賛否両論「MMT」は「日銀・財務省」失策の劇薬となるか フォーサイト-新潮社ニュースマガジン
鷲尾 香一
現代貨幣理論(MMT:Modern Monetary Theory)という新たな経済理論が、世界の経済関係者の間で話題となっている。MMTの最大の特徴が、「財政赤字に問題はなく、政府が財政再建を行わなくとも、財政破綻をすることはない」という考え方で、その成功例として、政府債務がGDP(国内総生産)の240%にも達しながらインフレにも陥らず、財政破綻もしていない“日本”が取り上げられているためだ。
そもそもMMTは、米国の経済関係者の間で大きな議論を巻き起こした。MMTの提唱者の1人である米ニューヨーク州立大のステファニー・ケルトン教授は、バーニー・サンダース上院議員が2016年の米大統領選民主党候補指名争いに立候補した際、経済アドバイザーとなったことで注目された。さらに、2018年11月の選挙で、米国で史上最年少の女性下院議員となった民主党のアレクサンドリア・オカシオ・コルテス議員が支持したことで、MMTは脚光を浴びることになった。
通貨を発行して支払いを行えばよい
では、MMTとはどのような理論なのか。本稿は、MMTの経済理論の是非を議論することが目的ではないので、理論の骨格だけを説明することにする。
MMTは完全雇用の達成を重視し、目標に置く。その理論には(1)財政(2)中央銀行(3)税収(税金)(4)雇用―など、いくつかのポイントがある。
まず、財政についてだが、MMTでは、不況期には政府が借金をしても(財政赤字でも)、政府支出を増加させることで資金が民間に回り、景気が回復すると考える。不況時の財政黒字は、民間に資金が回っていないことを意味し、不況時に財政支出を行わないと、不況は一段と深刻化するという考え方だ。これは現在の主流派経済学の財政政策の考え方と重複する部分もあり、大きな相違はない。
しかしMMTでは、「政府債務がどれだけ膨らんで、財政赤字となろうとも、財政再建を行わなくとも、債務不履行に陥ることはない」と理論付けている。その根拠となっているのが、「政府は“通貨発行権”を持っており、いくらでも通貨を供給できるため、債務の期限が到来した場合には、通貨を発行して支払いを行えばよい」との考えだ。
これは、政府が国債を発行して必要額を賄うという「財政ファイナンス」の考え方と同じもの。現在の主流派経済学において財政ファイナンスは、増税なしで生活が潤うことを欲する国民に対するウケの良さだけを狙う「ポピュリズム的」な政策に利用されやすく、インフレの加速を招き、結果として国債価値の暴落によって通貨価値を毀損し、財政破綻のリスクを高める、と考えられている。
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