エレン・ブラウン女史が語る、「MMT実証国」の日本に消費増税が不要な理由
エレン・ブラウン/米・公共銀行制度研究所会長 インタビュー
米国でベストセラーとなった『負債の網』の著者エレン・ブラウン氏は、公共銀行制度研究所(Public Bank Institute)の会長であり、その鋭い論評は全米で注目を集めている。日米で議論が盛り上がっている「現代貨幣理論」(Modern Monetary Theory=MMT)と、アベノミクスのこれからについて聞いた。(聞き手:国際ジャーナリスト・翻訳家 大地 舜)
日本はMMTの
正しさを証明している
──日本のように自国の通貨で国債を発行できる国は、インフレにならない限り、財政赤字をいくら増やしてもよいと、現代貨幣理論は主張しています。提唱者の一人である、ステファニー・ケルトン・ニューヨーク州立大学教授は、「MMTの正しさは日本で実証されている」と言うのですが、いかがでしょう。
日本では、財政赤字が国内総生産の240%になってもインフレが起こっていませんから、その意味でMMTの考え方の正しさを証明しています。
──ノーベル賞を受賞した経済学者のポール・クルーグマン氏は、MMTが急激なインフレを引き起こすと警戒しています。
もちろんその可能性があるので、財政赤字の行き過ぎは勧められません。しかし日本はインフレ目標の2%の半分ぐらいしか物価が上昇していませんね。まだまだ財政出動の余裕があることになります。
──日本の財政赤字は1100兆円を超えていますが。
日本銀行が国債の40%以上を購入していますね。国が発行した国債を、日銀が買い戻したので、政府が買い戻したことになります。例えば私に住宅ローンがあったとして、それを買い取ってしまえば、借金を返したことになります。ということは、日本の実際の財政赤字は40%以上も縮小されているのです。日銀は帳簿の上で、債務を帳消しにするだけでよいことになります。従って、もっと財政出動ができます。
──MMTが話題になったのは米国でした。民主党の大統領候補のバーニー・サンダース上院議員が「国民皆雇用」「国民皆保険」を実現すると公約し、若手のアレクサンドラ・オカシオ・コルテス下院議員が、国家が大胆に財政出動して社会保障や温暖化対策をするという「グリーン・ニューディール政策」の議案を提出しました。米国においてMMTの考え方が採用される可能性は高いのでしょうか。
理論的には可能ですが、簡単ではありません。
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エレン・ブラウン/米・公共銀行制度研究所会長 インタビュー
──たとえば?
1つは米国の中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)の独立性が極めて高いことです。FRBは経済政策において政府や議会を超える権力を持っています。なにしろ国民から選ばれた政治家たちの意向を無視できるのですから。
米大統領はFRBを
コントロールできない
──トランプ大統領はFRBにもっと利下げしろと、命令しているようにもみえますが。
それは米国の景気が悪くなったときに、「それ見たことか、俺が警告しただろう」と言いたいだけで、大統領にFRBをコントロールする権力はありません。
──どういうことでしょう。
FRBの理事などを選ぶには上院による推薦と承認が必要なので、FRBは政府機関の一面を持っています。しかし実際に金融政策を決めるのは、FRBの配下にある連邦公開市場委員会(FOMC)であり、ここで議決権を持つのはFRBの理事7人と、12の連邦銀行の頭取たちの中の5人です。FRBを支える12の連邦銀行の株主は大銀行で、米国政府は株をまったく所有していません。つまりFRBの実権は大銀行が握っており、独立性が極めて高いのです。
──それは中立性が高いということでしょうか。
違います。FRBも連邦公開市場委員会も、大銀行の利益を第一にしています。FRBには連邦準備制度という名前がついていますが、これは銀行が破綻したときに銀行を救済するための組織であることを示しています。
──日本では政府が日本銀行の株を55%所有していますから、だいぶ形態が違うのですね。
日本の法律では金融政策を立案するとき、日銀と財務省が協力することになっています。米国では、FRBが連邦公開市場委員会を使って金融政策を決めますが、政府や議会は関与できません。
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──そうなると、バーニー・サンダース上院議員の福祉政策やアレクサンドラ・オカシオ・コルテス女史の「グリーン・ニューデール政策」の資金を、FRBが捻出してくれる可能性は低そうですね。
不可能ではありません。日本銀行のようにFRBが米国の負債の40%を買い取ってしまえばよいのです。日本の例を見ると、このレベルのお金を市場に放出するという量的緩和をしても、インフレは起きていません。
──なるほど……。
