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火曜日, 11月 17, 2015

アカロフ=イエレン、「景気循環の近似合理的なモデル」(1、2)

                    ( 経済学リンク::::::::::
アカロフ=イエレン、「景気循環の近似合理的なモデル」(1、2)
http://nam-students.blogspot.jp/2015/11/blog-post_72.html

ジャネット・イエレン 「中央銀行のコミュニケーション戦略における革命と進化」(2012年11月13日)


●Janet L. Yellen, “Revolution and Evolution in Central Bank Communications”(Speech at the Haas School of Business, University of California, Berkeley, Berkeley, California, November 13, … [Continue reading]


ジャネット・イエレン 「金融政策におけるコミュニケーションの役割」(2013年4月4日)


●Janet L. Yellen, “Communication in Monetary Policy”(Speech at the Society of American Business Editors and Writers 50th Anniversary Conference, Washington, D.C., April 04, … [Continue reading]




ジョージ・アカロフ
https://nam-students.blogspot.com/2019/02/2001-georgeakerlof-1940.html


M B K 48 : アカロフ=イエレン、「景気循環の近似合理的なモデル」(1)

"A Near-rational Model of the Business Cycle, with Wage and Price Inertia" (1985)
George A. Akerlof and Janet L. Yellen

古いものですがニューケンジアンの代表的な論文です。英語の原文はこちら。
http://isites.harvard.edu/fs/docs/icb.topic500592.files/akerlof%20yellen.pdf

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賃金と価格の慣性がある、景気循環の近似合理的なモデル
A Near-rational Model of the Business Cycle, with Wage and Price Inertia
 この論文は、わずかに次善最適化的な (suboptimal) 行動が、大きな実質的な影響を与える総需要ショックを引き起こす、ということを示すモデルを提示する。 企業 (agents) が慣性的な (inertial)  価格―賃金 設定を行った場合、その企業にとっての損失は、ショックを説明するパラメーターに関して2次的 (second-order) になる。しかし、実質的な経済変数に対する影響は1次的(first-order)になる(訳注1)。したがって、ある割合の企業が、影響がわずかな損失だからといって利潤最大化を行わない場合、予期された貨幣供給の変化であっても経済に大きな変動がもたらされる可能性がある。
I.イントロダクション
 この論文は、なぜ名目貨幣供給の変化が短期において中立的にならないかについてひとつの説明を提供する。この論文は、総需要ショックが起こり、企業が個人的な視点から「わずかに」(insignificantly) 次善最適化的な (suboptimal) 方法で賃金や価格を修正すると、産出と雇用に大きな変動を引き起こす可能性がある、ということを示す。言葉を変えていえば、意思決定や価格の変更にともなう非常に小さな取引費用によって、実質的な経済活動の大きな変動が説明できるかもしれない、ということである。
 議論は6つの段階にしたがって行う。

1.貨幣の非中立的な性格は、景気循環の理論にとって重要であると示される。

2.近似合理性(near‐rationarity)という概念を導入する。近似合理的な行動とは、利潤最大化した場合の利益が、利潤最大化しない場合に比べて、厳密に定義された意味において小さくなるために生じる利潤最大化しない行動のことである。

3.多くのモデル――企業自身の賃金や価格に関して微分可能な目的関数をもつモデルにおいて、全員が利潤最大化している長期の均衡がショックによって変動した場合、利潤最大化とは反対の慣性的な 賃金―価格 設定をした場合の費用は小さくなる、ということを論じる。最初、賃金と価格が最適化されていて、(訳注 ショックの後)賃金と価格を調整しないことで被る損失は、そのショックの変動の大きさに比べて小さくなる。

4.企業自身の価格や賃金に関して目的関数が微分可能であることの経済的意味を説明する。労働市場と生産市場が完全競争ならば、利潤関数はその特徴を持たない。しかし、不完全競争を含む多くのモデルにおいて、目的関数はこの特徴をもっている。

5.個々の利潤最大化しない企業にとって2次的な損失しか生み出さない利潤最大化をしない行動が、どうしてそれにもかかわらず実質的な変数に1次的な影響をもたらすのか、直感的な説明を提供する。

