NAMs出版プロジェクト: ドブリュー『価値の理論』1959
http://nam-students.blogspot.jp/2015/09/blog-post_48.html
アローの不可能性定理 1951、社会選択理論
https://nam-students.blogspot.com/2019/03/arrow-impossibility-theorem1963.html
アロー&ハーン『一般均衡分析』General Competitive Analysis (1971)
http://nam-students.blogspot.jp/2016/05/general-competitive-analysis-1971.html
契約理論
ジョージ・アカロフ
https://nam-students.blogspot.com/2019/02/2001-georgeakerlof-1940.html
スペンス シグナリング理論 ハーバード学派?
https://nam-students.blogspot.com/2019/01/blog-post_19.html
ティロール
http://nam-students.blogspot.jp/2016/10/2014.html
良き社会#4より
情報の経済学に重要な基本概念ふたつ、
モラルハザード 契約後 、逆選択(逆淘汰とも言う) 契約時
アマルティア・セン 1998
https://nam-students.blogspot.com/2019/03/amartya-sen-1998-1933.html
(センにはアローの社会的選択理論『社会的選択と個人的評価』1977^1951からの影響がある)
ケネス・J・アロー (Kenneth J. Arrow), 1921-2017
https://nam-students.blogspot.com/2019/02/j-kenneth-j-arrow-1921.html@
社会的選択と個人的評価
版情報
第3版
著者名等
ケネス・J.アロー/著 ≪再検索≫
著者名等
長名寛明/訳 ≪再検索≫
出版者
勁草書房
出版年
2013.1
大きさ等
22cm 181p
注記
Social choice and individual values.3rd ed.の翻訳
NDC分類
331.74
件名
経済学‐厚生経済学 ≪再検索≫
要旨
社会的選択理論を創設したアローの類まれなる業績の最新版。
目次
第1章 序論;第2章 選好と選択の性質;第3章 社会的厚生関数;第4章 補償原理;第5章 社会的厚生関数の一般可能性定理;第6章 個人主義的仮定;第7章 社会的厚生判断の基礎としての類似性;第8章 社会的選択の理論に関する覚書き―1963年
内容
索引あり
経路依存性(けいろいぞんせい、英: path dependence)は人々が任意の状況で直面する決定の集合が、過去の状況がもう関係なくなっているとしても、人々が過去にした決定や経験した出来事にどのように制限されているかについての説明である。
- Arrow, Kenneth J. (1963), 2nd ed. Social Choice and Individual Values. Yale University Press, New Haven, pp. 119–120 (constitutional transitivity as alternative to path dependence on the status quo).
フェルプス Edmund S. Phelps 統計的差別(statistical discrimination,1972)2006年ノーベル経済学賞受賞
https://nam-students.blogspot.com/2019/03/edmund-s-phelps-statistical.html
(Arrowの以下と関連)
- "Models of Job Discrimination", 1972, in Pascal, editor, Ractial Discrimination in Economic Life
- "The Theory of Discrimination", 1973, in Aschenfelter and Rees, editors, Discrimination in Labor Markets
Economist Kenneth Arrow offers his opinion of Obamacare 2014
アロー「不確実性と医療の厚生経済学」1963 要約
フリードマン、T.パーソンズに言及していた
《Talcott Parsonsのことばによれば,「参加者の私欲が一定の規準(the accepted norm)である場合,『全体志向性(collectivity - orientation)』が生まれ, この全体志向性があるため,医師その他の専門的職業は一般の職業と異なる」といえるのである。…
Parsons, T., The Social Syslen. Glencoe: Free Press, 1951.p.436を参照。同10章は,医業の社会的役鶴に関するきわめて明嬢な分析である。Parsonsの問題意識は筆者とは異るが,この部分は彼の研究に負うところが大きい。》田畑訳1981再構成
ミルグロム:メモ
両面性市場におけるプラットフォーム戦略 に関する研究 海 野 大 (Adobe PDF)
上121頁によれば保険用語のモラルハザードを経済学に適用したのはアローが最初。
…
…初期の保険統計での経験を活かして、アローは医療保険に関する有名な 1963 年論文を書いた。これはモラルハザードの概念を経済学に導入し、情報理論の夜明けを告げるものだった。1965 年の講演集 Aspects of the Theory of Risk Bearing (リスク負担理論の諸側面) は、有名な「アロー=プラットのリスク(危険)回避度」の概念や、わかりやすくした非対称情報と「モラルハザード」条件、そして「逆選択」などの概念を導入している。モラルハザード、最適保険や最適リスク負担配分に関するアローの業績のほとんどは、有名な 1971 年の著書 Essays in the Theory of Risk- Bearing に収められた。アローの教育と人種差別に関する研究 (1972, 1973) は、非対称情報のもとでのシグナリングとスクリーニング機構の応用として有名な練習問題となっている。
MORAL HAZARD IN HEALTH INSURANCE …1963(2014)
(アロー1963はアレ1953を参考文献に挙げている)
