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――インフレ率はうまくコントロールできますか。
「MMTでは、国内政策における優先事項は何かを考えて、新たな財政支出を出しますが、その際、インフレのリスクを考えます。インフレがどの程度になるか、経済がその需要を処理できるか考えます。仮にある政策でインフレ率が3%になるのであれば、どの程度の増税が必要かを考えておきます」
――そういった数値はどのように測るのでしょう。
「難しいところです。1兆ドルのインフラ投資は1兆ドルの減税とは違います。大企業や富裕層向けの減税は、少ししか消費に回らないので、インフレのリスクが少ないと言えます。一方、中間層や低所得者層に減税をしたら減税分を消費に回すので、インフレリスクは高まります。財政支出をする際には、それがもたらす影響を、深く分析することが求められます」(聞き手・寺西和男、笠井哲也)
7月16日には、MMTの提唱者のひとり・ステファニー・ケルトン教授が来日して、シンポジウムが開催されました。
もっとも、日本では、相変わらず、MMTの批判の声ばかり。
MMTは「自国通貨を発行できる政府はデフォルト(財政破綻)しないので、高インフレでない限り、財政赤字を拡大してよい」と論じています。
もっとも、これは、単なる「事実」を語っているに過ぎません。
通貨を発行できる政府が、自国通貨建ての国債を返済できるなんて、当たり前の「事実」です。アルゼンチンなどデフォルトの事例はありますが、それは外貨建て国債に関するものです。
ちなみに、財務省ですらも、この「事実」を認めています。
平成14年、財務省は、日本国債の格付けを引き下げた海外の格付け会社に対して、質問状を発出しました。そこには、こう書かれています。
(1) 日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない。デフォルトとして如何なる事態を
想定しているのか。(※財務省HP参照)
MMTは、この「事実」を指摘しただけなのです。
MMT批判者たちも、さすがに「事実」を否定するわけにもいかない。
そこで、彼らは、まるで示し合わせたかのように、こうMMTを批判し始めました。
「いったん、財政赤字の拡大を許したら、インフレが止まらなくなる。その時、政府は、インフレを制御できなくなる。なぜなら、増税や歳出削減は、政治的に難しいからだ。それが、歴史の教訓だ!」
みんなで口をそろえて、こう批判するものですから、「確かに、そうかもしれないな」と思った方もおられるかもしれません。
しかし、実は、この「財政赤字を拡大したら、インフレが制御できなくなる」というのもまた、「事実」に反しているのです。
そもそも、インフレが制御できなくなりハイパーインフレになったという事例は、戦争(第一次世界大戦後のドイツなど)、独裁政権によるデタラメな政策(ジンバブエのムガベ政権)、社会主義から資本主義への移行に伴う混乱(旧ソ連諸国)、経済制裁(現在のイランなど)など、政治的に極めて異常な事態になったレアケースに限られます。
いずれも、「財政赤字の拡大が止まらなくなった」というのとは違います。
また、1970年代の先進諸国における高インフレも、財政赤字の過剰な拡大というよりは、石油危機が主な原因でしょう。
しかも、その高インフレも1980年代には収まり、それ以降、今日まで低インフレが続いています。戦後の先進諸国の中で、インフレを制御できなくなった国はありません。
これは「事実」です。
念のため、日本についても、確認しておきましょう。
戦時中から終戦直後の日本は、確かに高インフレに苦しみました。
しかし、その原因は、空襲により供給能力が破壊されていたことに加え、戦時中は軍事支出、戦後は復員軍人への給与、発注済みの軍需品に対する支払いや損失補償があったために、財政支出が膨張したせいです。
要するに、高インフレの原因は、戦争という特殊事情だったということです。
なお、1944年当時の対GNP比の政府債務残高は、204%でした。
現在の日本の対GDP比政府債務残高は230%を超えており、1944年当時を上回っています。
それなのに、今の日本は、1944年当時とは逆に、デフレです。
これらの「事実」が示すのは、「政府債務残高の数値の大きさ自体は、インフレとは関係ない」ということです。
