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火曜日, 4月 07, 2020

中野剛志#6 コロナ危機下の「消費税10%」が、 国民経済にとって あまりにも「危険」である理由 2020.4.8

コロナ危機下の「消費税10%」が、 国民経済にとって あまりにも「危険」である理由

プライマリー・バランス黒字化目標は、国民を貧困化する政策である――。中野剛志氏はそう主張する。20年以上もデフレで苦しみ続けたうえに、コロナショックに見舞われた日本において、財政健全化を優先することが、なぜ、国民経済に破壊的な影響を及ぼすのか? MMTが明らかにした「事実」をもとに、中野氏に解説してもらった。(構成:ダイヤモンド社 田中泰)

税金は「財源確保の手段」ではない!?

――前回、2019年10月の消費税増税で、ますます日本のデフレは悪化して、まします”後進国化”が進むとおっしゃいました。しかも、新型コロナウイルスによる景気の大幅後退も間違いない状況です。その結果、“後進国化”が加速化するとしたら、ゾッとします。
中野剛志(以下、中野) まったくです。そもそも、税の考え方が間違っているんです。これまで、税金は、政府の支出に必要な財源を確保するのに不可欠なものだと考えられてきましたが、MMTによれば、これがそもそもの間違いなんです。
 なぜなら、前に説明したとおり、自国通貨を発行できる政府は、原理的にはいくらでも国債を発行して、財政支出ができるからです。そのような政府が、どうして税金によって財源を確保する必要があるんでしょうか? そんな必要はないんです。
 とはいえ、無税にするとハイパーインフレになってしまう。だから、税というものは、需要を縮小させて、インフレを抑制するために必要だと考えるべきなのです。インフレを抑えたければ、投資や消費にかかる税を重くする。逆に、デフレから脱却したければ、投資減税や消費減税を行う。つまり、税金とは「財源確保の手段」ではなく、「物価調整の手段」なのです。
――税金は「財源確保の手段ではない」とは、これも驚くべき話ですね。
中野 だけど、実際に、予算執行の実務もそうなっているんです。政府が予算執行するとき、政府は、まず政府短期証券を発行して日銀に買わせて、財源を賄っています。そして、徴税は事後的な現象です。実際、確定申告を行うのは会計年度が終わったときですよね? つまり、実務上も、集めた税金を元手に政府が財政支出しているわけではないんです。
 これは、論理的に考えても当たり前のことです。なぜなら、政府が、国民から税を徴収するためには、国民が事前に通貨を保有していなければならないからです。
――あ、そうか。「ない」ものは払えないですもんね。
中野 そうですよね? では、国民は、その通貨をどこから手に入れたのでしょうか?
――通貨を発行する政府からですよね。
中野 そうです。ということは、政府は徴税する前に支出して、国民に通貨を渡していなければならないということになります。国民に通貨を渡す前に、徴税することはできないからです。つまり、税を財源に政府支出をするのではなく、政府支出が先にあって、徴税はその後だということです。これを、MMTは「Spending First」と表現します。「支出が先だ」というわけです。
――なるほど。
中野 そして、政府が民間に通貨を供給する方法は、国債発行によって負債を発生させて、財政支出を行う以外に方法はありません。前に説明したように、信用貨幣論が「貨幣は負債の一種である」と言うとおり、政府が負債を負って、政策目的を達成するために必要な財・サービスを調達することによって、はじめて貨幣が民間に供給されるわけです。
 そして、信用貨幣論では「貨幣は貸出しによって創造され、返済によって消滅する」ことになりますから、徴税によって政府に貨幣が戻ってきたときに、貨幣は消滅します。実際に、徴税された金額と同額の貨幣供給量が減ることになりますよね? つまり、政府が負債を増やすことで貨幣供給量は増えて、政府が徴税することで貨幣供給量が減るわけです。
――そうなりますね。
中野 ここから、さらに驚くべき結論が導き出されます。
――なんでしょうか?

コロナ危機下の「消費税10%」が、 国民経済にとって あまりにも「危険」である理由

「財政赤字」が存在するのが、正常な状態!?

