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土曜日, 3月 30, 2019

機能的財政

機能的財政

デイビット・アンドルファット「ミスリーディングなMMT調査に物申す」

David Andolfatto “The Chicago Booth Survey on MMT” MacroMania, March 14, 2019

デイビット・アンドルファット「ミスリーディングなMMT調査に物申す」

David Andolfatto “The Chicago Booth Survey on MMT” MacroMania, March 14, 2019

シカゴ大学ブース校が経済学者たち対して行った調査(こちらを参照)についてに少々物申しておきたい。この調査は,次の2つの主張について各自がどれほど強く信じているかについて尋ねたものだ。
質問A:自国通貨での借り入れを行う国は,自身の債務を賄うためにいつでもお金を創り出すことができるので,政府の財政赤字を心配する必要はない。
質問B:自国通貨での借り入れを行う国は,お金を創り出すことで自身が望んだだけ政府実質支出を賄うことができる。
当然ながら,調査を受けた経済学者のほとんどが両方の主張を否定した。それは問題なし。でも実は問題ありだ。なぜならこの調査は

現代金融理論(MMT)

と前置きして,このふたつの主張があたかもMMTの核となる信念の一部をなすものであるかの如くしているからだ。
有力なMMT派はこの調査に含まれていただろうか。冗談言っちゃいけない,もちろんそんなことはなかった(MITの人は何人かいたけども。MITもMMTもどちらも似たようなものと思ったのかもしれない)。典型的なMMT派であればこのふたつの質問にどのように答えただろうか。そのほとんどはその他の経済学者とまったく同じように答えたに違いない。そうであれば,どうしてシカゴ大学ブース校は調査の冒頭にMMTなどと置いたのだろう。いろんな可能性があるけれど,そのどれもブース校にとってはおもしろくないものだ。
まずは質問Bからはじめよう。というかこんなのははじめないほうがよろしい。この質問はあまりにも馬鹿馬鹿しくて,答えるに値しない。政府がいかなる資源制約にも直面しないなんて信じている人はいない。
よし,というわけで質問Aについて考えてみよう。この質問が少々誤解を招きかねないものであるというのはもっともな話だ。でもその前にはっきりさせておきたいのは,僕は自分がMMTに関する学術研究の全体についてよく知り抜いているなんて言うつもりはないってことだ。それでもいくらかは読んだことがあるし,何人かのとても頭が良くて思慮深いMMT派とやりとりをしたこともある。彼らの考えの多くについて僕は同意していないけれど,彼らの言っていることの一部について,それが伝統的な考え方と整合的なのか反しているのかを僕は理解していると思う。百歩譲ったとしても,少なくともMMT派の言うことは検討に値するものだ。これから書くことは僕の解釈で,MMT派を代表して言っているわけじゃない。
さあ,財政赤字が「重要である」かどうかという質問について手をつけよう。MMTの主張をもっと正確に言うならば,「自国通貨建ての債務を発行する変動相場制実施国は,自らの債務の未返済という技術的な意味でのデフォルトを心配する必要はない」というようなものになる。つまり,アメリカ政府は満期になった債務を支払うためにいつでもお金を刷ることができるということだ。なぜならアメリカ財務省証券は米ドルに対する請求権なので,政府は(望むのであれば)必要なドルすべてを刷ることができるからだ。
この主張に反対する人は誰もいない。MMT派はこの点を明確にしたがる。というのは,ひとつには一般市民の多くはこの基本的事実を理解していないし,もうひとつにはこうした誤解は時折(もしかしたら頻繁に)政府の「適切な」役割に関する特定のイデオロギー的見解を押し出すために利用されるからだ。
