水曜日, 10月 30, 2019

(インタビュー)再びマルクスに学ぶ 大阪市立大学准教授・斎藤幸平さん 2019年10月30日05時00分



(インタビュー)再びマルクスに学ぶ 大阪市立大学准教授・斎藤幸平さん 2019年10月30日

https://digital.asahi.com/articles/DA3S14236788.html?pn=2


 「米国の哲学者マイケル・ハートがマルクスを参照しながら、根源的な私たちの共有財産という意味で

『コモン』という概念を提唱しています。水やエネルギーがそうですが、利益を生み出す元手としての地球

=環境も本来はコモンです。しかし、資本主義下では一部の人がこれを囲い込み、管理し、他の人には使わ

せないようにして解体していきます。多くの人々は『商品』として購入しない限り、手に入れられなくなる」

 「資本主義は『希少性』を人工的に作り出し、人々をたえざる労働と消費に駆り立てるシステムです。

家のローン、子育て、老後の生活費……。常に足りない、だからもっと働こうとする。本来、技術発展で

これだけ生産力が上がったのだから、労働時間を減らしてもよいはずなのに、です」


 ――資本主義の矛盾を指摘したマルクスは、地球環境問題を考えていたのですか。

 「そうです。マルクスの資本論の本質は、人間と自然環境の強い結びつきにあることが、最近の研究でわかっ

てきました。マルクスは、人間の生活の本質は『自然とのたえざる物質代謝』にあると考えていた。人間が

労働を通じて自然に働きかけ、受け取り、廃棄する循環プロセスです。ところが資本主義ではこの人間と自然の

関わり合いが徹底的にゆがめられ、両者の破壊が起こります。これは資本主義である以上、不可避だというのが

マルクスの主張です」

 ――ただ旧ソ連などの社会主義国でも、資本主義国と同じように環境破壊が進んでいました。

 「旧ソ連は今説明した意味でのマルクスの思想の本質の体現ではありません。政策で『上から』経済を成長さ

せようとした。成長第一主義という意味では資本主義と同じです。本来は、資本主義の問題の解決に欠かせない

人間と自然の両者を包括する『ポスト資本主義』の構想が必要で、今その変化の萌芽(ほうが)が見えてきました」

 ――具体的には?

 「グリーン・ニューディールです。公共事業で各産業分野での再生可能エネルギーへの転換を後押しし、新しい

雇用を生み出そうとします。生活に欠かせないものは気候変動対策の観点から『公有化』していく。たとえば、

自家用車を減らすため、公共交通機関を無償化するといった政策などを掲げています。しかもこのような政策が

国境を越えて訴えられ、支持されるようになってきた。欧米の左派は、もはやグリーンでなければ、左派ではない。

マルクスが今生きていたら、このようなポスト資本主義の構想こそ社会主義と呼ぶでしょう」




(インタビュー)再びマルクスに学ぶ 大阪市立大学准教授・斎藤幸平さん

 「米国の哲学者マイケル・ハートがマルクスを参照しながら、根源的な私たちの共有財産という意味で『コモン』という概念を提唱しています。水やエネルギーがそうですが、利益を生み出す元手としての地球=環境も本来はコモンです。しかし、資本主義下では一部の人がこれを囲い込み、管理し、他の人には使わせないようにして解体していきます。多くの人々は『商品』として購入しない限り、手に入れられなくなる」

 「資本主義は『希少性』を人工的に作り出し、人々をたえざる労働と消費に駆り立てるシステムです。家のローン、子育て、老後の生活費……。常に足りない、だからもっと働こうとする。本来、技術発展でこれだけ生産力が上がったのだから、労働時間を減らしてもよいはずなのに、です」

 ――資本主義の矛盾を指摘したマルクスは、地球環境問題を考えていたのですか。

 「そうです。マルクスの資本論の本質は、人間と自然環境の強い結びつきにあることが、最近の研究でわかってきました。マルクスは、人間の生活の本質は『自然とのたえざる物質代謝』にあると考えていた。人間が労働を通じて自然に働きかけ、受け取り、廃棄する循環プロセスです。ところが資本主義ではこの人間と自然の関わり合いが徹底的にゆがめられ、両者の破壊が起こります。これは資本主義である以上、不可避だというのがマルクスの主張です」

    ■     ■

 ――ただ旧ソ連などの社会主義国でも、資本主義国と同じように環境破壊が進んでいました。

 「旧ソ連は今説明した意味でのマルクスの思想の本質の体現ではありません。政策で『上から』経済を成長させようとした。成長第一主義という意味では資本主義と同じです。本来は、資本主義の問題の解決に欠かせない人間と自然の両者を包括する『ポスト資本主義』の構想が必要で、今その変化の萌芽(ほうが)が見えてきました」

 ――具体的には?

