第I部 準備
第3章 『一般理論』に向かって
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III
企業家経済を中立状態に維持するためにどんな手段を採用できるか考えるのは興味深い。それらは四つの主要類型(*)
に分かれると思う。その最初の三つは実用型で、第四はたぶんユートピアン型である。
⑴借入れによる政府支出(**)は、それが経常勘定であれ資本勘定におけるものであれ、それらを埋め合わせ要因とし
て導入できるだろう。民間支出が費用に比して下落しているときにはそれを増加させる。民間支出が増加してい
るときには減少させ、もし必要があればそれを負にする、すなわち、以前の借入れを返済するのである。
⑵支出は利子率の変化によって促進または抑制されるだろう。なぜなら、後ほど見るように、利子率は消費と投
資双方の支出促進を意図して引き下げられるからである。
⑶いっそう支出しそうな個人の手に増加もしくは減少した所得が渡るように所得を再分配できる。
⑷一方で、利用できる支出手段が経常生産費を超過するのを防ぐ対策と、他方で、未支出の所得が所有者の手中
で腐って無価値になる対策を講じることができるだろう。
最初の三つは実用的な制御方法であり、私はこれまで多くの場でそれらを論じてきた。第四は若干敷行するに値す
るだろう。なぜならそれは、所得の完成品あるいは運転資本への支出以外への利用をいわば禁じる場合に必要になる
類の措置の例示に適しているからである。
貨幣の代わりに、それが所得になるときにはその都度再発行される日付入り計数器(counters)を持っていると仮
定しよう。そして、運転資本量は一定だと仮定して話を始めよう。企業はそのとき生産諸要素に計数器で支払うだろ
う。その計数器には生産諸要素が協業して生産する産出物の完成予定日が刻まれている。そして、これらの計数器は
完成品の経常産出物を購入するために然るべきときに使われる。計数器はこの目的以外には利用できず、刻まれた日
付までにそのように使われない計数器は無効になる。しかしながら、完成品と交換に日付入りの計数器を受け取る企
業には、次の生産期間に使用できる新しい計数器を受け取る資格が与えられる。また、公衆が(不注意によるかその
他の理由により)無駄にした計数器がある場合には、企業は手渡された旧計数器と交換に、比例的により多くの新計
数器を与えられる。たとえば、計数器の十分の一が使われずに無効になるとすると、企業が手渡した旧計数器の数の
九分の十の新計数器を受け取る。
しかしながら、集計的運転資本が増加中であるならば、何らかの当局(政府か銀行システム)が、公衆が運転資本
の増加に等しい数の期限がくる計数器をその当局に引き渡すように(課税により強制的にか、あるいは、利子率を付
して自発的にかして)仕向けなければならない。また、運転資本が減少中であるならば、公衆の経常的購買力を増加
するために、対応する措置が取られなければならない。
IV
このような、あるいは類似の防護措置を採るもとで、最初は完全雇用状態から出発すると仮定するならば、古典派
理論の諸仮定は完全に満たされる。企業は全体として、ある期間を通して、雇用する生産諸要素にすでに支払った額
を超えてあるいは下回って、利潤あるいは損失のどちらかを生みだすことはできない。ある企業がこうむる損失は、
(*)閉鎖体系においてである。非閉鎖経済では、システムの一部を均衡により近く維持できる手段がさらにある。たとえば、関税、
輸入割当、外国為替管理である。
(**)つまり、租税の対応する変化が釣り合っていない支出である。
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