火曜日, 4月 07, 2020

中野剛志#5,2020/04/07 「コロナ経済対策」を誤れば、 日本の“後進国”化がほぼ確定する件について

「コロナ経済対策」を誤れば、 日本の“後進国”化がほぼ確定する件について

この20年間、デフレからの脱却に失敗し続けてきた結果、1995年には世界全体のGDPの17.5%を占めた日本のGDPは、2015年には5.9%まで低下。このまま放置し、さらに「コロナ経済対策」を誤れば、日本の“後進国”化がほぼ確定すると中野剛志氏は危惧する。なぜ、こんなことになったのか? 中野氏に、日本の「政策ミス」を聞いた。(構成:ダイヤモンド社 田中泰)

「リフレ政策」が失敗した“当たり前”の理由

――前回、主流派経済学が「信用創造」を正しく理解していないために、間違った主張をしているとおっしゃいましたね?
中野剛志(以下、中野) ええ。主流派経済学の何が痛いかというと、「貸出が預金を生む」という事実を知らないことなんです。ついでに言っておくとですね、「デフレ脱却のため」という触れ込みで、主流派経済学者が主張して実行された、いわゆる「リフレ政策」がほとんど効果がないのも当たり前のことなんです。
――そうなんですか?
中野 もちろんです。「リフレ政策」とは、日銀は「インフレ率を2%にする」という目標(インフレ・ターゲット)を掲げ、その目標を達成するべく、大規模な量的緩和(マネタリー・ベースの増加)を行うというものです。
 マネタリー・ベースとは、銀行が日銀に開設した「日銀当座預金」のことです。銀行が保有している国債や株式を日銀が“爆買い”して、その対価として「日銀当座預金」を爆発的に増やせば、銀行は積極的に企業などに貸し付けることで、市中の通貨供給量(現金と預金通貨)を増やすことができると考えたわけです。
 通過供給量を増やしてデフレを脱却しようということ自体は正しいんです。デフレとは、貨幣の価値が上昇していく状態です。つまり、市中に出回っている通貨が少ないから、その価値が高まっているとも言えるわけです。だから、たしかに、市中の通貨供給量が増えればデフレを脱却することができるはずなんです。
 だけど、銀行は「日銀当座預金」を原資として貸し出しをしているわけではありません。繰り返しますが、「信用創造」によって貨幣が市中に供給されるのは、借り手が銀行に融資を申し込んだときなんです。
 ところが、いまはデフレなので借り手がいないわけです。だから、いくら「日銀当座預金」を積み上げても、貨幣供給量は増えません。実際、量的緩和で400兆円くらい日銀当座預金を増やしたはずですけど、ただ“ブタ積み”されているだけで、インフレ率は2%には遠く及ばないですよね?
――つまり、「信用創造」を理解していないから、誤った政策を実施してしまったと?
中野 そうですね。信用貨幣論と信用創造を理解している人は、量的緩和をやる前からこの結末はわかっていました。だけど、2001年から2006年まで量的緩和が実施され、さらに2012年に成立した第2次安倍政権のもとでさらに“異次元”の量的緩和が実行されてしまったわけです。
――なんだか、ガックリくるお話ですね……。
https://diamond.jp/articles/-/230846?page=2

