1)アリマス、アリマセン、アレワナンデスカ 一八七四年、チャールズ・ワーグマン?(「ザ・ジャパン・パンチ」)
2)死ぬるが増か生くるが増か 思案をするはこゝぞかし 一八八二年、外山正一(『新体詩抄』所収、丸屋善七発行)
3)ながらふべきか但し又 ながらふべきに非るか 爰が思案のしどころぞ 一八八二年、矢田部良吉(尚今居士)(『新体詩抄』所収、丸屋善七発行)
4)第一、生きて居るか、死なうといふ事を考へる 一九〇三年一〇月、土肥春曙・山岸荷葉(翻案『沙翁悲劇ハムレット』冨山房。同年一一月、川上音二郎一座、本郷座上演)※翻案『ハムレット』の本邦初演(ハムレットではなく葉村年丸)
5)定め難きは生死の分別 一九〇五年、戸澤正保(戸沢姑射)(『沙翁全集第一巻・ハムレット』大日本図書)
6)生か死か、其の一を撰ばんには 一九〇七年一〇月、山岸荷葉(『沙翁悲劇はむれっと』春陽堂)
7)存ふか、存へぬか、それが疑問ぢゃ 一九〇七年一一月、坪内逍遥(文芸協会、本郷座上演)※翻訳『ハムレット』の本邦初演(役名はハムレット)
8)生くるがましか死ぬるがましか、嗚呼どうしたものか 一九〇九年、外山正一(「霊験皇子の仇討」[西洋浄瑠璃ハムレット]、『丶山存稿』所収、丸善)
9)存ふる、存へぬ、其処が問題だ 一九一四年、村上静人(『ハムレット』アカギ叢書第二十四篇、全国各書林)※小説風に書き直されたもの
10)生か死か……それが問題だ 一九一五年、久米正雄(『ハムレット』新潮文庫)
11)生きてゐようか、ゐまいか、それが問題だ 一九一八年、坪内士行(坪内士行訳・演出、東儀鉄笛主演、帝国劇場。台本は『帝国劇場上演臺本ハムレット及びハムレットの研究』[冨山房]として出版)
12)生きてゐようか、生きてゐまいか、それが問題だ 一九二七年一月、高原延雄(『世界文豪代表作全集 第四巻』世界文豪代表作全集刊行会)
13)生きていくか、生きていくまいか、それが問題だ── 一九二七年二月、甫木山茂(『古典劇大系 第五巻』近代社)
14)存らふべきか、それとも、存らふべきでないか、問題はそれだ 一九二九年五月、横山有策(『世界文学全集(三)沙翁傑作集』新潮社、一九三三年新潮文庫再録)
15)生きる、生きない、それが問題だ── 一九二九年一一月、佐藤篤二(『世界戯曲全集 第三巻』世界戯曲全集刊行会)
16)あるべきか、あるべきでないか、それは疑問だ 一九三三年四月、本多顕彰(『ハムレット』小山書店)
17)世に在る、世に在らぬ、それが疑問ぢゃ 一九三三年九月、坪内逍遥(『新修シェークスピヤ全集第二十七巻』中央公論社)
18)どっち だらうか。──さあ そこが 疑問、 一九三四年、浦口文治(『ハムレット』三省堂)
19)生、それとも死。問題は其處だ 一九三五年、沢村寅二郎(『對譯傍註 ハムレット』研究社)
20)生き存らふべきか、死ぬべきか、それが問題である…… 一九四六年、鈴木善太郎(『世界名著物語文庫 ハムレット』新文社)※小説体に書き改めたもの
21)生きるか、死ぬか、問題はそこだ 一九四七年一一月、森芳介(宮田輝明脚色、木下徹演出、東京青年劇場、春日章良、村上冬樹、田湖章子ほか、帝国劇場上演)
22)生きてゐるか、生きてゐないか、それが問題だ 一九四九年一〇月、竹友藻風(『シェイクスピア選集 第四』大阪文庫)
23)生きるか、死ぬるか、そこが問題なのだ 一九四九年、市河三喜・松浦嘉一(『ハムレット』岩波文庫)
24)長らうべきか、死すべきか、それは疑問だ 一九四九年、本多顕彰(『ハムレット』思索社、一九五一年に角川文庫所収)
25)生きているのか、生きていないのか。それが疑問だ 一九五〇年一月、並河亮(『ハムレット』建設社)
26)生きる、死ぬ、それが問題だ 一九五一年、三神勲(『世界文学全集』河出書房。一九五九年『世界文学全集』河出書房。一九五九年『世界文学大系』筑摩書房再録。一九六四年、千田是也演出、仲代達矢主演、日生劇場。一九七七年六月『シェイクスピア戯曲選集』開明書院再録)
