月曜日, 2月 17, 2020

消費税増税の「リスク」に関する有識者コメント – 京都大学 都市社会工学専攻 藤井研究室



消費税増税の「リスク」に関する有識者コメント – 京都大学 都市社会工学専攻 藤井研究室
http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/190507-2

消費税増税の「リスク」に関する有識者コメント

~合理的な判断を支援するインフォームドコンセントのために~
(令和元年6月6日現在)PDF(コメントリスト)はこちら
 本コメントリストは、岩田規久男前日銀副総裁(上智大学・学習院大学名誉教授)・藤井聡元内閣官房参与(京都大学大学院教授)からの、「2019年10月の10%消費税増税の危険性に関するコメントご提出」についての呼びかけに反応いただいた、学者、エコノミスト、評論家などのお立場で消費増税に関する公論を発言されてきた「有識者」の方々のコメントである。本コメントは、2019年5月21日(午後1時~3時)における「消費税増税の『リスク』に関する有識者会議~合理的な判断を支援するインフォームドコンセントのために~」において改めてとりまとめ、関係各位に提出するものである。
(本件問い合わせ先:京都大学藤井聡[秘書:sec-tba@trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp])


消費税増税の「リスク」に関する有識者会議

~合理的な判断を支援するインフォームドコンセントのために~

日時:令和元年 5月21日(火)13:00~15:00
場所:衆議院第二議員会館第4会議室

議事概要

岩田規久男元日本銀行副総裁からの開会あいさつの後、40名の有識者コメントを一つずつ解説し、15名の有識者による意見交換を経て、以下の四点が主たる合意事項であることが確認された。
1)   現時点は消費増税のタイミングとして最悪である

2)   そのタイミングでの消費増税は、日本経済に対して、マクロ、ミクロ両面から破壊的影響を与える

3)   その結果、消費増税の目的である財政再建の基準からして、最悪の悪影響が生ずる

4)   それらに加えて、消費増税には公平性の観点から極めて深刻な問題がある
以上四点を申し添えたうえで、四十名の有識者コメントを、本会議終了直後の15時15分に、首相官邸に持参し、消費増税についての政治判断において、本会議の消費増税のリスクについての諸所見を適切にご配慮いただくことを要請することを、改めて確認した。
以上
(文責・藤井聡)


コメントリスト
会田卓司  (ソシエテ・ジェネラル証券、チーフエコノミスト)
青木大樹  (UBS証券株式会社日本地域最高投資責任者及び日本経済チーフエコノミスト
青木泰樹  (京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授、シュンペーター研究・現代日本経済論)
浅田統一郎 (中央大学経済学部教授、マクロ経済学)
安達誠司  (丸三証券 経済調査部長、エコノミスト)
飯田泰之  (明治大学政治経済学部准教授、経済政策・マクロ経済学)
池戸万作  (経済政策アナリスト、経済政策・日本経済論)
伊藤周平  (鹿児島大学教授、社会保障法・社会政策論)
井上智洋  (駒澤大学経済学部准教授、マクロ経済学)
岩田規久男 (前日本銀行副総裁、上智大学・学習院大学名誉教授、経済学)
浦野広明  (立正大学法学部客員教授、税法学)
尾上修悟  (西南学院大学教授、国際金融論・世界経済論・世界経済史)
小野盛司  (日本経済復活の会・会長、経済学、進化生物学、理論物理学)
小野善生  (滋賀大学経済学部教授、経営学・経営管理論)
唐鎌直義  (立命館大学産業社会学部現代社会学科教授、経済学)
川端祐一郎 (京都大学大学院助教・表現者クライテリオン編集委員、公共政策論)
菊池英博  (日本金融財政研究所所長、経済学)
湖東京至  (元静岡大学教授・税理士)
近藤駿介  (金融・経済評論家、元ファンドマネージャー)
斎藤貴男  (ジャーナリスト)
榊原可人  (Soleil Global Advisors Japan 株式会社インベストメント・ディレクター、エコノミスト)
柴山桂太  (京都大学准教授、経済思想)
島倉原   (株式会社クレディセゾン主任研究員、マクロ経済分析・経済政策論・景気循環論)
高橋洋一  (嘉悦大学ビジネス創造学部、数量政策学)
田中秀臣  (上武大学ビジネス情報学部教授、日本経済論・経済思想史)
田村秀男  (産経新聞特別記者・編集委員)
富岡幸雄  (中央大学名誉教授、日本租税理論学会理事 商学博士)
塚崎公義  (久留米大学教授、経済予測・日本経済論)
中尾聡史  (京都大学大学院助教、都市社会工学)
野口旭   (専修大学教授、経済政策・国際経済)
荻原博子  (経済ジャーナリスト)
浜崎洋介  (表現者クライテリオン編集委員、文芸批評家)
廣宮孝信  (経済評論家・都市情報学博士)
松尾匡   (立命館大学経済学部教授、経済学)
宮崎哲弥  (評論家)
藤井厳喜  (国際政治学者)
藤井聡   (京都大学大学院教授・元内閣官房参与、公共政策学)
三橋貴明  (経世論研究所所長、経済評論家)
森永卓郎  (獨協大学経済学部教授、マクロ経済・労働経済)
山家悠紀夫 (元・神戸大学大学院経済学研究科教授、暮らしと経済研究室主宰 経済学)

会田卓司(ソシエテ・ジェネラル証券、チーフエコノミスト)
 内閣府試算では、2028年度でも、民間貯蓄は大きく、国際経常収支は巨額の黒字、社会保障基金の収支も黒字だ。まだ企業貯蓄率は恒常的なプラスの異常な状態で、企業のデレバレッジとリストラが、過剰貯蓄として総需要を破壊する力となり、内需低迷とデフレの長期化の原因になっている。企業活動が拡大し、企業貯蓄率がマイナスへ正常化することが、デフレ完全脱却を意味する。過度な財政緊縮は過剰貯蓄を悪化させ、総需要は更に破壊され、企業活動を萎縮し、強いデフレ圧力となる。投資が抑制されて生産性が向上できず、家計は実質所得が減少して疲弊し、高齢化で更に惨めな経済状況に陥るリスクが高まる。デフレ完全脱却まで、消費税率引き上げを含め、財政緊縮を急ぐべきではない。
