カレツキ:後述
「もし中央銀行が大蔵省証券を割り引くことによって「国内輸出」がファ
イナンスされるならば,政府が獲得する紙幣は資本家たちの手に渡る。これ
らの紙幣は流通圏内にとどまるか, さもなければ結局は中央銀行への信用の
返済に利用されることになる。ある期間中の資本家たちの利潤は,通貨量の
増加と中央銀行への負債の返済の合計額だけ増加するが,この合計額は「国
内輸出」に等しいのである」 (ibid., p. 169, 邦訳 20 ページ)。
ここで想定されているように,「国内輸出」が始動するとき,それに等しい
額だけ貨幣供給が増加するならば, クラウディング·アウトが発生することは
当然ありえない。またここで注目すべきことは,貨幣は信用の供与とともに創
造され,負債の返済とともに破壊されるという見解が明示的に取り入れられて
いることである。このことからも理解されるように,カレツキの取り扱う貨幣
とは商品貨幣ではなく信用貨幣なのである。
ピグー効果 pigou effect:補記 カレツキの反論
https://nam-students.blogspot.com/2019/07/pigou-effect.html@
Pigou
[1943] The Classical Stationary State, EconomicJournal 53,
Kalecki, M. (1990b[1944]), "Professor Pigou on The Classical Stationary State': A Comment" in Osiatyriski, J. ed., Collected Works of Michal Kalecki, Vol. I, Capitalism: Business Cycle and Full Employment, Oxford, Oxford University Press☆
https://www.amazon.co.jp/Collected-Works-Michal-Kalecki-Capitalism/dp/0198285388
ミッチェル2019#14
https://nam-students.blogspot.com/2019/06/mitchell2019.html#14
小島論考
ピグーとケインズ
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/232737/1/kronso_189_1_183.pdf
小島論考
ピグー効果
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/216826/1/kronso_187_2_1.pdf
鍋島2001年201,202,203,204,205~9
第9章
ポスト·ケインズ派貨幣理論とカレツキ
201
日のポスト·ケインズ派の枠組みときわめて整合的なものである。というより
も、「インフレーションのコンフリクト理論」はカレツキの思考の発展とみる
ことができる」(Sawyer L1985」 p. 285, 邦訳 341 ページ)と言ったほうが正確であ
ろう。
4. 政府支出と銀行政策
内生的貨幣供給理論のもつ政策的含意の一つに,政府支出の増加が利子率の
上昇を通じて民間投資を抑制することはない,ということがある。というの
は、貨幣供給が内生的である場合,政府支出の増加にともない貨幣供給も増加
するからである。いわゆるクラウディング·アウト効果の作用が否定されるわ
けである。すなわち、ポスト·ケインズ派の見解によれば, 「政府公債支出は
民間投資を「クラウディング·アウト」するどころか,そこには「クラウディ
ング·イン」効果が存在するだろう」(Kaldor and Trevithik [1981] p. 10)。した
がって,財政支出の拡大によって所得と雇用の増加を実現させるべきであると
いう政策的含意をもつ「有効需要の理論」は、必然的に貨幣供給の内生性をそ
の前提条件としなくてはならないはずである。
たとえばG.P.フォスターは,「r一般理論」 それ自体は外生的な貨幣供給よ
りもむしろ内生的な貨幣供給過程と整合的であるように思われるが,それにも
かかわらずケインズは、『一般理論』において貨幣量を外生的と仮定した」
(G. P. Foster [1986] p. 956)と述べて、ケインズは『一般理論』においても貨
常供給の内生説をとるべきであったと主張する。そしてフォスターは, ケイン
スが「一般理論」において外生説をとったことが, IS-LMの枠組みにもとづ
くケインズ解釈に正当性をあたえるとともに,マネタリズムの台頭を許す結果
となってしまったのだと論じている。いうまでもなく, IS-LM の枠組みにお
*(は,財政支出が増加するときには利子率が上昇し,そのために民間投資が
抑制されるというクラウディング·アウト現象が発生する。だが,それでは財
政的拡張によって国民所得が増加するという『一般理論」の政策的メッセージ
第11部 カレツキ
202
と矛盾する結果となってしまう。これは IS-LM 体系が外生的貨幣供給という
仮定に依拠しているためである。このように,貨幣供給に関する仮定いかんに
よって,財政政策の効果はまったく異なってくる。
カレツキは,早くから政府支出のファイナンスの問題についての考察を行
なっていた。「外国貿易と「国内輸出」について」(Kalecki [1933b])では、
軍備·失業手当·公共事業といった政府支出を「国内輸出」 と名づけ, これら
は資本家消費·投資と並んで利潤を増加させる要因になると論じている。した
がって「国内輸出」は,外国貿易黒字と同様に景気上昇を刺激する役割を演じ
るのである(ibid., pp. 167-8,邦訳 19 ページ)。そしてカレツキは,政府支出の
資金源として,(1) 国債の発行による国内の資本家からの借入, (2) 中央銀行に
よるファイナンス,の二つについて検討している。まず第一の国債発行の場合
には,階級全体としての資本家は,借入証書と引き換えに政府に貨幣を貸し付
ける。ここで労働者貯蓄を捨象すれば, その貨幣は商品の購入を通じて再び資
本家たちのもとに還流することになる。すなわち「国内輸出」と同額だけ彼ら
の利潤は増加する。さらに重要であるのは,第二の中央銀行によるファイナン
スの場合である。これについてカレツキは次のように言う。
「もし中央銀行が大蔵省証券を割り引くことによって「国内輸出」がファ
イナンスされるならば,政府が獲得する紙幣は資本家たちの手に渡る。これ
らの紙幣は流通圏内にとどまるか, さもなければ結局は中央銀行への信用の
返済に利用されることになる。ある期間中の資本家たちの利潤は,通貨量の
増加と中央銀行への負債の返済の合計額だけ増加するが,この合計額は「国
内輸出」に等しいのである」 (ibid., p. 169, 邦訳 20 ページ)。
ここで想定されているように,「国内輸出」が始動するとき,それに等しい
額だけ貨幣供給が増加するならば, クラウディング·アウトが発生することは
当然ありえない。またここで注目すべきことは,貨幣は信用の供与とともに創
造され,負債の返済とともに破壊されるという見解が明示的に取り入れられて
いることである。このことからも理解されるように,カレツキの取り扱う貨幣
とは商品貨幣ではなく信用貨幣なのである。
政府支出のファイナンスについて,より詳細な分析が行なわれているのは
第9章 ポスト·ケインズ派貨幣理論とカレツキ
203
「完全雇用の政治的側面」(Kalecki [1943])である。まずカレツキは,政府が
借入によって支出を増大させるさいに,公衆は, 自らの投資と消費を削減する
ことがないとすれば,政府に対して貸し付けるための貨幣をどこで手に入れる
のだろうか,と問う。彼は次のように答えている。はじめに,政府は,財や
サービスの供給者たちに対して政府証券で支払いを行なうものと想定しよう。
しかしそれらの供給者たちは,政府証券をそのままのかたちで保有することは
なく,政府証券を利子生み資産として保有しようとする個人と企業にそれを売
却して,他の財やサービスを購入する。このようにして公衆は彼らの消費と投
資を削減することなしに,政府に対する貸付を行なうことが可能となる。この
場合には政府証券の発行額は政府支出と等しくなり,その額だけ資本家の利潤
は増大することになる。しかしながら,「現実には,政府はサービスに対して
証券ではなく現金で支払いを行なう。しかし政府はそれと同時に証券を発行
し,それによって現金を放出しているのである。これは,上に述べた想像上の
過程と同じことになる」(ibid., p. 348)。だが,公衆が政府証券の保有を増加させようとしなければどうなるのだろう
か。そのときには,
「公衆は、最終的には,現金(紙幣あるいは預金)と引き換えに,銀行に対
して政府証券を売りに出すであろう。銀行がこれらの売却の申し出を受け入
れるならば、利子率は維持されるであろう。もしそうでなければ証券価格が
下落し、このことは利子率の上昇を意味しているので,公衆が預金との関係
においてより多くの証券を保有するように仮促すであろう。したがって、利子
率は、銀行政策,とくに中央銀行の政策に依存しているということになる。
もし中央銀行の政策が利子率を一定の水準に保つことを目的としているなら
ば、政府借入の量がどれほど大きくとも, そのことは容易に達成されるであ
ろう。それが今次の戦争における状態であったし,現在でもそうである。天
文学的な財政赤字にもかかわらず, 1940 年初め以降, 利子率はいささかの
上昇も示していないのである」(ibid., p. 348, ( )内は原著者のもの)。[邦訳と別バージョン]
すなわち,中央銀行は,利子率の大幅な変動を回避することを主な目標票とし
て行動していると,カレツキは見なしているのである。この場合,中央銀行
第11部
カレツキ
204
は,民間銀行からの政府証券の割引の申し出を受け容れざるをえない。その
果,政府支出の増大とともに貨幣供給は増加してゆくことになるので,利子波
が上昇することはない。要するに,中央銀行にとって制御可能であるのは貨敬
供給ではなく利子率であり,中央銀行の責務は,金融市場の安定的秩序を維技
するために利子率を一定の水準に保つことにあるというのが,中央銀行の政策
運営についてのカレツキの見方である。
さらに「完全雇用への三つの途」(Kalecki [1944a])にも,これと同様の叙
述が見られる10)。財政赤字は利子率の上昇を引き起こして,民間投資の減少を
もたらすのではないかという疑問に対して,カレツキは次のように答えてい
る。「適切な銀行政策があたえられるならば, どれだけ財政赤字が大きくなろ
うとも,利子率は安定的な水準に維持されるであろう」(ibid., p. 360)。次い
で,もし公衆が政府証券を保有しようとせず,さらに銀行も十分な現金準備を
欠いているために公衆に代わって政府証券を購入しようとしないならば,利子
率は上昇してゆくにちがいないと言う。
「もし中央銀行が規定
しかしながら,
された現金準備備率を維持する一方で,民間銀行が預金を十分に増加させること
ができるように彼らの現金準備を増加させるならば,利子率の上昇傾向はなん
ら発生しないであろう」
p. 360)。
すなわち,中央銀行が十分な量の準備
(ibid.,
の供給を行なうならば,民間銀行は,
預金を増加させて,政府証券を購入する
ことが可能になるので,証券価格の下落と利子率の上昇が生じることはないの
ここでは,金融調節の目標が利子率を一定の水準に維持することにあ
である。
るかぎり,政府が証券の発行を行なうときには,民間銀行がそれを購入するこ
とが
できるように,中央銀行は追加的な準備の供給を行なわなくてはならない
ということが指摘されている。
このように, ベース·マネーが需要に応じて内
生的に供給される場合には,
政府支出が増加しても,
利子率の上昇が生じて民
間投資が抑制されることはないのである。そもそも,「財政赤字はそれ自らの
資金を調達する」(ibid.., p. 358) という経済
においては,クラウディング·ア
ウトが発生することはありえない。遊休している資本設備や労働力が存在
する
かぎり,政府支出の増加が民間投資を抑制することはないだろう。
以上において見た政府支出のファイナンスに関するカレツキの考察は, P.
