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日曜日, 10月 20, 2019

ノーベル経済学賞「実証実験による貧困対策」に 経済学は「モデルから実証へ」潮 流が変化 山形浩生



【番外編】2019年ノーベル経済学賞とDX(前編)|2019年|柏木亮二のDX Book Review|ナレッジ&インサイト|NRI Financial Solutions

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【番外編】2019年ノーベル経済学賞とDX(前編)

2019年10月15日

10月14日、今年のノーベル経済学賞受賞者が発表された。受賞理由は貧困削減を目指す開発経済学の分野に「ランダム化比較試験(RCT : Randomized Controlled Trial)」という新たな手法を取り入れ、開発プログラムの政策効果を飛躍的に向上させた功績が評価されたことにある。このRCTは現在開発経済学以外の領域でも広く活用されている。ビジネスに近い領域で、いわゆる「A/Bテスト」と呼ばれる検証手法もRCTの応用である。ビジネスにおける様々な施策の効果検証は、利用できるデータの急増とデジタルツールの普及によって急速にその重要性を増している。今年のノーベル経済学賞をきっかけに、RCTを学んでみてはいかがだろうか。

「ランダム化比較試験:RCT」とは

受賞者はマサチューセッツ工科大学(MIT)のアビジット・バナジ-氏と、エスター・デュフロ氏、それに、ハーバード大学のマイケル・クレマー氏の3人である。受賞理由は、世界的な貧困削減のための開発支援プログラムに、新薬の薬効の検証などに用いられてきた「ランダム化比較試験(RCT: Randomized Controlled Trial)」を取り入れ、貧困削減の政策効果を実証可能にした功績が評価されたものだ。

さてこの「ランダム化比較試験:RCT」とは、ある施策(その筋では「介入」と呼んだりする)を導入することで、目指した効果がどの程度実現されたのかを正確に評価するための手法である。このRCTは当初医療の世界で発展してきた。例えば、新しい成分を含む新薬が開発された場合、その新薬の薬効が本当に効果的なのかを判断するためには、次のような観点から効果を判断する必要がある。

● 薬の投与以外の要因で結果に変化が出ていないか? ● 薬の投与による改善効果は、他の治療方法よりも優れているか?

薬の投与以外の要因としては、例えば患者の年齢や既往症、また時間経過による効果、他の併用している治療による効果、治療を受けている病院の質など様々な要因が考えられる。これらの要因の影響を取り除く最も効率的な方法が「同一条件の母集団からランダムに薬の投与と非投与のグループに分けて結果を観測する」というやり方である。こうすれば、薬の投与の有無だけが結果の差異に影響を与えているだろうと考えられるのである。

もう一つの「他の治療方法よりも優れているか」という点も重要である。例えば新たな風邪薬が開発されたとする。確かにその新風邪薬には治療効果があると確かめられたとしよう。ただ、ここで重要なのは「じゃあ4日安静に寝ている治療よりも費用対効果で上回るのか」という点である。RCTでは、薬の投与以外の効果が除去されているため、その薬の効果も定量的に測定可能である。結果、「通常4日の安静が必要なものを2日に短縮できた」となれば、その治療は効果的かもしれない。一方、「通常4日の安静が3日に短縮できた」程度なら費用対便益的にはあまり意味のない効果と判断されるかもしれない。

また、RCTは実験参加者の心理的な要因も排除することができる。例えば、省エネに効果があるとされる「電力料金の変動価格制」の実験を考えてみよう。もし、この実験の参加者を一般に募集した場合、その母集団は「省エネにそもそも関心が高い人たち」が多い集団になってしまうかもしれない。そのような「偏った」母集団で行った実験の結果は、社会全体とは異なった形で出てしまうかもしれない。そのような母集団の偏りによる影響(サンプリングバイアスと呼ばれることもある)もRCTでは取り除くことができる。

このような手法を受賞者たちは開発経済学の現実の政策検討に取り入れたのである。受賞者らのいくつかの実際の成果を見ると、その意外さに驚くかもしれない(加えて素人の想像力のなさにも驚くかもしれない)。

