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「マルクス・エンゲルス」

 今年はカール・マルクスの生誕200年である。彼の生みだした共産主義という思想で世界は大きく動いたし、今も広く力を保っている。ただ旧ソビエトの解体と東ヨーロッパ諸国の共産圏離脱で彼の名声は大きく揺らいだ。しかし簡単に忘れられていい人物ではない。彼は何を残したのか。

 この映画は1840年代のヨーロッパの田舎から始まる。貧しい人々は森で樹(き)の枝を拾って薪にするのが習慣だったその頃、森に落ちている枝でも勝手に拾うのは盗みだという法律ができて貧しい人たちが森で警官に追われるようになる。そこでこんな事態を引き起こした国家と法律を弾劾(だんがい)する若きドイツ人新聞記者カール・マルクスの登場となる。

 この正義派の熱血青年は哲学で先輩たちに論争を挑み、また経済学の若き革新的論客のエンゲルスと出会って意気投合する。やがて彼らが「共産党宣言」の草案を書き始めるまで、若き日の革命家たちの姿が描かれ、演じられている。

 その思想の現状を知る現代人としては印象は複雑である。人によっては彼らは小生意気な若造たちにしか見えないかも知れない。ラウル・ペック監督はあくまでもマルクスを支持し尊敬する立場でこの映画を作っているが、押しつけがましいところはない。ただマルクスが共産主義思想に達した時期の、ヨーロッパの社会状況と、学者、思想家、社会運動家たちの動向と、今に似た世相とを極力正確に再現しようと努めている様子だ。地味だがそこが良い。マルクスを演じるアウグスト・ディールも、颯爽(さっそう)としてはいるが勿論(もちろん)聖者ではない。(佐藤忠男映画評論家

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 28日公開