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月曜日, 12月 16, 2019

超奇跡! MMTはジブリで分かる! 上 佐藤 健志

超奇跡! MMTはジブリで分かる! | 令和の真相
https://www.kk-bestsellers.com/articles/-/11001

佐藤 健志 2019/12/15

超奇跡! MMTはジブリで分かる!

令和の真相㉓

◆奇跡の経済理論、登場!


徳間書店初代社長・徳間康快 
 2019年、わが国では消費税率が10%に引き上げられました。
 消費税とは読んで字のごとく、消費することの負担を重くする性格の税。つまりは景気を冷え込ませ、経済をデフレ(需要が供給よりも少なく、ゆえにモノをつくっても売れない状態)へと向かわせる効果を持ちます。
 デフレ不況が長年続いたわが国で、そのような税を強化したらどうなるか、なかなかコワいものがある。




 現に10月の実質消費支出は前年比5.1%減、景気動向指数は前月より5.6ポイント悪化。
 10〜12月期の景況判断指数も、大企業(全産業)がマイナス6.2、中小企業(同)にいたってはマイナス16.3を記録しました。
 まさに総崩れの印象ですが・・・
 そんな日本で最近、話題になった経済理論が「MMT」。
 Modern Monetary Theory (またはModern Money Theory)の頭文字をつないだもので、日本語では「現代貨幣理論」と訳されます。
 MMT紹介の第一人者は、評論家の中野剛志さん。
 2016年の大著『富国と強兵 地政経済学序説』(東洋経済新報社)こそ、わが国でMMTを本格的に紹介した最初の本でしょう。
 『富国と強兵』は、いささか専門的なトーンで書かれているため、初心者には取っつきにくいところがあったものの、中野さんは2019年、KKベストセラーズから刊行された『奇跡の経済教室』二部作で、MMTを平易に解説しました。
 目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】では、MMTの要点がスッキリまとめられており、つづく全国民が読んだら歴史が変わる 奇跡の経済教室【戦略編】では、デフレ脱却のうえでMMTが持つ意義や、MMT批判にたいする反論が「特別付録」として随所に織り込まれています。
 私も2018年、平和主義は貧困への道 または対米従属の爽快な末路(KKベストセラーズ)で、MMTに基づいた議論を展開しましたが、その際は『富国と強兵』が大いに参考になりました。


 2019年には、アメリカの経済学者L・ランダル・レイの著書『MMT 現代貨幣理論入門』も東洋経済新報社より翻訳されましたが、中野さんはこれにも巻頭解説を寄稿。
 今やその他にも、題名に「MMT」を冠した本がいくつも登場、ちょっとしたブームになっています。


◆「鈴木くん、金は銀行にいくらでもある」
 貨幣理論というと、堅苦しく複雑そうな印象を受けるかも知れないものの、MMTの根本は難しいものではありません。
 それどころか、経済学者ならぬ企業の経営者たちは、理論として体系化される前から、MMTに従って行動していたのです!
 具体例をご紹介しましょう。
 1995年、キネマ旬報社より『宮崎駿・高畑勲とスタジオジブリのアニメーションたち』という特集本が刊行されました。
 じつは私も寄稿していますが、経済や貨幣とは無縁なこの本に、MMTの本質をみごとにとらえたエピソードが出てくるのです。
 エピソードを披露したのは、ジブリのプロデューサー・鈴木敏夫さん。
 スタジオジブリは当初、吉祥寺のビルを借りて本拠にしていました。しかし映画製作を続けるうち、すっかり手狭になってしまう。
 そのため1990年代はじめ、宮崎駿さんが新社屋を建てようと言い出します。いわく、仮の住まいでは優秀な人材が集まらないし、集まった者も育たない。
 もっともな理屈ですが、ジブリには建設資金がまったくなかった。
 さあ、どうするか。

 昨今の政府よろしく、「財源がない」ことを理由にあきらめるのが、たいがいの人の反応かも知れません。
 ところが鈴木さん、「何とかなるだろう」と考えるんですね。
 そしてジブリの生みの親ともいうべき、徳間書店の徳間康快(とくま・やすよし)社長が大賛成する。
 徳間さん、ジブリの初代社長も務めたものの、鈴木さんによればこう言ったそうです。


【鈴木くん、金は銀行にいくらでもある。人間、重いものを背負って生きてゆくもんだ】
(『宮崎駿・高畑勲とスタジオジブリのアニメーションたち』、50ページ)
 鈴木さん、「こういう人生観もあるのかと不思議な感動にとらわれた」とのこと(同)。こうしてジブリは自前の社屋を持つにいたり、ますます発展していったのでした。

超奇跡! MMTはジブリで分かる!

