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木曜日, 12月 26, 2019

デイビット・アンドルファット David Andolfatto

デイビット・アンドルファット「日本のインフレ目標の失敗」(2016年11月29日) — 経済学101
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デイビット・アンドルファット「日本のインフレ目標の失敗」(2016年11月29日)

David Andolfatto “The failure to inflate Japan” MacroMania, November 29, 2016

2013年1月22日,日本政府と日本銀行はデフレの克服と持続可能な経済成長を達成するという異例の共同声明を発表した。この声明の目的は2%のインフレ目標を導入することだった。これが共同で発表されたのは,金融当局と財政当局が自分たちの共通の目標を達成するために協調することが期待されることを念押しするためで,新たなインフレ目標の信頼性を強化するという明確な試みだった。
2013年4月4日,日銀はインフレ目標をどのようにして達成するつもりか説明を行った。つまりは量的・質的緩和(QQE)だ。QQEは(ほぼほぼ)標準的な金融政策で,例外だったのは通常の規模よりも大きなものだったことだ。すなわち,銀行預金準備(お金)を創り出し,それが今度は証券,基本的には国債,を購入するのにつかわれるというものだ。
当時,僕はこの政策が意図されたとおりにうまくいくか懐疑的だった。僕の疑念は今になっても薄らいでない。この記事ではその理由を説明しよう。僕の主張を簡単に言えば,日銀はインフレを上昇させようと考えていると思われるけれどもそれを行う力はあまりない,そして政府にはインフレを上昇させる力がある一方でそうしようと考えていないと思われる,というものだ。端的に言えば,必要な政策協調が欠けているように見える。
いくつか基本的なところから始めてみよう。まず,国債とは基本的には有利子(場合によっては)の日銀のお金に対する有利子の請求権だ。名目政府債務の総額は,日銀のお金と国債の合計だ。財政当局は債務の総供給をコントロールする。金融当局はその構成(お金と債券)を決定する。量的緩和はお金の供給を増やして民間主体の資産ポートフォリオが所有する債権の供給を減らす。つまり,量的緩和は政府債務の水準を変えることなしに構成を変えるということだ。
債券は通常割り引かれている(つまり,債券は一般的にお金よりも高い利回りを稼ぐ)ので,政府債務の構成を変える公開市場操作は一般的に実物と名目の影響を及ぼす。でも現在の状況では,日本のお金と債券の利回りとリスクの性質は非常に似通っている。お金と債券が完全な代替物であるという限定的な状況(僕たちはまだそこには至っていない)では,政府債務の構成を(その水準に影響を与えずに)変えることにあまり意味はない。これは10ドル札10枚の100ドルを1ドル札100枚に代えるようなものだ 。こうした操作は,恒常的なものではあれど,物価水準をはじめとして経済に対して目に見える効果を与えることはおそらくないだろう。なぜかって?実証上,日本が初めて量的緩和を試した2002-2006年にインフレに対して目に見えた効果は一切なかったんだ(僕の2003年の論文の第4部も参照のこと)。
インフレ率の上昇のためには,次の2つのうちどれかが起きなくちゃならない。すなわち,(1)名目政府債務供給の成長率が上がる,もしくは(2)政府債務需要の成長率が落ちなきゃならない。
日本(やそれ以外の場所)で起きたことのひとつの解釈は,持続的な弱気のマインドが(民間投資を犠牲にして)国債のような安全な証券への需要の一層の拡大を招いたというものだ。この力の影響で,債権の利回りが引きさげられ,デフレ圧力が生み出される(デフレは名目の物体の供給が足りていないときに,その実質的な量の成長率を高める市場メカニズムだ)。名目債務の供給が上昇しているにもかかわらず非常に低い債券利回りと低インフレは,債務への需要がそれ以上に急速に上昇していることを示唆している。
上述の共同声明によれば,日銀が2%のインフレ目標を達成することを助けるための政府のコミットメントは,実質経済成長を刺激するために強気の投資雰囲気を作り出すような改革を実施して(安倍の第三の矢)政府債務への需要を減少させることであると言っているに等しい。これがうまくいくならそれに越したことはないけれど,第三の矢が発射できなかったり的を外した場合の対応策はどのようなものになるだろうか。
僕の考えとしては,適切な対応策にはインフレが目標を下回ったままでいる限りは名目債務を(たとえば)社会保障給付や減税の原資として使うと約束するというのが含まれるだろう。これは本質的には「ヘリコプターマネー」だ。この場合の「お金」は政府債務だ(日銀が新規国債をマネタイズするかは否かは,お金と国債が完全な代替物であるなら意味をなさない)。重要なのは(そして僕が理解する限りは),日銀にはヘリコプターマネーに乗り出す権限はまったくないということだ。これができるのは政府だけだ。そして現在の状況においては,お金ないし債務を原資とする支出を調節してインフレ目標を達成するという政府の側からのコミットメントだけがそうした目標を信頼性あるものにできると僕は考えている。問題は,そうした形でインフレ目標を支持する意志を政府が表明したかどうかだ。僕が見つけうる限りの証拠は,その答えはノーだと言っている。
