月曜日, 3月 30, 2020

中野剛志さんに「MMTっておかしくないですか?」と聞いてみた 2020.3.31



中野剛志さんに「MMTっておかしくないですか?」と聞いてみた | 中野剛志さんに「MMTっておかしくないですか?」と聞いてみた | ダイヤモンド・オンライン
https://diamond.jp/articles/-/230685

中野剛志さんに「MMTっておかしくないですか?」と聞いてみた

「財政健全化しなければ財政破綻する」という常識に真っ向から反論するMMT(現代貨幣理論)が話題だ。「日本政府はもっと財政赤字を拡大すべき」という過激とも見える主張だけに賛否両論が渦巻いている。常識とMMTのどちらが正しいのか? 「経済学オンチ」の書籍編集者が、日本におけるMMTの第一人者である中野剛志氏に、素朴な疑問をぶつけまくってみた。(構成:ダイヤモンド社 田中泰)

経済学200年の歴史で、最もスキャンダラスな理論

――中野さんは、賛否両論を呼んでいるMMT(Modern Monetary Theory)の中心的論者であるL・ランダル・レイが書いた『MMT 現代貨幣理論入門』(2019年8月刊)の日本版の序文を書いていらっしゃいますが、どういう経緯で執筆されたのですか?
『MMT 現代貨幣理論入門』L・ランダル・レイ 東洋経済新報社
中野剛志(以下、中野) 私がはじめてMMTについて触れた『富国と強兵 地政経済学序説』という本を2016年に出版したんですが、その担当編集者にこの本の翻訳書を出したらどうかとすすめたんです。それが2018年のことですから、アメリカ民主党のオカシオ・コルテス議員がMMT支持を表明する前のことです。まさかMMTが米国内で大論争になり、それが日本に飛び火してくるとは思っていませんでした。
――なるほど、それで序文を依頼されたわけですね。いままさに、アメリカ民主党の大統領候補者争いで健闘しているサンダース議員の政策顧問に、MMTの主唱者のひとりであるステファニー・ケルトン・ニューヨーク州立大学教授がついているそうですから、アメリカでは、これからさらにMMT論争が広がりそうですね。それにしても、500ページを超える大著で、3400円(税別)という高価格本としては、よく読まれていますね?
『富国と強兵 地政経済学序説』中野剛志 東洋経済新報社
中野 そのようですね。アメリカから日本にMMT論争が飛び火して、財務省や主流派の経済学者を中心に、MMTはそんなことは言っていないのに、「野放図に財政出動するなんてバカげている」といった批判が噴出して、多くの国民も「MMTって何なんだ?」と関心をもったのでしょう。MMTを体系的に説明する入門書が出版されたら、これを読まずに議論するのはフェアじゃないですからね。
――この本が出てから、日本におけるMMTに対する批判はどうなりましたか?
中野 当初よくあった「トンデモ理論」「単なる暴論」といった批判はやんでしまった感じもしますが、単に世の中の話題としてMMTの旬が過ぎただけなのかもしれません。それは、わからないですね。
――私は、もっと批判が出て、議論が深まってほしいと思っています。中野さんのMMTの解説を読んでいると、「なるほど」と思うんですが、一方で、私には経済学の素養がないので、何かを見落としていて、騙されてるんじゃないかと不安になるからです。
中野 なるほど。
――もちろん、当初、MMTは“ポッと出の新奇な理論”なのかと思いましたが、かなり歴史的な蓄積のある理論であることもわかっているつもりです。しかし、MMTの議論を見聞きしていると、これまで、なんとなく“当たり前”と思ってきたことが、次々に覆されるので、戸惑いも感じてしまうんです。
中野 そうですね。MMTは、20世紀初頭のクナップ、ケインズ、シュンペーターらの理論を原型として、アバ・ラーナー、ハイマン・ミンスキーなどの卓越した経済学者の業績も取り込んで、1990年代に成立した経済理論ですから、その原型も含めて考えれば約100年におよぶ歴史をもっています。
 そして、MMTは、世界中の経済学者や政策担当者が受け入れている主流派経済学が大きな間違いを犯していることを暴きました。しかも、経済学とは、貨幣を使った活動についての理論のはずですが、その貨幣について、主流派経済学は正しく理解していなかったというんです。もし、MMTが正しいとすれば、主流派経済学はその基盤から崩れ去って、その権威は地に落ちることになるでしょう。
 こんなスキャンダラスなことは、アダム・スミス以来、約200年の歴史をもつ経済学でもそうそうなかったことです。あなたが戸惑うのも無理ないと思います。