6.慣性的な 価格―賃金 設定の行動が実質的な経済活動には1次的な変化をもたらすが、そのような利潤最大化しない企業にとってはわずかな損失しかもたらさないモデルの例を提示する。そのモデルにおいて、企業の利潤は、それが設定する価格とそれが提供する賃金を変数とする連続的で微分可能な関数である。このモデルは、生産市場は不完全競争を想定していて、賃金と労働生産性の関係から、労働市場において「効率賃金」("efficiency wage")につながっていると想定している。効率賃金の想定は、経済のひとつの重要なモデル化した見方、つまり2重労働市場 (dual labor market) を説明してくれるので、またそれは長期化する非自発的失業に対して合理的な説明を与えてくれるので、その想定は妥当であると論じる。
貨幣の中立性がないモデルの必要性
 よく知られているように、市場が掃けることになっている新古典派のモデルでは、「予期された」総需要の変化は、雇用や生産に何ら変動をもたらさない(Sergent [1973]を参照)。しかし、総需要の変化に対するこの雇用や生産の不感応性は、新古典派のモデルの仮定を超えて、普遍化されてしまっている。モデルが合理的な行動を仮定している限り、つまり実質的な変数のみに依存する目的関数の最大化をもとにしている限り、予期された総需要ショックが雇用や産出に影響を与える理由がないのは当然である。したがって、長期あるいは暗黙の契約や、不完全情報や、労働移動や効率賃金によって非自発的失業を説明している最近のモデルでも、ではどうして貨幣供給の変化が、予期されているものでも、実質的な産出に影響を与えるのか、という疑問には答えていないのである。
 ケインジアンのモデルでは、賃金や価格の変更に関して企業が慣性的に行動すると、総需要の変動が実質的な産出に変動をもたらす。賃金や価格の変化が遅いことに関しては、かなり多くの実証的な証拠がそろっている(例えばOkun [1981] の議論)。しかし、どうして総需要の変化に対して、価格や賃金が素早く調整されないのか、ということは謎のままである。完全競争市場を想定しているケインジアンモデルでは、賃金と価格を素早く調整する企業はかなりの利益を得ることになっている。だから、そのモデルでは、慣性的な行動は非合理的で費用がかかることになる。この問題に対するひとつの答えとして、新しい古典派のマクロ経済学が、完全情報では貨幣は中立的になるが、予期されなかった貨幣ショックが、賃金や価格の配分に関して不完全な情報しかもっていなかった企業をだますとき、貨幣は非中立的になるというモデルを提示している。このモデルが適応可能かどうかに関しては、大きな議論になっている。この論文ではそれとは別の見方を提示する。
近似合理的な行動
 この論文が提示する貨幣の非中立性の別の説明は、企業による慣性的な 賃金―価格 設定の行動は、実際には、それほど費用がかからない、という考えにもとづいている。だからそれは近似合理的なのである。価格と賃金をゆっくり調整する、というように次善最適化する企業は、最適化しないことにより損失を被る。しかし、その損失は非常に小さいかもしれないのである。近似合理的な行動とは、おそらくそれは次善最適化なのだが、最善 (first best) な行動がもたらしたであろう結果と比較してみると、実は非常に少ない損失だけですんでしまう行動のことである。厳密に言えば、この場合の「非常に小さい」は、全員が利潤最大化している長期的な均衡から乖離させるような政策ショックがあった場合、そのショックの大きさに関して2次的であると定義できる。この論文の主張は、慣性的な 賃金―価格 設定の行動は――それはその実行者にとって2次的な損失しかもたらさないという意味で近似合理的だが――それにもかかわらず、実質的な経済活動には1次的な変化を引き起こす、というものである。そのために、貨幣供給の変化は、企業が近似合理的なら雇用と産出に1次的な変化を引き起こす可能性があるのである。要約すれば、この論文の主張は、貨幣供給の変動は、慣性的な 賃金―価格 設定の行動がなければ中立的になるはずだが、その貨幣供給の変動に対して、そのような利潤最大化しない行動が少しでもあれば、大きな景気循環を引き起こしうる、というものである。
慣性的行動の近似合理性が成立するためのる重要な条件:企業自身の賃金と価格に関して目的関数が微分可能であること