主流派の経済学者は,僕も含め,重要なのは技術的なデフォルトではなくて経済的な「デフォルト」だということを指摘したがる。予期せぬインフレは,何でもかんでも支払うために新しいお金が刷られている中で古いお金を抱えておくことに捕らわれている人の購買力を吹き飛ばしてしまう。MMT派もこれを理解していることは明らかだと思う。それは彼らが政府支出の経済的限界を定義するのに「インフレ制約」にいつも言及するところに見て取れる。こうした考えについては,前回のブログ記事で明確化を試みた。Sustainable Deficitsを参照してほしい。
でも問題はこれよりも複雑だ。それも僕が思うに面白い方向に。ゼネラルモーターズ(GM)のような,ある大企業について考えてみよう。GMは債務と株式の両方を発行する。GMが発行する債務はドル建てなのでGMは破産することがある。でもGMはある種の「お金」も発行する。つまり,従業員への支払いや買収をするために株式を使うこともできる。
株式をさらに発行することによってGMのデフォルトリスクが高まることはない。実のところ,株式がGMの債務を買い戻すことに使われるならデフォルトリスクは下がる可能性が大きい。GMが新株発行によって買収資金を得ようと考えているときに議論の焦点となるのは,GMが新株を刷ることができるかどうかじゃない。もちろんながらGMは望む限りの株式を刷ることができる。問題はその買収によって価値が高まるのか薄まるのかだ。もし前者なら,新たなお金[株式]の発行はGM[の株式という]お金の価値を上昇させる。後者であれば,新株発行はインフレ的になる(GM株式の購買力が下がる)。言い換えれば,GMの負債の未払いそれ自体が重要なのではないという意味において,「財政赤字は重要じゃない」。重要なのはもっと根本的なところにある何かだ。株式の「過剰発行」は望ましくないことかもしれないけれど,その現象自体は表面に現れる症状であって原因じゃない。
アメリカ政府と連邦準備制度(Fed)は実質的には株式を発行している。政府は債務のデフォルトをする必要はない。なぜならアメリカ財務省証券はお金(株式)に変換可能で,Fedはそうすると決めればそうできる。政府にとって問題になるのは,GMと同じく,新たな支出事業によって価値が高まるのか薄まるのかだ。経済がその最大能力未満で運行している場合,それはGMにとってプラスの割引現在価値の投資機会が目の前にぶらさがっているようなものだ。政府が新たなお金を発行しても,賢く使うのであれば,必ずしもインフレ的にはならない。
もちろんどこまでこれができるかという限界はある。上には「賢く使うのであれば」という限定句を置いた。でもそれこそがまさに議論の的となるポイントだ。すなわち,「最良の」資源配分を促すために僕らの制度はどのように設計されるべきだろうか,ということだ。
MMT派はインフレに関する優れた理論を備えていないといったことをよく聞く。あたかもインフレに関する優れた理論が既にそこらにあるかのようだ。でもMMTには例えばThe Failure to Inflate Japan1 で書いたような僕自身の見解と(全部ではないけど)重なるインフレに関する理論があるように思える。MMTは,インフレをコントロールするために金融政策が用いることのできる一連の手段について,より幅広い見方をしているようだ。彼らの見解のメリットについて議論はありうるけれど,彼らを一切相手にしないとか彼らにインフレの理論がないかのように主張する理はない。
もうひとつ聞かれる不満は,MMT派はモデルを作ろうとしないというものだ。ご存知のとおり,あまり多くの数学的モデルがないのは本当のことだ。で,それがなにか?
まず,政策決定のリンガフランカは英語だ。数学は通商言語の一部でしかない。経済学の考えは,日常言語で表現されたときに理解することができる。僕やほかの人たちにとっては,考えを僕らの通商言語で「明確化」しようとすることも有用であり続けている。でも一部の同業者たちは,彼らの通商言語で提示された時にしか主張を理解できないように見える。これが正しいとすれば,それはむしろ悲しむべき状況だ。
そして,MMTはほかのどの思想学派とも同じように時とともに進化しているし,異なる流派からやってきている。モデルを(今!)要求するんじゃなく,交流を行って彼らの考えのいくらかについて明確化に貢献してみよう。どうなるかは分からないけど,その過程から実際に何かを学ぶこともあるかもしれない。
これについては今後も書くけれど,今回はここまで。