青木大樹(UBS証券株式会社日本地域最高投資責任者及び日本経済チーフエコノミスト、グローバル経済・市場動向)
 10月の消費税引き上げは最悪のタイミングである。グローバル経済では、中国から米国への全輸出品に対する追加関税リスクとそれによる影響が懸念され、また10月頃には米国の債務上限による資金枯渇に伴う米国債格下げリスクが市場を大きく動かすリスクがある。欧州では10月のイギリスのEU離脱期限連立政権が崩壊しているギリシャ総選挙などの影響を見極める必要があろう。日本国内では、4月に施行された改正労働基準法に基づく残業規制はむしろ企業の賃上げ抑制につながっており、総賃金上昇率は減速している。このような不確実性の高い状況での消費増税は家計、企業の支出マインドの低下をもたらしかねない。増税の再延期、もしくは引き上げ幅の大幅な縮小などを決断すべきである。
青木泰樹(京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授、シュンペーター研究・現代日本経済論)
 自国通貨建ての国債が償還不能になることはあり得ない。また日銀が量的緩和によって民間保有国債を買い取ることは、国債と現金(準備預金)の交換を意味する。すなわち政府にとって利払いや償還の必要な「負担となる債務(国債)」を、「負担とならない債務(現金)」へ転換しているのである。そうした事実を財務省は知っている。日本政府が財政破綻することは100%あり得ないことも。にもかかわらず、政府の財政と個人の家計を同一視させるレトリックを用いて国民を謀り、財政危機を煽っている。何の意味もない財政均衡を目標として、消費に対する恒久的な罰則である消費税増税を強行することに断固として反対する。
浅田統一郎(中央大学経済学部教授、マクロ経済学
 日本において過去2回にわたって行われた消費税増税(1997年と2014年)は、一回目は20年間にもわたる「デフレ不況」の悪化を助長する役割を果たし、二回目は日銀の金融緩和というアクセルを上回るブレーキとして作用し、経済に大きな悪影響を及ぼしました。これらの経験を踏まえて2015年と2017年の二度にわたって消費税増税を延期した安倍政権の決定は正しかったと思いますが、もし今年(2019年)10月に「予定どおり」消費税が増税されれば、現在進行中の米中貿易戦争、イギリスの合意なき離脱、日米貿易摩擦が日本経済に及ぼす悪影響に、消費税増税の悪影響が上乗せされてしまい、日本経済の復活を目指す現在までのアベノミクスの成果を帳消しにしてしまうことは、ほぼ確実です。国民が安心して消費を増やせる環境を作るために、今回は、消費税増税を「延期」するのではなく、増税の時期を明示しない「凍結」を決定すべきだと思います。
安達誠司(丸三証券 経済調査部長、エコノミスト)
『経済政策は「デフレ脱却」に集中すべき』
 「アベノミクス」によって日本経済は大きく好転しました。しかし、デフレを完全に克服したわけではありません。世界経済が不透明感を増すいま、これまで以上に財政拡大をてこにした内需拡大が重要になります。
 このような時期に消費税率を引き上げることは、アクセル(金融緩和)とブレーキ(緊縮財政)を同時に踏むことを意味します。デフレの影響が残る中での消費増税は、短期的な景気悪化もそうですが、社会に様々な「断絶」をもたらす懸念がより強まると考えます。これは「ブレグジット」で混乱するイギリスをみれば明らかであり、消費増税は凍結すべきと考えます。
飯田泰之(明治大学政治経済学部准教授、経済政策・マクロ経済学)
 2013年以降の緩慢ではあるが着実な経済環境の改善に伴い,財政再建は経済政策における第一の懸案事項ではなくなっている。政府部門の資金不足は2013年以降縮小傾向にあり,政府支出の対GDP比は2014年にピークアウトしている.政府債務の対GDP比についても増大傾向は失われている現状である。
今後の社会保障費の増大に備えるための財政整備は,社会保障制度改革を通じて,十分な時間をかけた移行措置が講じられるべきであり,増税による表面上の収支改善によって行うべきものではない。
折しも米国の景況,中華人民共和国の経済成長ともに陰りが見えており,斯くの如き状況での消費増税は日本経済への大きなリスクとなる.これからの国際貿易・国際金融外交における我が国が果たすべき役割を十分に果たすためにも,足下の日本経済にリスクを抱えることには慎重であるべきだ。
過去6年余の財政状況の改善が経済状況の改善によって果たされたこと――その大きな功績を真摯に受け止める必要がある。増税を急いではならない。長期的な財政再建のためには,経済成長をより確かなものとし,そのなかでの社会保障・税制の改革を進める視点が求められている。
池戸万作(経済政策アナリスト、経済政策・日本経済論)
 皆さんは国家が新たにお金を発行できることをご存じですか。よく財源!財源!と言われますが、国家が財源不足に陥ることなど有り得ません。新たにお金を発行すれば、それが財源になります。よって、税金とは財源調達の手段ではないのです。新たにお金を発行して政府支出を行えば、インフレ率が上昇しますので、税金とはインフレを抑制するために徴収するのです。翻って、この20年間の日本のインフレ率は、ダントツで世界最下位です。直近のインフレ率(コアコアCPI)も0.4%です。これは“税金の取り過ぎ”が招いています。インフレ率が低い以上、消費税は増税ではなく、減税や廃止にすべきです。昨今では、よく「若者○○離れ」と言われていますが、正しくは「お金の若者離れ」です。若者はお金があれば、本当はもっともっと消費活動を行いたいのです。私たち若者に、どうか消費をさせて下さい。よろしくお願いします。
伊藤周平(鹿児島大学教授、社会保障法・社会政策論)