ほかにもいろいろ方法は考えられます。その1つは1930年代の大恐慌のときにとられた方法です。フーバー大統領が「復興金融公社」という政府の金融機関を造りました。この公社は銀行に融資するために創られましたが、当時、銀行が必要としていたのは、資金よりもお金を借りてくれる顧客でした。そこでこの公社は、機能していなかったのです。ところが、フランクリン・ルーズベルト大統領が、この公社を開発銀行のように使い、ニューデール政策を推進しました。
──なるほど、公共銀行ですね。そういえばアレクサンドラ・オカシオ・コルテス女史の「グリーン・ニューデール政策」には、公共銀行をたくさん造って、ネットワークさせるという案が述べられていますね。
そうです。最近の若い人たちは有能で、よく勉強しています。
──「復興金融公社」はうまく機能したのでしょうか。
復興金融公社が
大成功を収めた理由
30年代の大恐慌の後、25年間活躍しましたが、その間に、米国の住宅や道路、橋、大学、農業、電力などの必要なプロジェクトに融資をして、国を再建させました。さらに40年代になると第2次世界大戦を戦うために必要なさまざまなプロジェクトに融資を行ない、大成功を収めています。当時は米国最大の会社で、世界最大の金融機関でした。最終的に「復興金融公社」は銀行の機能を使って大きな利益をあげています。
──最初の資金調達はどうしたのでしょう。
復興金融公社は公債を発行して、お金を集めましたが、そのほとんどを米国政府が購入しています。当時は大恐慌の後ですから、民間にお金がなかったのです。
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──現在の米国にはノースダコタ州立銀行しか公共銀行がないそうですが、復興金融公社はどうなったのでしょう。
アイゼンハワーの時代に解散されました。
──なぜでしょう。
あまりに成功して利益が出たので、民間銀行の仕事を奪っているとされたのです。そこで解体され、民間銀行にすべてが任されることになりました。
必要なお金は
政府が自ら刷ればよい
──米国政府の財政赤字も多大ですが、なぜ日本のように負債を買い取って、帳消しにしないのでしょうか?
そもそも、政府が利子付きの国債を発行して、民間に購入させるという考え方が間違っています。これでは利子の支払いが増えるだけです。
──根本的な問題はどこにあるのでしょう。
国債を発行して負債を増やすのではなく、必要なお金は政府がみずから刷ればよいのです。あるいは日本のように政府の一部である日銀が、ほとんどの国債を買い取ればよいのです。
──その方法をとると、政治家が人気取り政策をとり、お金をどんどん刷り、急激なインフレ(ハイパーインフレーション)になる危険があるというのが定説ですが。
ミズーリー大学のマイケル・ハドソン教授は、ハイパーインフレの権威ですが、彼によると「政府が経済を刺激するためにお金を市場に投入したことで起こったハイパーインフレーションは存在しない」そうです。ハイパーインフレーションを起こすのは、海外債務が増えすぎて為替レートが暴落するときと、戦争により外貨が不足して、国内でお金をたくさん刷り過ぎるときです。
米国の歴史を見ても、ベンジャミン・フランクリンの時代の米国植民地や、リンカーン大統領の時代にも、政府が紙幣を刷って、見事な経済成長を遂げています。第2次世界大戦前のドイツや日本も素晴らしい経済成長を遂げましたが、政府と中央銀行が一体化していたためです。現在の中国では、政府が中央銀行を使って必要なお金を創り出すことで、急成長を達成しています。
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──政府がお金を刷ればよいわけですね。
もう1つ大事なのは、お金が誰によって、どのように創られているかを知ることです。流通しているお金の95%以上を民間銀行が創っています。銀行にお金を借りると、私たちの銀行口座に数字が書き込まれますよね、それが生まれたお金なのです。銀行が大金を持っているわけではなく、数字を書き込むだけです。それでお金が生まれます。
つまり銀行は、マジックのように無から有を生み出しています。銀行はこのようなマジックを行ってよいと、国家によって許可されているわけです。お金を創るのはもともと国家の仕事ですが、現代の多くの国では民間銀行に任されています。借りたお金には利子が付きますが、利子の分のお金は創られていません。そこで現在、流通しているお金の中から利子を払わなくてはなりません。つまり世の中では常にお金が不足しているので、競争が生まれます。
──利子が諸悪の根源ですか。
そうはいいません。利子や複利は5000年前のシュメール文明の時代から存在しています。当時は年利30%でしたが、ジブリという救済処置がとられました。たとえば支配者が替わると、それまでの借金を返さなくてよいとされます。当時の貸主は神殿(神)や支配者でしたから、そのような救済ができました。現代では民間銀行から借金するので、救済してもらえないわけです。
アベノミクスは
成功しているのか
──ところで、現在までのアベノミクスをどう評価されますか。
第一の矢である金融緩和策は成功しましたね。第二の矢である財政出動は不十分でしょう。もっとお金を消費者のポケットに入れてあげる必要があります。お金を使う人がもっと増えないと、第三の矢である企業活動にも活気が生まれないでしょう。