訳者おまけ

〔冒頭にリンクされているシカゴ大学ブース校の調査に対する回答のうち,何らかのコメントを書いた人のみ抜粋して以下に訳出した。上段が名前,大学,回答(強く賛成,賛成,どちらとも言えない,反対,強く反対,意見なし,の6つ),答えに対する確信度(1~10),下段がコメント〕
質問A
●マーカス・ブルネルマイヤー,プリンストン,強く反対,9
多くの歴史の例を見よ:1920年代のドイツ,南米…
●ダレル・ダフィー,スタンフォード,強く反対,10
債務の現在価値は債務支払いの現在価値に等しい。したがって現時点での更なる借り入れはその後の更なる支払いを意味する
●アーロン・エドリン,バークレー,反対,7
心配が少ないことは心配がないことと同じではない
●バリー・アイケングリーン,バークレー,強く反対,10
設問の「心配ない」という表現は確かに少々曖昧だ
●レイ・フェア,イエール,強く反対,10
間違いなくインフレが問題になりうる
●オースタン・グールスビー,シカゴ,強く反対,8
「いつでも」ってのは馬鹿げてんね(友人への忠告)
●ロバート・ホール,スタンフォード,強く反対,10
政府は現在の金融制度ではお金を創り出すことはできない。なぜなら中央銀行は準備預金と通貨を額面で維持するからだ
●オリバー・ハート,ハーバード,強く反対,8
この種の行動は,ひとたび経済が最大能力に近づくとすぐさまインフレ,あるいはハイパーインフレすら招きかねない
●ケネス・ジャッド,スタンフォード,強く反対,10
政府はこうしたことを一度は行うことができるかもしれないが,制度的にやろうとすれば将来的に債券を売ることができなくなる。
●スティーブン・カプラン,シカゴ,強く反対,10
どこかの時点でこれは持続不可能になってその国はベネズエラやジンバブエになる
●アニル・カシュヤプ,シカゴ,強く反対,10
お金による資金調達はいくらかの通貨発行益を生み出すが,インフレも生み出し,インフレにはコストがあってシニョレッジの容量には限界がある
●エリック・マスキン,ハーバード,反対,7
お金を刷ることそれ自体が,インフレのリスクなどの問題を生み出す
●ウィリアム・ノードハウス,イエール,強く反対,9
明らかにこれらは心配すべきものだ。しかし,開放経済下では,特に変動相場性と合わされば圧力は低くなる
●ラリー・サミュエルソン,イエール,反対,6
財政赤字はお金を創り出すことで賄うことができる。しかし欠点も利点と同様にあるので慎重に考慮されるべき
●ロバート・シマー,シカゴ,強く反対,8
マネーサプライの実質価値には上限がある。どこかの時点でこれは必ずインフレを生み出す
質問B
●ダレル・ダフィー,スタンフォード,強く反対,10
これが真ならば,そうした国のどれもが世界の産出すべてを買うことができることになる。そんなことは不可能だ
●アーロン・エドリン,バークレー,反対,9
能力には限界があって欲求には限界がない
●レイ・フェア,イエール,強く反対,10
どこかの時点でこの制度は崩壊する
●オースタン・グールスビー,シカゴ,反対,9
共生:どこにそれを送るべきか彼らに伝えると,彼らはどこに行くべきかを伝えてくる
●オリバー・ハート,ハーバード,強く反対,8
質問Aに対する答えと同じ
●ケネス・ジャッド,スタンフォード,強く反対,10
フリードマンは「ただ飯なんてものはない」という本を書いた。彼は〔ただ飯だけじゃなくて〕道路,橋,軍隊,学校,その他あらゆるものも意図していた
●スティーブン・カプラン,シカゴ,強く反対,10
質問Aに対する答えと同じ
●アニル・カシュヤプ,シカゴ,強く反対,10
これが不可能だと多くの国が証明した
●エリック・マスキン,ハーバード,反対,5
通貨の価値が下落して更なる支出が困難ないしは不可能になる地点に至ることになる
●ウィリアム・ノードハウス,イエール,強く反対,8
どこかの時点でハイパーインフレーションによってすべてがめちゃくちゃになる。しかし,これは開かれた世界では無意味な質問だ
●ラリー・サミュエルソン,イエール,反対,6
お金の創出は多くの支出を賄うことができるが,ハイパーインフレ,崩壊,その他の危機の事例はそこに限界があることを示している
●ホセ・シャインクマン,コロンビア大学,強く反対,9
これは質問Aよりも輪をかけて馬鹿げてる
●リチャード・セイラー,シカゴ,意見なし,
この質問は好きじゃない。ある意味においてはこれは正しいと思うが,どこかの時点でインフレが発生する
  1. 訳注;リンク先記事の拙訳はこちら [↩]


