岩村充 金融政策に未来はあるか (岩波新書) 2018
ゲゼルについて触れた箇所で著者の新しい研究を提示している(巻末参考文献urlは貴重)。本題とはズレるので量的には少ないが。
FTPLとゲゼルマネーの関連については、やはり『新しい物価理論』2004が読まれるべきだ。
とはいえ過去の研究、著作をコンパクトにまとめている面は評価できる。
参考:
岩村充 『中央銀行が終わる日―ビットコインと通貨の未来―』新潮社2016
金融政策に未来はあるか (岩波新書) Kindle版 2018
https://www.amazon.co.jp/dp/B07H2SRJML/
岩村 充 (著) 208頁
岩村 充 (著) 208頁
はじめに
第一章 日本の経験
一 高度成長とその終わり
二 流動性の罠とインフレ目標論
三 そして異次元緩和へ
第二章 物価水準の財政理論
一 誰が貨幣価値を支えているのか
二 物価水準の財政理論と金融政策の役割
第三章 マイナス金利からヘリマネまで
一 成長の屈折と自然利子率の問題
二 マイナス金利政策の意味と限界
三 ヘリマネはタブーか
第四章 金融政策に未来はあるか
一 貨幣の最適供給問題
二 仮想通貨から考える
三 通貨が選択される時代で
参考文献
物価水準の財政理論=FTPL自体は目新しい考え方ではない。
《ある君主が、かれの税の一定部分は一定の種類の紙幣で支はらわれなければならないという、法令をだすとすれば、かれはそうすることによって、この紙幣に一定の価値をあたえうるであろう。》
アダム・スミス『国富論』2:2最終部 世界の大思想上
本書で興味深いのはやはりゲゼルに関する記述だ
《 ところで 、ゲゼルのアイディアを現代によみがえらせて流動性の罠からの脱出を図ろうという方法論には多くの変化形がある 。
たとえば 、米カーネギー ・メロン大学教授のマ ーヴィン ・グッドフレンドは 、今から二十年近く前の二〇〇〇年に 、紙幣に発行日情報を記録した磁気ストライプを貼り付けて流通期間に応じた税を徴収することを提案している 。これは 、私の知る限り 、ゲゼルの議論の現代化における最も早い試みだろう 。グッドフレンドは二〇一七年の秋に F R B理事候補に指名されたが 、それを決めた大統領がマイナス金利に関する彼の議論を知っていたかどうかは定かでない 。》3:2
金融政策に未来はあるか(岩波新書)No. 1272/ 2633
ったりするが、単に保管するのでなく企業活動を通じて投資に用いれば価値を増やすことができるからである。彼が問題意識を持つとし
たら、そのような実物財市場で成立する利子率つまり自然利子率と、貨幣市場の利子率つまり名目金利との間の不均衡にこそ注目すべき
だったということになる。
そのこともあってか、ゲゼルの提案は、一九三○年代の大不況を経験したケインズが、三六年に世に問うた彼の代表作『一般理論(雇
用、利子および貨幣の一般理論)』で、ゲゼルを「不当に無視された予言者」と呼んで相当の紙幅を費やして議論しているにもかかわら
ず、経済学の主流からは忘れられてしまう。ゲゼルの著作が経済学者たちの間で再び引用されるようになるのには、クルーグマンが日本
で流動性の罠が再来していると指摘し、あるいはサマーズが世界は長期停滞に陥りつつあると警告するまで待たねばならなかったのである。
ところで、ゲゼルのアイディアを現代によみがえらせて流動性の罠からの脱出を図ろうという方法論には多くの変化形がある。
たとえば、米カーネギー·メロン大学教授のマーヴィン·グッドフレンドは、今から二十年近く前の二〇〇〇年に、紙幣に発行日情報
を記録した磁気ストライプを貼り付けて流通期間に応じた税を徴収することを提案している。これは、私の知る限り、ゲゼルの議論の現
代化における最も早い試みだろう。グッドフレンドは二〇一七年の秋にFRB理事候補に指名されたが、それを決めた大統領がマイナス
金利に関する彼の議論を知っていたかどうかは定かでない。
ちなみに、銀行券に課税することで事実上のマイナス金利を発生させるという議論は、日本では、慶應義塾大学教授(当時·現在は武蔵
野大学教授)だった深尾光洋が著書『日本破綻』(講談社)で、現金だけでなく政府が価値を保証している金融資産全般に課税せよという議
論として二〇〇一年に提案している。また、私自身は、前掲二〇〇四年の『新しい物価理論』で書いて以来、銀行券に発行日情報を付
し、発行者である中央銀行が銀行券の還流時に経過利子分を考慮した価額で受け入れることにすれば、銀行券には発行からの経過時間に
応じた「時価」が発生するので、あえて「税」という枠組みによらずに、プラスにもマイナスにもなる貨幣への付利が可能なはずだとい
う議論を続けてきた。私としては、そうして貨幣に生じさせた利子率自体が金融政策手段になり得るということの方に議論の力点があっ
たのだが、残念だったのは、世界で最も流動性の罠に悩んでいたはずの日本ですら、深尾や私の議論が注目されることはほとんどなかっ
