月曜日, 10月 14, 2019

エスター・デュフロ(Esther Duflo, 1972年10月25日 - )



エスター・デュフロ(Esther Duflo, 1972年10月25日 - )
https://nam-students.blogspot.com/2019/10/esther-duflo-19721025.html@


EBPM
https://nam-students.blogspot.com/2020/02/evidence-based-policy-making.html

165 名無しさん@お腹いっぱい。[] 2019/12/05(木) 12:00:01.16  ID:UId4dQyF
Nobel Lecture 2019
https://www.youtube.com/watch?v=dhdNYRliJYA


Abhijit Banerjee
Field experiments and the practice of economics

Esther Duflo
Field experiments and the practice of policy

Michael Kremer

Experimentation, Innovation, and Economics



ノーベル経済学賞に米大3教授 貧困削減へ効果的介入 解明

2019年のノーベル経済学賞は、米マサチューセッツ工科大(MIT)教授のアビジット・バナジー氏とエステール・デュフロ氏、米ハーバード大教授のマイケル・クレマー氏の3氏に決まった。授賞理由は「世界的な貧困緩和への実験的アプローチ」である。
開発経済学の研究に長く携わる筆者にとって、3氏の切り開いた手法は革新的であり、授賞は驚くべきものではない。ただし授賞のタイミングは予想より早かった。15年の国連総会で採択された「持続可能な開発目標」(SDGs)を30年までに達成するうえで、開発経済学の実践的な革新を評価する機運が選考委員会で高まったのかもしれない。
一報を聞き、開発経済学におけるRCT革命への授賞だと感じた。RCTは「無作為化比較実験」「ランダム化比較試験」、あるいは「社会実験的政策評価」と表現される。Rは評価したい政策の有無ないしは比較したい複数の政策のどれかをランダムに割り振ることからとった頭文字、Cは結果に影響しそうな諸要因をコントロールした環境を作ることを意味する頭文字、Tはトライアルの頭文字だ。
政策の効果を正しく測るには、医学の新薬試験と同じ方法を使えばよい。新薬の効果を測りたい患者を無作為に「治験群」と「対照群」に割り振り、前者にのみ新薬を施し、2つの患者群の治癒状況に違いが生じるかを統計的に検定する。
これに近い実験を設計するのが、社会科学におけるRCTだ。潜在的な政策介入のターゲットの一部を実験対象とし、治験群と対照群を無作為に割り振り、前者にのみ政策介入を施し後者には実施せず、介入後に経済的な変数に違いが生じるかを統計的に検定する。無作為化が適切なら政策介入の効果が正確にわかる。
RCT自体は、税制や福祉政策の評価のために先進国で1980~90年代に実施された例があり、今回の受賞者の発明品ではない。途上国の貧困削減政策の評価に全面的にRCTアプローチを適用する基礎を作ったところに革新性がある。デュフロ、クレマー両氏らの著書「政策評価のための因果関係の見つけ方」で、RCTを実施するためのノウハウが解説されている。
3氏を中心に多数のRCTが途上国で実施され、貧困削減に有効な介入が次々と明らかになってきた。クレマー氏が分析したケニアでの虫下し薬の児童への配布政策はその代表例だ。
バナジー、デュフロ両氏が中心となり03年、MITにジャミール貧困対策研究室(JPAL)が設置されると、驚くほどの短期間で開発経済学を世界的にリードする組織としての地位を確立した。JPAL発の研究成果は、教育、保健、金融、農業・製造業、環境・エネルギー、ジェンダー、汚職・賄賂、犯罪・暴力・内戦など、広範な開発テーマをカバーしている。
図はバナジー、デュフロ両氏が関わったインドでの教育RCTの分析結果だ。非政府組織(NGO)が実施していた習熟度別補習により児童の学力が上昇することを、小規模RCTで確認した後、州政府との共同研究として規模拡大のためのRCTが実施された。
縦棒はパラグラフまたは短い文章が読めた3~5年生の比率を示す。左の黒い縦棒は介入前のスコアだ。無作為化が適切なため、対照群と治験群の間に介入前には全く差がないことから、両群を一緒にした1本の縦棒になっている。
介入後のスコアは同じテストを用いて読解力を測るため、対照群、治験群ともに介入前よりも上昇している。問題は両者の差だ。中央の濃い灰色の縦棒は介入後の対照群のスコア、右側の薄い灰色の縦棒は介入後の治験群のスコアだ。両群の差の有意性を95%水準でチェックするためのひげが治験群の縦棒に加筆されているが、ひげの幅を考慮しても、介入後の治験群のスコアは対照群よりも高い。
図のAはハリヤーナー州で実施された「正規教員による習熟度別補講モデル」の効果を示す。治験群の3~5年生の読解能力向上は対照群に比べ5ポイント高く、その差は統計的にも有意だ。
この補講モデルは、インド全域で10万を超す小学校に導入され、約500万人もの生徒が恩恵を受けた。
ただしインド国内にはウッタル・プラデーシュ州など学校教育環境の劣悪な地域があり、上記モデルの導入が難しい。そこで同州では「ボランティア教員による校内での課外キャンプモデル」が試された。図のBに示すように、この介入は3~5年生の読解能力を25ポイント引き上げ、ハリヤーナー州での対照群に追いつくという大きな効果を持った。インド全域の教育環境劣悪地域にこのモデルが導入され、約4千校、20万人強の受益者を生み出した。
近年、日本でも「証拠に基づく政策立案」(EBPM)が重視されるようになってきた。RCTによる政策分析は、EBPMに用いられる証拠として最も説得力の高いものといえよう。
21世紀初頭には、開発経済学の国際会議に参加すると、実証分析はRCT一辺倒の傾向になっており、筆者を含め多くのエコノミストがそれに懐疑的だった。
その理由は、(1)そもそも人間を対象にきちんとした無作為化が可能なのかという技術的問題(外れた人が持つ嫉妬心、当たった人から外れた人へのスピルオーバー=拡散=など)(2)マクロ経済政策や大型インフラプロジェクトなどRCT実施が難しい政策が研究対象外となる恐れ(3)効果を測定することに集中するとその背後にある経済メカニズムへの関心が薄まってしまうという批判――などだ。
しかしその後の研究動向をみると、技術的な面での改善が進んだ。行政改革などそれまで適さないと思われた分野にも工夫してRCTを適用し、情報の非対称性などミクロ経済学的に重要なメカニズムを明らかにするようなRCTも実施されるようになってきた。
とはいえRCTが最も効果的なのは、やはり小さくても実践的な貧困削減政策の評価だ。小さな実践的問題の解決を積み上げていくことの意義については、バナジー、デュフロ両氏の著書「貧乏人の経済学」で分かりやすく説明されている。
3氏の中で筆者が最も多く会ったのはバナジー氏だ。アジア出身者のノーベル経済学賞受賞は、98年のアマルティア・セン氏に次いで2人目。2人ともインド・ベンガル地方出身でコルカタの同じカレッジで学んだ。インドの国際会議にバナジー氏が出席すると、周りに大きな人だかりができ、政策談議に花が咲く。
信用市場や情報の不完全性に関する理論的研究で開発経済学者として名を成したバナジー氏が、RCTの貢献でノーベル賞を受賞するのは不思議に感じる。MITでの教え子だったフランス出身のデュフロ氏の才能を開花させたのも、彼の懐の深さが生み出した取り合わせの妙だろう。デュフロ氏が政策評価の実証研究を極める一方、バナジー氏は今も時折、初期の理論的研究の香りのする論考を発表しているのも印象的だ。
<ポイント>
○社会実験的政策評価の基礎構築で革新性
○インドで500万人以上の小学生が恩恵
○小さな実践的問題の解決を積み上げ成果
くろさき・たかし 64年生まれ。東京大教養卒、スタンフォード大博士。専門は開発経済学、アジア経済論

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【番外編】2019年ノーベル経済学賞とDX(前編)|2019年|柏木亮二のDX Book Review|ナレッジ&インサイト|NRI Financial Solutions
http://fis.nri.co.jp/ja-JP/knowledge/bookreview/2019/20191015.html

【番外編】2019年ノーベル経済学賞とDX(前編)

2019年10月15日
10月14日、今年のノーベル経済学賞受賞者が発表された。受賞理由は貧困削減を目指す開発経済学の分野に「ランダム化比較試験(RCT : Randomized Controlled Trial)」という新たな手法を取り入れ、開発プログラムの政策効果を飛躍的に向上させた功績が評価されたことにある。このRCTは現在開発経済学以外の領域でも広く活用されている。ビジネスに近い領域で、いわゆる「A/Bテスト」と呼ばれる検証手法もRCTの応用である。ビジネスにおける様々な施策の効果検証は、利用できるデータの急増とデジタルツールの普及によって急速にその重要性を増している。今年のノーベル経済学賞をきっかけに、RCTを学んでみてはいかがだろうか。