中野 民間経済が成り立つためには、取引や貯蓄など、納税以外の目的で流通する貨幣が存在していなければなりません。つまり、貨幣をすべて税として徴収せずに、民間に残しておかなければならないんです。
 ということは、「財政支出>税収」の財政赤字でなければ通貨が流通しないということになります。 もっとも、銀行が信用創造をやりまくっていたら、財政は黒字になるかもしれませんが、それはバブルという異常な状況でしょう。ですから、MMTは、「正常なケースは、政府が財政赤字を運営していること、すなわち税によって徴収する以上の通貨を供給していることである」と結論づけるのです。
――「財政赤字が正常な状態」というのは驚きですが、たしかにそういう理屈になりますね。
中野 しかも、日本は20年もデフレに苦しんでいるわけですから、貨幣供給量を増やさなければならないわけですよね? にもかかわらず、日本は一生懸命、財政支出を抑制することで貨幣供給量を抑制するとともに、この20年間で3度も消費増税をすることで貨幣供給量を減らす努力をしてきたことになります。
――それでは、デフレから脱却できないのも当たり前ということになりますね。
中野 ええ。「財政赤字をこれ以上、増やすべきではない。政府の借金の財源を確保するために、消費税の増税が不可欠だ」という通説が、あたかも良識であるかのようにまかり通っていますが、これは、信用貨幣論を理解している人間からすれば、「デフレを悪化させて、国民をもっと苦しめたい」と言っているに等しいのです。
――そうだとすれば、実に恐ろしいことですね……。
中野 付け加えておくと、先ほど私は、「税は財源確保の手段ではなく、物価調整の手段だ」と言いましたが、より正確に言うと、税は、物価調整以外の目的のためにも活用されます。
 たとえばお金持ちにより重い所得税を課すと、所得格差が是正できます。したがって、この場合は財源確保の手段としてではなく、平等な社会をつくるための手段として税制はあると言えます。
 あるいは、温室効果ガスの排出に税を課すと、温室効果ガスを削減できます。この場合は、税は財源確保の手段ではなく、地球温暖化抑止の手段になるわけです。このように、自分たちの経済・社会を、自分たちの望むようなものにするために税制という政策を使うわけです。
 そして、温室効果ガスに税を課すと温室効果ガスの排出を抑制できるのですから、消費に税を課すと消費を抑制することができる、ということになります。消費不足が原因でデフレに苦しんでいるのに、消費を抑制するって、いったいどういうことなんでしょうね? 私には、まったく理解できませんよ。
ーーたしかに……。実際、2019年10月に消費税が10%に増税され、同年10〜12月の実質GDPは年率換算で7.1%減と大幅に低下しました。そこにコロナショックが襲いかかり、”コロナ恐慌”すらも危惧される状況にあるにもかかわらず、時事通信によると、自民・公明両党の税制調査会は、新型コロナウイルスの影響を緩和する税負担軽減措置をまとめる際に、消費減税について「まったく議論しなかった(幹部)」そうです。しかし、安倍首相は、再三、「リーマンショック級の出来事がない限り、消費税率を引き上げて10%にしていきたい」と述べてきたわけで、議論もないまま税率を据え置くことに不安を覚える人も多いですね?
中野 「リーマンショック級の出来事があれば消費税率を引き上げない」ということは、消費増税が経済に打撃を与えることを認めているということです。リーマンショック以上と言われるコロナショックで消費減税をしないのは、公約違反でしょう。コロナショックでごまかされていますが、日本経済の落ち込みの要因には消費増税の影響も含まれている。おそらく、コロナが収束しても、日本経済はV字回復しないでしょう。消費税による消費抑圧がV字回復を阻害するからです。

「プライマリー・バランス黒字化」とは、「国民を貧困化」させること

――ところで、MMTの主張する「財政赤字が正常な状態」というのが正しいとすれば、政府の積年の悲願である「プライマリー・バランス黒字化」という目標は間違っているということになりますね?
中野 もちろんです。プライマリー・バランスとは、税収・税外収入と、国債費(国債の元本返済や利子の支払いに充てられる費用)を除く歳出との収支のことです。つまり、プライマリー・バランスは、その時点で必要とされる政策的経費を、その時点の税収等でどれだけまかなえているかを示す指標ということです。
 このプライマリー・バランスを黒字化するということは、歳出を切り詰め、税収を増やすことを意味します。ところが、歳出によって民間への貨幣供給が増え、徴税によって民間に流通する貨幣量が減るわけですから、プライマリー・バランスの黒字化に成功して、税収が歳出を上回るようになるということは、民間に流通する貨幣量が毎年減っていくということにほかなりません。
――つまり、デフレがもっとひどくなるわけですね。しかも、プライマリー・バランスの黒字化によって、毎年、民間に流通する貨幣量が減るということは、極端に言えば、これをずっと続けると、いずれ民間に流通する貨幣はなくなってしまうことになりますね?
中野 そういうことです。プライマリー・バランスの黒字化とは、国民を貧困化させることにほかならないのです。20年以上もデフレで苦しみ続けたうえに、コロナショックに見舞われた日本で、プライマリー・バランスの黒字化をめざすのは“自殺行為”に近いわけです。
――“自殺行為”ですか……。

コロナ危機下の「消費税10%」が、 国民経済にとって あまりにも「危険」である理由

「財政赤字」なくして「財政再建」なし!

