水曜日, 8月 12, 2015

RBC,DSGEに関して(重複世代モデル、バロー『マクロ経済学』他)


《DSGEモデルによる論文は、(…ブランシャール氏の言い回しによると)「まるで俳句のように」定式化している。》

Zombie Economics:How dead ideas still walk among us.
Quiggin,John
http://www.hitachi-hri.com/research/recommend/b77.html ☆
Oliver Blanchard, Giovanni Dell'Ariccia, and Paolo Mauro(2010)「Rethinking Macroeconomic Policy」,IMF Staff Position Note
(ゾンビ経済学―死に損ないの5つの経済思想 筑摩書房 – 2012/11、第三章138頁)
著者ジョン・クイガンはオーストラリアのクイーンズランド大学経済学部教授
参考:

The unfortunate uselessness of most ‘state of the art’ academic monetary economics | willem buiter's maverecon

http://blogs.ft.com/maverecon/2009/03/the-unfortunate-uselessness-of-most-state-of-the-art-academic-monetary-economics/#ixzz3jEnyFYN2


Most mainstream macroeconomic theoretical innovations since the 1970s (the New Classical rational expectations revolution associated with such names as Robert E. Lucas Jr., Edward Prescott, Thomas Sargent, Robert Barro etc, and the New Keynesian theorizing of Michael Woodford and many others) have turned out to be self-referential, inward-looking distractions at best.  Research tended to be motivated by the internal logic, intellectual sunk capital and esthetic puzzles of established research programmes  rather than by a powerful desire to understand how the economy works – let alone how the economy works during times of stress and financial instability.  So the economics profession was caught unprepared when the crisis struck.
同158頁参照
1970年代以来、最も主流のマクロ経済理論のイノベーション(ロバート·E·ルーカス·ジュニア、エドワード·プレスコット、トーマス·サージェント、ロバート·バローなど、マイケル·ウッドフォードや他の多くのニューケインジアン理論化などの名前に関連する新古典合理的期待革命)が最高の状態で内向きの気晴らしは、自己参照であることが判明しました。 ましてや経済がストレスや金融不安の時代にどのように機能するか - 研究は内部ロジック、知的沈ん資本と確立研究プログラムの美的パズルによってではなく、経済の仕組みを理解するための強力な欲求によって動機づけされる傾向にありました。 危機が襲ったときに経済学の専門職は、準備ができていないキャッチされました。

追記:
同118頁

経済を子守りしてみると。  

Baby-Sitting The Economy  

Paul Krugman 著,1998 年 8 月13日 Slate 掲載   (2008年以降見直された短文)

http://cruel.org/krugman/babysitj.html

 まず、この協同組合ではメンバーたちが、自分たちのシステムに不要な部分があるのに気がついたとしよう。ときにはあるカップルが、何日か続けて外出したいこともあるだろう。そうなると手持ちのクーポンが足りなくなる――そうなると、子守りをしてもらえない。あとで埋め合わせにいくらでも子守りをする気があるのに。この問題を解決するために、この協同組合では、メンバーの必要に応じて、本部から追加クーポンを借りられるようにした。そしてその分は、後日子守りをすることで埋め合わせる。でも、この権利をメンバーが濫用すると困るから、本部としては何らかのペナルティをつける必要があるだろう――借り手は、返す時には多少上乗せして返さなきゃいけない、という具合に。

 この新しい方式のもとだと、カップルたちは手持ちのクーポン量は以前より減らすだろう。必要なら借りられるんだからね。でも協同組合の管理者たちは、これで新しい管理ツールを手に入れたことになる。もしメンバーから、子守りをしたい人は多くて、子守りの機会が少なくなってますよという報告が入ったら、メンバーがクーポンを借りる条件は緩くなるだろう(つまり上乗せ分が減るだろう)。するとみんなもっと出かけるようになる。もし子守りが不足気味なら、条件をきつくすればいい。みんな外出を控えるようになる。 言い換えると、このもっと高度な協同組合には中央銀行ができて、停滞した経済を金利の切り下げで刺激したり、加熱した経済を金利引き上げで冷やしたりできるってことだ。

 でも日本の場合はどうだろう――金利がほとんどゼロまで下がっても、経済がまだ停滞してるじゃないか。子守り協同組合のたとえ話も、ついに扱いきれないような状況が登場したんだろうか?