「ランダム化比較試験:RCT」とは

受賞者はマサチューセッツ工科大学(MIT)のアビジット・バナジ-氏と、エスター・デュフロ氏、それに、ハーバード大学のマイケル・クレマー氏の3人である。受賞理由は、世界的な貧困削減のための開発支援プログラムに、新薬の薬効の検証などに用いられてきた「ランダム化比較試験(RCT: Randomized Controlled Trial)」を取り入れ、貧困削減の政策効果を実証可能にした功績が評価されたものだ。
さてこの「ランダム化比較試験:RCT」とは、ある施策(その筋では「介入」と呼んだりする)を導入することで、目指した効果がどの程度実現されたのかを正確に評価するための手法である。このRCTは当初医療の世界で発展してきた。例えば、新しい成分を含む新薬が開発された場合、その新薬の薬効が本当に効果的なのかを判断するためには、次のような観点から効果を判断する必要がある。
● 薬の投与以外の要因で結果に変化が出ていないか? ● 薬の投与による改善効果は、他の治療方法よりも優れているか?
薬の投与以外の要因としては、例えば患者の年齢や既往症、また時間経過による効果、他の併用している治療による効果、治療を受けている病院の質など様々な要因が考えられる。これらの要因の影響を取り除く最も効率的な方法が「同一条件の母集団からランダムに薬の投与と非投与のグループに分けて結果を観測する」というやり方である。こうすれば、薬の投与の有無だけが結果の差異に影響を与えているだろうと考えられるのである。
もう一つの「他の治療方法よりも優れているか」という点も重要である。例えば新たな風邪薬が開発されたとする。確かにその新風邪薬には治療効果があると確かめられたとしよう。ただ、ここで重要なのは「じゃあ4日安静に寝ている治療よりも費用対効果で上回るのか」という点である。RCTでは、薬の投与以外の効果が除去されているため、その薬の効果も定量的に測定可能である。結果、「通常4日の安静が必要なものを2日に短縮できた」となれば、その治療は効果的かもしれない。一方、「通常4日の安静が3日に短縮できた」程度なら費用対便益的にはあまり意味のない効果と判断されるかもしれない。
また、RCTは実験参加者の心理的な要因も排除することができる。例えば、省エネに効果があるとされる「電力料金の変動価格制」の実験を考えてみよう。もし、この実験の参加者を一般に募集した場合、その母集団は「省エネにそもそも関心が高い人たち」が多い集団になってしまうかもしれない。そのような「偏った」母集団で行った実験の結果は、社会全体とは異なった形で出てしまうかもしれない。そのような母集団の偏りによる影響(サンプリングバイアスと呼ばれることもある)もRCTでは取り除くことができる。
このような手法を受賞者たちは開発経済学の現実の政策検討に取り入れたのである。受賞者らのいくつかの実際の成果を見ると、その意外さに驚くかもしれない(加えて素人の想像力のなさにも驚くかもしれない)。
「途上国の教育の向上に最も効果的なのは、『生徒の寄生虫の駆除』」 「途上国の幼児へのワクチン接種率の向上には、摂取に来た親へ豆をお土産に与えること」
などなど。これらの意外とも思える施策は、ランダム化比較試験によって効果が実証されており、さらに効果もきちんと定量化されているのである。このような貢献が評価されてのノーベル経済学賞受賞である。受賞者の一人であるデュフロ教授のTED講演「貧困と戦う社会実験」があるので参考までに(日本語の字幕もある。画面下部のTranscriptから日本語を選んでほしい)。
Esther Duflo: Social experiments to fight poverty | TED Talk

受賞者らの著作

受賞者らの著作で、邦訳されているものがいくつかあるので簡単に紹介しておく。
■政策評価のための因果関係の見つけ方
  • [著] エステル・デュフロ、レイチェル・グレナスター、マイケル・クレーマー 
  • [発行日] 2019年7月
  • [出版社] 日本評論社
  • [定価] 2,300円+税

同書は受賞者のうちの2人、デュフロ教授とクレーマー教授が共著者として名を連ねている。タイトルから見ても分かる通り、ある「政策」がどのような効果を持つかを「評価」し、さらにその「政策」と効果の間にちゃんとした「因果関係」が存在するかを検証するための手法を紹介した本である。
最近「EBPM」という言葉を見かけたことはないだろうか?これは「エビデンスに基づく政策立案:Evidence Based Policy Making」の略称で、効果が実証された政策を採用するためにRCT(とフィールド実験と因果推論)を活用するフレームワークである。同書はこの「EBPMの教科書」とも言える。
■貧乏人の経済学
  • [著] アビジット・V・バナジー、エステル・デュフロ
  • [発行日] 2012年4月2日
  • [出版社] みすず書房
  • [定価] 3,000円+税

こちらはもうひとりの受賞者であるハーバード大のバナジー教授とデュフロ教授の共著である。こちらは上記の「政策評価のための因果関係の見つけ方」よりは、より貧困問題にフォーカスしており、具体的なRCTとフィールド実験による貧困問題の解決のプロセスが紹介されている。その多種多様な貧困問題にクリエイティブな解決仮説は目からウロコが取れる思いがするし、また実験構築の創意工夫には唸らされっぱなしになること請け合いだ(「ああこういうクリエイティブな部下がいれば…」とちょっと思ったりするかもしれない)。
一方で、それまでの開発援助の世界は「勘と経験」の「思いつき」だらけの世界だったのかとちょっと呆然とする。今までにも途上国には莫大な援助が注ぎ込まれてきたはずだが、その援助はほとんど効果を検証されることもなく、下手をすると独裁者や悪徳企業の私腹を肥やすことにしかなってなかったのかと脱力するかもしれない。実際、著者らのフィールド実験は、既得権益を持つ勢力から執拗で陰湿な政治的な圧力や妨害を受けてきた。それを見事にはねのける「データ」の威力に溜飲が下がる思いを味わえるだろう(「ああ、こういうロジカルで合理的な上司がいれば…」とちょっと思ったりするかもしれない)。

ついでに貧困は本当に減っているのか?

という疑問をお持ちの方も多いだろう。そういう方は以下の本を読んでみるといいかもしれない。
■FACTFULNESS
  • [著] ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド
  • [発行日] 2019年1月15日
  • [出版社] 日本BP
  • [定価] 1,800円+税

「実は世の中は着実に良くなってきているが、私達(先進国の人たち、と言うべきか)は、その事実をきちんと受け止められないバイアスを抱えている」という内容である。この本を読むべきかどうかは、本屋ですぐに確認できる。同書の「イントロダクション」のpp.9-13にある13個の質問に答えてみてほしい。その結果が意外だと感じたらあなたはこの本を読むべきだ。
さて、後編では、RCTや因果推論の活用をより具体的にイメージできる本をいくつか紹介したい。ビジネスの現場でも活用できるアイデアが見つかるだろう。


以下『貧乏人の経済学』(後述)より
#2
…貧乏な人々は援助金付きの穀物が好きですが…補助金を増やしても、食生活の改善促進に
は役立ちません。主な問題がカロリー量ではなく、他の栄養素だからです。貧乏な人々
にお金をばらまくだけでは不十分ですし、収入が増えても短期的には栄養状態は改善しま
せん。インドの例で見たように、貧乏な人々は収入が増えても食事の量や質を改善したり
しません。食べ物と競合する圧力や欲望が多すぎるからです。
 これに対し、子供や妊婦の栄養摂取に直接投資すると、社会的な見返りはすさまじい
ものになります。これは、栄養強化食物を妊婦や幼児の親に与えたり、学校や保育園で
子供の寄生虫駆除を行なったり、微量栄養素を豊富に含む食事を子供に与える、あるいは
親たちが栄養補給剤を摂取したくなるインセンティブを与えることで実現できます。.…


#4
…多くの発展途上国では、カリキュラムと教え方のどちらも、学校に来る普通の子供より
はエリート向けに作られているため、投入を増やすことで学校の機能を改善しようとする
試みはたいてい期待はずれとなります。1990年代、マイケル・クレマーは発展途上
国における政策介入について、初のランダム化評価を行なうための簡単なテストケースを
探していました。この最初の試みのために、彼は介入がまちがいなく大きな効果を持つ例
を探していました。教科書が絶好の例のように思われました。(調査が行なわれる予定の)
西ケニアの学校には教科書がほとんどなく、本が不可欠な投入だということにはほぼだれでも 
合意します。100の学校から25校が無作為に選ばれ、教科書(その学年向け公式教科書)が
配布されました。結果は期待はずれなものでした。.…ケニアで教育に使われている言語は英語で、
教科書も自然に英語のものになります。でも、ほとんどの子供にとって英語は第三言語(地域の
言葉、そしてケニアの公用語であるスワヒリ語の次にくる言葉)にすぎず、ほとんど喋れません。
英語で書かれた教科書は子供の大多数にとって、役に立つわけがなかったのです(35)。…

3 5 . Paul Glewwe, Michael Kremer, and Sylvie Moulin  ,
“Textbooks and Test Scores: Evidence from a Prospective Evalution in Kenya, 
“BREAD Working Paper(2000).


