水曜日, 6月 19, 2019

2019/6/20 中野剛志 MMTを否定すると、ハイパーインフレになるおそれがありま す!



MMTを否定すると、ハイパーインフレになるおそれがあります!

 消費増税は必要なし! ましては財政を健全化するのは当たり前だと考えてきた経済学者や官僚、政治家、そして朝日新聞までもMMT(現代貨幣理論)に対する批判が日々高まっている。
「確かに、異端の学説ですよ。財政健全化をよしとする主流派経済学の見解とは、180度も違います。でも、主流派経済学に基づく経済政策では、ちっともうまくいかず、二十年も経済が停滞しているのだから、MMTについて、もっとまじめに考えてもよさそうなものです」と語るのが評論家・中野剛志氏。
 MMTの詳細は近著『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】』でこれ以上ないくらいに分かりやすく解説されている。
 なんと山本太郎議員が地方遊説先で本書を現代の必読書と公言しているのも驚きだ。
 一方で、聞く耳すらもたずにMMTを一蹴する人ばかりが湧いてでてきたのも印象的。なんで、そこまでしてMMTを嫌うのでしょうか。その心理を中野剛志氏は、実に明快かつ象徴的な学説をもとに、これ以上ないくらいの分かりやすさで解説してくれた。緊急寄稿第7弾を公開。

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MMTを否定すると、ハイパーインフレになるおそれがあります! 

 MMT(現代貨幣理論)には、相変わらず、たくさんの批判が寄せられています。しかし、まともな批判はひとつもありません。今日は、その中から、特に酷かった例を採り上げてみましょう。

 日本経済新聞「大機小機」(2019年6月5日)に「MMTと南海トラフ地震」を書いた「手毬」さんのMMT批判です。

「手毬」さんは、「(MMTは)独自の通貨を持ち、自国通貨建てで借金できる国は、インフレにならない限り、財政赤字や国債残高を気にせずに財政支出を増やせる、と説く」と述べています。
 これはその通りです。

 しかし、例によって、「手毬」さんも「MMTの危うさは、インフレになりかけたら、歳出削減や増税をすればよいと、いとも簡単に片付けるところだ。平時でも難題だが、緊急時にやれることではない。」と、お決まりのMMT批判を披露しています。
 このようなMMT批判が、誤解に基づくものであることは、『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】』の中でも書きましたし、こちら(参考)でも書きました。

(参考)MMT「インフレ制御不能」批判がありえない理由

 さて、「手毬」さんは、テンプレのMMT批判を得意そうに披露した後で、MMT論者をこう詰問しています。

「MMT論者に次の2点を確認しておきたい。(1)南海トラフのような巨額の潜在的財政需要を抱えている事情を知っても、なおMMTを勧めるのか
(2)財政赤字が増えるにまかせて南海トラフ地震に遭遇しても、財政破綻の引き金にならないと断言できるのか。」

 では、順番にお答えいたしましょう。
 もっとも、MMT論者でなくても、普通に考えれば、こういう答えになると思いますが。

(1)南海トラフのような巨額の潜在的財政需要を抱えている事情を知っても、なおMMTを勧めるのか

 はい、勧めますね。
 それどころか、南海トラフ地震の可能性があるからこそ、いっそうMMTを勧めるのです。
 南海トラフ地震対策のために公共投資を行う必要があるからです。そんなこと、当たり前でしょう。
 MMT以前の話として、国家として、防災対策によって国民の生命を守るのは、当然のことではないですか。
 仮にインフレであったとしても、防災対策は、やらなければならないものなのです。
 しかも、日本はデフレなのだから、財政赤字を拡大しても問題ない。問題ないどころか、財政赤字を拡大してデフレを脱却すべきなのです。
 南海トラフ地震対策とデフレ脱却の両方が達成できるというのに、何をためらう必要があるのでしょうか。       