追記:
Macroeconomics (英語) ペーパーバック – 2019/2/25
William Mitchell (著), L. Randall Wray (著), Martin Watts (著)
https://www.amazon.co.jp/Macroeconomics-William-Mitchell/dp/1137610662
https://nam-students.blogspot.com/2019/03/macroeconomics-2019-william-mitchell-l.html

https://www.macmillanihe.com/page/detail/Macroeconomics/?K=9781137610669
サンプル
https://www.macmillanihe.com/resources/sample-chapters/9781137610669_sample.pdf
参考:
アバ・P・ラーナー (Abba P. Lerner), 1903-1982.
https://cruel.org/econthought/profiles/lerner.html
https://nam-students.blogspot.com/2019/03/abba-p.html
MMTの源流?

FUNCTIONAL FINANCE AND THE FEDERAL DEBT Author(s): ABBA P. LERNER 1943
https://www.gc.cuny.edu/CUNY_GC/media/LISCenter/pkrugman/lerner-function-finance.pdf

アンワル・シャイク 2016
https://nam-students.blogspot.com/2017/05/httpwww.html

クルーグマンMMT批判記事
https://twitter.com/masterguchi/status/1103867177789091846?s=21


https://www.nytimes.com/2019/02/12/opinion/whats-wrong-with-functional-finance-wonkish.html
https://translate.google.com/translate?hl=&sl=en&tl=ja&u=https%3A%2F%2Fnam-students.blogspot.com%2F2019%2F03%2Fwhats-wrong-with-functional-finance.html&sandbox=1
幸いなことに、MMTは1943年のAbba Lernerの“機能金融”の教義とほとんど同じもののようです。そしてLernerは見事に明確で、彼の主張の重要な長所と問題の両方を容易に見ることができました。 このノートで私がやりたいことは、なぜ私がLernerの機能金融を完全に信じていないのかを説明することです。…
…彼の主張は、(a)自分たちが管理している平等なお金に頼り、(b)他人の通貨で借りていない国は、借金を返済するために常にお金を印刷できるからです。 
… まず、ラーナー氏は金融政策と財政政策の間のトレードオフを本当に無視していました。 第二に、彼は雪だるまの借金の潜在的な問題に対処しましたが、彼の対応は、技術的にも政治的にも、増税や支出削減に対する制限に完全には対処しませんでした。 これらの制限を導入することは、借金を彼が認めるより潜在的により多くの問題にする。
FUNCTIONAL FINANCE AND THE FEDERAL DEBT Author(s): ABBA P. LERNER Source:  Social Research,  Vol. 10, No. 1 (FEBRUARY 1943), pp. 38-51
https://www.gc.cuny.edu/CUNY_GC/media/LISCenter/pkrugman/lerner-function-finance.pdf

続編
https://nam-students.blogspot.com/2019/03/how-much-does-heterodoxy-help.html
https://translate.google.com/translate?hl=&sl=en&tl=ja&u=https%3A%2F%2Fnam-students.blogspot.com%2F2019%2F03%2Fhow-much-does-heterodoxy-help.html&sandbox=1


ブラッドフォード・デロング「グローバル化に関して読むべき5冊 by ラリー・サマーズ」

Bladford Delong”Larry Summers:TheFive Best Books on Globalization” Grasping Reality with at Least Three Hands, September 17, 2018

