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木曜日, 11月 21, 2019

2019/11/21,22 斎藤幸平×水野和夫「ポスト資本主義」を語る


後半は誤解を生む見出し
斎藤はプルードンを知らないし
水野はMMTを知らない

人類は資本主義を本当にこのまま続けられるか | 政策 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
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人類は資本主義を本当にこのまま続けられるか

斎藤幸平と水野和夫が次の社会を構想する

(左)斎藤幸平氏と(右)水野和夫氏が、資本主義の危機に対してどのような策を打ち出すべきか問題解決への道を探っていく(撮影:露木聡子)  
「資本主義が終焉期に入っている」と多くの著書で指摘する水野和夫氏は、「このまま資本主義にこだわり続けて今の生活スタイルを守ろうとすれば、資本主義の終焉は多大な苦しみも生むハード・ランディングにならざるをえない」と予想する。
このまま経済成長を最優先し、ハード・ランディングに突き進むのか。それとも、別の経済システムに移行し、ソフト・ランディングを選ぶのか。そんな時代に、私たちはどうすればいいのか。資本主義や民主主義の危機について海外の知識人たちを訪ね歩き、編著者として『資本主義の終わりか、人間の終焉か? 未来への大分岐』にまとめた斎藤幸平氏と水野氏の対談をお届けする。
斎藤幸平(以下、斎藤):私自身も水野さんと同じように考えていますが、とくに最近は、資本主義のハード・ランディングが経済の大混乱のみならず、地球環境そのものを破壊するところまでいくのではないかという危機感を抱いています。実際、過剰な利潤追求が引き起こした気候変動に代表される、環境危機の問題が極めて深刻になってきています。
今、ここで私たちが何を選ぶかで未来が変わってしまう「大分岐の時代」を迎えています。
水野和夫(以下、水野):『未来への大分岐』には、私も大いに触発されました。
日本の経済論壇がアベノミクスの是非に拘泥している間に、海外では資本主義の次の社会をどう構想するのか、これほどまでに具体的な議論が進んでいるのかと驚きました。日本だけが「大分岐の時代」にいることから目を背けているのかもしれないね。

資本主義の危機はどこまで進行しているか

斎藤:「資本主義の終わりを想像するより、世界の終わり方を想像するほうが簡単だ」と、かつてフレドリック・ジェイムソンという批評家が述べたことがありました。欧米でも近年までそういう考え方だったのです。ただ、リーマンショック後の10年ほどの間に、ウォール街占拠運動を皮切りにして「資本主義の次の社会」をどう構想するのかという議論が一気に進みました。
でも今日はまず、資本主義の危機がどこまで進行しているのか、確認するところから始めましょうか。

人類は資本主義を本当にこのまま続けられるか

斎藤幸平と水野和夫が次の社会を構想する

水野:ええ。資本を投下し、利潤を得て資本を自己増殖させるというのが資本主義の命題ですが、現代の資本主義は利潤を獲得できない、危機的な状況です。

水野和夫(みずの かずお)/1953年生まれ。法政大学法学部教授(現代日本経済論)。博士(経済学)。埼玉大学大学院経済科学研究科博士課程修了。三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミストを経て、内閣府大臣官房審議官(経済財政分析担当)、内閣官房内閣審議官(国家戦略室)などを歴任。主な著作に『終わりなき危機 君はグローバリゼーションの真実を見たか』(以上、日本経済新聞出版社)、『資本主義の終焉と歴史の危機』『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』(以上、集英社)など(撮影:露木聡子)
利潤率とほぼ一致する長期国債の利回りを見てみると、日本の10年国債は1997年以降、ほぼゼロの金利です。いやゼロも下回り、日本だけでなく独仏の長期国債もマイナス金利に陥ったりもする。日独仏では、利潤の獲得が極めて困難だということです。
斎藤:しかし、利潤率の低下があるからこそ、資本はかえって社会に矛盾をまき散らしながら利潤を求め、人間の生活と自然環境の両者をこれまで以上に破壊しています。
水野:資本は、天災や惨事に便乗してまで利潤を得ようとするし、1%の人々は99%の不幸にお構いなく、利益を掠め取ろうとしています。ナオミ・クラインが「ショック・ドクトリン(惨事便乗型資本主義)」と呼んだ状態ですね。
斎藤:世界がどんな危機を迎えようが、資本はそれを糧に生き延びようとし、資本主義は形を変えてきました。資本主義の可塑性・弾力性はすさまじい。
実際、これまでさまざまな恐慌を乗り越えてきたし、戦争があってもそれをビジネスチャンスにする。冷戦が崩壊すれば、東側に新しい市場を見いだした。そうやってあの手この手を使って、ヴォルフガング・シュトレークが言うように、「時間稼ぎ」をして、もうけを生み出してきました。
それを踏まえると、資本主義が自動的に終わるのか、という点は疑問に思うのです。むしろ、資本主義を終わらせて、次の社会を自分たちの手で作っていかなくてはなりません。現代では、資本の論理と人間らしく生活する論理とがどんどん乖離していることが誰の目にも明らかになっている。だから、資本主義を終わらせる方策を見つけ出そうと模索することが、大事なのです。