 消費税の増税は、社会保障の充実のためといわれてきた。しかし、実際は、地方消費税を含め消費税は一般財源とされているため、法人税や所得税の減税などによる減収の穴埋めに使われており、社会保障は充実どころか、削減されている。何よりも、景気後退局面に入った現状での消費税増税は、深刻な消費不況を引き起こし、企業倒産の増加、失業率の上昇をもたらす可能性が高い。加えて、複雑な軽減税率の導入は、現場に大混乱をもたらすこと必至である。景気が悪化すれば、法人税・所得税の税収が減り、税収全体が落ち込んで財政再建にもならない。消費税増税は中止し、GDPの6割を占める個人消費を回復させるため、5%へ減税すべきである。
井上智洋(駒澤大学経済学部准教授、マクロ経済学)
 この国を再興するには、デフレ不況からの完全な脱却を果たす以外にない。そのためには、金融緩和政策に加えて拡張的財政政策が実施される必要がある。それらが充分でなかったために、失われた10年は20年となり、30年近くにまで延長された。拡張的財政政策は、税金を減らして財政支出を増やすことだ。そうすると政府の借金は増大するが、政府の借金なくしてデフレ不況からの脱却はない。金利がゼロ付近に維持されている限り、そしてインフレにならない限り、政府の借金を恐れる必要はない。真に恐れるべきなのは、政府が借金を恐れるあまり失われた30年を40年に引き延ばすことだ。
岩田規久男(前日本銀行副総裁、上智大学・学習院大学名誉教授、経済学)
 現在の日本経済の解決すべき最大の問題はデフレ完全脱却である。13年4月から始まった日銀の「量的・質的金融緩和」は、想定通りの展開を見せ、14年4月には、消費者物価(除く生鮮食品)前年同月比は13年3月よりも2%ポイントも上昇して、1.5%になった。
しかし14年4月の消費税率の8%への引き上げにより、消費者物価前年同月比は19年1月は0.8%(除く生鮮食品)まで低下し、これからエネルギー価格を除くと0.4%にすぎない。デフレ脱却が遠のいたのは、14年度の消費増税により消費が低迷し続けているためである。その低迷し続ける消費を19年10月にさらに消費増税により弱体化させれば、デフレ脱却は不可能になる。いま、政府がすべきことは、緩和的な財政金融政策により、さらに人手不足経済を加速させ、賃金を引き上げて、人々の所得を増やし、それによって、消費を活性化させ、経済を外需に依存しない、内需主導型成長軌道に乗せることである。財政再建はその結果として達成されるものである。
浦野広明(立正大学法学部客員教授、税法学)
『消費税ではなく総合累進課税』
 税負担の原則は応能負担原則(応能原則)である(根拠は憲法13,14,25,29の各条)。応能原則の中心は所得課税(国税では所得税と法人税)における「総合累進制」である。
 1974年における所得税は、最低10%から最高75%までの19段階の超過累進税率であった。その税率で2017年申告所得額を当てはめて計算すると、約13兆2千億円の税収となる。17年度予算では約3兆円であるから、10兆円の増収が可能である。
一方の法人税も優遇税制をやめて、現行の所得税程度の超過累進税率を適用すると、2016年度の税収は約29兆円になる(菅隆徳税理士計算)。実際の法人税収入より約19兆円多い。その金額は2019年度予算の消費税税収19兆円と同じである。
健全な税制は消費税依存からの脱却する総合累進課税以外にありえない。
尾上修悟(西南学院大学教授、国際金融論・世界経済論・世界経済史)
『消費税増税のリスク』
 消費税増税のネガティヴ効果は、例えばフランスでも昨年来はっきりと現れている。フランスにおける逆進的課税としての間接税の増大は、低所得層から成る庶民階級の購買力を低下させ、かれらの大抗議運動を展開させた。そして結果的にフランスは経済成長の低下に見舞われた。かつて、あの思想家ルソーが唱えたように、課税システムは貧困者から富裕者への資金移転であってはならないし、それはまた国民の同意を必要とすることを決して忘れてはならない。
小野盛司(日本経済復活の会・会長、経済学、進化生物学、理論物理学)
 時事通信が実施した「生活のゆとりに関する世論調査」で10月に予定される消費税率の10%への引き上げに際して「家計を見直す」と答えた人が57.2%に上った。このことは景気対策にも拘わらず、消費増税で確実に景気が悪化するということだ。そうなればアベノミクスは最終的に失敗したことになる。歴史的にも日本は貿易赤字が続き外国からの借金返済が不能になりそうな時期はあった。しかし1960年代後半から貿易収支は黒字化し、外国からの借金は完済し現在は逆に対外純資産が世界最大となっている。今は消費増税は中止し、減税・財政拡大で日本が世界経済の牽引役になるべき時である。
小野善生(滋賀大学経済学部教授、経営学・経営管理論)
 10%消費税増税は、デフレの脱却を遅らせるどころか、さらなる消費の落ち込みをもたらしてデフレをより深刻なものとしていくでしょう。消費税増税によるデフレの深刻化は、多くの企業の業績に遅かれ早かれ負の影響をもたらします。とりわけ、中小零細企業の経営に深刻なダメージを与えるでしょう。そうならないためには、消費税増税を見直して財政出動を主としたデフレ脱却策を展開して内需を伸ばし、健全な事業経営ができる環境をつくりだしていかなければなりません。
唐鎌直義(立命館大学産業社会学部現代社会学科教授、経済学)
 消費税率が段階的に引き上げられるにつれて、その逆進性が露わになってきました。消費税支払額(推計値)を非消費支出(直接税と社会保険料)に加えて、これを実収入で除した実質的公租公課負担率は、2017年現在、高齢単身無職世帯で19.04%、高齢夫婦無職世帯で21.31%、勤労者世帯の第Ⅰ10分位で19.75%、同第Ⅹ10分位で22.18%でした。年収140万円しかない貧困な高齢単身世帯も、251万円の高齢夫婦世帯も、298万円の低所得勤労者世帯も、年収1,418万円の高所得勤労者世帯とほぼ同率で公租公課を負担しているのです。所得税の累進性が、消費税率の引き上げによる逆進性の強化によって打ち消され、ほぼ同率で公租公課を負担する社会になりました。消費税を10%に引き上げた暁には、高齢者、貧困・低所得者ほど高率で公租公課を負担する社会になるでしょう。消費税の本性は富裕層優遇、民主主義破壊にあることに気づかなければなりません。