ラリー・サマーズが挙げている「グローバル化に関する最も優れた5冊」は次のとおり1 。
  1. 訳注:以下では原文のGoogleへのリンクをamazon.co.jpのものへと差し替えた。 []
  2. 訳注:ほかに「ケインズ全集 第2巻」収録の早川忠訳と救仁郷繁訳「講和の経済的帰結」があるがどちらも絶版。 []

ブラッド・デロング「クルーグマン:機能的ファイナンスのどこが問題か」(2019年2月14日)

[Brad DeLong, “Paul Krugman: What’s Wrong With Functional Finance?,” Grasping Reality with Both Hands, February 14, 2019]
ポール・クルーグマン:機能的ファイナンスのどこが問題か:「MMT はアバ・ラーナーの「機能的ファイナンス」[pdf] とだいたい同じものに思える(…).そこで,このメモでやりたいのは,ラーナーの機能的ファイナンスをぼくが全面的には信じていないワケを説明することだ.この批判は MMT にも当てはまると思う.ただ,これまでのいろんな論争の経験から何事かが示唆されるとすれば,きっとすぐさまこんな風に言われることだろう,「クルーグマンはわかってない」「あいつは寡頭政治の腐った手先だ」とかなんとか.(…)
(…)さて,ラーナーの話:彼が主張したのはこういうことだ――(a) みずからが制御する不換紙幣に頼っていて,しかも (b) ヨソの通貨で借り入れていない国々は,債務制約に直面しない,なぜって,そういう国々はいつでもお金を刷って債務返済に充てられるからだ.かわりにそういう国々が直面するのは,インフレ制約だ:あまりに財政刺激策をやりすぎると,経済が熱しすぎてしまう(…).これはすっきりした議論だ(…).それに,今日の世界ではかなりいい話なようにも見える.つまり,ゼロ金利にもかかわらず長いこと需要が低迷していてかなり脆弱っぽく見える世界にとって,うまい話に見える〔財政刺激で多少インフレが進んでも困らないので〕.というか,2010年代にかなり長く政策論議を支配した「オイオイオイ,これじゃギリシャの二の舞だわ俺ら」式のパニックよりはるかによさそうに見える.
じゃあなにが問題なの? 第一に,ラーナーは金融政策と財政政策のトレードオフをてんで無視している.第二に,ラーナーは雪だるま式に債務が膨らみかねない問題には言及しているけれど,増税および/または支出削減にかかる技術的・政治的な制限のどちらにもラーナーの対策は満足に対応していない.
ラーナーによれば,金利は「投資のもっとものぞましい水準」を達成する水準に設定すべきであって,財政政策はその金利を前提に完全雇用を達成するべく選ばれるべきだという(…).でも,ここがすごく重要なんだけど,金利のゼロ下限にある場合をのぞいて,実際に起こるのは政治的なトレードオフが税と支出を決定し,インフレを起こさず完全雇用を達成するように金融政策が金利を調整するという事態だ.こういう状況では,財政赤字は民間支出を押しのけてしまう[クラウドアウト].なぜなら,減税や支出増加は金利を高めるからだ.ということはつまり,赤字支出の正しい水準は一意に定まらないということだ.どれくらいの水準が正しいのかは,トレードオフをみんながどう評価するかに左右される選択問題なんだ.
債務はどうだろう? 経済の持続的な成長率を金利が上回るか下回るかに左右される部分が多い(…).さて,ラーナーは基本的にこの点を認めている.ただ,政府は必要とされる財政黒字をいつでもやれるし必ずやるものだとラーナーは想定している(…).また,必要とされる黒字を達成する政治的な難しさについても,ラーナーはなにも述べていない.でも,債務がすごく高い水準にいたった場合には,そういう政治的な難しさが問題のかなめになりやすそうに思える.
要点をまとめれば,機能的ファイナンスにはよい部分もたくさんある一方で,ラーナーや現代の MMT 論者たちが想像しているような公理のように正しい議論とはちがう(…).そのうえで言うと,近い将来に進歩派が直面する財政問題にとって,こういう批判はべつに中心を占めるものになるだろうとは思わない.〔オバマケアの拡大版みたいな〕ほんとに大規模な進歩的プログラムを実施するには新たに大きな財源が必要になると思ったからって,べつに赤字ダメぜったい派や債務心配性になるにはおよばない.でも,その点は次回のポストで説明しよう.
☆☆
☆☆☆