ちなみに、この終戦後の高インフレは、ドッジ・ライン(占領軍による厳しい緊縮財政)によって収束したと言われますが、日本経済史の大家である中村隆英先生によれば、ドッジ・ラインの前に、インフレ収束の条件はすでに整っていました。
さて、高インフレは、1970年代にも、大きな問題となりました。
この時の高インフレの主な原因は、石油危機です。
もっとも、1970年代初頭は、田中角栄内閣が「列島改造」を掲げて公共事業費を拡大しており、インフレ気味だったのも事実です。
そこへ石油危機が襲いかかったので、いわゆる「狂乱物価」となったわけです。
1973年度のインフレ率は卸売物価で22.6%、消費者物価で16.1%となり、さらに1974年度には、卸売物価で20.1%、消費者物価で20.9%にまで上昇しました。
しかし、当時の日本政府は、この高インフレをすぐに鎮静化させるのに成功しました。しかも、欧米諸国よりも早く、鎮静化してみせたのです。
まず、日本銀行が金融引き締めを行い、次に、政府が財政支出の繰り延べを行いました。加えて、労働組合は賃上げを自粛し、企業は経営合理化に努めました。
当時の政府は、1975年度のインフレ率(消費者物価)を15%、1976年度には一桁台にするという目標を立てていましたが、実績はそれぞれ14.2%、8.8%と、見事にクリアしたのです。
その後は、二度目の石油危機が起きたために、1979年頃に再び高インフレとなりましたが、これもすぐに鎮静化し、それ以降、日本経済は、今日まで高インフレを経験していません。
<参考>http://www.esri.go.jp/jp/prj/sbubble/history/history_01/analysis_01_01_02.pdf
このように、昭和の歴史の「事実」は、「日本政府には、インフレを抑制する高い能力がある」ということを示しているではありませんか!
さらに、平成の歴史の「事実」は、「政府債務が累積し続けたけれども、財政破綻はしなかったし、インフレにもならなかった」ということを示しています。
このようにMMTが示しているのは、徹頭徹尾、単なる「事実」なのです。
この「事実」に基づけば、現在の日本はデフレですから、財政赤字を気にせずに、財政支出を拡大できるということになります。
もちろん、消費増税は、必要ありません。
国民は、無理をして苦しい生活を耐える必要はないのです。
それどころか、貧困対策、教育、研究開発、インフラ整備など、いろんなことに国家予算を使う余地がたっぷりあるのです。
もちろん、デフレ脱却も実現できます。
なんと素晴らしいことでしょう。
だとしたら、どうしてMMTは、こんなにも批判を浴びているのでしょうか?
どうして、二十年間もデフレなのに、インフレが制御不能になることを心配するなどという、恥ずかしいことをやっているのでしょうか。
それは、MMTが示した「事実」を、国民に知られては困る人たちがいるからなのです。
いったい、それは誰なのか。
彼らは、どうして国民が「事実」を知るのを恐れているのか。
その謎は、『全国民が読んだら歴史が変わる 奇跡の経済教室【戦略編】』を読めば、明らかとなるでしょう。
ちなみに、本書は、陰謀説の本ではありませんよ、念のため。
判型:四六
刊行年:2019年7月8日
ISBNコード:978-4584139066
経済学者・官僚がこっそり読んだ『奇跡の経済教室』待望の第2弾。政治家に読ませたい本No.1!世界で起きている変化、日本がとるべき戦略が面白いほど見えてくる!全米騒然・日本上陸のMMT(現代貨幣理論)がよく分かる特別付録つき。
財政赤字の拡大を容認する「異端」の理論として議論を呼ぶ「MMT」(Modern Monetary Theory=現代金融理論、現代貨幣理論)。米国発のこの理論の提唱者の一人、ニューヨーク州立大のステファニー・ケルトン教授が来日し、朝日新聞の単独インタビューに応じた。財政赤字の拡大を問題視する主流派経済学者を批判し、MMTでは税収による予算の制約がなく、教育や社会保障を充実できるとする。さらに巨額の政府債務を抱える日本の政策については、消費増税を否定し、国債は日本銀行が全て買い入れられる、という。MMTの「伝道師」の主張の全体像とは。
――日本や米国では、MMTが若者から支持を受けています。
「若い世代は、MMTを『Yes,We can』と言うための有効な理論として考えているのではないでしょうか。国の債務を気にして、これもできない、あれもできないと言われてきた。それがMMTを通じて、できるようになると気づいたのだと思います」
