MMTを批判するエリートたちのどうしようもない愚民観
MMT(現代貨幣理論)を巡る論争は、提唱者の一人ステファニー・ケルトン教授が7月16日に来日したこともあり、ますます盛んになっています。
(参考:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190725/k10012008501000.html)
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MMTの主張を一言で言うと、「自国通貨を発行できる政府はデフォルト(財政破綻)しないので、高インフレでない限り、財政赤字を拡大してよい」というものです。
なお、ここではMMTの詳しい説明は省きますが、ご関心の方は、下載の記事をご覧ください。
https://facta.co.jp/article/201908017.html
もっとも、論争が盛んと言っても、政策当局はもちろん、経済学者、アナリスト、ジャーナリストの間では、MMT批判の方が、圧倒的に多い。
つまり、政策に大きな影響を与えられる立場の人たち(いわゆる「エリート」)は、ほぼ全員、MMT批判者というわけです。
普通であれば、これでは、MMTが陽の目を見ることは、まずないですね。
ところが、どうも、いわゆる「エリート」ではない一般の人々の間では、SNSなどを通じて、MMTに対する理解や支持が広がりつつあるように感じます。
これは、アメリカでも起きた現象らしいです。
実に面白いですね。
いや、エリートたちには、ちっとも面白くない。
そこで、彼らは、MMTに「ポピュリズム」というレッテルを貼りました。
MMTなんかを支持する連中は、「財政赤字は心配ない」などといううまい話に乗せられた無知蒙昧な「愚民」だとでも言いたいのでしょう。
では、なぜMMTはダメなのかと言うと、エリートたちによれば、「いったん、財政赤字の拡大を許したら、インフレが止まらなくなる」からなのだそうです。
というのも、「国民は、歳出削減や増税を嫌がるので、インフレでも、財政支出の拡大を止められない」からなのだそうです。
(参考:https://www.kk-bestsellers.com/articles/-/10463)
でも、高インフレで自分の生活が大変なのに、なお財政支出の拡大を要求し続ける国民がいるとしたら、これ、相当の「愚民」ですよ。
ということは、MMTを批判するエリートたちは、「日本の国民は、愚民である」という大前提を置いているということになります。
乱暴に言えば、「なにぃ、インフレがひどくなる前に、財政赤字を削減するだとぉ? そんなこと、お前ら愚民どもに、できるわけないだろーが!」というわけですね。
もちろん、日本国民は、そんな「愚民」ではありません。
その証拠に、戦後日本において、財政赤字の拡大を放置したがために、インフレが止まらなくなったことなどないのです。
(参考:https://www.kk-bestsellers.com/articles/-/10462)
それに、そもそも、インフレが止まらなくなるなどということは、めったに起るものではありません。
説明しましょう。
インフレとは、需要(消費と投資)が過剰になり、供給が不足することで発生します。
他方、インフレ(物価が継続的に上がること)とは、裏を返せば、おカネの価値が継続的に下がるということです。
おカネの価値が下がっていくなら、個人や企業は、おカネを持っておくよりも使った方がよいと考えるので、貯蓄よりも消費や投資に積極的になります。
MMTを批判するエリートたちのどうしようもない愚民観
さて、インフレでは、消費や投資が拡大して、需要過剰・供給不足になるので、ますますインフレが進んで止まらなくなるように思われるかもしれません。
しかし、そう簡単には、そうはならないのです。
それは、なぜか。
インフレで拡大するのは、消費だけではありません。「投資」も、です。
設備「投資」であれば、数年後、生産設備が完成して稼働すれば、供給力が高まります。
技術開発「投資」であれば、将来、技術革新が起きれば、供給力が高まります。
教育「投資」もまた、将来、優れた知識や技能をもつ人材を増やすので、やっぱり供給力が高まります。
要するに、インフレで拡大した「投資」は、今は「需要」を増やしますが、近い将来には「供給」を増やすのです。
したがって、インフレによって、一時的に需要過剰・供給不足になっても、少し経つと投資の成果が出て、供給力が高まるので、供給不足は解消へと向かい、インフレ圧力が弱まります。
でも、インフレが続く間は、投資は拡大し、また需要過剰・供給不足になる。
しかし、いずれ投資の成果が出れば、供給不足は解消される。
これが繰り返されます。
すると、インフレはマイルドな水準で維持されつつ、供給力が高まっていくことになります。
これこそが、経済成長の基本的なメカニズムなのです。
ちなみに、これと逆のメカニズムが働いているのが、二十年もデフレが続く日本です。つまり、デフレのせいで投資が抑制されているので、供給力は高まらず、経済成長もしないのです。
積極財政に否定的なエリートたちは、しばしば、「財政出動はカンフル注射で、短期的にしか効かない。必要なのは、潜在成長力を高める成長戦略だ」などと、もっともらしいことを言います。
しかし、財政赤字を拡大してインフレになると、民間の設備投資や技術開発投資も増えるので、それで「供給力」=「潜在成長力」が高まり、持続的な経済成長が実現するのです。
デフレ下では、財政出動なしの成長戦略など、あり得ないのです。
そんなあり得ない成長戦略を、虚しく二十年も捜し続けたのが、平成の日本でした。
ところで、高インフレの例として、よく挙げられるのが戦争です。
戦争は、どうして高インフレを起こすのでしょうか。
まず、戦争になると、軍艦や大砲の需要が、拡大します。
しかし、軍艦や大砲は、生産設備ではないので、供給力は高まりません。
平時の投資は、需要を拡大した後に供給力を高めます。これに対し、戦時の投資は、需要を拡大するだけで供給力を高めないのです。
また、徴兵によって労働者が戦争に駆り出されるので、労働者不足になり、供給力はむしろ下がります。
加えて、敵の攻撃によって生産設備が破壊され、労働者が犠牲になれば、需要過剰・供給不足は、いっそう深刻になります。
だから、戦時においては、平時と違って、インフレが高進しやすいのです。
MMTを批判するエリートたちは、よく、戦時中や終戦直後の高インフレを「歴史の教訓」として持ち出してきます。
しかし、これは「戦争をすると高インフレになる」という教訓ではあるかもしれませんが、「財政赤字を拡大するとインフレが止まらなくなる」という教訓ではないのです。
どうも、エリートたちは、MMT支持者を愚民扱いしている割には、経済について、よく分かっていなかったようですね。
むしろ、MMTについて知った一般の人々の方が、経済をよく理解しているのです。
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