http://www.freeassociations.org/
《『景気循環理論』においてカレツキは景気循環を通じて貨幣量は変動することを想定していたところ,これは内生的貨幣供給理論の先駆であると評価できよう。
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「私は,生産が貨幣賃金の変動から独立していることもまた私の『景気循環理論』において示していた」(Kalecki(1936a);CWMK, I, p. 229)》
研究ノート「カレツキはケインズに対する先行性の主張をなぜ封印したのか」山本英司 2021
金沢星稜大学論集 第 54 巻 第 2 号 令和 3 年 3 月
http://www.seiryo-u.ac.jp/u/research/gakkai/ronbunlib/e_ronsyu_pdf/No137/09_yamamoto137.pdf
景気循環の内生・外生問題
高倉文年
http://harp.lib.hiroshima-u.ac.jp/hue/file/2194/20081215085420/keizai1985080303.pdf
目究l
I はじめに
I I Fels と Moore
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年, 1969年, 1929年の下向転換も少くとも金融引縮政策の影響を受けたと 考える。残った 1948年の下向転換は主に内生的な在庫メカニズムから生ま れた例外的なケースだが,この場合でさえ,金融政策の変化が一役を担っ ていると判断した。その結果,アメリカ経済のこの半世紀の下向転換は経 済体系の内生的な作用よりもむしろ外生的な撹乱一金融・財政々策ーから 生じたとみ,アメリカ経済には景気循環をっくり出す傾向が内在している 証拠は殆んどないと結論した。
アメリカ経済という限定付きではあるが,景気循環に内生的要素が殆ん どないという Fels の結論は,いたく刺激的な論点であろう。この Fels
の見解に対しては, Mooreからの批判がある。 Mooreは Felsの結論を, 景気循環の上向転換は経済が成長するという趨勢を基礎にして経済体系内 の内生的な力が主に引きおこし,下向転換は計画された政策行動の結果で あると要約した上で,彼自身の見解を以下のように展開する。
多分 Felsはこのことを十分には語ってはいないけれども,政策活動一 金融および財政ーは避けることができたかもしれぬ間違いである。従って, その誤りがなければ下向転換もまた避けえただろうし,その結果経済は規 則だ、った上向きの過程を辿ったことであろう。しかし,もしこれが真実な
ら Felsの結論は重要である。つまり,我々は一世紀以上もの間景気循環 に悩まされてきたのに,何故policymakerは同じ間違いをおかし続ける のか。つまり, policy maker は同じ間違いを平和時でほぼ 4年ごとにお か し て い る (1854年 以 降 , ア メ リ カ で は 2 2個 の 景 気 循 環 が 存 在 し た が , 不況聞の平均間隔は,大戦時の景気循環を除くと, 46ヶ月である。戦争時は その間隔が広がり 5つの戦争時における景気循環の平均間隔は7ヶ月で あった)ことになる。景気循環の平均的な長さを大統領選挙聞のインター パルの反映とみる立場もある。しかし Fels が正しいなら 4年毎にきく 同じ誤りは決しておかさないという決意は単なる約束にすぎないことにな
(2) Moore,G.H.,“BusinesCycles:PartlyExogonous,MostlyEndogenous." p.96-103.