 「グリーン・ニューディールです。公共事業で各産業分野での再生可能エネルギーへの転換を後押しし、新しい雇用を生み出そうとします。生活に欠かせないものは気候変動対策の観点から『公有化』していく。たとえば、自家用車を減らすため、公共交通機関を無償化するといった政策などを掲げています。しかもこのような政策が国境を越えて訴えられ、支持されるようになってきた。欧米の左派は、もはやグリーンでなければ、左派ではない。マルクスが今生きていたら、このようなポスト資本主義の構想こそ社会主義と呼ぶでしょう」



斎藤幸平 (@koheisaito0131)
本日の朝刊にマルクスと環境危機をテーマにロングインタビューを掲載して頂きました!土曜のバルファキスに続き、私もグリーン・ニューディールの話をしています。(インタビュー)再びマルクスに学ぶ 大阪市立大学准教授・斎藤幸平さん:朝日新聞デジタル asahi.com/articles/DA3S1…

https://twitter.com/koheisaito0131/status/1189309645174775808?s=21

(インタビュー)再びマルクスに学ぶ 大阪市立大学准教授・斎藤幸平さん:朝日新聞デジタル

https://digital.asahi.com/articles/DA3S14236788.html?pn=2

(インタビュー)再びマルクスに学ぶ 大阪市立大学准教授・斎藤幸平さん

 暮らしを脅かす気候変動経済格差。若者を中心に、こうした現状を変えようという世界的なうねりは、「資本主義」という経済システムへの異議申し立てだ……。米国やドイツで学んだ32歳の経済思想家は、こう読み解く。新しい経済のありようを見いだす鍵は、カール・マルクスの「資本論」だとも。どういうことですか。


 ――「生態系が崩壊しようとしている」「行動を怠る大人は悪だ」と訴えた16歳の環境活動家、グレタ・トゥンベリさんの国連でのスピーチが世界で共感を呼んでいます。

 「日本では、『環境破壊を憂える少女の勇気ある表明』という文脈で報道されがちですが、そこに込められた強い政治的主張は注目されていません。『大人は無限の経済成長というおとぎ話を繰り返すな』『今のシステムでは解決できないならシステム自体を変えるべきだ』という彼女の発言は、資本主義システムが深刻な異常気象を引き起こしており、経済成長が必須の資本主義のもとでは気候変動問題に対処できないというメッセージなのです」

 ――そこに注目が集まらないのは、極端な主張だからでは?

 「極端ではありません。国連の昨年の報告書でさえ、経済成長だけを求めるモデルは持続可能性がない、として脱成長モデルを検討するようになっています。気候変動が国際的な課題になったのは1988年ですが、その後30年間、政治家たちは空約束ばかりで時間を浪費してしまいました」

 ――とはいえ、2016年には産業革命前からの世界の平均気温の上昇を2度未満に抑える目標を掲げたパリ協定も発効しました。

 「パリ協定は、あくまで資本主義のもとで市場メカニズムを利用し、イノベーションや経済成長を阻害しない程度の炭素税で解決しようとする対策です。30年前ならその枠組みでも対応できたでしょう。でも、もう遅すぎます」

 ――問題が放置され続けてきたのはなぜでしょうか。

 「タイミングが悪かった面もあります。冷戦体制が崩壊し、グローバリズムという名のもとで市場原理主義的な資本主義が地球を覆っていきました。ところが、気候変動対策は市場の規制や生産の計画化を求めるため、無視された」

 「科学技術への過信もこの間に広がりました。インターネットなど情報技術が発展し、政治や社会の仕組みを変えずに技術や市場メカニズムで解決できるという信仰で崖っぷちまで来てしまった。見落とされてきたのは、気候変動は正義の問題であるという点です」

 ――正義、ですか。

 「世界の所得上位10%が温室効果ガスの半分を排出している一方で、下から数えての35億人はわずか10%です。ですが、結果的に異常気象の影響を大きく受けるのは、発展途上国の貧困層や、今の子どもたちの世代です」

 「日本でも気候変動をめぐる不平等の構図=不正義、は見られます。大型台風の被害は、インフラが整っていない地方で影響が格段に深刻化しています」

    ■     ■

 ――つまり先進国の豊かな人たちは、もっとつつましく生きるべきだという話ですか。

 「『足るを知れ』といった精神論ではありません。行き過ぎた資本主義を人間と環境を破壊しない形に変えよう、という議論なのです。上の世代が戸惑うほどグレタさんが絶大な支持を受けた背景には、今のシステムではだめだという危機感が直感的なものも含めて若者たちに広がっていることがあります」

 「この30年間で結局、誰が『豊か』になりましたか。日本でもかつて構造改革という言葉が流行しました。改革、競争、経済成長……。これらを追い求めた結果、非正規雇用が増え、低賃金や長時間労働が蔓延(まんえん)しています。成長すれば社会全体が潤い、誰もが豊かさを享受できる、という論理がでたらめだったことは、日本社会の現実が物語っています」