《2. M. Allais, “Géneralisation des théories de l’équilibre économique général et du rendement social au cas du risque,” in Centre National de la Recherche Scientifique, Econometrie, Paris 1953, pp. 1–20.》
アローによれば市場が失敗するとき組織が登場する
ミルグロム1997:55
アロー邦訳組織の限界1994
以下の#3にシグナルの概念が展開される
個人ー組織ー市場 8
システム
ハムレット49
リア王128
シグナル 10,60~
情報 60
ヒーレル16
モラルハザード#2-58 道徳的陥穽
逆選択59
今日の経済学の進展から振り返ると第2講演の組織と情報が興味深い
保険業界の例の他に医者と患者の例を挙げているのは流石である
日本語版序文にはスペンスとスティグラーの名がある
第四講演は右派左派から挟み撃ちにされた大学での姿がわかる
第三者委員会が権威と責任の代替関係を解決するらしいが
ハーバードとシカゴと対立に逃げ道として
スタンフォード、カリフォルニアが必要だった
組織の限界 (ちくま学芸文庫) 文庫 – 2017/3/8
…
…
ケネス・J・アローは 1972 年にノーベル記念賞を「一般均衡理論と厚生理論における先駆的な貢献」によって、これまた傑出した学者であるジョン・ヒックスと共同受賞している。アローがその知的業績の初期における最も影響力の強かった研究として、ヒックス自身の「価値と資本」 Value and Capital (1939) を挙げていることは、指摘しておいていいかもしれない。
ケネス・J・アロー (Kenneth J. Arrow), 1921-
20 世紀の最も重要な経済理論家の一人であるケネス・J・アローは、各種の分野で根本的な貢献を行ってきた。そのほとんどは新ワルラス派一般均衡理論と厚生経済学の周辺に集中していて、これらについてアローは主要な構築者の一人として見ることができる。
ケネス・アローはとことんニューヨーク産の人物だ。生まれ育ちもニューヨーク市、教育はニューヨーク市立大学 (CCNY) で、その後コロンビア大学院でハロルド・ホテリングとエイブラハム・ワルド の下、数理統計学を学んだ。かれが経済学の方に接近するのは、コロンビア大学でのことだった。
1942 年に博士課程の単位を取得し終えた後のアローの博士論文は、10 年にもわたる大作業となった。第二次世界大戦中に、アメリカ空軍の気象部門に一時所属してから(これが 1949 年の論文につながる)、アローは 1946 年にコロンビアに戻って、博士論文のテーマがまだ決まらないまま、民間セクターへの移住に向けて手を打つようになる――一連の保険統計試験に合格して、保険業界での職探しを始めたわけだ。この期間、アローはヤコブ・マルシャックの数学セミナーに参加した。ホテリングとワルドは、アローの迷走ぶりに呆れて、1947 年にシカゴのコウルズ委員会でマルシャックの下で研究助手をやれと説得した。
コウルズ委員会で、アローはマルシャックとクープマンスが設定したワルラス派の研究プログラムをほとんど吸収した。アローは在庫方針についての論文をマルシャックとハリスと共著して、有名な 1951 年のクープマンス編「活動分析に関するコウルズモノグラフ」に一編を寄稿した。
非常に刺激の多いコウルズでの二年間を経て、アローはアメリカ空軍と縁の深いランド研究所に移った。その後かれは、スタンフォード大学で教鞭を取ることになる――そして今日にいたるまで、1968 年から 1979 年までのハーバード大在籍をのぞけば、ずっとそこに居座っている。
ランド研究所での研究テーマの一つは、国際紛争や戦略の分析に、当時としては目新しかったゲーム理論を使うことだった。でも、ゲーム理論そのものが、参加者たちがある種の効用関数を持つことを前提としている。参加者が個人であるようなテーブルゲームでならこれも許されるけれど、でも戦略的な状況におかれた総体としての国を扱う場合、「アメリカの」効用とか「ソ連の」効用となると、話はまったく別だ。そこでアローは、国のような集合体が、きれいにふるまう効用関数を持つと想定できるにはどんな条件が必要なのかな、と考えた。そしてやっとのことで、博士論文の主題が見つかり、それが書かれ、そしてかの記念碑的な古典論文「社会的選択と個人の価値観」(Social Choice and Individual Values) (1951) が発表された。
アローの 1951 年の博士論文の中核にあるのは、社会的選択の順番は、個人の選択の順番に基づいて、単純な公理的やりかたから導き出せる、という想定だった。アローの驚異的な結論(これはその後、「アローの不可能性定理」と呼ばれるようになる)は、社会的選択の順番についての、特に変わったところのない公理が、必然的に「独裁者」の存在を意味する(つまりある特定エージェントが結果に対して持つ嗜好が、他のみんなの嗜好を圧倒してしまうということ)ということだった。この見事な結果は、それ以来社会福祉理論において、大規模な研究産業を作り出したし、またアロー自身もそこに無数の貢献を追加で行っている (e.g. 1952, 1967, 1973, 1977)。このためかれは、倫理や正義の哲学といった、はるか遠い分野にも足を踏み入れることとなった (e.g. 1967, 1973, 1977, 1978)。
またその間、アローは一般均衡の文脈に不確実性を導入しようと苦闘していた。この道の先駆的な論文で、アロー (1953) は簡単なやり方として「条件つき財 (state-contingent commodities) を考えればいいことを示した。結果としてかれは、条件つき市場のすべての集合(完備市場)における均衡状態では、最適なリスク配分があることを示した。でもアローは、条件つき財の完備集合というのはあまりに非現実的に見えるかもしれないことも指摘した。同じ論文で、アローは有名な「アロー証券」を考案してみせた。これは、ある状態では一定ユニットの支払いが行われるけれど、それ以外では何も支払われない証券だ。アローは、条件つき財の完備市場は、各種の可能な状態にまたがるアロー証券のずっと少数の集合で置き換えられることを実証した――つまりは、最適なリスク配分は条件つき完備市場でのアロー=ドブリューモデルでの場合とまったく同じになるということだ。