第9章 ポスト·ケインズ派貨幣理論とカレツキ
205
デヴィッドソンの貨幣供給分析の枠組みにおいても解釈することが可能であ
る。デヴィッドソンは,貨幣供給には二つの異なる制度的な過程があることを
指摘している(Davidson [1977] pp. 290-2, Davidson [1994] pp. 135-6(邦訳 162-4
ページ)を参照)。第一のケースは, 「所得創出金融過程」 (income generating-
Gnance process)と呼ばれ,この過程では,支出の増加を行なおうとする個人·
企業·政府·外国人が銀行組織と追加的な債務
契約を結ぼうとする。
そしてこ
の契約が銀行によって承認されるならば, 銀行の追加的な私的債務が発行さ
れ、その結果として貨幣供給は内生的に増加する。第二の方式,「ポートフオ
リオ変更過程」(portofolio-change process) では,貨幣当局が公開市場操作を通
じて公衆から債券を吸い上げることにより,貨幣供給の増加がもたらされる。
これは外生的貨幣供給のケースに相当する。カレツキの分析においては,いわ
ゆる「国内輸出」の増大にともなって中央銀行による政府支出のファイナンス
が行なわれ,国内輸出に等しい額だけの通貨量の増加が生じるとされている。
これは,所得創出金融過程の典型的なケースと見なしてよい。この点に照らしてみても、
カレツキが貨幣供給の内生性を明示的に認識していたことが分かる。
本節ではもっぱら政府支出のファイナンスを検討の対象としたが,これと同
じメカニズムは民間支出についても等しく当てはまる。政府支出の増加,貨幣
賃金の上昇,産出水準の上昇などによって貨幣需要の増加が生じると,それに
対して銀行信用を通じた弾力的な貨幣の供給が行なわれる。カレツキの理論体
系にあっては,貨幣供給が「信用によって誘発され,需要によって決定され
る」ことはもはや明らかである。
5. ピグー効果をめぐって
内生的貨幣供給理論のもつ重要な含意の一つとして,貨幣供給が内生的であ
る場合には, ピグー効果、ないしは「実質残高効果」が作用しなくなるという
ことがある。すなわち,主流派経済学の見方によれば,貨幣供給は外生的であ
るとされているので,不況期に賃金切り下げが行なわれ,その結果として物価
水準が下落するときには,貨幣の実質残高の増加を通じて消費支出が刺激さ
れ,これに続いて産出と雇用の水準が上昇する。このようなかたちでピグー効
果が作用するならば,「不完全雇用均衡」というものは成立しえず,それは完
全雇用均衡にいたる途上にある「不完全雇用不均衡」にすぎないこととかス
この場合には,ケインズとカレツキの有効需要理論の体系は一般均衡体系に」
摂されてしまう!1)。これとは反対に貨幣供給が内生的であるとすれば,不期
には,産出量の減少と平行して貨幣供給も減少するので,賃金の切り下げに
よって一般物価水準が下落するとしても,貨幣の実質残高が増加することはな
い。このため,ピグー効果が作用しなくなるので, 不完全雇用均衡の存在を論
証することが可能となる。ムーアが語るように,「名目貨幣ストックが銀行信
用に対する総需要に内生的に対応するということが一度認識されるならば,実
質残高効果のすべての概念は消失するのである」(Moore [1988] p. 198)。この
ように貨幣供給が内生的であるのか否かという問題は,理論的な観点からも無
視しえぬ重要性をもっている。
カレツキは,「ピグー教授の「古典派的定常状態」: 論評」(Kalecki [1944b])
において,貨幣供給の内生性を前提とする立場からピグーの見解に対する批判
を行なっている。それはピグーの論文「古典派的定常状態」(1943年)が公刊
された翌年のことであり,この論文に対する批判としては,おそらく初めての
ものである。まずカレツキは,所得水準が低下するとき,銀行組織は貨幣ス
トックを一定に保つという仮定をピグーがおいていることを指摘する。ピグー
によれば,失業が存在するときには,労働者のあいだで賃金切下げ競争が発生
し,これによって物価水準の下落がもたらされる。その結果,貨幣需要が減少
することによって利子率は低下する。このことは貯蓄性向を低下させて消費需語
要の増加を引き起こすので,雇用の増加につながるだろう。しかしながら,ビ
グー自身も認めているように,たとえ利子率がゼロに近い水準まで低下したと
しても,それだけでは完全雇用を実現するには不十分であるかもしれない。
こでピグーは,そのことに加えて,賃金と物価が下落するときには既存の資座
の実質価値が増大することに注目する。その結果、人々の消費が増加して,
第9章 ポスト·ケインズ派貨幣理論とカレツキ
207
「定常状態」としての長期的な完全雇用均衡が達成されるであろうと言う。こ
れが今日,「ピグー効果」と呼ばれているものにほかならない。
これに対して,カレツキは次のように論じて,ピグーの見解を否定する。
「もしすべての貨幣(現金と預金)が個人と企業に対する債権によって
「裏づけられている」とすれば,すなわち,もし銀行組織のすべての資産が
そのような債権から構成されているとするならば,貨幣ストックの実質価値
の増加は諸資産の総実質価値の増加を意味しない。というのは,この場合,
貨幣保有者の利得には,銀行の債務者のそれに等しい損失が対応しているか
らである。資産の総実質価値は,貨幣が金によって裏づけられている程度に
応じてしか増大しないのである」(ibid., p. 343, ( ) 内は原著者のもの)。
たとえば,すべての貨幣が金準備によって裏づけられているような商品貨幣
経済においては,賃金切り下げによって引き起こされるデフレーションは,経
についての純資産総額の増加をもたらす。これに対して,貨幣が債権·
債務から成る信用貨幣経済においては, デフレーションは債権者の購買力を増
加させる一方で,債務者の実質的な負担を増大させる。こうして債務者から債
権者への購買力の移転が発生し,債務者の支出が減少することによって、ピ
グー効果の働きは相殺されてしまうことになる。したがって,金ストックが国
民資産の額に比べて著しく小さいならば,完全雇用所得からの貯蓄がゼロであ
るような点に到達するためには,大幅な賃金切り下げと物価水準の下落が必要
とされるであろう。しかし,とカレツキは言う。
「必要とされる調整は,負債の実質価値を破滅的に増大させ,その結果,
全般的な破産と「確信の危機」をもたらすであろう。おそらく,そのような
「調整」が最後まで成し遂げられることは決してないだろう。 もし労働者が
無制限な賃金切り下げ競争のゲームをあくまで続けるならば, 雇用主からの
圧力のもとに,政府は賃金ストップを導入するであろう」(ibid., p. 343) 12)。
ここで「賃金ストップ」とは,失業保険給付が在職時の賃金水準を上回るこ
ある。賃金切り下げ競争が繰りひろげられるとのないようにする政策のことで
なかで賃金ストップが導入されるならば,労働者の困窮は目に見えて厳しくな
るので,労働者は,そのような破滅的な競争をつづけることの愚かさに気がつ
き、賃金切り下げに強く抵抗するようになるだろうというのが,カレツキの予
測である。カレツキは,賃金と物価の切り下はこのような見解にもとづいて,
を通じて産出水準を上昇させるという方法は, 労働者に途方もない犠牲を負わ
せるだけでなく,またそのようなシナリオは, 労働者の側での抵抗を考慮する
ならば実現しそうにないと看破したのである。
物価水準の下落は,貨幣価値の上昇を通じて債務者の負担を増加させるの
で,そのことは不況のいっそうの深刻化につながるであろうというカレツキの
主張が,アーヴィング·フィッシャーの「大不況の負債デフレーション理論」
(Fisher [1933])とほぼ同じ内容を含んでいるのは興味ぶかいことである。よ
く知られているように,負債デフレーションに関するこのような見方は,ミン
スキーの「金融不安定性仮説」において継承されている13)。
カレツキのピグー批判の要諦は,信用貨幣経済においては,賃金切り下げに
よる物価の下落は債務者から債権者への購買力の移転をもたらすのみで,社会
全体の資産の実質価値を増加させることはないという点にある。J.トービン
は,カレツキの貢献の意義について,適切にも次のように述べている。「ピ
グーの最初の試みは,不発に終わった。貨幣に数えられる銀行預金も含めて,
民間の保有する金融資産の大部分に直接また間接に対応する負債があること
を,カレツキが論文によってピグーに思い起こさせた」(Tobin [1980] p. 6, 邦訳
20 ページ)14)。さらにカレツキが示唆したように,貨幣ストックが一定である
というピグーのおいた仮定をひとたび取り除くならば,ピグー効果が作用する
余地は完全になくなってしまうのである。
以上のように,カレツキは, (1) 貨幣には「内部貨幣」と「外部貨幣」の2
種類が存在するので,物価水準の下落が資産の実質価値の増加をもたらすこと
はない, (2) 貨幣ストック一定という仮定は現実には妥当しない,すなわち貨
幣供給は内生的である,という二つの論拠にもとづいて,ピグー効果の働きに
よって総需要が増加するという経路の存在を否定した。ケインズは、カレツキ
の批判に対して応答するようピグーに懇請したが,なぜか彼は論評の意思がな
いことをケインズ宛の書簡で表明したという (Kalecki [1990] p. 567 を参照)。
カレツキによるピグー批判は,単に抽象的な経済理論の世界において意味をも
つにとどまらず,それはまた,不況の解決策としての賃金切り下げに反対する
さいの有力な根拠をあたえるという政策論上の意義をも併せもっている。それ
にしても,理論の本質を鋭く見抜き,それを現実世界との関連において解釈す
るカレツキの慧眼には端倪すべからざるものがある。
6. おわりに
われわれは,
ここまで内生的貨幣供給理論を媒介環としながら,
ポスト·ケ
インズ派貨幣理論とカレツキの理論との統合の可能性を探ってきた。それを通
じて,インフレーション論,財政政策論,賃金政策論の各領域において,
貨幣
供給
についての仮定が重要な意味をもっていること,そしてカレツキの見解は
内生的貨幣供給理論を展開しているポスト·ケインズ派の主張と完全に整合的
であることが確認された。
だが内生的
貨幣供給理論とは,
単にこれらの政策論
議において重要性をもつにとどまるものではない。
それは貨幣理論をはじめと
分析, 利子理論,有効需要の理論,
して,
IS-LM
経済成長論に至るまで,マ
クロ経済学の広範な領域にわたっての再検討を迫る内容を包含している。
内生
的貨幣供給理論とは,
ポスト·ケインズ派の理論体系のあらゆる側面と分かち
がたく結びついており,その礎石としての役割を果たしているのである。
こう
した広がりのなかでカレツキの洞察をとらえ直してみるならば, よりいっそう
ポスト·ケインズ派貨幣理論との親和性が浮かび上がってくるであろう。実体
的分析についてはもちろんのこと,貨幣的分析に関してもポスト·ケインズ派
はカレツキに負うところが大きいのである。
しかしながら,貨幣的分析といっても,
主にこケインズの洞察にしたがう従来
のポスト·ケインズ派貨幣理論は,
ゼロの生産の弾力性とゼロの代替の弾力性
という貨幣の基本的性質に注目し,不確実な環境のもとでの貨幣の退蔵が有効
需要の水準に決定的な影響を及ぼすのだということを強調してきた。これに対
して,カレツキは,貨幣の本質について論じることはほとんどなかった。彼
は,「危険逓増の原理」の展開に見られるように、
貨幣それ自体というよりは,
トービン
マクロ経済学の再検討 : 国債累積と合理的期待 (日本経済新聞社): 1981 ...^1980
マクロ経済学の再検討 : 国債累積と合理的期待. ジェイムス・トービン 著,浜田宏一, 藪下史郎 訳 ... 別タイトル, Asset accumulation and economic activity:reflections on contemporary macroeconomic theory.
ポール・デヴィッドソン(Paul Davidson、1930年10月23日 - )は、ニューヨーク市生まれのアメリカ合衆国の経済学者。アメリカにおけるポスト・ケインジアンの中心のひとりである。師はシドニー・ワイントラウプ(Sidney Weintraub)である。
- Post Keynesian Macroeconomic Theory: a foundation for successful economic policies for the Twenty-first Century, 1994
- 『ポスト・ケインズ派のマクロ経済学――21世紀の経済政策の基礎を求めて』、渡辺良夫・小山庄三共訳、多賀出版、1997年
The Keynes and Classics series so far is:
- Keynes and the Classics – Part 1 – explains how the Classical system conceived of labour supply and demand and how these come together to define the equilibrium level of the real wage and employment.[#11:166,167]
- Keynes and the Classics – Part 2 – explains how the labour market determines the level of employment and real wage, which in turn, via the production function set the real level of output.[#11169,171,173]
- Keynes and the Classics – Part 3 – tied the previous conceptual development into the denial that there could be aggregate demand failures (Say’s Law), introduced the loanable funds market and discussed the pre-Keynesian critique (Marx) of the Classical full employment model.[#11:173,174]
- Keynes and the Classics – Part 4 – which began Keynes’ critique of Classical employment theory.
- Keynes and the Classics – Part 5 – continues the critique of Classical employment theory.[#15:187]
- Keynes and the Classics Part 6 – considers Keynes’ critique of the Classical Theory of Interest.[#12:189]
- Keynes and the Classics Part 7 – introduces the preliminary concepts in developing a macroeconomic theory of labour demand.
