水曜日, 2月 12, 2020

ミッチェル=MMT名付け親の経済学者が断言「財政政策中心の新時代が幕開けた」 2020.2.13 5:40


MMT名付け親の経済学者が断言「財政政策中心の新時代が幕開けた」 | 財政膨張 | ダイヤモンド・オンライン
https://diamond.jp/articles/-/227457

MMT名付け親の経済学者が断言「財政政策中心の新時代が幕開けた」

財政膨張#第4章
今回の経済対策や「15カ月予算」編成に影を落とした「黒船」が、財政赤字を積極肯定して欧米の「反緊縮」運動の理論的支柱になっている「現代貨幣理論(MMT)」だ。特集「財政膨張」(全5回)第4章では、そのMMTの命名者でもあるビル・ミッチェル・ニューカッスル大学教授のインタビューをお届けする。同氏は、「主流派のマクロ経済政策が機能せず、信頼しない人が増えたことが、新しい財政政策中心の時代の幕開けになった」と話す。(ダイヤモンド編集部 西井泰之、竹田幸平)

90年代半ばの日本の状況が
研究の初期段階に重要な役割

 MMTが確立される過程で、1990年代半ば以降の日本の状況が、研究の初期段階に重要な役割を果たした。
 私が大学で教え始めたときに日本でバブルが崩壊し、日本経済に関心を持つようになった。その後、日本で財政赤字は増え続けたが、インフレ率は低いままだった。
 政府債務の拡大と低金利をどう両立できたのか、その興味からランダル・レイ・バード大学教授や銀行家のウォーレン・モズラー氏らと議論を始めたのが、MMTにつながった。 
 われわれの考え方が一般の人に知られるようになったのは、2004年に私がブログを始めてからだ。そこで議論された一連の考え方が、10年前後からMMTと呼ばれるようになった。
 その頃、モズラー氏が大学生への奨学金制度を設けて始めたプログラムで学んだのが、いま、米民主党のサンダース議員やオカシオ・コルテス議員の政策顧問をしているステファニー・ケルトン・ニューヨーク州立大学教授らだった。こうしてMMTの議論が広がり、いまのMMTによる“革命”につながっている。
 日本では世界金融危機後も、国債増発で財政赤字が膨らみ、国債を購入した日本銀行のバランスシートは劇的な速さで拡大した。主流派の学者は金利急騰やインフレが加速すると言ったが、現実は正反対だ。


MMT名付け親の経済学者が断言「財政政策中心の新時代が幕開けた」

 日本は30年近く、対GDP(国内総生産)比の政府債務残高が世界で一番大きい国だが、直近でも10年物国債の金利はマイナスだ。主流派の心配事は起きていない。
 その後、日本と同様に欧州の政府や中央銀行も大胆な政策を選択し、景気回復につなげた。
 この状況は主流派の理論からは導き出されなかったことだが、MMTでなら一貫性を持って全て説明できる。

通貨発行権を持つ政府は
財政的な制約を受けない

 MMTは名前の通り貨幣についての考察から始まった。
 主流派は貨幣の由来を、金などの貴金属と価値がリンクし兌換できることで商品交換などに使われるようになった、と説明してきた。
 われわれは、貨幣は政府が税の支払い手段として流通させたもので、価値は政府の信用で裏付けられているという考え方を取っている。
 この考え方を基に貨幣の発生から流通、消滅までを会計的に説明しようとしたが、財政赤字についても主流派とは違う見方をするようになった。
 財政政策でMMTと主流派を分けるのは、政府は財政的な制約を受けないという点だ。
 主流派は国債を増発すると、国債価格が下落して金利が急騰するから、借金漬けの財政は回らなくなると言う。しかし通貨発行権を持つ政府はいくらでも貨幣を発行できる。
 制約をどうして受けるのだろうか。
 現実は、財政を通じて貨幣が供給され、財政赤字は民間の所得増や貯蓄増になる。

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MMT名付け親の経済学者が断言「財政政策中心の新時代が幕開けた」

 主流派は、金利が上がるのは政府が借り入れを増やして民間企業の資金需要を奪ったからで、それは民間の貯蓄を減らし、民間の投資を抑えると言ってきた。
 しかし実際は財政支出を通じて民間に資金が供給され、企業の口座や銀行の日銀当座預金にお金がたまる。政府の財政赤字は民間の貯蓄でファイナンスされているのではなく、政府の財政赤字が民間の所得や貯蓄の増加につながるのだ。
 主流派は、中央銀行が国債を購入してファイナンスすればインフレになると言ってきた。いま日銀は直接ではないものの、国債を引き受けて財政赤字をファイナンスしているが、インフレにはなっていない。
 欧州中央銀行(ECB)も同様で、増発された国債の購入によりバランスシートは膨れ上がっている。しかし主流派の心配事は起きていない。

