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水曜日, 10月 18, 2017

竹森俊平『経済論戦は甦る』日経ビジネス人文庫 2007


NAMs出版プロジェクト: 竹森俊平『経済論戦は甦る』日経ビジネス人文庫 2007

http://nam-students.blogspot.jp/2017/10/2007.html@'


 "Stabilizing The Dollar"1920,"The Debt-Deflation Theory of Great Depressions(「大恐慌デットデフレーション理論」)"1933メモ


竹森俊平『経済論戦は甦る』日経ビジネス人文庫 2007/02
https://www.amazon.co.jp/dp/4532193826/
#1,2

近年の「失われた15年」をもたらした経済政策の失敗と混乱を、完璧に解説した名著。フィッシャー、シュムペーターという二大経済学者の理論的対立とからめて、昭和恐慌、世界恐慌からの歴史的教訓を引き出している。

目次:
第1章 2人の経済学者、2つの経済ビジョン
 1 不況のときになぜデフレ政策か?
 2 金本位制のもとで起こった大恐慌
 3 ベルリン、1931~1932年
 4 東京、1931~1932年
 5 アービング・フィッシャー教授、伝道に旅立つ  他

第2章 日本経済の遭難
 1 メイン・バンクと終身雇用制
 2 審査機関としての銀行
 3 銀行による流動性の創出
 4 タイタニック号と日本経済
 5 船体の損傷はいつ発見されたか?  他

第3章 「構造改革」と「デフレ対策」
 1 将来に関する不安と消費の低迷
 2 日本の財政は危機的な状態にあるのか?
 3 それでは「構造改革」は消費を回復させるか?
 4 デフレ対策は構造改革を遅らせるか?
 5 「創造的破壊」か「冷え込み」か

第4章 不良債権処理は「構造改革」か?
 1 日本経済の「罪と罰」
 2 なぜ、不良債権処理は「構造改革」と考えられるのか?
 3 「逆選択」と「バンク・キャピタル・クランチ」
 4 バンク・キャピタル・クランチのモデル分析
 5 「資本注入」はどのように行われるべきか?  他

エピローグ
あとがき
文庫版へのあとがき
参考文献

(第1、2章でフィッシャーに言及)

竹森俊平『経済論戦は甦る』(2002,2007)ではコラム的に簡潔に清滝・ムーアモデルに先行するフィッシャーを伝える。
本書の文庫版は表紙がいい。シュンペーターとフィッシャーを使っている。
ハイエクとケインズで語られる問題をさらに金融問題として具体的に展開している。執筆動機的には対小泉経済改革路線の時事的な意味が大きかっただろうが、普遍的に読める。
竹森(というよりフィッシャー)はリーマンショック以前に、過去の恐慌の検証からリーマンショックを予見していると言える。
リーマンショック以降に出た本で私はそれを予見していたという本はあるが、本書は違う。
アーヴィング・フィッシャーは再評価されるべきだ。
例えばフィリップス曲線はフィッシャーが発見している。
フィッシャー・フィリップス曲線と呼ぶべきだ。
恐慌で財産をなくした事が喜劇的に語られる事が多いが、当時の映像を見るとパニックを止めるために率先して投資し続けたのかもしれないと思わせる。
https://youtu.be/e_Im69cn1tw
伝記としては吉川洋『経済学をつくった巨人たち』(2001)の小文がいい。
これらは対デフレ理論的に再評価したものだ。
なおフィッシャーは実体経済を見ているのでマネタリストではない。フリードマンはフィッシャーの一部しか見ていない。
リチャード・セイラー『行動経済学の逆襲』では行動経済学的にフィッシャーが再評価されている。
フィッシャー邦訳は『価値と価格の理論の数学的研究(1892,訳1981)』『貨幣の購買力(1911,訳1936)』『貨幣錯覚(1928,訳1930)』『利子論(1930,訳2011)』等。『スタンプ通貨(1933,訳2018?)』(一部邦訳は雑誌に既出)の邦訳が待たれる。

竹森は1927年のムッソリーニ、1932年のフーヴァー大統領との会談も紹介している。フィッシャーとシュンペーターの理論上の対立はケインズとハイエクの対立と同じだ。竹森は主にフィッシャーの以下を参照している。

"The Debt-Deflation Theory of Great Depressions", 1933, Econometrica.https://campus.fsu.edu/bbcswebdav/users/jcalhoun/Courses/Growth_of_American_Economy/Chapter_Supplemental_Readings/Chapter_23/Fisher-The_Debt_Deflation_Theory.pdf 全22p

以下、竹森本エピグラフ(&109頁):