原題:Poor Economics: A Radical Rethinking of the Way to Fight Global Poverty, 2011

著者:Abhijit Vinayak Banerjee[অভিজিৎ বন্দ্যোপাধ্যায়] (1961-) 開発経済学
著者:Esther Duflo(1972-) 社会経済学・開発経済学
翻訳:山形浩生



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貧困を減らす実験アプローチ|安田 洋祐|note
https://note.mu/yagena/n/nef09736ede58

貧困を減らす実験アプローチ


政策評価のための因果関係の見つけ方 ランダム化比較試験入門
https://www.amazon.co.jp/dp/4535559341
https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8075.html
エステル・デュフロ/[著]
レイチェル・グレナスター/[著]
マイケル・クレーマー/[著]
小林 庸平/監訳
石川 貴之/訳
井上 領介/訳
名取 淳/訳
https://www.nber.org/papers/t0333.pdf


Using Randomization in Development Economics Research: A Toolkit

Esther DufloRachel GlennersterMichael Kremer

NBER Technical Working Paper No. 333
Issued in December 2006
NBER Program(s):The Program on ChildrenTechnical Working Papers 
This paper is a practical guide (a toolkit) for researchers, students and practitioners wishing to introduce randomization as part of a research design in the field. It first covers the rationale for the use of randomization, as a solution to selection bias and a partial solution to publication biases. Second, it discusses various ways in which randomization can be practically introduced in a field settings. Third, it discusses designs issues such as sample size requirements, stratification, level of randomization and data collection methods. Fourth, it discusses how to analyze data from randomized evaluations when there are departures from the basic framework. It reviews in particular how to handle imperfect compliance and externalities. Finally, it discusses some of the issues involved in drawing general conclusions from randomized evaluations, including the necessary use of theory as a guide when designing evaluations and interpreting results.


日本評論社 2019年7月
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784535559349

紹介

経済学におけるランダム化比較試験のパイオニアである
エステル・デュフロ教授らによる、理論的解説と実践的ノウハウが凝縮。

監訳者の小林庸平氏による解説は、
本書の難解な部分を直感的でわかりやすい解説で補いながら、
近年注目されている「エビデンスに基づく政策形成(EBPM)」に
ランダム化比較試験をどう活かしていくかを展望。

EBPMに関心のある人、経済学の実証研究に関心のある人、必見!

近年、注目を集める因果推論。その代表的手法であるランダム化比較試験(RCT)について理論的に解説するのみならず、現実社会のフィールドでRCTを行う場合に、どういったことに気を付ければよいのか、理想的なRCTが行われない場合にはどうすればよいのか、を、この分野の世界的権威が解説した一冊です。

RCTは、近年注目を集めている「エビデンスに基づく政策形成(EBPM)」の「エビデンス」をつくるための有効な手段のひとつです。

EBPMに関心のある方、近年の経済学の実証研究で盛んに取り入れられている「前向き(prospective)評価
」に興味のある方に、ぜひご一読いただければ幸いです。

内容紹介

近年、注目を集める因果推論。その代表的手法であるランダム化比較試験(RCT)を用いた政策効果の測定方法を、第一人者が解説。

目次

第1章 はじめに

第2章 なぜランダム化が必要なのか?

第3章 調査設計におけるランダム化比較試験の導入

第4章 サンプルサイズ、実験設計、検出力

第5章 実際の調査設計と実施にあたっての留意事項

第6章 「完全なランダム化」が行われない場合の分析

第7章 推論に関する問題

第8章 外的妥当性とランダム化比較試験から得られた結果の一般化

解説  エビデンスに基づく政策形成の考え方と本書のエッセンス


Esther Duflo, "The Economist as Plumber"(pdf) 2017
https://economics.mit.edu/files/12569

小二田 誠二 (@KONITASeiji)
全部見た。ted.com/talks/esther_d…
これ、日本語字幕あるので、見た方が良いです。
これが経済学なんだという、無知を恥じる。
ノーベル賞すごい。

Social experiments to fight poverty Duflo 2010 
https://www.ted.com/talks/esther_duflo_social_experiments_to_fight_poverty/up-next
ハイチの事例。無料で蚊帳を提供された人の方が後から購入する傾向が大きい。
信頼が必要。
エスター・デュフロ: 貧困に立ち向かう社会的実験  2010 17:17
https://youtu.be/0zvrGiPkVcs


いやホントに。
財テクの経済学じゃなくて、こういう実践が「経世済民」の学だよなあとつくづく。



https://himaginary.hatenablog.com/entry/20170314/The_Economist_as_Plumber
配管工としての経済学者










というNBER論文をエスター・デュフロが上げている(原題は「The Economist as Plumber」)。元はAEAのイーリー講演(cf. 動画)。
以下はその要旨。
As economists increasingly help governments design new policies and regulations, they take on an added responsibility to engage with the details of policy making and, in doing so, to adopt the mindset of a plumber. Plumbers try to predict as well as possible what may work in the real world, mindful that tinkering and adjusting will be necessary since our models gives us very little theoretical guidance on what (and how) details will matter. This essay argues that economists should seriously engage with plumbing, in the interest of both society and our discipline.
(拙訳)
経済学者がますます政府の新しい政策や規制の設計を手伝うようになるにつれ、政策策定の細部に関する責任を引き受けるようになり、その過程で配管工の考え方を身につけるようになる。配管工は現実世界で何が上手く行くかを可能な限り予測しようとし、修繕や調整が必要になることに留意している。というのは、どの細部が(どのように)重要となるかについて、我々のモデルはほとんど理論的指針を与えてくれないからである。本エッセイは、経済学者は社会と経済学の双方の利益のために、真剣に配管に取り組むべきである、と論じる。
以下はungated版の冒頭。
Economists are increasingly getting the opportunity to help governments around the world design new policies and regulations. This gives them a responsibility to get the big picture, or the broad design, right. But in addition, as these designs actually get implemented in the world, this gives them the responsibility to focus on many details about which their models and theories do not give much guidance.
There are two reasons for this need to attend to details. First, it turns out that policy makers rarely have the time or inclination to focus on them, and will tend to decide on how to address them based on hunches, without much regard for evidence. Figuring all of this out is therefore not something that economists can just leave to policy makers after delivering their report: if they are taking on the challenge to influence the real world, not only do they need to give general prescriptions, they must engage with the details.
Second, details that we as economists might consider relatively uninteresting are in fact extraordinarily important in determining the final impact of a policy or a regulation, while some of the theoretical issues we worry about most may not be that relevant. This sentiment is well summarized by Klemperer (2002) who presents his views on what matters for practical auction design, based on his own experience designing them and advising bidders: "in short," he writes, "good auction design is mostly good elementary economics," whereas "most of the extensive auction literature is of second-order importance for practical auction design."
(拙訳)
経済学者が世界中の政府の新しい政策や規制の設計を手伝う機会は増えている。その際、彼らは全体像ないし全体設計を正しく捉えるという責任を負う。だがそれに加えて、そうした設計が実際に世の中で実施される際には、自分たちのモデルや理論があまり指針を与えてくれないような多くの細部に集中するという責任を負う。
このように細部に関心を向ける必要が生じるのには、2つの理由がある。第一に、政策当局者にそうしたことに集中する時間や意思があることは稀で、彼らはそうした問題への対処法を、証拠にあまり目を向けずに、勘で決めがちである。従って、経済学者が報告書を出した後、そうした問題の解決はすべて政策当局者にお任せ、というわけにはいかないのである。実社会に影響を与えるという難題を経済学者が引き受けるのであれば、一般的な処方箋を出すだけでなく、細部にも取り組む必要がある。
第二に、経済学者として我々があまり面白くないと思うような細部は、実際には政策や規制の最終的な影響を決定する上で非常に重要かもしれない。一方、我々が最も気にするような理論的問題の中には、それほど重要でないものもあるかもしれない。そうした感覚はKlemperer(2002)*1で上手くまとめられている。彼はそこで、実際のオークションの設計で何が重要かについての自分の考えを、設計を行い競り手に助言した自らの経験に基づいて示している。「要は」と彼は書いている。「良いオークション設計は大部分が良い初歩的な経済学である」半面、「広範なオークション研究の大半が、実際のオークション設計の際には二次的な重要性しか持たない。」
以下は、「なぜ経済学者は良き配管工となるか(Why economists make good plumbers)」と題された第3節の結論部。
To summarize, economists have the disciplinary training to make good plumbers: economics trains us in behavioral science, incentives issues, and firm behavior; it also gives us an understanding of both governments and firms as organizations, though more work probably remains to be done there. We economists are even equipped to think about market equilibrium consequences of apparently small changes. This comparative advantage, along with the importance of getting these issues right, make it a responsibility for our profession to engage with the world on those terms.
(拙訳)
まとめると、経済学者は良き配管工となるための専門の訓練を受けているのである。経済学は行動科学、インセンティブの問題、および企業の行動について我々に訓練を施している。経済学はまた、政府と企業の双方について、組織としてどう理解すべきかも教えてくれる。ただしこの点については研究すべきことがまだあると思われるが。さらに我々経済学者は、見たところ小さな変化によって市場の均衡がどうなるかについて考える訓練も積んでいる。こうした比較優位は、これらの問題を正しく捉えることの重要性と相俟って、我々経済学者がその点において世界に貢献することを責務としているのである。
以下は論文の最終段落。
Many of us chose economics because, ultimately, we thought science could be leveraged to make a positive change in the world. There are many different paths to get there. Scientists design general frames, engineers turn them into relevant machinery, and plumbers finally make them work in a complicated, messy policy environment. As a discipline, we are sometimes a little overwhelmed by "physics envy," searching for the ultimate scientific answer to all questions - and this will lead us to question the legitimacy of plumbing. This essay is an attempt to argue that plumbing should be an inherent part of our profession: we are well prepared for it, reasonably good at it, and it is how we make ourselves useful. A feature unique to economics that scientists, engineers, and plumbers all talk to each other (and in fact are often talking to themselves - the same economist wearing different hats). This conversation should continue: it is what what will keep us relevant and, possibly, honest.
(拙訳)
我々の多くは、言ってしまえば、科学を使って世界を良くすることができる、と考えて経済学の道を選んだ。そのための経路は複数ある。科学者は全体の枠組みを設計し、技術者はそれを機械の形にし、配管工は最終的にその機械を複雑で入り組んだ政策環境の中で動かす。時に経済学者は、「物理学への羨望」に囚われ、すべての問題に対する究極の科学的な解を追い求めようとし、配管の意義を問う。本エッセイでは、配管は経済学者の本来の仕事の一部であるべき、と論じようと試みた。我々にはそれをする準備ができており、手腕もそこそこあり、それをすることによって世の中の役に立つ。経済学に固有の特徴は、科学者、技術者、配管工がお互いに話ができる、ということである(実際のところ、それは自分自身との会話になることが多い。同じ経済学者が一人何役も演じているのである)。そうした会話は継続すべきである。それこそが我々に世の中で役割を果たさせ、かつ、おそらくは誠実にさせるものなのだ。