たことである。
一方、法律に基づいて中央銀行が発行する通貨いわゆる法定通貨の全部にマイナス金利や時間情報を付すのではなく、法定通貨を二分
し、金融取引の基準となって利子計算などに用いる計算単位(これを経済学では「価値尺度」という)としての役割を担う貨幣と、日々の
現金取引に使われることを主として担う貨幣(これは「決済手段」と呼ばれる)とに分離し、前者だけにマイナス金利を付してはどうかと
いうアプローチもある。
このアプローチも思いのほか起源は古く, 一九三二年にロバート·アイスラーという学者が英国で刊行した"Stable Money"という
本にまで遡ることができるのだが(この本は邦訳がないので原書名をそのまま記す)、そのアイスラーの業績は、ケインズが記録しなかっ
たせいだけではないだろうが、最近は現金廃止論者にもなったブイターにより二〇〇五年に再発見されるまで、ほぼ完全に忘れ去られて
いた。ブイターは、このアイスラーのアイディアを発展させて、紙の現金をいったん回収しマイナス金利賦課が可能な電子マネー型の現
金に移行させ、それとは別に日常的な決済手段としての役割を担わせる紙の銀行券を別の通貨単位で新たに発行する、ということを提案
している。また、米コロラド大学教授のマイルズ·S·キンボールは、それをより実践的にするという文脈から、現在流通している紙の
銀行券とは別に電子化された中央銀行通貨を新たに作り出し、すでに流通している紙の銀行券は課税などの方法により減額して回収する
という提案を行っている。
改めて考えてみると、ビットコインのような仮想通貨の普及によって、大きなストレスを感じることなく分散型の貨幣価値交換ネット
ワークに接することが可能になった現代でマイナス金利を導入するのならば、流通する通貨全体に利子を発生させようとするゲゼル=グ
ッドフレンド型のアプローチよりも、通貨を価値尺度通貨と決済手段通貨とに二分するアイスラー=ブイター型のアプローチの方が優勢
になりそうである。そんなこともあるので、私も二〇一六年の『中央銀行が終わる日』では、情報ネットワークで共有あるいは認識でき
る貨幣的な価値を「デジタル銀行券」とでも呼んで価値尺度通貨として位置付け、紙でできた銀行券は「アナログ銀行券」とでも呼ん
で、そのデジタル銀行券に対するオープンエンド型投資信託受益証券のようなものとして制度全体を再構築することを提案し、次のパネ
ル3-3のような図を描いているのだが、その説明は長くなるのでここではやめておこう。こうすることの意味(単なる「マイナス金利付
き現金」では得られない意味)は、後でもう1度触れるが、それはともかく、現代の情報技術を使えば、こうした方法でケインズの流動
性の罠に嵌らないような現金システムを作って金融政策に生かすこと自体は、すでに現実に採用可能な選択肢になりつつあるといえる。
岩村充はゲゼルマネーがすべての問題を解決するとは書いていないがそれでも金融危機を回避するものという認識を図解で提示している。
ただし巻末で提示される岩村充の理想とする仮想通貨ミダス(仮)が曖昧なものとなっているのは(深層心理的に)複数通貨を是としないからだろう。
(ゲゼル案は錆びる紙幣とIVAとに必然的に二分される)
信用が循環論法になるのは構わない。むしろ複数の貨幣が循環し、その循環するサイクルがそれぞれ別であるべきだ。
金融政策に未来はあるか(岩波新書)
参考文献
Agarwal, Ruchir and Miles S. Kimball, "Breaking Through the Zero Lower
Bound" IMF Working Papers, 2015
https://www.imf.org/en/Publications/WP/Issues/2016/12/31/Breaking-Through-the-Zero-Lower-Bound-43358
Buiter, Willem H., “Overcoming the Žero Bound: Gesell vs. Eisler. Discussion
of Mitsuhiro Fukao's "The Effects of 'Gesell'(Currency) Taxes in Promoting
Japan's Economic Recovery"" International Economics and Economic Policy,
2005
Buiter, Willem H., "Negative Nominal Interest Rates: Three Ways to Overcome
the Zero Lower Bound" North American Journal of Economics and Finance,
2009
Eisler, Robert, "Stable Money" The Search Publishing Co., London, 1932.