 つぎのような一つの均衡があるかもしれない。それは安定ではあるが、あまりにも微妙なバランスの上に成立しているので、そこから大きくはずれた場合には「不安定」が生じるのである。それはあたかも力を加えられた鞭がしなり、いつでも跳ね返ろうとするものの、限界がくればポッキリ折れてしまうのに似ている。このたとえは、一人の債務者が「破産」に陥る場合、あるいは多くの債務者が破産して「経済危機」が起こる場合にあてはまるだろう。こうした出来事が起こったあとでは、もはやもとの均衡に戻ることは不可能になるからだ。もう一つのたとえを用いるなら、このような災害は、船の「転覆」にも似ている。通常は安定な均衡にいる船でも、ひとたびある角度以上に傾いたならば、もはや均衡へと戻る力を失い、かえってますます均衡から遠ざかる傾向を持つからである。

アービング・フイッシャー、1931年。

8. There may be equilibrium which, though stable, is so delicately poised that, after departure from it beyond certain limits, instability ensues, just as, at first, a stick may bend under strain, ready all the time to bend back, until a certain point is reached, when it breaks. This simile probably applies when a debtor gets "broke,"or when the breaking of many debtors constitutes a "crash," after which there is no coming back to the original equilibrium. To take another simile, such a disaster is somewhat like the "capsizing" of a ship which, under ordinary conditions, is always near stable equilibrium but which, after being tipped beyond a certain angle, has no longer this tendency to return to equilibrium, but, instead, a tendency to depart further from it. 
p.339




THE ROLES OF DEBT AND DEFLATION 
24. Assuming, accordingly, that, at some point of time, a state of over-indebtedness exists, this will tend to lead to liquidation, through  the alarm either of debtors or creditors or both. Then we may deduce the following chain of consequences in nine links:
 (1) Debt liquidation leads to distress selling and to
 (2) Contraction of deposit currency, as bank loans are paid off, and to a slowing down of velocity of circula- tion. This contraction of deposits and of their velocity, precipitated by distress selling, causes
 (3) A fall in the level of prices, in other words, a swelling of the dollar. Assuming, as above stated, that this fall of prices is not interfered with by reflation or otherwise, there must be
 (4) A still greater fall in the net worths of business, precipitating bank- ruptcies and 
(5) A like fall in profits, which in a "capitalistic," that is, a private-profit society, leads the concerns which are running at a loss to make
 (6) A reduction in output, in trade and in employment of labor. These losses, bankruptcies, and unemployment, lead to
 (7) Pes- simism and loss of confidence, which in turn lead to
 (8) Hoarding and slowing down still more the velocity of circulation. 
 The above eight changes cause
 (9) Complicated disturbances in the rates of interest, in particular, a fall in the nominal, or money, rates and a rise in the real, or commodity, rates of interest. 

いま、ある時点で、過剰債務の状態が起こっていたとしよう。それはやがて、債務者もしくは債権者(あるいは両方)がパニックを起こして、「債務の清算」へと走る結果を生む。これを受けて、つぎのような九項目の連鎖反応が起こるだろう。
①「債務の清算」の結果、「投げ売り」が発生する。
②銀行ローンが繰り延べされないことにより、「預金通貨の減少」が生まれ、同時に「貨幣の流通速度の低下」が起こる。「投げ売り」によって生じた、預金通貨と貨幣流通速度の減少とは、つぎに、
③「物価水準の下落」、いい換えれば「ドルの価値の上昇」を生む。もしも、この物価水準の下落がリフレ政策によっておさえられない場合には、つぎに、
④「企業の純資産価値のさらなる低下」が生まれ、その結果、「破産」が起こる。そして、
⑤「利潤の低下」が起こり、それが損失を生んでいる私企業に、
⑥「生産」、「販売」、「雇用」の削減をうながす。このようにして、「損失」、「破産」、「失業」が積み重なる結果、
⑦「悲観論」と「自信喪失」とが生まれる。そのためさらに、
⑧「買い控え」が起こり、それがさらにいっそう、「貨幣の流通速度の減少」を深刻なものとする。こうした八項目が重なった結果は、
⑨「利子率の複雑な攪乱」である。すなわち、名目利子率は低下するのに、実質利子率は上昇するのである。 

フィッシャー1933年(竹森 2007年129~130頁)

大恐慌の検証であるとともに予言、清滝ムーアに先行する認識。


まとめ:
「債務の清算」の結果、
①「投げ売り」
②「預金通貨の減少」が生まれ、同時に「貨幣の流通速度の低下」
③「ドルの価値の上昇」
④「企業の純資産価値のさらなる低下」が生まれ、その結果、「破産」
⑤「利潤の低下」
⑥「生産」、「販売」、「雇用」、の削減=「損失」、「破産」、「失業」
⑦「悲観論」「自信喪失」
⑧「買い控え」、「貨幣の流通速度の減少」が深刻化
⑨「利子率の複雑な攪乱」=名目利子率は低下するのに、実質利子率は上昇。


  • Stabilizing the Dollar, 1920.
  • The Making of Index Numbers: A study of their varieties, tests and reliability, 1922.

