月曜日, 7月 08, 2019

参院選が近づく中、MMT批判の恐ろしさに震え上がりました | BEST T!MESコラ ム 2019/7/8




参院選が近づく中、MMT批判の恐ろしさに震え上がりました

 昨今人気のMMT(現代貨幣理論)について、法政大学教授の小黒一正先生が批判しています

 MMTというのは、ごくごく簡単に言うと「自国通貨を発行できる政府は、財政破綻しないので、高インフレでない限り、財政赤字を拡大してよい」という理論です。

 小黒先生は、2010年に『2020年、日本が破綻する日』(日本経済新聞出版社)という本を出された方ですから、MMTを批判するのも当然ですね。
 ちなみに、2020年って、来年ですが・・・

 その小黒先生が言うには、MMTはアメリカで提唱されたが、日本では、私が「MMTを日本に紹介するため、『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】』(ベストセラーズ)等を出版し、一部の間で話題となっている模様である」のだそうです。
 でも、お読みいただいた方はお分かりでしょうが、あの本は「MMTを日本に紹介するため」に書いたのではありませんが・・・

 それはともかく、小黒先生は、MMTを次のように批判しています。

「一方で、アメリカのハーバード大学のケネス・ロゴフ教授やサマーズ元米財務長官といった主流派の経済学者は、「MMTは様々なレベルで間違っている」とし、MMTの理論的な妥当性を強く批判している。
 どちらの見解が正しいのだろうか。中野氏の書籍を読むと、MMTが正しいと判断する読者もいようが、ロゴフ教授やサマーズ氏らの指摘のほうが正しい。理由は、MMTは、財政の民主的統制の難しさを深く考察していないためである。」

「財政の民主的統制の難しさ」とは、何でしょうか。

小黒先生によれば、「財政赤字が害をもたらすとわかれば、その時点で適切な水準に財政赤字を縮小すればよいという発想だが、民主主義の下で政府支出の削減や増税を迅速かつ容易に行うのは極めて難しい」ということです。

 そして、小黒先生は、「中野氏の書籍」は「財政の民主的統制の難しさを深く考察していない」と批判しています。
 しかし、その考察でしたら、163ページから166ページに、ちゃんと書いているのですが・・・。
 もしかして、「中野氏の書籍」を読んでいないのかな?

 それから、小黒先生が正しいと評価したサマーズ氏は、確かにMMTを批判していますが、他方で、拡張的な財政政策が必要だとも論じており、その点では、私と同意見です。

 ならば、サマーズ氏のことも「財政の民主的統制の難しさを深く考察していない」と批判すべきでしょう。
 もしかして、サマーズ氏の論文も読んでいないとか?

 それはともかく、ここでは、「財政の民主的統制の難しさを深く考察」された小黒先生の議論について、検討してみましょう。

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中野 剛志なかの たけし

  

1971年、神奈川県生まれ。評論家。元京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。96年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。01年に同大学院にて優等修士号、05年に博士号を取得。論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞受賞)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『日本の没落』(幻冬舎新書)など。最新刊書き下ろし『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】』(KKベストセラーズ)が絶賛発売中!本書の第2弾『全国民が読んだら歴史が変わる 奇跡の経済教室【戦略編】』がKKベストセラーズより2019年7月に刊行予定。

参院選が近づく中、MMT批判の恐ろしさに震え上がりました

参院選が近づく中、MMT批判の恐ろしさに震え上がりました

「財政の民主的統制の難しさ」を論じたのは、約四十年前にブキャナンらが書いた『赤字の民主主義』です。小黒先生は、こう書いています。

「財政民主主義の下では、財政は予算膨張と減税の政治圧力にさらされることになり、現在の政治家と有権者には財政赤字が膨れ上がるメカニズムを遮断するのは簡単なことではない。このため、ブキャナンらは「民主主義の下で財政を均衡させ、政府の肥大化を防ぐには、憲法で財政均衡を義務付けるしかない」と主張する。」

 でも、この議論は、色々とおかしいですね。

 第一に、ブキャナンが財政赤字の膨張を議論した四十年前のアメリカにおいて、問題になっていたのは、高インフレでした。
 高インフレの時は、財政赤字を抑制しなければならないのですが、それがなかなかできない。それで、ブキャナンは、「財政赤字が抑制できないのは、民主主義のせいだ」という説を唱えたのです。
 つまり、当時、問題になっていたのは、財政赤字そのものではなく、「高インフレ」です。
 財政赤字が問題であったのは、高インフレだったからです。