「さっさと不況を終わらせろ」 早川書房 クルーグマン著 所収
http://fu-rai-bo.blogspot.jp/2013/06/blog-post.html

ーーーー

邦訳『ゾンビ経済学』156頁より参考:

Clark 2009

Dismal scientists: how the crash is reshaping economics - The Atlantic

http://www.theatlantic.com/business/archive/2009/02/dismal-scientists-how-the-crash-is-reshaping-economics/614/

(2) The debate about the bank bailout, and the stimulus package, has all revolved around issues that are entirely at the level of Econ 1.  What is the multiplier from government spending?  Does government spending crowd out private spending?  How quickly can you increase government spending? If you got a A in college in Econ 1 you are an expert in this debate: fully an equal of Summers and Geithner.    

The bailout debate has also been conducted in terms that would be quite familiar to economists in the 1920s and 1930s.  There has essentially been no advance in our knowledge in 80 years.

https://translate.google.co.jp/translate?hl=ja?sl=en&tl=ja&u=http%3A//www.theatlantic.com/business/archive/2009/02/dismal-scientists-how-the-crash-is-reshaping-economics/614/

(2)銀行救済について議論し、景気刺激策は、すべての政府支出から乗数は何イーコン1のレベルで完全な問題を中心に展開していますか? 政府支出の観客は、民間支出出ていますか? どのようにすぐにあなたは政府支出を増やすことができますか? サマーズとガイトナーの完全に等しい:あなたはイーコン1の大学にAを得た場合は、この議論の専門家です。

救済の議論も1920年代と1930年代の経済学者に非常に精通しているであろうという点で行われています。 基本的に80年後には我々の知識には、あらかじめ存在していません。

ーーー
ケインズ学会で浜田宏一先生がDSGE批判をしてたけど、完全に同意した。よく「DSGEでも失業や貨幣が実体経済に影響するモデルをつくれますよ」という説明をする若手、というか矢野さんや井上さんたちがいるがw そういう問題じゃないんだよな。地獄に一輪花を添えても地獄は地獄。
浜田宏一先生のDSGE批判は、ジョン・クイギンの『ゾンビ経済学』(筑摩書房)と基本ラインは同じ。

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RBC に関しては以下の図だけでいい
https://lh3.googleusercontent.com/-94Jz54yhNIM/VVlu1OtmHrI/AAAAAAAAukU/wsWq4AJMfkg/s640/blogger-image-591565437.jpg
https://lh3.googleusercontent.com/-0w5x8vmaztA/VVlu9wSHB_I/AAAAAAAAukc/jYF7N33GOec/s640/blogger-image--419613860.jpg
https://lh3.googleusercontent.com/-BPnyeYGvKNU/VVlus9w2F4I/AAAAAAAAukM/McVRn7aCPqo/s640/blogger-image--1159011866.jpg
以上、菅原晃『図解 使えるマクロ経済学』2014年,中経出版より

DSGEに関しては以下の図だけでいい
https://lh3.googleusercontent.com/-Azy_xwK5_pU/VVoSae8L-TI/AAAAAAAAulE/T-X37gMhfj8/s640/blogger-image--1415090821.jpg

http://libertystreeteconomics.newyorkfed.org/2014/09/a-birds-eye-view-of-the-frbny-dsge-model.html#.Vczn653tmko
A Bird’s Eye View of the FRBNY DSGE Model
要するに過去のケインズ経済学に適当にショックの変数を足して多くしただけだ
(動的と言ってもRBC経由の2期間モデルに過ぎない。詳細な変化のグラフも長期的展望といえば聞こえはいいが劇的な変化を前提としないからこそ可能になっている。)
そこに哲学がないから金融緩和と増税=アクセルとブレーキを同時に踏むようなこと
を平気でやるようになる。
ショック間の関係性が把握されていない。
就職したいなら以下のような技術を導入すべきだろうが、所詮はハッタリである。
Download - Masataka Eguchi's Website
https://sites.google.com/site/masatakaeguchi/download
http://www.rpip.tohoku.ac.jp/seeds/profile/462/lang:jp/
農業と工業の違いもわからないからTPPしか方向性が見えなくなる

《原則すべてのDGSE(ママ)モデルはRBCモデルという「ピザの生地」に帰着するため、適当に「具」をどけたりのせたりしてやれば、自分の好みのピザを作ることができる。》
加藤涼『現代マクロ経済学講義』245頁(参照30~3頁)