「途上国の教育の向上に最も効果的なのは、『生徒の寄生虫の駆除』」 「途上国の幼児へのワクチン接種率の向上には、摂取に来た親へ豆をお土産に与えること」

などなど。これらの意外とも思える施策は、ランダム化比較試験によって効果が実証されており、さらに効果もきちんと定量化されているのである。このような貢献が評価されてのノーベル経済学賞受賞である。受賞者の一人であるデュフロ教授のTED講演「貧困と戦う社会実験」があるので参考までに(日本語の字幕もある。画面下部のTranscriptから日本語を選んでほしい)。

Esther Duflo: Social experiments to fight poverty | TED Talk


受賞者らの著作

受賞者らの著作で、邦訳されているものがいくつかあるので簡単に紹介しておく。

■政策評価のための因果関係の見つけ方
  • [著] エステル・デュフロ、レイチェル・グレナスター、マイケル・クレーマー 
  • [発行日] 2019年7月
  • [出版社] 日本評論社
  • [定価] 2,300円+税


同書は受賞者のうちの2人、デュフロ教授とクレーマー教授が共著者として名を連ねている。タイトルから見ても分かる通り、ある「政策」がどのような効果を持つかを「評価」し、さらにその「政策」と効果の間にちゃんとした「因果関係」が存在するかを検証するための手法を紹介した本である。

最近「EBPM」という言葉を見かけたことはないだろうか?これは「エビデンスに基づく政策立案:Evidence Based Policy Making」の略称で、効果が実証された政策を採用するためにRCT(とフィールド実験と因果推論)を活用するフレームワークである。同書はこの「EBPMの教科書」とも言える。

■貧乏人の経済学
  • [著] アビジット・V・バナジー、エステル・デュフロ
  • [発行日] 2012年4月2日
  • [出版社] みすず書房
  • [定価] 3,000円+税


こちらはもうひとりの受賞者であるハーバード大のバナジー教授とデュフロ教授の共著である。こちらは上記の「政策評価のための因果関係の見つけ方」よりは、より貧困問題にフォーカスしており、具体的なRCTとフィールド実験による貧困問題の解決のプロセスが紹介されている。その多種多様な貧困問題にクリエイティブな解決仮説は目からウロコが取れる思いがするし、また実験構築の創意工夫には唸らされっぱなしになること請け合いだ(「ああこういうクリエイティブな部下がいれば…」とちょっと思ったりするかもしれない)。

一方で、それまでの開発援助の世界は「勘と経験」の「思いつき」だらけの世界だったのかとちょっと呆然とする。今までにも途上国には莫大な援助が注ぎ込まれてきたはずだが、その援助はほとんど効果を検証されることもなく、下手をすると独裁者や悪徳企業の私腹を肥やすことにしかなってなかったのかと脱力するかもしれない。実際、著者らのフィールド実験は、既得権益を持つ勢力から執拗で陰湿な政治的な圧力や妨害を受けてきた。それを見事にはねのける「データ」の威力に溜飲が下がる思いを味わえるだろう(「ああ、こういうロジカルで合理的な上司がいれば…」とちょっと思ったりするかもしれない)。

ついでに貧困は本当に減っているのか?

という疑問をお持ちの方も多いだろう。そういう方は以下の本を読んでみるといいかもしれない。

■FACTFULNESS
  • [著] ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド
  • [発行日] 2019年1月15日
  • [出版社] 日本BP
  • [定価] 1,800円+税


「実は世の中は着実に良くなってきているが、私達(先進国の人たち、と言うべきか)は、その事実をきちんと受け止められないバイアスを抱えている」という内容である。この本を読むべきかどうかは、本屋ですぐに確認できる。同書の「イントロダクション」のpp.9-13にある13個の質問に答えてみてほしい。その結果が意外だと感じたらあなたはこの本を読むべきだ。

