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利潤の決定要因
[(1933) 1954]
単純化されたモデルにおける利潤の理論
まず最初に,政府支出と課税を無視することができる封鎖経済における利潤
の決定要因について考察しよう。そうすると,粗国民生産物は,(固定資本と
在庫への)粗投資と消費の合計に等しいであろう。事実上税金は支払われてい
ないので,粗国民生産物の価値は労働者と資本家の間で分割されるであろう。
労働者の所得は賃金と俸給から成る。資本家の所得,すなわち粗利潤は,減価
償却費,留保利潤, 配当,非法人企業からの収益の回収,地代および利子を含
んでいる。かくしてわれわれは, 資本家消費と労働者消費を区別して示した次
のような粗国民生産物の貸借対照表を得る。
粗利潤 粗投資
賃金と俸給 資本家消費
労働者消費
粗国民生産物 粗国民生産物
労働者は貯著しないという仮定を追加すれば, 労働者消費は彼らの所得に等し
くなる。このことから直接的に,次式を得る。
粗利潤 = 粗投資+資本家消費
この方程式は何を意味しているのであろうか。それは,ある期間の利潤が資
本家消費と投資を決定するということを意味しているのであろうか,あるいは
その逆のことを意味しているのであろうか。この疑問に対する回答は, これら
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の項目のうちどの項目が直接的に資本家の決意によって決定されるのかという
ことに依存している。ところで,資本家はある期間に前期より多く消費したり
投資したりすることを決意することはできるであろうが, より多くの利潤を獲
得しようと決意することができないことは明らかである。したがって,利潤を
決定するのは彼らの消費決意と投資決意であって,その逆ではない。
もし考察の対象を短期に限定するならば,資本家の投資と消費は過去に形成
された決意によって決定されると考えてよいであろう。 なぜなら, 投資注文の
実行には若干の時間を要し, また, 資本家の消費は一定の遅れを伴ってのみ影
響を及ぼす諸要素の変化に反応するからである。
もし資本家が常に前期に獲得した利潤と等しい額だけある期間中に消費した
り投資したりしようと決意しているならば, ある期間の利潤は前期の利潤に等
しいであろう。このような場合には利潤は一定額にとどまり,上述の方式を
解釈する問題は
その重要性を失うであろう。
実際にはそのようなこと
しかし,
はない。前期の利潤は資本家の消費と投資の重要な決定要因の1つであるが,
一般に資本家は前期に獲得した利潤額と正確に同じ額だけある期間中に消費し
たり投資したりしようとはしない。このことは, なぜ利潤が一定額にとどまる
ことなく時間を通じて変動
するかを説明
上述の議論には, 若干の限定が必要である。予期されなかった在庫の菩積や
取崩しのために,過去の投資決意がある期間内の投資を完全に決定するわけで
する。
はないであろう。しかしながら, この要因の重要性はしばしば過大評価されて
きたように思われる。
第2の限定は,消費と投資に関する決意が通常実質単位で行なわれ, その間
に価格が変化するかもしれないということである。たとえば, 1組の注文され
た資本設備は,現在ではそれが発注された時点に比べて高価になっているかも
しれないのである。この困難を切り抜けるために, 方程式の両辺は不変価格を
用いて計算されていると仮定するであろう。[呪注24]
いまや,次のように結論することができるであろう。すなわち, ある短期間
内の実質粗利潤は,在庫量の予期せざる変化による修正を受けつつ, 消費と投
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利潤の決定要因
第7章
資に関する過去に形成された資本家の決意によって決定されるのである。
以上で考察した問題を理解するために,いままで述べたことを若干異なった
視角から示しておくことは有益である。マルクスの「再生産表式」(schemes of
reproduction)に従って,経済全体を3つの部門に細分割するものとしよう。第
I部門は投資財生産部門であり,第Ⅱ部門は資本家用消費財生産部門であり,
第I部門は労働者用消費財生産部門である。第Ⅲ部門の資本家は,自らの部門
の労働者に賃金に相当する額の消費財を売った後になお,自らの部門の利潤に
等しい額の余剰消費財を手元に残すであろう。これらの財は第I部門と第II部
門の労働者に売られるであろうが,労働者は貯蓄をしないから,それは彼らの
所得に等しいであろう。かくして,総利潤は,第I部門の利潤,第II部門の利
潤およびこれら2つの部門の賃金の合計に等しいであろう。あるいは, 総利潤
はこれら2つの部門の生産物価値に, 換言すれば, 投資財と資本家用消費財の
生産物価値に等しいであろう。
もしすべての部門で利潤と賃金の間の分配が与えられているならば, 第I部
門と第II部門の生産が第III部門の生産をも決定するであろう。第Ⅲ部門の生産
水準は,その生産によって得られる利潤が第I部門と第II部門の賃金に等しく
なる点にまで拡張されるであろう。あるいは, 別の言い方をすれば, 第III部門
の雇用量と生産量は, この部門の生産量から同一部門の労働者が賃金で購入す
る部分を差し引いた残余が第I部門と第I部門の賃金に等しくなる点まで拡張
されるであろう。
上述の議論は,利潤理論における「分配要因」,すなわち(独占度のような)所
得分配を決定する要因の役割を明らかにする。利潤が資本家の消費と投資によ
って決定されるものとすれば, 「分配要因」によって決定されるのは, (ここで
は労働者の消費に等しい)労働者の所得である。このようにして, 資本家の消
費と投資は「分配要因」と共同して労働者の消費を決定し,その結果国民産出
量と雇用を決定する。国民産出量は,「分配要因」に従ってそのうちから切り
出される利潤が資本家の消費と投資に等しくなる点まで拡張されるであろう1)。
1)上述の議論は,供給が弾力的であるという第I部で設けられた仮定に基づいている。…
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第4章 商品税。所得税および資本税の理論
奇妙至極なことではあるが,資本課税は課税総額と同額だけ粗利潤を引き上
げる。そればかりか,税を支払った後に資本家の手元に残る所得Co+I も意味
深長なことに上昇するのである。(所得課税の場合にはCo+Iは不変であり,
粗利潤は課税総額と同額だけ増加するのである。)
この場合には雇用の増加の効果が強いので,実質賃金総額の増加は, 所得税
の場合よりも大きいのである。
以上の分析からわかることは,資本課税はたぶん, 景気を刺激して失業を減
少させるための最良の方法であるということである。それは, 国家支出を政府
借入れによって金融する場合の利点をすべて備えており, しかも, 政府が債務
を背負わなくてもすむという利点をもっているという意味で,政府借入れとは
区別されるのである。ところが,実際にこの目的のために資本課税が大規模に
適用されるであろうと信じることは困難である。なぜなら,そうすることは私
有財産制の原則を侵害するように思われるからであり,したがって,一般にそ
うであるように, この場合にも, 「資本主義体制の大きな欠陥を是正する力と
意志の双方をもっている政府はみな,その体制をまったく廃止してしまう意志
と力をもっているであろう」3)からである。
3)Joan Robins on, Review of R.F. Harrod, 'The Trade Cycle', Economic Journal,
December 1936.
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