中野 そもそも、財務省が歳出削減と歳入増加によって財政を健全化しようとしても、無駄な骨折りに終わる運命にあります。たしかに、政府は消費税を8%から10%に上げるように、「税率」を上げることはできますが、「税率」を上げたところで、「税収」までも上げることはできません。なぜなら、政府の税収は、経済全体の景気動向に大きく左右されるからです。
 また、政府は、財政支出を削減することはできますが、これもまた、景気が悪くて税収が減ってしまえば、財政収支は改善しません。
 考えてみれば当たり前の話なんですが、財政収支がどうなるかは、結局、すべて景気次第ということです。だから、財務省がいくら頑張って増税や歳出削減をやって、財政を健全化しようとしたところで、徒労に終わるだけなのです。むしろ、一生懸命、増税や歳出削減をやることで、デフレから抜け出すことができなくなって、景気がよくならないという悪循環を続けるだけなんです。
――だとすれば、なんとも虚しい話ですね……。
中野 実際、平成の日本においては、財政健全化の試みが何度も繰り返されてきましたが、財政は基本的に悪化し続けてきました。しかし、それは政府の無駄な支出増のせいではありません。それは、税収の減少と社会保障費など経常移転支出の増加のせいです。そして、税収が減少した原因は、単に、デフレ不況だったからです。
 一方、すでに見たように、その間に、ヨーロッパやアメリカの名目GDPは2倍前後にまで増えました。もし日本がデフレを回避して、欧米並みに成長していれば、それだけで現在の名目GDPは1000兆円を超していたでしょう。であれば、現在のように社会保障の財源が問題視されることなど、なかったはずです。
――ということは、財政健全化のためにプライマリー・バランス黒字化をめざすのではなく、まずはデフレ脱却による民間経済の健全化を最優先すべきだということですね?
中野 そうです。そのためには、政府が財政支出を増やす(財政赤字を拡大する)ことで、デフレ・ギャップを埋めるとともに、民間の貨幣供給量を増やすほかありません。だから、私は「財政赤字なくして、財政再建なし」と言って顰蹙を買っているんですが(笑)、どう考えても、それ以外に道はないんです。
 政府の財政支出の拡大によって、需要が増えて、民間の供給力を上回るようになれば、物価は上がりはじめ、インフレが始まります。そして、需要が堅調であると民間が認識するようになれば、その需要に応えるべく供給力を向上させるために民間は投資を拡大するようになります。
 また、財政支出の拡大によって貨幣供給が増えれば、インフレになって、貨幣の価値が下がり始めますから、カネを保有しているのではなく、消費や投資に回すのが経済合理的な行動になります。それが、経済成長の原動力になるわけです。ハイパーインフレは困りますが、経済成長はマイルドなインフレを伴っているのが普通ですから、その状況になるまで、日本政府は財政支出を増やすべきなのです。
 これは、マクロ経済の基本中の基本であり、その基本を実行すればいいだけの話です。実際、ポール・クルーグマン、ローレンス・サマーズといった大物の主流派経済学者なども、MMTを批判しつつも、デフレ・低インフレ下での財政出動の必要性・有効性を認めています。

