波乱の時代(上) ハードカバー – 2007/11/13
アラン グリーンスパン (著), 山岡 洋一/高遠 裕子 (翻訳)
波乱の時代(下) ハードカバー – 2007/11/13
アラン グリーンスパン (著), 山岡 洋一/高遠 裕子 (翻訳)
波乱の時代 特別版―サブプライム問題を語る単行本 – 2008/10
アラン グリーンスパン (著), Alan Greenspan (原著), 山岡 洋一(翻訳)
2008年12月31日
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サブプライムが原因になっていなければ、他の金融商品か市場で問題が発生していたろう、というあたりがキモ。問題は世界的にリスクが割安に振れすぎていて、トリプルCのジャンク債がアメリカの国債の利回りを4%しか上回っていなくなっていた、などであると(02年の段階ではこの差は23ポイントあったそうです)。リスクがここまで割安に振れすぎれば、いずれ、リスクを回避しようとする人間本来の性格と衝突するようになり、危機が起きるのは必然だった、と(p.39)。
ベアー・スターンズの救済に関しては、FRBは金融システムの崩壊か、最終的には政府が債権者を保護してくれるというモラルハザードが崩れるという地獄に通じるふたつの道のうちひとつを選ばざるを得なかったとしていますが、こうした措置はめったに行わないようにしなければならない、と珍しく断定的に語っており、リーマン・ブラザースの破綻が示唆されているように感じます。経営困難に陥っても必ず政府の支援が得られるようになると《本来の信用力だけで判断された場合よりも低い金利で資金を調達できるようになる》(p.46)からダメなのだ、と。
しかし、リーマンショックの後でも、今後十年間はアメリカの長期金利が上昇し、アメリカ国債の利回りが10%をうかがう展開になる、という予想は早くも破綻寸前のように感じます(p.57)。個人的には資産運用にアメリカ国債も考えようとは思いましたが。
ベアー・スターンズの救済に関しては、FRBは金融システムの崩壊か、最終的には政府が債権者を保護してくれるというモラルハザードが崩れるという地獄に通じるふたつの道のうちひとつを選ばざるを得なかったとしていますが、こうした措置はめったに行わないようにしなければならない、と珍しく断定的に語っており、リーマン・ブラザースの破綻が示唆されているように感じます。経営困難に陥っても必ず政府の支援が得られるようになると《本来の信用力だけで判断された場合よりも低い金利で資金を調達できるようになる》(p.46)からダメなのだ、と。
しかし、リーマンショックの後でも、今後十年間はアメリカの長期金利が上昇し、アメリカ国債の利回りが10%をうかがう展開になる、という予想は早くも破綻寸前のように感じます(p.57)。個人的には資産運用にアメリカ国債も考えようとは思いましたが。
2009年1月18日
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既に多くのレビュアーが、このわずか62ページの書物に対して惜しみない賛辞の嵐を贈っているが、まさにそれに値する名著であるといってよいと思う。
そこで、これ以上屋上屋の賛辞を重ねるのを避けて、他の方が取り上げていない事で、これもまた大いに注目すべきだと思う事を2点挙げたい。
一つは使われている言葉のこと。グリーンスパンは「世界市場資本主義」という目新しい言葉を使っている(原語で何と言っているのかは確かめていないが)。今まで使われてきた”市場原理主義”、”新自由主義”、”グローバリズム”などの用語が既に意図した偏見にまみれて使われ、いつのまにか否定的なニュアンスを色濃く帯びるようになったのに対して、もう少し冷静に事態を表現する新しい用語を提唱しているようで興味深い。
もう一つは、今後最も警戒を要するべきことは、信用収縮による世界的デフレの長期化ではなくて、むしろインフレの到来であることを強調していること。今はこのことについての議論は殆ど影を潜めているが、矢張りいつか必ずやって来るであろう問題であることは忘れてはならないのだろう。
そこで、これ以上屋上屋の賛辞を重ねるのを避けて、他の方が取り上げていない事で、これもまた大いに注目すべきだと思う事を2点挙げたい。
一つは使われている言葉のこと。グリーンスパンは「世界市場資本主義」という目新しい言葉を使っている(原語で何と言っているのかは確かめていないが)。今まで使われてきた”市場原理主義”、”新自由主義”、”グローバリズム”などの用語が既に意図した偏見にまみれて使われ、いつのまにか否定的なニュアンスを色濃く帯びるようになったのに対して、もう少し冷静に事態を表現する新しい用語を提唱しているようで興味深い。
