日曜日, 7月 14, 2019

賛否両論「MMT」は「日銀・財務省」失策の劇薬となるか フォーサイト-新潮社 ニュースマガジン 鷲尾 香一 2019/7/9


賛否両論「MMT」は「日銀・財務省」失策の劇薬となるか  フォーサイト-新潮社ニュースマガジン

鷲尾 香一

https://www.jiji.com/jc/v4?id=foresight_00270_201907090001

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鷲尾 香一

 現代貨幣理論(MMT:Modern Monetary Theory)という新たな経済理論が、世界の経済関係者の間で話題となっている。MMTの最大の特徴が、「財政赤字に問題はなく、政府が財政再建を行わなくとも、財政破綻をすることはない」という考え方で、その成功例として、政府債務がGDP(国内総生産)の240%にも達しながらインフレにも陥らず、財政破綻もしていない“日本”が取り上げられているためだ。

 そもそもMMTは、米国の経済関係者の間で大きな議論を巻き起こした。MMTの提唱者の1人である米ニューヨーク州立大のステファニー・ケルトン教授は、バーニー・サンダース上院議員が2016年の米大統領選民主党候補指名争いに立候補した際、経済アドバイザーとなったことで注目された。さらに、2018年11月の選挙で、米国で史上最年少の女性下院議員となった民主党のアレクサンドリア・オカシオ・コルテス議員が支持したことで、MMTは脚光を浴びることになった。

通貨を発行して支払いを行えばよい
 では、MMTとはどのような理論なのか。本稿は、MMTの経済理論の是非を議論することが目的ではないので、理論の骨格だけを説明することにする。

 MMTは完全雇用の達成を重視し、目標に置く。その理論には(1)財政(2)中央銀行(3)税収(税金)(4)雇用―など、いくつかのポイントがある。

 まず、財政についてだが、MMTでは、不況期には政府が借金をしても(財政赤字でも)、政府支出を増加させることで資金が民間に回り、景気が回復すると考える。不況時の財政黒字は、民間に資金が回っていないことを意味し、不況時に財政支出を行わないと、不況は一段と深刻化するという考え方だ。これは現在の主流派経済学の財政政策の考え方と重複する部分もあり、大きな相違はない。

 しかしMMTでは、「政府債務がどれだけ膨らんで、財政赤字となろうとも、財政再建を行わなくとも、債務不履行に陥ることはない」と理論付けている。その根拠となっているのが、「政府は“通貨発行権”を持っており、いくらでも通貨を供給できるため、債務の期限が到来した場合には、通貨を発行して支払いを行えばよい」との考えだ。

 これは、政府が国債を発行して必要額を賄うという「財政ファイナンス」の考え方と同じもの。現在の主流派経済学において財政ファイナンスは、増税なしで生活が潤うことを欲する国民に対するウケの良さだけを狙う「ポピュリズム的」な政策に利用されやすく、インフレの加速を招き、結果として国債価値の暴落によって通貨価値を毀損し、財政破綻のリスクを高める、と考えられている。

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「財政ファイナンス」との違い

 そこでポイントになるのが、(2)の中央銀行だ。通常、財政ファイナンスでは、政府の発行する国債を、市場を通さずに中央銀行が直接引き受け、通貨を増刷して代金を支払うことになるが、MMTでは政府と中央銀行を統合した「統合政府」との考え方を取っており、政府が自ら通貨を発行するため、中央銀行の役割は非常に小さく、そして中央銀行の“独立性”は軽視されている。

 また、中央銀行(日本銀行など)は物価水準を政策目標としているが、MMTにおいて物価水準は、中央銀行が金融政策でコントロールするのではなく、政府の経済政策でコントロールするものと位置づけられている。

 次にMMTで重要な役割を担っているのが(3)の税金だ。MMTでは、不況時に支出された財政資金は、好況時に徴税(税金)を通じて回収されるとしており、景気の状況に応じて税率を変更するという考え方をしている。これは、税金が物価のコントロールにも使われることを意味する。

 例えばデフレ経済下であれば、減税を積極的に行うことで、財政出動と相まって景気を回復できるとする。好況時にインフレ状態になれば、増税を行うことで景気を冷え込ませ、財政出動分を回収するという。

 例えば、前出のニューヨーク州立大のケルトン教授は、『日本経済新聞』の取材で、日本はインフレを極端に恐れているが、デフレ脱却には財政支出の拡大が必要という旨の発言をしている。

 また、MIT(マサチューセッツ工科大)のオリビエ・ブランシャール名誉教授は今年5月に発表した政策提言で、「日本は財政均衡を忘れて、無限の将来まで財政赤字を出すべき」とし、「10 月から予定されている消費税率の引き上げを中止する代わりに、新たな財政政策で財政赤字を増やすよう」提言している。

 そして最後のポイントが(4)の雇用だ。前述の通り、MMTの目標は完全雇用にある。MMTでは、政府が労働市場に直接介入することにより、完全雇用を達成するべきとしており、政府が希望者全員に一定の賃金水準で仕事を提供するプログラムの導入を提案している。

 これにより、不況時には希望者への仕事の提供で財政支出は増えるが、好況時には財政支出は減少するとする。そして、MMTの考え方によれば、インフレは完全雇用が達成されることにより発生するものではあるけれど、むしろ完全雇用の状態に達すればもはや財政支出は必要なくなるため、インフレは起こらないとしている。