さて、後編では、RCTや因果推論の活用をより具体的にイメージできる本をいくつか紹介したい。ビジネスの現場でも活用できるアイデアが見つかるだろう。




ノーベル経済学賞「実証実験による貧困対策」に

経済学は「モデルから実証へ」潮流が変化

2019/10
山形浩生

2019年のノーベル経済学賞を授与された3人の研究者(写真:ロイター/Karin Wesslen/TT News Agency)

2019年のノーベル経済学賞はマサチューセッツ工科大学のアビジット・バナジー教授(58歳)、エステル・デュフロ教授(46歳)、ハーバード大学のマイケル・クレマ―教授(54歳)の3人の共同受賞となりました。バナジー、デュフロ夫妻の共著『貧乏人の経済学―もういちど貧困問題を根っこから考える』(みすず書房 、原題:Poor Economics: A Radical Rethinking of the Way to Fight Global Poverty)の翻訳者でもあり、アカロフ、シラー、クルーグマンなど歴代受賞者の翻訳でも知られる山形浩生さんが、今回の受賞者の研究内容と意義を解説しています。

10月15日、ノーベル経済学賞が発表され、アビジット・バナジー、エステル・デュフロ、マイケル・クレマーの3人の共同受賞となった。公式の受賞理由は、「世界の貧困軽減に対する実験的アプローチに対して」だ。

これはとても優れたまとめなのだけれど、背景がわからないと、何がすごいのか、わかりにくい。そして、その背景として何よりも重要なポイントは、経済学の理論や、それをもとにした政策の有効性をきっちり証明するのはとてもむずかしいということだ。

ランダム化対照実験を経済学で使ってみた

たとえば、早い話が、経済を発展させるにはどうしたらいいんだろうか。

これはアダム・スミス『国富論』以来の経済学の基本問題だ。でも、いまだにきっちり答は出ていない。すべて自由市場に任せればいい、いや市場はちゃんと規制しないとダメだ、いや社会主義的に統制すべきだ、あれやこれや。

今の日本は不景気からどう脱出すればいい? 消費税率を上げればいい、という変な説もあれば、いや、まず減税、いや規制緩和だ、財政出動だ、と百花斉放。

もっとミクロな話ですらはっきりしない。人にもっとやる気を出させるには? アメとムチで釣ればいいという話、ギチギチ管理しろという人、主体性に任せろという人、これまたいろいろだ。

なぜこうも意見が分かれるのか。それは経済学では、きちんと実験して白黒つけるのが難しいからだ。

いまの経済学ではしばしば、いくつかのもっともらしい想定から数式モデルを構築し、それをもとに議論を進める。これで明らかになることは実に多い。でも実際の世界は必ずしもモデルどおりにはいかない。

では、過去のデータを分析して確かめたらどうか。これまた強力な手法だ。でも実際には、世の中、常に多くのことが同時に起きている。解釈はいろいろ可能だ。東南アジアや中国の急な発展は、自由市場の勝利なのか、政府の市場介入の勝利なのか――同じ事例が経済学では正反対の理論の証拠とされてしまうことも多い。

みんな、こういう限界は十分に承知していた。そのうえで、それは仕方のないことになっていた。だって、人間も社会もすべて多種多様で、自然科学のように完全に条件を揃えた実験を何度もするわけにはいかないのだもの。

だが、そういう実験ができたらどうだろう。

そのパイオニアともいうべき人々が、今回の3人である。かれらは、医薬品開発などで普通に使われる「ランダム化対照実験」という手法に目をつけた。


ノーベル経済学賞「実証実験による貧困対策」に

経済学は「モデルから実証へ」潮流が変化

確かに人間や社会では、実験動物のようにあらゆる条件や環境を完全に揃えることはできない。でもある施策(たとえば学費補助)について、それを受ける人と受けない人を完全にランダムに選んで実施したらどうか。

実験をゆがめかねない個人ごとのさまざまな差は、標本数が多ければだいたい相殺し合う。受けた人と受けない人の結果を比べれば、純粋にその施策の効果だけを抽出できるのではないか。経済学でもきちんとした実験ができるのではないか――。

