産業構造の変化や就労意識の変化、企業や家計の行動に変化を促すような規制や税制の改革によって、労働需要や労働供給が影響を受けると、自然失業率は変化する。
失業が長期に及ぶと、ブランクが忌避されることや技能の陳腐化などにより、再び職を得ることが容易ではなくなる[6]。
金融危機などによって、大幅に景気が落ち込んで景気回復に時間がかかり長期失業者が発生すると、循環的失業が次第に構造的失業へと変化し、自然失業率は上昇する(このような、一時的要因による失業の増加が、長期的な失業水準の上昇へと繋がることを履歴効果と呼ぶ)。そして、そのことが景気回復を阻害してしまうという悪循環に陥る。このように総需要への負のショックは永続的な失業を生み出し得るため、大幅な景気の落ち込みに対しては、出来るだけ迅速に、かつ十分な規模の景気刺激策を行うことが重要となる[7]。
インフレ率が非常に低い状態ないしデフレーションの場合には自然失業率が高まることが示されているが、これは、名目賃金の硬直性によりインフレ率の低い領域では実質賃金の調整が一層困難となり失業が解消されにくいこと、またその失業が履歴効果などによって長期的に固定化・構造化してしまうことなどによる。このことはまた、インフレ率という貨幣的現象が、自然失業率という実体経済の現象に影響を与えることを示しており、貨幣の中立性が長期においても成立しないことを表している。
アカロフらの研究によると、デフレを含む非常に低いインフレ水準においても、また逆に非常に高いインフレ水準においても、自然失業率が高まってしまう。このことは、完全雇用時における雇用量を最大化するという観点からの望ましいインフレ率が存在すること、およびその水準の決定に関する理論的背景の一つを提供する。このことはまた、インフレ率の水準などを勘案せず、自然失業率の達成や産出量ギャップの有無だけでマクロ経済のパフォーマンスを判断することの危険性を示している。
たとえば、低インフレ経済において失業率を低下させる政策が採られた場合、一時的には失業率が自然失業率を下回るためインフレが加速するが、それによってインフレ率が高まることによって自然失業率の水準も低下するため、失業率が自然失業率よりも高い状態になればインフレはもはや加速しなくなる[15]。このように、インフレ率の非常に低い経済においては、一時的にインフレが加速したとしても、維持不可能なほどに失業率が低すぎるとは即座には判断できない。
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マクロ経済学の「新古典派化」
労働市場をとりまく実体的な要因によって決まる「自然失業率」(the natu-
ral rate of unemployment)に等しくなる.つまり長期のフィリップス·カ
ープは右下りではなく, 自然失業率の水準で縦軸に平行な垂線となる. この
ような議論をFriedmanは展開した.
Friedman[1967/12]の会長講演から間もなくして刊行されたMicroeconomic Found
tions of Employment and Inflation Theory (Phelps [1970]) という書物に
集められた諸論文は,いずれもFriedmanの考えを精緻化したものである.
12篇の論文は定式化,力点の置き所など異なるにもかかわらず重要な共通点
を持っている。まず第1に,いずれの論文も労働市場が職種·地域などによ
って多数のローカルな市場に分断されていることを強調した。この事を
Phelpsは,論文集への「イントロダクション」の中で,労働者がその間を行
き来する互いに切り離された「島」(islands)の比喩を用いて巧みに説明して
いる. この比喩は, その後の文献でしばしば用いられることになった.第2
に,分断された市場の1つに居る経済主体は,他の市場ないしマクロ経済の
情況について不完全な情報しか持っていない, したがって不完全にしか認識
できない他の市場ないし一般の賃金·価格に関する「期待」が重要な役割を
果たす.当然のことながらそうした期待がどのように形成されるかも大きな
問題となる. ちなみにLucasの論文も含めて, この論文集ではすべて「適応
型期待形成」(adaptive expectations)が仮定されている。
ここでは代表的な例としてLucas/Rapping [1970]をとり上げ,モデルを
簡単化して説明しよう.家計による労働供給行動を考える·家計の労働供給
量は,「今期」と「来期12期にわたる「実質賃金」すなわち
の増加関数であると仮定する.ここでW, Pは今期の名目賃金,物価水準
である。労働者は今期受け取った賃金Wのうちc(0<c<1)は今期, 1-c
は来期,財の購入に充てる. r, 11はそれぞれ実質利子率および物価水準の
期待変化率である. (1)式第2項の分母にあるP(1+17)は,来期の物価水準
であることに注意したい。簡単のために実質利子率rは一定であるとする
賃金·物価水準が変わらなければ17はゼロだからc,rを所与として労働
供給は「今期」の実質賃金w/Pのみの単純な増加関数となる.そうした状態
。
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