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日本にあてはまるかは疑問

 以上がMMTの理論の主な骨格だ。もう1つ付け加えれば、自国に通貨発行権があることや自国通貨建て国債を発行していることなど、限定された前提条件が必要になる。そのため、日本と同様に巨額の財政赤字が原因で債務危機に陥ったギリシャは、欧州共通通貨のユーロを通貨としており、MMTにはあてはまらない。また、国債デフォルトを経験したアルゼンチンもドル建て国債を発行しているため、MMTにあてはまらない。

 確かに、MMTが成功例としてあげたように、日本は巨額の財政赤字を抱え、財政再建が進んでいないものの、財政破綻の兆しはない。

 しかし、その半面、日本は巨額の財政赤字を抱えるほどの財政出動を行い、さらに、少子高齢化の影響もあり、人手不足でほぼ完全雇用が達成されている状況にもかかわらず、物価が上昇しインフレとなる兆しもない。こうした状況を考えれば、MMTが日本にあてはまるという点は、いささか疑問を持たざるを得ない。

 また、独裁政権ではなく、国家が議会制を採っている場合には、MMTが経済政策の手段としてあげる財政支出や税率の柔軟な変更は、かなり困難だ。財政は年度予算として議会の承認を得ており、たとえば日本の場合には、景気対策の補正予算ですらかなりの時間をかけて議会の承認を得る必要があるし、物価のコントロールのために税制や税率を変更しようとすれば、それ以上の議論と時間が必要となるだろう。


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黒田総裁と麻生財務相の反応

 このように、MMTには様々な欠点もあり、ノーベル経済学賞受賞者の米プリンストン大ポール・クルーグマン名誉教授やFRB(米連邦準備制度理事会)のジェローム・パウエル議長、ローレンス・サマーズ元財務長官など現在の主流派経済学者は、MMTに疑問を呈してきている。米ハーバード大のケネス・ロゴフ教授に至っては、「MMTは経済理論とすら呼べない」と強烈な批判をしている。

 もちろん、MMTについては日本国内でも否定的な意見が多い。

 5月17日に日本銀行の黒田東彦総裁が都内で講演し、MMTについて「正しい理論とは思わないし、日本はやっていない」と否定的な見解を示した。さらに、「MMTの解釈次第だが、無制限に財政ファイナンスをしてよいというのは必ず高インフレをもたらす」と述べた。

 また、麻生太郎財務相は6月3日、国会でMMTについて質問され、「そういった説を知らないわけではないが、理論というべきかどうかも分からない、1つの理屈だ」と答弁している。

 だが、これらMMTについての見解に対して筆者が懸念するのは、黒田日銀総裁にしろ、麻生財務相にしろ、MMTの「財政赤字に問題はなく、政府は財政再建を行わなくとも、財政破綻をすることはない」という部分にのみ焦点を当て、「財政ファンナンス」関連として捉えて否定している点だ。少なくとも、MMTの雇用や物価、税金の考え方に関連したコメントはしていない。そして、これらの否定コメントの背後には意図したものを見て取れる。

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自分の立場を固持しているだけ

 黒田総裁の場合には、現在の日銀が「財政ファイナンス」に非常に近い役割を行っているとしても、MMTが中央銀行の役割や独立性を軽視している点で、これを認めるわけにはいかなかったのだろう。

 そして麻生財務相が痛烈な言葉で否定した背景には、MITのブランシャール名誉教授がMMTを根拠に消費税率の引き上げを中止するよう提言したこともあるのではないか。それは、麻生財務相が続けて述べた「消費増税は社会保障体制の維持に必要で、さらに延期すれば、国債の格付けが下がるぐらいのことは覚悟しておいてもらわなければならない」という言葉にも表れている。

  中央銀行の存在価値を守りたい黒田総裁と、何としても消費税率を引き上げたい麻生財務相のMMTを否定する見解は、少なくともMMTを経済理論として吟味した上でのものではなく、自分の立場を固持しているだけのように、筆者には映る。

 日本をデフレ経済から脱却させ、景気を回復するとして始まったリフレ政策に効果がなく、失敗に終わったことを考えれば、経済政策の当事者は、自らの考え、立場を否定するような理論であっても、その理論を真摯に学び、検討するべきではないだろうか。(2019年7月)



925 金持ち名無しさん、貧乏名無しさん (ワッチョイ 17c9-TPoM)[sage] 2019/07/14(日) 15:59:09.22  ID:lGUpnCRO0 

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通貨を発行して支払いを行えばよい

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「財政ファイナンス」との違い

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日本にあてはまるかは疑問

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黒田総裁と麻生財務相の反応

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自分の立場を固持しているだけ

 黒田総裁の場合には、現在の日銀が「財政ファイナンス」に非常に近い役割を行っているとしても、

MMTが中央銀行の役割や独立性を軽視している点で、これを認めるわけにはいかなかったのだろう。

 そして麻生財務相が痛烈な言葉で否定した背景には、MITのブランシャール名誉教授がMMTを

根拠に消費税率の引き上げを中止するよう提言したこともあるのではないか。それは、麻生財務相

が続けて述べた「消費増税は社会保障体制の維持に必要で、さらに延期すれば、国債の格付け

が下がるぐらいのことは覚悟しておいてもらわなければならない」という言葉にも表れている。

  中央銀行の存在価値を守りたい黒田総裁と、何としても消費税率を引き上げたい麻生財務相

のMMTを否定する見解は、少なくともMMTを経済理論として吟味した上でのものではなく、自分の

立場を固持しているだけのように、筆者には映る。