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構成・村瀬信也、村上耕司
将棋の藤井聡太七段(16)と、将棋ファンの憲法学者木村草太さん(38)が対談した。「進化を続ける高校生棋士の頭の中はどうなっているのか」「どんな学校生活を送っているのか」。将棋ファンの代表として、木村さんが数々の質問をぶつけた。
木村 前年の目覚ましい活躍で、2018年は期待されたと思います。プレッシャーを感じながら、どう戦ってきましたか。
藤井 重圧になると良くないので、あまり結果を求めすぎず、目の前の一局に全力を尽くして、という感じです。
木村 昨年4月に進学しましたが、藤井先生にとって、高校生活はどういうものですか。
藤井 学校で学んだことが将棋に役立つことはありません。ただ、ずっと将棋のことを考えていても精神的に行き詰まってしまう。学校に行くことで、バランスが保たれるのかなと。
木村 高校の勉強で面白いと思うことは。
藤井 世界史です。知らないこともあったので。いま、第1次世界大戦のあたりです。近代史の授業です。
木村 ところで、最近の藤井先生のインタビューに、将棋で考えている時に必ずしも盤面を頭の中に思い浮かべていない、とありました。どういうことでしょうか。
藤井 詰将棋の場合、短い手数だと、見た瞬間に解けることがあります。意識的な思考を始める前に、バックグラウンドというのか、そこで既に読んでいて、ひらめきにつながるのかなと。読む中で常に盤面が用意されていると、その処理が大変です。
木村 「見た瞬間に答えが出る」というのは、その間に高速で盤面が動いているわけではないんですね。
藤井 盤面が動いている感覚はあまりないです。
木村 どういう感覚なんだろう。指し将棋の時は、盤面は浮かびますか。
藤井 指し将棋は形勢判断がかなりの比重を占めるので、盤面の重要性は上がる気がします。
木村 手を読むときに言語思考はしますか。
藤井 必ず言語は使います。読む前にその局面における目的設定や、ある程度の方針を決めます。
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木村 私、将棋を採り入れた授業をやっているのですが、教えるのが非常に難しいと思うのが、相手が自分にとって一番いやな手を指してくる前提で考えるという将棋の思考です。どうしても自分に甘い読みになってしまう。どのようにすればいいと思いますか。
藤井 難しいですね。自分だと、対局中に相手の側から盤を見てることがたまにあります。
木村 (加藤一二三(ひふみ)九段が現役時代にしていた)いわゆる「ひふみんアイ」ですね。
藤井 そうすると、あまり考えていなかったことを思いつくことがあります。一度局面を俯瞰(ふかん)してみることが、客観的に最善を追求することにつながるのかなと感じています。
木村 プロはみんな頭の中に9×9の盤面を持っていると言われますけど。
藤井 盤を頭の中に浮かべるのは結構大変なことで、棋士でも完全に浮かべている人はそんなにいないんじゃないでしょうか。
木村 常にいくつもの研究課題の局面を頭に入れているわけですよね。特定の戦型で先手がいいとか後手がいいとか、何日間隔で入れ替わりますか?
藤井 トレンドになっている戦型だと、非常に速いペースで変わっていきます。ただ最近はその先が本当の勝負というか、序盤研究の先の中盤、終盤が非常に重要であるという認識が共有されつつあると思います。
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木村 最近のトップ棋士の対局を見ていると、先手の価値が高まっているように見えます。
藤井 確かにタイトル戦の結果を見ても、先手の勝率が高いという印象は受けるのですが、その要因が、初期配置におけるわずかな得によるものだとは、個人的には考えづらいと思います。
木村 どういう点に由来しているのでしょうか。
藤井 人間同士の対局なので、心理的な要因があるのかもしれません。
木村 振り駒で負けると、ガクッときますか。
藤井 昨年は比較的後手番が多くて、ちょっと気にしています。
木村 将棋は先手必勝か、後手必勝か、引き分けか、どれだと思いますか。
藤井 それは……。将棋の神様に聞いてみないと。でもやはり、先手必勝か引き分けである可能性が極めて高いと思います。
木村 一日中、将棋の研究をしても成果が出ない時、どう思いますか。
藤井 1日という単位で目に見えて強くなることはないです。もっと長いスパンで見て、判断します。
木村 そのスパンはどれぐらいでワンセットですか。
藤井 3カ月ぐらいです。今は中盤の局面評価に重点的に取り組んでいますが、改善するまでにそれぐらいかかったかな、と。
木村 成果というのは、序盤が理解できるとか中終盤が少し見えるようになるとかでしょうか。
藤井 例えば、以前はあまり考えなかったような手を考えることがあります。選択の幅が変化したなと感じることはあります。
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藤井 学校の授業で、名古屋大学法学部の先生のお話を聞く機会があって、「法学というのは条文の暗記だと思っているかもしれないけど、実はバランス感覚がいちばん大事なんだ」とおっしゃっていたのが印象に残りました。木村先生はどうお考えですか。
木村 条文の暗記は将棋でいうと駒の動かし方ですので、そこから先が勝負かなと思います。法学も将棋と同じで、対立する人たちがいて、それぞれの主張があって、そこに解決をもたらさなくてはいけない。相手が自分にとっていちばん厳しい主張をしてくるという前提で、なおかつ自分の主張を防衛できるか、という思考をしなくてはいけない。自分の主張だけにならないよう客観的に評価できるようになるのが重要で、将棋と法学は思考として非常によく似ているというのが私の持論ですね。
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木村 大学への進学は考えますか。高校を卒業してすぐでなくても、40歳や50歳になってからという選択肢もあると思いますけど。
藤井 まだ選択を狭めすぎる時期でもないと思うので、選択の一つにはあります。ただ18歳からの4年間は将棋においても非常に大切な時期なので、木村先生がおっしゃられた時というのもあると思います。
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木村 よく新聞の国際面を読まれるそうですが、最近気になったことや興味を持ったことはありますか。
藤井 安田純平さんが帰国されたニュースです。ジャーナリストが紛争地に取材に行くことの意義や、自己責任という声も上がったみたいで……。その責任を問うのは、どうなのかと思っていました。
木村 新聞は子供の頃からよく読まれているのですか?
藤井 はい。読み始めた頃は小学生新聞でした。
木村 藤井先生がもし小学生新聞に将棋の連載を持つとしたら、どんなふうに書きますか?
藤井 戦術面などの話は避けて、将棋は自由度の高いゲームなんだよということを伝えたい。膨大な分岐があって、そういう奥深さを感じて欲しいと思います。
木村 心に残っている、あるいは好きな棋士の言葉ってありますか。
藤井 「感想戦は敗者のためにある」です。感想戦という行為自体が他では珍しいと思うんですけど、感想戦の意義をよく表した言葉かなと思います。将棋は勝者と敗者がはっきり分かれるゲームです。厳しい勝負の世界だからこそ、生まれた文化なのかなという気がします。
木村 最後に2019年の目標を教えてください。
藤井 昨年はトップ棋士の方と当たることができて非常にいい経験ができました。その経験を糧に今まで取り組んできた形勢判断の改善を一歩進めて、タイトルに近づける一年にしたいと思います。(構成・村瀬信也、村上耕司)
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ふじい・そうた 2002年、愛知県生まれ。16年、史上最年少でプロ入り。18年、朝日杯将棋オープン戦と新人王戦で優勝。名古屋大教育学部付属高校の1年生。
きむら・そうた 1980年生まれ。首都大学東京教授。著書に「自衛隊と憲法」など。棋士を講師役に招いた「将棋で学ぶ法的思考・文書作成」の授業を行っている。
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