今回の3人は、それをやり、そして成功させた。ある意味でこれは経済学での革命だった。それまでの経済学は、いくら高度な数式や統計分析を駆使したところで、極論すれば、しょせんは粗雑な思い込みをこむずかしく焼き直していただけとさえ言える。でもランダム化対照実験の導入で、やっときちんとした実験による裏付け手法が得られた。

そしてまた、経済学ではモデルによる大きな理論的枠組み構築の動きが一区切りついたということもある。もちろん、理論はいまも進歩している。でも、合理的期待形成や情報の経済学、収穫逓増やゲーム理論といった大技を理論に導入し、新しい分析モデルの体系を構築し直す作業はそんなに残っていないようだ。また、特にリーマンショック(世界金融危機)のおかげもあって、そうしたモデルの限界もだんだん見えてきた。

むしろ、データを地道に集める実証分析が、今後の経済学では重要になりそうだ。たとえばベストセラーになったピケティ『21世紀の資本』(みすず書房)は、各国の課税データを地道に集めた成果だ。今回の3人の業績は、そうしたデータ収集と実証というこれからの経済学の方向性において、中心的なツールを提供するものだ。

根拠のない貧困対策が横行していた

そして彼らがそれを最大限に活用した分野は、主に貧困対策だった。これが受賞理由の「世界の貧困軽減」の部分だ。

さて、まず大きな誤解を解いておこう。世界の貧困は大きな問題ではある。ただし世間的なイメージとは裏腹に、世界の絶対的な貧困者は過去数十年で激減している。東南アジア、そしてその後は中国とインドの経済成長のおかげで、すさまじい数の人々が貧困から脱出した。

その一方で、他の貧困国や地域での絶対的な貧困はなかなかなくならない。そしてその解消に向けて、いろいろな貧困対策が開発援助(ODA)などを通じて行われた。学校をつくってみたり、農業の生産指導をしてみたり、小事業用の少額資金を貸してあげてみたり、政治参加を促進して経済的な自決力を高めようとしてみたり。

だがそうした各種施策はどれも明確な根拠はなかったりする。貧困対策の多くは多少の経験則と、「はずだ」「べきだ」の信仰表明に近い。すべての子どもは教育を受けられるべきだ、初期投資さえ支援すればみんな起業して豊かになるはずだ、政治に声を反映させられないから貧しいはずだ――。


ノーベル経済学賞「実証実験による貧困対策」に

経済学は「モデルから実証へ」潮流が変化

どれも、まったくのまちがいではないだろう。でもそれがどの程度重要なのか。往々にして援助の現場は特に明確な根拠もなく、「どこそこで成功した」という個別の事例と、そのときの業界の流行に流されてしまう。そして、その成功率は必ずしも高くない。貧しいところでは何をやっても頑固に貧困が続く。支援する側も援助疲れを起こし、本国で貧乏人はそもそも能力がないから貧乏なんだ、助けるだけ無駄だ、という極論が台頭しても、なかなか反論できない。

彼らが南米やインドを始め各地で行ったランダム化対照実験は、それを変えた。何がどれだけ成功するのかについて、いまやきちんとした数値評価が得られる。何か他の条件があったのではないか、見たいところだけ見た結果ではないのか、といった懸念はかなり減った。政権交代などがあっても、そうしたしっかりした実証データがあれば、恣意的な政治介入に抵抗して有効な施策を継続しやすくなる。

さらに「きちんと比較実験しました。XXのほうがよいという結果でした」というだけではない。筆者訳バナジー&デュフロ『貧乏人の経済学』(みすず書房)では、そうした対照実験の結果として得られた、予想外のさまざまな結果が紹介されている。

たとえば、飢えているはずの人々に追加のお金を渡しても、足りない食料を買うとは限らない。むしろ社会生活に重要なテレビを買ったりする。

いったいなぜだろう。そうした予想のずれは、ときに社会的な要因が原因であり、ときに行動経済学的な認知の問題であり、いずれもまさにこれまでの援助を失敗させてきたものだ。実証を通じて、本当に大切な要因が抽出され、今後の支援の改善に対するきわめて重要な知見がもたらされることになる。