「コロナ経済対策」を誤れば、 日本の“後進国”化がほぼ確定する件について

デフレ下では「金融政策」に限界がある

中野 まぁ、そうですね。
 一応、付け加えておくと、量的緩和によって「日銀当座預金」が増えれば、金利を下げる効果がありますから、企業などが借入れをしやすくなるという側面がないわけではありません。だけど、もともとデフレで資金需要がないために超低金利なのだから、量的緩和による金利低下の効力はたかが知れています。つまり、デフレ下では、金融政策には限界があるということです。
――なるほど。
中野 逆に、民間に借入れの需要があるならば、金融政策は有効に機能します。例えば、借入れの需要が多すぎて、銀行が貸し出しをしすぎている場合、つまりインフレの場合には、中央銀行が日銀当座預金を操作して金利を上げることで、貸出しを抑制することができれば、インフレを抑制できるかもしれない。
 だけど、デフレのときのように、民間に借入れの需要がない場合には、準備預金を増やしたところで、銀行の貸出しは増えようがない。信用創造によって預金通貨が増えるから、それに応じて日銀当座預金(マネタリー・ベース)が増やされるのであって、マネタリー・ベースが増えるから預金通貨が増えるのではないのです。
 このように、中央銀行は、インフレ対策は得意ですが、デフレ対策は苦手なのです。ところが、主流派の経済学の教科書には、中央銀行がマネタリー・ベース(日銀当座預金)を操作することで、貨幣供給量を増やしたり減らしたりしていると書いてあります。恐ろしいことに、経済学の教科書は、事実と異なることを教えているのです。これは、現代の天文学の教科書が天動説を教えているようなものでしょう。
――そうなりますよね。もしも、間違った教科書にのっとった政策を行って、効果がなかったということならば、それはきわめて残念なことですね……。

「コロナ経済対策」を誤れば、 日本の“後進国”化がほぼ確定する件について

間違った「経済政策」で、日本が“後進国”になる

中野 非常に深刻な問題だと思いますよ。そのような間違った政策をやり続けてきた結果がこれです(図1)。
 これは、日本のGDPと財政支出とマネタリー・ベースの推移を示したものですが、ご覧のとおり、マネタリー・ベースはガンガン増えていますが、GDPはピクリとも動いていません。これを見れば、マネタリー・ベースの量はGDPとは全然関係ないことが一目瞭然です。
 こんなことは、2001年から2006年ごろまで日銀が量的緩和をしたときに、理解しなければいけなかったことなのに、その後、第2次安倍政権下で量的緩和を再開するってどういうことなんでしょうね?
 一方で、グラフにあるとおり、財政支出とGDPはぴったりくっついて推移しています。だったら、財政支出を増やせば、GDPも増えるんじゃないかって、小学生だって思いつきますよね?
 民間の資金需要がないデフレ下においては、財政支出をする以外に貨幣供給量を増やす方法はないんです(連載第3回第4回参照)。つまり、デフレ下においては、財政政策が金融政策になるということです。にもかかわらず、この20年間、政府は一生懸命、財政支出を抑制してきましたから、デフレが進んでGDPも伸びないわけです。
――マネタリー・ベースが積み上がっているのが、なんだか哀しく見えてきます……。
中野 まったくですね。そして、こんなバカなことをしている国は日本だけなんです。図2をご覧ください。
 これは、OECD33ヵ国の1997~2015年の財政支出の伸び率とGDP成長率をプロットしたものです。ご覧のとおり、財政支出とGDPには、強い相関関係があることが見て取れます。
 しかも、日本だけがポツンと最下位に位置しているわけです。日本が負け続けている理由は明らかで、財政支出を抑制しているからなんです。アメリカや中国に負けている理由をほかにいろいろ探してもしょうがないんです。
 ちなみに、1995年には日本のGDPは世界全体のGDPの17.5%でしたが、2015年には5.9%まで減っています(図3)。このままいけば、日本は先進国から後進国へ転落するということです。新型コロナウイルスがもたらす巨大な経済的打撃への対応を誤れば、後進国化は確定すると言っても過言ではないでしょう。
――かなり、ショッキングなデータですね……。しかし、アベノミクスでは金融緩和が第一の矢で、第二の矢で機動的な財政政策をすると言っていたのでは?
中野 そうなんですが、実際には、第2次安倍政権下の公共事業関係費は、「コンクリートから人へ」というスローガンを掲げて大幅に公共事業を削った民主党政権の時とたいして変わりません。当初予算で見ると、鳩山民主党政権下の公共事業関係費の当初予算(2010年)よりも、むしろ低いくらいです(図4)。1990年代から進められている緊縮財政になんら変化はないということになります。
 そして、図5のとおり、先進各国のなかで日本だけが公共事業を大きく削減しているわけです。日本だけがデフレなのに、こんなことをやっていたら、“後進国化”するのも当然ですよね。
――気が重くなってきました……。