続いてアローは関心を新しい問題に向けた――複数市場における競争均衡の「安定性」の問題だ。この問題についての関心はマクマナス (McManus 1958) と共同の「D 安定性」に関する研究が発端で、これはハーウィッツ (Hurwicz 1958) と共同の局所安定性に関する有名な論文でさらに展開された。この面でアローの一番有名な業績は、ブロック (Block) とハーウィッツとの共著論文 (1959) で均衡の大局的安定性に関する十分条件 (i.e. WARP) を求めたことだったろう。その後ハーウィッツと共同で薦められた拡張や厳密化 (1960, 1961) は、安定性理論の成果と問題を同時に示すものだった。
その間、アローは数理計画法への関心も保ち続けていた。ハーウィッツ (Hurwicz) と宇沢弘文 (1961) と共著で、かれは非線形計画法問題の局所解のサドルポイント的特徴 (saddle point characterization) を得るための、有名な弱い制約想定を作った(これはクーン=タッカーの条件に代わるものとなった)。エントーベン (1961) と共著で、maximand と制約関数が両方とも準凹の場合の最適化問題を特徴づける有名な結果もいくつか生み出した。
画期的な貢献はさらに続く。初期の保険統計での経験を活かして、アローは医療保険に関する有名な 1963 年論文を書いた。これはモラルハザードの概念を経済学に導入し、情報理論の夜明けを告げるものだった。1965 年の講演集 Aspects of the Theory of Risk Bearing (リスク負担理論の諸側面) は、有名な「アロー=プラットのリスク(危険)回避度」の概念や、わかりやすくした非対称情報と「モラルハザード」条件、そして「逆選択」などの概念を導入している。モラルハザード、最適保険や最適リスク負担配分に関するアローの業績のほとんどは、有名な 1971 年の著書 Essays in the Theory of Risk- Bearing に収められた。アローの教育と人種差別に関する研究 (1972, 1973) は、非対称情報のもとでのシグナリングとスクリーニング機構の応用として有名な練習問題となっている。
アローはリンドと共著の有名な論文 (1970) で、公共投資の理論と不確実性を結びつけ、政府のリスク負担役割を主張した。数理計画法と公共政策に対する関心は、自然と最適政策の問題に向かうこととなった――特に、資源配分や在庫政策、公共投資を導く最適制御理論をどう使うか、と言う問題だ。モルデカイ・クルツ (1969, 1970) と共同研究で (これはやがて有名な 1970 年の共著書となった) 、アローは当時はほとんど使われていなかったハミルトニアンの応用と拡張をたくさん示した。アローの有名な、最適化のための「十分」条件は、マンガサリアン条件を一般化するものだった。
1971 年に、ケネス・アローとフランク・H・ハーンは有名な論文/教科書 General Competitive Analysis (1971) を発表。これはごく最近まで、ワルラス的一般均衡理論の大権威だった。一般均衡研究は、その後はアローやハーンが考えたのとはまったくちがった方向に向かったけれど、でも一般均衡における貨幣、不確実性、安定性の扱いについてこの両者が批判的な見当を加えたおかげで、経済学者がこうした問題についてちがった見方をするようになったのはまちがいない。1981-83 年にかけて、アローは Handbook of Mathematical Economics の共編者として手を貸し、一般均衡理論の最先端を再びまとめてみせた。
アローは、一般均衡理論や社会福祉理論、成長、生産、不確実性、情報、最適公共政策などについて圧倒的なほどの画期的貢献を生み出してきたけれど、大御所としての地位に甘んじることなく、精力的な研究を続けている。たとえばラドナーと共著で行った、1979 年の「チーム」の理論や、チャンと共同で行った天然資源の理論 (1980) は、組織理論や資源分配理論に新しい道を拓いた。もっと最近では、アローは再びハーンと組んで、「内的不確実性 (endogenous uncertainty)」 (1999) の問題に取り組み始めている。
ケネス・アローは、たぶん存命中の経済学者の中で最も尊敬され、崇拝されている人物の一人かもしれない。多くの点で、かれの生涯で最も賞賛に値するのは、そのほとんど信じがたいほどの成功にもかかわらず、かれがどんな点でも専門学者にありがちな傲慢さやセコさに陥らなかったという点かもしれない。だれが見ても、アローはその学問的な深み、関心の広さ、個人的・知的な寛容さとオープンさ、そしてイデオロギー的なもめごとに関わることを断固として拒否する態度などの点で、経済学者・非経済学者、あるいは正統派・非正統派を問わず、高い評価を得ている。何はなくともアローは、「邪悪さと天才は決して共存することがない」(Pushkin, 1832) というプーシキンの法則を見事に体現している。
でも、かれの業績はただのツキのおかげではないし、お手軽作業でいい加減に仕上げたものでもない。むしろそれは、しばしば苦労に満ちてはいるけれど、それでも継続的な学者としての仕事への献身ぶりからきている。これは忘れないようにしよう。その業績を通じて、アローが最高水準の厳密さを維持し、過剰な単純化やイデオロギー的なレトリックを避け、経済理論の適用の限界についてはっきり認識すると同時に、その線引きを積極的に行ってきたことは明らかだ。そうすることで、アローは経済学と、経済のプロセスについて、ほかのどんなやり方よりもはるかに深い理解を実現し、それをぼくたちに提供してくれた。
ケネス・J・アローは 1972 年にノーベル記念賞を「一般均衡理論と厚生理論における先駆的な貢献」によって、これまた傑出した学者であるジョン・ヒックスと共同受賞している。アローがその知的業績の初期における最も影響力の強かった研究として、ヒックス自身の「価値と資本」 Value and Capital (1939) を挙げていることは、指摘しておいていいかもしれない。
ケネス・J・アローの主要な著書論文
- "On the Use of Winds in Flight Planning", 1949, Journal of Meteorology
- "Bayes and Minimax Solutions of Sequential Decision Problems", with D. Blackwell and M.A. Girshick, 1949, Econometrica
- "A Difficulty in the Concept of Social Welfare", 1950, JPE
- Social Choice and Individual Values, 1951.