 さて、日本はインフレどころか、二十年もの間、「デフレ」で悩んでいます。
 インフレなら、財政赤字は縮小すべきでしょう。
 でも、デフレなら、財政赤字は拡大すべきなのです。
 インフレとデフレは正反対の現象なのだから、財政政策も正反対になるのです。

 それなのに、小黒先生は、どうして、デフレの日本の財政赤字を論じるのに、高インフレが問題だった時代のブキャナンらの議論を持ち出してくるのでしょうか。

 第二に、そもそも、ブキャナンの説は、正しいとは言えません。
 例えば、日本は一九八〇年代の後半、財政赤字の縮小に成功し、一九九〇年には財政黒字化を達成しました。
 アメリカでも、一九九八年に財政黒字化を実現しています。
 しかし、当時の日米は、ともに財政民主主義でした。もちろん、憲法で財政均衡を義務付けてはいません。
 でも、財政は健全化しましたよ。
 それなら、当時の日米は、どうやって、財政健全化を実現したのでしょうか?
 それは、バブル景気が発生していて、税収がたくさん入ってきたからです。
 景気が良くなれば、財政は健全化し、景気が悪くなれば、財政は悪化する。
 過去二十年間、日本で財政赤字が膨張したのも、単に、デフレで経済が停滞していたからです。民主主義のせいではありません。

 ところが、小黒先生は、ブキャナンの説が正しいという根拠として、こんなことを書いています。

「例えば、1997年に消費税率は3%から5%に引き上がったが、2014年に消費税率が8%に引き上がるまで17年もの時間がかかったのが一つの証である。本丸の社会保障改革もなかなか進まない。日本をはじめ各国では財政赤字の問題に長年悩んできたが、社会保障費の削減や増税が政治的に容易に可能ならば、今ごろ日本では財政再建が終了しているはずである。」

 小黒先生は、消費税率を5%から8%に上げるのに17年もかかり、社会保障費の削減も進まなかったのは、民主主義が嫌がったからだと言うのです。
 しかし、大事なのでもう一度、言います。
 この17年間、日本は高インフレではなく、デフレでした。
 財政赤字を抑制すべきなのは高インフレの時です。デフレの時は、財政赤字を抑制する必要はありません。
 むしろ、デフレの時に、増税して、財政赤字を抑制したら、恐慌になります。
 デフレの時に、民主主義が増税や歳出削減を嫌がるのは、経済理論的にも正しいのです。

 それなのに、小黒先生は、「社会保障費の削減や増税が政治的に容易に可能ならば、今ごろ日本では財政再建が終了しているはずである」などと、恐ろしいことを書いています。

 なにが恐ろしいかって?
 社会保障費の削減や増税とは、国民から所得を奪うということです。
 財政再建のために、財政赤字を約30兆円削減するということは、国民から所得を約30兆円奪うということを意味します。
 デフレの時に、そんなことをやったら恐慌(大デフレ不況)になり、失業者や生活貧困者が大量に発生するでしょう。自殺者も間違いなく増える。
 こんな恐ろしい政策が断行されることは、民主主義が健全に機能している限り、まず、あり得ません。
 国民が選んだ政治家が、失業や貧困に苦しむ国民の声を無視することはできないからです。

 つまり、デフレ下での財政再建の強行などという恐ろしい政策を阻止しているのは、財政民主主義だということになります。
 「財政の民主的統制」のおかげで、恐慌にならずにすんでいるのです。
 もし、財政を民主的に統制せずに、小黒先生に全部お任せしたら、国民生活は破壊され、日本経済は破滅するだろうと私は思います。

 民主主義って、本当に、大事ですね。
 そう言えば、もうすぐ参院選の投票日です。

 そこで、満を持して『全国民が読んだら歴史が変わる 奇跡の経済教室【戦略編】』を出しました。
 この本は、日本がどうして間違った経済政策ばかりやって、しかもそれを直せないのかについて、出来るだけ分かりやすく解説しています。

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