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水曜日, 3月 18, 2020

ハーシュマン

NAMs出版プロジェクト: 宇沢弘文(1928~2014):メモ
http://nam-students.blogspot.com/2016/03/blog-post_10.html

近年話題になってたトリクルダウン効果は、A・ハーシュマンが『経済発展の戦略』
(邦訳1961年,原著1958年O. Hirschman, The Stategy of Economic Development)、
「第十章 経済成長の地域的・国際的波及」の中で言い出した概念だ。
重要なのはトリクルダウン(浸透効果)に、ポラリゼイション(分裂効果)と
いう対立概念があるということだ。
この視点がないとトリクルダウンの反対はトリクルダウンしない、ということでしかなくなり、
公的資金注入の課題点が見えない。
例えば豊かな工業中心の北部をさらに豊かにしたら、貧しい農業中心の南部の工業は、
北部に負けて消滅してしまうだろう。これが分裂だ。これは国家間でも起こり得る。
ハーシュマン自身は成長拠点を持つべきだと考え、長期的展望に立ってトリクルダウンを
支持しているが、同時に政府の政策に対しては細心の注意を要求している。
ベルグソンの道徳論やチャップリンの『キッド』(ガラス屋のエピソード)が引用されるなど、
本書は興味深く、洞察力を感じさせる。ハーシュマンは単なるリフレ派ではない。
(ハーシュマンの言うトリクルダウンは国家による経済政策で、リフレは金融政策。
ジャンルは違うが双方親和性がある。ハーシュマンはこの中間に切り込んだのが功績だ。)
参考:http://cruel.org/econthought/profiles/hirschm.html

その著書『情念の政治経済学』に柄谷行人も『トランスクリティーク』『ネーションと美学』で言及
している。

さらに、宇沢弘文は、経済解析基礎篇567頁他で社会的共通資本の定式化の元としてハーシュマンの著書に触れている。
ハーシュマン『経済発展の戦略』(原著初版1958年)の第五章「投資選択と投資戦略」においてSOC(邦訳では社会的間接資本と訳される)が言及され、その用役が輸入できないことがSOCの条件に挙げられている(邦訳ハーシュマン146頁)。ハーシュマンはDPA(Directly Productive Activities-直接的生産活動)とのバランスを重視している。宇沢のSOCは直接生産にも関わるからハーシュマンの概念とイコールではない。
第八章ではルイスが言及されている。ルイス→ハーシュマン→宇沢という影響関係が考えられる。

アルバート・O・ハーシュマン

アルバート・O・ハーシュマン(Albert Otto Hirschman, 1915年4月7日 - 2012年12月11日)は、ドイツ出身の経済学者。専門は政治経済学開発経済学

略歴

著書

単著

  • National Power and the Structure of Foreign Trade, (University of California Press, 1945).
飯田敬輔監訳『国力と外国貿易の構造』、勁草書房、2011年
  • The Strategy of Economic Development, (Yale University Press, 1958).
麻田四郎訳『経済発展の戦略』(巌松堂出版, 1961年)
  • Journeys toward Progress: Studies of Economic Policy-making in Latin America, (Doubleday & Co., 1963).
  • Development Projects Observed, (Brookings Institution, 1967).
麻田四郎・所哲也訳『開発計画の診断』(巌松堂出版, 1973年)
  • How to Divest in Latin America, and Why, (International Finance Section, Princeton University, 1969).
  • Exit, Voice, and Loyalty: Responses to Decline in Firms, Organizations, and States, (Harvard University Press, 1970).
三浦隆之訳『組織社会の論理構造――退出・告発・ロイヤルティ』(ミネルヴァ書房, 1975年)
矢野修一訳『離脱・発言・忠誠――企業・組織・国家における衰退への反応』(ミネルヴァ書房, 2005年)
  • A Bias for Hope: Essays on Development and Latin America, (Yale University Press, 1971).
  • The Passions and the Interests: Political Arguments for Capitalism before its Triumph, (Princeton University Press, 1977).
佐々木毅旦祐介訳『情念の政治経済学』(法政大学出版局, 1985年)
  • Essays in Trespassing: Economics to Politics and Beyond, (Cambridge University Press, 1981).
  • Shifting Involvements: Private Interest and Public Action, (Princeton University Press, 1982).
佐々木毅・杉田敦訳『失望と参画の現象学――私的利益と公的行為』(法政大学出版局, 1988年)
  • Getting Ahead Collectively: Grassroots Experiences in Latin America, (Pergamon Press, 1984).
矢野修一・宮田剛志・武井泉訳『連帯経済の可能性――ラテンアメリカにおける草の根の経験』(法政大学出版局, 2008年)
  • Rival Views of Market Society and Other Recent Essays, (Viking, 1986).
  • The Rhetoric of Reaction: Perversity, Futility, Jeopardy, (Belknap Press of Harvard University Press, 1991).
岩崎稔訳『反動のレトリック――逆転, 無益, 危険性』(法政大学出版局, 1997年)
  • A Propensity to Self-Subversion, (Harvard University Press, 1995).
田中秀夫訳『方法としての自己破壊――「現実的可能性」を求めて』(法政大学出版局, 2004年)
  • Crossing Boundaries: Selected Writings, (Zone Books, 1998).