──どうしたら消費者のポケットにお金を入れることができるのでしょう。
日本はほぼ完全雇用なので、仕事を増やすために政府のお金を使う必要はありません。そうなるとお金をつぎ込むのは、社会保障や幼児教育・大学教育の無料化、女性が働きやすい環境をつくることなどになるでしょう。投資してもすぐに利益の返ってこない分野にお金を使うべきです。
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ユニバーサル・ベーシック・
インカムの有効性
──日本銀行は株式や投信を購入して株式市場を支えていますが。
それも意味があるでしょう。株式市場が活性化するのは、見た目も良いですし。でも投資家にプラスになるだけで、ビジネスに刺激を与えるには至らないと思います。ビジネスに影響を与えるには、消費者にお金を与えることです。そうすればお金を使う人が増え、生産も活発になり、企業も研究開発などに熱心になるでしょう。
とにかく普通の人々のポケットにお金を入れることが大切です。お金持ちにお金を与えても、消費が増えることはないでしょう。
──具体的な政策としては何が考えられますか。
ユニバーサル・ベーシック・インカム(最低所得保障制度)も1つの選択肢です。
──民主党の大統領候補で、最近人気が出ているアンドリュー・ヤン氏の「自由の分配(Freedom Dividend)」の考え方ですね。米国の18歳から64歳の全ての国民に毎月1000ドルの配当を与えるという大胆な政策なので驚きました。日本人から見ると、働かないでお金をもらえると、人々が怠け者になるのではないかと危惧するのですが。
そんなことはないと思います。例えばお金持ちは、ベーシック・インカムを受け取っている状態ではないでしょうか? 働かなくても配当金とか利子で生活できるわけです。だからといって、彼らが怠け者になっているでしょうか? 今は一日中働いて疲れ果て、家に帰ったらビールを一杯飲んで一息つき、テレビを見るような人が多いと思いますが、もっと人生を楽しみ、やりたいことができるようになるので、社会の効率も高まるのではないでしょうか。
──なるほど。
世界中でベーシック・インカムの実験が行われていますが、アフリカやインドの例を見ると、前向きな効果があります。これまでお金を見たことがないような女性たちにベーシック・インカムを与えると、多くの女性は子どもたちや自分の教育、起業などにお金を使うという結果が出ています。
──安倍政権は、リーマンショックのような危機が訪れない限り、10月から消費税を10%に引き上げる方針です。これはベーシック・インカムとは正反対の政策に思えます。いかがですか。
中央銀行を民間企業が所有するようなお金の仕組みの下では、ほぼ10年ごとに金融危機が発生します。そろそろリーマンショックを超える巨大な金融危機が訪れるころです。
それはともかく日本の場合、英「フィナンシャル・タイムズ」紙が指摘するように、安倍政権は右手で街に出回るお金の量を増やし、左手で減らしているようです。
消費税を10%にするとデフレを生むことになります。むしろ金融取引税(金融機関による過度の投機が行われないように、投機的な金融取引に課税するもの。すでに多くの国で実施)を0.1%にした方が効果的だと思います。
米国ロサンゼルス出身の作家、司法弁護士、社会活動家。公共銀行制度研究所の創始者であり会長(http://www.publicbankinginstitute.org/)。『Web of Debt』(『負債の網』那須里山舎刊行)は米国でベストセラーとなり、『Public Bank Solution』(本邦未訳)では、公共銀行の必要性を説いている。最新刊は『Bank on the People』(本邦未訳)で、2019年6月1日に米国で出版された。民主的な経済を研究する「The Democracy Collaborative」のフェローでもある。ブログはEllenBrown.com。
1 Comments:
547 金持ち名無しさん、貧乏名無しさん (ワッチョイ bac9-8KU9)[sage] 2021/04/29(木) 04:35:00.56 ID:A/lRevoK0
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https://archive.vn/uw4La
銀行が大金を持っているわけではなく、数字を書き込むだけです。それでお金が生まれます。
つまり銀行は、マジックのように無から有を生み出しています。
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それはともかく日本の場合、英「フィナンシャル・タイムズ」紙が指摘するように、安倍政権は右手で街に出回るお金の量を増やし、左手で減らしているようです。
消費税を10%にするとデフレを生むことになります。
2020/07
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