 すべての企業が利潤最大化している均衡状態を変動させるショックを考えてみよう。自分自身の賃金と価格の関数として微分可能な目的関数をもつ企業にとって、粘着的な賃金や価格の設定をすることは、近似合理的である。慣性的な行動をしたために賃金や価格設定でまちがえれば、政策ショックに関して2次的な損失を企業にもたらす。なぜなら、企業はそのショック以前の均衡状態では、より高い価格をつけることで得られる限界利益が、限界費用で相殺されるところで価格設定しているからだ。そのため賃金や価格設定でまちがえても、目的関数の値に対して2次的な影響しかもたらさない。これは包絡線定理 (envelope theorem) の応用にすぎない(Varian [1978])
微分可能性の仮定
 目的関数が企業自身の賃金と価格に関して微分可能であるという条件は、説明が必要だろう。この仮定は、完全競争モデルでは当てはまらない。完全競争モデルにおける企業の利潤について考えてみよう。その場合、市場の賃金よりも低い賃金を提示する企業は、労働者を雇用することができない。市場賃金のレベルで、雇用可能な労働量は不連続的にジャンプアップする。したがって企業の利潤についても同様である。反対に企業が支払う賃金が市場賃金よりも高い場合、企業の利潤は、市場賃金に対するその企業の賃金の超過分に比例して減少する。したがって、企業の利潤関数(賃金の関数と考えると)は、最適賃金(これは市場賃金である)の値で微分可能ではない。同じ議論は、企業の価格についても当てはまる。もし企業が市場をクリアする価格以上の価格を設定すると、完全競争する企業はまったく売り上げを得ることができない。企業が設定する価格が市場をクリアする価格よりも低くなるところで、そうなると好きなだけ売ることができるので、企業の利潤は不連続的にジャンプアップする。そして、市場をクリアする価格よりも価格が低くなっていくと、市場をクリアする価格と企業自身の価格とのギャップに比例して、企業の利潤は減少していく。完全競争市場モデルでは、市場をクリアするレベルよりも高い賃金や低い価格は、企業の利益に貢献しない。
 対照的に、企業自身の賃金や価格に関して微分可能な利潤関数を想定している、価格や賃金設定のモデルが多く存在する。買い手が不完全情報を持っているモデルや、生産市場が独占や売り手寡占のモデル、差別化された製品を生産する独占競争モデルなどでは、企業の生産関数の変化は、企業自身がつける価格に関して微分可能である。なぜなら、その価格が他の企業がつける価格から限界的に乖離しても、突然売り上げがゼロにはならないからである。これらのモデルでは、企業による価格引下げは、売り上げ1単位当たりの収入が減るため限界費用を増加させるとともに、売り上げの増加に伴う限界利益の増加ももたらす。
 同様に、企業が提示する賃金に関して微分可能な利潤関数を想定している労働市場モデルもある。これが起こるのは、労働者が不完全な情報しか持っていないので、企業に少なくとも買い手独占の力を与えるモデルか、買い手独占あるいは買い手寡占の労働市場のモデルである。長期契約のほとんどのモデルにおいて、利潤関数は賃金改定の時期に関して微分可能である。最後に、後で説明するような失業の効率賃金モデルにおいても、利潤は賃金に関して微分可能な関数になっている。なぜなら、高い賃金を提供することによって高くなる労働者1人当たりの労働費用は、少なくとも部分的に生産性の増加による労働費用の減少によって相殺されるからだ。
 このように、企業の利潤が、賃金や価格を変数とし、その変数に関して微分可能な関数になっている多くの種類のモデルがある。そのようなモデルのいずれにおいても、全員が利潤最大化している長期の均衡から変動させるショックに反応して、慣性的な 賃金―価格 設定の行動をとった場合、そのような利潤最大化しない企業が被る損失は、小さなものにすぎないだろう。
賃金や価格の粘着性は実質的な変数に1次的な影響を与える
 ここまでの部分で、多くのモデルにおいて賃金や価格の粘着性が企業の目的関数に与える影響は、すべての企業が利潤最大化している均衡状態から変動させるショックの大きさに関して2次的であると示した。それにもかかわらず、そのような 賃金―価格 の粘着性は、通常、そのショックに伴う実質変数の均衡値に1次的な影響をもたらす。この特徴は、この論文で提示される具体的なモデルで確認しなければならないのだが、どうしてこれが通常起こるのかについては、一般的な直感的説明が可能である。
 もしすべての企業が、εの割合の貨幣供給の変化に対して、粘着的な価格設定を維持したなら、同じ割合だけ実質残高 (real balances) に変化が生じるだろう。実質残高の変化がショックの大きさと同じ次元になるのは明らかである。そして、ほとんどのモデルで、他の変数も同じ大きさの次元だけ変化するだろう。ほとんどの実質的変数はショックの大きさと同じ次元だけ変化する、という特徴は正しいのである。ただし、一部の企業だけが粘着的な価格や賃金の設定をして、残りの企業は利潤最大化している場合の短期的な均衡では、議論はより複雑になる。

