ビル・ミッチェル 「日本、またも消費税ダイブ」(2019年9月30日) — 経済学101
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来日記念ということで連投…(ごめん、いまだけ)。来日シンポジウムに参加される方はできるだけたくさん読んでおくといいと思います!
ビル・ミッチェルの記事一覧はここ。
Bill Mitchell, “Japan about to walk the plank – again – “, – Modern Monetary Theory, October 29, 2019.
またしても日本はわざわざ自分から痛い目に合おうとしている。政府が2019年10月1日に消費税をさらに2%引き上げると決めたという。つまり消費税が8%から10%に引き上げられる。最新の情報で見えてくるのは、日本政府は過去の経験を気にしている。これまで「反」財政赤字のテロリストによって「財政破綻が近いぞ」と信じ込まされれるたびに、消費支出が激減し、それを補うために赤字をさらに増やして対応しなければならなかった経験があるからだ。
しかし。増税に伴って非政府部門の購買力が大幅に低下することを相殺するためと、政府は恒久的あるいは一時的な支出措置などを慎重にすすめているわけだが、そもそも増税は非政府部門の支出と成長を損なうものなのだから、もともとの増税が全く不必要だったということに変わりはない。
日本の一番の問題は、消費支出が全面的に不足していることだ。前回の消費税率引上げ(2014年4月)後に落ち込んだ非政府部門の消費支出は、当時の水準にまですら戻っていない。こうした現実のデータから判断すれば、今は増税どころか財政赤字を増やすべき局面だ。
結局今回ももまた、無責任な主流経済学者たちによって、政府の中の数人の保守政治家が日本人労働者とその家族の繁栄を損なう政策を導入するよう吹き込まれたという話だ。さらに国債の利払い負担がプラスに転じる領域に近づいていることを考えれば(訳者注:マイナス金利国債の”利払い”は緊縮となるから)、消費税の引き上げはほんとうに愚かなことなのだ。
ここに至るまでに政府は増税を二度延期している。政府内外からの広範な反発があったからだ。
消費税が最初に導入されたのは1989年4月で、税率は3%だった。当時の政府は「この税は高齢化社会に備えて福祉支出を賄うために必要なものだ」と主張していた。
つまり、この税は導入時の理由からしてトンデモだったのだ。
つまり、この税は導入時の理由からしてトンデモだったのだ。
そして1997年4月には、バブル崩壊後の経済成長をそれまでけん引した財政赤字の拡大に対し、保守派の批判が集まったことにより、政府は税率を5%に引き上げた。
このため経済成長率は急落し、政府は赤字財政の継続を余儀なくされた。当時の混乱は当時の首相の政治的運命を変えた。
そして、同じ間違った正当化(高齢化社会対策のための税であるという)によって、2014年4月には8%への引き上げがなされ、今回の10%への引き上げはもともと2015年10月に実施されることになっていた。
この第二次引き上げが遅れたのは、財政刺激策が抑制すると景気後退を促進してしまう懸念が生じたからだった。
これについてはここでも何度か書いている。 – Japan is different, right? Wrong! Fiscal policy works (August 15, 2017).
これについてはここでも何度か書いている。 – Japan is different, right? Wrong! Fiscal policy works (August 15, 2017).
以下の二つのグラフは、1994年から2019年第二四半期までの日本の消費支出を二つの視点から見比べたものだ。一つ目は、前回の増税が導入される直前の2014年第三四半期を基準に、消費支出を時系列で指数化したものだ。
1997年と2014年の増税の直後に消費支出は減少している。購買力の低下と財・サービスの需要の減少との間に明確な因果関係がある。
次のグラフは、四半期ごとの消費支出の変化率を示している。最大のマイナス成長(赤で)は1997年と2014年の増税後の四半期だった。
現在に目を向けると、消費支出は前回増税前の2014年4月にまでにすら回復しておらず、ピーク時(2014年3月期)の1.6%減となっている。
財政危機に陥るという問題は存在しない。問題は、民間支出が全面的にずっと弱いことだ。消費税増税はこの問題をますます悪化させてしまう。
しかし、それでも増税を求める圧力があるのだ。保守派勢力は「将来の高齢化社会に対処する力を蓄えておくため」にと日本政府に財政赤字の削減を迫り続ける。
OECDは年次報告 – OECD Economic Surveys Japan 2019 (2019年4月リリース)において、次のように言っている。
消費税だけで十分な黒字を確保するには、税率をOECD平均の19%を上回る20%から26%に引き上げる必要がある。
なぜだ?
基礎的財政収支を黒字にするため、だそうだ。
だから、なぜ?