貧困の実態とイメージ

図1:
 
  |                  /   
  |    |           O/   
 将|    |           /。  。
 来|    |       。__/ 
 の|    |     。 | /|     
 所|    |   。   |/ |     
 得|貧困の罠|  。_____/  |   
  | ゾーン|。|    /|  | 
  |    | |   / |  |
  |    | |   /  |  |     
  |    。 | /   |  |        
  |    | |/    |  |         
  |    | /     |  |         
  |    。/|     |  |      
  |    / 貧困の罠の外側  |        
  |   /。 |     |  |         
  |N / | |     |  |         
  |。/。 | |     |  |         
  |/___|_|_____|__|______
   A321  B1   B2  B3
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         今日の所得
S字曲線と貧困の罠




図2:
 
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     A1   A2  A3
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         今日の所得
逆L字曲線:貧困の罠は存在しない


多くの経済学者は2と考えているが1が正解
アビジット、デュフロ『貧乏人の経済学』#1より


https://www.studocu.com/en-gb/document/university-of-sheffield/economic-analysis-of-poverty-and-inequality/lecture-notes/topic-5-poverty-traps/3879891/view




エスター・デュフロ(Esther Duflo, 1972年10月25日 - )
https://nam-students.blogspot.com/2019/10/esther-duflo-19721025.html@






懲りずに今年も予想させてもらうとすると、エスター・デュフロ(Esther Duflo)アビジット・バナジー(Abihijit Banerjee)の二人に一票といかせてもらうとしよう。マイケル・クレマー(Michael Kremer)も一緒に付け加えてもいいかもしれないが、開発経済学の分野にランダム化比較試験(RCT)を持ち込んだ第一人者というのが受賞理由だ。

以外では
ランダム化対照試行




『貧乏人の経済学――もういちど貧困問題を根っこから考える』

(Abhijit V Banerjee, Esther Duflo[著] 山形浩生[訳] みすず書房 2012//2011)

原題:Poor Economics: A Radical Rethinking of the Way to Fight Global Poverty, 2011
著者:Abhijit Vinayak Banerjee[অভিজিৎ বন্দ্যোপাধ্যায়] (1961-) 開発経済学
著者:Esther Duflo(1972-) 社会経済学・開発経済学
翻訳:山形浩生

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%A0%E5%8C%96%E6%AF%94%E8%BC%83%E8%A9%A6%E9%A8%93
ランダム化比較試験(ランダムかひかくしけん、RCT:Randomized Controlled Trial)とは、評価のバイアス(偏り)を避け、客観的に治療効果を評価することを目的とした研究試験の方法である[2]。従って根拠に基づく医療において、このランダム化比較試験を複数集め解析したメタアナリシスに次ぐ、根拠の質の高い研究手法である[2]。主に医療分野で用いられる。略称はRCTである。


訳者解説より
…本書のあらゆる問題を検討するにあたっても使われているのが、ランダム化対照試行と
いう手法だ。…たとえば同じ地域の似たようなA村とB村をランダムに選び、片方には
介入してみる。片方には何もしない。それで両者に何か有意な変化が生じるかを見てみ
ようじゃないか。…この手法により、従来はできないと思われていた経済学・社会科学の 
対照実験が、それなりに厳密な形でできるようになった意義は大きい。そして当初は軽視
する声も大きかったこの手法の威力をまざまざと見せつけたのが、本書の著者二人の活躍だ。
実験一つ一つでわかることは小さいかもしれない。だがそれを10年以上も続け、小さな
成果を積み重ねるうちに、これまでははっきり言えなかったことが、いまや裏付けをもっ
て言えるようになっている。そして、援助がいいか悪いか、という単純な原則論と張り合える
だけの強力な結果が、いまや本書のような形で生み出されつつあるわけだ。


解説3

…本書のあらゆる問題を検討するにあたっても使われているのが、ランダム化対照試行という手法だ。本書では、この手法そのものについてはあまり詳しくないので、ちょっと説明を。理念だけであれこれ議論していても、結論は出ない。実際にやってみて成果があがるかどうかをきちんと検討して、はじめてその手法がいいか悪いかを判断できる。そしてきちんと検討するには、その施策を実施した場合としない場合とを、条件を揃えて比べてみることだ。さて物理学ならこれはそこそこ楽だし、生物学や薬学でも、エサや成長環境はおろか遺伝子レベルまで性質の揃った実験動物が手に入る。でも、現実社会を相手にする場合には、これはずいぶん難しい。まったく同じ個人は二人といない。本書を読めばすぐわかるように、お金を貸したら自分で商売を始めるか、といった問題に影響する要因は何なのかよくわからないし、わかったとしても、そうした要因がまったく同じ人を何組も揃えるのは、なまやさしいことではない。揃える以前に、そうした要因についてきちんと調査するのさえホネだ。ある地域全員の学歴や食生活や嗜好や病歴についてアンケートするわけにもいかない。そうしたデータがあれば、多変量解析で影響を調べることもできる。でも特に貧困国では、そのための個人データすらないのが通例だ。でも、個体別に揃えなくてもいいじゃないか、というのがランダム化対照試行の発想だ。グループとしてだいたいの性質を揃えよう。たとえば同じ地域の似たようなA村とB村をランダムに選び、片方には介入してみる。片方には何もしない。それで両者に何か有意な変化が生じるかを見てみようじゃないか。もちろん、A村とB村の人がまったく同じなどということはない。A村にはやせて病気で甘党で酒好きで小学校は出ていて目が悪い、という人はいても、B村にそれとまったく同じ人はいないかもしれない。でも全体として見れば、各種条件はだいたい揃っているはずだ。やせた人も太った人もいる、病気の人も健康な人もいる、お酒の好きな人も嫌いな人もいる、甘党も辛党もいる。個別にはちがっても、全体として見れば各種施策を左右する条件の分布は同じくらいだろう。ならば、両者の差は純粋に、その施策や介入がもたらしたちがい、と言えるはずだ。当然ながらこれは、言うほど簡単ではない。似ているように見える二つの村が、実は目に見えないところで決定的にちがっていて、それが結果を大きく左右することもある。たとえば村がちがうと食生活がちょっとちがったり、市場までの距離がちょっとちがったりして、それが所得改善に大きく作用するかもしれない。でも、そうした部分はうまく実験設計をすれば避けられる。たとえばそれぞれの村の中で人々をランダムに2グループに分ければ、村ごとの差は影響しなくなる。あるいは同じ実験をあちこちでやれば、差が出る場合と出ない場合で何が影響しているかを考えることもできるだろう。むろん、自分で施策や介入を実施するだけでなく、歴史的にたまたま施策が変わってしまったケースを探して比べることもできる。さて、この手法については、「A村には何かしてあげるのに、B村には観察目的だけでわざと何もしてあげないなんてひどい」といった批判がときどき出てくる。ときにはこの対照実験の当事者たちからも。なんであいつはお金がもらえて、オレはもらえないんだよ、不公平だろうというわけだ。でも、こんな実験が必要なのは、そもそもその施策や介入に効果があるかどうかわからないからだ。したがって、本当に不公平かどうかは、この実験の成果が確認されるまで、実はだれにもわからないのだ。だからこの批判はちょっとピント外れではある。とはいえ、これは実験実施にあたっては大きなトラブルの種となりかねず、実験者の手腕が要求される点ではある。そして、それ以外にも、この手法が完璧ではないという言わずもがなの指摘もときどき見られる。これはまあ当然の話で、こちらで効いた施策があっちでは効かないケースはいくらでもある。それでもこの手法により、従来はできないと思われていた経済学・社会科学の対照実験が、それなりに厳密な形でできるようになった意義は大きい。そして当初は軽視する声も大きかったこの手法の威力をまざまざと見せつけたのが、本書の著者二人の活躍だ。実験一つ一つでわかることは小さいかもしれない。だがそれを10年以上も続け、小さな成果を積み重ねるうちに、これまでははっきり言えなかったことが、いまや裏付けをもって言えるようになっている。そして、援助がいいか悪いか、という単純な原則論と張り合えるだけの強力な結果が、いまや本書のような形で生み出されつつあるわけだ。