雇用の経済学 (1965年) (現代経済学名著選集〈第12 明治大学経済学研究会編〉)  – 古書, 1965

From 島倉原(しまくら はじめ)@評論家
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先週、インターネット動画『チャンネルAJER』にて、「機能的財政論から見た日本経済」というタイトルで話をしました。
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-163.html
中野剛志さんの『国力とは何か』などでご存知の方もおられるかもしれませんが、「機能的財政論」とは、ジョン・メイナード・ケインズの弟子にあたるアメリカの経済学者アバ・ラーナーが著書『雇用の経済学』や『統制の経済学』などで提唱した、
「財政政策は(財政収支や政府債務の多寡ではなく)完全雇用の達成や物価の安定といった経済全体のパフォーマンスを目的とし、その目的にかなった政策を状況に合わせて採用すべきである」
完全雇用とは、いわば国の生産能力がフルに発揮された状態。
そうした状態をもたらすために、生産能力に見合った国全体の支出(総需要)を適正レベル(物価が安定した状態)に保つのが、財政政策において政府が果たすべき第1の責任。
そのためには、通貨発行権を持つ国家においては実態上ほとんど意味がない「財政収支の均衡」という固定観念にとらわれることなく、財政支出、徴税、借入れ、通貨発行といった政策手段を現状に合わせて適切に選択すべきである、というのがその骨子です。
詳しくは冒頭でご紹介した拙稿をお読みいただきたいのですが、こうした機能的財政論(functional finance)の枠組みを用いることで、財政政策(fiscal policy)はもちろん、一般には金融政策(monetary policy)に分類される様々な政策手段についても、いわば「financial policy」という同じ土俵のもとで(例えば下記資料3ページのような形で)、その意義や有効性を論じることも可能になります。
http://twitdoc.com/5PM1
そして、以下のグラフでもわかるように現在の日本は明らかに総需要不足の状態。
https://twitter.com/sima9ra/status/725344695505805312
https://twitter.com/sima9ra/status/725345562195800064
https://twitter.com/sima9ra/status/725346322765611008
ところが、機能的財政論の見地からは、財政支出拡大を伴わない「黒田バズーカ」なる政策は理論的に無意味(マイナス金利政策に至ってはむしろ総需要にマイナスの可能性もあり)で、実際上も効果に乏しい。
https://twitter.com/sima9ra/status/719076491980439552
にもかかわらず、総需要に最もプラスな財政支出拡大が行われたのは当初だけで、その効果も間接税(消費税)増税という最もマイナスな政策で打ち消してしまったアベノミクスは、政策パッケージとしていかにもまずい、というお馴染みの結論が、機能的財政論からも素直に導き出すことができます。
さて、そんな議論をした翌週早々の5月2日、日本経済新聞の朝刊で、下記の記事が報じられました。
中国、8兆円減税始動 不動産など非製造業の負担減
「中国政府が国内景気のてこ入れへ大規模な減税に乗り出した。企業の売り上げにかける「営業税」を廃止し、売り上げから仕入れを引いた粗利にかける「増値税」に一本化する税制改革を1日実施した。今年の減税規模は5000億元(約8兆2千億円)超を見込む。景気を下支えするとともに先進国並みの税制導入で産業の高度化につなげる。」
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO00310810S6A500C1FF8000/
こちらは消費税増税とは真逆の間接税減税、すなわち、財政支出拡大と並んで総需要拡大に最も効果的な政策です。
機能的財政論から見ても、世界経済に与える影響が懸念されるほど供給過剰による経済不振に陥っている中国において、最も適切な政策であると言えるでしょう。
実は、日本でも全く同じような政策が実施されたことがあります。
すなわち、売上税などの廃止とセットであったがゆえに、実質的には減税であった1989年4月の消費税導入です。
ところが1989年と言えば、バブル経済に象徴される景気循環の絶頂期で、むしろ需要過多の状況。
対して、同時期に行われた政策全体としても総需要にマイナスだった1997年と2014年の消費税増税は、いずれも需要不足気味となる「景気循環の底」に近い局面で実行されています。