 ――とはいえ、日本は経済成長すらあまりしていません。それでももっと再分配、ですか。

 「問題は富が『足りない』ことではないのです。十分に生み出されているのに、一部の人が独占していることです。世界全体の富を独占する一部のお金持ちには、もっと課税して分配すればいい」

 「再分配を強化したうえで、景気を良くすれば、経済が活力を取り戻す、という議論では足りません。資本主義そのものが問題である、ということなのです。かつてマルクスが警告していたことです」

 ――どういうことですか。

 「米国の哲学者マイケル・ハートがマルクスを参照しながら、根源的な私たちの共有財産という意味で『コモン』という概念を提唱しています。水やエネルギーがそうですが、利益を生み出す元手としての地球=環境も本来はコモンです。しかし、資本主義下では一部の人がこれを囲い込み、管理し、他の人には使わせないようにして解体していきます。多くの人々は『商品』として購入しない限り、手に入れられなくなる」

 「資本主義は『希少性』を人工的に作り出し、人々をたえざる労働と消費に駆り立てるシステムです。家のローン、子育て、老後の生活費……。常に足りない、だからもっと働こうとする。本来、技術発展でこれだけ生産力が上がったのだから、労働時間を減らしてもよいはずなのに、です」

 ――資本主義の矛盾を指摘したマルクスは、地球環境問題を考えていたのですか。

 「そうです。マルクスの資本論の本質は、人間と自然環境の強い結びつきにあることが、最近の研究でわかってきました。マルクスは、人間の生活の本質は『自然とのたえざる物質代謝』にあると考えていた。人間が労働を通じて自然に働きかけ、受け取り、廃棄する循環プロセスです。ところが資本主義ではこの人間と自然の関わり合いが徹底的にゆがめられ、両者の破壊が起こります。これは資本主義である以上、不可避だというのがマルクスの主張です」

    ■     ■

 ――ただ旧ソ連などの社会主義国でも、資本主義国と同じように環境破壊が進んでいました。

 「旧ソ連は今説明した意味でのマルクスの思想の本質の体現ではありません。政策で『上から』経済を成長させようとした。成長第一主義という意味では資本主義と同じです。本来は、資本主義の問題の解決に欠かせない人間と自然の両者を包括する『ポスト資本主義』の構想が必要で、今その変化の萌芽(ほうが)が見えてきました」

 ――具体的には?

 「グリーン・ニューディールです。公共事業で各産業分野での再生可能エネルギーへの転換を後押しし、新しい雇用を生み出そうとします。生活に欠かせないものは気候変動対策の観点から『公有化』していく。たとえば、自家用車を減らすため、公共交通機関を無償化するといった政策などを掲げています。しかもこのような政策が国境を越えて訴えられ、支持されるようになってきた。欧米の左派は、もはやグリーンでなければ、左派ではない。マルクスが今生きていたら、このようなポスト資本主義の構想こそ社会主義と呼ぶでしょう」

 ――グリーン・ニューディール政策は2008年のリーマン・ショック後に、米国のオバマ大統領も政策に掲げていましたが。

 「当時は雇用政策や景気対策が主で、成長を目的とした『グリーン』です。今、形になってきているのは、経済成長を一義的な目標にしない社会を作るための手段としての『グリーン』です。成長や再分配重視の『反緊縮』は日本でも最近語られますが、主張が人間の側だけに偏り、環境の問題は無視されている。失敗した20世紀型の議論に見えます」

    ■     ■

 ――欧米の左派のような、社会のありようを根底から変えようという議論は、日本ではまだ広がりを欠くように思います。

 「日本には、『政治主義』とでも言える強固な考え方が根付いているためではないでしょうか。選挙を通じてしか、社会は変えられない、と。ただ、社会運動によって政治や経済を変えることもまた民主主義なのです」

 「最近ドイツでは、労働組合が短期的な利益を度外視してグレタさんを支持する、といった動きも出てきました。下からの突き上げで社会を変える土壌が育っていくことは、人々がコモンを資本の支配から取り戻す一歩になる。実際に1年前に、気候変動への対応を求めるグレタさんの声がここまで広がるなんて誰も思っていなかったのですから」

 ――ところで、そもそも斎藤さんは、なぜマルクスに関心を持ったのですか。

 「大学に入学した2005年は改革ブームの時代でした。格差や貧困は自己責任の問題として語られ、かくいう私も漠然と他の人に対し『もっと頑張ればいいのに』と思っていた。そんなとき読んだのが、マルクスでした。社会の問題は、身の回りの人間関係や自分の意識の問題としてではなく、もっと構造的に考えなければならない。そう教えてくれたのです」

 (聞き手・高久潤)

    *

 さいとうこうへい 1987年生まれ。マルクスとエコロジーの関連を分析した研究で昨年国際賞を受賞。編著書に「未来への大分岐」(集英社新書)など。