『目に見えるものの署名』フレドリック・ジェイムソン:書評
原著 Signature of the Visible - Fredric Jameson- 1990年
邦訳 2015年6月10日法政大学出版局
ジョイスから取られた書名は、むしろフランクフルト学派からの影響を隠すためのものだ。
印象的なのは序論冒頭の「映像とは、本質的にポルノグラフィである。」1989という言葉だ。
ジジェク(1988年にヒッチコック論。脚注最後に名前がある)を想起させるが、
よりスタンダードなこうした論考群は、
もっと早く読まれるべきだった。ただこうしてまとまって後から読むからこそ意義がわかる面もある。
ジェイムソンはマルクスの生産様式(p.257)及び弁証法(p.9)信じているが、それは残念ながら
消費社会にその都度臨機応変に対応することは出来ない。生産様式は消費社会より変化が
遅れるのだ。だからこうして長いスパンで見渡すことで始めて意味がわかる。
その『政治的無意識』を引用したことのある盟友の柄谷行人が脚注(1992年ペーパーバック版
刊行時の書き下ろしと思われる)で引用されているのが興味深い。
「柄谷行人は、ドゥルーズがライプニッツやモナドの共時性のモデルへ回帰して
いるのは、旧来の国民国家が1992年以降のヨーロッパの超国家的(トランスナシ
ョナル)超大国の切迫した状況に直面した時に生じる、イデオロギー的要請の反映
であると論じている。」(原注(29))
ここはなぜか索引に含まれていない。*
ゴッドファーザー(#1)やルメット(#2)やヒッチコック(#5,#6~これは1982年の執筆でジジェク
に先行する~)、エイゼンシュテイン(#8,p.336)が規準となっているが、
ジェイムソンはドゥルーズのように思考のモデルとしての映画を信じていない。
とはいえ、ある思考のモデル(=生産様式)が消費社会に対応してゆくのを見ることが本書の
醍醐味である。
(グレマス**の四角形的図式はエイゼンシュテインのモンタージュ論(p.336)とつながり得るだろう)
注*
ジェイムソンが読んだのはデリダもコメント↓した柄谷行人の論考↓↓だろう。定本第五巻に
「ネーション=ステートと言語学」と改題されて再録されている(該当箇所は定本第五巻200頁)。
In the context of the Second International Conference on Humanistic Discourse,
this text introduces Kojin Karatani's "Nationalism and Écriture" and reports on the
central concerns that emerged in its discussion.
Kojin Karatani's "Nationalism and Écriture"
『目に見えるものの署名』初版より時期が後だが、ジェイムソンが脚注を追記し
たのかもしれない。
追記:
313頁より(リアリズムの説明。黒澤明等巨匠はモダニズムに対応する。)
物 語
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ノンフィクション←________→フィクション
ドキュメンタリー ハリウッド
出来事↖︎ ↗︎ステレオタイプ,
/歴 史 \ / 約束事
/ \ / ヘゲモニー
/ \ / \
反-芸術 \/ 芸 術
\ /\ /
\反-フィクション/ \ /
\ 実験的 / \ /
反体制的集団/ \ 写真 /
発 話↙︎ ↘︎存在論的
社会性←________→世界
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反-物語
リアリズム
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/ \
/ \
真実/表象←________→自律した芸術
/ あるいは美学的領域
/S ↖︎ ↗︎-S\
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? \/ モダニズム
\ /\ /
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\-S_ / \ S_ /
\ ↙︎ ↘︎ /
反-芸術←________→反-表象
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ポストモダニズム
ジェイムソン「イタリアの実存」『目に見えるものの署名』邦訳253頁より
「?」の位置にはパゾリーニの後期の作品が位置し得るがジェイムソンはパゾリーニに言及していない。
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『目に見えるものの署名』フレドリック・ジェイムソン
ジジェクよりスタンダードなこうした論考群は、もっと早く読まれるべきだった。
ただこうしてまとまって後から読むからこそ意義がわかる面もある。
ジェイムソンはマルクスの生産様式(p.257)及び弁証法(p.9)信じているが、それは残念ながら
消費社会にその都度臨機応変に対応することは出来ない。生産様式は消費社会より変化が