こうした機能的財政論と逆行した政策運営は、そのまま長期にわたる日本経済の不振につながっています。
そして、経済不振による税収の落ち込みが緊縮財政志向をさらに強めることで、本来必要なはずの公共サービスも劣化する、まさしく悪循環の構造です。
そうこうしている間に、より適切な政策運営を行なってきた中国にGDPで追い抜かれ、その差はさらに広がろうとしています。
しかも、経済不振の解決策を「積極財政による総需要の拡大」という本筋から外れたところに求める結果、行き過ぎた改革・グローバル化志向という弊害も生じます。
そうかと思えば、経済不振による閉塞感や行き過ぎた改革への反動で、嫌韓・嫌中・ヘイトスピーチに代表される極端に閉鎖的なムードも助長されていきます。
こうしてあらゆる方面から国の安全性が低下しているのが、残念ながら日本の現状と言えるでしょう。
G7伊勢志摩サミットでのテーマも、「機能的」ならぬ、2014年の消費税増税をもたらした「機動的」な財政政策となるようで、決して楽観はできない状況です。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/we/fr/page4_002007.html
こうした状況に根本的な歯止めをかける切り口として、機能的財政論を今一度掘り下げることが有意義なのではないか―改めてそんな風に思う今日この頃です。
↓今回の記事が「参考になった」と思われた方は、下記サイトにアクセスの上、ブログランキングボタンのクリック、ツイッターやフェイスブックでの共有など、より多くの方への拡散にご協力いただければ幸いです。
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-165.html
〈島倉原からのお知らせ〉
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おなじみiPhoneの販売不振が、アップルのみならず、関連部品メーカーの株価下落をもたらしています。
そんな中、逆に株価が大幅上昇しているiPhone関連企業に着目し、その背景にあるIT業界の変化のトレンドについて考察しています。
↓「iPhone販売不振でも上昇するアップル関連株」
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-162.html
上述した景気循環が、直近の新興国経済の不振や原油をはじめとする商品価格の下落とつながっていることは、折に触れて述べているとおりです。
このうち30年を超える周期を持つ「スーパーサイクル」が、株式市場や外国為替(FX)市場にどのように反映されているかを確認してみました。
↓「金融市場に映る新興国と商品価格のサイクル」
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-164.html
↓ツイッター/フェイスブックページ/ブログでも情報発信しています。是非ご活用ください。
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/
https://twitter.com/sima9ra
https://www.facebook.com/shimakurahajime
ーーー発行者よりーーー
日本が途上国支援を続けられる訳
消費増税、高齢化、千兆円の政府債務
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http://www.keieikagakupub.com/sp/38DEBT/index_mag2.php



機能的財政(読み)きのうてきざいせい(英語表記)functional finance



ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

機能的財政
きのうてきざいせい
functional finance



経済安定化のために財政的手段を伸縮的に活用しようとする補正的財政政策を財政の機能の首位におこうとする考え方で,A. P.ラーナーらによって唱えられた。その説によると,財政の機能は主としてインフレーションデフレーションを抑止するために需要の大きさを調節することにあり,また租税の目的も総需要を制御することに求められる。したがって公共目的の充足所得再分配という財政支出の基本的機能や経常収入の調達という租税固有の役割は軽視され,経済安定化の目的だけが強調される。この点で機能的財政の考え方は行過ぎであり,財政資金の配分や国債の累積問題に対する誤った見解をもつ結果となった。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

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