27)生か、死か、それが疑問だ 一九五五年、福田恆存(福田演出『ハムレット』芥川比呂志、杉村春子ほか、東横ホール。一九五六年河出書房より出版、一九六〇年新潮社再版)
28)生きるか、死ぬか、心がきまらぬ 一九六〇年、鈴木幸夫(『世界名作全集 二』平凡社)
29)やる、やらぬ、それが問題だ 一九六六年、小津次郎(『世界文学全集 十』筑摩書房)
30)在るか、それとも在らぬか、それが問題だ 一九六六年、大山俊一(『ハムレット』旺文社文庫)
31)生きるのか、生きないのか、問題はそこだ 一九六九年、永川玲二(『ハムレット』綜合社編、一九七三年に集英社『世界文学全集』再録、一九九八年集英社文庫)
32)生き続ける、生き続けない、それがむずかしいところだ 一九七一年、木下順二(『ハムレット』講談社文庫)※同年八月の世界文学ライブラリー『ハムレット・オセロ・マクベス』(講談社)には、「生き続けるか、生き続けないか、それがむずかしいところだ」とある
33)このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ 一九七二年、小田島雄志(『ハムレット』白水社。同年五月、出口典雄演出、江守徹主演、文学座アトリエ)
34)生か死か、問題はそれだ 一九八三年、安西徹雄、未出版(安西演出『ハムレット』、橋爪功ほか、ステージ円)
35)このまま生きる、それとも死ぬ、問題はそこだ 一九九〇年、渡邊守章、未出版(渡邊守章、未出版(渡邊演出、野村武司、後藤加代ほか、東京グローブ座)
36)するか、しないか、それが問題だ 一九九二年、高橋康也、未出版(ペーター・ストルマーレ演出、上杉祥三、長野里美、峰さを理ほか、東京グローブ座)
37)生きてとどまるか、消えてなくなるか、それが問題だ 一九九五年、松岡和子(蜷川幸雄演出、真田広之主演、銀座セゾン劇場、一九九六年ちくま文庫)
38)これでよいのか、いけないのか、どうしたらよい 二〇〇〇年、小菅隼人(『ベスト・プレイズ』白凰社)
39)生きるか、死ぬか、それが問題だ 二〇〇二年、野島秀勝(岩波文庫。中野春夫『シェイクスピアの英語で学ぶここ一番の決めゼリフ』[マガジンハウス、二〇〇二]及び石川実『新体・シェイクスピア』[慶応義塾大学出版会、二〇〇二]も同じ訳を採用)
40)生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ 二〇〇三年、河合祥一郎(『新訳ハムレット』角川文庫)
作成:河合祥一郎・酒井萌(東京大学大学院博士課程)、参考文献:河竹登志夫『日本のハムレット』(南窓社、一九七二年)、「シェイクスピア翻訳文学書全集」(大空社、一九九九~二〇〇〇年)
※ なお、脚注に記したテクストの異同に関する注記は、決して網羅的なものではない。脚注は、できるだけ控え目にして、あまり解釈的なことを盛り込んで通読の邪魔になることのないように心がけた。解釈や参考文献についての詳細は、高橋康也・河合祥一郎編注の大修館シェイクスピア双書『ハムレット』(大修館書店)を参照されたい。
河合祥一郎『新訳 ハムレット』訳者あとがきより
ーーーーー
シェイクスピア ハムレット Shakespeare Hamlet 3:1
To be, or not to be
1)アリマス、アリマセン、アレワナンデスカ 一八七四年、チャールズ・ワーグマン
2)死ぬるが増か生くるが増か 思案をするはこゝぞかし 一八八二年、外山正一
3)ながらふべきか但し又 ながらふべきに非るか 爰が思案のしどころぞ 一八八二年、矢田部良吉(尚今居士)
4)第一、生きて居るか、死なうといふ事を考へる 一九〇三年一〇月、土肥春曙・山岸荷葉
5)定め難きは生死の分別 一九〇五年、戸澤正保(戸沢姑射)
6)生か死か、其の一を撰ばんには 一九〇七年一〇月、山岸荷葉
7)存ふか、存へぬか、それが疑問ぢゃ 一九〇七年一一月、坪内逍遥