- "An Extension of the Basic Theorems of Classical Welfare Economics", 1951, in Neyman, editor, Proceedings of Second Berkeley Symposium
- "Optimal Inventory Policy", with T. Harris and J. Marschak, 1951, Econometrica
- "Little's Critique of Welfare Economics", 1951, AER
- "Mathematical Models in the Social Sciences", 1951, in Lerner and Lasswell, editors, Policy Sciences
- "Alternative Proof of the Substitution Theorem for Leontief Models in the General Case", 1951, in Koopmans, editor, Activity Analysis of Production and Allocation
- "Alternative Approaches to the Theory of Choice in Risk-Taking Situation", 1951, Econometrica
- "The Determination of Many-Commodity Preference Scales by Two- Commodity Comparisons", 1952, Metroeconomica
- "Principle of Rationality in Collective Decisions", 1952, Economie Appliquee
- "Admissable Points of Convex Sets", with E.W. Barankwin and D.W. Blackwell, 1953, Contributions to the Theory of Games
- "The Role of Securities in the Optimal Allocation of Risk-Bearing", 1953, Econometrie - (in 1963, RES).
- "Existence of an Equilibrium for a Competitive Economy", with Gerard Debreu, 1954, Econometrica.
- "Import Substitution in Leontief Models", 1954, Econometrica
- "A Theorem on Expectations and the Stability of Equilibrium", 1956, with A. Enthoven, Econometrica.
- "Reduction of Constrained Maxima to Saddle-Point Problems" with L. Hurwicz, 1956, Proceedings of the Third Berkeley Symposium
- "Statistics and Economic Policy", 1957, Econometrica
- "Decision Theory and Operations Research", 1957, Operations Research
- "Gradient Methods for Constrained Maxima", with L. Hurwicz, 1957, Operations Research
- "Utilities, Attitudes, Choices: A review note", 1958, Operations Research
- "A Note on Expectations and Stability" with M. Nerlove, 1958, Econometrica
- "A Note on the Dynamic Stability", with M. McManus, 1958, Econometrica.
- "Tinbergen on Economic Policy", 1958, JASA
- Studies in the Mathematical Theory of Inventory and Production, with S. Karlin and H.E. Scarf, 1958.
- Studies in Linear and Non-Linear Programming with L. Hurwicz and Hirofumi Uzawa, 1958.
- "On the Stability of Competitive Equilibrium I", with Leonid Hurwicz, 1958, Econometrica.
- "On the Stability of Competitive Equilibrium, II", with J.D.Block, L.Hurwicz, 1959, Econometrica.
- "Rational Choice Functions and Ordering", 1959, Economica.
- "Toward a Theory of Price Adjustment", 1959, in Abramovitz, editor, Allocation of Economic Resources.
- "Rational Choice Functions and Orderings", 1959, Economica
- "Competitive Stability under Weak Gross Substitutability: the Euclidian distance approach" with L. Hurwicz, 1960, IER.
- "The Work of Ragnar Frisch, Econometrician", 1960, Econometrica
- "Some Remarks on the Equilibria of Economic Systems" with L. Hurwicz, 1960, Econometrica.
- "Constraint Qualifications in Non-Linear Programming", with L. Hurwicz and H. Uzawa, 1961, Naval Research Logistics Quarterly
- "Quasi-Concave Programming", with A.C. Enthoven, 1961, Econometrica
- "Capital-Labor Substitution and Economic Efficiency", with H.B. Chenery, B.S. Minhas and R.M. Solow, 1961, REStat
- "Additive Logarithmic Demand Functions and the Slutsky Relations", 1961, RES
- "Competitive Stability under Weak Gross Substitutability: Nonlinear price adjustment and adaptive expectations", 1962, IER.
- "The Economic Implications of Learning by Doing", 1962, AER.
- "Economic Welfare and the Allocation of Resources for Innovation", 1962, in Nelson, editor, The Rate and Direction of Inventive Activity.