(2)財政赤字が増えるにまかせて南海トラフ地震に遭遇しても、財政破綻の引き金にならないと断言できるのか。

「財政赤字が増えるにまかせて」って言いますが、MMTは、財政赤字をいくらでも増やしていいという主張ではありません。2~4%程度の適度なインフレ率になるまでなら、財政赤字を拡大していいという理論です。
 なので、とりあえず4%のインフレ率という「正常な経済」に戻った段階で、南海トラフ地震に遭遇したとしましょう。
 もちろん、地震で供給能力は破壊され、復興需要が生じるので、高インフレになるでしょう。
 MMTも、供給が需要に追いつかなくなればインフレになるとしています。どの程度のインフレになるのかは、もちろん、地震の規模にもよります。ちなみに、東日本大震災では、あれほどの大災害でも、インフレにはなりませんでした。


MMTを否定すると、ハイパーインフレになるおそれがあります!

 では、ハイパーインフレ(財政破綻)が起きるほどの巨大な震災が起きたら、どうするか。
 もし、そんな巨大な被害が発生したら、これはもう国家存亡の危機であり、財政政策がどうこうという問題ではありません。
 そんな大震災が起きたら、仮に財政健全化を達成していたとしても、ハイパーインフレは避けられないでしょう。

 南海トラフ地震によるハイパーインフレを避けたければ、(1)の答えで述べたように、地震の被害をできるだけ小さくすべく、今から公共投資を増やして防災対策をしなければいけないのです。
 それとも「手毬」さん、「巨大な震災が起きてもハイパーインフレにならないように、今からハイパーデフレにして備えておけ」とでも言うのですか? 

 ちなみに、「手毬」さんは「増税は、平時でも難題だが、緊急時にやれることではない」とか言っていますが、東日本大震災の際は、すぐに復興増税が行われたのを忘れているようです。もっとも、当時はインフレにはなっていないので、まったく不必要な増税でしたが。

 ところで、なぜ「手毬」さんは、「南海トラフ地震のおそれがあるから、防災対策の公共投資を増やすべきだ」という当たり前の結論にならないのでしょうか? 
 その答えは、MMT批判のテンプレ「いったん財政赤字を拡大したら、インフレを止められなくなるから」にあります。
「財政赤字は、悪」だと思い込んでいるから、防災対策のために公共投資を増やそうという結論にならないのです。

 しかし、防災対策が不十分であれば、南海トラフ地震の被害は、より拡大することになります。
 その結果、大規模な供給力の破壊と、膨大な復興需要の発生により、それこそハイパーインフレになってしまうかもしれません。
 つまり、MMT批判こそが、ハイパーインフレを引き起こすということです! 

 しかも、財政赤字の拡大が招くインフレだったら、財政政策でなんとかできますが、大震災によるインフレは、それこそ簡単には抑制できません。しかも、物理的な被害によって大勢の人命が失われるので、取り返しがつかない。

 実際、2011年の東日本大震災までの十五年間、公共投資は、財政健全化を理由に削減され続けました。
 もし、財政支出を惜しまずに防災対策をしっかりやっていれば、東日本大震災の被害もより少なくできたでしょう。
 巨大災害を想定しない財政健全化こそが、東日本大震災の被害を大きくしたのです。
「デフレ下での財政赤字の拡大は問題ない」というMMTが理解されていれば、多くの人命を救うことができたのです。

 それなのに、「手毬」さんは、さんざんMMTを批判した挙句に、こんな捨て台詞を吐いています。

「8年前の東日本大震災では「想定外」という言葉が飛び交った。あんな弁解を、再び耳にしたくない。」

 偉そうに、よく言うよ。
 いい加減にしてもらいたいですね。
 ところで「手毬」さんは、MMTを批判しようとして、どうして、こんな異常な論理にはまってしまったのでしょうか。
 それは、おそらく、目にウロコがくっついたままだからだと思われます。

 目にウロコがあると、怖いですね。
そこで! 

『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】』を是非どうぞ。

これは、効きます!