高齢化社会の福祉需要の財源のため、だそうだ。
またこれだ。経済政策の選択がちゃんとできないのは、問題の立て方が間違っているからだ。
この点についての議論は、私のブログ記事–Australia–the Fourth Intergenerational Myth Report(2015年3月5日)や、そこで引用されているリンク記事を読んでほしい。
基礎的財政収支の黒字というのは、税収が利払いを除いた支出額を超えるということだ。そうすると、これだけの規模の増税に意味があるだろうかという最初の疑問に戻る。
とは言え、日本政府も10月1日の期限が近づくにつれ、過去の増税の歴史に学んで敏感になってはいる。
2019年度予算の概要の中で、政府は次のように言っている。
これまでの3%の消費税率引き上げの経験を踏まえ、景気回復の流れに影響を与えないよう、様々な措置を講じ、万全を期す。
と言うことは、彼らは消費増税で家計の消費支出が大幅に減少したことを認識している。
政府は以下の試算をしている。
1.消費税増税で約5兆2000億円の増収となる。これはつまり、非政府部門の現在の購買力を大幅に削減することになる。
2.そのマイナス効果を相殺するために、政府は「幼児教育の無償化」と「社会保障制度の充実」の分野の政策変更を実施すると言っている。
また、消費税増税に伴う「低所得年金受給者」や「診療報酬」に手当をするということだ。
これらは全家計に対し約3兆2000億円の利益をもたらすと試算されており、継続的なものになりそうだ。
また、消費税増税に伴う「低所得年金受給者」や「診療報酬」に手当をするということだ。
これらは全家計に対し約3兆2000億円の利益をもたらすと試算されており、継続的なものになりそうだ。
3.これらを合わせると、2018年の名目GDPの約0.4%に相当する2兆円の歳出削減が見込まれる。
規模の観点から見ると、これは大きい。
規模の観点から見ると、これは大きい。
4.さらに、短期的に約2兆3000億円を投入する一連の暫定措置を提案している。
以上のことを合わせると、政府は5兆5000億円の利益を提供するか、購買力を失った5兆2000億円の補償以上を相殺すると主張されている。
よって短期的には、増税による経済成長への影響は小さいと予想される。ただ実質的には影響を遅らせるだけだ。
これらの一時的な措置が終了すれば、増税の影響は過去と同じように激しくなるだろう。
そもそも問題は、財政を 「健全化」 する必要があるという主張を受け入れる政府は賢明ではない、ということなのだ。
そもそも問題は、財政を 「健全化」 する必要があるという主張を受け入れる政府は賢明ではない、ということなのだ。
それが賢明でないことは火を見るより明らかだ。
日本は自国通貨を発行しているのだから、財政危機に直面してはいない。日本政府が自国通貨で発行された金融債務を償還できなくなることは決してない。
では、OECDの主張はどういうことだろうか。
ここにおいて、「日本は基礎的財政収支の黒字に向かって進まなければならない」という主張の不合理さを見ることができる。
現実を考えてみよう。
ここにおいて、「日本は基礎的財政収支の黒字に向かって進まなければならない」という主張の不合理さを見ることができる。
現実を考えてみよう。
以下の二つのグラフは、1980年から2018年までの日本の部門別収支を二つの観点から示したものである。最初のグラフは、実際の収支バランスだ。
この部門別バランスの詳細については、The Weekend Quiz–September7-8,2019–answers and discussion(2019年9月7日)という記事を参照されたい。
二つめのグラフは、国内民間収支(灰色)と財政収支(青)との関係をより明瞭にしたいので、海外収支は常に平均値(GDPの2.51%の黒字)だったものとして黄色で表示したものだ。
これらのグラフは因果関係を示しているわけではないが、国民所得の変化は、他部門との収支を通じて均衡が成り立つ。
以下の事実から言えることがある。
1.日本は1980年以降、平均でGDPの2.5%の対外黒字を計上している。
2.1980年以降、国内民間部門の貯蓄率はGDPの平均6.9%となっている。
3.日本の国債利払いの 「負担」 は現在非常に低い。
また、債務返済の 「負担」 は今後は逆にマイナスに転じる可能性が高いことも明らかになっている。
これは、以前発行された国債(プラス金利)が満期を迎えていくにつれ、債務全体に占めるマイナス金利国債の量が支配的になり、ある時点で負担が負(つまり収入)になるからだ。
これは、以前発行された国債(プラス金利)が満期を迎えていくにつれ、債務全体に占めるマイナス金利国債の量が支配的になり、ある時点で負担が負(つまり収入)になるからだ。
プロジェクト・フィアー(訳注:「恐怖の扇動」。反緊縮派がよく使う言い方)が、財政赤字を削減を迫り、消費税を引き上げなければならないと主張するのはどうしてかと関連して考えてみよう。
日本が先進国の中で最大の公的債務残高対GDP比を持っていることと関連して考えてみよう。
これを説明できるマクロ経済学の教科書はどれだろう?
そんなものは、ない。
また、最近の財政赤字はGDP比3.2%前後(2018年)で、再びわずかに減少していることを踏まえれば、ここでもしOECDの勧告に従い、日本政府が基礎的財政収支の黒字化を図ろうとした場合、どのようなことが起こるだろうか。
1.消費税増税は成長を損なう―それは間違いない。不十分な支出によって成長が制約されているときに、この問題を悪化させた政策は意味をなさない。
2.債務の利払いは負の領域に向かいつつあり、今後これはさらなる緊縮力になる。
3.非政府部門がGDPの約6.9%を貯蓄し、対外黒字が約2.5%であることから、政府は現在のGDP水準を維持するためには3%から3.5%程度の財政赤字を維持しなければならない。
民間消費支出が伸び悩んでいることを考えると、財政赤字はさらない増やす必要がある。
民間消費支出が伸び悩んでいることを考えると、財政赤字はさらない増やす必要がある。
4.関連する過去のパラメータを考えると、基礎的財政収支の黒字化は破滅的である。
これが妥当と思えるだろうか?
これは、主流のマクロ経済学が制度の現実に関係なく盲目的にドグマを適用するだけであることを物語っているだけだ。
結論
日本の最大の問題は、非政府支出の停滞だ。
政府資金の問題はない。独自通貨を発行している。
そして、非政府部門は現在、国債への利払いという収縮に直面している。
政府は、このように消費増税の繰り返しによって 「ストップ」 が生じるようなストップ・ゴー型の景気刺激スタイルが、日本の安定成長や繁栄の促進につながらないことを学ぶべきである。
私は10月末に日本に行くが、政府関係者や活動家とこれらの問題についてより深く話し合いを持ちたいと思っている。
今日はこれまで!
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