中野剛志さんに「MMTっておかしくないですか?」と聞いてみた

「日本に財政破綻がありない」ことは財務省も認めている

――もしも、現実の経済政策に影響を与えている主流派経済学が大きな間違いを犯しているとしたら、一大事です。しかし、「主流派経済学の理論が基盤から崩れ去る」と聞くと、やはり「まさか」という気がします。そこで、改めてMMTについてご説明いただけませんか? そして、私の素朴な疑問にお応えいただきたいのです。
中野 わかりました。誤解を恐れずに、MMTを最も手短に説明するとこうなります。日英米のように自国通貨を発行できる政府(中央政府+中央銀行)の自国通貨建ての国債はデフォルトしないので、変動相場制のもとでは、政府はいくらでも好きなだけ財政支出をすることができる。財源の心配をする必要はない、と。
 経済学の世界では、よく「フリーランチはない」と言われますが、国家財政に関しては「フリーランチはある」んです。自国通貨発行権をもつ政府は、レストランに入っていくらでもランチを注文することができる。カネの心配は無用。ただし、レストランの供給能力を超えて注文することはできませんけどね。
――いきなり、強烈な違和感が……。「政府はデフォルトしないから、いくらでも好きなだけ財政支出できる」と聞くと、やはり抵抗を感じます。政府やマスコミはずっと「これ以上財政赤字を増やしたら、財政破綻する」と言い続けていますし、多くの国民もそう思っているはずです。
中野 まぁ、そうですね。それが社会通念でしょう。でも、「日本政府はデフォルトしないから、いくらでも財政支出できる」というのは、MMTを批判する人々も同意している、あるいは同意できる、単なる「事実」を述べているにすぎないんです。
――単なる事実? しかし、「GDPに占める政府債務残高」は240%に近づいており、主要先進国と比較しても最悪の財政状況です(図1)。これも厳然たる事実ですよね? 
中野 ああ、これはよく見るグラフですね。たしかに、「GDPに占める債務残高」は深刻な財政危機に陥っているギリシャやイタリアよりずっと悪くて、日本はダントツの最下位です。
 だけど、それっておかしな話だと思いませんか? むしろ、このグラフを見たら、こう考えるべきなんです。なぜ、ダントツで最下位の日本ではなく、ギリシャやイタリアが財政危機に陥ってるのか、と。日本とギリシャが同じならば、日本の財政は2006年くらいの時点でとっくに破綻してなければおかしいじゃないですか?
――たしかに、そうですね。なぜ、そうなっていないんですか?
中野 簡単な話で、ギリシャとイタリアはユーロ加盟国で、自国通貨が発行できないからです。かつて、ギリシャは「ドラクマ」、イタリアは「リラ」という自国通貨をもっていましたが、両国は自国通貨を放棄して共通通貨ユーロを採用しました。そして、ユーロを発行する能力をもつのは欧州中央銀行だけであって、各国政府はユーロを発行することはできません。
 だから、ユーロ建ての債務を返済するためには、財政黒字によってユーロを確保するほかなく、それができなければ財政危機に陥ります。自国通貨発行権をもつ日本とは、まったく状況が異なるのです。
――では、2001年に財政破綻したアルゼンチンは? アルゼンチンには「アルゼンチン・ペソ」という自国通貨がありますよね?
中野 アルゼンチンの場合は、外貨建ての国債がデフォルトしたのです。外貨建て国債の場合には、その外貨の保有額が足りなければデフォルトします。
 しかし、日本は、ほぼすべての国債が自国通貨建てですから、自国通貨を発行して返済にあてればいい。なんらかの理由で、「返済しない!」と政治的な意思決定をしない限り、デフォルトすることはあり得ない。実際、歴史上、返済の意志のある国の自国通貨建ての国債がデフォルトした事例は皆無です。
――そうなんですか?
中野 ええ。これは財務省も認めていることで、2002年に外国の格付け会社が日本国債の格付けを下げたときに、財務省は「日・米など先進国の自国建て国債のデフォルトは考えられない。デフォルトとして如何なる事態を想定しているのか。」という反論の意見書を出しました。いまも、財務省のホームページに載っています。つまり、MMT批判者も、「自国通貨を発行できる政府の自国通貨建ての国債はデフォルトしない」という「事実」は受け入れているはずなんです。
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中野剛志さんに「MMTっておかしくないですか?」と聞いてみた