8)生くるがましか死ぬるがましか、嗚呼どうしたものか 一九〇九年、外山正一
9)存ふる、存へぬ、其処が問題だ 一九一四年、村上静人
10)生か死か……それが問題だ 一九一五年、久米正雄
11)生きてゐようか、ゐまいか、それが問題だ 一九一八年、坪内士行
12)生きてゐようか、生きてゐまいか、それが問題だ 一九二七年一月、高原延雄
13)生きていくか、生きていくまいか、それが問題だ── 一九二七年二月、甫木山茂
14)存らふべきか、それとも、存らふべきでないか、問題はそれだ 一九二九年五月、横山有策
15)生きる、生きない、それが問題だ── 一九二九年一一月、佐藤篤二
16)あるべきか、あるべきでないか、それは疑問だ 一九三三年四月、本多顕彰
17)世に在る、世に在らぬ、それが疑問ぢゃ 一九三三年九月、坪内逍遥
18)どっち だらうか。──さあ そこが 疑問、 一九三四年、浦口文治
19)生、それとも死。問題は其處だ 一九三五年、沢村寅二郎
20)生き存らふべきか、死ぬべきか、それが問題である…… 一九四六年、鈴木善太郎
21)生きるか、死ぬか、問題はそこだ 一九四七年一一月、森芳介
22)生きてゐるか、生きてゐないか、それが問題だ 一九四九年一〇月、竹友藻風
23)生きるか、死ぬるか、そこが問題なのだ 一九四九年、市河三喜・松浦嘉一
24)長らうべきか、死すべきか、それは疑問だ 一九四九年、本多顕彰
25)生きているのか、生きていないのか。それが疑問だ 一九五〇年一月、並河亮
26)生きる、死ぬ、それが問題だ 一九五一年、三神勲
27)生か、死か、それが疑問だ 一九五五年、福田恆存
28)生きるか、死ぬか、心がきまらぬ 一九六〇年、鈴木幸夫
29)やる、やらぬ、それが問題だ 一九六六年、小津次郎
30)在るか、それとも在らぬか、それが問題だ 一九六六年、大山俊一
31)生きるのか、生きないのか、問題はそこだ 一九六九年、永川玲二
32)生き続ける、生き続けない、それがむずかしいところだ 一九七一年、木下順二
33)このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ 一九七二年、小田島雄志
34)生か死か、問題はそれだ 一九八三年、安西徹雄、未出版
35)このまま生きる、それとも死ぬ、問題はそこだ 一九九〇年、渡邊守章、未出版
36)するか、しないか、それが問題だ 一九九二年、高橋康也、未出版
37)生きてとどまるか、消えてなくなるか、それが問題だ 一九九五年、松岡和子
38)これでよいのか、いけないのか、どうしたらよい 二〇〇〇年、小菅隼人
39)生きるか、死ぬか、それが問題だ 二〇〇二年、野島秀勝
40)生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ 二〇〇三年、河合祥一郎
作成:河合祥一郎・酒井萌(東京大学大学院博士課程)、
参考文献:河竹登志夫『日本のハムレット』(南窓社、一九七二年)、
「シェイクスピア翻訳文学書全集」(大空社、一九九九~二〇〇〇年)
※ なお、脚注に記したテクストの異同に関する注記は、決して網羅的なものではない。脚注は、できるだけ控え目にして、あまり解釈的なことを盛り込んで通読の邪魔になることのないように心がけた。解釈や参考文献についての詳細は、高橋康也・河合祥一郎編注の大修館シェイクスピア双書『ハムレット』(大修館書店)を参照されたい。
河合祥一郎『新訳 ハムレット』訳者あとがきより
5 Comments:
「ハムレット」の名セリフの訳 英語の海を泳ぐ/ウェブリブログ
english-sea.at.webry.info/200706/article_23.html
アリマス、アリマセン、アレワナンデスカ (1874年). で、訳した人として「チャールズ・ ワーグマン?」と書かれているので、最初にこのセリフを訳したのは、日本人ではなさ そうだ。 かの坪内逍遥は、後年訳を変えている。 - 存ふか、存へぬか、それ ...