共著

  • Foreign Aid: A Critique and a Proposal, with Richard M. Bird, (International Finance Section, Princeton University, 1968).

編著

  • Latin American Issues: Essays and Comments, (Twentieth Century Fund, 1961).

脚注

  1.  Décès de l’économiste Albert O. Hirschman toutelaculture.com 2012年12月12日閲覧


タイラー・コーエン 「アルバート・ハーシュマンの経済学」(2006年8月15日) — 経済学101
https://econ101.jp/%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%82%A8%E3%83%B3-%E3%80%8C%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%9E%E3%83%B3/

タイラー・コーエン 「アルバート・ハーシュマンの経済学」(2006年8月15日)

●Tyler Cowen, “Albert Hirschman”(Marginal Revolution, August 15, 2006)

リバタリアンの面々は、ハーシュマンの議論についてどう思ってるんだろうか? そもそも、ハーシュマンを読んだことあるんだろうか? ハーシュマンについて、いくらか練られた意見を持ってたりするんだろうか?
アルバート・ハーシュマンは、ノーベル経済学賞を受賞するにふさわしい人物だ。不均衡発展に関する初期の研究(邦訳『経済発展の戦略』)は、経済発展論(開発経済学)の分野における先駆的な業績だし、 『The Rhetoric of Reaction』(邦訳『反動のレトリック』)は、知識人による自己欺瞞(self-deception)に関する優れた研究だ。さらには、思想史の研究者としても優れた業績を残している。例えば、商業活動が世俗の道徳をいかにして形作ったかを跡付けた研究(邦訳『情念の政治経済学』)がそれだ。
しかしながら、もし仮にノーベル経済学賞がハーシュマンに授与されるようなことがあるとすれば、その理由は、経済学者や政治学者の注目をボイスという現象(邦訳『離脱・発言・忠誠』)に振り向けさせた点に求められることだろう。ボイス(抗議)とは何かというと、消費者や有権者が不満の声をあげることで、企業や政府が提供する財やサービスの質の改善を促すことを指している。ハーシュマンは、ボイスのメカニズム1 についてシステマティックに考え抜いた最初の学者、現代の社会科学界のパイオニアなのだ。
イグジット(退出)を行使できる機会が限られていると、ボイスが積極的に利用されるようになるし、ボイスの効果も高まる。どうやら、ハーシュマンは当初のうちはそのように考えていたようだ。その場から立ち去れるのなら、その場にとどまってわざわざ不満を述べるまでもない、というわけだ。そのことを理解していたのがカストロ(Fidel Castro)。(不満を抱える)キューバ市民が大量に国外に脱出する(イグジットする)のを見逃したのだ。当然ながら言うべきか、亡命したキューバ人は、到着先のフロリダなんかで不満の声をあげたわけだけれどね。教育バウチャー制度が導入される(イグジットの機会が生まれる)と、父母会議に参加する親が減る、なんていう声も聞かれる。父母会議で怒鳴り散らすくらいなら、我が子を別の学校に移せばいいってわけだ。
しかし、実際のところは、ボイスがその効果を最も発揮するのは、競争圧力が強い(イグジットに容易に訴えることができる) 時というケースが多い。東ドイツの政府当局よりもHBO(エイチビーオー;アメリカのケーブルテレビ放送局)の方が不満の声に敏感だし、ウェグマンズ(アメリカにあるスーパーマーケットチェーン)に不満の声をぶつけようものなら、何なら本ブログのコメント欄で不満をつぶやいても、すぐにも聞き入れられることだろう2。つまり、競争(イグジット)とボイスは、代替的というよりも、補完的である可能性が高いのだ。後になってハーシュマンもこのことを認めるに至り、このことをあちこちで強調するようになった(邦訳『方法としての自己破壊』)のであった。
私の知る範囲だと、ボイスが効力を持つのはどんな時かを、理論的にきっちりと解明した例はまだないようだ。ハーシュマンの(イグジット&ボイスに関する)議論をモデル化しようと試みている最近の例としては、こちらの論文がある。肝心な問題は、人がボイスという手段に訴える動機がよくわかっていないということだ。
経済発展論の分野におけるハーシュマンの貢献については、ポール・クルーグマン(Paul Krugman)のこちらの論説を参照されたい。こちらの論文では、「進化」についてのハーシュマンの考えが検討されている。
(追記)タバロックが、こちらのブログエントリー〔拙訳はこちら〕で、ボイスについて私見を述べている。この件でタバロックとひと揉めしたかったところだが、残念ながらそうはいかなそうだ。
  1. 訳注;ボイスを通じた規律付け効果 []
  2. 訳注;HBOにしても、ウェグマンズにしても、ブログにしても、代わりとなる選択肢(競合相手)が多いため(競争が活発なため)、顧客や読者の声に敏感にならざるを得ない、ということ。顧客や読者の不満の声に鈍感だと、すぐにでもイグジットされてしまう(他のライバルにお客をとられてしまう)可能性があり、そのことが脅しとなってボイスの効果が高められることになる。 []

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