- Keynes and the Classics Part 8 – developed the three cases underpinning the possible shape of a macroeconomic theory of labour demand.[#13:197?,#14:207,208,209]
- Keynes and the Classics Part 9 - [#14:210,212] :頁数は図
http://nam-students.blogspot.jp/2015/04/blog-post_78.html
ピグー効果
解説
服部論考
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jshet1963/37/37/37_37_95/_pdf/-char/en
98~99
誰かだし, カレツキの「内生貨幣論」は単に銀行信用が貨幣であるということ以上のものを意味しない。現在, ポスト・ケインズ派の「内生貨幣論」には様々なヴァリエーションが存在する。その中でカルドアやムーアなどの「水平派」は銀行は貸付けに際し, 利子率を決めると考えている。この利子率の水準で企業が望む貸付量を銀行は必ず供給するので, 貸付量, したがって貨幣供給量を銀行は決めることはできない(Kaldor, 1982, pp. 42-8/106-16 ページ; Moore, 1988, pp. 54-7)。しかし, このような極端な主張をカレツキが持っていると考えることは必ずしもできない。例えば, 現在の日本のように銀行が貸付残高を削減しようとしているケースを考えてみよう。この時, カレツキであれ, 他の誰のであっても「内生貨幣論」は貨幣供給量も減少することを示す。しかし, この貨幣供給量の削減は銀行が意図したものであり, その意味では銀行は全体として貨幣供給量を(少なくてもある程度は)コントロールし得るのである(Sawyer, 1985, pp. 279/334ページ参照)10)。
カレツキは「危険逓増の原理」が存在するために, 企業家はその自己資金によって投資が制約されると指摘した。確実な世界では, 企業家はその投資が合理的である限り, 自己資金を持たなくても投資をすることが可能であろう。しかし, 不確実な世界では, 余剰資金の所有者は資金を貸付けないか, 貸付けたとしても高い利子を要求するであろう。自己資金が少ないと, 投資が失敗に終わった時に貸倒れになる可能性が高くなるので, このような企業に対する貸付けを資金の保有者は避けようとする。このことは同時に外部資金への過度の依存は企業経営を不安定にするということを意味するから, 企業家も外部資金を避けようとするであろう(Kalecki, 1991, pp. 277-81/106-10ページ)。
カレツキは必ずしも不確実な世界における貨幣の重要性を明示的に論じた訳ではないが, 彼の「危険逓増の原理」は資金の借り手となる企業家が不確実な世界でどのように投資資金を調達するかを論じたものであると解釈することができる。これは, ケインズの流動性選好理論が資金の貸し手となる金利生活者の資産保有の理論であったのと対になっているのである11)。さらに, カレツキは「ピグー効果」に対する批判として, 貨幣には「内部貨幣」と「外部貨幣」の両者が存在することを指摘している。預金の貸付けによってその供給量が決まる「内部貨幣」の場合, 債権と債務は相殺されるので, 財の価格引き下げは債務者から債権者に対する実質富の移転にしかならない。債権者の実質資産の増加の分だけ債務者の実質負債も増加するのである(Kalecki, 1990b, pp. 342-3)。さらに, 実際には債権者の資産の増加が消費に及ぼす影響よりも債務者の負債増加が消費に及ぼす影響の方が大きいので, 全体として有効需要は減少することになる(Palley, 1996, PP. 41-65参照)12)。
前節の冒頭では貨幣と呼ばれるものが存在するかどうかは貨幣経済と実物経済を区分する基準とはなり得ないと主張した。本節では, さらに, 私的な債務であっても社会的に信用がある限り貨幣として社会的に流通し得るものであることを示した。したがって, 貨幣の分析は債権・債務の分析と対にならなければならない。そして, 債権・債務の契約が将来に関する契約であり, 将来が不確実である限り, 貨幣の問題は不確実性の問題と切り離すことができないのである。カレツキの「内生貨幣論」と「危険逓増の原理」は何れも不確実な世界での債権・債務の契約の問題を扱ったものである。この点においてカレツキは貨幣経済学に重要な貢献を行っていたのである。4. カレツキの「有効需要論」カレッキ・モデルはマルクス的な2階級モデルである。しかしながら, 従来, この2階級モデルの貨幣的基礎は全く検討されなかったといってよい。そこで, 本節ではこの2階級モデルが貨幣経済学に持つ意味を検討する。カレツキの国民所得の決定理論では,国民所得=賃金+利潤国民所得=労働者の消費+資本家の消費+投資となる。労働者は貯蓄をしないとすると, 利潤=資本家の消費+投資となる。ここで, カレツキは利潤は資本家の支出の結果であり, 原因ではないと結論する(Kalecki, 1991, pp. 239-40/45-6ページ)。しかし, 一般均衡論は全ては全てに依存するのであり, カレツキの主張する因果関係は全くのナンセンスと主張する。しかも, カレツキにあっては労働者は逆に収入が支出を決めるのであり, 資本家の場合と因果関係が逆になっている。けれども, 先述したように, 一般均衡論が因果関係を否定するのは全ての市場が同時に調整されると考えているからである。このような市場でなく, マルクスが考えたように時間を通じて継起的に調整される経済を考えてみよう。このような市場においては貨幣の受取りと貨幣の支払いにはラグが生じることになる。この時, 貨幣を(借入れも含めて)保有しない経済主体は金融制約のために支出が制限されることになる。企業は投資のために資金を必要としている。投資は, それが成功する限り, 将来利潤をともなって返ってくるものである。また, 企業の所有する土地, 工場などは担保として銀行などに提供することが可能である。このため, 企業は, 一定の制約内で, 借入れることが可能である。それに対して, 家計の借入れは, 通常, 消費のためである。また, 資産を持たない労働者は担保を提供することはできないであろう。このため, 労働者の家計は銀行などからの借入れが難しく, また, できたとしても高い利子を支払わなければならなくなる。ただし, 同じ家計でも金利生活者の家計は, 金融資産を取り崩したり, 資産を担保に借入れることによって消費することができる。その結果, 労働者は賃金以外に消費財を購入
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経済論叢 ( 京都大学 ) 第 187 巻第 2 号,2013 年 8 月 論文 ピグーの ピグー効果 1941 小島專孝 Ⅰ. はじめに ピグーがピグー効果とは何か尋ねた, という 1) 逸話がある 実際, 一般に理解されているピグー効果の説明とピグー自身の議論とは異なるものである 一般に理解され - PDF
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1 経済論叢 ( 京都大学 ) 第 187 巻第 2 号,2013 年 8 月 論文 ピグーの ピグー効果 1941 小島專孝 Ⅰ. はじめに ピグーがピグー効果とは何か尋ねた, という 1) 逸話がある 実際, 一般に理解されているピグー効果の説明とピグー自身の議論とは異なるものである 一般に理解されているピグー効果の説明はおおよそ次のようなものである ケインズは流動性トラップ( 利子率の最低限度 ) がある時は, 実質貨幣量が増加しても利子率は低下せず, 貨幣賃金を引き下げても雇用量は増加しないことを論証した これに対し, ピグーは貨幣賃金の低下が物価下落をもたらせば, その結果, 実質現金残高が増加 貯蓄意欲の減退 消費支出増大となる ( これをピグー効果と呼ぶ ) かくて賃金や物価が下方伸縮的なら, ケインズ政策をとらなくても完全雇用となると主張した ( 加藤 [1995] 51 ページ ) 流動性トラップの状況において貨幣賃金切り下げが雇用の拡大に有効かどうかという問題をめぐって, ピグーがケインズと論争し, ピグー効果で反撃したというストーリーだが, 流動性トラップの状況という出発点から既に間違っている また, ピグーがケインズと論争したのは 年のことであり ( 論争の詳細は小島 [2011] 参照 ), そのときにはピグー効果の議論は登場していない こうした誤りが生じている理由は ピグー効果 と命名したパティンキンの提示の仕方に問題があり, 誤りが持続している理由 ( の一部, 最も大きな理由はピグーを読まないことにある ) は, パルグレーヴ事典 の ピグー効果 の項目 ( 説明は 実質残高効果 の項目 ) の執筆者がパティンキンだからである パティンキンの説明は相互に関連する次の点で問題がある ⑴ 定常状態を論じているピグーの議論を, 意図的に, 短期のケインジアン モデルの枠組みで説明したことパティンキンは,Pigou[1943] および Pigou [1947] を参考文献に挙げ, これらの文献は定常状態しか扱っていないが, その根本的議論は純投資が生じている経済に容易に拡張できる (Patinkin [1948] p. 547, n. 4) と述べる そのため, たとえば次のような相違があることはあまり知られていない 貯蓄 投資の均等ピグーの2 部門モデルでは, 貯蓄 投資の均等条件は財市場の均衡条件ではなく貸付資金市場の均衡条件である ( 小島 [2013]) ピグーの場合, 完全雇用の想定と貯蓄 投資の乖離は矛盾しない ( ただし経済は均衡にない ) ところが, パティンキンの場合,1 部門のケインジアン モデルのため, 完全雇用貯蓄が完全雇用投資を上回るならば国民所得が低下し始め, 失業が生じる (Patinkin [1948] p. 549) 物価低下ピグーの場合, 完全雇用を想定して均衡条件すべて満たされるかどうかを問題にしている 物価低下は保蔵意欲増大による貨幣の所得速度低下の結果であり, 完全雇用維持のために, 労
2 2 第 187 巻 第 2 号 働者は物価低下と同率の貨幣賃金切り下げを受けいれると仮定されている 他方, パティンキンの説明では, 失業に対して労働者が貨幣賃金を引き下げることによって対応するならば, 物価もまた低下し始める (Patinkin [1948] p. 549) また, 雇用が増大するためには, 貨幣賃金の下落率は物価の下落率よりも大きくならなければならない ⑵ 作用を分析枠組みから切り離したことパティンキンは 物価低下が実質残高を通じて貯蓄に及ぼす影響 だけを指して ピグー効果 と名付けた 2) (Patinkin [1948] p. 556) ⑶ 完全雇用の実現を自動的メカニズムとして扱うこと 3) 次のアンブロージの相違点 ⑶ 参照 ⑷ 雇用と均衡 (1941 年 ) を参考文献に挙げていないことそのため,⑵と相まってピグーのピグー効果の初出が 雇用と均衡 であることをわからなくさせている 4) アンブロージは, ピグーがピグー効果とは何か尋ねたという逸話はピグー存命中に既にピグーの分析枠組みに関する認識が一般的に消失した証拠であるといい, 一般に理解されているピグー効果とピグー自身の議論の相違を3つあげている (Ambrosi [2003] p. 257) ⑴ ピグーの議論の目的は, ケインズに対する反撃ではなく [ これは間違いである ], アルヴィン ハンセンの古典派に関する誤解に対する是正である ⑵ ピグー自身, 実践的な重要性はあまりない, と表明している ⑶ 古典的完全雇用定常状態は あらゆる状況で可能であり, 適切な賃金政策が採用されるという条件の下で実現する (Pigou [1943] p. 344) かどうかということが問題なのであって, 現実の不況や景気回復についての議論ではない また, 雇用変化は 自動的に ではなく適切な貨幣賃金 政策 によって実現する性質の ものである ところが, アンブロージはピグーのピグー効果の議論を論じておらず, また 雇用と均衡 についてもほとんど議論していない そのため, ピグーのピグー効果の初出を 1943 年論文としている 5) その結果, ケインズに対する反撃ではないという誤りを述べることになった 本郷 [2007] は, ピグー効果を 雇用と均衡 の説明の中で言及しているが, あくまでケインジアン的問題の関心の産物であって, ピグー研究の立場からみてあまり重要ではない (272 ページ ) とだけ述べて, 内容を説明していない このピグー効果についての見方には賛成するけれども, もう少し説明すべきではなかったか, とも思う 誤解は依然として流通しているし ( たとえば用語解説などにみられる ピグー効果 の叙述 ), 一般に理解されているピグー効果概念でピグーのピグー効果を論じる学説史研究も存在するからである 6) ピグーのピグー効果の議論は, 流動性トラップが存在するような短期の議論ではなく, 定常状態に関する議論である ピグーの場合, ピグー効果の役割は, 物価低下によって実質消費を増大させることではなく, 貯蓄 ( 保蔵 ) を減少させることにより, ゼロ利子率における貯蓄 投資の乖離を縮小させ, 古典的定常状態を ( 近似的に ) 実現させることである 物価低下は保蔵の増大によるのであって, 財市場に超過供給があるからでも失業が生じているからでもない 完全雇用が想定されているので, 物価が低下しても実質消費は増加しない したがって, 実質所得も雇用も増加しない また, アンブロージの相違点 ⑶のとおり, 完全雇用が自動的に実現すると主張したのではない 本稿は, ピグーの 1943 年論文 古典的定常状態 の基礎である 雇用と均衡 (1941 年 ) 第 2 編第 6 章および第 7 章を検討する 第 Ⅱ 節で 雇用と均衡 (1941 年 ) 第 2 編第 6 章におけるピグーの貯蓄関数の議論を検討する ピグー
