水曜日, 4月 01, 2020

感染症の世界史



感染症の世界史

終章 今後、感染症との激戦が予想される地域は?

 感染症の巣窟になりうる中国
 今後の人類と感染症の戦いを予想するうえで、もっとも激戦が予想されるのがお隣の中国と、人類発祥地で多くの感染症の生まれ故郷でもあるアフリカであろう。いずれも、公衆衛生上の深刻な問題を抱えている。
 とくに、中国はこれまでも、何度となく世界を巻き込んだパンデミックの震源地になってきた。過去三回発生したペストの世界的流行も、繰り返し世界を巻き込んできた新型のインフルエンザも、近年急速に進歩をとげた遺伝子の分析から中国が起源とみられる。

 一三億四〇〇〇万人を超える人口が、経済力の向上にともなって国内外を盛んに動き回るようになってきた。春節(旧暦の正月)前後にはのべ約三億人が国内を旅行し、年間にのべ一億人が海外に出かける。最近の一二年間で一〇倍にもふくれあがった大移動が、国内外に感染を広げる下地になっている。
 中国国内の防疫体制は遅れている。世界保健機関(WHO)とユニセフの共同調査によると、上水道と下水道が利用できない人口は、それぞれ三億人と七億五〇〇〇万人に達する。慢性的な大気や水質の汚染の悪化から、呼吸器が損傷して病原体が体内に侵入しやすくなり、水からの感染の危険性も高い。
 大気汚染は日本にも影響をおよぼしはじめている。大分県立看護大学の市瀬孝道教授は、偏西風に乗って中国大陸からやってくる黄砂や汚染大気が、五〇〇種類以上の微生物や金属性微細物なども運んでくると警告している。現実にカリブ海の国々では、春先に大西洋を越えてサハラ砂漠からはるばる飛来する砂塵に含まれるカビの一種アスペルギルスによって、喘息患者が増えている。


【終章】・飯島渉『感染症の中国史─公衆衛生と東アジア』中公新書二〇〇九・エド・レジス(渡辺政隆訳)『ウイルス・ハンター─CDCの疫学者たちと謎の伝染病を追う』早川書房一九九七・ジョーゼフ・B・マコーミック、スーザン・フィッシャー=ホウク(武者圭子訳)『レベル4致死性ウイルス』早川書房一九九八・中島捷久、澤井仁『動物ウイルスが人間を襲う!─エイズ、鳥インフルエンザ、サーズ……』PHP研究所二〇〇六・ローリー・ギャレット(山内一也、野中浩一、大西正夫訳)『カミング・プレイグ─迫りくる病原体の恐怖』(上・下)河出書房新社二〇〇〇

本書は『感染症の世界史』(洋泉社、二〇一四年)を加筆修正のうえ、文庫化したものです。


感染症の世界史
石弘之
平成30年1月25日発行(C)HiroyukiIshi2014,2018
本電子書籍は下記にもとづいて制作しました
角川ソフィア文庫『感染症の世界史』平成30年1月25日初版発行
発行者郡司聡

発行株式会社KADOKAWA