まず,日本政府は公的債務の大きさ(とその伸び)をとても憂慮しているように見える。上述の共同声明には次のように書かれている。
また、政府は、日本銀行との連携強化にあたり、財政運営に対する信認を確保する観点から、持続可能な財政構造を確立するための取組を着実に推進する。
勘違いしないでほしい。「持続可能な財政構造」がいいものだってことにはみんな同意する。問題なのは,何をもって持続可能なとするかだ。もちろん債務の対GDP比を永遠に上昇させることはできない。でも今現在の高水準の状態からですら,特に今の低い金利を考慮すればもっと高い水準にまで上昇することも十分ありえる。
でも日本政府はほとんど強迫的なまでに債務削減を気にしているように見える。財務省が発表している文書は,債務持続性の警鐘を無理やりにでもガンガンと鳴らしているかの如くだ。「日本の財政関係資料」を例にとってみよう。ほとんどの文書が「財政再建」(債務削減)の必要性を強調していて,ヨーロッパの債務危機からの教訓に触れている。4ページ目の一般会計歳出1 はおかしなことに債務償還費を含んでいる。そして3ぺージ目では,「家計が政府のようにふるまうとバランスシートはこうなります」式の定番かつミスリーディングな演習が載っている。これは債務の対GDP比を安定化させようとする政府の真剣さを押し出すのには素晴らしい方法だ。でも,僕に言わせれば,これは日銀の2%インフレ目標達成を支援するのに整合的な政策じゃあない。
話は変わるけれども,日本の政府債務問題っていうのは実際どの程度深刻なんだろうか。日本の債務のGDP比は今や250%,少なくともそう聞かされてはいる。結局のところ,この数字は公的債務の水準を過大評価している(ここのsection 3.1を参照)。250%という数字は総債務(グロス)で,政府による融資や一部の政府間移転を含んでいるのでこれを差し引かなければならない。そうした場合の純債務(ネット)のGDP比は150%に近い。
さらに,相当ある政府資産も考慮に入れると,比率は100%まで下がる(中央政府のバランスシートはここの51ページを参照)。そして最後に,40%の政府債券は日銀が保有しており,これらはこのままマネタイズされたままであるとみられることを考慮すべきであれば,比率はさらに下がる。日本国債のとても低い利回りは日本の財政が崩壊寸前なんてことはありえないという市場の評価を反映していると僕は考えている(こうした考えについての注意書きとしてこちらを参照)。
なので,生産物に対する市場の需要という点に関して,日本政府は「緊縮」モード,つまり高く評価された日本国債の供給を限定することに一所懸命になっているんだ。その一方で,日銀は限定的に供給されている日本国債を積極的に購入していて,今や購入可能な債券の供給がそろそろ枯渇するほどになっている(これに関する話はこちら)。
インフレ目標を達成するまで債券購入を継続すると信頼できるような形で日銀が約束するなんて,どうやったらいいだろう。そんなことはできやしない。政府からの適切な支援なしにはね。そして近いうちにそれがなされることはなさそうだ。というわけで,緊縮による消費税引き上げを受けて一時的なインフレの落ち込みの後,総合CPIはゼロ近傍にまで戻ってしまった。
購入できる証券が尽きてしまうという懸念も理由の一つとなって,日銀は最近イールドカーブの調整を含んだ新しいマイナス金利政策を発表した(ここを参照)。この介入はインフレ期待にほとんど影響は与えないように思える(現在のインフレとインフレ期待は,金融危機前の2000年代前半と似通っている)。
さてまとめよう。まず,この記事は2%インフレ目標を支持することを意図したものじゃない。次に,この記事を日本政府の債務管理戦略に反対するものだと解釈してはならない。これは日銀の資産購入プログラムに反対するものでもない。これらの点については,この後の記事で議論しようと思う。
この記事の要点は次のとおりだ。もし金融政策当局と財政当局が2%インフレ目標を実施したいと望むなら,政策の成功には(現在の状況下では)インフレとインフレ期待が目標を下回っている限りは十分に緩和的な財政政策(債務による支出と減税のいずれかもしくは両方)が必要だ。財政当局からのこうしたコミットメントがないなら,試みは最後には失敗に終わり(全体的な弱気な見通しが固定化するなら)り,その結果として,どこかの時点で実現できないインフレを約束し続ける金融政策当局の信頼性も損なわれてしまうだろう。
  1. 訳注;原文はtotal government expenditure(直訳:政府総支出)だが,財務省の用語に合わせた。実態としても特別会計は含まれていないので,広義の政府総支出とは異なる。 [↩]

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