遅れるのだ。だからこうして長いスパンで見渡すことで始めて意味がわかる。
その『政治的無意識』を引用したことのある盟友の柄谷行人が脚注(1992年ペーパーバック版
刊行時の書き下ろしと思われる)で引用されているのが興味深い。
「柄谷行人は、ドゥルーズがライプニッツやモナドの共時性のモデルへ回帰して
いるのは、旧来の国民国家が1992年以降のヨーロッパの超国家的(トランスナシ
ョナル)超大国の切迫した状況に直面した時に生じる、イデオロギー的要請の反映
であると論じている。」(原注(29))*
ゴッドファーザー(#1)やルメット(#2)やヒッチコック(#5,#6~これは1982年の執筆でジジェク
に先行する~)、エイゼンシュテイン(#8,p.336)が規準となっているが、
ジェイムソンはドゥルーズのように思考のモデルとしての映画を信じていない。
とはいえ、ある思考のモデル(=生産様式)が消費社会に対応してゆくのを見ることが本書の
醍醐味である。
(グレマスの四角形的図式はエイゼンシュテインのモンタージュ論(p.336)とつながり得るだろう)
注*
ジェイムソンが読んだのはデリダもコメント↓した柄谷行人の論考だろう。定本第四巻に
「ネーション=ステートと言語学」と改題されて再録されている(該当箇所は定本第四巻206頁、254頁も参照)。
http://www.pum.umontreal.ca/revues/surfaces/vol5/derrida.html
『目に見えるものの署名』初版より時期が後だが、ジェイムソンが脚注を2007年の改訂版を期に
追記したのかもしれない。 また、1992年云々という記述やドゥルーズの名前がないから柄谷の他の論考かもしれない。
1995年のジェイムソンの論考*に同内容の記述がある。
*
以下は未確認、
1993年
Japan in the World (Paperback)by Masao Miyoshi (Editor), Harry Harootunian (Editor)
近代日本の言説空間(定本5)所収の英語版。
**
2・6 詩的同位系と言述の面
コミュニケーションの同位系概念は、内容面で、単に比喩論のみならず、閉じた語り構造の規則を基礎づける
ために不可欠であるようにわれわれには思える。人は、この同位系(意味素範疇の重複的な束として考えられ
る)を、個々の言述的表出から分け隔てる距離に価値を与え、この距離によって比喩の構造的身分を定義し、次
いで言述の連辞的表出においてすでに認められた詩的関係(提喩、換喩、反語法等々)の位相論を使って、その
完全な目録を構成することができる。他方レヴィ=ストロースがオイディプス神話の分析をしっかりとなしえた
のは、物語の同位系レベルの決定によってなのである。そしてルイーズ・ラベのあるソネは、「あなたを愛してい
ます」というただひとつの言表の同位系的変容の一連鎖で構成されたものとして現れうる(リュヴェ)。
記述の同じ手法はさらに一層簡単に表現面に適用されうる。そうすれば、音素によってではなく、弁別特徴に
よって分節された音韻的同位系から出発して、詩的対象の「一般的調性(トナリテ)」の構造と同時に、表現の「比喩論」を
確立しうるのである。
グレマス「構造言語学と詩論」『意味について』327頁より
5 詩の快感
5・1 快感と不快感の共示
詩的コミュニケーションが、全体として、快感を産み出すものであるのが明白であるとしても、このコミュニ
ケーションの対象である音韻論的、意味論的実質が、そのあらゆる分節のレベルで、ときにその快を表す項を、
ときにその不快を表す項を表示する自己受容的範疇によって共示されることは疑いの余地がない。もしわれわれ
が提案した通り、実質の意味作用とは区別された、詩の形相の意味作用の存在を認めるなら、見かけ上の矛盾は
取り除かれるかもしれない。実質は快をもたらすと同時に不快をもたらす同位系の変異によって共示されるのに
対して、詩の形相(重複性と、表現と内容の一致によって基本的に表出された)は、恒久不変性と真理という
「意味効果」を引き起こすために、純粋な快感となるだろうからである。
同334頁
返信削除リアリズム
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真実/表象←________→自律した芸術
/ あるいは美学的領域
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ポストモダニズム
ジェイムソン「イタリアの実存」『目に見えるものの署名』邦訳253頁より
「?」の位置にはパゾリーニの後期の作品が位置し得るがジェイムソンはパゾリーニに言及していない。
313頁より
物 語
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ノンフィクション←________→フィクション
ドキュメンタリー ハリウッド
出来事↖︎ ↗︎ステレオタイプ,
/歴 史 \ / 約束事
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発 話↙︎ ↘︎存在論的
社会性←________→世界
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