思い込みからの解放、貧困対策の改善に貢献

まとめよう。今回のバナジー、デュフロ、クレマーの受賞は、現在の経済学における「モデルから実証へ」の大きな流れの一部であり、またその中で、実証の新しいツールである、ランダム化対照実験を経済学に導入したという大きな手柄によるものだ。

同時に、それを世界的な課題である貧困対策に適用したことで、これまで思い込みに支配されてきた援助分野に実証的な基盤をもたらしつつある。そしてその実証結果は、行動経済学的な歪みも含め、貧困者特有の考え方や課題についての意外な事実を明らかにしてくれる。それがさらなる貧困対策の改善に貢献する――それが大きく評価されたための受賞だ。


ノーベル経済学賞「実証実験による貧困対策」に

経済学は「モデルから実証へ」潮流が変化

さて、彼らの受賞で経済学が変化するだろうか。

 この点は、必ずしもはっきりしない。ノーベル賞はある意味で、すでに確立した業績に対して与えられるものだ。だから、ノーベル賞を受賞したということは、その考え方がすでに定着しているということでもある。少なくとも経済学の研究者や開発援助畑の人々で、ランダム化対照実験について耳にしたことがない人はいないはずだ(その細部まで理解しているかはさておき)。

それどころか、いまやランダム化対照実験は開発援助の現場などでは濫用気味とさえ言われる。すでに十分知見がある領域ですら、無意味に対照実験が行われたりするのだ。対照実験はもちろん、標本抽出、施策の実施、結果集め、分析、という長期間の作業が必要なので、人手もお金もかかる。つまりは予算を水増しする口実に堕しているという悪口さえある。

だが、それはもちろん、今回の3人の責任ではない。開発援助の現場は昔から、思い込みの激しいNGOや、貧困者をダシに自分の懐を肥やそうとする輩の巣窟だし、「制度」「構造改革」「ジェンダー」「BHN(basic human needs)」といった、個人的には大した意味があるとは思えないお題目が幅を利かせ、政治的思惑に激しく左右される分野である。

ランダム化対照実験がそれより特にひどいとは思わない。無意味な流行はいずれ何らかの揺り戻しが来るだろうし、また実証実験が可能となったことで、これまでの変なお題目もチェックを受けることになるのではないだろうか。

さらに、この手法自体は経済学の他の分野にも応用できる。産業政策、貿易などさまざまなサブ分野で、このランダム化対照実験は応用されつつある。今回の受賞がその動きをさらに促進する可能性は十分にある。もちろん、すべての分野でこうした対照実験を行うわけにはいかない。日本の半分は消費税据え置き、残り半分は引き上げ、といった対照実験は不可能だ。それでもきちんとした実験に基づく、しっかりした知見はますます増大するはずだ。

若手の受賞、新しい学問への評価は続くか

もう1つ。つまらないことではあるけれど、今回の受賞者はものすごく若い。エステル・デュフロ(46歳)は、ノーベル経済学賞の最年少受賞記録を大幅に塗り替えた。最近のノーベル賞は、そこそこ高齢化が進んでいた。もう十年以上にわたり本命視されつつも未受賞の人は多い。いまやノーベル経済学賞は死に神との競争だとすら言われ、半世紀前の業績でノーベル賞がめぐってくるのをひたすら待つ高齢の重鎮を「ノーベル賞ゾンビ」などと呼ぶ不謹慎な冗談もたまに耳にする。

相対的に若手の受賞が今後もトレンドとして続くかどうかは不明だ。だが個人的には続いてほしいと思う。こうした賞は、本来であればお遊びであり、システマチックに分野への貢献度を計算して、業界の序列にあわせて順番に与えるようなものではないはずだ。少なくとも外野の立場としては、そんなものだけではつまらない。

年功序列など度外視した、純粋な研究のおもしろさやパイオニアとしての役割だけを基に、比較的新しい学問的トレンドも評価してくれたほうが楽しいし、賞としての面白みも高まる。今回の受賞が、そうしたノーベル賞選考の方針変化を反映するものだと楽しいのだけれど。

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