提示される例
 次のセクションIIでは、近似合理的な賃金と価格の粘着性により景気循環の変動が説明できる、という仮定を証明する具体的なモデルを提示する。ここで提示されるモデルは、主に3つの特徴をもっている。第一に、粘着的な賃金と価格の調整である。私たちはその設定によって、すべての企業が利潤最大化している長期的な均衡状態に対してショックがあった場合、βの割合の企業は、それまでと同じ名目価格と名目賃金を維持し、残りの企業は完全に利潤最大化する、ということを意味している。
 このモデルの2番目の特徴は、価格粘着的な価格設定が、全員が利潤最大化している長期均衡に対するショックに反応する行動としては、近似合理的な方法であると保証していることである。ここでは、企業は独占競争をしていて、彼らの売り上げは、実質総需要のレベルと、他の企業の価格に対する自身の相対的な価格の両方に依存する、と仮定している。また単純化のために、総需要は実質残高に比例すると仮定している。前の議論で示されているように、このようなモデルにおいて、価格粘着性は近似合理的になる。労働市場が市場をクリアするものであっても(a market-clearing labor market)、そのような価格の慣性があれば、貨幣供給の変化がそれに比例した実質変数の変化を引き起こすことは十分に説明できる。
 この論文は、どうして貨幣の非中立性が近似合理的な行動から発生するのか、ということだけでなく、その場合の均衡が非自発的失業によって特徴づけられるものになる、ということを示すモデルの提示も意図している。私たちのモデルで非自発的失業が発生するのは、労働者の生産性が彼らが受け取る実質賃金に依存しており、そのために企業は、市場をクリアする以上の賃金を設定する、と仮定しているからである。そのような効率賃金モデルはよく知られていないかもしれないので、以下の部分で簡単に説明し、その効率賃金モデルが、労働市場をクリアしないモデルの現実的な基本形になると私たちが考える理由を付け加えようと思う。
失業の効率賃金モデル
 現在、先進国で非自発的失業が発生するのは、効率賃金のためであると説明するたくさんの研究が存在する。その効率賃金仮説によれば、実質賃金をカットすれば、生産性を損なうことになるからである。これが実際に起こっていることなら、それぞれの企業は、労働者1人当たりの労働費用を最小化するのではなくて、効率労働1単位当たりの労働費用を最小化するように賃金を設定するだろう。効率労働1単位当たりの労働費用を最小化する賃金は、効率賃金と呼ばれている。企業は、限界収入生産物 (marginal rvenue product) がその企業が支払う実質賃金と等しくなるところまで労働者を雇用する。そうすると、それぞれの企業が効率賃金を支払っていると、労働総需要が労働供給よりも少なくなってしまうことが簡単に発生する。そのために非自発的失業が起こるのである。
 この効率賃金モデルには基本的に3つのバージョンがある(その一覧に関してはYellen [1984] を参照)。1つ目のバージョンは、企業は、従業員が怠業するインセンティブを持たないようにするために、留保賃金よりも高い賃金を支払う、というものである。2番目のバージョンは、労働者が仕事を辞めないようにするため、そして労働異動率を下げるために、労働市場をクリアするよりも高い賃金を支払うというものである。3番目のバージョンは、労働者から企業への忠誠を引き出すために、市場をクリアする賃金よりも高い賃金を支払うというものである。
 これらのモデルには、いくつかの想定される問題があるが(ある場合には、複雑な契約がパレート優越的になり、均衡での失業がなくなる。あるいは、これらのモデルは、順循環的ではなくて、反循環的な生産性を示すかもしれない)、適切な修正を加えれば、それらは非自発的失業の説明として現実的に妥当なものになるだろう。さらに、2重労働市場のモデルはどれでも、プライマリーセクター(primary sector )の企業が市場をクリアする賃金よりも高い賃金を支払うことを説明しなければならないが、その説明は、効率賃金の理論によって可能になるだろう。