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る。また, policymakerは下向転換がいかにしておこるかは学びうるが, 上向転換はいかにしておこるかは学ぶことができないというのも奇妙に思 える。それはちょうど部屋を乱雑にする仕方は知っているが,整頓する方 法は知らない少年にも似ている。つまり, policy maker は recesion の 混乱の中に我々をまき込む方法を学びうるのなら,なぜ我々を recesion から引き上げる方法を学びえないのだろうか。あるいは,まるで少年のよ うに, policy maker はただ自然になるがままにしているのだろうか。時 々愚かな policymakerに出会うこともあろうが,すべてが愚かとは限ら ない。我々はこれまで景気循環について何かを学んできた。景気循環が以 前ほど悪くないのはこのためである。確かに思いがけぬ出来事がおこるだ ろう。しかし,我々はそれらをそっと静めるいくつかの自動装置を組み立 ててきたし,おこりつつあることについての情報もますます良くなってい る。経済のコントロールの仕方についての知識も高まっているので,その 知識をもっと使いたくなるが,我々は完全ではないし,とりわけ団結する と混乱を引き起こしうる諸々の経済の結合した世界に住んでいる。という ことで,Moore は景気の下向転換も上向転換も共に殆んど自己生殖的あ るいは内生的な現象で,政策行動は一部,両方向におけるこれら内生的発 展に対する反作用とみる。
Moore と Felsの見解の差は単的には, Felsの「景気循環は大部分外 生,一部内生」に対し, Moore は「景気循環は大部分内生,一部外生」と表現できよう。
しかし, Mooreも Felsも,景気の上向および下向の両 転換を全体としての景気循環と区別しないままに,内生・外生問題を議論 するという分折方法上の共通の誤りを犯している。特に Fels は,景気の 上向転換を内生的と認めるにもかかわらず,下向転換が外生的ということ で,景気循環を外生的と断定している。たとえ景気の方向転換が外生的な 要因で、スタートしたとしても,方向転換は景気循環の 1局面にすぎないの であって,景気循環を外生的と断定するのは早計であろう。確かに,外生 的要因は決して無視できない要因だが, どんな顕著な外生的要因も内生的
景気循環の内生・外生問題 43
なメカニズムを経由して初めて景気循環として結実することを考えると, Mooreが Felsの外生的な景気循環を否定し,景気循環の内生的な側面を 強調したことは意義深い。しかし. Moore は 1つの局面がそれに先行す
る局面の結果なのかどうかを不問のままにしている。つまり,景気を内生 的とみる以上,方向転換の可能性の高まりをそれに先立つ局面の中に求め ねばならないのである。
E 景気循環の局面
(8) Moore, G. H.,“Business Cycles: Partly Exgogenous, Mostly Endogenous," Social Science Quarterly, June 1977, 58(1), pp. 96-103.
Basil John Moore とは別人
(9) 田原昭四,r景気変動と日本経済1昭和58年,東洋経済新報社. (10) 高倉文年,["景気の下向転換J,r福岡大学経済学論叢1第22巻第l号,昭和52年6月,7
カレツキはケインズに対する先行性の主張をなぜ封印したのかWhy did Kalecki Seal the Claim to Priority over Keynes? <目 次> Ⅰ. はじめに
山本英司
Eiji YAMAMOTO
http://www.seiryo-u.ac.jp/u/research/gakkai/ronbunlib/e_ronsyu_pdf/No137/09_yamamoto137.pdf
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執筆の時期と場所は不明であるが,おそらくはロンドンでカレツキは『一般理論』の書評を執筆し,同年秋にポーランドで発行された雑誌にポーランド語で掲載される。それが「ケインズ理論に関する所見」(Kalecki(1936a),以下,書評)である。
第5節「小括及び利子率と貨幣賃金に関する補足並びに先行性の主張」においてカレツキは,第4節までの議論をまとめた上で,さらに利子率と貨幣賃金に関する補足を行う。注目すべきは,カレツキが脚注において3点にわたって,「投資が全体の生産量を決定するとの命題はケインズと同様の方法で私の『景気循環理論』において証明されていた」(Kalecki(1936a);CWMK, I, p. 228),「資本の需要と供給に関する類似した考えは私の『景気循環理論』において提出されていた」(Kalecki(1936a);CWMK, I, p. 228),「私は,生産が貨幣賃金の変動から独立していることもまた私の『景気循環理論』において示していた」(Kalecki(1936a);CWMK, I, p. 229)と記していることである。先行研究においてはこれらの脚注の紹介をもって直ちにカレツキのケインズに対する先行性または少なくともカレツキによる先行性の主張を結論づけるものが多いところ,『景気循環理論』そのもの(ただしCWMKにおける英訳)における該当箇所と照合し,時にDziełaをも参照しながら綿密に検討を行ったのが山本(2020)の貢献と自負するものである。
