♯1404 MMT(現代貨幣理論)のとらえ方
現在、米国の政治家や経済学者を二分する形で大論争中となっているのが「現代貨幣理論(MMT)」への評価です。
「財政は赤字が正常で黒字のほうが異常、むしろ、どんどん財政拡大すべき」というこれまでの常識を覆すようなこの理論については、検討にも値しない「トンデモ理論」として一蹴する向きもある一方で、(日本経済などの)リアルな実例があることを根拠に積極的に評価する主張も増えてきているようです。
MMTの論旨は、自国通貨を持つ政府の支出余地は一般的に想定されるよりも大きく、全てを税金で賄う必要はない(つまり「プライマリーバランスをそれほど気にすることはない」「借金で賄える余地は意外に大きい」)というものです。
この理論によれば、米国のドルはどのような債務返済に必要な貨幣も創出できるためデフォルトに追い込まれるリスクはなく、(簡単に言ってしまえば)米ドル札を大量に刷ることで様々な政策の財源を賄えばいいということになります。
こうした主張については、米国の民主党の29歳の新星で将来の女性初大統領ともいわれているオカシオコルテス下院議員が支持を表明したことで、世論を喚起する大きな話題となりました。
これに対し、ノーベル経済学賞受賞の経済学者クルーグマンや元米財務長官のサマーズ、FRBのパウエル議長、著名投資家のバフェットらがこぞって批判し、日銀の黒田総裁も否定的なコメントを出しているということです。
一方で、MMTを評価する経済学者などがしばしば引き合いに出すのが、現在の日本経済の姿です。
日本は約20年前に金利がほぼゼロにまで低下達して以降、日本銀行が一部ファイナンスしている公的債務残高はGDPの約2.5倍の規模にまで膨れ上がっています。しかし、それにもかかわらず、赤字続きでもインフレ高進はなく債券市場からの資金逃避の動きもない安定した経済の姿を保っているのも事実です。
この理論に立てば、政府は(財源の担保がなくても)お金を使い放題ということになりますが、MMTは本当にどのような政策をも実現させる打ち出の小槌となり得るのでしょうか。
6月30日の「しんぶん赤旗」(日曜版)では、立命館大学教授の松本朗(まつもと・あきら)氏が、(ある意味「赤旗」らしい立場から)話題のMMT論争について判りやすい解説を試みています。
MMTの本質は、「現代の通貨は政府が保証する信用貨幣なので、政府は国債発行で自在に通過を手に入れて財政支出できる」「政府はインフレを抑えつつ財政支出によって経済を望ましい状態に誘導できる」というもの。
つまり、政府は好きなだけお金を発行できるのだから、インフレを恐れずもっと財政支出を増やして経済に刺激を与えなさいという主張だと、松本氏はこの論考で説明しています。
政府と日銀が一体で貨幣供給増と財政支出拡大をセットで行うことを求める議論は、実は今世紀の初めころから日本でも盛んに行われ、実際日本はそれを実践してきたと氏はこの論考に記しています。
氏によれば、MMTを唱えるステファニー・ケルトンニューヨーク州立大学教授も主張するように、安倍晋三首相と黒田東彦(はるひこ)日銀総裁は、まさにMMTの実践者だということです。
アベノミクスの開始から6年半。もしもMMTが本物なら、日本経済は、「失われた20年」(あるいはそれ以上)にわたる長期デフレからとっくに脱却していてもよいはずだと松本氏は考えます。しかし、多額の財政支出と「異次元の金融緩和」を続けているにもかかわらず、日本は一向にデフレから抜け出せないでいる。
こうした状況を踏まえ、IMFの元チーフエコノミストであるハーバード大学のケネス・ロゴフ教授は、「日本こそ高水準の債務と低成長が同居する国ではないか」と指摘し日本を「成功例」とする主張を批判しているということです。
他方、MMTに立脚する論者は、日本がデフレ状態位から脱却できないのはまだ財政支出が不十分だからであって、政府は日銀と連携して財政支出をさらに増やすべきだと主張している。松本氏はここで、「注目すべきはMMTが長年主張してきた財政支出の中身だ」とこの論考に綴っています。
MMT論者は雇用創出や福祉充実など、国民の暮らしの改善や所得増につながる政策を主張してきた。そうすれば社会全体で所得が増え、税収も増えるというケインズ理論に基づいた経済政策を提唱しているということです。
しかし、日本の状況がどうかと言えば、財政支出は増えているが社会保障は負担増で給付減が続いている。その一方でリニア新幹線や大型道路、米国の兵器買いなどの偏った使い方になっており、これでは多くの国民が景気回復の実感を持てない中で、貧富の差ばかりが大きくなってしまうと氏は指摘しています。
氏がここで注目しているのは、(MMTに基づく財政支出は一定程度有効だが)政策決定に当たって注視しなければならないのは、本当の意味で国民が潤う財政支出になっているかどうかということです。(共産党の主張に沿えば)年金や医療、福祉などの社会保障、低所得者対策などへの所得補填にもっと税金を使うべきだということでしょう。
さて、松本氏の主張も分からないわけではありませんが、政府支出が「投資」に向かえば市場を通じた経済拡大に繋がる可能性が高まる一方で、広く薄く家計に給付されてしまえば、折角の政府支出がそこに蓄えられるだけで経済拡大に繋がらないのではないかという懸念も残ります。
また、財源の担保のないままずるずると(後に何も残らない)社会保障費ばかりが増えいたずらに財政赤字が拡大すれば、通貨の信用は失われ最終的には急激なインフレや場合によっては財政破たんに陥るリスクが大きくなることも否定はできません。
世界でも類をもない規模の財政赤字を抱える日本にとって、「MMT理論」はあたかも救世主のように感じられるかもしれません。しかし、借金まみれでジャブジャブに膨れ上がった国の通貨を、誰が安心(信用)して使おうと思うでしょうか。
急激なインフレによって真っ先に立ち行かなくなるのは、社会の中で弱い立場にある人たちの生活であることは言うまでもありません。与野党国会議員の皆さんや政策担当者には、「財政規律」という言葉の持つ重みを是非忘れずにいてほしいと感じるところです。
カテゴリー:社会・経済
1 Comments:
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赤旗 2019/6/30
ブログの記事主はMMTを理解していないが添付された赤旗の記事自体はフェアだ
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