続きは → こちら 

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訳注1) agent = この論文の場合、企業と考えてまったく問題ないので、以下の部分ではすべて「企業」と訳しています。

  suboptimal = 次善最適化、2次最適化 という意味です。完全に(一番いいレベルで)最適化 (optimal) せずに、少し低い (sub) レベルで最適化する、ということになります。

 以下何度も、「1次的」(first-order)、「2次的」(second-order) という表現が出てきますが、変数の「次数」との対応を見るには、目的関数を極値の値でテイラー展開するとわかりやすいです。目的関数が極値(最大値、最小値)を持ち、その極値で微分可能ならばテイラー展開したときの1次の項は0になります(1階の微分の係数が0になるので)。
 これの補足としては、マンキューの「メニューコスト」の論文の訳注(こちら)を参照してください。


M B K 48 : アカロフ=イエレン、「景気循環の近似合理的なモデル」(2)
http://blog.livedoor.jp/sowerberry/archives/30375541.html
III 結論
 要約すると、私たちは、総需要の変動が均衡において大きな変動をもたらす、ということを示すモデルを提示した。このモデルは、「歩道に500ドル紙幣が落ちているなんてことはない」という有名なルーカスの批判に答えるものである。このモデルには、利潤を増加させる機会ならどんなものでも利用しようとするする利潤最大化する企業と、利潤最大化していないが、その行動を変更したとしても、わずかな利益しか得ることができない企業の2つのタイプが存在する。
 また、このモデルは、非自発的失業が発生する条件を満たしている。このモデルで非自発的失業が発生するのは、効率労働当たりの費用を最小化するという効率賃金の基準にしたがって、市場をクリアするレベルよりも高い賃金が選択される、という仮定のためである。
 イントロダクションですでに明らかにしているように、この論文で短期における貨幣の非中立性を示すために用いられた基本的な方法は、さらに広い範囲のモデルでも適用可能である。前節の独占競争市場における効率賃金モデルは、そのようなモデルの一例にすぎない。


**********
訳注1) 
 効率労働の考え方では、失業率が高くなると、労働者の努力水準 e が高くなります(失業しないようにするので)。労働者の努力水準 e が高くなれば、「効率労働単位当たりの費用(実質賃金)=ω/e 」が低下します。したがって、効率労働単位当たりの費用が低下するので、企業は雇用を増やします(企業は、労働者1人当たりの労働費用ではなくて、効率労働1単位当たりの労働費用で最適化します)。失業(均衡における失業)は効率賃金によってある程度は相殺されるわけです。

訳注2)
 企業は、効率労働単位当たりの費用ω/e を最小にするように賃金を設定します。したがって、ω/e をωで微分し、1階の条件を求めると、
13080801



13080802



 となります。ここで e’(ω) は、e(ω) をωで微分した関数です( e’(ω) = d(e(ω))/dω)。
 この式から次の関係が導けます。
13080803



 これは e(ω) のωに対する弾力性が 1 になることを表わしています。つまり、企業が最適な賃金ωを選択しているとき、努力水準 e(ω) の実質賃金ωに対する弾力性は 1 になるということです。

訳注3) 最適賃金を選択しているときには、
13080803

 
 が成り立ちます(上記の訳注2)。
 e(ω)は、a=1,b=2の場合、
13080923

 となります。e(ω)がこの関数の場合、上記のe’(ω)・ω/e(ω)が成り立つのは、ω=1のときです。
 そして、ω=1ならば、ω/e(ω)=1 になります。

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業績編集

著書編集

(日本語翻訳)
(原書)


ジャネット・イエレン
Janet Yellen

ジャネット・イエレン(2010年10月)
生誕1946年8月13日(69歳)
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国ニューヨーク州ブルックリン
国籍アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
研究機関ハーバード大学
カリフォルニア大学バークレー校
全米経済研究所
母校イェール大学
ブラウン大学
影響を
受けた人物
ジェームズ・トービン
受賞ウィルバー・クロス賞(1997年)
アダム・スミス賞(2010年)
情報 - IDEAS/RePEc
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ベン・バーナンキによって宣誓させられるイエレン(2010年10月)
ジャネット・ルイス・イエレン英語:Janet Louise Yellen1946年8月13日 - )は、アメリカ合衆国経済学者。第15代連邦準備制度理事会(FRB)議長(在任:2014年 - )。FRB史上初の女性議長である[1]
ビル・クリントン政権の大統領経済諮問委員会委員長(在任:1997年 - 1999年)、サンフランシスコ連邦準備銀行総裁(在任:2004年 - 2010年)、連邦準備制度理事会の副議長(在任:2010年 - 2014年)を歴任した。現副議長のスタンレー・フィッシャーと同じく、ユダヤ人である。