http://english-sea.at.webry.info/200706/article_23.html
「ハムレット」の名セリフの訳
<< 作成日時 : 2007/06/23 01:00 >>
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「慣用」をめぐって、もう1回書くことにする。シェイクスピアの「ハムレット」の名セリフといえば、何といっても "To be, or not to be..." だ。この訳として一般に言い慣わされているのは、「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」だろう。ところが面白いことに、この言い回しが出てくる翻訳(完訳本)は、これまでひとつもないのだそうだ。
数年前に角川文庫から出版された、英文学者の河合祥一郎氏による「ハムレット」の新訳は、この「生きるべきか、死ぬべきか」を初めて採用したことをひとつの「売り」にしている。
河合氏は「あとがき」の中で、次のように書いている。
新訳が出るとなると、この部分の訳はどうなるのかと注目を浴びるところだ。そこで訳者は懸命に自分なりの解釈を考えることになる・・・・・・。(中略)しかし、「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」ほど、ハムレットの独白の出だしの言葉として認知された訳もないだろう。(中略)重要なのは、その台詞の解釈よりはむしろ観客に与えるインパクトの強さなのではないだろうか。
そして、この「あとがき」の中で、"To be, or not to be..."が過去の翻訳でどのように表現されたか紹介している。なんと40通りもの訳が掲げられている。
ここで全部を列挙するのは問題があるかもしれず、そもそも長大なものになってしまうので、目についた一部だけを取り上げてみよう。
一番初めにあげられているのは、
- アリマス、アリマセン、アレワナンデスカ (1874年)
で、訳した人として「チャールズ・ワーグマン?」と書かれているので、最初にこのセリフを訳したのは、日本人ではなさそうだ。
かの坪内逍遥は、後年訳を変えている。
- 存ふか、存へぬか、それが疑問ぢゃ (1907年)
- 世に在る、世に在らぬ、それが疑問ぢゃ (1933年)
本多顕彰も同様である。
- あるべきか、あるべきでないか、それは疑問だ (1933年)
- 長らうべきか、死すべきか、それは疑問だ (1949年)
「生きるべきか、死ぬべきか」に近いものとしては、
- 生か死か・・・・・・それが問題だ (久米正雄、1915年)
- 生きるか、死ぬるか、そこが問題なのだ (市河三喜・松浦嘉一、1949年)
- 生きる、死ぬ、それが問題だ (三神勲、1951年)
- 生か、死か、それが疑問だ (福田恆存、1955年)
など、かなりあるが、まったく同じものも、これまたない。
このほか、最近の翻訳がどのように訳しているかなど、興味を持たれた方は、実際にこの訳書を参照していただきたい。
また、「あとがき」の内容に関係なく、この新訳は一読の価値があると思う。というのは、この翻訳は、狂言師の野村萬斎氏が2003年に行った公演のために、河合氏が依頼を受けて行ったものであるためか、ことに自然な日本語になっていると感じるからだ。
河合氏は「あとがき」で、野村氏と氏本人が実際に何度も声を出して読み上げ、訳を推敲した、と書いている。原語の言葉遊びのような箇所も、意味を汲んで、日本語でも面白く感じられるように工夫されている。"A little more than kin, and less than kind." が「お世辞にも叔父は親父と同じとは言えぬ」と訳されているのにはびっくりした。河合氏にはぜひ他の作品も翻訳してもらいたいものだ。
さて、シェイクスピア作品の引用は、英語に触れているとあちこちに顔を出すので、「名セリフ」の類の本を読んでおいて損はないと思う。本当は原文で読むのがいいのだろうが、残念ながら私にはその力がない。
概説書以外で参考になると思うのは、現在ちくま文庫で進められている松岡和子氏の翻訳である。ページ欄外の脚注が、かなりの頻度で元の英語を挙げつつ説明する形を取っているので、英語学習者にとっても役に立つ。先の "A little more than kin, ..." という原文も、この脚注で知ったものだ。ちなみに松岡氏はここを、「血のつながりは濃くなったが、心のつながりは薄まった」と訳している。
参考:
・「聖書・シェイクスピア」一覧
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コメント(2件)
内 容 ニックネーム/日時
いつも勉強させていただいています。そうなんですか、40通りもの訳が・・・。今後(万一)試験にでてきたら、どんな訳が正答になるのでしょうね。
natto9
URL
2007/06/23 10:49
natto9 さん、コメントありがとうございました。
このセリフ、これだけいろいろな訳がつけられているということは、それだけ解釈の幅を広くとれるということなのでしょうね。
子守男
2007/06/23 21:08
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川上重人
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評価(評価: 3.8)評価:3.8-5件のレビュー
bs-1
炎の城
2018/01/31 14:45
主人公が死なないのは東映側による改変らしいがこれで個性的な映画にはなった
ラストの炎上は黒澤の乱に似ている twitter.com/nhk_hensei/sta…
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