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火曜日, 5月 21, 2019

カンティロン効果



ジョン・ロー、カンティロン、ナイト他、経済表or循環図
http://nam-students.blogspot.com/2015/09/blog-post_31.html
カンティロン効果


 カンティロンの貨幣数量説は、ハイエクのいう「連続的影響説」として良く知られている。ハイエクは、妻ヘラ(前妻の方である)が本書を独訳した際に序文を付けている。それにいう「カンティロンを他の貨幣理論の創設者と区別する業績の中には、ロックの素朴な数量理論の批判があげられるだろう、それに代えて貨幣数量の増加が連続的に諸財の価格に影響を与える過程の詳細な説明が与えられた。この説明は、壮大な第Ⅱ部第6章に見られ、ジェヴォンズによって正当にもこの本の最も素晴らしい所とされた。」(Hayek, 1931)貨幣増加の原因は、国内鉱山の採掘や国際収支の順調によるものである。後者の場合では、「国内の大多数の商人や企業者を裕福にし、かつ大量の職人や労働者に仕事を与えるだろう。…これらの勤勉な住民の消費はしだいに増え、土地と労働の価格もしだいに高くなるだろう。」(p.109)。貨幣の増加は、関係者の購買力を増加させ、消費を通じて雇用を増やし、土地と労働の価格を上昇させるのである。
 しかし、カンティロンの貨幣数量説については、ハイエクと異なる評価もある。「連続的影響説」に対するに、「カンティロン効果」の重視の立場といえようか(ブローグ、米田等)。「カンティロン効果」とは、貨幣量の増加は物価水準の上昇をもたらすだけではなく、物価構造も変化させることを強調するものである(ブローグ, 1966, p.29)。「ある国に二倍の貨幣量が導入されれば、物産と商品の価格が常に二倍になるというわけではない。河床をうねって流れる川も、その水量を倍にすれば倍の速さで流れるというわけではないだろう。/貨幣量の増加がその国にもたらす物価の騰貴の割合は、この貨幣が消費と流通とに与える動きしだいであろう…消費は貨幣を手に入れる人々の考えしだいで、ある種の物産や商品の方に多く向けられたり少なく向けられたりするだろう」(p.115)。貨幣の流通経路の違いにより諸商品の価格上昇率に偏差が生じる。イングランドにおいて、穀物輸入が認められていることもあり、小麦が1/4倍しか上がらないのに、肉の価格は3倍に上がる例があげられている。
 後者の立場に立つ米田によると、そもそもカンティロンは労働と土地の完全雇用(少なくとも土地については明白)、を前提にしているから、経済の拡大は考慮されていないとする。あるいは一国の封鎖経済の取扱では静態的な経済が想定されているとまでいって良いかとも思う(注7)。そういう前提から、カンティロンは「貨幣量の増加はその(流通経路:引用者)違いに応じて諸財の相対価格の変化をもたらしつつ一般物価水準を高めていくことを明らかにしょうとしたにすぎない。」し、厳密にいえば「連続的影響説」は彼の体系では充分展開できる余地がないと考える(米田, 2005, p.200)のであろう。


475 金持ち名無しさん、貧乏名無しさん (スププ Sd94-A6JP)[sage] 2019/05/21(火) 17:36:23.59  ID:Hi3BIPRZd 
>>466
国債以外の民間証券購入の効果はまた別でしょうね。
ただこれは証券保有者への補助金でしかないようにも思え、どこまで公益性があるかは疑問です。

MMT的には、国債の発行は財政支出に必要ないですし、それを1対1に結びつけることは理解を阻害するかと思います。

478 金持ち名無しさん、貧乏名無しさん (ワッチョイ 0015-WkfM)[] 2019/05/21(火) 18:33:24.22  ID:u/54Ox2i0 
>>475
それはカンティロン効果といって、その存在については古くからの議論がありますね。

MMTでは財政支出に国債発行は必要ない、というのはその通りですが、国債の新規発行があるなら必ず財政赤字があるはずだ、と考えるのは問題ないのではありませんか?