…本書のあらゆる問題を検討するにあたっても使われているのが、ランダム化対照試行という手法だ。…たとえば同じ地域の似たようなA村とB村をランダムに選び、片方には介入してみる。片方には何もしない。それで両者に何か有意な変化が生じるかを見てみようじゃないか。もちろん、A村とB村の人がまったく同じなどということはない。A村にはやせて病気で甘党で酒好きで小学校は出ていて目が悪い、という人はいても、B村にそれとまったく同じ人はいないかもしれない。でも全体として見れば、各種条件はだいたい揃っているはずだ。やせた人も太った人もいる、病気の人も健康な人もいる、お酒の好きな人も嫌いな人もいる、甘党も辛党もいる。個別にはちがっても、全体として見れば各種施策を左右する条件の分布は同じくらいだろう。ならば、両者の差は純粋に、その施策や介入がもたらしたちがい、と言えるはずだ。当然ながらこれは、言うほど簡単ではない。似ているように見える二つの村が、実は目に見えないところで決定的にちがっていて、それが結果を大きく左右することもある。たとえば村がちがうと食生活がちょっとちがったり、市場までの距離がちょっとちがったりして、それが所得改善に大きく作用するかもしれない。でも、そうした部分はうまく実験設計をすれば避けられる。たとえばそれぞれの村の中で人々をランダムに2グループに分ければ、村ごとの差は影響しなくなる。あるいは同じ実験をあちこちでやれば、差が出る場合と出ない場合で何が影響しているかを考えることもできるだろう。むろん、自分で施策や介入を実施するだけでなく、歴史的にたまたま施策が変わってしまったケースを探して比べることもできる。…この手法により、従来はできないと思われていた経済学・社会科学の対照実験が、それなりに厳密な形でできるようになった意義は大きい。そして当初は軽視する声も大きかったこの手法の威力をまざまざと見せつけたのが、本書の著者二人の活躍だ。実験一つ一つでわかることは小さいかもしれない。だがそれを10年以上も続け、小さな成果を積み重ねるうちに、これまでははっきり言えなかったことが、いまや裏付けをもって言えるようになっている。そして、援助がいいか悪いか、という単純な原則論と張り合えるだけの強力な結果が、いまや本書のような形で生み出されつつあるわけだ。





エスター・デュフロ

エスター・デュフロEsther Duflo1972年10月25日 - )はフランス人経済学者で、現在はマサチューセッツ工科大学教授を務めている。マサチューセッツ工科大学では貧困問題と開発経済学を担当しており、マサチューセッツ工科大学のAbdul Latif Jameel Poverty Action Labの創設者の一人である。さらに全米経済研究所のリサーチアソシエイト等も兼任している。
1972年に数学者の父、人道活動を行う医者の母のもとに生まれ、プロテスタント教育を受ける。アンリ4世校を経て、パリ高等師範学校にて歴史学・経済学、パリ社会科学高等研究院にて応用経済学の博士準備過程を修了し、経済学のアグレガシオンを取得。アビジット・V・バナジー(Abhijit Banerjee)とジョシュ・アングリスト(Joshua Angrist)の指導の下、1999年にマサチューセッツ工科大学にて経済学の博士号を取得。2002年にマサチューセッツ工科大学のテニュアポジションの准教授、2004年より同教授。
2010年にジョン・ベイツ・クラーク賞、2013年にダン・デイヴィッド賞、2015年にアストゥリアス皇太子賞社会科学部門、[2019年にノーベル経済学賞]を受賞。

アビジット・V・バナジー

アビジット・ヴィナヤック・バナジー (Abhijit Vinayak Banerjee; অভিজিৎ বন্দ্যোপাধ্যায়) は、インドカルカッタ生まれの経済学者。彼は現在、MITのフォード財団の国際経済学教授です[1]。バナジーは、アブドゥル・ラティフ・ジャミール貧困アクションラボ(略称はJ-. PAL)を、同じくエコノミストエスター・デュフロとセンディール・ムライナサンと共同で創設した。また、貧困行動革新(Innovations for Poverty Action)という団体の研究アフィリエイト、および金融システムと貧困に関するコンソーシアムのメンバーである。
彼は"Poor Economics"(2011年。2012年に『貧乏人の経済学―もういちど貧困問題を根っこから考える』として山形浩生により邦訳された)の共著者です。
コルカタ大学ジャワハルラール・ネルー大学ハーバード大学で学び、現在はマサチューセット工科大学(MIT)で経済学のフォード財団国際教授を務める。開発経済分析研究所(BREAD Bureau for Research and Economic Analysis of Development)元所長、全米経済研究所(National Bureau of Economic Research, NBER)の研究員、CEPR研究フェロー、ドイツのキール世界経済研究所国際研究フェロー、アメリカ芸術科学アカデミーおよびEconometric Society(計量経済学会)のフェロー、グッゲンハイム・フェロー、アルフレッド・P・スローン財団のフェローも歴任。 
バナジーはで生まれたコルカタ、インドニルマラバネルジー、で経済学の教授に、社会科学研究センター、カルカッタ、およびDipakバネルジー、教授と経済学部の頭議長大学、カルカッタ。

タイラー・コーエン 「今年度(2018年度)のノーベル経済学賞は誰の手に?」(2018年10月6日)

●Tyler Cowen, “Who will win the Nobel Prize in economics this year?”(Marginal Revolution, October 6, 2018)
https://marginalrevolution.com/marginalrevolution/2018/10/will-win-nobel-prize-economics-year.html

これまでに予想が的中したことは一度としてない。候補に挙げた人物が後になって(別の年に)受賞した例はあれど、「今年の受賞者は誰々」という予想がばっちり的中した試しは一度としてないのだ。そんなわけでこれまでに候補者として勝手に名前を挙げてしまった面々には大変申し訳なく思うばかりだ(ボーモル、ごめんよ)。・・・と言いつつ懲りずに今年も予想させてもらうとすると、エスター・デュフロ(Esther Duflo)アビジット・バナジー(Abihijit Banerjee)の二人に一票といかせてもらうとしよう。マイケル・クレマー(Michael Kremer)も一緒に付け加えてもいいかもしれないが、開発経済学の分野にランダム化比較試験(RCT)を持ち込んだ第一人者というのが受賞理由だ。
ティム・ハーフォードも指摘しているように、彼ら(特にデュフロ)はノーベル賞を受賞するにはまだ若過ぎるかもしれない。というわけで保険としてもう一組だけ候補を挙げておくとしよう。これまでに何度も候補に挙げ続けてきているが、環境経済学の分野にノーベル経済学賞を授与というわけでウィリアム・ノードハウス(William Nordhaus)パーサ・ダスグプタ(Partha Dasgupta)マーティン・ワイツマン(Martin Weitzman)の三人の名前を挙げさせてもらうとしよう。
皆さんの予想はどうだろうか?