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。第5節「小括及び利子率と貨幣賃金に関する補足並びに先行性の主張」においてカレツキは,第4節までの議論をまとめた上で,さらに利子率と貨幣賃金に関する補足を行う。注目すべきは,カレツキが脚注において3点にわたって,「投資が全体の生産量を決定するとの命題はケインズと同様の方法で私の『景気循環理論』において証明されていた」(Kalecki(1936a);CWMK, I, p. 228),「資本の需要と供給に関する類似した考えは私の『景気循環理論』において提出されていた」(Kalecki(1936a);CWMK, I, p. 228),「私は,生産が貨幣賃金の変動から独立していることもまた私の『景気循環理論』において示していた」(Kalecki(1936a);CWMK, I, p. 229)と記していることである。先行研究においてはこれらの脚注の紹介をもって直ちにカレツキのケインズに対する先行性または少なくともカレツキによる先行性の主張を結論づけるものが多いところ,『景気循環理論』そのもの(ただしCWMKにおける英訳)における該当箇所と照合し,時にDziełaをも参照しながら綿密に検討を行ったのが山本(2020)の貢献と自負するものである。先行性に関する第1の脚注は,投資がそれに等しい貯蓄をもたらしつつ国民所得または総生産,ひいては雇用量を決定すること,すなわち有効需要の原理を意味する。先行性に関する第2の脚注は,利子率は投資と貯蓄との均等を通じて決定されるのではなく,貨幣に対する需給によって決定されること,すなわち流動性選好理論を意味する11。
。なお,書評においては『一般理論』におけるケインズの議論に沿って貨幣量一定の仮定が置かれているものの,『景気循環理論』においてカレツキは景気循環を通じて貨幣量は変動することを想定していたところ,これは内生的貨幣供給理論の先駆であると評価できよう。また,Keynes(1937b)及びKeynes(1937c)においてケインズが1937年に扱うこととなる金融動機の問題を『景気循環理論』において扱っていたことは,1936年の『一般理論』を超えていた部分であろう。
10 書評においてその用語は明示的には登場しないが,これは『一般理論』における使用者費用に他ならない。
11 従来の解釈に対して山本(2020)が最も新しい解釈を提出し,それゆえ筆者への私信を通じて疑問が投げかけられたのがまさにこの点,すなわちカレツキは『景気循環理論』において流動性選好理論に到達していたということであった。
Dzieła, 1, s. 95-157. Translated into English as Essay on the Business Cycle Theory, in CWMK, I, pp. 65-108. ─(1933b)“O handlu zagranicznym i ‘eksporcie wewnętrznym’”, Ekonomista,(3),1933, pp. 27-35. Reprinted in Kalecki
(1962b); and in Dzieła, 1, s. 199-209. Translated into English as “On Foreign Trade and “Domestic Exports””, in Kalecki(1966),pp
Kalecki, Michał(1932)under the pseudonym ‘H. Br’, “Przewidywania p. Keynesa”, Przegląd Socjalistyczny, 2(6),1932, p. 4. Reprinted in Dzieła, 1, s. 72-74. Translated into English as “Mr Keynes’s Predictions”, in CWMK, I, pp. 45-47. ─(1933a)Próba teorii koniunktury, Warsaw:Instytut Badania Koniunktur Gospodarczych i Cen, 1933. Reprinted in Dzieła, 1, s. 95-157. Translated into English as Essay on the Business Cycle Theory, in CWMK, I, pp. 65-108. ─(1933b)“O handlu zagranicznym i ‘eksporcie wewnętrznym’”, Ekonomista,(3),1933, pp. 27-35. Reprinted in Kalecki(1962b); and in Dzieła, 1, s. 199-209. Translated into English as “On Foreign Trade and “Domestic Exports””, in Kalecki(1966),pp. 16-25; as “On Foreign Trade and ‘Domestic Exports’”, in Kalecki(1971),pp. 15-25; and as “On Foreign Trade and ‘Domestic Exports’”, in CWMK, I, pp. 165-173.(「外国貿易と「国内輸出」について」,Kalecki(1971),邦訳,所収,16-25頁.)