資本主義の次の社会を構想する

斎藤:では、主体的に資本主義を終わらせるとしたら、どうすればいいのか。そしてその後、どのような社会を構想すればいいか。水野さんは1つのモデルとして、「閉じた経済圏」における「定常社会」、つまり「定常経済圏」というアイデアを提出しています。この定常社会とは、具体的にどんなイメージですか。
水野:経済的な点から言うと、ゼロ金利、ゼロインフレ、ゼロ成長が定常社会の必要条件ですが、日本はこれをクリアしているんですね。それに加えて、なんとか財政均衡を実現する必要があり、さらに重要なハードルが、エネルギー問題です。

人類は資本主義を本当にこのまま続けられるか

斎藤幸平と水野和夫が次の社会を構想する

水野:このまま化石燃料を使い続けていけば、地球規模の危機に陥ってしまいます。できるだけ早期に、再生可能エネルギーに転換しなければなりません。

斎藤幸平(さいとう こうへい)/1987年生まれ。大阪市立大学大学院経済研究科准教授。専門は経済思想。博士(哲学)。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。Karl Marx's Ecosocialism: Capital, Nature, and the Unfinished Critique of Political Economy(Monthly Review Press/邦訳『大洪水の前に』・堀之内出版)でドイッチャー記念賞を歴代最年少で受賞。マイケル・ハート、マルクス・ガブリエルなど世界の知識人と議論した対談集『未来への大分岐』(集英社)で注目を浴びる(撮影:露木聡子)
そのためには、できるだけエネルギーを使わないシステムにすることが必要です。だからこそ、世界レベルでも、国家のレベルでも、できるだけ「閉じた経済圏」をつくって、ヒト・モノ・カネがあまり動かないようにする必要があります。
斎藤:気候変動やエネルギー問題は本当に深刻です。パリ協定では、今世紀中に産業革命時から2℃未満の気温上昇に抑えることを目標にしています。しかし最近では、実際には2℃ではかなり危険であり、1.5℃がギリギリだとも言われるようになっている。現在はだいたい1℃くらい高くなってこれだけの変化が日常にも起きるようになっているのですから、納得もいきます。
ところが、1.5℃で抑えるためには、2030年まで温室効果ガスの排出量を半減させ、2050年までには実質ゼロにしなければいけないと言われています。この数字を考えると、もう脱化石燃料への大転換は待ったなしなんです。
それにもかかわらず現実には、小手先にもならないようなことばかりをしてお茶を濁し続けています。SDGs商品を買えば、サステイナブルな環境を維持できますよとか、ホテルでタオルを毎日変えないようにしようとか。そういう欺瞞に満ちた「グリーン資本主義」では、まったく問題解決になりません。
私も水野さんが提唱する定常型社会に長期的にはシフトすることが必要になってくると思っています。ただ、定常というビジョンをどうすれば受け入れてもらえるでしょうか。

なぜ定常社会は受け入れがたいのか

水野:真っ先に思い浮かぶのは、政治が動いて再生可能エネルギー100%社会の旗を振ることですが、進みませんねえ。
斎藤:ええ。現在のように、経済成長至上主義の政治や既得権益層にとっては、ドラスティックな手を打たず、いまのまま資本主義を続けていったほうが利益を得ることができるわけですから。
マルクスの有名な言葉に「大洪水よ、我が亡き後に来たれ」というものがあります。つまり自分たちは逃げ切ることさえできれば、後はどうなろうが知ったこっちゃないと。