3 ピグーの ピグー効果 のピグー効果は, 権力や安心感などの形での直接的な快適さの効用 を求めて貯蓄するという 貯蓄動機に関するケインズ的な仮定 によって生じる不都合 ( 図 2の点 B の状況 ) を解消するためのものであり, 貯蓄動機に関するケインズ的な仮定 とピグーのピグー効果は一体のものである 物的収益のためだけに貯蓄するという通常の想定 ( 貯蓄動機に関するラムゼー的な仮定 ) の下では, ピグーのピグー効果は不 7) 要である このような貯蓄動機に関する仮定, 完全雇用貯蓄関数のグラフの切片の符号, および各種の定常状態との関係 ( 表 1) について, 第 Ⅲ 節で 雇用と均衡 (1941 年 ) 第 2 編第 7 章の長期フロー均衡モデルを検討する Ⅱ. ピグーの貯蓄関数 1 議論の準備ピグーが考察するのは, 種々の大きさの可処分所得を持つ諸個人について, 可処分所得と貯蓄の割合に関する理論的関係である ピグーは, 議論の準備としていくつかの注意を述べる 1 [ 総所得について ] 租税, 法人の留保利潤など本来帰属すべき所 得の重要な部分を個人は利用できないので 総, 所得について貯蓄が所得に応じて変化する仕方に関する一般的法則を発見することは期待できない (Pigou [1941] p. 97, [1949] p. 104, 強調はイタリック ) 2 [ 統計的関係と理論的関係 ] 関心を持つ国あるいは期間についての事実を研究すべきであり, 統計的事実を知ることは価値がある しかし, それがそうであるのはどうしてなのか, ということを説明する必要は依 然残されている (Pigou [1941] p. 98, [1949] p. 105, 下線はイタリック ) 理論的関係を考察する必要はある 3 [ 個人を対象とすること ] ピグーが扱うのは個人である 社会について は相互に作用する諸力が一緒になって所得, 貯蓄, 利子率を決定するが (Pigou [1941] p. 98, [1949] p. 105), 個人については貯蓄しようと思う額がその人の所得や利子率に影響することはない (Pigou [1941] p. 99, [1949] p. 105) 社会については, ある種の不均衡状態において個人 Aの貯蓄が個人 B の所得に作用するため, 公衆が貯蓄しようと思う額と実際の貯蓄額とが異なる可能性がある しかし, 個人については貯蓄しようと思う額と実際の貯蓄額は同じである (Pigou [1941] p. 99, [1949] p. 105) 4 [ 個人の本質的類似性の想定 ] 他の事情が同じ ということを基礎とする すなわち, 一般的状況が本質的に同じであるような人について, 利用可能な所得が異なるならば貯蓄にどのような違いが生じるのか? (Pigou [1941] p. 99, [1949] p. 106) という問題を扱う 人は家族の人数が異なれば責任も異なるので, 同じような責任を有するものとする また予想についても同じとする したがって, 各人は, 貯蓄の結果は別として, 現在得ているのと同じ実質所得を将来も得ると予想し, 扶養者等について現在有しているのと同じ責任を将来も有すると予想していると仮定する 同様に, 将来の貨幣利子率と物価水準についても現在と同じであると予想すると仮定する あるいは, より正確には, そのように予想しているかのように行動すると仮定する (Pigou [1941] p. 100, [1949] p. 106) 5 [ 永遠に生き続ける個人の想定 ] さらに, 各人は永遠に生存すると予想するという幾分途方もない仮定を追加することにより, 本質を変えることなく議論をよりいっそう単純化できる (Pigou [1941] p. 100, [1949] pp ) 2 調整の遅れと消費の外部性ピグーは調整の遅れにも注意を払い, ラチェット効果の逆の場合を指摘している
4 4 第 187 巻 第 2 号 1 一般的状況が本質的に同じであるような2 人の個人について, これまで年 600 ポンドの所得を得てきており, その中から年 50 ポンド貯蓄してきたとし, そのうちの1 人の所得が年 2000 ポンドになったとする その場合, 年 600 ポンドの所得に慣れている間に新しい所得 2000 ポンドから貯蓄する割合は, 後になって年 2000 ポンドの所得に慣れるようになったときよりもずっと大きいということは確実である (Pigou [1941] p. 100, [1949] p. 107) より一般に, 所与の性格と責任を有する人が貯蓄すると予想される所得の割合は, その人が慣れている所得水準に大きく依存する (Pigou [1941] pp , [1949] p. 107) したがって, この種の曖昧さを排除することが不可欠であり, 実際に受け取っている可処分所得の大きさに慣れている個人に議論を限定する 性格の本質的類似性 というのは, 異なる所得を受け取っているにもかかわらず同じ生活水準であるということを意味するのではない 個人 Aは,600 ポンドの所得に慣れているが, もしも 2000 ポンドの所得に慣れたのであれば, 実際に 2000 ポンドの所得に慣れている個人 B と同じように行動するということを意味し, 個人 Bについても同様のことが成り立つということを意味する (Pigou [1941] p. 101, [1949] p. 107) 2 以下の議論では無関連だが, 外部性を論じたピグーならでは という指摘を記しておこう もしわれわれが個人の貯蓄額に対するその人の所得額の変化の影響を考察しているのであれば, その影響は個人 A の所得だけがたとえば半分あるいは2 倍になった場合と, 個人 A だけでなく彼の友人や隣人が皆同じ状態になった場合とでは異なるであろうということも記さねばならないであろう しかし, ここでは, 各人について実際に得ている所得を考えるから, この種の問題は生じない (Pigou [1941] p. 101, n. 1, [1949] p. 107, n. 1, 下線はイタリッ ク ) 3-1 貯蓄所得比率決定要因貯蓄所得比率を決定する要因は次の5つである 1 実質所得 2 利子率 物価変化が予想されないわれわれの仮定では, 実質利子率と貨幣利子率の相違はありえない (Pigou [1941] p. 102, [1949] p. 108) 3 時間選好率 4 消費 - 限界効用曲線ピグーが consumption marginal utility curve あるいは, 簡単化および音の響きのため, 消費効用曲線 consumption utility curve と呼ぶ もの 典型的に構成される個人 [ 代表的個人 ] が, 慣れている種々の所得水準から消費に向けるときに得る限界効用の表 (Pigou [1941] p. 103, [1949] p. 109, 下線はイタリック ) 5 貯蓄保有の快適価値 (amenity value of having savings,pigou [1941] p. 105, [1949] p. 111) 権力, 安心感などの形での直接的な快適さの効用の現在価値 ( Pigou [ 1941 ] p. 103, [1949] p. 109) であり, 代表的個人が現在貯蓄の限界単位を保有することから得ると期待するもの その限界単位が生む将来所得から期待する効用とは別のものである (Pigou [1941] p. 103, [1949] p. 109) 3-2ゼロ貯蓄条件貯蓄保有の快適価値がゼロでない場合, 貯蓄 ( および負の貯蓄 dissavings) がゼロとなるのは, 次のいずれかが成り立つ場合である 1 時間選好率 q から修正項 v を差し引いたものと利子率 r との均等 2 消費- 限界効用曲線の問題の部分が絶対的に非弾力的, あるいはほとんど絶対的に非弾力的, このことは代表的個人が実際きわめて貧
5 ピグーの ピグー効果 しいことを意味するが, そのときには何も貯蓄せず何も取り崩ししない [ 負の貯蓄をしない ] (Pigou [1941] p. 105, [1949] p. 111) 4 異時点間最適消費とピグーの貯蓄関数ピグーは貯蓄関数を, 定常状態の経済学 (Pigou [1935]) と同様, 代表的個人の異時点間最適消費問題から導出している (Pigou [1941] pp , n. 2, [1949] pp , n. 2) 1 われわれが比較する諸個人は, 貯蓄からの果実を別にすれば, 現在と同一の所得を将来も得ると予想する ( Pigou [ 1941 ] p. 114, [1949] p. 120) と仮定する 人が貯蓄を n 年間投資したままにして毎年その収益を消費し,n 年後に元金を引き出して消費することを意図するとき, 今年貯蓄しようと望む所得の割合は,n が小, 大, または無限大であるかによって異なる ピグーは次のチャンパーナウンがピグーに提示した仮定を採用する すなわち, 今年貯蓄したものは元金として永久に保蔵し, 翌年以降は今年の貯蓄割合と同じ割合で貯蓄する (Pigou [1941] p. 104, [1949] p. 110) 所得を Y, 貯蓄を S, 消費 Y,S のときの時間選好率を q Y-S, 消費 Y,S のときの限界効用を f py,s とする また, 限界単位の快適さの効用を U K,Y-S とする ここに,K は蓄積された資本ストックを意味し, 限界単位の快適さの効用は, 一部は K, 一部は Y,S に依存することを示す 2 まず,U K,Y-S/0 とする 今年, 限界 1ポンドの消費をあきらめると限界効用分 f py,s だけ効用が低下する 他方, あきらめた1ポンドは投資されて翌年の 1+r ポンドとなり, 翌年の1ポンドの増大は限界効用 f pc 1 の分だけ効用を増加させるから, 翌年の 1+r ポンドは f pc 1p1+r の分だけ効用を増加させる これを 1+q Y-S で割り引くと, 効用の変化は次の ようになる,f py,s+f pc 1p1+r/p1+q Y-S p1 また, 翌年以降の所得は Y および資本 S からの収益 rs の合計 py+rs であり, 今年と同じ消費割合 py,s/y で消費されるので, C 1/pY+rS py,s/y p2 である 3 U K,Y-S40 の場合には, 効用の変化は U K,Y-S/p1+q Y-S が追加され,,f py,s+f pc 1p1+r/p1+q Y-S+U K,Y-S/p1+q Y-S p1 * となる したがって, 最適消費の1 階の条件は, 効用の変化がゼロ, すなわち, f py,s/f pc 1p1+r/p1+q Y-S +U K,Y-S/p1+q Y-S あるいは, 両辺に p1+q Y-S を掛けて, p1+q Y-Sf py,s/f pc 1p1+r+U K,Y-S p3 である 翌年の消費 C 1 は,p2 式より, C 1/pY,S 1+prS/Y と変形できるから,p3 式は p1+q Y-Sf py,s/f py,s+prs/ypy,s p1+r +U K,Y-S p3 * となる p3 * 式右辺の f を Y,S の近傍で1 次近似すると, p1+q Y-Sf py,s/ f py,s+prs/ypy,sf' py,s p1+r+u K,Y-S を得る ここで, 両辺を f py,s で割り, 消費 - 限界効用曲線の弾力性 ( 限界効用の消費弾力性の逆数 ) を h Y-S と記す 9) すなわち,, py,s py,s df / 1 f py,s d py,s h Y-S とすると, 1+q Y-S/1+r,prS/Yp1+rp1/h Y-S +U K,Y-S/f py,s となる ここで,
6 6 第 187 巻 第 2 号 U K,Y-S /v Y-S f py,s p4 と記すと, ps/yr p1+rp1/h Y-S/r+v Y-S,q Y-S すなわち, S Y / h Y-S pr+v Y-S,q Y-S r p1+r p5 を得る さらにピグーは,r が 1 よりもずっと小さくなるように期間を短くとることによって, r p1+r を r で近似して, 次式を得る 10) S Y / h Y-S pr+v Y-S,q Y-S p6 r 5 貯蓄関数の形状 性質 5-1 仮定限界効用の消費弾力性の逆数 h Y-S は正の値とすると, 貯蓄所得比率 S/Y は pr+v Y-S,q Y-S の符号に応じて正, ゼロ, 負の値をとる しかし, 以下では, 負の貯蓄は考察しない また, r を所与とする 5-2 貯蓄所得比率に関する暫定的結果 r は所与だから, 貯蓄 ( および負の貯蓄 ) がゼロとなるための2 条件のどちらも成立しないならば,h Y-S が大きいほど, そして v Y-S,q Y-S が大きいほど,S/Y[ 原文は a/x] はより大きい (Pigou [1941] p. 108, [1949] p. 114) したがって,h Y-S と v Y-S,q Y-S の両方が所得とともに増大する範囲では, 所得が大きいほど S/Y は大きい しかし, 所得が増大するとき h Y-S と v Y-S,q Y-S とが逆に動く範囲では, 問題の範囲の全域にわたって h Y-S,v Y-S,q Y-S の大きさがわからなければ,S/Y が所得の大きさとどのように関連するか述べることはできない そこで, 以下, 各要因を検討する 5-3 消費 - 限界効用曲線 1 われわれの判断と漠然とした経験だけに 依拠すると, ある差し迫った必要というものがあるということがわかる その必要は, おそらく多額の消費に慣れているとか少額の消費に慣れているということと関係ない, きわめて類似したものである このことは, 消費 - 限界効用曲線のはじめの左側の部分はとくに非弾力的であり, 非常に小さい消費の範囲を超えると累進的に弾力的になるということを示唆する すなわち, さほど大きくはないある値以下の Y,S [ 原文では px,a] については, 弾力性は消費が増大するとともにおそらく増大する そして, それ以降, 高い水準でおそらくほぼ一定となるだろう (Pigou [1941] p. 109, [1949] p. 115, 下線はイタリック ) 2 ピグーは実質所得に関するデータの利用を考える 所得 - 限界効用曲線の弾力性 h Y/, f Y dy df と消費限界効用曲線の弾力性 h Y-S/, f d py,s Y,S df との間には,h d py,s Y-S/h Y Y,S Y dy という関係があるから, 貯蓄所得比率 S/Y が小さい場合には,h Y-S/h Y と近似できる したがって, この領域内において所得- 限界効用曲線 [the income utility curve] の弾力性が所得の増大とともに急速に増大するということを示すことができれば, 消費 - 限界効用曲線 [ 原文は consumption utility curve] の弾力性は消費の増大とともに急速に増大するということができる (Pigou [1941] p. 110, [1949] pp ) 3 ピグーは Frisch[1932] に言及し, 彼の研究資料の範囲について所得 - 限界効用曲線の弾力性は実質所得の増加とともに急速に増大する 大雑把に言えば, 最低家族所得とその3 倍の所得との間では所得効用の弾力性は3 倍になる (Pigou [1941] pp ) と述べる より高い所得については, 資料がなく, 外挿は危険であるとしながらも, 少々の外挿は正当化できるとして, ピグーは次のようにいう いずれにせよ中程度の所得たとえばイギリスについて