川端祐一郎(京都大学大学院助教・表現者クライテリオン編集委員、公共政策論)
 累進的な税制がしばしば「ビルトイン・スタビライザー」と呼ばれるのは、民間経済の加熱期に税負担を増やし、低迷期に税負担を減らすという形で、自動安定化の作用が働くからだ。一方、2019年に予定されている消費増税は、累進性のない税への依存を高める点、そしてデフレ下の増税であるという点で、構造的にもタイミング的にも我が国経済の「不安定化」要因となる恐れがある。増税分以上に公共投資を増やしたり再分配を強化したりすると言うなら分からなくもないが、もとより財政の均衡を目標として行われる増税だからその期待もできない。財政基盤の安定化を謳って経済そのものを不安定化させる愚策が進められぬことを願う。
菊池英博(日本金融財政研究所所長、経済学)
『消費税を10%への引き上げる政策に反対する理由』
 私は消費税増税反対の本を2冊執筆しており(下記の参考文献)、ここで主張してきたことは、「①財政の実態を表す純債務でみれば、日本政府の債務は政府発表の半分であって財政危機ではない、②財務省は2001年度から基礎的財政収支を10年で均衡させるというデフレ政策を導入したためにデフレが深刻になっている、③日本は世界最大の債権国であり財源はいくらでもあるので、これを国民のために活用する財政政策を採れば、消費税増税に頼らないで社会保障の財源が得られる」ということであり、現在も変わらない。
 消費税導入後の期間(1989―2014年)の消費税収の累計は282兆円であるが、その90%にあたる255兆円は法人税収の減少(主として減税による減収)に充てられており、社会保障の財源にはなっていない
直近では、2014年4月に消費税が5%から8%へ引き上げられた影響を「一世帯当たりの実質賃金」(厚労省データ)でみると、年平均12万円の減収となっており、この流れで本年10月に消費税を2%も上げれば、実質賃金はさらに減り、消費は減り、確実にマイナス成長になる。
 本年度に入り、日本経済はマイナス成長に落ち込んでおり、さらに米中の貿易戦争の激化などを考えると、消費税を引き上げは日本経済に壊滅的な悪影響を及ぼすであろう。即座に、10月の消費税増税を凍結し、消費税増税以外で税収が得られるような経済政策を採るべきである。
湖東京至(元静岡大学教授・税理士)
『貿易戦争を昂進し一層格差社会を招く消費税増税の危険性』
 米国は消費税にある「輸出還付金制度」に対し、「輸出企業に対する実質的な輸出補助金であり、リベートだ」として消費税・付加価値税の高い税率や税率引き上げに反対している。米国には消費税タイプの税制がないから米国の輸出企業には還付金がない。EU諸国や中国、日本に輸出すると相手国の消費税・付加価値税がかかる。米国はこの不公平を除くため25%もの関税をかけるという。消費税・付加価値税は熾烈な貿易戦争を招く危険な税制である
また、輸出還付金制度は還付金を貰う輸出大企業と納税する中小企業の間に格差をもたらす。それはそこで働く従業員の給与にも影響する。10%への増税は格差社会を一層深刻にする危険性があるので反対である。
近藤駿介(金融・経済評論家、元ファンドマネージャー)
 経済は「人・モノ・カネ」の動きです。しかし、これらは同時に動くものではありません。まず「カネ」が動き、「モノ(貿易や生産設備)」が動き、最後に取り残されるのが「人」です。経済がグローバル化した今日、「カネ」は瞬時に国境を越えていきます。また、自由貿易の進展によって世界的に一物一価、コストの同一化が進んだことで、企業は最も有利な国に生産設備を移しています。一方、「人」は「カネ」や「モノ」のように簡単に国境を超えることは出来ません。こうした状況下での消費増税は、生産設備の移転によって職を失いながらも日本に居続けなければならない「人」に負担を強いるもので、国を滅ぼしかねない愚策だと思います。
斎藤貴男(ジャーナリスト)
 消費税とは弱者のわずかな富をまとめて強者に移転する税制です。“中立的で公平・公正、かつシンプル”などという謳い宣伝文句とは裏腹に、これほど不公平・不公正で、複雑で、恣意的に使われている税制も珍しい。長期にわたる現場取材を重ね、かつ納税義務者としてこの税制の理不尽さに直面させられ続けている私には断言できますが、そもそも市場経済の社会でこのような税制を稼働させれば、あらゆる取引において、常に立場の弱い側がより多くを負担させられるしかない結果になるのは、わかりきった話ではないですか。目下のデフレを導いた消費税が、この上さらに増税されれば、日本の経済社会は完全に根腐れしてしまうでしょう。
消費税に関わる政府のPRは嘘ばかりです。ネーミングからして、国民を騙す前提で考案されたとしか思えません。実態は「取引税」です。
私は「消費税」という、卑劣きわまりない税制の存続そのものを許せない。一刻も早い廃止を望む者ですが、現時点ではそこまで求めずにおきます。今度こそ真っ当な国民的議論を喚起するためにも、10月の税率引き上げは凍結されなければならないと考えます。
榊原可人(Soleil Global Advisors Japan 株式会社インベストメント・ディレクター、エコノミスト)
 消費税だけの問題ではなく、仮に増税を所与としても、それを含めた財政政策全体の方向性がポイント。民間企業部門が貯蓄超過である以上、足元の需要超過といわれる状況も実は海外経済に依存していて脆弱だろう。国内経済の自律的な頑健性を生み出して財政を本当に健全化するには、その間の財政政策を刺激型で維持する必要がある。また、世界標準の望ましいインフレ率2%実現への努力を金融政策に偏重した結果、超低金利環境を長期に継続させていることの弊害に気付くべきだ。それは日本経済に必要とされるイノベーションの原動力を削いでいる可能性が高いという現実である。ポリシーミックスのバランスを適切に見直さねばならない。