人類は資本主義を本当にこのまま続けられるか

斎藤幸平と水野和夫が次の社会を構想する

斎藤:先日、国連のスピーチで注目をあびたグレタ・トゥーンベリさんの言っていることも同じです。16歳の少女が、「あなたたちはお金や無限の経済成長というおとぎ話ばかり繰り返している。空約束ばかりで、結局、何も変えていないし、何も諦めようとしていない」と痛烈な批判をしました。
今の大人たちは、自分たちの快適な生活を続け、その否定的な帰結を将来の世代に押し付けているからです。それを聞いたって、小泉進次郎環境大臣もアメリカのドナルド・トランプ大統領も聞く耳を持たない状況では、上から政策を変えることに大きな期待は持てません。

資本を社会化するためのアイデア

水野:しかしながら、再生エネルギー100%を求める運動が下から立ち上がってくるかというと、なかなか難しい気もします。
斎藤:簡単ではないと思います。ただ、ヨーロッパでは若い世代が学校ストライキをして声を上げています。自分たちが大人になったときに苦しむのがわかっているのに、今の大人たちは何もしない。そういう現状に対して、ノーを突きつけているのですね。
1年ほど前、グレタさんが1人で始めた抗議活動が、国連の気候変動サミット開催直前には、世界中で400万人がストライキやデモに参加する規模になりました。これは1つの希望です。
とはいえ、なぜ日本で気候変動に対するアクションが大きくならないかというと、やっぱり定常社会や脱成長というと、どこか清く貧しくというイメージが強いからかもしれません。
水野:成長を求めて悪あがきすることで、超富裕層をのぞく圧倒的多数の人が貧しくなるのは、この20年、30年を見ても明らかです。それでもなかなか成長教から抜けられないんです。
私自身は、「閉じた経済圏」への橋渡しとして、株式への現金配当を廃止することが重要だと考えています。現金の代わりに、株主には現物サービスを配当する。そうすれば、現物サービスではメリットを享受しにくい外国人株主は自然と遠のくでしょう。そうすれば、ROEを上げろ、10%以上にしろと恫喝するような風潮が消えていく。
もし企業が利潤率(ROE)を現在の地代(リートの利回り)以下にするなら、ROEは3%あれば十分だと考えられます。金額にしておよそ40兆円。これを人件費に振り替えれば、人件費をだいたい2割ぐらい増やすことができます。
家計はその一部を地域の銀行に預けて、銀行が株主となって地域の企業を支えればいいんです。つまり、これは地域の住民が出資者になることですから、利子として現物サービスの配当を受けることになるわけです。

人類は資本主義を本当にこのまま続けられるか

斎藤幸平と水野和夫が次の社会を構想する

斎藤:資本を社会化するイメージですね。私もその方向がいいと思っています。

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『未来への大分岐』で議論したマイケル・ハートも同様に、資本の社会化の重要性を強く訴えていました。ギリシャ元財務相で経済学者のヤニス・バルファキスも、ベーシック・インカムではなく、ユニバーサル・ベーシック配当というアイデアを提出しています。これは、あらゆる企業の株式の一部を社会化し、配当を国民全員に分配するというものです。つまり市民、国民すべてを株主とみなすわけですね。
ベーシック・インカムも1つの手ですが、私は、彼のアイデアのほうに魅力を感じています。これからますますオートメーション化が進んで、機械が勝手にモノをつくったり、サービスをしたりするようになるわけですよね。
機械が勝手に生み出したモノやサービスを、「これはオレの物だ」と独占するのは、よくよく考えると非合理なわけです。そのモノ・サービスを生み出すための機械や情報は、大勢の人の知識や情報が関わっている。だったら、生み出されたモノやサービスを社会化して、共有の財産としてみんなでシェアしようと。

地域性に密着させた社会へ移行

水野:できればそこに、地域性を強く入れたいというのが私の考えです。日本でいえば、現在は明らかに東京一極集中になっていますから、地方分権を進めて、できるだけ地域に密着した教育機関や企業、金融機関を充実させていくべきでしょう。
大きな企業は会社分割して、地域ごとに分社化する。地域のなかでなるべく自給自足できるような形で、現物のベーシック配当をすれば、「より遠く、より速く、より合理的に」という近代システムを脱して、「より近く、よりゆっくり、より寛容に」生きる社会に移行することができますから。
斎藤 はい。そのようなポスト資本主義の構想が、<大分岐の時代>に求められているのです。(後編に続く)
(構成:斎藤哲也)