7 ピグーの ピグー効果 いえば年 500 ポンドから年 1000 ポンドに至るまでは, 消費 - 限界効用曲線の弾力性は Y[ 原文では x] が大きいほど実際大きい より高い所得については Y が増加してももはや増加しないかもしれない 減少すると示唆するものはない しかし, そうならないという確証もない (Pigou [1941] p. 111, [1949] pp , 下線はイタリック ) 5-4 時間選好率 雇用と均衡 の議論は 定常状態の経済学 の議論 (Pigou [1935] pp ) および 1938 年論文の議論 (Pigou [1938] p. 135) と同じである 小島 [2011] では時間選好率曲線と呼んだ所得 - 時間選好率曲線は, 独立変数を所得, 従属変数を時間選好率とする関数のグラフであり, 形状は右下がり 水平であると主張する 1 q Y-S はいかなる状況においても負になり得ない, と考えて良いと思う (Pigou [1941] p. 111, [1949] p. 117) 2 任意に与えられた大きさの消費を享受しそれに慣れている人が, より小さい大きさの消費を享受しそれに慣れている同じような性質の人より高い時間選好率を持つと考える理由を見いだせない (Pigou [1941] p. 111, [1949] p. 117, 下線はイタリック ) すなわち, 所得 - 時間選好率曲線は右上がりではない 3 異なる消費水準の2 人, どちらの消費水準も相当大きいものとするが, この2 人の間でより大きい消費の人がより低い消費の人よりもより低い時間選好率を持つと考える理由も同様に見いだせない (Pigou [1941] p. 111, [1949] p. 117, 下線はイタリック ) すなわち, 相当大きい所得水準では, 所得 - 時間選好率曲線は右下がりではない 4 2および3より, 相当大きい所得水準では, 所得 - 時間選好率曲線は水平である 5 きわめて低い消費水準では, 現在の欲求の 圧力が差し迫っていて将来のことは考えられなくなりがちである ピグーは 1938 年論文 (Pigou [1938] p. 135) 同様, 歯痛を例にする 少々の痛みならば, 今抜歯することの利益と将来義歯となる不利益を多少とも合理的に比較衡量するであろうが, 激痛ならば, 将来の結果を考えることなく直ぐさま抜歯に決めるであろう それゆえ, 時間選好率 q Y-S は, きわめて小さい消費水準については中程度の消費水準についてのものよりも大きい (Pigou [1941] p. 112, [1949] p. 117) すなわち, 所得 - 時間選好率曲線の初めの部分 ( 左側の部分 ) は右下がりである 6 消費したがって所得が中くらいの大きさを超えると, 時間選好率 q Y-S は実際上一定水準となるであろう ( Pigou [ 1941 ] p. 112, [1949] p. 117) 5-5 修正項 ( Pigou [ 1941 ] pp , [1949] pp ) 修正項 v Y-S/U K,Y-S/f py,s の分子は, 富保有の快適さの限界効用, 分母は消費の限界効用である 1 1ポンドの所有によって得られる安心感という形での富保有の快適さは, 貧者にとっては富者よりもはるかに大きい 2 新貯蓄 1ポンドは, 少額のストックに追加される場合には, 多額のストックに追加される場合よりも多くの富保有の快適さをもたらす 3 他の事情が等しいならば, 所得規模が大きいほど,( 原因であると同時に結果として ) 個人が保有する資本ストックは大きくなる傾向がある, と一般に推測できる 4 分子 U K,Y-S は, 少額の消費の人について最大となり, 消費が増大するとともに累進的に低下していく 5 分母 f py,s は消費の限界効用であり, 消費とともに低下することは ほとんど確実であ
8 8 第 187 巻 第 2 号 る 6 分子分母ともに消費の増大とともに低下するから,v Y-S がどう変化するかはわからない 5-6 貯蓄関数の形状に関する結論 (Pigou [1941] pp , [1949] pp ) ⑴ 修正項がゼロまたは無視しうる場合 1 きわめて小さい可処分所得では貯蓄所得比率 S/Y はゼロである これは所得 - 限界効用曲線が極度に非弾力的であることによる 貯蓄がゼロであるような低い所得水準から比較的高い水準へ所得が増大するにつれて, 消費 - 限界効用曲線の, より弾力的な部分に到達する, すなわち,h Y-S が増大する 時間選好率 q Y-S が低下するその結果, 2 低い所得水準から比較的高い所得水準の領域において, 貯蓄所得比率 S/Y は所得が増大するにつれて増大する 3 高い所得そしてきわめて高い所得の領域では, 明瞭でない 時間選好率は所得が増大しても一定にとどまることが大いにありそうである 他方, 消費 - 限界効用曲線の問題の部分の弾力性はおそらく低下するだろう したがって, 貯蓄所得比率は低下するかもしれない しかし, 貯蓄される絶対額が増加し続けないということは, 明らかに, ありそうにない (Pigou [1941] p. 114, [1949] p. 119) ⑵ 修正項がゼロでないか無視できない場合 1 結果 ⑴の確からしさが低下する 2 明らかに, 所得がより大きいほど貯蓄される絶対額がより大きいという命題は, 所得がより大きいほど貯蓄所得比率がより大きいという命題よりも不確かではない (Pigou [1941] p. 114, [1949] p. 119) Ⅲ. 貯蓄に関する諸仮定と種々の定常状態 ピグーのピグー効果の議論が初めて登場するのは 1941 年の 雇用と均衡 である 本節では, 雇用と均衡 の長期フロー均衡( 定常状態 ) モデルを検討する なお, 雇用と均衡 モデルについては拙稿 [2013] で詳細に論じているので, ここでは簡潔に説明する 1 雇用と均衡 の2 部門モデル r を利子率,x を消費財産業の雇用量,F を消費財の生産関数,y を投資財産業の雇用量,f を投資のための労働の需要関数 ( 労働タームの投資関数 ),f を投資のための労働の供給関数 ( 労働タームの貯蓄関数 ) とする 1 貸付資金市場 f pr/f pr, F px pi y/f pr, F px pii pi 式は労働タームの貸付資金市場の需給一致条件である pii 式は貯蓄の供給が ( 労働タームの ) 投資財生産すなわち投資財産業の雇用量 y を形成 制約することを意味する なお, 貯蓄関数 f が総実質所得の関数ではなく, 消費財からの所得 F px の関数であるというところにピグーの可変的賃金基金説の考えが現れている 2 投資財産業 I/G py,g'>0 3 w p I /G' py 消費財産業 X/F px,f'>0 w /F' px p X F px w F' px + G /g pr G' py piii ここに,I および X は投資財および消費財の生産量,G は投資財の生産関数,w は貨幣賃金
9 ピグーの ピグー効果 率,p I および p X は投資財および消費財の価格である 各産業について第 1 式が生産関数, 第 2 式が利潤最大化の1 階の条件である 消費財産業の第 3 式における g pr は貨幣国民所得である 貨幣所得関数 g pr は次の3 本の式から導かれる MV/Y p7 M/M p8 V/V pr,v'>0 p9 p7 式は, 所得バージョンの交換方程式で,Y は貨幣所得,M は貨幣量,V は所得速度 (V の逆数がマーシャルの k) である p8 式は貨幣供給関数で, ここでは貨幣量一定と仮定する p9 式は所得速度関数である piii 式は消費財の需給一致条件に相当する すなわち, 予想価格と現実価格が一致するとき, 消費財の予想売上金額 p XF は現実売上金額 g pr,p IG に等しい ( 詳細は小島 [2012] 参照 ) ここまでで未知数は,r,x,y,I,X,w, p I,p X の8 個, 方程式は7 本である 4 労働市場 x+y/q( 定数 ) piva w/t( 定数 ) pivb piva 式は, 総雇用 x+y は利用可能労働量 Q に等しい ということを意味し,pIVb 式は, 貨幣賃金率は当局または団体交渉で決定される ということを意味する (Pigou [1941] pp. 68-9, [1949] p. 70) この2つの方程式は二者択一であり, 同時に想定することはできない 古典的見地に従う場合, 経済組織が撹乱されない限り, われわれの第 4の方程式は常に x+y/q という形をとる 実際には, 撹乱は存在し, 貨幣賃金はある程度硬直的であるから, 短期においては, 二者択一的な w/t という形をとる傾向がある しかし, 方程式 x+y/q を成立させる強力な力が常に存在する この力は, 好況期と不況期とを合わせた平均では, す なわち背景において, 種々の時点で支配している T の値に対して方程式 x+y/q が支配的となるように作用する (Pigou [1941] pp. 78-9, [1949] p. 86) 2 長期フロー均衡モデル 1 piva 式を含む8 本の方程式体系から未知数 I,X,p X,p I を消去する 次に, 現存資本ストック量 K を未知数とする 未知数が1つ増えるので, 追加する方程式をゼロ投資条件 y/0 とする 方程式体系は次のようになる 11) f pr, K/f pr, F px, K pi y/f pr, F px, K pii y/0 p10 w F px G py +w /g pr F' px G' py piii x+y/q 未知数 :r,x,y,w,k 2 未知数 y を消去する 長期フロー均衡モデルⅠ f pr, K/f pr, F px, K f pr, F px, K/0 w F px /g pr F' px p13 piva p11 p12 x/q p14 未知数 :r,k,x,w 3 以下の議論のため,p11 p12 式を次のように記し, 方程式番号を付け直して, モデルⅡとする 長期フロー均衡モデルⅡ f pr, K/0 ps1 f pr, x, K/0 ps2 x/q ps3 w F px /g pr F' px ps4 未知数 :r,k,x,w 4 ps3 より,x は確定しており, また, 未知数 w は ps4 式にしか現れないから,pS1 ps2 式で未知数 r,k が決まると, 最後に ps4 式か
10 10 第 187 巻 第 2 号 ら決まるという関係にある したがって, 長期フロー均衡モデルⅡは次の2 本の連立方程式体系に帰着する f pr, K/0 ps1 f pr, Q, K/0 ps2 * 未知数 :r, K 関数 f および f について, f f?0, r K?0, f f >0, >0 と仮定する この符号条件よ r K り, ゼロ投資曲線 (ps1 を満たす pr, K の集合 ) もゼロ完全雇用貯蓄曲線 ((S2 * ) を満たす pr, K の集合 ) も右下がりとなるから, ⑴ K が小で r が大という解 ⑵ K が大で r が小という解という2つの解が存在する可能性がある 12) 3 利子率の下限本論に入るための準備としてピグーは K および r の制約条件を議論する 1[Kが非負であること ] 封鎖経済の想定の下では外部の主体に対する資本債務を持ち得ないから,K は負になりえない (Pigou [1941] p. 121, [1949] p. 126)) 2 [ 利子率の下限の存在 ] 将来の財の相対価格が現在と異なると予想される移行期間においては, 財での利子率は測る財が異なれば異なる しかし, 定常状態においては, 相対価格は何ら変化しないと予想されるから, 貸付利子率は貨幣で測られようがどんな財で測られようが同一である したがって, ある財での利子率に下限が存在するならば, その下限はどの商品で測っても同一である そして一部の財とくに貨幣について保有費用はほぼゼロだから, 利子率は負になりえない (Pigou [1941] pp , [1949] p. 127) 投資のための資源需要者は, 実際上費用ゼロで貨幣を保有できるから, ゼロを若干下回る利子率では, 貨幣を保有し, 物的資本への追加という意味での 投資を停止する したがって, 資本の限界効率も資源需要者が提示する利子率も認めうる程度にゼロ以下にはなり得ない (Pigou [1941] p. 123, [1949] p. 128) ある状況 ( 本節第 7 項 1 参照 ) においては, 完全雇用が定常状態と両立可能であるためには利子率が負でなければならないという条件が必要となるが, 利子率の下限の存在は, その条件を満たすことが不可能であることを意味する それゆえ, そうした状況が生じたときには, 完全雇用の定常状態は常に賃金稼得者の間の貨幣賃金率競争によって可能であるという古典派命題が成立しえない, ということを意味する (Pigou [1943] p. 347) 3 [ 利子率の下限が 2 2.5% であるというケインズの主張に対する批判 ] ケインズは 一般理論 第 16 章において 実際には, 利子率の実現可能な低下に対して, ゼロよりもはるかに高いところに限界を画する制度的および心理的要因が存在する という すなわち, 借り手と貸し手を結びつける費用 および 利子率の将来に関する不確実性 という 2つの理由により, 利子率の下限について 現状においてはおそらく長期について2パーセントないし 2.5 パーセント という数字を挙げている (JMK VII pp ) この2ないし 2.5 パーセントという数値についてピグーは, 定常状態についてはあまりにも高すぎるという (Pigou [1941] p. 124, [1949] p. 128) 現状 ではなく定常状態にあるので 技, 術改善の見込みがない, また 利子率の将来に関する不確実性は存在しない (Pigou [1941] p. 124, [1949] p. 128) さらに, 借り手と貸し手を結びつける費用 はケインズのように平均概念ではなく, 限界概念で考えるべきであり, 自分の事業に投資する場合には借り手と貸し手を結びつける費用はゼロであるから, 私の問題において, 資本蓄積の結果, 利子率がそれ以上低下しえない率はゼロよりも明らかに高い可