増税は制御不能のインフレのとき
PB黒字化は根拠がない

 ただMMTはインフレのリスクについても明確に認識している。財政赤字を無条件に肯定しているわけではない。
 インフレは幾つかの理由で起きるが、われわれは需要の増加と生産能力の増え方の問題だと考えている。
 われわれが危険と考えるのは、民間の生産能力を超えて財政出動が行われることだ。
 過剰な需要の圧力を受けたとき、つまり財やサービスの供給能力を使い切った際にインフレが起きる。主流派が言う高インフレは、石油危機のように原油価格の急騰で輸入原材料価格が上がるなど、供給サイドのショックがない限り起きない。
 そして投資などが行き過ぎて過剰な需要が起きた際に、強力なツールになるのが増税だ。
 政治的には厳しい挑戦だが、政府は状況に応じて増税をしないといけない。
 ただ増税が必要なのは、コントロール不能のインフレが起きた場合だ。
 ところが日本ではその後、財政による刺激で経済成長がうまくいっていたときに増税が行われ、景気を悪化させた。
 97年の消費増税のときがそうで、14年の税率引き上げの際も消費が冷え込んで経済は勢いを失った。
 昨年10月の消費増税も信じ難いことだった。どうして97年の教訓に学べなかったのだろうか、と思う。

MMT名付け親の経済学者が断言「財政政策中心の新時代が幕開けた」

 政府は基礎的財政収支(PB)の赤字をゼロにしなければいけないことを増税の根拠にしている。そうしないと財政がいずれ破綻するか、高インフレが起きるからだという。
 しかしその根拠は基礎的な経済学でも定義されておらず、全く合理性に欠けるものだ。経済学に関係のないイデオロギーに翻弄されているといってもいい。

信頼を失った主流派経済学
財政新時代の幕開け

 世界的に財政出動への期待が強まっている一番の要因は、主流派のマクロ経済政策が機能せず、信頼しない人々が増えてきたことと関係がある。
 新自由主義による市場重視の政策の結果、所得格差が拡大した。金融政策中心で経済を支えようとしてきた結果、マイナス金利にまでになって、年金基金などは安定した年金を払えなくなる恐れが出ている。
 また企業はリスクの高い投資に走ることになり、経済社会がより脆弱性を高めることになっている。
 主流派の理論を基本にする政策の失敗によって、人々はそれに代わる理論をMMTに求めているといっていい。
 実際に政策を担っている中央銀行総裁の中には、昨年10月に退任したマリオ・ドラギECB総裁らのように何人かが、金融政策は量的緩和策やマイナス金利などをやって一巡し、もはや金融政策だけでは経済を支え切れないと言って、財政政策の重要性を指摘している。
 ドラギ氏は退任間際ということで以前より本音を吐露できたのかもしれないが、私は財政政策中心の新しい時代の幕開けだと考えている。
 生産性についても定義し直す必要がある。いまは生産性が企業の利益と結び付けて議論されているが、人間の有意義な営みとは何かということで再定義しないといけない。
 そうすれば市場メカニズムの下では難しかった雇用などでも新たなチャンスが生まれ、社会の便益にもなることがある。
 波乗りをしているサーファーを、夏のシーズンに公的部門で雇用したり雇用を保障したりするのも一例だ。
 救難活動をしてもらったり、浜辺で児童などに海での安全を守る方法を教えてもらう。彼らは海の怖さを知っている。命を救い、水の怖さを教えることで溺死者を減らすことになる。
 これは社会の便益につながる生産性の高い活動だと思う。

MMT名付け親の経済学者が断言「財政政策中心の新時代が幕開けた」

何に使うかは
それぞれの国民の選択

 財政出動で何にお金を使うかは、最終的にはそれぞれの国の国民が選択することだ。
 ただ国民の幸福や福利を高めるのに、世界的に共通項といえるものがある。
 雇用の安定やその質を高める、教育の充実やインフラに投資する、地球環境に配慮する、地域経済を活性化するといったことだ。
 しかしそれらがどういう効果やインパクトを持つかは、それぞれの国や社会による。
 新自由主義を克服するのも国民自身だ。福利が向上するように政府はお金を使えと政治に圧力をかけるのだ。
 従来なら、政治家や政府は借金を抱えお金がないからできないと言って拒絶したが、そうした回答はできないし、そういううそをつく政治家は信頼されなくなる。
 財政赤字が悪いというイデオロギーを変え、財政拡大の必要性を社会がどこまで共有できるかが鍵だが、政治家は現実的な人たちなので財政をうまく使う手段を見つけるだろう。
 いまの各国経済の現実を考えれば、財政政策中心でやるしか方法はない。そうでないと深刻な不況になってしまうだろう。(談)
ビル・ミッチェル/1952年生まれ。ニューカッスル大学で博士号を取得。専門はマクロ経済学。ランダル・レイ教授らとのブログでの議論がMMTと呼ばれるようになった。ギタープレーヤーとしてレゲエ音楽のバンドでも活動中。99年より現職。
Key Visual by Noriyo Shinoda