令和の真相㉓

◆重いものは借金ではない



 徳間社長の発言のどこがMMTなのか?
 まずは「金は銀行にいくらでもある」です。
 金(貨幣)を「紙幣」や「硬貨」、つまり現金通貨と考えれば、これは正しくありません。銀行にある紙幣や硬貨の量は有限です。
 億単位の現金の引き出しを求められたら最後、たいがいの銀行支店はすぐには対応できず、用意に二、三日はかかるとのこと。
 しかし現金通貨は、社会に流通している貨幣の(ごく)一部にすぎません。貨幣は現金通貨という物理的な形を取ることもありますが、そのような形を取らねばならないわけではないのです。
 MMTは貨幣について、本質的には貸し借りを表す数字にすぎないと規定します。銀行から1億円の融資を受けるとして、それが1億円の現金という形を取らねばならない理由はない。口座の残高に「100,000,000」と入力してもらっても同じことではありませんか。
 裏を返せば、コンピュータのキーボードを打つだけで1億円の融資は可能。L・ランダル・レイは『MMT 現代貨幣理論入門』で、これを「キーストローク」(キー叩き)と形容しました。
 キーストロークだけでいいのですから、銀行が融資する気になるかぎり、入力する数字はいくらでも増やせます。その意味で徳間社長の言う通り、金は銀行にいくらでもあるのです!
 ならば徳間社長、なぜ「人間、重いものを背負って生きてゆくもんだ」と言ったのでしょう。
 借金が重荷なのは当たり前じゃないかって? なるほど、常識的にはそうなります。
 けれども「金は銀行にいくらでもある」のです。いくらでもあるものが、そんなに重いということがありうるか。
 これもスタジオジブリの例で考えると分かりやすい。
 銀行から借金して新社屋を建てたとして、そこでつくった映画が大ヒットを飛ばし、関連商品も売れまくったら、借金は重くありません。余裕で返済できるからです。


 とはいえ映画の興行がどうなるかは、結局のところフタを開けるまで分からない。
 鈴木プロデューサーが背負わねばならない「重いもの」とは、借金ではなく、この不確実性なのです。「ジブリになら融資しても大丈夫だ」という銀行の信用に応えられるような映画を供給する責任、そう形容することもできるでしょう。

超奇跡! MMTはジブリで分かる!

令和の真相㉓

◆日本復活の道筋は見えた、が…

 しかるに政府には、銀行以上にカネ(「金」と書くと物理的なイメージがつきまとうので、以下カタカナにします)がいくらでもあります。政府には「通貨発行権」、つまりカネをつくりだす能力があるのです!
 通貨発行権を放棄したりせず、自国通貨で負債を抱え込むかぎり(※)、政府の財政が破綻することはありえません。返済のためにカネが必要になったら、新たに発行すればいいのです。
 それも紙幣を刷る必要はありません。キーストロークでよろしい。
(※)ただし為替レートが固定されていると、自国通貨で負債を抱えても、他国通貨で抱えたのと実質的に同じになってしまいます(財政、ないし経済がどんな状態であろうと、自国通貨の下落が起こらず、決まったレートで他の通貨に交換しなければならないため)。よってこの条件は、変動為替相場制を採用していることを含みます。

 徳間社長の言葉にならえば「政府にはいよいよもって、カネがいくらでもある」ですが、だからといって「重いもの」がなくなるわけではありません。

 この場合の「重いもの」は、当該国の経済が持っている、モノやサービスの供給能力です。財政政策によって使われるカネ(=喚起される需要)が、これをあまりに上回ってしまうと、モノやサービスの価格がどんどん上がる。つまりインフレが進むことになります。
 しかしこれは、経済がデフレであるかぎり、政府は負債を増やしても大いに結構、いや増やすべきだということを意味する。
 デフレとは、需要が供給を下回っている状態です。この場合、「重いもの」を気にするいわれはありません。政府が思い切ってカネを使う、いわゆる「積極財政」によって、経済を刺激すればいいのです。
【カネは政府がいくらでも使える。どの国も重いものを背負って生きてゆくが、デフレのときはそれが重くなくなるもんだ】
 ハイ、これがMMTの本質です。
 鈴木プロデューサー、じつはMMTに感動していたのです。
 裏を返せば、MMTは貨幣論であると同時に人生観でもある。
 徳間社長は故人となりましたが、偉大さがしのばれるではありませんか。
 カネは政府がいくらでもつくれて、デフレのときはそれが重くない!
 景気回復への道筋が見えた!
 2020年代は日本復活と行こう!!
 ところがどっこい。
 そう簡単には行かないのです。理由については、次号「欧米のMMT論者は歴史認識問題にこだわる!」でご説明しましょう。
(了)

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