もう一つは、今後最も警戒を要するべきことは、信用収縮による世界的デフレの長期化ではなくて、むしろインフレの到来であることを強調していること。今はこのことについての議論は殆ど影を潜めているが、矢張りいつか必ずやって来るであろう問題であることは忘れてはならないのだろう。
本文11ページに「フェド・スピーク」とあるように、セントラル・バンカー(中央銀行総裁)は間接話法をお使いになります。
その発言が市場に与える影響が大きすぎるため、<わかる人にだけは、わかるように>お話になります。
福井前日銀総裁の在任中、利上げ半年前の講演をお聞きした際には、利上げの利の字もおっしゃらずに、見事に利上げを示唆、というか、論理を追えば明確に表明されていました。
FRB議長を退任されたとはいえ、マエストロとして影響力が絶大なグリーンスパンは、本書でも、若干自由度が増したとはいえ、間接話法をお使いです。
したがって、読者には、
提言の背景にはどのような認識があるのか、
一見、控えめにみえる提言がどのような意味とインパクトを持つのか、
自分たちはこれから何をすべきか、
を徹底的に考え抜くことが求められます。
(在任中の政策に対する批判への自己弁護がどこにあるかを探すのは、この危機を乗り切ってからにしましょう)
不均衡動学(市場は常に均衡を求め、かつ均衡しない)や数式は一切使わないが、統計を的確に引用し、「人間の反応」に対する経済モデルの限界を指摘し、かつ、歴史的な視点に立った、<リアルな認識と洞察>には、多様性国家アメリカの知性と復元力を見せつけられる思いがします。
ということで、今回の金融危機で明らかになった金融システムの問題点を克服する新たな金融システムを世界で最も早く創造するのは、やはりアメリカである、と推測します。
課題は金融システムが国単位ではなく、世界を対象とすべきところにあります。
世界銀行、IMFを主導しながらも、国連を有効に機能させることには失敗しているアメリカですが、実体経済に対するマネー経済の影響を考え、世界的なアライアンス(世界の中央銀行の連携、あるいは、世界銀行の機能強化など)にイニシアティブを取ることに挑戦できるのはやはりアメリカである、と思います。
その発言が市場に与える影響が大きすぎるため、<わかる人にだけは、わかるように>お話になります。
福井前日銀総裁の在任中、利上げ半年前の講演をお聞きした際には、利上げの利の字もおっしゃらずに、見事に利上げを示唆、というか、論理を追えば明確に表明されていました。
FRB議長を退任されたとはいえ、マエストロとして影響力が絶大なグリーンスパンは、本書でも、若干自由度が増したとはいえ、間接話法をお使いです。
したがって、読者には、
提言の背景にはどのような認識があるのか、
一見、控えめにみえる提言がどのような意味とインパクトを持つのか、
自分たちはこれから何をすべきか、
を徹底的に考え抜くことが求められます。
(在任中の政策に対する批判への自己弁護がどこにあるかを探すのは、この危機を乗り切ってからにしましょう)
不均衡動学(市場は常に均衡を求め、かつ均衡しない)や数式は一切使わないが、統計を的確に引用し、「人間の反応」に対する経済モデルの限界を指摘し、かつ、歴史的な視点に立った、<リアルな認識と洞察>には、多様性国家アメリカの知性と復元力を見せつけられる思いがします。
ということで、今回の金融危機で明らかになった金融システムの問題点を克服する新たな金融システムを世界で最も早く創造するのは、やはりアメリカである、と推測します。
課題は金融システムが国単位ではなく、世界を対象とすべきところにあります。
世界銀行、IMFを主導しながらも、国連を有効に機能させることには失敗しているアメリカですが、実体経済に対するマネー経済の影響を考え、世界的なアライアンス(世界の中央銀行の連携、あるいは、世界銀行の機能強化など)にイニシアティブを取ることに挑戦できるのはやはりアメリカである、と思います。
2008年11月8日
形式: 単行本Amazonで購入
波乱の時代からのファンです。
上・下はかなり専門的で、過去の金融史を知らなければ
読みづらい方もいたかもしれませんが、今回の特別版は
日経新聞+αの知識で読める内容となっています。
金融業界に勤める人にとってはかなり読みやすく、
また将来のビューについても共感できるのではないでしょうか。
・バブルの予兆
・リスク管理
・インフレ
どれも参考になりました。
ただ、今の状況について立場上強く発言できないことから、
個人的には少し物足りない内容な気もします。
もっとヤバイとこを掘り下げて欲しかった!