世代重複モデル(An Overlapping Generations Approach)は、マッキャンドレス他『動学マクロ経済学』邦訳1994年原著1991年( McCandless,Macroeconomic Theory,1991)が代表的。ダイヤモンド1965+ソロー1956。

一般均衡型世代重複 (Overlapping Generations. 以下 OLG) OLG モデルは、Allais1947)、Samuelson(1958)が創始。
モーリス・アレ (Maurice Allais, 1911年5月31 日 - 2010年10月10日)

モーリス・アレ (Maurice Allais)
http://cruel.org/econthought/profiles/allais.html
 独立独歩のフランス経済学者モーリス・アレは、ワルラスパレートによる当初のローザンヌ学派の主張を、1930 年代の パレート革命(と当サイトが呼んでいるもの)を通じて復活させようと尽力した。モーリス・アレは 1940 年代に主要な論文を二本書いた。 Á la Recherche d'une discipline économique (1943, 再録 1952) 及び Economique et interet (1947) だ。この発想は大部分が「レオン・ワルラス、アーヴィング・フィッシャー、そして中でもヴィルフレード・パレートという私に深い影響を与えた三偉人の業績を考察する中で生まれたものだった」 (Allais, 1992) という。後にある人が述べたように、アレがこの二論文を英語で書いていたら、「経済理論のまるまる一世代がまったくちがった方向をたどっただろう」 (サミュエルソン, 1983)。
 1943 年の力作で、アレは パレート体系の基礎をほとんど固めた。これは静学的な枠組みと時間をまたがる動学的枠組みの両方における、厚生経済学の基本定理の証明も含む。さらにいまや一般均衡状況における市場の失敗に関する、いまや標準的な発想となっているものを明らかにした。自然独占や取引費用、不自然なレントが市場効率に与える潜在的な意味合いを認識したアレは、いくつかかなり「過激」な政策提言を行った。古いローザンヌ学派との親近性は、政策上の論点にも及んでいる。つまり、後者が土地の完全国有化と、資本課税を通じた極端な所得再分配を主張したのに、アレも賛成しているのだ。
 アレの時間をまたがる(動学的)均衡と資本に関する研究は、1947年の著書で拡張され、他の論文でさらに展開された (1960, 1962, 1965, 1967)。1947年の貢献としては、いまや有名な「オーバーラップ世代 (OLG)」の発明がある(これはサミュエルソンより早い)。アレはまた、「最適成長の「黄金律」を考案した (フェルプスよりはるか前だが、フォン・ノイマンよりは後)。 ボーモルの、お金の取引需要法則 もまた1947年にアレが予見している。
 アレの貢献として英語圏で一番有名なのは、たぶん不確実性の下での選択理論における 「アレのパラどっっくす」だ——これはアレが、1953年の論文数本で述べたものとんる。簡単に言うと、このパラドックスは、伝統的な期待効用理論で想定される前提は、現実生活の意思決定と矛盾している、というものだ。具体的に、アレは期待効用のルールに反するふるまいを見つけている。アレが導入したアイデアは、エージェントのリスクに対する態度と「不確実性の度合い」の間には系統的な関係があるというものだ。これは後に「共通帰結効果」と呼ばれるものだ。このパラドックスを見つけたアレは、不確実性の下での新たな意思決定理論の構築に乗り出した (たとえば 1983, 1984, 1986, 1988, 1991)。
An Exact Consumption-Loan Model of Interest with or without the SocialContrivance of Money. Paul A. Samuelson. The Journal of Political Economy, Volume 66, Issue 6 (Dee, 1958), 467-482. Reprinted in Collected scientific papers of Paul A. Samuelson. Vol. 2.
サミュエルソン経済学体系 2 消費者行動の理論 に再録
「厳密な消費貸借の利子モデル・貨幣という社会的考案をもつ場合、もたない場合」邦訳体系第二巻229~253頁
National Debt in a Neoclassical Growth Model on JSTOR
http://www.jstor.org/stable/1809231 Diamond 1965
http://people.hss.caltech.edu/~camerer/SS280/DiamondAER65.pdf