Friedman, Milton, "The Optimum Quantity of Money: and Other Essays
Aldine Publishing Company, Chicago, 1969
Gesell, Silvio, "The Natural Economic Order" translated by Philip Pye M. A.,
based on 1920 edition.
Goodfriend, Marvin, "Overcoming the Zero Bound on Interest Rate Policy"
Journal of Money, Credit and Banking, 2000
Iwamura, Mitsuru and Tsutomu Watanabe, “Price Level Dynamics in a Liquidity Trap" RIETI Discussion Paper Series, 2002.
Kimball, Miles S., "Negative Interest Rate Policy as Conventional Monetary
Policy" National Institute Economic Review, 2015.
Krugman, Paul R., "It's Baaack! Japan's Slump and the Return of the Liquidity
Trap" at the Official Paul Krugman Web Page on MIT, 1998.
also at Brookings Papers on Economic Activity, 2, 1998.
Sargent, Thomas J. and Neil Wallace, "Some Unpleasant Monetarist
Arithmetic" Federal Reserve Bank of Minneapolis, Quarterly Review, 1981.
Sims, Christopher A., "A Simple Model for Study of the Determination of the
Price Level and the Interaction of Monetary and Fiscal Policy" Economic
Theory, 1994
返信削除日本語文献については本文中に著者名と出版社および出版年等を記しておいたので,
ここでは英語文献のうち本書の内容に直接関係するものに絞って記載しておく. こうし
た文献一覧を作成するときは, どれを選択してどれを外すかにつき迷ってしまうことが
多いのだが,今回は, 日本銀行の金融研究所長から大阪経済大学に転じた高橋亘教授よ
り多くの助言を得ることができ, こうしたことが不得手な私にしては珍しく,簡潔にし
て有用なリストを作ることができたように思う.高橋教授への感謝の気持ちをここに記
しておきたい. なお, インターネットで入手可能な文献に関し。ては, 2018年2月時点
でリンクが確認できるURLを追記しておいた。
5つ星のうち5.0私たちは歴史の端境期に立っているのかも知れない
返信削除2018年9月20日
形式: 新書Amazonで購入
世の中には名の知られた経済評論家やエコノミストは数多くいます。そして彼らの知識や経験は豊富にあります。彼らは失われた20年と呼ばれる日本の低成長経済、GDP比で膨れ上がった政府債務、日銀による異次元緩和等、解説や問題点の指摘、場合によっては政権や日銀への厳しい批判をされる訳です。その一つ一つの指摘は正しいのでしょう。しかし一通り問題点を並べたてた後、打開策を提言するにあたり彼らがお決まりのように構造改革や成長戦略を持ち出してくる(しかも何ら具体性がありません)ことに少なからず違和感を感じていました。もうそんな事はもうずっと昔から取り組んでいる、分かり切った話だからです。
しかし岩村氏はそこに留まらず「現代の金融システムそのものに欠陥があるのではないか」ということを軸に論を展開していきます。つまり現代の金融システムとは継続的な経済成長が前提の仕組みであり、その経済の成長が止まったとき、縮小に転じたときに正常に機能するか試されていない仕組みではないかとしています。成長し続ける経済というのは人類の歴史でここ150年くらいの特異的な出来事に過ぎません。経済成長はあって当たり前ではないのです。だとすれば成長への努力が続けられることは当然だとしても、一方でそうならなかった時にシステムが機能不全を起こさないよう準備するべきで、現状その備えが出来ていないことに岩村氏は危機感を抱いているようです。そしてその彼が思い描く将来の金融システムの鍵は暗号通貨にあります。