─(1935a)“Essai d’une théorie du mouvement cyclique des affaires”, Revue d’économie politique, 49(2),Mars-Arvil 1935, pp. 285-305. ─(1935b)“A Macrodynamic Theory of Business Cycles”, Econometrica, 3(3),June 1935, pp. 327-344. Reprinted in CWMK, I, pp. 120-138. ─(1935c)“Istota poprawy koniunkturalnej”, Polska Gospodarcza, 16(43),1935, pp. 1320-1324. Reprinted in Kalecki(1962b); and in Dzieła, 1, s. 225-232. Translated into English as “The Mechanism of the Business Upswing”, in Kalecki(1966),pp. 26-33; in Kalecki(1971),pp. 26-34; and as “The Essence of the Business Upswing”, in CWMK, I, pp. 188-194.(「景気上昇のメカニズム」,Kalecki(1971),邦訳,所収,26-33頁.)─(1935d)“Eksperyment niemiecki”, Polska Gospodarcza, 16(49),1935, pp. 1574-1576. Translated into English as “Stimulating the Business Upswing in Nazi Germany”, in Kalecki(1972b),pp. 65-73; and in CWMK, VI, pp. 196-201. ─(1936a)“Parę uwag o teorii Keynesa”, Ekonomista,(3),1936, pp. 18-26. Reprinted in Dzieła, 1, s. 263-273. Translated into English as “Some Remarks on Keynes’ Theory”, in Targetti and Kinda-Hass(1982),pp. 245-253; and as “Some Remarks on Keynes’s Theory”, in CWMK, I, pp. 223-232. ─(1936b)“Comments on the Macrodynamic Theory of Business Cycles”, Econometrica, 4(4),October 1936, pp. 356360. Reprinted in CWMK, I, pp. 139-143. ─(1937a)“A Theory of the Business Cycle”, The Review of Economic Studies, 4(2),February 1937, pp. 77-97. Reprinted in CWMK, I, pp. 529-557. Reprinted with important alterations in Kalecki(1939a),pp. 116-149. ─(1937b)“A Theory of Commodity, Income, and Capital Taxation”, The Economic Journal, 47(187),September 1937, pp. 444-450. Reprinted as “A Theory of Commodity, Income and Capital Taxation”, in Kalecki(1971),pp. 35-42; and in CWMK, I, pp. 319-325.(「商品税,所得税および資本税の理論」,Kalecki(1971),邦訳,所収,34-41頁.)─(1937c)“The Principle of Increasing Risk”, Economica, 4(16),November 1937, pp. 440-447. Reprinted with important alterations in Kalecki(1939a),pp. 95-106. ─(1938a)“The Lesson of the Blum Experiment”, The Economic Journal, 48(189),March 1938, pp. 26-41. Reprinted in CWMK, I, pp. 326-341.(ミハウ・カレツキ(著),振津純雄(訳),「ブルムの実験の教訓」,『大阪経済法科大学経済学論集』,16(3・4),1993年3月31日,179-197頁.)─(1938b)“The Determinants of Dist
山本英司(2009)『カレツキの政治経済学』(奈良産業大学経済・経営研究叢書5),千倉書房,2009年3月18日. ─(2020)「『一般理論』書評におけるカレツキのケインズ理解と到達点」,『金沢星稜大学論集』,53(2),2020年3月31日,111136頁.
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