- "Uncertainty and the Welfare Economics of Medical Care", 1963, AER.
- "Utility and Expectation in Economic Behavior", 1963, in Koch, editor, Psychology
- "Optimal Capacity Policy, the Cost of Capital and Myopic Decision Rules", 1964, Annals of Institute of Statistical Mechanics
- Aspects of the Theory of Risk-Bearing, 1965.
- "Discounting and Public Investment Criteria", 1966, Water Research
- "Values and Collective Decision Making", 1967, in Laslett and Runcimann, editors, Philosophy, Politics and Society
- "The Place of Moral Obligation in Preference Systems", 1967, in Hook, editor, Human Values and Economic Policy.
- "Optimal Capital Policy with Irreversible Investment", 1968, in Wolfe, editor, Value, Capital and Growth
- "Applications of Control Theory to Economic Growth", 1968, Mathematics of Decision Sciences
- "Economic Equilibrium", 1968, IESS.
- "The Organization of Economic Activity: Issue pertinent to the choice of market versus nonmarket allocations", 1969, Analysis and Evalution of Public Expenditures
- "Optimal Public Investment Policy and Controllability with Fixed Private Savings Ration", with M. Kurz 1969, JET
- "Optimal Growth with Irreversible Investment in a Ramsey Model", with M. Kurz 1970, Econometrica
- "Uncertainty and the Evaluation of Public Investment Decisions", with R.C. Lind, 1970, AER.
- Public Investment, the Rate of Return and Optimal Fiscal Policy, 1970, with M. Kurz.
- "A Utilitarian Approach to the Concept of Equality in Public Expenditures", 1971, QJE
- "The Value and Demand for Information", 1971, in McGuire and Radner, editors, Decision and Organization
- "Expositions of the Theory of Choice under Uncertainty", 1971, in McGuire and Radner, editors, Decision and Organization
- Essays in the Theory of Risk-Bearing, 1971.
- General Competitive Analysis, with F.H.Hahn, 1971.
- "The Firm in General Equilibrium Theory", 1971, in Marris and Wood, editors, The Corporate Economy.
- "Problems in Resource Allocation in United States Medical Care", 1972, in Kunz and Fehr, editors, Challenge of LIfe
- "Models of Job Discrimination", 1972, in Pascal, editor, Ractial Discrimination in Economic Life
- "Some Models of Race in the Labor Market", 1972, in Pascal, editor, Ractial Discrimination in Economic Life
- "Cost-Theoretical and Demand-Theoretical Approaches to the Theory of Price Determination", with D. Starrett, 1973, in Hicks and Weber, editors, Carl Menger and the Austrian School of Economics.
- "Some Ordinalist-Utilitarian Notes on Rawls's Theory of Justice", 1973, J of Philosophy
- "Higher Education as a Filter", 1973, JPublicE
- "The Theory of Discrimination", 1973, in Aschenfelter and Rees, editors, Discrimination in Labor Markets
- "Formal Theories of Social Welfare", 1973, in Wiener, editor, Dictionary of the History of Ideas
- "Social Responsibility and Economic Efficiency", 1973, Public Policy
- "Rawls's Principle of Just Saving", 1973, Swedish JE
- "General Economic Equilibrium: Purpose, analytic techniques, collective choice", 1974, AER.
- The Limits of Organization, 1974.
- "Limited Knowledge and Economic Analysis", 1974, AER
- "Optimal Insurance and Generalized Deductibles", 1974, Scandavian Actuarial Journal
- "Thorstein Veblen as an Economic Theorist", 1975, American Economist
- "Vertical Integration and Communication", 1975, Bell JE
- "The Genesis of Dynamic Systems Governed by Metzler Matrices", 1976, Mathematical Economics and Game Theory.
- "Quantity Adjustment in Resource Allocation: A statistical interpretation", 1976, in Grierson, editor, Public and Urban Economics
- The Viability and Equity of Capitalism, 1976.
- Theoretical Issues in Health Insurance, 1976.
- Studies in Resource Allocation Processes, with L. Hurwicz, 1977.
- "Extended Sympathy and the Possibility of Social Choice", 1977, AER
- "Current Developments in the Theory of Social Choice", 1977, Social Research
- "Nozick's Entitlement Theory of Justice", 1978, Philosophia
- "Risk Allocation and Information: Some recent theoretical developments", 1978, Geneva Papers on Risk and Insurance.
- "The Future and Present in Economic Life", 1978, Economic Inquiry
- "Jacob Marschak's Contributions to the Economics of Decision and Information", 1978, AER
- "The Property Rights Doctrine and Demand Revelation under Incomplete Information", 1979, in Boskin, editor, Economics and Human Welfare
- "Allocation of Resources in Large Teams", with R. Radner, 1979, Econometrica
- "The Trade-Off Between Growth and Equity", 1979, in Greenfield et al., editors, Theory for Economic Efficiency.
- "Real and Nominal Magnitudes in Economics", 1980, J of Financial and Quantitative Analysis
- "Optimal Pricing, Use and Exploration of Uncertain Natural Resource Stocks", with S.L. Chang, 1980, in Liu, editor, Dynamic Optimization and Mathematical Economics.