FRBでの実務編集

Data Source: FRED, Federal Reserve Economic Data, Federal Reserve Bank of St. Louis: St. Louis Monthly Reserves and Monetary Base; http://research.stlouisfed.org/fred2/series/AMBSL; accessed 2014-02-12."Federal Reserve Bank of St. Louis
2008年頃以降のアメリカの経済危機に対し、イエレンは前副議長として、マネタリーベースの大幅な増加による大規模な量的金融緩和政策に参画した(右図)。最終的にマネタリーベースは4兆ドルを超えた。この量的金融緩和政策はアメリカの経済を良好に回復させたとして高い評価が見受けられる。
バーナンキやイエレンが率いるFRBは長期にわたる金融緩和により、景気がある程度回復したと見ると、2013年末から月100億ドルずつの量的金融緩和の縮小を開始し、10ヶ月ほどで量的金融緩和によるマネタリーベースの増加は終了すると見られている。バーナンキの退任後、新議長になったイエレンはその方針を踏襲している(以上の叙述の文献はベン・バーナンキの項を参照)。
イエレン新議長は2014年5月8日行った上院予算委員会での証言で、適切なバランスシートの規模について政策の正常化が進行するまで決定を急がない考えを示し、危機前の水準に戻すには5-8年近く要する可能性があると指摘した[5]。その後、2014年5月19日、バーナンキは「利上げは経済が正常化に向かっていることを示すため、利上げの時期が来ることを望む」、「金融政策の正常化に伴い、バランスシートを正常化させる必要はない」との見解を示した[6]
2014年8月20日、FRBは先月分の連邦公開市場委員会議事要旨を公開し、(将来予定される)最初の利上げ後も当面、保有証券の償還資金再投資を継続することに「ほとんどの」参加者が賛成していると公表した[7]
2014年8月22日、イエレンはアメリカの失業率が予想以上に速いペースで低下したことを指摘しつつも、失業率のみを指標として米労働市場の健全性を判断するには不十分と強調し、入手される指標や情報に基づき、(予想される将来の利上げなどの)政策を柔軟に決定することを再度主張した[8]
2014年10月29日、FRBは資産買い入れ額をこれまでの150億ドルからゼロとした。これに伴い、2012年9月に開始した量的緩和第3弾(QE3)による新たな資産買い入れは終了した。また、超低金利政策が「かなりの期間」になるという表現を継続して、フォワードガイダンスの表現を維持した[9]

家族編集

著作編集

  • "The Fabulous Decade: macroeconomic Lessons from the 1990s" (with Alan Binder), The Century Foundation Press, New York, 2001 (邦訳はアラン・ブラインダー、ジャネット・イエレン著、山岡洋一訳『良い政策 悪い政策ーー1990年代アメリカの教訓』日経BP社、2002年)

3 件のコメント:

  1. 著作:ジョージ・アカロフ、ロバート・シラー
    訳:山形浩生
    価格: 2,200円+税176円
    3.30(31件)
    シラー教授は2013年に、アカロフ教授は2001年にノーベル経済学賞を受賞。ともにノーベル賞を受賞した、主流のなかの主流の二人が、主流派経済学のあり方を批判しつつ、「人間」を軸に据えたマクロ経済学が必要だと説いた意欲作。偉大な経済学者ジョン・メイナード・ケインズが代表作『雇用、利子、お金の一般理論』で提示したアニマルスピリットと、経済学の新しい分野である行動経済学の成果を組み合わせて、危機に陥った現実経済の説明を試みる。「金融学とは金儲けのための学問ではない。人間行動の研究である」というシラー教授の基本思想どおりに、人間のアニマルスピリット(衝動、血気)を安心、公平さ、腐敗と背信、貨幣錯覚、物語といった要素に分解して、それぞれがアメリカの有名な経済現象にどう関与していたかを紹介していく。たとえば、・1991年ころのS&L危機・2001年ころのエンロン問題・2007年ころのサブプライムローン問題などだ。もっと古い経済問題では、1890年代の不況や、1920年代の過熱経済、1930年代の大恐慌も分析の対象となっている。本書自体が、説得力のある一つの物語となっているようだ。本書が刊行された2009年当時、金融危機で途方に暮れていた当局に対して、本書は独自の分析と鋭い政策提言を行い、注目を集めた。専門家ではない人も読めるタイムリーな経済書として、世界各国で読まれた。日本でも、週刊ダイヤモンドの2009年ベスト経済書ランキングで、堂々1位に輝いている。一流の経済学者がどのように経済を見ているかを追体験できる本。
    【主な内容】
    第I部 アニマルスピリット 
    第1章 安心とその乗数 
    第2章 公平さ 
    第3章 腐敗と背信 
    第4章 貨幣錯覚 
    第5章 物語
    第II部 八つの質問とその回答 
    第6章 なぜ経済は不況に陥るのか? 
    第7章 なぜ中央銀行は経済に対して(持つ場合には)力を持つのか? 
    第8章 なぜ仕事の見つからない人がいるのか? 
    第9章 なぜインフレと失業はトレードオフ関係にあるのか? 
    第10章 なぜ未来のための貯蓄はこれほどいい加減なのか? 
    第11章 なぜ金融価格と企業投資はこんなに変動が激しいのか? 
    第12章 なぜ不動産価格には周期性があるのか? 
    第13章 なぜ黒人には特殊な貧困があるのか? 
    第14章 結論