後半:

https://toyokeizai.net/articles/amp/313361

人類は富を創出してもこれ以上豊かにならない

斎藤幸平×水野和夫「ポスト資本主義」を語る


資本主義の次の社会を生み出すためのカギは何か? (左)斎藤幸平氏と(右)水野和夫氏に話を伺った(撮影:露木聡子)  
「資本主義が終焉期に入っている」と多くの著書で指摘する水野和夫氏。資本主義や民主主義の危機について海外の知識人たちを訪ね歩き、編者として『資本主義の終わりか、人間の終焉か? 未来への大分岐』にまとめた斎藤幸平氏。「人類は資本主義を本当にこのまま続けられるか」(2019年11月20日配信)に続く対談後編をお届けする。

欧米のグリーン・ニューディール政策

斎藤幸平(以下、斎藤)前編で名前を挙げたギリシャ元財務相で経済学者のバルファキスは、DiEM25(Democracy in Europe Movement 2025)という大きな運動を展開しています。これは、2025年までに、本当の民主主義を実現するような新しいEUをつくろうという国家横断的なプロジェクトです。
このプロジェクトが大きく打ち出しているのが、グリーン・ニューディール政策です。特別公債を発行して、グリーンなエネルギーや技術に投資する。そうやって安定した雇用を作り出し、エネルギー効率のいい公共住宅や公共交通機関を拡張するわけです。これは、緑の社会システムに移行を促進すると同時に、貧困問題の対策にもなる。
水野和夫(以下、水野):どのぐらいのお金でEUをグリーン経済にできると試算しているんですか。
斎藤:ひとまず2020年から5年間で300兆円ぐらいです。だからEU全体で、年間60兆円の公債を発行するというイメージです。
水野:EU全体ならば、決して非現実的な数字ではないですね。日本はEUの4分の1の経済規模だから、単純に計算すれば、年間15兆円ぐらいでグリーン経済に移行できる。
斎藤:どうお金を捻出するかは、公債以外にも方法はあると思います。アメリカのバーニー・サンダースもグリーン・ニューディールを提唱していますが、彼は国債ではなくて富裕税を課すとか、汚染者負担の原則で石油産業に負担させるということを考えています。
水野:手法は違いますが、どちらもかなり具体的な試算までしているんですね。私自身はなかなか具体策までは出せず、よく批判を受けるんですが……。脱成長や定常社会というだけでも異端扱いですから。

人類は富を創出してもこれ以上豊かにならない

斎藤幸平×水野和夫「ポスト資本主義」を語る

斎藤:でも、世界的にはポスト・キャピタリズムという考え方が結構出てきています。これまでの新自由主義に対抗するためには、単に「ノー」と言うだけではダメで、この危機をチャンスとして、より豊かな新しい社会を構想する必要があるわけです。
じゃあ、われわれはどういう社会に住みたいのか。ごく少数の富裕層を除けば、誰だって、より平等で、より自由で、持続可能な社会に住みたいはずです。気候変動のような地球規模の危機を、新しい社会をつくるためのチャンスにしようという議論が、今ヨーロッパやアメリカで出てきているのです。