柴山桂太(京都大学准教授、経済思想)
 長期停滞にある経済で消費増税を行うと何が起きるかは、過去2回(1997年4月、2014年4月)の経験からも明らかだ。消費の落ち込みは一時的なもので終わらず、物価の低迷に拍車が掛かる。さらに今回(2019年10月)は、景気後退の兆しが見られつつある中での増税になる。世界的に金融市場の動きが不安定になっていることを考えても、タイミングは最悪だ。消費増税は延期ではなく「凍結」にして、次の大きな危機に備えるべき時である。
島倉原(株式会社クレディセゾン主任研究員、マクロ経済分析・経済政策論・景気循環論)
 20年以上に及ぶ緊縮財政が、長期にわたる日本経済の停滞と国力の低下をもたらしてきた。その最たるものが消費税増税であり、過去の増税が日本経済に与えたダメージがリーマン・ショックすら上回るものであることは、経済統計上も明らかである。
通貨主権に基づいて自国通貨建てで国債を発行している我が国に、いわゆる財政危機の問題は存在しない。世界経済が明らかに変調をきたしている今、さらなる増税を行えば、我が国の経済活動や国民生活に取り返しのつかないダメージを与えかねない。即刻10%増税を取り止め、長期停滞脱却に向けた積極財政政策を行うべきである。
高橋洋一(嘉悦大学ビジネス創造学部、数量政策学)
 消費税について、徴税コストが安く比較的脱税しにくい税制であり適切に運営されるべきものだ。
しかし、①社会保障論、②財政再建論、③景気論から、今の消費増税は間違いだ。
①消費税を社会保障目的税とするのは不適切である。そもそも社会保険方式による社会保障の財源は保険料であり、この方式のほうが費用と負担の明確化できる。このため、世界で消費税を社会保障目的税とする国はない
②社会保障だけでなく、財政再建のために消費税という議論もある。しかし、統合政府で見る限り、今の日本では財政危機ではないので説得的ではない。
1997年と2014年の消費増税の悪影響が実証されており、①と②なのに不必要な増税を行うべきでない。
田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授、日本経済論・経済思想史)
『消費増税が日本の将来を担う若者たちを再び「失われた世代」にしてしまう!』
 日本が1990年代の初めから2012年の終りまで長期停滞に陥り、その20数年間に、日本の将来に担う若い人材を苦境に陥らせてしまいました。「失われた20年」とは、日本国を担う人材の可能性を不当に失わせてしまった結果でもあります。このような不幸な出来事を再現しては決していけません。今回の消費増税もまた、若者たちの雇用状況を悪化させることで、再び「失われた世代」を生み出してしまうことを懸念します。日本の将来のためにもこの増税リスクはぜひ避けるべきです。安倍晋三総理大臣にはぜひ賢明なご判断をお願いしたいと思います。
田村秀男(産経新聞特別記者・編集委員)
『消費税コメント 日本の自滅招く増税容認「空気」』
 政財界とメディアは消費増税容認の「空気」に支配されている。「空気」とは、山本七平「『空気』の研究」(文春文庫)によれば、「非常に強固でほぼ絶対的な支配力を持つ」判断の基準をさす。太平洋戦争時、必ず失敗するというデータを無視した戦艦大和の特攻出撃を例に、「『空気』に順応して判断し決断し(中略)客観情勢の論理的検討の下に判断し決断しているのではない」と述べている。当時の空気はしかし、他にとるべき策がない苦渋と緊迫感が充満していた。現下の増税の空気は弛緩し切っている。消費増税がデフレ圧力を招き、日本経済再生を困難にし、政府債務を増やしてきたデータを無視する。それこそ日本自滅の道だ。
富岡幸雄(中央大学名誉教授、日本租税理論学会理事 商学博士)
(1)消費税増税はデフレ再来要因で、経済動向からしてもこの秋の税率アップは危険が大きすぎる。
(2)消費税は逆進性の強い庶民いじめの大衆収奪マシンで、その増税は格差と貧困化を拡大するので主要なメインタックスにしてはならない。
(3)消費税の2桁の10%にすれば、政治的に弱者対策が必要になり、生活必需品への軽減税率が提起されているが、対象品目の選定と範囲にグレーゾーンが多く、執行に大混乱を招くとともに、富裕者優遇になってしまう。税率を2桁に上げてはいけない。
(4)大事なことは、消費税にシフトし過ぎない税の運用です。消費税以外に大きな財源があります。法人3税(法人税・法人住民税・法人事業税)の法定総合税率は29.97%ですが、私が2018年3月期の決算につき企業が調査したところ、企業が実際に払っている実行税負担率は17.59%で、6割弱と非常に低いのです。巨大企業が多い連結法人は8%で中堅企業の三分の一以下で企業規模別の格差が大きい。
(5)これを是正することが先決で、法定税率どおりに納税してもらえば、役9兆円の増収想定額が試算でき、法人税収は、政府見積もりの2倍の21兆円以上となります。2019年10月の消費税増税は絶対に実施してはいけません。むしろ、元の5%に下げるべきです。
塚崎公義(久留米大学教授、経済予測・日本経済論)
『消費増税のタイミングを再検討すべき理由』
 財政再建の必要性は理解出来るが、消費増税のタイミングについては再検討すべきだ。
第一に、中国経済の先行き不透明感が増している。過剰債務問題への取組中に米中冷戦が始まってしまったため、ダブルパンチが懸念される。
第二に、米国等で高リスク企業などに対する融資や債券等が急増しており、信用危機に至る可能性も囁かれている。
第三に、日本国内には五輪後の需要減のリスクがある。
消費増税をするならば、実施時期を先送りして、こうしたリスクの帰趨を見極めてからにすべきだ。
中尾聡史(京都大学大学院助教、都市社会工学)