ブランチャード講義参照


世代重複モデルで見る少子高齢化と利子率: ニュースの社会科学的な裏側
http://www.anlyznews.com/2012/05/olg.html

1. IS-LMやDSGEとOLGの違い

古典的モデルなわけだが、さらに古典的なIS-LMモデルと流行りのDSGEとの違いに触れておこう。
  1. 永久に生きる代表的な個人がいない
  2. 家計/企業の効用/利潤最大化問題が組み込まれておりミクロ経済学的な基礎がある
  3. 完全雇用状態で、供給サイドで全てが決定される
  4. 名目利子率と実質利子率の違いが無い
長期分析には向いているが、短期分析には向いていないかも知れない。
なお、伝統的ケインズモデル(IS-LM)とDSGEの違いは江口允崇氏が日本経済新聞「やさしい経済学:財政政策の効果(1)~(9)」でやさしく紹介されている。
追記(2012/05/11 15:30):複数世代が存在するDSGEモデル(DSGE models in OLG frameworks)も存在し、そちらはOLGとの違いは曖昧になる(BIS)。 

バロ- マクロ経済学 / バロー,ロバート・J.【著】〈Barro,Robert J.〉/谷内 満【監訳】/増井 彰久【訳】 - 紀伊國屋書店ウェブストア 2010年(2008年版の邦訳。1987年邦訳旧版にはソローの名はまだない☆)
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784496046766

目次

第1部 イントロダクション
第2部 経済成長
第3部 景気変動
第4部 貨幣と物価
第5部 政府部門
第6部 貨幣と景気循環
第7部 国際マクロ経済学
 バロー マクロ経済学: ロバート・J. バロー, Robert J. Barro, 谷内 満, 増井 彰久: 本 2010

以下、2007or2008年実質第6版?
Amazon.co.jp: Macroeconomics: A Modern Approach: Robert J. Barro: 洋書 2007
http://www.amazon.co.jp/Macroeconomics-Approach-Robert-J-Barro/dp/0324545673


☆以下、バロー『マクロ経済学』1987年多賀出版版 、
  目次   
1:マクロ経済学へのアプローチ
第1部 ミクロ経済的基礎づけと市場均衡モデルの基本型
2:労働努力と生産と消費経済学 
3;財市場・信用市場における家計の行動
4:家計の行動
5;貨幣需要
6;市場均衡の基本モデル
第2部  インフレーション
7:貨幣、インフレーション、および利子率 (→4へ)
8;市場均衡モデルにおける貨幣、インフレーション、および利子率 ☆☆
第3部 労働市場、投資、および経済成長
9:労働市場と失業
10;投資 (→3へ)
11;市場均衡モデルにおける投資
12;資本蓄積と経済成長 (→2へ)
第4部 政府の行動
13:政府購入と公的サービス
14;税と移転支出
15;公債
第5部 貨幣部門と実質部門の相互作用
16:金融仲介
17;名目変数と実質変数の相互作用(最新版では16,17が第4部を新たにつくる。全体一部増。)
18;貨幣と景気変動
19;景気変動のケインジアン理論
第6部 国際経済
20:国際経済

☆☆
貨幣の中立性8:2,200頁

/////
リカードの中立命題とバローの中立命題
Saturday, February 25, 2012
(2/27に若干修正しましたが、主旨は変わっていません。)

 前エントリー「リカードの等価定理と中立命題」で「等価定理」と「中立命題」の間に差はないと述べた。 しかし、リカードの議論を「等価定理」と呼び、バロー教授の議論を「中立命題」と呼んで区別するケースは多い。それは以下のような経緯による。
 ブキャナン教授の著書を押しのけて、「リカードの等価定理」を現代に復活させたという名誉に輝いたバロー教授の論文は次のとおりだ。


この論文の内容は「バローの中立命題」とも呼ばれ、「リカードの等価定理」に並び称される。ただし、リカードが「等価定理」という言葉を使っていないように、バロー教授も論文で「中立命題」という言葉を使っていない。1980年頃に発表されたJeffrey Carmichaelのディスカッション・ペーパーやWillem H. Buiterのワーキングペーパーで"Barro's (Debt) Neutrality Theorem"という表現を見つけることができる。これらの影響でバロー教授の議論を「中立命題」と呼ぶことがある。
 だが、もっと重要なことは、「等価定理」と「中立命題」の言葉の違いではなく、リカードの議論とバロー教授の議論の内容の違いだ。
 先日、公務員志望の学生から、次のような問題について解説を求められた(注1)。