といっても、50数ページで500円とかなりお手ごろなので、
購入する価値アリだと思います。
タイトルにも書きましたが、読むなら早く読んだ方がいいです。
今の金融はとてつもないスピードで動いていますので。
上・下はかなり専門的で、過去の金融史を知らなければ
読みづらい方もいたかもしれませんが、今回の特別版は
日経新聞+αの知識で読める内容となっています。
金融業界に勤める人にとってはかなり読みやすく、
また将来のビューについても共感できるのではないでしょうか。
・バブルの予兆
・リスク管理
・インフレ
どれも参考になりました。
ただ、今の状況について立場上強く発言できないことから、
個人的には少し物足りない内容な気もします。
もっとヤバイとこを掘り下げて欲しかった!
といっても、50数ページで500円とかなりお手ごろなので、
購入する価値アリだと思います。
タイトルにも書きましたが、読むなら早く読んだ方がいいです。
今の金融はとてつもないスピードで動いていますので。
グリーンスパンの話といえば、曖昧で退屈なことで知られていた。もちろん、それはFRB議長という立場上しょうがないのだが、妻にプロポーズしたときも3回目でようやく意味が通じたというのは、有名なジョークだ(本書では「実は、あれは5回目だった」と明かしている)。そういう著者の回顧録がおもしろい本になることは期待できないが、本書では意外に率直に政権の裏側を明かしている。
本書は2つの部分にわかれており、邦訳の上下巻にそれぞれ対応している。上巻では若いころプロの楽団でサックスを吹いていた話や、エコノミストになってからはアイン・ランドとの交友関係から強い影響を受け、リバタリアンになったことなどが書かれている(リバタリアニズムを「自由意思論」と訳すのはおかしい)。もちろん重要なのは、FRB議長になってからの話だが、前任者ボルカーの路線を継承するというのが基本路線だったようで、あまり独自の方針は示していない。
有名な「根拠なき熱狂」のスピーチについても、彼の一貫した方針ではなく、ITバブルの過熱を防ぐ強い金融引き締め策はとらなかった。これについては、FRBの実体経済に与えうる影響は限定的なもので、バブルはどうやっても防げなかっただろう、と弁明している。笑えるのは、クリントン政権末期に巨額の財政黒字が出て、そのうち政府債務が消滅するというシミュレーションをFRBがやっていたことだ。そうなると国債もなくなるので、FRBの仕事もなくなるのではないか、などと真剣に心配していたらしい。
幸か不幸か、そういう心配は現ブッシュ政権によって打ち砕かれた。バブル崩壊と9・11でアメリカ経済が混乱し財政赤字がふくらんでいるとき、大減税の公約を強行するのは最悪の政策だ、と著者は強く抵抗したが、政治的打算を経済合理性より優先するブッシュ政権では、彼の警告に耳を貸す者はなかった。ホワイトハウスは史上最大の財政赤字を戦争のせいにするが、実際には戦費よりも減税や農業補助金の増額などのバラマキの影響のほうが大きい。不況が長期化したのは戦争のもたらした不安のためであり、イラク戦争は石油利権が目的だと評している。
原著が出版された段階(今年9月)では、サブプライムローン問題はすでに表面化していたが、これについてはごくわずかしかふれていない。ただブッシュ政権が政府系住宅供給機関の過剰融資を放置したことに懸念を示し、住宅バブルの責任は金融政策よりも住宅政策を人気取りに使った政治家にあると示唆している。18年も政権を見てきた彼が、他の大統領については是々非々の評価なのに、ブッシュ政権については全面否定に近い。
