19世紀後半から20世紀中ごろまでにおける経済成長と所得分配の不平等との関係を検討した。経済成長と所得分配の不平等との関係が逆U字型曲線(inverted U-curve)で表わされ得ることから、開発コミュニティーにおいても広く、経済発展の初期には所得分配の不平等は悪化し、中所得国のある段階を過ぎ成熟国へ移行するにつれてそれは改善されるという「クズネッツ仮説 (Kuznetz’ hypothesis)」が形成された。
 諸国が、平均所得水準は低いが所得がより平等な農村セクター(あるいは農業)と平均所得も所得の不平等度も大きい都市セクター(あるいは工業)から成り立っているとする。そうであれば、多くの人口が農村セクター(農業)にある開発の初期段階から都市化(工業化)が進むにつれて1国全体の所得の不平等、平均所得の増加と共に悪化することになる。都市セクター(工業)が大勢を占めるようになると、今度は引き続いての平均所得の増加に伴って所得の不平等は改善されるというのが主たる理由付けであった。しかしながら上述したように、Kuznets自身が、その論文が5%の史実と95%の推察に基づいており、その幾分かは希望的観測に基づくものであるとし(Kuznetz: 1955, p.26)、この仮説の検証を後の研究者の手に委ねていた。 F