■セルフコントロール・労働契約・実証
著 者:Kaur, Supreet; Kremer, Michael; Mullainathan, Sendhil
タイトル:Self-Control at Work
掲載誌:Journal of Political Economy
出版年:2015年





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『貧乏人の経済学――もういちど貧困問題を根っこから考える』(Abhijit V Banerjee, Esther Duflo[著] 山形浩生[訳] みすず書房 2012//2011)

原題:Poor Economics: A Radical Rethinking of the Way to Fight Global Poverty, 2011
著者:Abhijit Vinayak Banerjee[অভিজিৎ বন্দ্যোপাধ্যায়] (1961-) 開発経済学
著者:Esther Duflo(1972-) 社会経済学・開発経済学
翻訳:山形浩生
貧乏人の経済学――もういちど貧困問題を根っこから考える
【目次】
目次 [003-006]
はじめに [007-013]
第1章 もう一度考え直そう、もう一度 015
貧困にとらわれる?
第1部 個人の暮らし 037
第2章 10億人が飢えている? 038
本当に10億人が飢えているのか?/貧乏な人々は本当にしっかり十分に食べているのか?/なぜ貧乏な人々は少ししか食べないのか?/だれも知らない?/食べ物より大事/結局、栄養摂取による貧困の罠は実在するのか?
第3章 お手軽に(世界の)健康を増進? 066
健康の罠/なぜこれらの技術はもっと利用されないのか?/十分に活用されない奇跡 健康改善願望/お金をドブに捨てる/みんな政府が悪いのか?/健康追求行動を理解する/無料は無価値のあかし?/信仰?/弱い信念と希望の必要性/新年の誓い/あと押しか説得か?/ソファからの眺め
第4章 クラスで一番 104
需要供給戦争/需要ワラーの言い分/条件付き補助金の風変わりな歴史/トップダウン型の教育政策は機能するか? 私立学校 プラサム対私立学校/期待の呪い/幻のS字曲線/エリート主義的な学校制度/なぜ学校は失敗するのか/教育の再設計
第5章 スダルノさんの大家族 145
大家族の何が問題か?/貧乏人は子作りの意思決定をコントロールするのか?/セックス、制服、金持ちおじさん/だれの選択?/金融資産としての子供/家族
第2部 制度 179
第6章 はだしのファンドマネージャ 180
貧乏のもたらす危険/ヘッジをかける/助け合い/貧乏人向けの保険会社はないの?/なぜ貧乏人は保険を買いたがらないの?
第7章 カブールから来た男とインドの宦官たち――貧乏人融資のやさしい(わけではない)経済学 209
貧乏人に貸す/貧乏人融資のやさしい(わけではない)経済学/マクロ計画のためのマイクロ洞察/マイクロ融資はうまくいくのか?/マイクロ融資の限界/少し大きめの起業はどうやって資金調達を?
第8章 レンガひとつずつ貯蓄 242
なぜ貧乏な人はもっと貯蓄しないのか/貯蓄の心理/貯蓄と自制心/貧困と自制心の論理/罠から抜け出す
第9章 起業家たちは気乗り薄 270
資本なき資本家たち/貧乏な人のビジネス/とても小さく儲からないビジネス/限界と平均/起業はむずかしすぎる/職を買う/よい仕事
第10章 政策と政治 307
政治経済/周縁部での変化/分権化と民主主義の実態/権力を人々に/民族分断をごまかす/政治経済に抗して
網羅的な結論にかえて 347
謝辞 [356-357]
訳者解説(2012年2月22日 アジスアベバにて 山形浩生) [359-370]
 1 はじめに 
 2 本書の主張 
 3 著者たちとその手法について 
 4 開発援助・貧困削減以外での意義 
 5 グローバリズムはどこへ? 
 6 その他、および謝辞 
原注 [ix-xxxii]
索引 [i-viii]


#1
ではこの図のどちらが 、ケニアの若き農夫ケネディの世界をよく表しているでしょうか ?その質問の答えを知るには 、いくつか簡単な事実を知る必要があります 。例えば 、肥料は小分けで買えるのか ?作付け期の間に貯金をするのが困難で 、ケネディがあるシ ーズンに儲けてもそれを将来投資に変えられないことはないか ?単純なグラフにこめられた理論から得られる 、もっとも重要なメッセ ージはつまり 、理論だけでは不十分 、ということです 。貧困の罠が実在するかという問題に本気で答えるなら 、現実の世界をうまく表しているのが 、どっちのグラフなのかを知る必要があります 。そしてこの評価は事例ごとにやる必要があります 。肥料に注目したお話であれば 、肥料市場について事実を知る必要があります 。貯蓄の話なら 、貧乏な人の貯蓄方法を知らなくてはなりません 。栄養や健康の話なら 、それを調べましょう 。壮大で普遍的な答えがないというのは 、ちょっと不満に思えるかもしれませんが 、でも実はそれこそまさに政策立案者が知りたがるべきことなのです ─ ─つまり 、貧困にはまってしまう方法が何万とあるということではなく 、その罠を作り出す主要な要因がごく少数で 、そういう問題を改善すれば貧乏な人が解放され 、富と投資を増やす美しいサイクルに入れる 、ということを知るべきなのです 。
 見方をまったく変えて普遍的な答えから目をそらしたわたしたちは 、研究室から外に出て 、世界をもっと慎重に見る必要に迫られました 。そうすることで 、わたしたちは世界について少しでも有益なことをいうためには 、適切なデ ータを集めるのが重要だと力説してきた開発経済学者たちの伝統にしたがうことになったのです 。でも 、わたしたちには先達に比べて二つの優位性がありました 。まず 、いまや多くの貧困国について 、以前はなかったような質の高いデ ータがあります 。第二に 、新しい強力なツ ールがあります 。ランダム化対照試行 ( R C T )は 、地元パ ートナ ーと協力を得て 、研究者たちが理論を試す大規模な実験を実施できるようにしてくれるのです 。 R C Tでは 、蚊帳の調査のように 、個人やコミュニティがちがった 「処置 」に無作為に割り当てられます 。この場合の処置とは 、ちがったプログラムや 、同じプログラムの一部をいろいろ変えたものを指します 。各種の処置に割り当てられた個人は 、完全に似たような存在なので (なぜなら無作為に選ばれているからです ) 、結果に差が出たら 、それはすべて処置の影響ということになります 。
 実験一つだけでは 、そのプログラムが普遍的に 「効く 」かどうか決定的な答えにはなりません 。でも同じ実験を何度も 、場所を変えてみたり介入の細部を変えてみたり (その両方を変えてみたり )できます 。それらをまとめると 、結論の頑強さも確認できます (ケニアで効く手法はマダガスカルでも効くだろうか ? ) 。またデ ータを説明できる理論の可能性も絞れます (ケネディの邪魔をしているのは何だろう ?肥料の値段か貯金のむずかしさか ? ) 。新しい理論を使って介入や新しい実験を設計できるし 、以前は不思議だった結果も理解しやすくなります 。そうやって 、貧乏な人が本当はどういう暮らしをしており 、どこで手助けが必要で 、どんな手助けは不要かが 、もっとしっかりした形でだんだんわかってくるのです 。
  2 0 0 3年にわたしたちは 、貧困アクション研究所 (後のアブドゥル ・ラティ ーフ ・ジャミ ール貧困アクション研究所 、略して J − P A L )を創設し 、研究者や政府 、 N G Oなどが協力してこの新しい経済学を実践できるよう支援し 、学んだことを政策立案者に広めようとしてきました 。これは大評判になり 、 2 0 1 0年までに J − P A Lの研究者たちは世界 4 0カ国で 2 4 0以上の実験を実施しました 。またきわめて多くの組織や研究者 、政策立案者たちが 、ランダム化試行という考え方を受け入れています 。
  J − P A Lの仕事に対する反応を見ると 、わたしたちの基本的な想定に同意する人はたくさんいるようです 。しっかり考え抜き 、慎重に試し 、適切に実施された細かいステップを積み重ねることで 、世界最大の問題解決に向けてとても大きな進歩が実現できるのだ 、というのがその想定です 。そんなの当たり前だと思うかもしれません 。でも本書で一貫して説明する通り 、政策というのは一般にそういう決まり方はしないのです 。開発政策の実務は 、それにともなう論争と同じく 、証拠に頼ることはできないというのが前提になっているかのようです 。検証できる証拠なんて手に負えない化け物で 、せいぜいが実現不能な妄想か 、最悪の場合には問題から目をそらしてしまうものだ 、というのがその発想です 。 「きみたちは証拠とやらに耽溺し続けるがいいよ 、その間にもこっちは仕事をこなさなきゃいけないんだから 」 。この道を進み始めたときには 、頑固な政策立案者たちや 、もっと頑固なアドバイザ ーたちにしばしばこう言われたものでした 。今日ですら 、いまだにこの見方をする人はいます 。でもこうした理屈ぬきの性急さに無力感を覚えてきた人々も多いのです 。そうした人々はわたしたちと同様に 、貧乏な人の具体的な問題を深く理解して 、そこに介入する効果的な方法を見つけるのが最高の方法なのだと思っています 。一部の例ではもちろん 、何もしないのが最善です 。でもすべてそれですむわけではありません 。お金をつぎこめば万事解決ともいかないのと同じことです 。いつの日か貧困を終わらせるために一番見込みがあるのは 、個々の回答とその回答の背景にある理解から出てくる 、知識体系なのです 。本書は 、その知識体系に基づいています 。採りあげる材料の多くは 、わたしたち自身や他の人々がやったランダム化試行によるものですが 、その他多くの証拠も活用します 。貧乏な人の生活に関する定量 ・定性的な記述 、個別制度の機能に関する調査 、成功した政策と失敗した政策に関する各種の証拠などです 。本書のサポ ート用ウェブサイト w w w . p o o r e c o n o m i c s . c o mでは 、言及した研究すべてにリンクを張り 、各章を表した写真付きの文章も挙げ 、 1日 1人 9 9セント以下で暮らす人々の主要側面に関するデ ータやグラフを 1 8カ国について示しています 。これは本書で何度も言及するものです 。その調査はどれも 、高度な科学的厳密さを持ち 、デ ータの語ることを真摯に受け入れ 、貧乏な人々の生活に関連した 、特定の具体的な