リカードの中立命題とバローの中立命題の違いを説明しなさい。

 これに類する問題は一部の公務員試験で頻出となっており、志望者にとっては必須の知識らしい。想定されている答えは、例えば、次の説明を読み比べれば明らかだ(リカードの中立命題バローの中立命題注2)。つまり、公債の発行・償還が同一世代内で完結しているケースはリカードの中立命題、異世代に渡っているケースはバローの中立命題というわけだ。
  もう少し詳しく言うと、こういうことだ。リカードの中立命題では、増税時期が次世代まで延期されると、現在世代は減税によって自分が豊かになったと考えて 消費を増やす(中立でなくなる)。しかし、バローの中立命題では、次世代の増税負担に配慮して、負分担に相当する財産を残すため、現在世代の利用可能な資 源は変わらず、したがって消費も不変となる(中立となる)。
 バロー論文が発表されるまでにも、国債の中立性を議論した研究は数多く存在した。例えば、以下の著書が代表的だ(末尾カッコ内は該当ページ)。


ただし、(ブキャナン教授の著書を含めて)いずれの議論も世代交代や遺産については触れていなかった(注3)。遺産の存在を強調することで、国債の発行・償還が世代を越えたとしても、なお中立命題が成立するというバロー教授の主張は画期的なものだった。
 ここまで見ると、バロー論文に対する評価は正当なものに思えてくる。それはその通りだ。しかし、このエントリーの問題意識はそこにはない。重大な 誤りは公務員試験の問題にある。なぜなら、リカードの中立命題とバローの中立命題の違いを説明することは不可能なはずだからなのだが・・・。


[注]
1:ここに提示した問題はわかりやすくするために私が作文したものであり、公務員試験の問題そのものではない。また、「リカードの中立命題」は「リカードの等価定理」と同じ意味で用いられている。
2:いくつかのマクロ経済学や財政学・公共経済学のテキストでも同様の解説を読むことができる。
3:ブキャナン教授以外はリカードにも触れていない。  













米国サブプライムローン問題は、米国証券大手リーマン・ブラザーズの経営破たんを経て世界的な金融危機へと拡大した。世界経済は、この「100年に一度」の危機からようやく脱しつつある。しかし、私たちが危機からの教訓を十分に理解できているとは言い難い。危機から何を学ぶのかを考えるために本書は格好の教材である。

今回の危機で明らかになったのは、80年代以降多くの経済学者や政策担当者が信奉してきた「市場自由主義(Market Liberalism)」(サッチャリズムなどの「新自由主義」をより中立的に表現して著者はこう呼んでいる)が誤っていたことだと本書は指摘し、にもかかわらず、再びよみがえって横行しつつあると嘆く。本書の著者であるオーストラリア・クイーンズランド大学教授ジョン・クイギン(John Quiggin)氏は、何度墓場に埋めても蘇生する誤った経済思想を「ゾンビ・エコノミクス(Zombie Economics)」と呼び、「市場自由主義」を支えていた5つの経済思想がそれだとして批判する。

「大いなる安定(Great Moderation)」大中庸、大平準、大緩和、大安定etc.

一つ目のゾンビが「大いなる安定(Great Moderation)」思想である。85年から危機直前まで、大半の先進国で経済成長率や失業率の振幅が縮小していたため、景気循環はマクロ経済政策により克服できたと政策担当者は錯覚していた。これが幻想であったことは、今回の未曾有の金融危機の発生からも明らかで、IMFチーフエコノミストのオリビエ・ブランシャール氏などもその誤りを認めている*1。にもかかわらず、危機を一時的な景気変動(transitory blip)として、あたかも金融危機など無かったかのようにみなす研究もあり、マクロ経済政策の全能性という思想はゾンビ化して歩き回っていると著者は危ぶむ。

二つ目が「効率的市場仮説(Efficient Market Hypothesis、以下EMH)」である。金融市場で決定される価格は利用可能なすべての情報が織り込まれ、常に適正だと考える新古典派(New Classical)の思想である。政府の介入によって市場機能が阻害されない限り、常に金融市場は最適な資源配分を行うとする金融市場を絶対視した思想だが、これがやみくもな金融規制緩和と金融産業のむやみな拡大を招いたと非難する。