11 ピグーの ピグー効果 能性があるとは思わない (Pigou [1941] p. 124, [1949] p. 128) と述べる 13) 4 貯蓄に関する仮定と種々の定常状態以下, 貯蓄動機に関する仮定という観点からはラムゼーとケインズの2つのケース, 完全雇用貯蓄関数 f pr, Q, K の r 軸切片の符号という観点からは3つのケースを扱い,3つの定常状態 ( 低水準の完全雇用均衡, 高水準の完全雇用均衡すなわちラムゼー的完全均衡, 極端な低雇用均衡すなわちケインズ的地獄 ) と1つの近似 ( ピグー効果 ) を議論する 貯蓄に関する仮定と定常状態との関係は次のとおり [R] 貯蓄動機に関するラムゼーの仮定富保有の快適さ U K,Y-S がゼロの場合 [RL] 完全雇用貯蓄関数 f pr, Q, K の r 軸切片が正の場合 K が小で r が大 ( 正値 ) という解, すなわち, 低水準の完全雇用定常状態 [RH] 完全雇用貯蓄関数 f pr, Q, K の r 軸切片がゼロの場合 K が大で r が小 ( ゼロ ) という解, すな わち, 高水準の完全雇用定常状態 ラムゼー的完全均衡(the Ramseyan thorough-going equilibrium) 古典的定常状態 (Pigou [1947] p. 184) [K] 貯蓄動機に関するケインズの仮定富保有の快適さ U K,Y-S が正の場合, あるいは, 完全雇用貯蓄関数 f pr, Q, K の r 軸切片が負の場合 [KP] 伸縮的貨幣賃金 ( かつピグー効果の作用が完了する場合 ) ( 近似的 ) ラムゼー的完全均衡 [KK] 硬直的貨幣賃金 ケインズの低雇用均衡 ( Lord Keynes s low-level equilibrium) または ケインズ的地獄 (the position proper to Lord Keynes Day of Judgment) (Pigou [1947] p. 186) 図 1および図 2において, 縦軸は貨幣利子率 実質利子率を表す 横軸は実物貯蓄 S6 実物投資 I であり, 右下がりの直線は投資関数, 右上がりの直線は貯蓄関数のグラフである 図 表 1 ラムゼー的完全均衡, ピグー効果, ケインズ的地獄 貯蓄動機 期待収益ゼロの場合完全雇用貯蓄関数のr 軸切片 名称 状態 [R] ラムゼー的仮定 : 物的収益のためだけ 純貯蓄ゼロ 正ゼロ負 [RL] 不安定な定常状態 [RH] ラムゼー的完全均衡 古典的定常状態 [K] ケインズ的仮定 : 一部は威信, 個人的安全のため 正の純貯蓄 [KP] ピグー効果 ( 近似的 ) 古典的定常状態 [KK] ケインズ的地獄 極端に低雇用の定常状態 資本ストック 低水準 高水準 高水準 高水準 雇用量 完全雇用 完全雇用 ほぼ完全雇用 極端に低雇用 貨幣賃金率 伸縮的 硬直的
12 12 第 187 巻 第 2 号 図 1 貯蓄動機に関するラムゼーの仮定の場合 1は 貯蓄動機に関するラムゼーの仮定 の場合, 図 2は 貯蓄動機に関するケインズの仮定 の場合である ⑴ K が小で r が大すなわち正値という解と⑵ K が大で r が小すなわちゼロという解はそれぞれ図 1の点 A と原点 O に相当する ⑴の小さい資本ストック水準を K 1, ⑵の大きい資本ストック水準を K 0 とする 5 [RL] 完全雇用貯蓄関数の r 軸切片が正の場合 1 完全雇用貯蓄関数 f pr, Q, K 1 は, 代表的個人は, 資本ストックがきわめて小さい場合, 実質所得がある大きさ以下ではどんな利子率水準でも貯蓄しない という場合に該当する 点 A では r 軸上で完全雇用貯蓄関数 pr, Q, K 1 と投資関数 f pr, K 1 が交差するから 14), 点 A は定常状態である それゆえ, 低水準の完全雇用定常状態は成立するに違いない (Pigou [1941] p. 121, [1949] p. 126) 2 点 A の状態から, 投資関数のグラフ f pr, K 1, が上方シフトして f * pr, K 1 になったとすると, 投資関数 f * pr, K 1 と完全雇用貯蓄関数 f pr, Q, K 1 の交点は r 軸上ではなく第 Ⅰ 象限の点 A 1 となる 交点 A 1 は短期フロー均衡であり, 貯蓄 投資は正である 時間が経てば資本ストックが増大し, 完全雇用貯蓄関数も投資関数もともに下方にシフトして, 均衡点はたとえば投資関数 f * pr, K 2 と完全雇用貯蓄関数 f pr, Q, K 2 の交点 A 2 となる 交点 A 2 も短期フロー均衡であり, 時間が経てば資本ストックが増大し, 完全雇用貯蓄関数も投資関数もともに下方にシフトしていき, 最終的に, 原点 O に至る 蓄積された資本ストックの水準にかかわらず, ある正の利子率で新規の投資がなんら供給されない場合, もし低水準の完全雇用の定常状態が置き捨てられて若干の投資が生じている状況にあるとすれば, 経済は高水準の完全雇用定
13 ピグーの ピグー効果 常状態へと円滑に進行するであろう なぜなら, もしそうなら, 資本が蓄積され続けていくにつれて, いかなる新投資も需要されないという利子率は, いかなる新投資も供給されないという利子率にほどなく一致しなければならないからである (Pigou [1941] p. 124, [1949] p. 129) 6 [RH] 完全雇用貯蓄関数の r 軸切片がゼロの場合図 1の投資関数 f pr, K 0 と完全雇用貯蓄関数 f pr, Q, K 0 のように, 投資関数と完全雇用貯蓄関数がともに原点 O を通る場合, 高水準の完全雇用定常状態が実現する ピグーは論文 安定的環境下での経済進歩 (1947 年 ) においてこの均衡状態を ラムゼー的完全均衡 (the Ramseyan thorough-going equilibrium) 古典的定常状態 (Pigou [1947] p. 184) と名付けている 7 [K] 完全雇用貯蓄関数の r 軸切片がマイナスの場合 1 図 2のように, 原点を通る投資関数の資本ストック水準の下で, 貯蓄がゼロとなる利子率がマイナスの場合, すなわち完全雇用貯蓄関数 f pr, Q, K 0 のグラフがマイナスの r 軸切片を持つ場合, 原点を通る投資関数 f pr, K 0 と完全雇用貯蓄関数 f pr, Q, K 0 の交点 C は第 Ⅳ 象限にあるから, 高水準の完全雇用の定常状態が自動的に実現するという可能性はない 資本の蓄積がある程度行われたとき, 新投資の供給がゼロとなる利子率が負になる傾向があるならば, 新投資の需要価格が供給価格まで低下するような資本蓄積量は存在しない そうした条件では, 高水準の完全雇用の定常状態の均衡にはけっして到達することはないであろう (Pigou [1941] p. 125, [1949] p. 129) 2 完全雇用貯蓄関数のグラフがマイナスの r 軸切片を持つ場合というのは,S 軸切片が正すなわちゼロ利子率でも正の貯蓄をする場合であり, 権力, 安心感などの形での直接的な快適さ を考慮する場合である ゼロ貯蓄条件は r/q,v である ここに,q は時間選好率,v は富保有の快適さに基づく修正項である したがって,v が十分大きいとすると, 可能なすべての資本蓄積量 K について, 貯蓄 S をちょうどゼロにする利子率 r がマイナスとなる可能性がある (Pigou [1941] p. 126, [1949] pp ) それゆえ, 高水準の完全雇用定常状態の均衡が常に可能であることを証明する唯一の方法は, 最後の手段として q,v が負となることを妨げる諸力が働くことを示すことである (Pigou [1941] pp , [1949] p. 131) 3 図 2の点 B に経済があるとする すなわち, 利子率がゼロまで低下し, 新投資が需要されない一方,q,v が負だから, 代表的個人は依然として貯蓄しようとする段階に到達したと想定しよう (Pigou [1941 ] p. 127, [ 1949 ] p. 131) 新投資は需要されないから, 投資財の生産はない したがって, 既存の耐久財を購入するしか貯蓄意欲を満たせない そのような財の数量は増加できないから, そのような財を所有する人は連続的に消費財タームでより高い価格を要求し, 所有していない人は連続的に消費財タームでより高い価格を提示する それゆ 15) え, 土地および類似の資産の価値, そして中でも貨幣はとくに便利な価値の貯蔵手段であるから, 貨幣の価値は連続的に増大するであろう (Pigou [1941] p. 127, [1949] p. 131) 人々は, 連続的に, 総貨幣残高の 活動的な 所得創出に関わる部分 から貨幣を引き揚げて非活動的部分に移す, すなわち, 貨幣を保蔵する hoard money ことを余儀なくされる(Pigou [1941] p. 127, [1949] pp ) このことは貨幣所得の連続的低下を意味する ここまでは,q,v が負になるのを妨げるものは何も生じ
14 14 第 187 巻 第 2 号 ていない ( Pigou [1941 ] p. 128, [ 1949 ] p. 132) 8 [KP] ピグー効果 1 しかし, 古典的見地 に従い, 貨幣賃金率の適切な調整が連続的になされることにより, 完全雇用が引き続き維持される限り, 何かが生じるであろう ( Pigou [ 1941 ] p. 128, [1949] p. 132, 下線は引用者による ) 以下, 貨幣賃金率は, 長期フロー均衡モデル Ⅱの ps4 式に従い, 貨幣所得と同率で連続的に低下すると仮定する 2 富保有の快適さに基づく修正項は v/u K,Y-S/f py,s である 分子 U K,Y-S は 限界単位の投資を所有することから得られる快適さ, 分母 f py,s は 消費される限界単位の実質所得の効用 である 貨幣所得が連続的に収縮し[ 完全雇用が維持され, 実質所得が不変なので ], 価格は連続的に低下するから, 既存の貨幣ストックは消費財タームの価値が連続的に増大する (Pigou [1941] p. 128, [1949] p. 132) したがって, 分子 U K,Y-S は連続的に低下する 他方, 実質所得は不変であるから, 分母 f py,s は不変である それゆえ, 貨幣所得が低下するにつれ,v/U K,Y-S/f py,s は累進的に収縮し, ゼロに漸近していく 時間選好率 q は常に正だから,q,v は, 貨幣所得が十分収縮するとき, 正になるだけでなく, q に接近する このようにして高水準の定常状態の成立を妨げる条件は破壊される 16) クリティカルな点に到達した後は, 貨幣所得は低下する それもおそらく大幅に低下し, 価格も下落する しかし, それにもかかわらず, 新しい高水準の完全雇用定常状態が自ずと実現するであろう このことは常に可能性がある (Pigou [1941] p. 128, [1949] pp ) 3 図 2でいうと, 貨幣所得の連続的縮小によって期間 t pt/0, 1, 2,, y の完全雇用貯蓄関数グラフ f pt は連続的に左方へシフトし, 原点に限りなく接近する 9 [KK] ケインズ的地獄完全雇用を維持する条件が壊れ, 実質所得が収縮し, 極端な低雇用の定常状態が実現する 図 2でいうと, 雇用量 x の連続的低下によって期間 t p t/1, 2,, y の貯蓄関数のグラフ f pt /f pr, x pt, K 0 x pt は期間 t pt/1, 2,, y の雇用量である が連続的に左方へシフトして, 原点を通るとき停止する f p0, x, K 0 /0 となる雇用量 x を x と記すと,[KK] の場合, f p /f pr, x, K 0 である 1 ケインズの最後の審判のヴィジョン 雇用と均衡 初版では, 本文中に ケインズ氏の最後の審判のヴィジョン Mr. Keynes vision of the day of Judgment という言葉が登場する これは, 公共投資をすれば天国, しなければ 雇用量が小さく生活水準が悲惨な状態 になるというケインズの主張を指す (Pigou [1936] p. 129) 一般理論 においてケインズは, 彼の 最後の審判のヴィジョン はある仮説的条件の下で起こりうるというだけでなく, 公共事業などに対する大量で連続的な政府投資がなければ, 現実の世界においても起こるであろうことを意味すると主張している もし, 賢明な政策がなされれば, 彼の考えでは, そして彼はもちろん戦争勃発以前に書いているが, 資本設備が急速に蓄積されて, おそらく一世代のうちに, 正の純収益 ( すなわち粗収益マイナス借手と貸手を結合する費用相当額を差し引いたもの ) をもたらす投資機会がまったく残されておらず, 最後の審判に至る貨幣的プロセス 17) がすぐにも作動する (Pigou [1941] p. 131, [1949] p. 135)