下巻は、財産権が経済成長の基礎だというリバタリアン的信念にもとづいて、各国の指導者や経済状況についてコメントしているが、こっちは「グリーンスパン節」だ。ロシアのプーチン大統領が「アイン・ランドについて語り合いたい」と言った話や、「グローバリゼーションの脅威」よりもSOX法のような過剰規制のほうが経済にはるかに有害だとか、知的財産権の過剰保護と不透明性が経済成長を阻害しているとか、地球温暖化ガスの排出権取引を統制経済として批判するなど、おもしろいエピソードはいろいろあるが、当ブログの読者には周知の議論が多いだろう。
全体として、上巻の回顧録はおもしろいが、下巻の経済分析の切れ味は今ひとつで、冗漫だ。もちろんこれは経済学の通説に近いという意味であって、啓蒙書としての意味はある。同じような本としては、『ルービン回顧録』のほうが生々しく政権の裏側を描いており、経済的な洞察も深い。
本書は2つの部分にわかれており、邦訳の上下巻にそれぞれ対応している。上巻では若いころプロの楽団でサックスを吹いていた話や、エコノミストになってからはアイン・ランドとの交友関係から強い影響を受け、リバタリアンになったことなどが書かれている(リバタリアニズムを「自由意思論」と訳すのはおかしい)。もちろん重要なのは、FRB議長になってからの話だが、前任者ボルカーの路線を継承するというのが基本路線だったようで、あまり独自の方針は示していない。
有名な「根拠なき熱狂」のスピーチについても、彼の一貫した方針ではなく、ITバブルの過熱を防ぐ強い金融引き締め策はとらなかった。これについては、FRBの実体経済に与えうる影響は限定的なもので、バブルはどうやっても防げなかっただろう、と弁明している。笑えるのは、クリントン政権末期に巨額の財政黒字が出て、そのうち政府債務が消滅するというシミュレーションをFRBがやっていたことだ。そうなると国債もなくなるので、FRBの仕事もなくなるのではないか、などと真剣に心配していたらしい。
幸か不幸か、そういう心配は現ブッシュ政権によって打ち砕かれた。バブル崩壊と9・11でアメリカ経済が混乱し財政赤字がふくらんでいるとき、大減税の公約を強行するのは最悪の政策だ、と著者は強く抵抗したが、政治的打算を経済合理性より優先するブッシュ政権では、彼の警告に耳を貸す者はなかった。ホワイトハウスは史上最大の財政赤字を戦争のせいにするが、実際には戦費よりも減税や農業補助金の増額などのバラマキの影響のほうが大きい。不況が長期化したのは戦争のもたらした不安のためであり、イラク戦争は石油利権が目的だと評している。
原著が出版された段階(今年9月)では、サブプライムローン問題はすでに表面化していたが、これについてはごくわずかしかふれていない。ただブッシュ政権が政府系住宅供給機関の過剰融資を放置したことに懸念を示し、住宅バブルの責任は金融政策よりも住宅政策を人気取りに使った政治家にあると示唆している。18年も政権を見てきた彼が、他の大統領については是々非々の評価なのに、ブッシュ政権については全面否定に近い。
下巻は、財産権が経済成長の基礎だというリバタリアン的信念にもとづいて、各国の指導者や経済状況についてコメントしているが、こっちは「グリーンスパン節」だ。ロシアのプーチン大統領が「アイン・ランドについて語り合いたい」と言った話や、「グローバリゼーションの脅威」よりもSOX法のような過剰規制のほうが経済にはるかに有害だとか、知的財産権の過剰保護と不透明性が経済成長を阻害しているとか、地球温暖化ガスの排出権取引を統制経済として批判するなど、おもしろいエピソードはいろいろあるが、当ブログの読者には周知の議論が多いだろう。
全体として、上巻の回顧録はおもしろいが、下巻の経済分析の切れ味は今ひとつで、冗漫だ。もちろんこれは経済学の通説に近いという意味であって、啓蒙書としての意味はある。同じような本としては、『ルービン回顧録』のほうが生々しく政権の裏側を描いており、経済的な洞察も深い。
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