月曜日, 9月 30, 2019

(あすを探る 経済)MMTのアラ探しだけでは 安田洋祐:朝日新聞デジタル 2019/9/26




(あすを探る 経済)MMTのアラ探しだけでは 安田洋祐:朝日新聞デジタル

https://digital.asahi.com/articles/DA3S14193453.html?_requesturl=articles%2FDA3S14193453.html&rm=150

 しかし、多くの人はピンと来ないだろう。そもそも破綻リスクがどの程度あり、それが財政状況に応じてどれくらい変わるのか…

 残念ながら、現在の主流派経済学にはこうした問いに答えることが難しい。例えば、標準的なマクロ経済理論であるDSGE(動学的確率的一般均衡)モデルでは、政府部門の財政収支が長い目で見て釣り合うことを前提にするため、そもそも財政破綻が起こり得ない…

 インフレが実現した際にきちんと制御できるのか、財政規律の悪化に歯止めが利かなくなるのではないか、といった疑念・懸念から、多くの主流派経済学者はMMTの政策提言に批判的である。しかし、財政支出を拡大しているにもかかわらず金利や物価が一向に上昇しない先進諸国の現状は、一見するとMMTと整合的なようにも見える。実際に、元IMF(国際通貨基金)チーフエコノミストのオリビエ・ブランシャール氏を筆頭に、デフレ下での積極的な財政支出を提唱する経済学者は主流派の中でも増え始めている。

 MMTのような学説が注目を集める背景には、本稿で指摘したように、主流派経済学が抱える限界もあるのではないだろうか。MMTは少なくとも、財政支出をいつまで続けるかという期限について、一定の「答え」を示している。主流派経済学は、非主流派のアラを探すだけでなく、そこから得た視点やアイデアを吸収して、より人々の疑問に向き合う形で進化していく時だ。



(あすを探る 経済)MMTのアラ探しだけでは 安田洋祐:朝日新聞デジタル

https://digital.asahi.com/articles/DA3S14193453.html?_requesturl=articles%2FDA3S14193453.html&rm=150

(あすを探る 経済)MMTのアラ探しだけでは 安田洋祐

 いよいよ来月から消費税が10%に上がる。軽減税率や、キャッシュレス決済に対するポイント還元、自動車購入の優遇など、政府は景気への悪影響を最小限にとどめるため様々な施策を用意している。しかし、こんな手間と費用をかけて増税ショックに備えるくらいなら、そもそも増税しなければよいのではないか。そんな素朴なログイン前の続き疑問も湧いてきそうだ。

 実は、マクロ経済や財政の専門家の間でも、いま消費増税をすべきかについては大きく見方が割れている。今後も増え続ける国家歳出に応じて早急に財源を確保する必要があり、そのため消費増税は待った無し、というのが増税賛成派の立場である。一方の反対派は、短期の財政収支にこだわらずに、国債発行して財源にあてるべきだと主張する。

 もちろん、増税を先送りして財政赤字を無制限に続ければ、いつの日か国債の暴落や制御不能なインフレーションに陥り、国家財政が破綻(はたん)しかねない。財政収支の悪化により、この破綻リスクが大きく上昇すると懸念するのが増税賛成派、ただちに影響はないと楽観するのが反対派。簡単に整理すればこんな構造だ。

 しかし、多くの人はピンと来ないだろう。そもそも破綻リスクがどの程度あり、それが財政状況に応じてどれくらい変わるのか、といった数字が一切出てこないからだ。増税により破綻リスクが何%下がる、あるいは先送りで何%上がる、といった具体的な見積もりがないと、政策の良しあしもうまく評価できない。

 残念ながら、現在の主流派経済学にはこうした問いに答えることが難しい。例えば、標準的なマクロ経済理論であるDSGE(動学的確率的一般均衡)モデルでは、政府部門の財政収支が長い目で見て釣り合うことを前提にするため、そもそも財政破綻が起こり得ない。他にも、リーマン・ショックのような金融危機がいつ・どんな兆候の元で起きるかうまく答えることができない。資産価格の暴落を予測した途端に市場が損害を防ごうと行動を変え、結果的に予測が外れてしまうのだ。たとえ頻度が低いとしても、経済に与える影響が甚大なショックに関する予測や説明があまりに不十分というのは主流派経済学が抱える問題点だろう。

 非主流派経済学説の中で、そのメッセージの分かりやすさと過激さでにわかに注目を集めているのが、MMT(現代貨幣理論)である。7月には提唱者の一人である米ニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授が講演会のため来日し、第一人者である米バード大学のランダル・レイ教授による教科書『現代貨幣理論入門』の翻訳書が今月出版されたばかりだ。MMTは、貨幣や政府支出に対する見方が主流派とは大きく異なり、上述した財政赤字問題については「デフレから脱却するまでは財政支出/赤字を積極的に増やし続けよ」と大胆に提唱する。

 インフレが実現した際にきちんと制御できるのか、財政規律の悪化に歯止めが利かなくなるのではないか、といった疑念・懸念から、多くの主流派経済学者はMMTの政策提言に批判的である。しかし、財政支出を拡大しているにもかかわらず金利や物価が一向に上昇しない先進諸国の現状は、一見するとMMTと整合的なようにも見える。実際に、元IMF(国際通貨基金)チーフエコノミストのオリビエ・ブランシャール氏を筆頭に、デフレ下での積極的な財政支出を提唱する経済学者は主流派の中でも増え始めている。

 MMTのような学説が注目を集める背景には、本稿で指摘したように、主流派経済学が抱える限界もあるのではないだろうか。MMTは少なくとも、財政支出をいつまで続けるかという期限について、一定の「答え」を示している。主流派経済学は、非主流派のアラを探すだけでなく、そこから得た視点やアイデアを吸収して、より人々の疑問に向き合う形で進化していく時だ。

 (やすだ・ようすけ 大阪大学准教授、ミクロ経済理論、編著に『学校選択制のデザイン』ほか)