市場マネタリストとカンティロン効果とハイエクの景気循環論

経済に新規に注入された貨幣のもたらす効果は、その貨幣がどこに注入されたかで違ってくるか、という点を巡り、市場マネタリストオーストリア学派の人がやり合っていたようだ。オーストリア学派は違うと言い、市場マネタリストは違わないと言う。結局、効果が違ってくるのは貨幣注入の金融政策ではなく財政政策の側面による、ということで一応決着が付いたらしい。その辺りの話をDavid Glasnerが例によって自ブログで手際よくまとめている(関連するブログエントリのリンクもそちらを参照*1)。


問題の効果はカンティロン効果と呼ばれているが、Glasnerは該当エントリで同効果について詳説している。それによると、そもそもハイエクがこの効果を持ち出したのは、新規貨幣で誰得というみみっちい話の文脈ではなく、消費財と投資財の相対価格の変化とその反転による景気循環という文脈においてだったという。ハイエクの説では、銀行の貸出金利が自然利子率から乖離すると*2、カンティロン効果がもたらされ、相対価格の歪みのせいで資源が誤って消費財産業から資本財産業(もしくはその逆方向)に流れてしまう、との由。


だが、このハイエク景気循環理論には重大な欠陥がある、とGlasnerは言う。というのは、その理論では銀行の定める金利が経済のあらゆる場所における貸借に適用されることを前提とするが、それは非現実的な仮定だからである。
Glasnerはエントリを以下のように結んでいる。

At any rate, if interest rates are determined comprehensively in all the related markets for existing stocks of physical assets, not in flow markets for current borrowing and lending, Hayek’s notion that the banking system can cause significant Cantillon effects via its control over interest rates is hard to credit. There is perhaps some room to alter very short-term rates, but longer-term rates seem impervious to manipulation by the banking system except insofar as inflation expectations respond to the actions of the banking system. But how does one derive a Cantillon Effect from a change in expected inflation? Cantillon Effects may or may not exist, but unless they are systematic, predictable, and unsustainable, they have little relevance to the study of business cycles.
(拙訳)
いずれにせよ、もし金利が、現存する物理資産のストックに関連する市場すべてにおいて包括的に決定されるものであって、現下の貸借のフロー市場で決定されるものではないとするならば、銀行システムが金利のコントロールを通じて有意なカンティロン効果を生じせしめることがある、というハイエクの考えを信じるのは難しい。超短期金利については銀行システムが変更をもたらす余地があるかもしれないが、長期金利には銀行システムによる操作の余地は無さそうである。銀行システムの行動にインフレ期待が反応する場合は別だが、インフレ期待の変化からどうやってカンティロン効果を導出することができよう? カンティロン効果は存在するかもしれず、しないかもしれない。だが、その効果がシステマティックで予測可能で持続可能で無い限り、景気循環の研究にはあまり意味を持たない。