- "Futures Markets: Some theoretical perspectives", 1981, J of Futures Markets
- "Pareto Efficiency with Costly Transfers", 1981, in Los, editor, Studies in Economic Theory and Practice
- "Optimal and Voluntary Income Distribution", 1981, in Rosefielde, editor, Economic Welfare and Economics of Soviet Socialism
- Editor, Handbook of Mathematical Economics, Volumes I- III, 1981-1986, with M.D. Intriligator - intro & contents
- "Risk Perception in Psychology and Economics", 1982, Economic Inquiry
- "Why People Go Hungry: Review of Sen", 1982
- Collected Papers of Kenneth J. Arrow, seven volumes, 1983-5.
- "Behavior under Uncertainty and its Implications for Policy", 1983, in Stigum and Wenstop, editors, Foundations of Utility and Risk Theory
- "Team Thery and Decentralized Resource Allocation", 1983, in Desai, editor, Marxism, Central Planning and the Soviet Union
- "The Potentials and Limits of the Market in Resource Allocation", 1985, in Feiwel, editor, Issues in Contemporary Microeconomics and Welfare
- "Distributive Justice and Desirable Ends of Economic Activity", 1985, in Feiwel, editor, Issues in Contemporary Microeconomics and Welfare
- "Informational Structure of the Firm", 1985, AER
- "Agency and the Market", 1986, in Arrow and Intriligator, editors, Handbook of Mathematical Economics, Vol. III
- "Methodological Individualism and Social Knowledge", 1994, AER
- "Foreword", 1994, to W.B. Arthur, Increasing Returns and Path Dependence in the Economy
- "Some General Observations on the Economics of Peace and War", 1994, ECAAR Japan.
- "Judgemental Cuts in Consumer Price Indexation Are a Bad Idea," with R. Solow and J. Tobin, 1997, FAS
- "Notes on Sequence Economies, Transaction Costs and Uncertainty", with F.H. Hahn , 1999, JET
- "How to Grow: Review of Olson", 2000, Washington Monthly
- "Globalization and its Implications for International Security", 2000, ECAAR seminar
ケネス・J・アローに関するリソース
- HET ページ: 均衡の存在, 厚生経済学の基本定理, 局所安定性, Global Stability, 不確実性のもとでの選択: リスク回避, State-Preference Approach, 不確実性のもとでの一般均衡: State-Contingent Markets, Equilibrium with Asset Markets, アローの不可能性定理, 最適成長理論, 内的成長理論, CES 生産関数
- K.J. アローのウェブページ(スタンフォード大学)
- アロー自伝(ノーベル賞サイト)
- ノーベル賞のプレスリリース (1972).
- The Kenneth J. Arrow Papers at Duke University.
- Profile at North-Holland
- Region's interview with Arrow.
- "Information and the Role of Public Policy" by K.J. Arrow, 2000
- "Individual Responsibility: For Self, for Others" by K.J. Arrow, 1996
- "The Rich Get Richer: debate between Arrow and Judd" at Uncommon Knowledge, Hoover Institution
- "Three Brief Proofs of Arrow's Impossibility Theorem" by John Geanakoplos
- K.J. Arrow's review of Sen's 1981 book.
- Arrow in action!: Declaration on Microsoft anti-trust suit and the AEI-Brookings Regulatory Studies
- Arrow's letter to Slate on Krugman and Arthur
- Arrow Page.at Elsevier/North-Holland