 消費増税が需要を下落させ、経済を低迷させるのは政府の公式見解だ。だから政府は今、増税によって増加する家計負担6.3兆円を上回る6.6兆円もの規模の対策を計画した。しかしこの対策は著しく不十分だ。第一に、この対策はごく短期のものであり、したがって、その期間が終われば結局、経済は低迷することは不可避だ。つまり今回の消費増税対策は、問題の若干の先延ばしをもたらすに過ぎず、何の解決にもならないのである。第二に、その対策費の半分以上が単なる「所得移転」であり、その多くが貯蓄に回り、結果、その分の景気対策効果がゼロとなる。以上の二点より、政府の公式見解を踏まえれば、消費増税が日本経済に破壊的影響をもたらすことは決定的だと言わざるを得ないのである。
野口旭(専修大学教授、経済政策・国際経済)
『アベノミクスを守り通すために』
 日本経済はバブル崩壊以来、長期デフレ不況に突入した。歴代政権と政策当局がそれを放置し続けてきた結果、日本経済はあたかも世界経済から取り残された孤島のような状況に陥った。第2次安倍政権が開始したアベノミクスは、正しくも、ようやくデフレ脱却をその最優先課題に据えた。そして、紆余曲折を経つつも、それはこれまで着実な成果をあげてきた。それを根底から覆そうとしているのが消費税増税である。というのは、現在の日銀によるイールド・カーブ・コントロール政策は、積極財政による長期金利上昇を必要としており、緊縮財政は自動的な金融引き締めをもたらすからである。現時点での緊縮が致命的な理由はまさにそこにある。
荻原博子(経済ジャーナリスト)
 私は、ずっと庶民の家計を見続けてきました。そして感じたのは、消費税を増税するごとに、家計は疲弊し、消費する意欲を失うということです。消費意欲がなくなるのですから、デフレなど脱却できるはずもありません。しかも、5%から8%への引き上げでは、消費意欲が減っただけでなく、なるべく物を買わない工夫こそ美徳という新しい価値観が生まれ、ネットでしか物を買わないという人も増えました。結果、デフレはますます進み、日本経済は、ますますシュリンクしていくことでしょう。
浜崎洋介(表現者クライテリオン編集委員、文芸批評家)
 過去二十年間の家計消費の推移、また、GDPの約六割を占める国内消費の推移を見れば、消費税増税がいかに不条理な政策なのかは一目瞭然です。一九九七年の消費税五%への引き上げ、二〇一四年の消費税八%の引き上げの度に、家計消費は急激に落ち込み、その後も回復しないという状態を繰り返してきました。その不条理に最も苦しんでいるのは国民ですが、それは国家の疲弊と同義です。「デフレ下での消費増税」という政策には、一点の合理性もありません。一刻も早い消費増税の撤回、賢明なご判断をお願い申し上げます。
廣宮孝信(経済評論家・都市情報学博士)
『国家存続と繁栄にどのように資するか』
 国家存続と繁栄の要諦は「国民生活に必要十分な物資とサービスの永続的な供給」である。少子高齢化で労働力が決定的に不足しつつある日本においては、国民一人当たり生産性と労働参加率が国家の死命を決する。
消費増税は勤労所得減税と併用すれば労働参加に利、不参加に不利となり、労働参加率向上を通じて国家存続と繁栄に資する可能性がある。さもなくば逆進性と実質可処分所得減によって国内総生産を委縮させ、税および社会保険料の減収で財政再建も成せず、ただ害のみとなり得る。
国民経済は国民の行動の総和である。政府においては国家存続と繁栄のために国民にどのような行動を取ってもらいたいかをより鮮明にした上で、消費増税の判断に最適最善を期すことを望む。
松尾匡(立命館大学経済学部教授、経済学)
 去年の後半からあらゆる経済指標が後退し続けていますが、最新のものでは、3月分鉱工業生産指数が前年同月比4.6減。3月分商業販売は前年同月比1.7%減。3月の新規求人は前年同月比6.0%減となり、特に、サービス業11.0%減、製造業10.4%減などとなっています。景気が後退しはじめていることは間違いありません
総需要を供給能力の範囲に抑制してインフレ悪化を防ぐのが税の機能。消費税なら消費需要を減らすためにあります。生活にかかわる産業を抑制することはインフレを心配する好況時にも後回しにすべきこと。まだデフレ脱却できてないときにはなおさら不要です。今、消費税を上げることは、風邪のひきはじめに冷水に飛び込むようなものです。
宮崎哲弥(評論家)
 2019年5月、景気動向指数の基調判断が六年二ヶ月ぶりに「悪化」となった。これは、世界経済の低迷が原因だが、今回の判断には米国対中輸出の各品目の関税率を25%に引き上げるという米中貿易戦争の激化は加味されておらず、今後のさらなる景気悪化は必至だ。しかも英国EU離脱に伴う円高懸念や、米国とイランの対立に基づく原油価格の不安定化も懸念されており、当面の間、外需が低迷し続けるであろう事は避けられない。そんな中、内需を確実に下落させる消費増税は日本経済に破壊的ダメージをもたらし、財政基盤を毀損し、財政をさらに悪化させる事は必至だ。デフレ完全脱却が果たされていない中で世界経済が悪化していく状況における消費増税は、確実に深刻な経済財政被害をももたらすのである。
藤井厳喜(国際政治学者)
 アメリカからも遂に消費増税延期の声が出始めた。ウォールストリート・ジャーナルは4月の3日の社説と9日のコラムで日本の消費増税延期を訴えた。トランプ政権は水面下で消費増税延期を安倍政権に働きかけていると、筆者は推測する。
チャイナの脅威に打ち勝つためにも、日米は経済拡大政策を取るべきだ。日米同盟強化のためにも消費増税は延期しなければならない。逆に、消費増税は、日本が中国共産党の謀略にはめられることを意味するのだ。
藤井聡(京都大学大学院教授・元内閣官房参与、公共政策学)
 消費税は、経済成長のメインエンジンである「消費」に対する「罰金」として機能する。その結果、デフレ圧力を生み出し、経済成長率を下落させる。結果、内需企業の業績は悪化し、物価は下落し、国民は貧困化し格差は拡大する。そして挙句に財政を悪化させる。そして、財政悪化を目の当たりにした財政当局はさらに緊縮的態度を硬直的に加速させ、さらなる増税や支出カットを誘発する。言うまでもなくそれはさらなる経済悪化と財政悪化をもたらす。この悪夢の悪循環の中で、防災、成長、国防、科学技術といった様々な官民投資は冷え込み、国力・国勢は衰え、外交力それ自身が低下する。すなわちデフレ下の消費増税あらゆる意味で日本を衰弱させる