*1:その中のサムナーのエントリの一つは、昨日紹介したように、序でのような形でベックワースの財政政策無効論に触れている。

*2:乖離が生じるのは、自然利子率は観測不可能であり、両者を一致させる市場メカニズムは存在しないため。

(注1)本書中に発見できる最も新しい年号は、1730年( p.179)である。
(注2)そこには、カンティロンも意識していたように、異質な土地あるいは労働の集計という困難な問題が存在する。さらにはまた、労働換算の基準額となる穀物(土地生産物)量の問題がある。それは、労働者とその家族にとっての生存必要分であるが、矛盾のない統一的なモデルを作るには、穀物のみがスラッファ体系での「基礎的生産物」であることが必要である、あるいは食料品からなる「標準商品」を構成する必要があるとWalshは言っている(ように思える)。
(注3)「労働者の消費様式は動物の飼料のように固定されている。」(Walsh)
(注4)「渡辺の『創設者』は、「総体的にマルクスの歴史把握と経済理論を固守しようとしている点、およびまだスチュアートの存在が視野に入ってない点が、この著作の刊行の時期のわが学会の限界を示している。」(小林, 2001, p.81)
(注5)(米田, 2005a, p.180)による。矢印の方向は、貨幣の流れを表す。
(注6)「わが国において、しばしば「カンティロンの『経済表』ということが言われる。」(渡辺, 2000, p.284)として、堀経夫『経済学史要論 上』1936、平瀬巳之吉『経済学の古典と近代』1954の使用例があげられている。日本ではかなり古くから使われてきたのである。
(注7)先に「連続的影響説」の所で引用した箇所は、貿易収支による貨幣増で、国際的な開放経済の場面であった。その前には、国内鉱山による貨幣増の影響過程も書かれている。そこでは物価高から外国製品の輸入増となり、国内産業が破滅することが書かれているが、同様に開放体系の過程である。
(注8)米田によれば、正貨の自動調節機能は、貨幣評価の等価交換から土地(労働)評価の等価交換への実現過程である。「自動調節機能の行き着く先は、ヒュームの場合のような流通貨幣量と商品の価値総額との比例的な平準化ではなく、原理的には商品―貨幣―商品の三者の等価関係の実現でなければならない。つまりこの自動調節は、閉鎖システムにおいては失われていた貨幣と商品のとの等価関係が、解放システムのもとで回復されていく過程にほかならない。」(米田, 2005a, p.202)
(注9)渡辺によると、農業による利潤は、土地の生産力による生産物の分量増加から発生するのに対し、工業部門の利潤は生産物の「売却のうちに」すなわち「市場価値」が「内在価値」を超過することから発生する。ジェームズ・スチュアートの「譲渡利潤」(profit upon alienation)に相当するとしている(渡辺, 2000, p.223-225)。ここにいう「売却のうちに」とは、「この利潤も帽子の売上げのなかに入っているはずである。帽子の価格はただ原料だけでなく、帽子製造業者と彼の労働者たちの生計費と、さらに問題の利潤をも支払うものでなければならないのである。」(p.131)とのカンティロンの記述による。
(注10)「借地農は、…第三の地代を蓄えるのではなく、いっそう快適に暮らすために支出するということである。」(p.82)
(注11)その他に、読んでいて興味を引かれた部分は、第Ⅰ部では、「人間がもし生存の手段を限りなく持っていれば、人間は穀物倉のハツカネズミのように増えるのである。そして植民地イングランド人は、三世代後には、イングランドで30世代かかるよりも比率の上では多くなるだろう。」(p.55)とマルサスを思わせる箇所があること。第Ⅱ部では、これもチューネンの産業立地論を彷彿させる輸送費用の議論の箇所である(p.100)。
  1. 大塚久雄、高橋幸八郎、松田智雄編 『西欧経済史講座 -封建制から資本主義への移行― Ⅳ』 岩波書店、1960年
  2. カンティヨン 戸田正雄訳 『商業論』 日本評論社、 1943年
  3. R.カンティロン 津田内匠訳 『商業試論』 名古屋大学出版会、1992
  4. 小林昇 「解説」2000年 (『渡辺輝夫経済学史著作集』第一巻 所収)
  5. 小林昇 『経済学史春秋』 未来社、2001年
  6. ジェヴォンズ 「リシャール・カンティヨンと経済学の国籍」 (戸田訳『商業論』 所収)
  7. シュンペーター 東畑精一訳 『経済分析の歴史 2』 岩波書店、1956年
  8. 鈴木勇 『経済学前史と価値論的要素』 学文社、1992
  9. ピエロ・スラッファ 菱山泉・山下博訳 『商品による商品の生産』 有斐閣、1962年
  10. 高橋誠一郎 『古版西洋経済書解題』 慶応出版社、1943年
  11. 津田内匠 「解説 カンティロン ― 企業者とディリジスムの経済学」1992年 (津田訳『商業試論』  収録)
  12. R・F・ヘバート/A・N・リンク 池本正純/宮本光晴訳 『企業者論の系譜』 ホルト・サウンダース、1984年
  13. 米田昇平 「リチャード・カンティロン -地主と企業者― 」2005年a (坂本達哉編『黎明期の経済学 経済思想第3巻』 日本経済評論社、2005年 所収)
  14. 米田昇平 『欲求と秩序』昭和堂、2005年b
  15. 渡辺輝雄 『渡辺輝雄経済学史著作集 第一巻 創設者の経済学』 日本経済評論社、2000年
  16. Hayek, Friedrich A., Micheál Ó Súilleabháin, trans. "Richard Cantillon" (Introduction and textual comments written for Hella Hayek's 1931 German translation of Richard Cantillon's Essai ) Journal of Libertarian Studies. vol. VII, No. 2, pp. 217-247.
  17. Walsh, V. “Cantillon, Richard (1697-1734) " in The New Palgrave Dictionary of Economics, Macmillan, 1998

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