火曜日, 2月 20, 2018

FTPL関連




シムズの物価の財政理論(FTPL)と財政再建|東京財団 税・社会保障調査会

佐藤主光
一橋大学教授


Sims, C.A.(1994),“A Simple Model for Study of the Determination of the Price Level and the Interaction of ...
http://web.mit.edu/14.461/www/part1/sims.pdf
(シムズは思想はフリードマン寄りだが現状認識がケインズ寄り)

グローバル・インバランスと国際通貨体制 単行本 – 2013/3/1



3 物価の財政理論 
 さて、ここで重要なのは家計の支出の割引現在価値と政府の収入の割引現在価値が等しくなるという事を示したバロー=リカードの等価定理が物価の財政理論という重要な理論の導出に影響を及ぼしたこそして1994年にウッドフォードとシムズがそれぞれ発表した。いずれの3名もアメリカの経済学者で、シムズは言うまでもなく2011年のノーベル経済学賞の受賞者である。また、念のためここでのウッドフォードはオリンパスのウッドフォードと全くの別人である事にふれておく(奇しくもどちらのファーストネームもマイケルである)。
 バロー=リカードの等価定理において家計の支出の割引現在価値と政府の収入の割引現在価値が等しくなるというロジックの裏側には政府の支払い能力が完全であることが、つまり政府が発行した国債はすべて残らず償還される、ということが仮定されていた。家計の支出と政府の収入それぞれの割引現在価値が等しいのは、仮に政府が一時的に国債を発行してもそれは必ずどこかのタイミングで必ず償還されるためである。もし政府が償還せずに夜逃げでもすれば家計は購入した国債の償還を受けられないわけであるから家計の支出が政府の収入を下回る、或いは全く同じ事だが政府の収入が家計の支出を上回ることは明白である。家計の支出の割引現在価値と政府の収入の割引現在価値が等しくなるというのは、そうすると政府は借金を必ず返す、つまり過去発行した国債は必ず発行時点以降の税収で償還する、と言い換えることができる。
 実はこれまで実質と名目の区別をせずに議論を展開してきた。ここでは実質と名目をきちんと区別して議論を行うことにする。経済学、特にマクロ経済学では実質と名目の区別がきわめて重要である。いま、家計の支出の割引現在価値と政府の収入の割引現在価値が等しく過去発行した国債は必ず発行時点以降の税収で償還するとしよう。ここでは、これが名目で成立しているとする。つまり、政府は過去発行した国債の名目額を必ず発行時点以降の名目税収額をもって償還するものとする。国債がめでたく償還されるまで、物価の変化が十分予想されてその予想される物価の変化分がきちんと利子率に含まれていてかつその物価の変化が予想通り実現すれば何も問題はない。しかし、物価の変化分が予想から外れると問題はややこしくなる。
 銀行が利子率10%で1年間ある人にお金を貸したとしよう。ここで予期せぬ年率10%のインフレが生じたとする。100円の貸付けにつき銀行が1年後に受け取る110円は1年前の価値にすると100円でしかない。つまり、名目で110円受け取るも予期せぬインフレのおかげで貨幣価値は10%下落し、実質で100円しか受け取っていない。このインフレは債務者である借り手に対して債権者である銀行からの事実上の収入の移転を生じさせている。
 そうすると、政府は過去発行した国債の名目額を必ず発行時点以降の名目税収額をもって償還する、ということはインフレが生じれば必ずしも借りた分を必ず返す政府とは言えない、ということになる。償還されるまでに予期せぬインフレが生じれば政府の実質公債残高は減少し、家計の実質富、つまり実質金融資産残高は減少することになる。これは全く契約違反ではない。家計が保有する国債は額面通りきちんと償還されているからだ。ただし、実質的な償還額は目減りしているという点は問題である。実質で見たときに政府は借りた分をきちんと返していないためだ。このとき、バロー=リカードの等価定理は成立していない。
 バロー=リカードの等価定理が成立しなければ、政府の財政行動は物価に影響をおよぼす。政府は過去発行した国債の名目額を発行時点以降の名目税収額をもって償還するような経済では政府の現時点の国債発行残高が政府の支払い能力を上回れば物価が上昇することになる(物価が上昇すると実質国債発行残高は減少する!)。この理屈は「政府は過去発行した国債の名目額を必ず発行時点以降の名目税収額をもって償還する」という約束事を守るためなら物価が変化してもよい、ということに依拠する。逆に言うとこの約束事が物価を決めていることになる。この、政府の財政行動が物価を決定するという理論を物価の財政理論という。