「動学的確率的一般均衡モデル(Dynamic Stochastic General Equilibrium、以下DSGEモデル)」が三つ目のゾンビである。DSGEモデルは、シカゴ大学など五大湖周辺に位置するため淡水学派(freshwater)と称される新古典派と、ハーバード大学、MITやスタンフォード大学など東・西岸に位置するため海水学派(saltwater)と称されるニューケインジアン(New Keynesian)という対極にある学派同士がともに生息できる、いわば汽水域(brackish)的な経済モデルである。マクロ経済理論モデルは、過去のデータに基づくべきではなく、ミクロ経済分析に基づくべきであるとする1976年のルーカス批判(Lucas critique)の行き着いた先がDSGEモデルといえる。DSGEモデルによる論文は、(前述のブランシャール氏の言い回しによると)「まるで俳句のように」定式化している。まず、完全競争市場、合理的期待形成(rational expectations)、EMHなどを想定し、家計は効用極大化、企業は利潤最大化を行うというミクロ経済分析に基づき、個々の財・サービス市場だけでなく、それらを合計したマクロレベルでも一般均衡が達成されていると考える。次に、ミクロ経済分析に市場の不完全性などの若干の修正を加える。最後にモデルによるシミュレーションを行い、もっともらしい動きをすることを示す、といった具合である。DSGEモデルは数学的に美しく、信奉する経済学者は多かった。しかし、無数の家計、企業、労働者を「代表的個人(representative agent)」として、全員を一様に扱うのは過度な単純化であり、モデルの示唆するところも非現実的なものである。DSGEモデルは、美しさを優先して、現実からかけ離れ、役に立たなくなったと本書は批判する。何より、マクロ経済学が発生した1930年代の大恐慌を説明できなかったし、今回の危機も同じく説明できない。

富者がより富めば、その富は貧者にも滴り落ちる(trickle-down)という「トリクルダウン理論(trickle-down economics、以下TD理論)」が四つ目のゾンビである。これはサプライサイド経済学の代表的思想で、実際に米国レーガン、ブッシュ政権ではTD理論に基づいた規制緩和や減税が実施された。しかし、行き着いたところはTD理論とは正反対の、富者はますます富み、貧者は行き場をなくす不公正の拡大だった。また格差拡大に伴い、教育、医療、雇用面で「市場自由主義」が唱える「機会の平等」は失われ、米国の社会移動(世代ごとに富者と貧者が入れ替わる程度)は先進国中最低水準にまで低下してしまったと批判する。TD理論の正当性を認める統計は存在しない。

五つ目が「民営化(privatization)」。何でも民営化すれば、国の財政は助かるようにみえるが、リスクの最後の担い手としての政府の価値を認めない粗雑な考えであり、実際にも民営化には成功例よりも失敗例の方が多い。

5つのゾンビを墓場に埋めたとしても、「市場自由主義」に代わる考えを広めないとゾンビはまたよみがえってしまう。そこで著者が示すのは、ケインズ経済学と混合経済(mixed-economy)の再興である。幸いにも今回の危機は大恐慌の再来を回避できた。救ったのは、DSGEモデルのような最新といわれる経済学ではなく、大規模な金融緩和と財政拡張のポリシーミックスという伝統的なケインズ経済学だった。その上で著者は、70年代のスタグフレーションの原因は果たしてケインズ経済学の欠陥にあったのかと問い掛け、新しいケインズ経済学の確立を提言する。

また、混合経済の重要性も指摘している。政府の失敗ばかりが強調され、「市場自由主義」がはびこってきたが、その下では、時として市場は適正価格と乖離(かいり)した価格付けをすることがあることを私たちは過去の不合理な資産バブルの生成と崩壊、そして今回の危機から学ぶべきだ。著者は今回の危機を機に市場の失敗の代償も十分に高いことを再認識し、自由放任(laissez-faire)でも計画経済でもない第三の道として、私有制と公有制が並存する混合経済を築けと説く。

著者はオーストラリアにあって、米・英・オーストラリア・ニュージーランドなど英語圏諸国で過去30年吹き荒れた「市場自由主義」を欧州型の「社会民主主義」優位の立場から批判している。読者の信じている経済学や価値観によっては、本書は不愉快かもしれない。それでも、経済思想の変遷を知るのに役立つと考える。読者が本書の考え方に賛成するにしても、反対するにしても、今回の危機は私たちおのおのが信じている経済学を今一度省みる良い機会となるだろう。