- "Theory and Experiments with Markets" - Arrow and Plott at Ideachannel -- audio & video (RAM)
- Arrow page at Harvard
- Arrow Page at Nobel Prize Internet Archive
- Another short bio of Arrow.
- Short bio of Arrow at Queens Univ.
- .Biography of Arrow at Nobels for the Future.
- Arrow page at the Vatican
- Arrow Page in Germany
- Arrow page at Britannica.com
- Arrow page at Britannica Guide to the Nobel Prizes
- Kenneth Arrow Award for Health Economics
- Citation from 1986 John von Neumann Theory Prize from INFORMS
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アローと医療と言えば、彼の1963年の論文「Uncertainty and the Welfare Economics of Medical Care(不確実性と医療の厚生経済学)」が有名で、クルーグマンが最近自説の支持材料として挙げている(cf. ここ、ここ)。マンキューが上述の反応の際に我田引水気味の引用を行なったのも*2、そのクルーグマンへの牽制という意識があったのだろう。
その論文は、今、WHOのサイトで読むことができる(ただし所々省略箇所が見られるので、要約版のようである)。そこで、以下にその内容を簡単に紹介してみる*3。
1)イントロダクション
- 本論文の目的は、医療と規範的経済学との違いを説明することにある。
- ここでいう「規範」とは、競争モデルを指す。
- 競争モデルの前提条件は以下の3つ。
- 均衡の存在
- すべての財・サービスに市場性があること
- 非収穫逓増性
- 医療では、不確実性の存在により上記の条件が満たされないかもしれない。その場合、パレート最適が達成されない。
- その場合、非市場的な社会的制度が、意識的にではないにせよ、そのギャップを埋めようと働いているのではないか。
2)医療市場固有の特徴
A. 需要の性質
- 食料や衣料のように恒常的な需要が存在するわけではなく、需要が不規則で予測できない。
- 家計に同じくらい大きな負担をもたらす商品で、このような性質を持つものはあまり無い。訴訟に巻き込まれたときの法律関係のサービスが近いと言えるが、そちらの方が発生確率ははるかに低い。
- 死や障害の危険性、およびそれによる収入喪失ないし減少の危険性を伴う点も特徴。食料の欠如も同様の結果をもたらすが、そちらは収入が十分に確保されれば解消する。病気についてはそうはいかない。
B. 医師に期待される行動
- 医療サービスは生産行動と製品が同一。その場合、消費者は事前にテストできないので、信頼関係が一つの要素となる。
- 倫理面からは、医師の行動制約は、たとえば床屋のそれよりも厳格であると理解されている。一般のセールスマンと違い、消費者の厚生を気に掛けることがその行動を規定するとされている。タルコット・パーソンズ(Talcott Parsons)の言葉を借りれば、「集団志向」(collectivity-orientation)が存在する。その点は、自己の利益を考えることが規範として受容されている他の職業と違う点である。
C. 商品の不確実性
- 他の主要な商品に比べ、質の不確実性が高い。
- 病気からの回復は、その罹患と同じく予測不可能。
- 大部分の商品では、消費者は経験を積み重ねたり他者の経験を見聞きして学習できるが、重い病気の場合はそうはいかない。
- 住宅や自動車の購入も頻度が少ないが、効用の変動性という意味での不確実性は医療の方がはるかに大きい。
- 医療知識は極めて複雑なので、治療の結果や可能性に関する情報の非対称性は大きい。そして、医師と患者の双方がそのことを知っている。
D. 供給条件
- 競争理論では、同じ資源を余所で使用した場合の純収益との比較で供給が決まるが、医療ではそうした理論からの大きな乖離がいくつかある。
- 最も明確なのは、職業がライセンス制度で制限されていることである。ライセンスは参入を制限し、医療の費用を高める。ライセンスの正当化理由は、最低限の質の確保ということになっている。
- ライセンス制度による参入規制は、床屋や引き受け業務といった多くの職業で見られる。
E. 価格慣行
- 医療には所得による価格差別がある(貧しい人に対しては価格がゼロになることもある)。
- かつてはサービスと対価の交換にこだわり、前払い制度に反対したこともあった。
3)確実性下の競争モデルとの比較
A. 非市場性商品
- 伝染病の拡大は、非市場的な作用の典型例である。
- ただ、非市場性商品の問題の扱いは、理論的には確立しているので、ここで付け加えることはあまり無い(ただしそのことは公衆衛生の貢献を貶めるものでは決して無い。それどころか、公衆衛生は、医療の他の側面を合わせたよりも重要かもしれない)。
- 人々の他者の健康を改善したいという利他的な欲求は、他の厚生問題に比べ強いかもしれない。それによる相互依存関係からは、集団行動が理論的に導かれる。
B. 収穫逓増
- 収穫逓増にまつわる問題*4が医療分野の資源配分でも問題となる。特に人口密度が低い地域や低所得地域で問題になる。
- 病院はある点までは収穫逓増となる。それは、専門家やある種の医療装置が分割不可能であるためである。世界の多くの地域では、一人の医師の存在ですら、需要に比して過大な供給となる。
- その場合、適切な医療ユニットを補助することが社会的に望ましい。これについては、水資源プロジェクトと同様の分析を適用できる。
- 米国の大都市では収穫逓増は大きな問題とならない。他の地域でも、輸送手段の発達がこの問題を緩和する。
C. 参入
- 2節のDで述べたように、参入規制が競争的行動からの乖離の最も大きな要因となる。
- フリードマンとクズネッツは、第2次世界大戦前のデータを詳細に調べて、医師の高所得はこの規制によると論じた。
D. 価格付け
- 医療業界の価格決定の慣行は、競争市場の規範からは掛け離れている(2節のE参照)。
- 価格差別は競争モデルと相容れないし、医師が大勢いるのにそれが保たれているということは、集団的独占が成立していることに等しい。
