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日曜日, 4月 28, 2019

令和は平成以上に国民が貧困にあえぐ時代に? MMTは日本経済の低迷を救うか



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令和は平成以上に国民が貧困にあえぐ時代に? MMTは日本経済の低迷を救うか

2019.04.14


 新しい元号「令和」も決まり、来年はいよいよ東京オリンピック・パラリンピックで、何やら良いことが起きそうに感じている人も多いかもしれない。しかし、このままでは令和は平成以上に国民が貧困にあえぐ時代となる可能性が高い。
 政府はアベノミクスでデフレ脱却を目指しながらも、緊縮財政、規制緩和、増税などのインフレ対策(アベコベノミクス?)を行ってしまった。風邪をひいている病人に氷水を浴びせてこじらせてしまったようなものだろう。しかも、ついには公式統計までごまかし出す始末。名目賃金が誤差程度に上昇したことを鬼の首を取ったかのように主張しているが、実質賃金は下がっている。

 おまけに、相も変わらず政府の借金を国の借金と言い換えて、1100兆円を国民一人当たり885万円の借金だというレトリックで存在しない財政破綻危機を煽り、増税の口実にしている。政府の借金など国民は気にする必要がないことは後ほど言及したい。
 もっとも、政府がいくら経済政策の成果を主張しても、多くの国民は「実感がない」と感じているのではないか。その直感は正しい。
 なぜ、これほど政府の経済政策はダメダメなのか。周囲には優秀な経済学者をはじめとするブレーンが控えていたのではなかったか?
 いやいや、実はこの主流派と呼ばれる経済学の信奉者たちこそが、日本や世界の経済をダメにしたのだ――と指摘するMMTなる理論が登場し、注目されている。
 おかげで、主流派経済学を信奉する学者や評論家、政治家、マスコミたちが、いやーな汗をかきはじめているようだ。

主流派経済学者たちや政治家、マスコミが慌てるMMTの衝撃

 もし、経済学に再現性の高い科学的要素があるのならば、現在の日本の体たらくはどのように説明するのか。――と思っていたら、先頃、アメリカでMMT論争なるムーブメントが起きていることを知り、わずかな希望の光を見つけた。
 MMTとは「Modern Monetary Theory」の略で、日本語では「現代貨幣理論」と訳されることが多い。MMTが注目されるようになったきっかけは、2018年の米国の中間選挙で29歳の最年少女性議員として脚光を浴びたアレクサンドリア・オカシオコルテス下院議員が、今年1月に「MMTの議論をもっと盛り上げるべき」と主張したことだった。
 この主張が、2020年の大統領選の争点にまで発展しそうな勢いで議論を巻き起こしている。なにしろオカシオコルテスは将来、米国初の女性大統領になるのではないかと期待されている新星だからだ。
 ――ところでMMTって何だ? 多くの人がこの聞き慣れない理論に注目した。すると驚くべきことに、MMTでは「財政は赤字でこそ正常な状態なのだから、どんどん財政拡大すればよいのだ」、というではないか。日本で多くの人たちが緊縮財政、つまり財政赤字の縮小こそ正しいと主張しているのとは正反対だ。
 正反対だから、ノーベル経済学賞受賞者であるクルーグマンをはじめとする経済学者や中央銀行関係者、著名投資家たちなどが慌てて反論を始めた。何しろ自分たちが依って立つところの「信仰」が揺るがされかねないためだ。

袋だたきに遭うMMT

 主流派と呼ばれる経済学では、財政赤字は悪だ。なかには一時的な財政拡大は認めるという一派もあるが、基本的には悪である。政府の債務が積み上がってしまうと国際的な信用が低下し、その国の国債が売り出されてしまう。その結果、国債の金利が上昇して債務返済が困難になってしまうという理由だ。
 実際、ギリシャやアルゼンチンなどは債務不履行に陥っているではないか、と主流派は言う。しかし、MMT支持者たちはこの理論を笑う。米国や日本など、自国通貨で借金をできる政府は通貨発行権を持っているため、破綻のしようがない、というのだ。
 この理屈はもっともだ。MMT支持者の主張は、日本という国で実証されている。
 日本ではずいぶんと昔から財政破綻が叫ばれている。1995年に武村正義大蔵大臣(当時)が国会で財政破綻宣言をしたのが始まりとも言われている。しかし、いっこうに金利は上がらないし、破綻しそうにもないではないか。
 米国も同様だ。MMTはでたらめな理論ではない。経済産業省の官僚で評論家でもある中野剛志氏は次のように語っている。
 “現代貨幣理論は、クナップ、ケインズ、シュンペーター、ラーナー、ミンスキーといった偉大な先駆者の業績の上に成立した「整合的に体系化された理論」なのである。”(東洋経済ONLINE:2019/3/26

MMTとは何か

 このMMTは最近になって突然登場した理論ではない。1990年代には構築されていた。その主な主張は以下の通りだ。
 ●自国通貨を発行できる政府は財政的な予算制約を受けることはない。たとえば日本や米国、英国が該当する。一方、自国通貨を持たず発行もできないユーロ圏の国々は該当しない。
 ●経済と政府には、生産と消費に関する実物的な限界と環境上の限界がある。これは、政府には消費を拡大したり減税したりすることでインフレを起こすことができるという意味だ。
 ●政府の赤字は他の人たちの黒字となる。これは誰かの赤字は必ず誰かの黒字になるという単純な法則だ。