ポスト・キャピタリズムをどう実現するか

水野:世界的にポスト資本主義の議論がいろいろと出てきている状況の中で、斎藤さんは、日本の現状をどう捉えているんですか。

斎藤幸平(さいとう こうへい)/1987年生まれ。大阪市立大学大学院経済研究科准教授。専門は経済思想。博士(哲学)。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。Karl Marx's Ecosocialism: Capital, Nature, and the Unfinished Critique of Political Economy(Monthly Review Press/邦訳『大洪水の前に』・堀之内出版)でドイッチャー記念賞を歴代最年少で受賞。マイケル・ハート、マルクス・ガブリエルなど世界の知識人と議論した対談集『未来への大分岐』(集英社)で注目を浴びる(撮影:露木聡子)
斎藤:まず、世界でそういう議論が起こっている事実が全然知られていません。例えば、日本共産党が本当に資本主義を乗り越えることを目指しているなら、真っ先にグリーン・ニューディール政策を打ち出すべきだと思うんです。
でも、ポスト・キャピタリズムの「ポ」の字も出てこないし、グリーン・ニューディールやベーシック・インカムの議論も全然出てこない。これは選挙政治にとらわれているからです。非現実的だと言われるのを恐れているのです。
水野:条件的には、日本はポスト資本主義や定常経済にいちばんシフトしやすいのに、なんらアクションが出ないどころか、政府も企業も逆走しています。
斎藤:このままでは、どんどん取り残されていってしまいますよね。それじゃまずいと思います。
水であったり、電力であったり、インターネットであったり、非常にさまざまですが、生活のために不可欠な社会的な共同財産、要するに社会的インフラの「コモン」が、資本主義のもとでは解体され、資本によって独占されてしまう。そして、利潤獲得のために略奪されていく。
「コモン」をソ連の失敗を繰り返さない形で、人々の手に取り戻すためには、国家の力を使うだけではなく、むしろ人々がアソシエーションを形成して、資本の力を弱めるような社会運動を展開していくことが重要なのです。実際、EUやアメリカで起きているグリーン・ニューディールやポスト・キャピタリズムを求める新しい政治の動きも、「下からの運動」があってこそ生まれたものです。
「上からの政策」だけでは、結局、グリーン・ニューディールもさらなる経済成長のためのケインズ主義止まりで、地球からの略奪をやめることはできないでしょう。
社会運動を下火にしないためには、そして日本で活性化させるためには、現在の社会を批判するだけでなく、ポスト・キャピタリズムの社会が今よりも魅力があり、豊かであることをもっと伝えていかないといけません。

人類は富を創出してもこれ以上豊かにならない

斎藤幸平×水野和夫「ポスト資本主義」を語る

水野:定常社会になれば労働時間も減るし、資本や富を社会化することで、貧困やひどい格差も解消されます。『未来への大分岐』で政治哲学者マイケル・ハートと斎藤さんが交わした議論の中にも出てきた「脱商品化」が、大事なキーワードですね。
斎藤:そうです。いま水野さんがおっしゃったことと、持続可能なグリーン経済にすることはひとつながりなんです。
例えば無償の公共交通機関を整備しないと、脱クルマ社会は実現しません。つまり、持続可能な社会を実現することは、脱商品化された生活基盤をつくりだすことにつながっている。それが、ポスト・キャピタリズムへの道を開く大きな契機になるのだと思います。

人類の歴史は、ハード・ランディングばかり?

水野:ところで前編の議論の中では、資本主義を主体的に終わらせるには、という話をしましたが、その一方で資本主義が自壊していく可能性も私は感じているのです。

水野和夫(みずの かずお)/1953年生まれ。法政大学法学部教授(現代日本経済論)。博士(経済学)。埼玉大学大学院経済科学研究科博士課程修了。三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミストを経て、内閣府大臣官房審議官(経済財政分析担当)、内閣官房内閣審議官(国家戦略室)などを歴任。主な著作に『終わりなき危機 君はグローバリゼーションの真実を見たか』(以上、日本経済新聞出版社)、『資本主義の終焉と歴史の危機』『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』(以上、集英社)など(撮影:露木聡子)
おそらく2040年代になると、資本主義の基盤がもう成り立たなくなるからです。その基盤とは、化石エネルギーです。今後、使えるエネルギーはどんどん減っていくからです。
1930年代は「1」のエネルギーを投入すれば、「100」のエネルギーが取り出せました。これは、掘れば勝手に石油が自噴したからです。しかし簡単に採掘できる場所の原油は掘り尽くし、採掘の難しい海底であったり、手間のかかるオイル・サンドから原油を搾り取ったりするようになっていきます。そうすると採掘のコストがどんどん高くなっていき、エネルギー収支が見合わなくなってきているのです。
斎藤:未開発の油田はまだあるけれど、掘っても儲からなくなるということですか。
水野:儲けも出ませんが、「1」のエネルギーを採掘するのに「1」のエネルギーを使う必要があるなら、採掘する意味はありません。
近代資本主義は、化石燃料が無限にあることを前提にできたからこそ、成長至上主義を疑わずにやってくることができました。もうその化石燃料が使えなくなるのですから、資本主義も限界を迎える。
ただ、もちろん問題は、その資本主義の終わらせ方です。化石燃料が使えないのに、資本主義が悪あがきをすればハード・ランディングになって、人類の危機、文明の危機をまねいてしまいます。理想的には、化石燃料が使えなくなる前に、資本主義が終わってくれればいいのですが。