- 過去には、前払いプランへの業界の反対は、極めて強圧的な形態を取った。もっと穏やかな表現をしても、医師全体からの市場圧力が働いたと言える*5。
4)不確実性下の理想的な競争モデルとの比較
A. イントロダクション
- 考えられるありとあらゆるリスクに対する保険が存在する理想的な市場との比較を考えた場合、現実とその理想市場との乖離は、そうしたすべての保険の条件が文書化されないことから生じる。そうした潜在的な商品が非市場性なのか、それとも市場の欠陥によって市場に出てこないだけなのか、は2次的な問題にすぎない。
- 1節で述べたとおり、医療には2種類のリスクがある。
- 病気になるリスク
- 回復の不完全性もしくは遅れによるリスク
- 不確実性の厚生経済学の観点からは、両方とも保険の対象になることが望ましい。
・・・
C.保険の問題
- 厚生面からは、あらゆる種類の保険を提供することのメリットは非常に大きい。従って、市場が提供できない保険を政府が提供すべき、ということになる。
- ただ、実務上は様々な障害があるので、それらを理解することが重要。とはいえ、それらの存在は、現在より多様な保険が提供されるべき、という基本線を変えるものではない。
- 保険を語る際に強調されてきた障害の一つが、保険がインセンティブに与える影響。
- 望ましい保険とは、個人がコントロールできない出来事に対する保険。しかし、現実世界ではそうした保険を完全に分離することはできない。
- たとえば、火事の発生は、基本的に個人がコントロールできるものではない。しかし、不注意による火事の発生や、極端な場合は放火の可能性というものも存在する。
- 同様に、医療費用は、罹った病気の種類だけでなく、患者の医者の選択や、医療サービスを利用したいと思う気持ちにも左右される。広範な医療保険が医療の需要を高めるということは良く起きる。自己負担条項というのは、保険会社のリスク回避だけではなく、こうした状況も受けて生まれた。
- 医者によるチェックが、保険会社の代わりにモラルハザードを抑制するという側面はあるが、完全なチェックには程遠い。医師自身は誰かの管理下にあるわけではないし、患者が医療サービスをもっと消費してくれた方が都合が良いかもしれない。
- 入院や手術の方がそれなりに監視の目が入るので、他の治療よりまだモラルハザードの問題が少ないかもしれない。そのためにそれに関する保険がより多いのだろう。
2. 保険の支払い方法の選択肢
- 少なくとも以下の3つの選択肢がある。
- 前払い
- 決まったスケジュールによる保険金支払い
- 費用に対する支払い
- すべての費用のカバー(当然免責や自己負担の条項はあるだろうが)
6. 不均等なリスクのプール
- 理論的には、可能な限り各人のリスクを分別し、それに応じた保険料を支払うのが社会全体の効用としては望ましいが、実際には、保険料は、ブルークロスやそれに類似した広く普及しているスキームでは、均等化する傾向にある。このことは、病気になりにくい人からなりやすい人への所得移転を意味する。
- 純粋な競争市場では、こうした均等化は起き得ない。そうした市場では、リスクの低い人からは低い保険料を取るプランが生まれるので、均等化プランからはリスクの人が抜けるという逆選択の問題が発生してしまう。
- 一つの解釈は、こうした均等化は、長期の保険という観点から起きるというもの。すなわち、個人の基本的な健康状態の変化によりリスクが変化することも包含した保険になっているということ。
・・・
3. 信頼と委任の概念
- 理想的な保険のもとならば、患者はとにかく結果だけを基準に支払いを行なっても効用は完全に保証されるので、医師との情報の非対称性を気にする必要は無い。
- しかし、現実には理想的な保険は成立していないので、患者は少なくとも医師が最大限に知識を活用しているという保証を欲しがる。それが信頼関係の組み込みであり、医師にはそれを維持する社会的な義務が生じる。
- その結果、医師は利益最大化を常に目的にしているように振舞うことができない。そうした行動は、論理的には問題ないにせよ、心理的には信頼関係と相容れないからだ。
- 価格差別化と、その極限としての貧困者の無料治療も、その延長線上にある。患者の厚生が最優先というのが医師の義務ということならば、経済問題にも優先することになるので。
- 情報の非対称性のもう一つの帰結は、患者が医師に治療の選択をかなりの程度任せるということにある。
- この委任関係に正当に応じていないという謗りを避けるため、医師は、たとえ患者の費用負担を軽減するためといえども、医療の質について妥協できなくなる。
- 医師に対する特別な信頼は第三者にまで及び、その結果、病気や怪我に関する医師の認定は特に重みを持つ(2節のB参照)。
- つまり、以下のような一般原理が働く。
情報の流れに障壁があり、関係するリスクが保証される市場は存在しない場合、売買は収束された期待を通じて行なわれる必要がある。その期待の収束は、明確で顕著なシグナリングによりもたらされるが、そのためには、最適化の観点からは論理的には導き出されない行動パターンを取る必要が出てくる。
4. ライセンスと教育の基準
- 委任と信頼は、情報の非対称性の問題を避けるために組み込まれた社会的制度である。
- 一方、治療に関する一般的な不確実性は、社会的には、厳格な参入コントロールにより対処されている。これは、患者の胸のうちに生じる医療という商品に関する不確実性を可能な限り減らすために設けられた。
- この解釈はナイーブかもしれないが、収入拡大を目指して市場独占のために設けられたという解釈よりも、はるか論証に耐えうるものだと思う。参入規制は確かに既存の医師に有利だが、参入規制を求める一般の圧力は、そうした医師の利害よりももっと深い原因に根差している。
- しかし、質の保証には他の手段もある。職業への参入には、国や機関による3種類の対応があり得る。
- ライセンス制度。ただ、現在のようなオール・オア・ナッシングではなく、治療の水準に応じて段階的なライセンス制度にすることも考えられる。
- 国や民間団体による強制力を持たない認証制度。
- 完全な消費者任せ。
- どの手段を取るかは、消費者が自力で選択することの難易度、および選択を誤った場合の結果の重大さに応じて決めるべき。ただ、医療においてはレッセ・フェールは認められないというのは明確な社会的コンセンサス。認証制度はまだ真剣に議論されたことは無いだろう。
あとがき
繰り返しになるが、市場が不確実性に関する保険の提供に失敗した時、市場の通常の条件とは一見矛盾する様々な社会的制度がもたらされる。医療はその一例に過ぎない。ただし極端な例ではあるが。
(ただし量と価格しか見ないフリードマンにアローは批判的)