三橋貴明(経世論研究所所長、経済評論家)
 GDPの消費支出(実質値)で14年4月の消費税増税後の消費の落ち込みを前回(97年4月増税)と比較べると、14年は97年時に比べ駆け込み消費も「駆け込み消費後の消費の落ち込み」も共に大きく、さらに復活しないという特徴が確認できる。97年4月増税期は、増税から四年後には何とか増税前の水準を回復した。いわば「U字型」回復である。それに対し、14年増税期は、増税から五年が経過しているにも関わらず、増税前の水準を回復せず、「L字型」低迷が続いている。97年の増税ですら、我が国をデフレに叩き込み、失われた二十年をもたらした。14年増税により日本経済は再びデフレ化したが、さらに増税するというのか!? 政府の良識を求める。日本は消費税を増税するどころか、凍結、減税、さらには廃止をすら検討しなければならない局面だ。
森永卓郎(獨協大学経済学部教授、マクロ経済・労働経済)
 IMFが4月9日に発表した世界経済見通しでは、2019年の世界の実質経済成長率が、1月発表の3.5%から下方修正されて3.3%となった。この成長率は、リーマンショックの翌年から5年間の長期停滞局面の成長率と同じだ。つまり、経済の現状は、すでに「リーマンショック並みの経済危機」に陥っている。また、政府債務を純債務で捉え、通貨発行益を加味すると、日本の中央政府は無借金であり、財政も黒字だから、増税の必要性がそもそもない。さらに、消費税を社会保障財源に充ててはならない。社会保険料は労使折半だが、消費税はすべて国民が負担する税金だからだ。高齢化で負担が大きくなる社会保障は、企業と労働者双方が力を合わせて支えて行かなければならないのだ。
山家悠紀夫(元・神戸大学大学院経済学研究科教授、暮らしと経済研究室主宰 経済学)
『消費税を増税してはいけない』
 私が、この10月にもと予定されている消費税増税に反対する主たる理由は、以下の3点である。
第1、もともと消費税は、「応能負担」という税にとって最も大切な原則に反する不公平税制である。これ以上増税するべきではない。財源が必要であれば、大企業に対する法人税増税、高額所得者に対する所得税増税等で対処するべきである。
第2、現状、日本経済は景気下降局面に既に入っているか、入る直前という状況にある。2014年の前回の消費税増税で落ち込んだ民間消費が一向に回復しないままであるところに、これまで辛うじて景気を支えていた輸出が、米中貿易摩擦の影響を受けて落ち込み始めたからである。この時点で消費税増税を強行すれば、日本経済は確実に厳しい不況局面へと落ち込んでしまう
第3、人々の暮らしは極めて厳しい状況にある。「家計調査」で見ると、平均的な世帯の2018年の消費支出は、5年前の2013年(前回消費税増税前)に比べ2.1%落ち込んでいる。この間、消費者物価は4.8%上がっているから、生活レベルは、実に7%ほど落ち込んでいることになる。エンゲル係数は2013年に23%台であったものが、昨今は26%近くへと跳ね上がっている。貧しい世帯は医療費を抑え、教育費を削るなどして辛うじて生活している。こうした下での消費税増税は、多くの人々の暮らしを破壊してしまう。実施してはいけない。
(参考文献)
《書籍》
会田卓司・榊原可人共著『日本経済の新しい見方』きんざい、2017年12月(www.amazon.co.jp/dp/4322132294)
浦野広明『税民投票で日本が変わる』新日本出版社、2007年(http://urx.red/gvcy
浦野広明『税が拡げる格差と貧困―日本版タックスヘイブンVS庶民大増税』あけび出版、2016年(http://urx.red/XLSW
尾上修悟『社会分裂に向かうフランス』明石書店、2018年(http://urx.red/WGFt
菊池英博『消費税はゼロ%にできる』ダイヤモンド社、2010年(http://urx.red/wNki
菊池英博『日本を亡ぼす消費税増税』講談社現在新書、2012年(http://urx.red/vfDx
斎藤貴男『消費税のカラクリ・決定版』ちくま文庫、2019年(https://books.rakuten.co.jp/rb/15896650/)
斎藤貴男、湖東京至『税が悪魔になるとき』新日本出版社、2012年(http://urx.red/Wdua
島倉原『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』新評論、2015年(http://amzn.to/1HF6UyO)
田中秀臣『増税亡者を名指しで糺す!』悟空出版、2018年(http://urx.red/QqE8
田村秀男『アベノミクスを殺す消費増税』飛鳥新社、2013年(http://urx.red/FMkw
田村秀男『消費増税の黒いシナリオ デフレ脱却はなぜ挫折するのか』幻冬舎ルネッサンス新書、2014年(http://urx.red/TDzU
髙橋洋一『財務省の逆襲: 誰のための消費税増税だったのか』東洋経済新報社、2013年(http://urx.red/vCxx
髙橋洋一『政治家も官僚も国民に伝えようとしない増税の真実』SB新書、2019年(http://urx.red/RARy
髙橋洋一『「消費増税」は嘘ばかり』PHP新書、2019年(http://urx.red/2VTj
富岡幸雄『税金を払わない巨大企業』(文春新書)文藝春秋、2014年.(www.amazon.co.jp/dp/4166609882)
富岡幸雄『検証企業課税論』中央経済社、2018年.(www.amazon.co.jp/dp/4502277916)
不公平な税制をただす会編『消費税を上げずに社会保障財源38兆円を生む税制』大月書店、2018年(http://u0u0.net/WeSc
藤井聡『消費税10%が日本経済を破壊する』晶文社、2018年(http://urx.red/V7sv