「MMTでハイパーインフレになる」は間違っている

――しかし、「財政赤字をこれ以上拡大すると、ハイパーインフレになる」というMMT批判が根強いですね?
中野 誰が、ハイパーインフレになるまで財政赤字を拡大しろと言っているんですかね? デフレを脱却し、インフレ率が2〜4%になる程度にまで、財政赤字を拡大させればいいだけの話で、例えば、インフレ率が4%になったら、財政赤字の拡大をやめればいいのです。
――MMTは「増税によるインフレ抑制」を主張していますが、国民の抵抗が予想されるから、機動的な増税は難しいという批判もあります。
中野 そもそもMMTは、インフレ抑制の手段は増税「だけ」とは言っていません。他にもいろいろ手段はあります。例えば、所得税や法人税には、増税しなくても自動的にインフレの過剰を防ぐ仕組みが内蔵されています。
 所得税は失業者など所得のない人には課税されませんし、法人税も赤字企業には課税されません。そのため、景気が悪くなり、失業者や赤字企業が増えると、非課税になる人や企業が増えるので、税収が減ることになります。言い換えれば、経済全体でみれば、不景気になると、税負担が軽くなり、デフレになりにくくなります。
 反対に、景気がいい時には、個人や企業の所得が増えるので、税収も増える。経済全体で見ると、税負担が重くなるため、インフレを抑制する効果があるわけです。このように、所得税や法人税には、景気の好不況の変動をならす巧妙な機能が内蔵されているのです。これをビルトインスタビライザー(自動安定化装置)と言います。
 これに対して、消費税には、このような自動安定化の機能は弱い。失業者であろうが赤字企業であろうが、消費をする以上は、税を課す。それが消費税です。不景気になると税収が激減する所得税や法人税よりも、不景気であっても税を確実に徴収できる「安定財源」である消費税のほうが、財政健全化論者にとっては都合がいいのでしょう。しかし、自動安定化機能が弱い消費税はデフレを悪化させるものですし、インフレになっても機動的に増収にできない弱点があります。
 だから、インフレの行き過ぎが心配なのであれば、所得税や法人税を高くしておけば、自然と増税になります。消費税よりも、所得税の方が税制として優れているわけです。
 ちなみに、コロナショックの対策としての消費減税論に対して、減税反対論者は「消費税は、いったん下げたら、容易には上げられない」などと反論しています。確かに、消費税は、デフレやインフレに応じて機動的に上げ下げできないのかもしれない。しかし、そうならば、そもそも、そんな悪税を導入しちゃいけなかったということじゃないですか。コロナショックで無一文になった人たちの消費からも税をむしりとるのが、消費税なのですよ。
ーーなるほど。
中野 また、インフレは「需要>供給」によって起きますが、マイルドなインフレ下では、企業は旺盛に設備投資をするので、供給力がアップしていきます。つまり、増税で需要を抑制しなくても、供給が増えて需要を満たすので、インフレは抑制される。
 もっとも、これは、MMTの主張ではなく、正常な経済成長の姿について語ったに過ぎませんが、いずれにせよ、普通に経済成長をしていればインフレは暴走しません。「インフレは止まらなくなる」と言う人は、民間投資による供給力の増大という側面をすっかり忘れているのです。
――たしかに、そうかも……。
中野 そもそも、あなたが言うように、「いったん財政規律を弛めて、財政赤字の拡大を認めたら、高インフレになっても、政治は、国民が嫌がる歳出削減や増税を決断できない。その結果、ハイパーインフレになるのだ」というのはよく聞かれる議論なんですが、私に言わせれば、この議論は驚くべき「暴論」ですよ。
――どうしてですか?