興味深かったのは「政府は物価水準のプロデューサーで中央銀行は物価の坂の演出者である」との表現です。中央銀行は物価を動かすことは出来ず、その金融政策は将来の豊かさを前借りすることはあっても、経済そのものを良くすることは出来ません。そして現状、日本を始めとする世界の中央銀行は将来の豊かさを目一杯借りてきているように思われます。
仮に岩村氏が思い描くような金融システムの刷新がされたとしても、前借りが消えてハッピーな未来がやってくるという単純な話ではありません。ただ、その準備をすることで機能不全による金融システムの突然死は避けられるということなのだと思います。金融システムの突然死とは恐慌のことですが軽くみてはいけません。1929年の世界恐慌は第二次世界大戦を引き起こしたからです。考えてみると、暗号通貨によるマイナス金利は実質的な課税と同じですが、金融システムの崩壊によっていっぺんに返済を迫られるか、マイナス金利によってゆるやかに返済を迫られるか、あるいはインフレか。私たちに待ち構えているのは今後の負担の在り方とその覚悟なのでしょう。中央銀行は経済の実体は変えられず、出来ることはショックの緩和であって、これが「坂の演出者」と言われる所以です。
借りたものはどこかで返さなくてはならない時が必ずやってきます。公平な負担の在り方としては、個人的には暗号通貨によるマイナス金利に軍配が上がるかに思えますが、マイナス金利は未知の領域で現代の経済システムで正常に動くかどうかは保証の限りではありません。(例えば住宅ローンを組むと利子としてお金が貰えるという世界です)そういう意味では私たちは歴史の端境期に立っているということであり戦慄を覚えさせられます。果たしてこの先世界はどこへ向かっていくのでしょうね。
本書は私のような経済の専門家でなくとも理解出来るように、なるべく分かり易いように説明されている努力を感じますが、それでもやはり難しい部分があり、一読するだけでは足りず何度も読み返しました。恐らく岩村氏の著作は私たち一般国民が現在の金融システムの問題そして理解を進める上で最も近いところにいるのではないでしょうか。
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293 金持ち名無しさん、貧乏名無しさん (ワッチョイ 233c-mVFY)[sage] 2019/07/06(土) 01:19:17.66 ID:XCfSx/Ua0
返信削除>>283
S&Pグローバル前副会長 ポール・シェアード 黒田緩和修正 私の診断 日経 8.29
今回の政策調整は「枠組みの強化」の効果はなく、むしろ2%のインフレ目標への信任を損なう。
長期金利のゼロ%への誘導を少し柔軟にしたのは市場機能の阻害への懸念からで、目標到達
予想をさらに遅らせたのと同時に、一段の緩和ではなく当初からの自明の懸念に対応したのは問題。
金融機関の収益への不満も理解できるが、民間への貸出金利は市場機能を通じで決まる。金融
仲介という「尻尾」が金融政策という「犬」を振り回してはならない。
フォワードガイダンスの微調整では、来年10月予定消費税増税の副作用を懸念した。日銀は目標
達成へ何でもすると言いながら、政府の財政健全化を支援する姿勢をみせ、消費者の購買力を消
耗させる逆効果の政策に一役買おうとしている。デフレ克服への政府と日銀の協調姿勢が問われる。
20年に及ぶ日銀の苦闘から得られる教訓は、金融政策だけでは不十分で、財政政策と一体で
機能すべきだということ。
中央銀行が最大限の努力をする際、財政は拡張的な姿勢を保ち金融政策を支援すべきだが、
実際はブレーキを踏んできた。人々が政府・日銀の能力と意思を疑えば、インフレ目標は実現しない。
日銀は消費者物価の上昇率の実績が安定的に2%目標を超えるまで資金供給量の拡大を続け
る方針を示す。政府は次の消費増税の時期を、この条件に結びつけると表明すべきだ。経済の不安
要素を取り除くほか、政府・日銀の強調姿勢への信認が高まりひいては金融政策の有効性も増す。
増税延期への反発も予想されるが、日本の財政の窮状はデフレによる税収減にも一端がある。デフ
レとの闘いと財政健全化を同時に追求するのは誤りであり、逆効果だ。
296 金持ち名無しさん、貧乏名無しさん (ワッチョイ 233c-mVFY)[sage] 2019/07/06(土) 01:38:07.42 ID:XCfSx/Ua0
返信削除>>294
せやから、>>5の要件を満たしているから日本国債は安全資産で
日本は世界一の対外純資産国で、経常収支が継続して黒字だから、海外に資本を
頼る必要はないから、国債が海外に渡るろいうようなことは原理的にない。
外人が日本国債を買うのは、マクロでみればドルの供給でしかない。