人類は富を創出してもこれ以上豊かにならない

斎藤幸平×水野和夫「ポスト資本主義」を語る

斎藤:資本主義はそう簡単に終わらないんじゃないかと私は危惧しています。石油がないと生きていけないような社会システムが続けば、無理をしてでも掘り続ける可能性も高い。価格を吊り上げても、購入する層は存在します。
資本はネガティブな出来事でしょうが、チャンスがあればそこにどんどん投資していくのではないでしょうか。
例えば干ばつが起きたら、干ばつに強い遺伝子組換え作物や、干ばつでも育つような肥料を販売する。水が足りないのであれば、水をどこかから持ってきて、それを高値で販売する。あるいは山火事のリスクが高ければ、山火事が起きたときにすぐに助けてくれるレスキュー隊保険のようなサービスを販売する。
その中でも、今いちばん大きいビジネスチャンスがジオ・エンジニアリング、気候工学や地球工学と言われるものです。これは、地球に入ってくる太陽光を遮断して気温上昇をコントロールしようとするもので、ビル・ゲイツなんかも投資しています。

技術を活用しても取り返しがつかない可能性も

水野:具体的にはどんな技術ですか。
斎藤:例えば太陽光を反射するようなパネルを宇宙に飛ばすとか、小さい硫黄の粒子(エアロゾル)を大気圏にまいて、人工的にずっと曇っている状態をつくり出し、太陽光を遮断するといった技術です。海に大量の鉄をまいて、プランクトンを大量繁殖させ、光合成を促進して二酸化炭素を吸収させるというアイデアもあります。
地球規模で大気システムや海洋システムに介入するわけですから、大規模なプロジェクトになるし、膨大な研究費がかかります。しかし、もしプロジェクトが採用されれば、巨額の研究費が入るので、それが新しいビジネスチャンスにもなるわけです。
一見、こうしたテクノロジーは気候変動の問題を解決する奥の手のように見えますが、逆にそれがもっと大きな地球規模での物質代謝の攪乱につながってしまう可能性もあるわけです。鉄をまきすぎて海洋の魚が大量に死んでしまうかもしれないし、気候システムに介入した結果、雨がまったく降らなくなるような地域が出てくるかもしれない。
しかも、1度やったら取り返しがつかないのです。だから環境危機が高まれば、資本が自主的に諦めてグリーンな経済に移行するという考えは楽観的すぎます。
実際、歴史を振り返っても、システムが崩壊するときというのは、粘って粘って最終的に戦争、略奪、内紛、殺し合いが起きるのが常です。いわば人類の歴史は、ハード・ランディングの歴史でした。革命だって1つのハード・ランディングと言えるかもしれない。そうすると、ソフト・ランディングは存在しないのかもしれません。
水野さんは、資本主義のハード・ランディングを避けるために、どうすればいいとお考えですか。


人類は富を創出してもこれ以上豊かにならない

斎藤幸平×水野和夫「ポスト資本主義」を語る

水野:資本主義が終わろうとしない根本的な要因は、株式会社という仕組みにあります。株式会社は、1回きりの事業清算ではなくて、永久に存在することを前提とします。人間には寿命があるけれど、法人格には寿命はありません。だから無限に利潤を増殖させようとするわけです。
世の中に資本が足りない時代はそれでよかったのかもしれませんが、いまの日独仏などの先進国は、明らかに供給力が過剰です。供給力が過剰だから、投資してもリターンがない。先ほど話したマイナス金利はその現れです。
本来なら、ここで資本主義を卒業すればいいのに、相変わらず政府も企業も稼げ、稼げと旗を振っています。その根っこにあるのが、株式会社の永続性です。ですから、資本主義を終わらせるためには、法人格にも一定の寿命を与える必要があります。例えば中世のように、1代かぎりで解散すればいいんです。