#10
3 .たとえばランダム化対照試行についての E a s t e r l yの投稿を参照 。 h t t p : / / a i d w a t c h e r s . c o m / 2 0 0 9 / 0 7 / d e v e l o p m e n t e x p e r i m e n t s e t h i c a l f e a s i b l e u s e f u l /で入手 。 

解説

その著者たちの十八番となる実証手法であり 、本書のあらゆる問題を検討するにあたっても使われているのが 、ランダム化対照試行という手法だ 。本書では 、この手法そのものについてはあまり詳しくないので 、ちょっと説明を 。理念だけであれこれ議論していても 、結論は出ない 。実際にやってみて成果があがるかどうかをきちんと検討して 、はじめてその手法がいいか悪いかを判断できる 。そしてきちんと検討するには 、その施策を実施した場合としない場合とを 、条件を揃えて比べてみることだ 。さて物理学ならこれはそこそこ楽だし 、生物学や薬学でも 、エサや成長環境はおろか遺伝子レベルまで性質の揃った実験動物が手に入る 。でも 、現実社会を相手にする場合には 、これはずいぶん難しい 。まったく同じ個人は二人といない 。本書を読めばすぐわかるように 、お金を貸したら自分で商売を始めるか 、といった問題に影響する要因は何なのかよくわからないし 、わかったとしても 、そうした要因がまったく同じ人を何組も揃えるのは 、なまやさしいことではない 。揃える以前に 、そうした要因についてきちんと調査するのさえホネだ 。ある地域全員の学歴や食生活や嗜好や病歴についてアンケ ートするわけにもいかない 。そうしたデ ータがあれば 、多変量解析で影響を調べることもできる 。でも特に貧困国では 、そのための個人デ ータすらないのが通例だ 。でも 、個体別に揃えなくてもいいじゃないか 、というのがランダム化対照試行の発想だ 。グル ープとしてだいたいの性質を揃えよう 。たとえば同じ地域の似たような A村と B村をランダムに選び 、片方には介入してみる 。片方には何もしない 。それで両者に何か有意な変化が生じるかを見てみようじゃないか 。もちろん 、 A村と B村の人がまったく同じなどということはない 。 A村にはやせて病気で甘党で酒好きで小学校は出ていて目が悪い 、という人はいても 、 B村にそれとまったく同じ人はいないかもしれない 。でも全体として見れば 、各種条件はだいたい揃っているはずだ 。やせた人も太った人もいる 、病気の人も健康な人もいる 、お酒の好きな人も嫌いな人もいる 、甘党も辛党もいる 。個別にはちがっても 、全体として見れば各種施策を左右する条件の分布は同じくらいだろう 。ならば 、両者の差は純粋に 、その施策や介入がもたらしたちがい 、と言えるはずだ 。当然ながらこれは 、言うほど簡単ではない 。似ているように見える二つの村が 、実は目に見えないところで決定的にちがっていて 、それが結果を大きく左右することもある 。たとえば村がちがうと食生活がちょっとちがったり 、市場までの距離がちょっとちがったりして 、それが所得改善に大きく作用するかもしれない 。でも 、そうした部分はうまく実験設計をすれば避けられる 。たとえばそれぞれの村の中で人々をランダムに 2グル ープに分ければ 、村ごとの差は影響しなくなる 。あるいは同じ実験をあちこちでやれば 、差が出る場合と出ない場合で何が影響しているかを考えることもできるだろう 。むろん 、自分で施策や介入を実施するだけでなく 、歴史的にたまたま施策が変わってしまったケ ースを探して比べることもできる 。さて 、この手法については 、 「 A村には何かしてあげるのに 、 B村には観察目的だけでわざと何もしてあげないなんてひどい 」といった批判がときどき出てくる 。ときにはこの対照実験の当事者たちからも 。なんであいつはお金がもらえて 、オレはもらえないんだよ 、不公平だろうというわけだ 。でも 、こんな実験が必要なのは 、そもそもその施策や介入に効果があるかどうかわからないからだ 。したがって 、本当に不公平かどうかは 、この実験の成果が確認されるまで 、実はだれにもわからないのだ 。だからこの批判はちょっとピント外れではある 。とはいえ 、これは実験実施にあたっては大きなトラブルの種となりかねず 、実験者の手腕が要求される点ではある 。そして 、それ以外にも 、この手法が完璧ではないという言わずもがなの指摘もときどき見られる 。これはまあ当然の話で 、こちらで効いた施策があっちでは効かないケ ースはいくらでもある 。それでもこの手法により 、従来はできないと思われていた経済学 ・社会科学の対照実験が 、それなりに厳密な形でできるようになった意義は大きい 。そして当初は軽視する声も大きかったこの手法の威力をまざまざと見せつけたのが 、本書の著者二人の活躍だ 。実験一つ一つでわかることは小さいかもしれない 。だがそれを 1 0年以上も続け 、小さな成果を積み重ねるうちに 、これまでははっきり言えなかったことが 、いまや裏付けをもって言えるようになっている 。そして 、援助がいいか悪いか 、という単純な原則論と張り合えるだけの強力な結果が 、いまや本書のような形で生み出されつつあるわけだ 。

4開発援助 ・貧困削減以外での意義すでにお気づきの方もいるだろう 。本書の多くの知見は 、実は開発援助や貧困削減といった狭い分野だけに関係するものではない 。もっともっと広い意義を持つ 。たとえば冒頭で挙げられる二つの発想 、つまり途上国の自主性と市場に任せるべきか 、それとも大きく介入して支援すべきか 、という議論は 、世間一般で見かけるあらゆる経済論争に登場する 、自由市場か政府か 、という話の一変種でしかない 。対象こそちょっとちがうが 、議論の中身はまったく同じだ 。そしてもちろん 、多くの議論は個別事例や個人の思い込み 、あるいは単純化した理論をもとに展開されている 。だが本書の議論を見れば 、こうした自由市場か政府か 、という議論だけでは不毛だということがわかる 。どっちも一理ある 。どっちにもそれなりの場がある 。こういう主張は 、なあなあの日和見と思われがちだが 、本書の議論を考えれば 、実はもっと積極的な役割があることがわかる 。また個別の議論を見ても 、応用はたくさんある 。たとえば教育問題 。問題は学校の有無ではなく不登校であり 、それをもたらしているのは実はエリ ート志向の教育方針だ 、という主張は 、日本の教育の現状にとっても意味を持つかもしれない 。生徒たちの理解が不十分なまま進学し 、大学でもかけ算の九九も知らない 、といった問題が指摘されるが 、本書の議論を応用する余地はかなりありそうだ 。これを書いている 2 0 1 2年初頭でも 、この問題をめぐる議論は世界的に尽きる気配がないが 、本書の指摘のみならず 、手法面を活用することでもっと生産的な話が可能になるのではないか 。同じく 、 1 9 9 0年代以来続いてきた日本のデフレ不況のために 、若年失業が問題となっている 。これに対して 、いまの連中は起業家精神が足りないとか 、やる気がないとか 、もっと自助努力をしろとか 、安易なシバキ議論は多い 。でもそれを言っている連中は 、安楽なサラリ ーマン生活を続けてきたり 、起業したとしても経済環境がずっとよい時代で 、すでに悠々自適だったりする 。そうした安楽な立場からあれこれ厳しいことを言うのは簡単だ 。でも 、それでは何の解決にもならないことを本書は指摘する 。貧乏人に厳しいことを言う先進国のぼくたちや高齢のお金持ちた  