竹森俊平『経済論戦は甦る』(2007)日経ビジネス人文庫 2007

https://www.amazon.co.jp/dp/4532193826/

メディア掲載レビューほか

経済論争の正しい愉しみ方
「今日の日本の経済学者は、1930年代の大恐慌の時と同じくらい、経済学の進路にとって重要な状況に立たされている」。著者である竹森俊平・慶応義塾大学経済学部教授は、構造改革の是非に揺れ動く我が国にあって、マクロ経済学的視点に基づく意思決定こそが国の命運を左右すると論じる。

とはいえ、理論と現実の狭間で意見を180度転換させる経済学者に対しては風当たりも強い。大恐慌の際、「財政金融政策を講じなければ経済は『デフレ・スパイラル』に陥って崩壊する」と説いたのは米国の経済学者アービング・フィッシャーであった。一方、世に言う「フィッシャー効果」とは「インフレ対策が無効になる可能性を示唆したもの」である。著者はこれを「矛盾」とは解さず、常に新たな難問に対峙する経済学者の宿命であり、真摯な姿勢であると位置づける。

フィッシャー理論の対極には、オーストリアの経済学者シュンペーターが説いた「創造的破壊」、すなわち不況の破壊力で企業、雇用、資産の非効率なものを一掃してしまえという「清算主義」がある。著者は、小泉純一郎内閣による構造改革の思想をそれに重ね合わせることで、マクロ経済の視点から改革の落とし穴を検証し日本経済の行く末に警鐘を鳴らす。


(日経ビジネス2002/11/11Copyright©2001日経BP企画..Allrightsreserved.)
-- 日経BP企画 --このテキストは、絶版本またはこのタイトルには設定されていない版型に関連付けられています。

内容紹介

日本経済の低迷からの脱出策をめぐって、百家争鳴・甲論乙駁の論争が行われている。本書は、まるで小説を読むように、楽しみながら経済論争の論点を学べる。 --このテキストは、絶版本またはこのタイトルには設定されていない版型に関連付けられています。

内容(「BOOK」データベースより)

不況の最中に、緊縮的な政策をスローガンにするとはどういう神経か―。日本経済の「失われた15年」をもたらした経済政策の失敗を完璧に解説した名著。フィッシャー、シュムペーターという二大経済学者の理論的対立とからめて、昭和恐慌、世界恐慌からの歴史的教訓を引き出している。第4回読売・吉野作造賞受賞。

内容(「MARC」データベースより)

日本経済の低迷からの脱出策をめぐって、百家争鳴・甲論乙駁の論争が行われている。アービング・フィッシャーの経済思想と人生のストーリーを織り込みながら、経済学者にも焦点を当て、日本経済の現状を分析・検討。
--このテキストは、絶版本またはこのタイトルには設定されていない版型に関連付けられています。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

竹森/俊平
慶應義塾大学経済学部教授。1956年東京生まれ。81年慶應義塾大学経済学部卒業。86年同大学院経済学研究科修了。同年同大学経済学部助手。86年7月米国ロチェスター大学に留学、89年同大学経済学博士号取得。著書『経済論戦は甦る』で、第4回読売・吉野作造賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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Warren J. Samuels - 1994 - スニペット表示 - 他の版
Archival supplement Warren J. Samuels. Letter 2: From Irving Fisher to Benito Mussolini 19 April 1927 My dear Sir, May I introduce myself as a friend of the late Profs. Pareto and Pantaleoni and a member of the Regja Lincheorum Academia.

1 件のコメント:


  1. 竹森俊平『経済論戦は甦る』(2002,2007)ではコラム的に簡潔に清滝・ムーアモデルに先行するフィッシャーを伝える。
    本書の文庫版は表紙がいい。シュンペーターとフィッシャーを使っている。
    ハイエクとケインズで語られる問題をさらに金融問題として具体的に展開している。執筆動機的には対小泉経済改革路線の時事的な意味が大きかっただろうが、普遍的に読める。
    竹森(というよりフィッシャー)はリーマンショック以前に、過去の恐慌の検証からリーマンショックを予見していると言える。
    リーマンショック以降に出た本で私はそれを予見していたという本はあるが、本書は違う。
    アーヴィング・フィッシャーは再評価されるべきだ。
    例えばフィリップス曲線はフィッシャーが発見している。
    フィッシャー・フィリップス曲線と呼ぶべきだ。
    恐慌で財産をなくした事が喜劇的に語られる事が多いが、当時の映像を見るとパニックを止めるために率先して投資し続けたのかもしれないと思わせる。
    https://youtu.be/e_Im69cn1tw
    伝記としては吉川洋『経済学をつくった巨人たち』(2001)の小文がいい。
    これらは対デフレ理論的に再評価したものだ。
    なおフィッシャーは実体経済を見ているのでマネタリストではない。フリードマンはフィッシャーの一部しか見ていない。
    リチャード・セイラー『行動経済学の逆襲』では行動経済学的にフィッシャーが再評価されている。
    フィッシャー邦訳は『価値と価格の理論の数学的研究(1892,訳1981)』『貨幣の購買力(1911,訳1936)』『貨幣錯覚(1928,訳1930)』『利子論(1930,訳2011)』等。『スタンプ通貨(1933,訳2018?)』(一部邦訳は雑誌に既出)の邦訳が待たれる。

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