4 購買力平価
 通貨の問題を考える上で物価の問題を考えるというのは実はとても重要なことである。それは為替相場がある仮定の下では物価の親戚のようなものになってしまうからである。そして、ユーロという、金融政策を行う中央銀行が1つである一方で財政政策を行う政府が17もあるユーロ圏の通貨を考える上で、政府の財政行動は無視できない。したがって、これまでバロー=リカードの等価定理や物価の財政理論を紹介してきた。
 ところで、為替相場がある仮定の下では物価の親戚のようなものになってしまう、とはどういうことだろうか。ここで、きわめて基本的な為替相場決定モデルである購買力平価仮説を紹介する。購買力平価仮説はスウェーデンの経済学者カッセルが1921年に発表した。購買力平価仮説はこれまで紹介したバロー=リカードの等価定理や物価の財政理論よりもずっとポピュラーである。購買力平価とは異なる通貨の価値、つまり購買力の比率を均等にするような名目為替相場を指す。いま、日本とアメリカにコカコーラしか消費しない消費者しかいないとしよう。さらにニューヨークでコカコーラが1缶1ドルで売られていて、東京ではコカコーラが1缶110円で売られていて、名目為替相場は80円/ドルだとする。このとき、ニューヨークのコカコーラ1缶の円建て価格は80円と言うことになる。東京とニューヨークでのコカコーラ1缶の価格差は30円であり、気の利いた消費者はニューヨークでコカコーラを仕入れて東京で販売するという商売をはじめるかも知れない。このような利ざやを稼ぐ取引を商品裁定と言うが、とくにこの場合国境を越えて取引が行われているので国際商品裁定という。いま、国際商品裁定に関する費用がゼロだとして、消費者はニューヨークでコカコーラを仕入れて東京で販売するという商売をはじめたとする。そうするとニューヨークではコカコーラが品薄になりその価格は上昇し、東京ではコカコーラがだぶつき価格は下落する。一方で、消費者はニューヨークでのコカコーラの仕入れに備え外国為替市場で手持ちの円を売りドルを買うという取引を行うので円の価値は下落しドルの価値は上昇する、つまり円安ドル高となる。そうするとやがて東京とニューヨークのコカコーラ1缶の価格は等しくなってしまう。 このように、国際商品裁定はある商品の価格を等しくしてしまう。ある商品の価格が国内外を問わず等しくなることを一物一価の法則という。この一物一価の法則がすべての商品について成立し、かつ、それらすべての財が貿易可能で取引コストがゼロで、それらの商品の市場が完全競争市場だと購買力平価仮説が成立する。この購買力平価仮説は次式で示される。
         P=SP* ⑴ 
ただし、Pは自国通貨建て表示の自国の物価、P*は外国通貨建て表示の外国の物価、Sは自国通貨で測った外国通貨1単位の価格、つまり名目為替相場である。自国と外国の消費者が全く同じ貿易可能な商品を消費し、それらの取引コストがゼロでそれらの商品の市場が完全競争市場だと購買力平価⑴式が成立する。いま自国を日本、外国をアメリカとすると左辺は円で表示した日本の消費者が消費する商品の価格、右辺はやはり円で表示したアメリカの消費者が消費する商品の価格、ということになる。⑴式を名目為替相場Sについて整理すると、
         S= P / P*  ⑵
となり、名目為替相場が自国の物価を外国の物価で除したものに等しいということがわかる。これが為替相場が物価の親戚たるゆえんである。


図1:円ドル相場の実績値および相対的購買力平価に基づく推計値(円/ドル)実績値は東京市場の直物相場の年中平均である。推計値(CPI)の推計には日米の消費者物価指数の年中平均を、推計値(GCPI/PPIベース)の推計には日本の企業物価指数および米国の生産者物価指数の年中平均をそれぞれ用いている。

 ここで、購買力平価から推計される為替相場と実績値の為替相場の関係を見ておくことにする。購買力平価(正確には絶対的購買力平価)はきわめて厳しい仮定の下でのみ成立するので取引コストがゼロという仮定だけゆるめた購買力平価(相対的購買力平価)に基づく円の対ドル相場の推計値と実績値を図1に示した。図1では円ドル相場を、変動相場制に移行した1973年に絶対的購買力平価が成立し、その後相対的購買力平価のみが成立していると仮定して物価指数として日米の消費者物価指数(CPI)および日本の企業物価指数(GCPI)、米国の生産者物価指数(PPI)を用いて推計している。この推計値が実績値を捕捉しているかどうかについてはもちろん統計学的に検証しなければいけないが、購買力平価が全くでたらめではないということは変動相場制に移行した後の円の増価傾向を推計値が捕捉していることから言えるであろう。実際に購買力平価に関する実証分析は数多く行われており、短期はともかく数十年程度の長期であれば成立することが証明されている。

