前回までで準備がととのったので、いよいよIS-LMモデルとマンデル=フレミング・モデルを組み合わせて大国開放経済モデルを構築してみましょう。
このモデルは4つの数式であらわされます。最初はこれ(なお、ここからは利子率について名目利子率と実質利子率を区別することにします)。

 Y = C(Y - T) + I(r) + G + NX(e) …(1)
 Y:産出(=所得)、C:消費(可処分所得の関数)、T:税金
 I:投資(国内実質利子率の関数)、r:国内実質利子率
 G:政府購入、NX:純輸出(為替レートの関数)、e:為替レート
これは、以前出てきたマンデル=フレミング・モデルのIS*曲線の式とほぼ同じものです。マンデル=フレミング・モデルでは利子率が世界利子率に固定されていましたが、こんどの式では国内の実質利子率なので変数です。ちなみに下線付きの文字は定数をあらわしています。

2番目の式はこれです。
 M/P = L( i, Y ) …(2)
 M:名目貨幣供給、P:物価水準、M/P:実質貨幣供給、
 i:名目利子率、Y:産出(=所得)
これは、閉鎖経済のIS-LMモデルのLM曲線の式とまったく同じです。

3番目は前回勉強した、純輸出と対外純投資関係です。
 NX(e) = NFI(r) …(3)
 NX:純輸出、NFI:対外純投資、e:為替レート

最後にに実質利子率と名目利子率を結びつける式を書いておきましょう。
 i = r + πe …(4)
 πe:予想インフレ率
 (フォントの関係で読みづらいかもしれませんがπはギリシャ文字小文字のパイです)

以上4つの式を整理してみましょう。まず(1)と(3)を使ってeを消去します。
 Y = C(Y - T) + G + I(r) + NFI(r) …(5)
これで変数がYとrだけになったので、横軸が産出、縦軸が実質利子率の座標に曲線として書くことができます。これが大国開放経済モデルのIS曲線です。

次にLM曲線の式(2)の中の名目利子率を(4)を使って実質利子率に書き換えます。
 M/P = L( r + πe, Y ) …(6)
これも横軸が産出、縦軸が実質利子率の座標上の曲線になりました。これが大国開放経済モデルのLM曲線ですが、閉鎖経済のIS-LMモデルで縦軸を実質利子率にしたときのLM曲線とまったく同じものです。

では(5)のIS曲線がどんな曲線になるかを導き出して見ましょう。やりかたは閉鎖経済でのIS-LMモデルでのIS曲線のとき(くわしくはこちらこちら)とほとんどいっしょです。
図0058_IS曲線の導出(大国開放経済)
まず、左下の投資+対外純投資のグラフをみてください。閉鎖経済のIS-LMモデルのときは横軸がI(投資)のみでしたが、今回はI+NFI(投資+対外純投資)です。rが減少すると(1)、IもNFIも増加するのでI+NFIも増加します(2)。しかも、閉鎖経済のIS-LMモデルのときとくらべてNFIの分だけ増加量が大きくなります。右上のグラフでは計画支出がI+NFIの増加分(ΔI+ΔNFI)の分だけ上にシフトし(3)、現実支出(45°線)との交点が右上に移動し、産出がY1からY2に増加します(4)。そして右下のグラフで(1)の実質利子率(r)の減少と(4)のY(産出)の増加を表したものが大国開放経済モデルのIS曲線となります(5)。閉鎖経済のときとくらべると実質利子率が同じように低下してもNFI分だけ計画支出の増加量が大きい=産出の増加量も大きくなります。したがってIS曲線は、閉鎖経済のときより傾きがなだらかなります。

LM曲線の導出は閉鎖経済のIS-LMモデルと同じです(くわしくはこちら)。ただし、縦軸を名目利子率ではなく実質利子率で書きますので以前やったように予想インフレ率(πe)のぶんだけ上下に(πe<0なら上に、πe>0なら下に)平行移動してやります。

というわけで大国開放経済におけるIS曲線とLM曲線のグラフはこのようになります。
図0059_IS曲線とLM曲線(大国開放経済)
閉鎖経済のIS-LMモデルにくらべてIS曲線の傾きがゆるやかになっていることに注意してください。
そして、このグラフに対外純投資のグラフと純輸出のグラフを組み合わせてみましょう。
図0060_大国開放経済の短期モデル
左上のIS-LMのグラフから実質利子率r1と産出Y1が決まります。右上のグラフでは縦軸に実質利子率をとって対外純投資NFIのグラフが書かれています。国内の利子率が下がると国内に投資するより海外に投資するほうが魅力的になるので、グラフは右下がりになっています。このグラフによってさっきIS-LMのグラフで決定された実質利子率r1に対応した対外純投資NFI1が決まります。右下のグラフは縦軸に為替レート(上に行くほど自国通貨安)をとって純輸出(NX)と対外純投資(NFI)のグラフが書かれています。為替レートが自国通貨安(日本で言えば円安)になるほど輸出品の海外での価格競争力が強くなっったりして純輸出が増加しますから純輸出のグラフは右上がりです。対外純投資は為替レートの関数ではないのでここでは垂直な直線で表されています。式(3)でみたとおり対外純投資と純輸出は等しいので、さっき右上のグラフで決まった対外純投資NFI1と純輸出のグラフの交点で純輸出NX1と為替レートe1が決まります。
IS-LMモデルが価格変動がない短期を前提としていたのと同じように、このモデルも短期であることを前提としていますので、これらの一連のグラフを「大国開放経済の短期モデル」と呼ぶことにします。
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やっと大国開放経済のモデルができました。次回はこのモデルで財政出動と金融緩和の効果をみます。