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大東建託の本社が入るビル=東京都港区

負動産時代

 賃貸住宅建設大手の大東建託の小林克満専務(建築事業本部長)と中村武志人事部長は5月下旬、朝日新聞の取材に応じた。同社の地主らへの営業手法や、社員の長時間労働などについて答えた。主なやりとりは次の通り。
 ――賃貸アパート建設の営業をかける顧客のターゲットやエリアは。
 小林氏「都市近郊の兼業農家で後継ぎがなく、サラリーマンになってという人たちが、ここ20年くらいメインになっています。最近は、近郊の農地が減ってきているので、いまは建て替えが主力になりつつあります」
 ――地主らへの相続税対策をうたった営業で、過大に相続税がかかると説明していたケースが取材でありました。
 小林氏「オーナーさんの資産内容をどこまで開示してもらっているか分からないが、営業マンとしては情けないというか、ちょっと情報不足。本社の方には聞こえてこないレベルなので、我々も確認しないといけない。いずれにしても、最終的には支店のなかで顧問税理士を確認に使うという考え方を私たちは持っています。あったのなら是正をしていきたい」
 ――オーナーとの契約時に「40年間家賃収入が変わらない」という計画を提案しているケースも取材ではありました。
 小林氏「一定(の家賃収入)で出してはダメという話をしているわけではなく、リスクをしっかり説明しなさいと言っています。家賃が下落をした(想定の)ものも、しっかり提示しなさいと。(将来の下落率は)社内で想定をしている過去のデータを使いながら出しています」
 ――しかし、営業の現場からは「最初から家賃が下がると説明すれば、契約に結びつけるのは難しい」との声もあります。
 小林氏「現場の話ではあるかもしれないが、それはパンフレットの中に小さいとか大きいとかは別にして、固定家賃を保証するものではないと大々的にうたっています。国土交通省からも(オーナーへの重要事項説明を)求められていて、下がるリスクを説明せずにというのは考えにくいです」
 ――一方で、昼夜を問わない飛び込み営業などで、長時間労働が起こりやすい職場になっているとの指摘もあります。
 小林氏「長時間労働は課題だったので、ここ3~4年は注力して、時間管理や勤怠管理をすることで、実質的にはだいぶ改善されてきているという認識はあります」
 ――夜はパソコンを切って仕事をするとか、週末は社有車でなく私有車を使うなど、サービス残業をしているとの声も現場では聞かれます。幹部はどのように労働時間を把握しているのですか。
 小林氏「ありましたよ、そんな話。去年か一昨年、お客さんから営業社員が自分の車で来るんだという話を聞いたことがあります。それは都度是正しないといけない。(労使協定で定める上限の残業時間が)70時間だというなかで夜も何時までと決めてやっています。我々の感覚では、昔に比べたら、そこのところに営業がどっぷりつかってしまっている方が『うーん営業大丈夫かな』っていうのがちょっとあります」
 ――地主に飛び込み営業をする「初訪」、見込みのありそうな客を訪問する「再訪」、日中に会えない人などに接触を試みる「夜訪」という営業スタイルを、今後も続けていくのですか。
 小林氏「それは我々の仕事の仕方なので、やらざるを得ません。一括借り上げに対して随分ネガティブな情報も流れているので、お客さんも慎重になっています。もっと丁寧に営業をやらないと新規は獲得できないと思っています」
 中村氏「あくまで決められた時間の中での話。営業のためならいくらでも時間かけてもいいなんて話は、誰一人していません。もう時代が変わりました」
 小林氏「そこのところは本当に口が酸っぱくなるくらい現場に言っています。もう一段我々はやらないといけないかなとは思います」
 ――電通の「鬼十則」とほぼ同じ内容の「大東十則」があると聞きました。
 小林氏「(電通社員の過労自殺が労災認定された16年の)問題の後まではありました」
 中村氏「それ以前からダイバーシティー(多様性)を推進しており、いろんな人が活躍できる会社にするために、これを阻害するようなものは排除することにしました」
 ――契約が2年とれない社員は解雇されるルールがあるとも聞きます。
 中村氏「社員の身分喪失といった方がいい。労働契約の雇用期間満了と同じような感覚で、営業職としての適性がないという判断をしています。解雇事由にしてもよかったが、解雇っていうと響きが悪いので社員の身分喪失という形にしました。言葉のあやだけの問題です」
 小林氏「営業として中途で入ってきてこの会社で稼ぎたい、もう一花咲かせたいという思いで入ってきます。(契約が取れなければ)たとえば家族がいて、2年いて養えるような給料ではありません。それはお互い不幸じゃないかと思います」(聞き手=大津智義、北川慧一)