MMTなら未だに破綻していない日本を説明できる

 世界には、財政破綻できない国がある。その代表が日本や米国、英国などだ。これらの国の政府は自国通貨を発行することができる。つまり、政府が返済する意志を持つ限り、借金などいくらでも返済できてしまうということだ。
 主流派経済学が頭を抱えているのは、すでにGDPの240%にも上る政府債務残高があるにもかかわらず未だに財政破綻していない日本の存在だ。しかし、MMT支持者から見れば「当然の現象」ということになる。
 私たちの多くも、つい、政府の財政状況を家庭や企業と同じように考えてしまう。つまり、借金が膨らむと倒産したり破産したりしてしまうのではないか、という心配だ。
 しかし、政府は企業や家庭とは決定的に異なる特徴を持っている。最も大きな違いは、通貨発行権を持ち、徴税権を持ち、寿命がないということだ。この明白な事実を、私たちは忘れてしまっている。いや、忘れさせられている。
 とはいえ、いくらMMTでも、政府が野放図に支出しても良いとは言っていない。あくまで適度なインフレが保たれる範囲でとしている。つまり、極度な需要過剰(供給不足)でインフレが過熱しないように調整は必要だというのだ。
 ただ、現在の日本は、まったくの低金利どころかマイナス金利なので、この手の心配は無用だといえる。同時にMMTのこの考え方は、政府の財源を増税で賄う必要はまったくないことも示している。つまり、消費税の増税は愚か、消費税そのものもナンセンスなのだ。

MMTは課税を不要だとは言っていない

 ただし、MMTでは課税そのものを不要だとは言っていない。なぜなら、MMTでは通貨の価値は課税で担保されると考えているためだ。課税を行わなければ、需要過剰(供給不足)が起きた際にインフレを制御できない。また、格差を是正するためにも、富の再配分システムとして課税は必要になる。MMTではほかにも、政府が最後の雇い手として機能することで物価調整を行えると考える。
 たとえば景気が悪く失業者が増えれば、政府が働く場を作り出せば良い。そうすることで完全雇用を達成し、賃金の下落を止めることができる。逆に好景気になり民間で人手不足が始まれば、公的雇用から労働者を採用すれば良いのだ。
 MMTでは、不況時に政府が財政支出を増やして赤字になることをまったく問題視しない。

MMTは無制限に財政赤字をせよとも言っていない

 それにしてもMMTは批判される。
 MMTでは救われない、ユーロからの批判がそのひとつだ。欧州中央銀行(ECB)の理事会メンバーであるビルロワドガロー・フランス銀行(中央銀行)総裁がMMTにかみついた。そうしなければユーロの正当性が崩壊してしまうからだろう。
 同氏は、次のように言っている。
 “残念ながら、自国の債務をマネタイズしようとした国は極めて不幸な経済状況に陥ったことがケーススタディーで繰り返し示されている”(ロイター:2019/03/28)と言いながら、具体的な例が出てこない。そもそもEU諸国は自国通貨も中央銀行も持たないので、MMTの理論では救えない。だからドイツもフランスも財政破綻する可能性がある。
 しかし、日本や米国、英国、スイスなどは破綻できないのだ。日本でもことあるごとに財政破綻を煽る人々は、財政赤字が金利を急騰させて、政府の利払い負担が増えて将来の世代にツケを回してしまう、と主張している。
 あれれ? 日本は凄まじい低金利であることを忘れているようだ。この不思議(でもなんでもないのだが)はMMTなら説明できる。それは、政府の赤字は民間の貯蓄でファイナンスされているわけではないためだ。

銀行はお金を創造する魔法を持っている? 信用創造とは?

 ここで「信用創造」という魔法について説明したい。
 銀行が企業などに融資する場合、なんとなく預金で集めたお金を貸し出していると思ってしまう。しかし現実には、銀行は実際に持っている以上のお金を貸し出すことができるという魔法を持っている。
 たとえば銀行がある企業に10億円を貸し出すとする。その時、銀行はどこかにとっておいた10億円を持ってきて貸し出すのではない。単純に、貸出先企業の口座に10億円記帳するだけなのだ。
 この仕組みは、書き込むだけでお金が生み出されることから「万年筆マネー」などとも呼ばれる。
 つまり銀行という制度は、理論的には相手が返済能力さえあれば、際限なくお金を貸し出せることになっている。ただ、実際には預金の引き出しに備えるために預金の一定の割合を日銀当座預金として中央銀行に預け入れることが義務づけられている。つまり、銀行が貸し出しを増やして預金を増やすと、日銀当座預金が増えるのだ。

経済学は天動説なのか?

 前述の中野剛志氏は、MMTが主流派から批判されている状況を次のようにたとえている。
 “ガリレオが地動説を唱えた時、あるいはダーウィンが進化論を唱えた時、学界や社会の主流派は、その異端の新説に戸惑い、怒り、恐れた。そして、攻撃を加え、排除しようとした。しかし、正しかったのは、主流派に攻撃された少数派・異端派のほうだった。”(東洋経済:2019/3/26)
 主流派から攻撃されている少数派だから正しい、とはもちろん言えない。しかし、何よりも主流派にとって皮肉なのは、日本という国が財政破綻していないことで、MMTの正しさが実証されてしまっていることだ。
 私は経済学者ではない。そのため、MMTについて誤った解釈をしている可能性もある。それでも本稿を投稿したのは、MMTの議論が盛り上がれば日本経済にプラスになると考えたためだ。
 経済低迷が常態化してしまった日本で、MMTは希望の光となるだろうか。

地蔵重樹

フリーライター。主に起業家が著者となる本のブックライティングやWebライティングを行う。経済、ビジネス、宗教、歴史、AIに興味あり。しげぞうのペンネームで『駅猫Diary』他の著書も有り。
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