    返信削除
  2. フリードマン(1912~2006)☆
    サミュエルソン(1915~2009)
    ルーカス(1937~)☆
    アカロフ(1940~)
    スティグリッツ(1943/2/9~)
    サージェント(1943/7/19~)☆
    バロー(1944~)☆
    ヴァリアン(1947~)☆
    ブランシャール(1948~)
    クルーグマン(1953~)
    マンキュー(1958/2/3~)
    デビッド・ローマー(1958/3/13~)

    ☆は新古典派
    他はニュー・ケインジアンとされる
    ただしサージェントはニュー・ケインジアンに近く、マンキューは新古典派に近い。


    ニュー・ケインジアン擁護
    アカロフ、インタビュー
    http://voxwatcher.blogspot.jp/2012/07/blog-post.html 日本語
    “The New Case for Keynesianism;Interview with George Akerlof(pdf)”(Challenge, vol. 50, no. 4, July/August 2007, pp. 5–16)原文はリンク切れ

    前提となる講演原文
    https://pubs.aeaweb.org/doi/pdfplus/10.1257/aer.97.1.5
    http://www4.fe.uc.pt/jasa/m_i_2010_2011/themissingmotivationinmacroeconomics.pdf
    その後の別インタビュー原文
    https://www.theatlantic.com/politics/archive/2009/02/an-interview-with-george-akerlof/676/
    日本語解説
    http://d.hatena.ne.jp/kaikaji/20090604/p1


    注:

    http://nam-students.blogspot.jp/2018/03/blog-post.html
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%B0%E5%8F%A4%E5%85%B8%E6%B4%BE%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%AD%A6
    新古典派経済学には、他の経済学からの批判がある。

    『進化経済学ハンドブック』には、新古典派経済学のドグマとして、以下の7つのドグマが指摘されている[14]。

    均衡のドグマ
    価格を変数とする関数のドグマ
    売りたいだけ売れるというドグマ
    最適化行動のドグマ
    収穫逓減のドグマ
    卵からの構成のドグマ
    方法的個人主義のドグマ