ニューヨーク州立大学[1])証拠(科学的根拠またはエビデンス)の強さは、上に行くほど強くなる。上に向けて蓄積されていくので最近のランダム化比較試験が、3年前のメタアナリシスでは拾い切れていないといことは起こりうる。診療ガイドラインでも、薬の副作用を重視せず効果だけを評価していたり、代替医療を含めていない場合もある。 
  in vitro(試験管)など
ランダム化比較試験(ランダムかひかくしけん、RCT:Randomized Controlled Trial)とは、評価のバイアス(偏り)を避け、客観的に治療効果を評価することを目的とした研究試験の方法である[2]。従って根拠に基づく医療において、このランダム化比較試験を複数集め解析したメタアナリシスに次ぐ、根拠の質の高い研究手法である[2]。主に医療分野で用いられる。略称はRCTである。
改善度に関する主観的評価を避けるための尺度であるエンドポイント、効果の差を計測するための治療していない偽薬などを施した群、二重盲検法によって研究者がどちらが治療群かわからないようにし、治療群と対象群をランダムに割り当てるといった手法をとる[2]
初のランダム化比較試験は、1948年にイギリスにて実施された[3]。アメリカでは1962年に、医薬品の承認において、適切で十分に制御された2回の試験にて有効性を示すことが必要となった[4]。しかし、こうして行われたRCTでは、不十分な条件で試験されている場合もある[5]。また承認までに行われたその2回以外の試験を結合すると、否定的な結果が示されることがある[6]

目次


歴史編集

初のランダム化比較試験(RCT)は、イギリスにおいて、結核薬のストレプトマイシンが効くかどうかを調査するために、医学研究審議会(MRC:Medical Research Council)を代表してオースティン・ブラッドフォード・ヒル英語Austin Bradford Hillらによって行われた[3]。結果は1948年に、『英国医師会雑誌』(BMJ:British Medical Journal)に掲載された[7]。差を知りたい介入以外の介入が等しくなければ、因果関係が正しく分からないという[8]、統計学者のロナルド・フィッシャーによる統計理論が適用された[3]
連邦食品・医薬品・化粧品法は、1962年から薬剤の有効性の概念を設け、適切で十分に制御された2回の適切な対照を置いた臨床試験によって有効性が示されれば、薬は承認されることとなった[4]。1990年代移行に普及した根拠に基づく医療における考え方では、RCTは、RCTを複数集め解析したメタアナリシスに次ぐ、根拠の質の高い研究手法である[2]

条件編集

ランダム化比較試験は、主観的あるいは恣意的な評価のバイアス(偏り)を避けるために、以下の点が揃っている[2]
  • エンドポイント:改善度に関する尺度。改善度に関する主観的評価を避ける。
  • 比較対照:治療を施した群と、偽薬あるいは比較のための治療を施した対照群。治療介入の効果を算出するため。対照群がない場合、何が要因なのかはっきりしない。
  • ランダム化:母集団からのランダムな抽出や、治療群と対照群のランダムな割り当てを行う。効果が出そうな対照を選ぶことを避ける。
  • 盲検化:研究者と被験者に、治療群と対照群がどちらであるかを分からないようにする。計測に主観が入らないようにする。
RCTによる効果検証・効果測定が一般に行われる以前では、いくつかの不合理な治療・投薬が存在していた。広く知られているのは、心筋梗塞の治療後に、予防的にリドカイン(不整脈を防ぐ効果がある)の投薬が行われていた事例である。しかし、心筋梗塞後のリドカイン投薬群、非投薬群の追跡調査の結果、両者に差異が認められなかったため、現在では症例によって使い分けられるか、ほとんどの場合投与しなくなっている[9]

臨床試験におけるバイアス編集

ランダム化比較試験だけでは、まだバイアスの可能性は残っている。
製薬会社は、すでに相当成功した領域で薬の承認を得るためRCTに巨額を費やすため、「模倣」薬(“Me Too” Drugs)と呼ばれている[5]。こうして行われたRCTでは、開業医が見落とすような条件、投与量が新薬では多く対照薬では不十分という条件で試験されていたりする[5]
また、アメリカ食品医薬品局(FDA)の承認を得るためには、2つの肯定的な結果が出た試験が必要なだけで、有効性が示せないため臨床試験の数をこなし、否定的な結果が出た試験は提出されたまま公開されていないため、情報公開法に基づいてこれらのデータを結合してメタアナリシスを行うと否定的な結果が示されることもある[6]

関連項目編集

脚注編集

  1. ^ SUNY Downstate EBM Tutorial”. library.downstate.edu2015年9月3日閲覧。
  2. a b c d e 津谷喜一郎、正木朋也 2006, pp. 9-12.
  3. a b c Yoshioka 1998.
  4. a b Laurie Burke 1999.
  5. a b c Randal, J. (January 1999). “Randomized Controlled Trials Mark a Golden Anniversary”JNCI Journal of the National Cancer Institute 91 (1): 10–12. doi:10.1093/jnci/91.1.10PMID 9890163.
  6. a b Irving Kirsch (2010年1月29日). “Antidepressants: The Emperor’s New Drugs?”. The Huffington Post 2012年3月1日閲覧。
  7. ^ Medical Research Council 1948.

4 Comments:

Blogger yoji said...



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4:20 午前  
Blogger yoji said...

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         今日の所得
逆L字曲線:貧困の罠は存在しない


1が正解

4:25 午前  
Blogger yoji said...

ランダム化比較試験 - Wikipedia
ja.wikipedia.org/wiki/ランダム化比較試験
ランダム化比較試験(ランダムかひかくしけん、RCT:Randomized Controlled Trial)とは、評価のバイアス(偏り)を避け、客観的 ...
歴史-条件-臨床試験におけるバイアス
無作為化比較対照試験(randomized controlled trial: RCT)

3:30 午前  
Blogger yoji said...


2019年ノーベル経済学賞
http://fis.nri.co.jp/ja-JP/knowledge/bookreview/2019/20191015.html
受賞者はマサチューセッツ工科大学(MIT)のアビジット・バナジ-氏と、エスター・
デュフロ氏、それに、ハーバード大学のマイケル・クレマー氏の3人である。受賞理由は、
世界的な貧困削減のための開発支援プログラムに、新薬の薬効の検証などに用いられて
きた「ランダム化比較試験(RCT: Randomized Controlled Trial)」を取り入れ、貧困削減
の政策効果を実証可能にした功績が評価されたものだ。
さてこの「ランダム化比較試験:RCT」とは、ある施策(その筋では「介入」と呼ん
だりする)を導入することで、目指した効果がどの程度実現されたのかを正確に評価
するための手法である。このRCTは当初医療の世界で発展してきた。例えば、新しい
成分を含む新薬が開発された場合、その新薬の薬効が本当に効果的なのかを判断する
ためには、次のような観点から効果を判断する必要がある。
● 柄谷の話以外の要因で結果に変化が出ていないか?
● 柄谷の話による改善効果は、他の治療方法よりも優れているか?




【番外編】2019年ノーベル経済学賞とDX(前編)

2019年10月15日
10月14日、今年のノーベル経済学賞受賞者が発表された。受賞理由は貧困削減を目指す開発経済学の分野に「ランダム化比較試験(RCT : Randomized Controlled Trial)」という新たな手法を取り入れ、開発プログラムの政策効果を飛躍的に向上させた功績が評価されたことにある。このRCTは現在開発経済学以外の領域でも広く活用されている。ビジネスに近い領域で、いわゆる「A/Bテスト」と呼ばれる検証手法もRCTの応用である。ビジネスにおける様々な施策の効果検証は、利用できるデータの急増とデジタルツールの普及によって急速にその重要性を増している。今年のノーベル経済学賞をきっかけに、RCTを学んでみてはいかがだろうか。
「ランダム化比較試験:RCT」とは

受賞者はマサチューセッツ工科大学(MIT)のアビジット・バナジ-氏と、エスター・デュフロ氏、それに、ハーバード大学のマイケル・クレマー氏の3人である。受賞理由は、世界的な貧困削減のための開発支援プログラムに、新薬の薬効の検証などに用いられてきた「ランダム化比較試験(RCT: Randomized Controlled Trial)」を取り入れ、貧困削減の政策効果を実証可能にした功績が評価されたものだ。
さてこの「ランダム化比較試験:RCT」とは、ある施策(その筋では「介入」と呼んだりする)を導入することで、目指した効果がどの程度実現されたのかを正確に評価するための手法である。このRCTは当初医療の世界で発展してきた。例えば、新しい成分を含む新薬が開発された場合、その新薬の薬効が本当に効果的なのかを判断するためには、次のような観点から効果を判断する必要がある。
● 薬の投与以外の要因で結果に変化が出ていないか? ● 薬の投与による改善効果は、他の治療方法よりも優れているか?

12:20 午前  

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