「ブルシット・ジョブ」が資本を延命させる

斎藤:富も生産力もすでに十分あるわけですよね。よく言われる話ですが、世界で最も裕福な8人は、下位半分の36億人と同じだけの資産を持っています。ジェフ・ベゾスとかマーク・ザッカーバーグは、一生かけても使い切れないようなお金を貯めてしまっているわけです。それでもさらに金持ちになろうとしている。これは不合理です。
これは別の見方をすれば、36億人の生活をもっと豊かにできる富や生産力を、すでに人間は持っているということです。にもかかわらず、いまだに多くの人が低賃金と長時間労働を強いられているし、利潤はひと握りの金持ちに集中しています。
ここで問題なのは、今や、デヴィッド・グレーバーが「ブルシット・ジョブ」(クソくだらない仕事)と呼ぶような、やらなくてもいい仕事がゴマンとあることです。しかし資本や国家はわざわざそういう雇用を創出して、資本主義を延命させようとしているのですね。
その極端な例がブレグジットです。ブレグジットによって、イギリスには弁護士や税理士に大量の仕事が生まれるわけですよ。でもこれらは、イギリスがEUから離脱しなければ発生しない仕事です。資本主義はそうやって意味のない仕事をつくって、なんとか新しいマーケットを作り出すという状態になっています。
この現状をまず変えなければいけません。そのためには無駄な生産活動をやめて、労働時間も減らすことです。余計な生産活動がなくなれば、その分、環境負荷も減るわけですから。

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斎藤幸平×水野和夫「ポスト資本主義」を語る

水野:日本の労働時間はとくにひどいものがあります。現在、日本人は正規社員で年間2100時間、非正規社員も含めてデータでは年間1700時間働いているんですね。一方、日本とほとんど生活水準が変わらないドイツは非正規社員を含めたデータで1300時間です。
私自身の経験も含めて感覚的にいうと、日本の労働の3割はまさにブルシット・ジョブのような仕事をしています。だからあと500時間ぐらいは減らせると思います。そうすると、オフィスのエネルギー使用量も4分の1ぐらいは減らせるんじゃないでしょうか。
斎藤:いまの生産力があれば、週4日制ぐらいにはすぐ移行できると思うんですよね。
水野:簡単にできますよね。

ケインズの予言

斎藤:マルクスも自由の国を実現するための最初の条件は、労働時間の削減だと言いました。多くの人々にとって、労働は自己実現や社会的承認の場でもありました。労働は人生を充実させてくれるものだという考えは、今も根強くあると思います。しかし現代のテクノロジーは、労働以外に時間を使えるという可能性を開いてくれているわけです。
『未来への大分岐』の中で、私が議論したポール・メイソンも述べているように、ひたすらブルシット・ジョブをやることよりも、散歩や音楽、サッカーなどをすることのほうがよほど人間らしい意味のある活動です。
週2日の休日でしかできなかった社交や芸術を、もっとできるようにする。そういう社会に転換することは、同時に、よりエコロジカルな社会を実現することにもなります。モノをとにかく消費するために働くようなライフサイクルから決別する。労働のあり方が変わることで、モノや自然とのつき合い方も変わっていくように思います。
水野:日本の1人当たりGDPの推移を見ると、1955年と比べて現在は、インフレ調整後で8.5倍になりました。1955年といえば、戦前の1936年の水準を取り戻した年です。ちょうどそのころ、ケインズが予想しているんですね。これから科学技術の進歩と指数的な成長で4倍から8倍まで生活水準が上がれば、もうこれ以上、資本を蓄積する必要はない、と。
ちょうど現在の日本は8.5倍で、ケインズの言う基準を全部クリアしています。資本を蓄積する必要がないということは、利子率ゼロの状態であり、ケインズは「利子生活者の安楽死」は経済にとって大きな達成だと考えました。

『資本主義の終わりか、人間の終焉か? 未来への大分岐』(集英社新書)書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします
ところがいま、利子生活者は安楽死せず、低賃金の労働者が瀕死の状態に陥っています。それはもう成長できないのに、無理やり成長を求めて、ROE10%を目指したりするからです。
日本はそろそろケインズの言葉に耳を傾けるときです。もう8.5倍の生活水準に達したのだから資本主義はやめましょう、と。資本蓄積を目指さなければ、もっと豊かで人間らしい生活ができるようになるわけですから。
斎藤:ケインズは、2030年までに労働時間は週15時間になるとも言っていますし、それができる生産力はもう手にしているわけです。
現在の金融業界に顕著なように、ひたすら富を目指すような活動が何も生んでいないのは明らかです。これ以上、資本の増大を目指せば、気候変動に代表される環境破壊はひどくなる一方だし、ブルシット・ジョブも増えていきます。
しかし、富を生み出すだけでは、人類はこれ以上豊かにならない。資本主義を終わらせるためには、「より多くつくり、より多くの賃金を獲得し、より多く消費する」という近代の勤労倫理を転換する必要があるのでしょうね。
水野:そこにも、資本主義の次の社会を生み出すためのカギがあるのだと思いますよ。
(構成:斎藤哲也)

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