コーネル大学の心理学者、デビッド・ダニングは、20年以上の長きにわたって、この「ライ・ウィットネス・ニュース」のアカデミック版とも言える研究を続けてきた。人が自らの認知活動(知覚、情動、記憶、思考など)を客観的に捉え評価したうえで制御する「メタ認知」に関する研究である。
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ダニングが行ったひとつの調査は、物理、生物、政治、地理の4つの領域で使用される概念について、知っているかどうかを調査対象者に尋ねるものだった。そこには「求心力」「光子」といった本物の概念に混じって、「視差板」「超脂質」などのデタラメな概念も9個含まれていたが、約90%の人がその架空の概念のうち、少なくともひとつを知っている、聞いたことがあると回答したという。それも、一般的に物知りであるという自己評価の高い人ほど、架空の概念を知っていると答える傾向があった。
1999年、ダニングと教え子のジャスティン・クルーガーは、「能力の低い人は、自分の無能さを認識できず、自己を実際よりも高く評価する(ひいては自信に満ちて見える)」という認知バイアスに関する論文を機関誌「Journal of Personality and Social Psychology」に発表。この認知バイアスは現在「ダニング=クルーガー効果」として知られており、2000年にはイグノーベル賞の心理学賞を受賞した。
ダニングとクルーガーは、ある特定のスキルに関して、能力のない人は「自らのスキルの欠如」、「他者の本物のスキル」、「自らのスキル不足の程度」が認識できないと主張した。これはある意味当然のことで、例をあげると、自分が文法をどの程度知っているかを認識するには、その文法に精通している必要があり、能力のない人にはそもそもそれができないので、自分の能力も客観的に判断できない。
しかし、この現象で興味深いのは、能力がないことによって、人はうろたえたり困惑したりするのではなく、むしろ不適当なほどの自信に満ちあふれていることだという。研究の結果、テストでDやFを取る大学生は、自分の答案はもっと高い点数に値すると考える傾向があり、また実力の劣るチェスやブリッジのプレーヤー、医学生、そして運転免許証の更新に臨む高齢者ほど、自分の力を過大評価することがわかっている。
とはいえ、どんな人間も万能ではない。つまり多かれ少なかれ、誰もが何かの領域では能力が劣り、自分をメタ認知できず、過大評価してしまうワナに陥る可能性があるということだ。
ダニング=クルーガー効果の罠にはまらない為に
ダニングは最終的に、こうした現象は「無知」というよりも、「誤った情報や知識」に起因すると考えるようになったという。では情報過多の現代社会で、ダニング=クルーガー効果のワナに陥らないようにするにはどうすればいいのだろうか。
ダニングは、ひとつにはつねに自分のなかに「あえて反論するもうひとりの自分」を持つことが有効だと語る。自分がしばしば到達しやすい結論は見当違いではないのか、自分は間違ってはいないかを自問すること。そして「知らない」と認めることは、実は失敗ではなく、成功への道筋かもしれないことを知ることだという。
いるいる、こういうやついる。良く知らないくせに知ったような口を聞き、それに対して突っ込まれると墓穴を掘るのだが、まったく意に介さず、更に嘘をつく。どんなことでも精通しているかのようなそぶりをみせるから、頼ってみたらまったくダメ。それを指摘したところで、まったく反省しないばかりか、責めているこちらに非があるとばかりに逆切れする。
良くいるタイプだな。と思っているそこのあなた。実は自分こそがダニング=クルーガー効果の罠にはまっているのかもしれない可能性もある。自分は絶対間違っていない。などということはないのだから。
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