15 ピグーの ピグー効果 図 2 貯蓄動機に関するケインズの仮定の場合 [KP]:f p /f pr, Q, K 0 [KK]:f p /f pr, x, K 0 2 雇用と均衡 初版のケインズ的地獄の説明 [a] 13 しかしながら, 別の可能性がある 第 Ⅳ 章で論じたように, 古典的見地は通常の条件ではおそらく妥当するであろうが, 先の第 11 節で考察したような特殊な条件 [ 新投資の供給がちょうどゼロとなる利子率がマイナスとなる状態 ] の下では妥当しないかもしれない (Pigou [1941] p. 129, [1949] p. 133) [b] そのときここでケインズ氏の特殊命題 私が他のところでケインズ氏の最後の審判のヴィジョンと名付けているもの が登場する この命題に従うと, 前の節で述べたクリティカル ポイントに到達するとき, 完全雇用を維持する傾向をもつ諸力が壊れ, 貨幣所得の収縮すなわち貨幣需要の収縮によって雇用が収縮する 雇用が収縮すると, 多かれ少なかれ平行的に実質所得の収縮が生じる このプロセス は, 窮乏と貧困があまりにも大きく, 代表的個人が もちろん, 雇用されている人と失業している人の代表者である 自分の所得からなにも貯蓄しようとしなくなるまで不可的に進行する (Pigou [1941] pp ) 18) [c] 膨大な量の失業を代償として実質所得がその水準にまで低下したときには, 貨幣所得も雇用もそれ以上収縮する傾向はない 完全雇用をはるかに下回る低水準の定常状態が実現する 経済は真に悲惨な種類の均衡に到達する (Pigou [1941] p. 130, [1949] p. 134) 3 ケインズ的地獄の蓋然性に関するピグーの議論ピグーは, 極端な低雇用均衡の可能性は認めるものの, モデル世界で想定された諸条件の下での蓋然性については 意見が分かれる といい (Pigou [1941] p. 130, [1949] p. 134), 初版第 Ⅱ 編第 7 章 ( 第 2 版第 9 章 ) の覚書 ケイン
16 16 第 187 巻 第 2 号 ズの理論 において蓋然性を否定している ピグーは, ケインズの議論に対して次のように批判する [A] そもそも, 新発明と改良が消滅するという想定がおかしい [a] 資本蓄積が古い投資機会を充たしていくにつれて投資機会が連続的に縮小していくということは, ケインズの議論はそれに依拠しているが, 新発明と改良がなされないという仮定の下でのみ生じる しかし, 現実の生活では, 新発明と改良が生じて新しい投資機会を与え, 消滅した投資機会を補うか, 余りあるものとなる [b] 電気機器, 自動車, 航空機, 蓄音機, 無線, いうまでもなく戦車や他の武器, 多くの機械に連続的に生じている無数の小改良, これらの発展を目撃している時代は, 新投資の有利な機会がまったく消滅してしまうと合理的に予測できる時代ではない ( Pigou [ 1941 ] pp , [1949] pp ,[b] の文章は Pigou [1936] p. 129 の再利用 ) [A ] 新資本資産の平均が収益を生まなくとも, 何らかの資本資産は何らかの収益を生み, 多くの資本資産がそうであると予想される, ということがあるだろう (Pigou [1941] p. 132, [1949] p. 136, Pigou [1936] p. 129 の再利用, 下線はイタリック ) [B] 最後の審判に至る貨幣的プロセスが作用しうるよりも前に, 高水準の定常状態が実現する (Pigou [1941] p. 131, [1949] p. 135) [C] たとえ最後の審判に至る貨幣的プロセスが作用しても, ケインズの主張する極端な低雇用均衡ではなく, 貨幣所得は低下しても実質所得は不変である高水準の定常状態に至る (Pigou [1941] p. 131, [1949] p. 135) [ ピグーの結論 ] こうしたことを考慮すると, 発明も改良もない世界で最後の審判の日が来るかもしれない, あるいは確実に来ると同意したとしても, 現実の世界では不安に思う必要は全然ない (Pigou [1941] p. 132, [1949] p. 136) ピグーのピグー効果が関わるのは,[C] の部分である 後にピグーは, ピグー効果の議論は アカデミックな演習問題 (Pigou [1947] p. 188) にすぎないと述べることになるが, そのようにピグーが考える理由は, 新発明と改良がないという仮定にある 19) すなわち,[A] の部分にある そもそもピグーのピグー効果の議論は, ケインズ的地獄に代わる二者択一的なストーリーとして提示されたものである アカデミックな演習問題 というのであれば, それはケインズ的地獄についてもあてはまるのである 注 1) 尋ねた相手はリチャード カーンであるが, いつ頃の話かは不明である Collard [1981] p. 137, n. 75, 邦訳 313 ページ注 60 参照 2) パティンキン [1948] はピグーの貢献を2つに分けている 第 1は, これまで無視されてきた1 組の諸力すなわち 物価低下が実質残高を通じて貯蓄に及ぼす影響 の発見であり, パティンキンは ピグー効果 と名付けた 第 2は, ピグー効果が静学分析に対して持つ含意の導出であり, パティンキンは その水準が無限に続くと期待されるならば, 完全雇用を生み出すのに十分低い物価水準が常に存在する と要約して ピグー定理 と名付けた (Patinkin [1948] p. 556) 3) ケインズの経済学は, もし正しいのなら, それが古典派経済学の基礎を破壊した根本的理由は, 古典派経済学が主張する完全雇用状態の自動的成立を否定したことである それゆえ, 古典派の立場をうまく再述するには, 完全雇用を常にもたらす何らかの自動的メカニズムが存在していることを証明しなければならない ( 中略 ) いいかえると, 争点は完全雇用の実現が可能かどうかではなく, 自動的かどうかである (Patinkin [1948] p. 547, 下線はイタリック ) 4)Patinkin[1965] 補論 G の注 3では, ピグーについて Pigou[1917] だけを挙げている そのためピグーが Pigou[1917] で一般に理解されているピグー効果を提示していると ( 誤って ) 述べている文献もある
17 ピグーの ピグー効果 ) ピグー(1943) 論文は 外部貨幣 保有の実質価値が消費に及ぼす ピグー効果 を提示したため最も有名である (Ambrosi [2003] p. 321) および Pigou(1943) が ピグー効果 を導入したとき (Ambrosi [2003] p. 325) 消費に及ぼす影響 と述べている点で,Ambrosi[2003] もピグーの議論を正しく認識していないことがわかる 6)2010 年 5 月 22 日富山大学で開催された経済学史学会第 74 回大会における報告の1つ 7) 貯蓄動機に関するケインズ的な仮定 および 貯蓄動機に関するラムゼー的な仮定 という言葉は, ピグー自身が使用したものではなく, 主としてピグーの 1947 年論文の叙述に基づいて本郷 [2007] が命名したもの ( ページ ) 雇用と均衡 ( 初版 ) 第 Ⅱ 編第 6 章では, 利子率と時間選好率の均等という定常状態の条件に関連してラムゼーの名前が出てくるが (Pigou [1941] p. 105), ケインズの名前は出てこない 1943 年論文 古典的定常状態 ではケインズの名前は, 貯蓄投資の定義が 一般理論 と同じということと, 限界貯蓄性向との関連で ケインズの心理法則 が登場するだけである (Pigou [1943] p. 344) 完全雇用からの乖離 (1945 年 ) では貯蓄動機に関するケインズ的な仮定について言及がある すなわち, ケインズ卿の代替的ストーリーは大まかには以下のとおりである 有利な投資機会がないことによって利子率が最低水準まで押し下げられているとき, たとえ需要が全然ないとしても, 威信や安心などのために貯蓄 ( 投資 ) を供給したいと欲することがありうる (Pigou [1945] p. 23) 8) ピグーがケインズの 近代社会の基本的心理法則 (JMK VII p. 97) に言及しているのではない なお, 近代社会の基本的心理法則 は, 社会は, その実質所得が増加したとき, 増加した分だけ消費を増加させるということをしない (JMK VII p. 97) というもの 9) 消費 - 限界効用曲線は縦軸を限界効用 f, 横軸を消費 x とする右下がりの曲線である 需要の価格弾力性,pp/xpdx/dp において, 縦軸に測られる価格 p を限界効用 f で置き換えると, 消費 - 限界効用曲線の弾力性は,pf/xpdx/df となる 他方, 限界効用の消費弾力性は,px/fpdf/dx である 10) ピグーの貯蓄関数について, 小島 [2011] では 定常状態の経済学 第 32 章の付録 (Pigou [1935] pp ) に従い, 今年と翌年の2 期間で議論してい る 以下,2 期間モデルで本文 p6 式に相当する式を導出しよう v pk, S で貯蓄を保有することから生じる権力, 安全などの意味での快適さを示すことにすれば, 効用関数は u pc 1 0+ u pc 1+v pk, S,u'>0,u"?0 pa1 1+r となる ここに,C 0,C 1 は今年の消費, 翌年の消費,K は資本ストック,S は貯蓄 投資,r は時間選好率である 所得は, 今年も翌年も同一で Y とし, r の収益率 ( 利子率 ) をもたらす投資機会が存在し, 投資は所得から消費の削減でまかなわねばならないとする 今年および翌年の予算制約式は, C 0+S/Y C 1/Y+p1+rS で与えられる S を消去すれば, C 1/Y+p1+rpY,C 0 となる ロビンソン クルーソーの最適化問題は, u pc 1 0+ u Y+p1+rpY,C 0 +v py,c 0, K 1+r を最大にする C 0 を求めることである 1 階の条件は u' pc 1+r 0/ u' pc 1+v' py,c 0, K 1+r すなわち, u' py,s/ 1+r 1 u' Y+p1+rS + v' py,c 0, K 1+r 1+r u' を線形近似すると, u' py,su" py/ 1+r u' py+p1+rsu" py 1+r + 1 v' py,c 0, K 1+r,Su" py 1+r+p1+r 2 /u' pypr,r+v' py,c 0, K 両辺を u' py で割って, 限界効用の弾力性を Yu" py e py/, u' py,e py の逆数を h py と定義する と,, ここに, Su" py / S e py だから, u' py Y S 1 r+z ps, Y, K,r / Y h py 1+r+p1+r 2 v' ps, K z ps, Y, K/ u' py である 貯蓄関数は, S Y / h py r+z ps, Y, K,r 1+r+p1+r 2 となる 本文と同様,r が1よりもずっと小さくなるように期間を短くとれば,
18 18 第 187 巻 第 2 号 S Y / h py r+z ps, Y, K,r 2p1+r+r となる 11) 資本ストック K は piii 式にも現れるはずであるが, ピグーに従って pipii 式だけに現れるものとしている 長期均衡については短期フロー均衡に妥当する初めの2 本の方程式 f pr/f pr, F px y/f pr, F px の代わりに, 初めの3 本の方程式 f pr, K/f pr, F px, K y/f pr, F px, K y/0 を持つことになる (Pigou [1941] p. 119, [1949] p. 124) 12)2 組の解が存在する可能性があることを示すためにピグーが提示したのは, 本文の ps1 ps2 * 式ではない 関連のある方程式は, 容易にわかるように, 2 本に減らすことができる すなわち, p1 f pr, K/f pr p2 f pr/0 である これらの方程式は2 個の未知数 r と K[ 原文は S と表記 ] を決定するのに十分である したがって, 課された制約 ( たとえば r は負になり得ないという制約 ) を別にすれば, 完全雇用の定常状態が成立するような r と K の値の組が存在しなければならない けれども, そのような組はただ1つ 1 組の r と K しかないとは限らない アプリオリに f と f の形状について知らないのであれば無限に多くの解が存在しうるが, 事実は, f r と f K は負であり, f r はおそらく正であると信じて良い 理由がある このことは2 組の解が存在することを示すものである (Pigou [1941] p. 120, [1949] p. 125) しかし, f r >0 ならば,f pr/0 を満たす r は 1つしか存在しない なお, 第 2 版も初版と同じである 13) ピグーは 私の問題 といっているが, これはケインズ自己利子率論に対する批判である 一般理論 第 17 章の自己利子率論は, 資本蓄積の結果, 利子率がそれ以上低下しえない率はゼロよりも明らかに高い可能性がある ということを前提にしなければさほど興味深い話ではない なお, 一般理論 第 17 章の自己利子率論については小島 [1987] [1988]( または [1997] 第 1 章および第 2 章 )[2009] を参照されたい 14) 投資関数 f pr, K 1 の r 軸切片が完全雇用貯蓄関数 f pr, Q, K 1 の r 軸切片よりも小さい場合も低水準の完全雇用の定常状態である 15) 類似の資産 の例は, 雇用と均衡 初版および 1943 年論文にはない 1945 年の著書では そしてまたある種の他の再生産不可能な耐久財 (Pigou [1945] p. 24) 1947 年論文になって 巨匠の絵画 (Old Masters) が出てくる(Pigou [1947] p. 186) その文章は 雇用と均衡 第 2 版で, 初版 128 ページの文章に挿入された 既存の貨幣ストックは 土地やある種の資産たとえば巨匠の絵画, これは貯蓄の貯蔵所または体現物として特別の魅力がある 消費財での価値が連続的に増大する (Pigou [1949] p. 132) 16) 雇用と均衡 第 2 版では, この文章に次の注が付されている ( 銀行預金を含む ) 既存の貨幣ストックの大部分は政府公債によって相殺されるから, 貨幣価値の増価によって生じる資本的な富の所得財タームの価値の純増は, 一見して思うよりもずっと小さいと論じられている この主張に対しては, ロバートソン教授が私に指摘してくれたことだが, 次のように応答できる すなわち, 公衆の貯蓄に対する態度に主として影響するのは, 公衆が保有する資本的な富の実質価値であって, 公衆と政府が保有する資本的な富の実質価値ではない (Pigou [1949] p. 133, n. 1) 政府公債の議論はカレツキ[1944] に対するピグーの対応であろう カレツキのピグー批判については別稿で扱う 17) 貨幣保蔵による貨幣所得の収縮を指す 本節第 7 項 3 参照 18) 雇用と均衡 第 2 版 (1949 年 ) では,[b] 部分が次の文章に差し替えられている [b * ] 貨幣賃金率は, 完全雇用を維持するために今述べた仕方で下降運動が停止する点まで貨幣所得および総貨幣賃金と並行して低下し続ける, ということを拒否するかもしれない そのような下降運動は, 大衆の怒りの爆発によってか抵抗運動の漸進的増大によってかまたは政府の法令による最低貨幣賃金によって, 停止点に到達するよりも前に停止するかもしれない もしも, このうちのどれかが生じたならば貨幣所得のさらなる下降運動は雇用の縮小を伴うに違いない 貨幣所得の低下は最後には停止す
19 ピグーの ピグー効果 るが, 雇用は一般に完全雇用と呼ばれている水準をはるかに下回る 人々は貯蓄欲望と投資欲望をバランスさせるが, 代表的個人 もちろん, 雇用されている人と失業している人の代表者である は非常に貧しくなってしまい, もはや所得からなにも貯蓄しようと思わなくなっている (Pigou [1949] p. 134, 下線は引用者による ) 19) ここまでの分析は, もちろん, この論文の冒頭で述べた諸仮定を基礎にしてのみ成立する そうした諸仮定が実際に満たされるということはまったくありそうにない (Pigou [1947] p. 187) 冒頭の仮定は, a 技術進歩および労働人口の変化はない b 銀行の外で流通する貨幣量は一定である c 政府は雇用をコントロールする目的で経済に介入せず, また, 最高価格あるいは最低価格を規制しないというもの (Pigou [1947] p. 180) 参考文献 Ambrosi, G. M. [2003] Keynes, Pigou and Cambridge Keynesians, Palgrav emacmillan. Collard, D. [ 1981 ] A. C. Pigou, , in Pioneers of Modern Economics in Britain, edited by D. P. O Brien andj. R. Presley, , Macmillan. ( 中久保邦夫訳 A. C. ピグー, 井上琢智 上宮正一郎 八木紀一郎 他訳 近代経済学の開拓者 昭和堂,1986 年 ) Frisch, R. [1932] New Methods of Measuring Marginal Utility, J. C. B. Mohr. JMK The Collected Writings of John Maynard Keynes, edited by D. E. Moggridge, Macmillan. Kalecki, M. [1944] Professor Pigou on The Classical Stationary State : A Comment, Economic Journal 54, Keynes, J. M. [1936] The General Theory of Employment, Interest and Money, JMK, VII, ( 塩野谷祐一訳 ケインズ全集第 7 巻雇用 利子および貨幣の一般理論 東洋経済新報社,1983 年 ) Patinkin, D. [ 1948] Price Flexibility and Full Employment, American Economic Review, [1965] Money, Interest, and Prices, 2nded., Harper & Row. ( 貞木展生訳 貨幣 利子および価格 勁草書房,1971 年 ) [1987] Real Balances, in The New Palgrave : A Dictionary of Economics, Macmillan, vol. 4, Pigou, A. C. [1917] Value of Money, Quarterly Journal of Economics 32, [ 1935 ] The Economics of Stationary States, Macmillan. [1936] Mr. J. M. Keynes General Theory of Employment, Interest and Money, Economica n. s., [1937] Real and Money Wage Rates in Relation to Unemployment, Economic Journal 47, [1938] Money Wages in Relation to Unemployment, Economic Journal 48, pp [ 1941 ] Employment and Equilibrium, Greenwood Press, [1943] The Classical Stationary State, EconomicJournal 53, [1945] Lapses from Full Employment, Macmillan. [1947] Economic Progress in a Stable Environment, Economica, [1949] Employment and Equilibrium,2nd ed., Macmillan. ( 鈴木諒一訳 雇用と均衡 有斐閣, 1951 年 ) 加藤寛 [1995] A. C. ピグー 日本経済新聞社編 経済学の先駆者たち 日本経済新聞社 小島專孝 [1987] スラッファのハイエク批判について 京都学園大学論集 第 16 巻第 3 号 [1988] スラッファのハイエク批判と 一般理論 京都学園大学論集 第 16 巻第 4 号 [1997] ケインズ理論の源泉 有斐閣 [2009] スラッファの商品利子率とケインズの自己利子率 経済論叢 第 183 巻第 1 号 [2011] ピグー ケインズ カルドア論争 経済論叢 第 185 巻第 4 号 [2013] ピグーの2 部門モデル 1941 経済論叢 第 186 巻第 2 号 本郷亮 [2007] ピグーの思想と経済学 名古屋大学出版会
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academic.oup.com
PROFESSOR Pigou on " THE CLASSICAL STATIONARY StaTe
А СоммENT
PROFESSOR PiGou attempts to show in his article that full
employment in a stationary state would be established auto-
matically provided wage-earners would act competitively, i.e.
provided wage rates would continue to fall as long as any unem-
ployment is in existence. The gist of the argument is roughly as
follows
In a stationary state equilibrium net investment and thus net
saving must be equal to zero. Thus in order that full employment
should prevail in such an equilibrium saving out of full employ
ment real income must be equal to nought. If saving out of full
employment income is positive, zero investment will entail a
level of real income so much below full employment that the
saving out of this income is nought
Such may be the situation in the initial position but tlhe
existence of unemployment causes-according to the assumption
of unrestricted competition between the workers---a continuous
fall in money wages, and consequently in prices. Now Professor
Pigou makes the assumption that when incomes fall the banking
system maintains the stock of money constant. As a result the
fall in money wages and prices causes a fall in the rate of interest;
for with the rate of interest unchanged the stock of money would
have to fall more or less proportionately to the money volume of
transactions. Professor Pigou assumes that this fall in the rate
of interest reduces somewhat saving out of a given income, and
thus tends to increase employment, but he admits that even if the
rate of interest (net of all risks) approaches closely to zero it may
still not be enough to create full employment. He centres his
argument on another factor which takes care of this task
As mentioned above, on Profossor Pigou's assumption the
stock of money is constant, and thus its real value increases in the
course of the wage fall. Thus, argues Profesor Pigou, the real
value of existing possessions increases. The richer people are,
however, the less they are willing to save out of a given real income.
Thus if the increase in the real value of the stock of money reaches
a certain limit, people will save nothing out of real incomes
corresponding to full employment. At that point full employment
long-run equilibrium will be reached
|
配架場所 | 請求記号 | 現況 |
---|---|---|
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中央 B2研究書庫 | F331.7 00014 01 | 利用可能 |
中央 1F自動書庫 | 010711077389 | 利用可能 |
高田記念図書館 | F331.7 0163 001 | 利用可能 |
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カレツキとピグー
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