「コロナ経済対策」を誤れば、 日本の“後進国”化がほぼ確定する件について

消費増税の「デフレ効果」は、リーマン・ショックを超える

中野 しかも、日本は、財政支出を抑制し続けたうえに、「財政赤字をこれ以上、増やすべきではない。政府の借金の返済の財源を確保するために、消費税の増税が不可欠だ」などという通説のもと、この約20年の間に1997年、2014年、2019年と3度も消費税を上げたんです。
 その結果がこれです。
 日本は、1990年代初頭にバブル崩壊があって、資産価値が半分になるという激しいショックが起きたので、当然、物価がドーンと下がって、そのままデフレに突入するというタイミングの1997年に消費増税を行いました。その結果、ご覧のとおり、98年から消費支出がドーンと下がって、見事にデフレに突入したわけです。
 その後、時間はかかりましたが、徐々に消費が復活していきましたが、ようやくデフレから抜け出せるかなというタイミングだった2014年に、再び消費増税をしたので、再び消費支出がドーンと落ちた、と。
 グラフをよく見てほしいんですが、1997年と2014年の消費増税による消費抑制効果というのは、「100年に一度の危機」と言われたリーマン・ショック、「1000年に一度の大震災」と言われた東日本大震災と同じくらいの効果をもっていることがわかります。
 しかも、リーマン・ショックや東日本大震災よりも、消費増税のときのほうが、消費支出の回復に時間がかかっていることが見て取れます。つまり、消費増税は、リーマン・ショックや東日本大震災よりも強大な消費抑制効果を誇ると言えるわけです。
 2019年の消費増税の影響は、データが出始めています。2019年10月〜12月期で、実質GDPは年率換算で7.1%減と大幅に低下。まだその全貌は見えていませんが、結果は火を見るよりも明らかでしょう。
――デフレが悪化すると?
中野 当然ですよ。日本全体の総需要に民間消費が占める割合は約6割に上り、民間消費こそが日本経済の最大のエンジンなわけです。消費税によって、そこにブレーキがかかるのですから、需要が抑制され、さらにデフレが促進するのは当然のことです。しかも、2020年に入ってから、新型コロナウイルスの問題が起きて、さらなる景気悪化が不可避の状況です。「令和恐慌」が起きても、何もおかしくない状況です。
――怖くなってきました……。
(次回に続く)
中野剛志(なかの・たけし)
1971年神奈川県生まれ。評論家。元・京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』『世界を戦争に導くグローバリズム』(集英社新書)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『国力論』(以文社)、『国力とは何か』(講談社現代新書)、『保守とは何だろうか』(NHK出版新書)、『官僚の反逆』(幻冬社新書)、『目からウロコが落ちる奇跡の経済教室【基礎知識編】』『全国民が読んだら歴史が変わる奇跡の経済教室【戦略編】』(KKベストセラーズ)など。『MMT 現代貨幣理論入門』(東洋経済新報社)に序文を寄せた。

1 Comments:

Blogger yoji said...

参考までに

「コロナ経済対策」を誤れば、 日本の“後進国”化がほぼ確定する件について
中野剛志
2020.4.7
https://diamond.jp/articles/-/230846


この20年間、デフレからの脱却に失敗し続けてきた結果、1995年には世界全体のGDPの17.5%を占めた日本のGDPは、2015年には5.9%まで低下。このまま放置し、さらに「コロナ経済対策」を誤れば、日本の“後進国”化がほぼ確定すると中野剛志氏は危惧する。なぜ、こんなことになったのか? 中野氏に、日本の「政策ミス」を聞いた。(構成:ダイヤモンド社 田中泰)
連載第1回 https://diamond.jp/articles/-/230685
連載第2回 https://diamond.jp/articles/-/230690
連載第3回 https://diamond.jp/articles/-/230693
連載第4回 https://diamond.jp/articles/-/230841
イマココ→連載第5回 

1:59 午前  

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