「MMTを一文で言い表すと『人工的な予算制約をインフレ制約に変える』です。予算の規模は必要に応じて柔軟に考える。部屋にある空調のダイヤルのようなものです。快適に感じるまでダイヤルを回す。そのとき、数値は気にしない。快適になるまで回す。それが予算です」
――米国ではMMTが左派陣営から支持されていますが、日本では一部の与党議員も支持しています。
「MMTは、特定の主義に偏ったものではありません。MMTの枠組みを使えば、トランプ大統領がやったような減税を正当化することもできるでしょうし、左派なら教育や社会保障にお金を回すこともできるでしょう。MMTはいわば、ものごとをより筋道を立てて見るための『メガネ』です。国の債務が問題だという見方に対して、違った政策手段を提示しています」
――MMTが政策を示しているわけではないと。
「MMTは、人びとの理解を助けるものです。金の保有量に応じて予算を制約するような、金本位制の時代のように考えるのをやめましょう、ということです。いまは固定相場制ではないのです。法定紙幣がある世界では、政府予算に財政的な制約はありません」
――日本政府が10月に予定する消費税率引き上げには否定的ですね。
「消費税を引き上げる目的は、消費支出を抑制するためです。もし消費が旺盛でインフレ圧力がかかっているのであれば、人びとからお金を吸い上げるという意味で効果があります。でも、日本はそのような状況にありませんよね。消費増税が必要な経済環境にはないと思います」
――国際通貨基金(IMF)や経済協力開発機構(OECD)は、巨額の政府債務を抱える日本に消費増税を提案しています。
「(IMFやOECDの)両組織とも、人よりも予算を優先させてきた歴史があります。それによって、多くの国々で人びとの生活を破壊してきました」
――積み上がった国の債務は返す必要がないのでしょうか。将来世代へのツケになりませんか。
「では今の世代が前の世代の借金を返しましたか? その前の世代は? ノーです。国の『債務』という言葉を使いますが、これは見方を変えれば、国民の『貯蓄』です。単に国債という形で持たれている円(お金)です。国民の資産であり、富の一部です」
「将来、すべての債務が返されるか。しないでしょう。日本銀行は約40%の国債を保有していますが、キーボードのボタンを押すだけで明日にも無くすことができます。それは事実です。政府は日銀に利息を支払い、日銀は利息の収益を国庫に返します。だから日銀がいったん国債を買えば、それらは効果的に償還できます。買う量に制約はありません。買いたければ全ての国債を明日にでも買えます。国債を将来、返すことができるかなどと心配する必要はありません」
――債務が返されないのであれば政府の市場での信用が失われ、国債を買う人がいなくなるのでは。
「そうですか? それなら、日銀が全て買い上げればいいでしょう。大丈夫です。リスクはありません。実際、日銀はどんな年限の国債も無制限に買い入れますと公表することによって、短期国債だけでなく、長期国債の金利まで上手にコントロールしていますよね」
「買い手がいない国債を市場に売りに出す必要もありませんし、売らなくていい。それは政治的な判断です。国債は贈り物(ギフト)ですから。仮に政府が100ドルの財政支出を行い、90ドルを税で引き上げたとすると、10ドルが市中に残ります。これは現金として保有してもいいし、国債を買ってもいい。それは選べます。政府は現金に代わるものとして国債の保有者に利息という補助金を提供していますが、それをしなければならない必要はありません」
――インフレ率はうまくコントロールできますか。
「MMTでは、国内政策における優先事項は何かを考えて、新たな財政支出を出しますが、その際、インフレのリスクを考えます。インフレがどの程度になるか、経済がその需要を処理できるか考えます。仮にある政策でインフレ率が3%になるのであれば、どの程度の増税が必要かを考えておきます」
――そういった数値はどのように測るのでしょう。
「難しいところです。1兆ドルのインフラ投資は1兆ドルの減税とは違います。大企業や富裕層向けの減税は、少ししか消費に回らないので、インフレのリスクが少ないと言えます。一方、中間層や低所得者層に減税をしたら減税分を消費に回すので、インフレリスクは高まります。財政支出をする際には、それがもたらす影響を、深く分析することが求められます」(聞き手・寺西和男、笠井哲也)
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