「国家経営」と「企業経営」を同一視するのは初歩的間違い

――なるほど……。しかしですね、いまの日本の一般歳出のうち、税収等で賄えているのは約3分の2。残り3分の1は新規国債で賄っている状態です。そして、図2のように、累積赤字はどんどん積み上がっています。これが民間企業や家計なら確実に破綻しますよね? だからこそ、政府はプライマリーバランスの黒字化を訴えているのでは?
中野 たしかに、政府債務は積み上がっています。しかし、国家の経済運営を企業経営や家計と同じ発想で考えるのは、絶対にやってはならない初歩的な間違いです。なぜなら、政府は通貨を発行する能力があるという点において、民間企業や家計とは決定的に異なる存在だからです。
 個人や民間企業は通貨を発行できないので、いずれ収入と支出の差額を黒字にして、そこから借金を返済しなければならないのは当然のことです。ところが、通貨を発行できる政府には、その必要はありません。国家は自国通貨を発行できるという「特権」をもった存在ですから、自国通貨建ての債務がどんなに積み上がっても、返済できないということはあり得ない。
 その意味で、共通通貨ユーロを採用したヨーロッパの国々は、自国通貨の発行権という特権を放棄したために、国家であるにもかかわらず、民間主体と同じように、破綻する可能性のある存在へと成り下がってしまったとも言えるのです。
――たしかに、通貨発行権をもつ政府と民間企業・家計を同列に語れないことはわかります。しかし、国家が「特権」をもつからと言って、いくらでも借金ができるなんて、そんなに“うまい話”があるとはにわかに信じられません。
 そもそも政府がこれ以上借金できなくなるときが来るのではないですか? いまの日本には、民間の金融資産(預金)が豊富にあるから、銀行は国債を引き受けることができますが、いずれ民間の金融資産が逼迫してくれば、国債を引き受けることができなくなるはずです。
中野 それも世間でよく言われることで、主流派の経済学者もそう主張しています。だけど、それは完全な誤りです。その証拠に、図3を見てください。国債引受のために民間の金融資産が減っているならば、国債金利を上げなければ新たな国債を引き受けてもらえないはずですよね?
 しかし、1990年代から国債を発行しまくって政府債務残高がどんどん増えて、「国債金利が高騰する、高騰する」と言われ続けてきましたが、ご覧のとおり長期国債金利は下がり続けています。世界最低水準で、ついにはほとんどゼロにまで下がっています。あなたが言うのが本当ならば、こんなことは起きるはずがないですよね?
――そうですよね……。
中野 しかも、国債金利が世界最低水準にあるということは、世界中のどの国よりも国家財政が信認されている証拠でもあります。なぜ、そんな国が財政危機なんですか?
――うーん……。
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中野剛志さんに「MMTっておかしくないですか?」と聞いてみた

「財政破綻論者」は根本的な「事実誤認」をしている

中野 実は、なぜこんなことになるのか、「国債金利が高騰する」「財政破綻する」と言い続けてきた経済学者もまともに説明できていません。いや、説明できるはずがないんです。というのは、彼らが根本的な「事実誤認」をしているからです。
――事実誤認ですか?
中野 ええ。あなたは先ほど「民間の金融資産(預金)が豊富にあるから、銀行は国債を引き受けることができる」とおっしゃいましたね? つまり、銀行が国債を買う原資は民間が銀行に預けている金融資産だというわけです。そして、政府は、国債を発行することで民間の金融資産を吸い上げて、それを元手に財政支出を行っているのだから、国債を発行すればするほど民間の金融資産は減ると考えているわけですよね?
――そうですね。
中野 しかし、そこが決定的な間違いなんです。事実は逆で、「国債を発行して、財政支出を拡大すると、民間金融資産(預金)が増える」んです。
――ちょっと理解できません……。「国債を発行して、財政支出を拡大すると、民間金融資産(預金)が増える」なんてことがあるわけないじゃないですか?
中野 しかし、それが事実です。理解できないのは、あなたが「貨幣とは何か?」を正しく理解していないからです。もっとも、主流派経済学も貨幣について正しく理解していません。さきほど、「世界中の経済学者や政策担当者が受け入れている主流派経済学が大きな間違いを犯していることを、MMTが暴いてしまった」と言いましたが、このポイントがまさにそれなんです。
 MMT(Modern Monetary Theory)は、その名にmonetaryとあるように、「貨幣」から出発する理論です。現代の世界では、私たちは、単なる紙切れにすぎない「お札」を「お金」として使ったり、貯め込んだりしています。単なる紙切れの「お札」が、どうして「貨幣」として使われているのか? 資本主義経済で「貨幣」がどのように機能しているのか? それを解き明かしたのがMMTです。
 そして、「貨幣とは何か?」を理解すれば、国家財政について正しい認識をもつことができます。さきほどの「国債を発行して、財政支出を拡大すると、民間金融資産(預金)が増える」ということも、それが当たり前のことだと理解できるはずです。
――では、MMTは「貨幣」をどう理解しているのですか?
中野 かなり遠回りの説明になりますが、付き合ってくれますか?
――もちろんです。
(次回に続く)
中野剛志(なかの・たけし)
1971年神奈川県生まれ。評論家。元・京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』『世界を戦争に導くグローバリズム』(集英社新書)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『国力論』(以文社)、『国力とは何か』(講談社現代新書)、『保守とは何だろうか』(NHK出版新書)、『官僚の反逆』(幻冬社新書)、『目からウロコが落ちる奇跡の経済教室【基礎知識編】』『全国民が読んだら歴史が変わる奇跡の経済教室【戦略編】』(KKベストセラーズ)など。『MMT 現代貨幣理論入門』(東洋経済新報社)に序文を寄せた。