コロナ危機下の「消費税10%」が、 国民経済にとって あまりにも「危険」である理由

ひどく国民をバカにした議論

中野 だって、日本国憲法83条の規定で、国会が予算を決める「財政民主主義」を定めているんですよ? つまり、政治は国民が嫌がる歳出削減や増税を決断できないというんだったら、「財政民主主義なんてやめろ」という話になる。
 これって、「日本の国民も政治家もバカだから、高インフレで自分の生活が苦しくなっても、歳出削減も増税もできない」と言っているに等しいんです。日本以外はどの国もデフレではなく、マイルドなインフレを維持していますが、インフレを止められないほど財政支出を拡大した国は一つもありません。日本だけがインフレの暴走を止められない理由があるのですか?
 それどころか、日本は、過去20年間、「財政赤字を拡大しすぎて高インフレが止まらない」という事態には陥っていません。それどころか、デフレで減税すべきなのに、政治は消費増税を決断できたんです。これほどストイックな国民が、インフレで苦しくなったときに、財政削減や増税を決断できないはずがないじゃないですか?
――たしかに……。
中野 しかもですよ、財政民主主義で財政赤字の拡大が止まらなくなってハイパーインフレになったなどという事例は歴史上一度もないんです。ハイパーインフレは、第一次世界大戦後のドイツのように戦争で供給力が徹底的に破壊された場合や、内戦で混乱して必要なものをつくれなくなったときに起こっています。
 あるいは、ジンバブエのムガベ政権のように、独裁者がめちゃくちゃな政策をやった場合や、90年代に旧社会主義国が資本主義国に移行するときに社会が混乱をきわめた場合にはハイパーインフレが起きています。だけど、今の日本はそんな状況にありませんよね?
 その日本でハイパーインフレを心配するのは、「拒食症の人がご飯を食べようとしたときに、過食症になるからやめろ」と言うのと同じです。世界の失笑を買うだけだから、やめたほうがいいですよ。
ーーなるほど……。
 ちなみに終戦直後の日本も異常な高インフレに見舞われましたが、それも主に戦争のせいでしょう。しかも、当時、インフレ処理にあたった下村治は、「インフレというものはおさめることができる」「どうにもならないんじゃなくて、おさめるための努力を本気でやっておれば、それはうまくいく」と証言しています。
 あえて言うならば、地震や台風などの大規模な自然災害が頻発して、その被害によって供給力が破壊されても、それを放置すればハイパーインフレはありうるかもしれません。自然災害が多い日本であれば、そういう事態は考えられなくもありませんが……。しかし、それを避けるためには、むしろ防災のための公共投資を増やすべきでしょう。
 また、今回のコロナ危機で、マスクや消毒液、人工呼吸器などの医療物資の価格が高騰するということはあり得ます。しかし、これも財政赤字のせいではなく、供給不足によるものです。この種のインフレの解決法も、民間企業の増産に向けて、国が財政支出を拡大して経済的に支援することしかない。
 さらに、昨今では、国連やWTOが、コロナ危機により食料の供給が寸断されるリスクを懸念しています(https://www.jiji.com/jc/article?k=20200403039911a&g=afp)。食料危機もまた、食料の輸入価格を高騰させ、インフレを招くでしょう。しかし、食料の増産ばかりは、そんなに簡単にはできません。だから私は約10年前に書いた『TPP亡国論』で食料危機に警鐘を鳴らし、国内農業の保護を訴えたのですが、それを無視して逆をやったのだから、今さら、どうしようもない。
――うーん……かなりまずいですね。
中野 今も、新型コロナウイルス対策で、医療政策としても経済対策としても、緊急で大規模な財政出動が必要になっています。そういう財政支出に対しても、「そんなことをやったら、新型コロナウイルスが収束しても、財政支出の拡大はとまらなくなるからハイパーインフレになる!」と批判するつもりですか? いや、実際には、そんな馬鹿な批判は誰も言っていませんね。
 要するに、MMTを批判した人たちも、インフレが止められなくなるなどと本気で思っていたわけではなく、単に、屁理屈を言ってMMTを否定したかっただけなのですよ。
 ともあれ、財政民主主義で財政赤字の拡大が止まらなくなってハイパーインフレになったことは歴史上一度もありませんし、そんなことを言うのは、ひどく国民をバカにした議論だと思いますよ。
――そうですね。
中野 ところが、憲法改正論議の中で、財政均衡を義務づける条項を入れるべしと主張する者がいます。これは要注意です。
 というのは、憲法で財政支出の上限を決めるということは、機動的な財政政策ができなくなるということだからです。つまり、財政支出の拡大で貨幣供給量を増やすことができないので、デフレから脱却することができなくなるおそれがあるのです。
 これは前例があります。1930年代の世界大恐慌は大デフレ不況だったわけですが、その原因となった、あるいは、それが深刻化した原因は、金本位制にあったと言われています。
 なぜかというと、金本位制は、金と交換できることで貨幣価値を担保するという考え方ですが、これは同時に、保有する金の量を超えて貨幣を発行することができないということだからです。そのため、貨幣需要が増えたときに、それに応じて財政支出を拡大して、貨幣の量を増やすことができないので、貨幣価値がどんどん上がってしまうのです。つまり、金本位制は強いデフレ圧力をもつということです。
 実際、世界大恐慌から脱出できたのは、各国が金本位制から離脱して、金の制約を受けずに財政支出を拡大して貨幣流通を増やしたからです。その結果、貨幣不足が解消されてデフレからインフレへと転じたわけです。だから、均衡財政を憲法化するのは、非常に危険なことだと考えるべきです。
――なるほど、気になる話ですね。
(次回に続く)
中野剛志(なかの・たけし)
1971年神奈川県生まれ。評論家。元・京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』『世界を戦争に導くグローバリズム』(集英社新書)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『国力論』(以文社)、『国力とは何か』(講談社現代新書)、『保守とは何だろうか』(NHK出版新書)、『官僚の反逆』(幻冬社新書)、『目からウロコが落ちる奇跡の経済教室【基礎知識編】』『全国民が読んだら歴史が変わる奇跡の経済教室【戦略編】』(KKベストセラーズ)など。『MMT 現代貨幣理論入門』(東洋経済新報社)に序文を寄せた。

2 件のコメント:

  1. コロナ危機下の「消費税10%」が、 国民経済にとって あまりにも「危険」である理由
    2020.4.8 3:30
    「財政赤字」なくして「財政再建」なし!

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  2. https://diamond.jp/articles/-/230849?page=3
    コロナ危機下の「消費税10%」が、 国民経済にとって あまりにも「危険」である理由
    2020.4.8 3:30
    「財政赤字」なくして「財政再建」なし!


    真面目で優秀な人ほど家計=財政という財務省のプロパガンダに騙されてしまっていましたが、
    国民の多くはもう気づいてしまいました。

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