森永卓郎『消費税は下げられる! 借金1000兆円の大嘘を暴く』角川新書、2017年(http://urx.red/0tlZ
森永卓郎『誰がウソをついているのか―増税も改革も必要ない!』ビジネス社、2006年(http://urx.red/watJ
山家悠紀夫、井上伸『消費税増税の大ウソ―「財政破綻」論の真実』大月書店、2012年(http://urx.red/2tzw
《論文・記事》
会田卓司『デフレ完全脱却をめざし、まずは財政拡大を』別冊クライテリオン、pp.212-219、2018年
青木泰樹『増税論に潜む経済学者の嘘』別冊クライテリオン、pp.245-249、2018年
浅田統一郎『「ポリシーミックス」で一気に成長軌道に押し上げよ』別冊クライテリオン、pp.161-167、2018年
浅田統一郎『インタビュー:GDP600兆円達成へ消費増税の延期を』ロイター通信ニュース、2015年12月15日付、2015年
(https://jp.reuters.com/article/gdp-idJPKBN0TY07O20151215)
飯田泰之『性急な「財政再建」は財政再建最大の敵である』別冊クライテリオン、pp.98-104、2018年
飯田泰之『ニュースの“私点”〈黒田総裁再任〉明治大学准教授飯田泰之さんに聞く 「出口政策」は論じる段階にない 2期目の課題は金融緩和の強化』日経ビジネスアソシエ、2018年5月号、pp.18-19、2018年
岩田規久男『インタビュー:脱デフレへ財政・金融協調を、増税撤回は不可欠』ロイター通信ニュース、2019年2月18日付、2019年
(https://jp.reuters.com/article/interview-boj-iwata-idJPKCN1Q70B3)
岩田規久男『「デフレ脱却まで消費増税は凍結すべきだ」日銀前副総裁・岩田規久男氏に直撃インタビュー』夕刊フジ、2018年11月14日付、2018年
(https://www.zakzak.co.jp/soc/news/181114/soc1811140007-n1.html)
岩田規久男『物価安定目標達成まで凍結せよ』別冊クライテリオン、pp.76-83、2018年
岩田規久男『出口の迷路:金融政策を問う34 インタビュー 岩田規久男・前日銀副総裁』週刊エコノミスト、pp.82-85、2018年
(https://www.weekly-economist.com/20180612bojexit34/)
川端祐一郎『10%という税率の「分かりやすさ」がもたらす危険』別冊クライテリオン、pp.74-75、2018年
川端祐一郎『時代の流れに逆行する改革』別冊クライテリオン、pp.232-237、2018年
菊池英博『政府投資が日本経済を成長させる』別冊クライテリオン、pp.112-121、2018年
小浜逸郎『増税の賛否を問う世論調査を実行せよ』別冊クライテリオン、pp.238-244、2018年
佐藤健志『消費税と「日本の自殺」』別冊クライテリオン、pp.220-225、2018年
柴山桂太『消費税増税は「危機」を悪化させる』別冊クライテリオン、pp.156-160、2018年
島倉原『日本の社会保障政策は歪んでいる』別冊クライテリオン、pp.105-111、2018年
関野満夫『現代ドイツの売上税(付加価値税)の改革をめぐって:軽減税率の機能と廃止の検討を中心に』經濟學論纂、vol.53(2)pp.17-38、2013年
施光恒『多国籍企業の論理に乗っ取られた日本』別冊クライテリオン、pp.226-231、2018年
高橋洋一『増税でアベノミクスは「なかったこと」になる/今秋の消費税増税はタイミングが最悪だ』東洋経済オンライン、2019年4月2日付、2019年
(https://toyokeizai.net/articles/-/273984)
高橋洋一『特集:検証なき日銀 黒田日銀3年の評価 70点 失業率低下が政策の正しさを証明、2%未達は消費増税が原因』週刊エコノミスト、2016年4/26号、pp.79-85、2016年
田中皓介『財務省のプロパガンダを見破れ』別冊クライテリオン、pp.250-255、2018年
田村秀男『増税凍結のため「ジャパン・ファースト」を宣言せよ』別冊クライテリオン、pp.188-195、2018年
田村秀男『日銀異次元緩和3年 消費増税延期で緩和効果復活を』産経新聞、2016年4月5日付大阪朝刊、3面、2016年
塚崎公義『消費税増税は10年後でもよい』別冊クライテリオン、pp.144-149、2018年
富岡幸雄『「企業課税改革」で消費税に頼らない財政に』別冊クライテリオン、pp.150-155、2018年
野口旭『まずは2%インフレ目標の達成を!』別冊クライテリオン、pp.138-143、2018年
野口旭『財政赤字の将来負担を考える(8)増税による不況避けるべき(やさしい経済学)』日本経済新聞、2018年5月30日付朝刊、26面、2018年
野口旭『インタビュー:消費税10%、物価2%達成が必要条件』ロイター通信ニュース、2015年12月10日付、2015年
(https://jp.reuters.com/article/tax-idJPKBN0TT0EP20151210)
浜崎洋介『政治において、「既定路線」などありえない』別冊クライテリオン、pp.182-187、2018年
藤井厳喜『御世替わりを増税で汚すな』別冊クライテリオン、pp.206-211、2018年
藤井聡『「学者のウソ」が、日本を滅ぼす』別冊クライテリオン、pp.256-265、2018年
松尾匡『消費税は消費を減らすための税である』別冊クライテリオン、pp.84-91、2018年
三橋貴明『安倍総理は国民を貧困化させるのか』別冊クライテリオン、pp.92-97、2018年
村上尚己『消費増税策の是非を議論しない日本はおかしい/「MMT導入論」で盛り上がるアメリカとの落差』東洋経済オンライン、2019年5月2日付、2019年
(https://toyokeizai.net/articles/-/279582)