    http://d.hatena.ne.jp/kaikaji/20090604/p1
    アニマルスピリット
    作者: ジョージ・A・アカロフ,ロバート・シラー,山形浩生
    出版社/メーカー: 東洋経済新報社
    発売日: 2009/05/29
    メディア: 単行本
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    http://d.hatena.ne.jp/kaikaji/20051118#p2より
    先日、UCBの経済学部主催のセミナーで、コーディネータであるアカロフ先生が御大自ら行ったレクチャーを聞く機会があった。「ケインズ経済学の逆襲!」というのは僕が勝手にそう呼んでいるだけで、'the Missing Motivation in Macroeconomics'というのが講演の本当のタイトルである。タイトルだけでなく以下の講演のまとめも、あくまで梶ピエールの理解によるものなので、必ずしもアカロフ先生の意図を正確に伝えていない可能性があるが、ご本人がこれを読んでクレームをつけることは絶対ないと思うのであまり気にしないでやることにする。正確さを期したい人は後で紹介するペーパーなどを参照してください。
     さて、マクロ経済学における'the Missing Motivation'というのは何のことだろうか。これは、70年代においてそれまでのケインズ経済学にかわって学界の主流となったミクロ的な基礎付けを持つとされる(新古典派)マクロ経済学が、実は個々の経済主体の行動に関する「モチベーション」に関する基礎付けを欠いているのじゃないか、ということを指摘したものである。
    こういった従来のマクロ経済学における'Missing Motivation'の典型例として、アカロフ氏は、「5つの中立性(neutrality)」に関する問題を挙げる。これは、各ミクロ経済主体の行動が政府の財政・金融政策などによって影響を受けない(経済政策はミクロ経済主体の行動に対し中立的である)ことを示す以下の5つの定理または仮説のことを指しており、いずれも新古典派的な政策的インプリケーションを導く理論的前提として重要な意味を持ってきた。
    1.リカードの等価定理 
    2.フリードマンの恒常所得仮説
    3.M-M(Modigliani= Miller)定理
    4.自然(失業)率仮説
    5.合理的期待形成仮説
     アカロフ氏は、これらの「中立性」に関する定理もしくは仮説は、実は個々の経済主体の「動機づけ」を考慮していないものだとして、その理論的脆弱さを批判する。そして、これまで「ミクロ的基礎付け」を欠いているといわれてきたケインズ経済学の伝統的な見解(「中立性」とは正反対の結論を見出す)こそ、このような「動機付け」に関する新しい理論的知見に整合的であるだとする。つまり、「ミクロ的基礎づけを欠いているのは実はそっちのほうだ!」とケインジアンの立場から新古典派に「逆襲」するような構図になっているのだ。
     下記のエントリ群を読んでもらえればわかるように、このときの講演のエッセンスは、このたび邦訳が出たの『アニマルスピリット』の内容にほぼ受け継がれている。金融危機後、世界中でケインズ経済学があっという間に復権するずっと前からその内容をくわしく紹介していた、このブログの先見性はもう少し誉められてもよいような気がするので、この機会にサルベージしておきます。
    1.子孫に財産を残したいという欲求は、人の消費行動に影響を与える
    ⇒リカードの中立命題に対する批判
    http://d.hatena.ne.jp/kaikaji/20051120
    2.人は「地位(アイデンティティ)にふさわしい消費を行いたい」という強い欲求を持つ
    ⇒恒常所得仮説への批判
    http://d.hatena.ne.jp/kaikaji/20051121#p1
    3.資本家の投資行動は、自らの抱いている経営理念(アニマルスピリット)によって左右される
    ⇒モディリアーニ=ミラーの定理への批判
    http://d.hatena.ne.jp/kaikaji/20051122#p1
    4.人々が実質賃金よりも名目賃金の切り下げに強く抵抗する(貨幣錯覚)のは、社会的な「公平さ」への強い欲求のためである
    ⇒自然失業率仮説に対する批判
    http://d.hatena.ne.jp/kaikaji/20051130#p1
    アカロフ

    アニマルスピリット

    はじめに

    フリードマンはたった1つ「欠けていた方程式」を新ケインズ派のIS-LMモデルにのせただけだった.生産と価格の短期的な関係を示す式だ.同じように,マクロ経済学の合理的期待形成革命は,マクロ計量経済モデルにはほとんど影響を与えないことが多く,単に自分のモデルの合理的期待形成「変種」を提示しただけだった.こうしたモデルはしばしば,同じIS-LMモデルをさらに変奏しただけのものにすぎなかった.たとえば古典的なサージェント=ワラス・モデル(Sargent and Wallace 1975)などがそうだ.

    #4
    インフレ期待の形成に,単純な機械的な理論を使うのではなく,合理的期待を使うなら,その合計が1になると考えるべき理論的な理由はないとSargent(1971)は示している.

    Sargent, Thomas J. 1971. “A Note on the ‘Accelerationist’ Controversy.” Journal of Money, Credit and Banking 3(3): 721-25.
    Sargent, Thomas J., and Neil Wallace. 1975. “Rational Expectations, the Optimal Monetary Instrument,and the Optimal Money Supply Rule.” Journal of Political Economy 83(2): 241-54.

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  3. リフレ女子
    ⁦‪@antitaxhike‬⁩


    イエレン「われわれは税による競争を選んだことで、労働者のスキルやインフラの強靱(きょうじん)さで競うことを怠ってきた。これは自滅的な競争だ」

    もはや新自由主義への訣別宣言と言って良い。米国の財務長官からこのような発言を聞く日が来ようとは感慨深い。 news.yahoo.co.jp/articles/ecf04…

    2021/04/08 11:31



    https://twitter.com/antitaxhike/status/1379985257655541763?s=21

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