ゾンビ経済学―死に損ないの5つの経済思想
ジョン クイギン著 
エディション: 単行本
価格: ¥ 2,808

5つ星のうち 4.0 第3章DSGE批判は必読2015/8/22
『図解 使えるマクロ経済学』が参考文献にあげていた『ゾンビ経済学』。
これは2008年のリーマンショックを解説した本の中で一番いい。
特に第3章のRBC,DSGE批判は必読。
理論的解説は松尾匤のHPに負けるが、状況論的大枠の解説ではこちらに説得力がある。
多分オーストラリア人だからアメリカを客観視できたのだろう。
注24でリーマンショックのスケープゴートに地域再投資法(CRA)がされていたと
初めて知った。むしろ金融危機後はCRAが必要になるだろう。
足で稼ぐ地域金融がすべてだからだ。
ただトリクルダウンや民営化を批判した章は良くない。
トリクルダウンの提唱者ハーシュマンの名前がない。これでは理論的に対抗出来ない。
民営化についてもサカーの経済理論のような対案がない。
結局ミクロとマクロ、両方必要という結論に読めてしまう。

追記:
234頁、危機を嬉々、公共を好況と打ち間違えている。
大中庸(Great Moderation)時代も「大いなる安定」時代の方が一般的訳語ではないか。

ゾンビの対立概念としてアニマルスピリットがある。




ルーカス、ポズナーに関しては、

経済学者の栄光と敗北 ケインズからクルーグマンまで14人の物語   平成25年7月25日  著 者 東谷 暁

がオススメ

2 Comments:

Blogger yoji said...

2010

バロー マクロ経済学
ロバート・J.バロー(著)/ 谷内 満(監訳)/ 増井 彰久(訳)

http://academic.cengage.jp/jpbooks/978-4-496-04676-6/
1949年生まれ。東京大学法学部卒、米国ブラウン大学経済学博士。世界銀行エコノミスト、経済企画庁調整局審議官、APEC経済委員会議長、内閣府政策統括官などを経て、2004年から現職。専門は国際金融論、マクロ経済学。
主な著書は「入門 金融の現実と理論」(センゲージラーニング 2009年)、「グローバル不均衡とアジア経済」(晃洋書房 2008年)、「アジアの成長と金融」(東洋経済新報社 1997年)など。
2001年度「経済財政白書」(国立印刷局)の執筆責任者。

目次

第1部 イントロダクション
第1章 マクロ経済を考える
第2章 国民所得勘定:国内総生産(GDP)と物価水準

第2部 経済成長
第3章 経済成長の入門分析
第4章 ソロー成長モデルによる分析
第5章 条件つき収束と長期的経済成長

第3部 景気変動
第6章 市場と価格、需要と供給
第7章 消費、貯蓄、投資
第8章 均衡景気循環モデル
第9章 資本稼働率と失業

第4部 貨幣と物価
第10章 貨幣需要と物価水準
第11章 インフレ、貨幣増加、利子率

第5部 政府部門
第12章 政府支出
第13章 課税
第14章 政府債務

第6部 貨幣と景気循環
第15章 貨幣と景気循環(1):価格誤認モデル
第16章 貨幣と景気循環(2):硬直的な価格と名目賃金率

第7部 国際マクロ経済学
第17章 財と金融の国際市場
第18章 為替レート

7:16 午後  
Blogger yoji said...

☆以下、バロー『マクロ経済学』1987年多賀出版版 、
目次   
1:マクロ経済学へのアプローチ
第1部 ミクロ経済的基礎づけと市場均衡モデルの基本型
2:労働努力と生産と消費経済学
3;財市場・信用市場における家計の行動
4:家計の行動
5;貨幣需要
6;市場均衡の基本モデル
第2部  インフレーション
7:貨幣、インフレーション、および利子率 (→4へ)
8;市場均衡モデルにおける貨幣、インフレーション、および利子率 ☆☆
第3部 労働市場、投資、および経済成長
9:労働市場と失業
10;投資 (→3へ)
11;市場均衡モデルにおける投資
12;資本蓄積と経済成長 (→2へ)
第4部 政府の行動
13:政府購入と公的サービス
14;税と移転支出
15;公債
第5部 貨幣部門と実質部門の相互作用
16:金融仲介
17;名目変数と実質変数の相互作用(最新版では16,17が第4部を新たにつくる。全体一部増。)
18;貨幣と景気変動
19;景気変動のケインジアン理論
第6部 国際経済
20:国際経済
https://opac.lib.city.yokohama.lg.jp/opac/OPP1500?ID=4&SELDATA=TOSHO&SEARCHID=3&START=1&ORDER=DESC&ORDER_ITEM=SORT4-F&LISTCNT=10&MAXCNT=1000&SEARCHMETHOD=LN_SEARCH&MENUNO=10

☆☆
貨幣の中立性8:2,200頁

7:19 午後  

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