4 日経研月報 2012.4





ちなみにアセモグルとサージェントとでは立場及び主張が分かれる。
サージェントの主張は以下でわかる

 “Some Unpleasant Monetarist Arithmetic” Thomas Sargent,Neil Wallace (1981)*

https://www.minneapolisfed.org/research/qr/qr531.pdf 邦訳あり 全19頁

邦訳「ある不愉快なマネタリスト算術」は『合理的期待とインフレーション』1988/11に所収

https://www.amazon.co.jp/dp/4492311785/



サージェントLSはケインズ一般理論#2:2賃金理論に着目する。賃金決定は外生的なのだ。


サージェントと近いのはシムズだ。

Sims, C.A.(1994),“A Simple Model for Study of the Determination of the Price Level and the Interaction of ...
http://web.mit.edu/14.461/www/part1/sims.pdf
(シムズは思想はフリードマン寄りだったが現状認識がケインズ寄りになった)


国家を擁護するサージェントに対してアセモグルは国家を衰退する べ き ものとする。

アセモグルの主張は以下でよくわかる。

アセモグル『国家はなぜ衰退するのか──権力・繁栄・貧困の起源』(共著。邦訳・早川書房)。

学者としての代表作とは言えないが主張はわかりやすい。

『世界を破綻させた経済学者たち』(ジェフ・マドリック)にアセモグルへの批判がある。

厳密にはフリードマンへの批判だが。


《大ざっぱにいえば、豊かになった国々は、自由放任主義の市場をうまく機能させるのに

適した制度を築いていたと、アセモグルとロビンソンは主張する。…

[共著『国家はなぜ衰退するのか──権力・繁栄・貧困の起源』(邦訳・早川書房)2013]…

具体的には、私有財産と契約の保護が確立されていること、効率的な金融システムが存在

すること、事業の開業に対する規制が最低限にとどまっていることなどが必要だという。…


アセモグルとロビンソンは、経済発展を遂げている社会が擁している制度の例を挙げる際に、

自由市場を保護・促進するような制度ばかりに光を当てる傾向がある。また、ある種の制度が

経済発展を生むのか、経済発展がある種の制度を生むのかという因果関係も十分に立証でき

ていない。因果関係の連鎖の始まりがなんだったのかが明らかでないのだ。》



https://www.amazon.co.jp/dp/4492311785/

合理的期待とインフレーション 単行本 – 1988/11

2011年ノーベル経済学賞受賞者のトーマス・J・サージェントの論文集です。

収録論文
1.「合理的期待とマクロ経済学の再構築」
2.「レーガノミックスとクレディビリティ」
3.「4大インフレーションの終焉」
4.「緩やかなインフレーションの抑制」
5.「ある不愉快なマネタリスト算術」ウォレスとの共著
6.「香港ドル投機についての考察」ビアーズとウォレスとの共著



References 

 Bresciani-Turroni, Costantino. 1937. The economics of inflation, tr. Millicent E. Sayers. London: Allen & Unwin. 

 Bryant, John, and Wallace, Neil. 1980. A suggestion for further simplifying the theory of money. Research Department Staff Report 62. Federal Reserve Bank of Minneapolis.

 Cagan, Phillip. 1956. The monetary dynamics of hyperinflation. In Studies in the quantity theory of money, ed. Milton Friedman, pp. 25-117. Chicago: University of Chicago Press. 

Friedman, Milton. 1948. A monetary and fiscal framework for economic stability. American Economic Review 38 (June): 245-64.

 . 1960. A program for monetary stability. New York: Fordham University Press.

 . 1968. The role of monetary policy .A merican Economic Review 58 (March): 1-17.

 Lucas, Robert E., Jr. 1981a. Deficit finance and inflation. New York Times (August 26): 28. 

. 1981b. Inconsistency in fiscal aims. New York Times (August 28): 30. 

McCallum, Bennett T. 1978. On macroeconomic instability from a monetarist policy rule. Economics Letters 4(1): 121-24.

 . 1981. Monetarist principles and the money stock growth rule. Working Paper 630. National Bureau of Economic Research.

 Miller, Preston J. 1981. Fiscal policy in a monetarist model. Research Department Staff Report 67. Federal Reserve Bank of Minneapolis. 

Samuelson, Paul A. 1958. An exact consumption-loan model of interest with or without the social contrivance of money Journal of Political Economy 66 (December): 467-82. 

Sargent, Thomas J., and Wallace, Neil. 1973. The stability of models of money and growth with perfect foresight. Econometrica 41 (November): 1043-48. 

Scarth, William M. 1980. Rational expectations and the instability of bond-financing. Economics Letters 6 (4): 321-27.

 Wallace, Neil. 1980. The overlapping generations model of fiat money. In Models of monetary economies, ed. John H. Kareken and Neil Wallace, pp. 49-82. Minneapolis: Federal Reserve Bank of Minneapolis. 



シムズFTPLに関しては以下を参照、

グローバル・インバランスと国際通貨体制 Kindle版