岩村充 『中央銀行が終わる日―ビットコインと通貨の未来―』新潮社2016
以下書評。
近年の経済学者のなかでは珍しく(ケインズ、フィッシャー、クライン以来か)、早稲田大学教授の岩村充は
ゲゼル#4:3を真面目に取り上げている(同著者の前著ではゲゼルはコラム扱いだったが
本書では格上げされている。図版は岩村充「企業金融講義」2005から再録が多い)。
(本書は近未来的電子マネーに話題を特化しているが、岩村は翁邦雄『金利と経済』2017で紹介
されていた日本銀行改革案のような現実的な打開案を具体的に述べる学者だ。)
岩村は電子マネーにして(マイナスを視野に入れた)利子変動制を主張する。 インフレターゲット
論などと一線を隠したいのだろう。
ゲゼル案の過去の実例の場合小銭を徐々に回収する必要があったと思うが、電子マネーにすれば
簡単だ(とはいえデジタルとアナログで同じ課題は残る。実質と名目? それでいいというのが岩村の発想)。
租税と減価手数料の相乗りというアイデアを無視しているので、利子がいずれはプラスになる
ことを当然視している。 すべて従来の鋳造益、貨幣発行益=シニョレッジの範囲である。
ケインジアンの考え方が立体的に図解されているのが興味深いが、主になるのはハイエクの貨幣
自由発行論の文脈なので観念論で観念論を相殺する格好になりがちなのが難点ではある。
(知識人がハイエクに拘るの 傾向があるのは、単にその人がゲゼルも評価したプルードンを知らないからである。ただしゲゼルを狭い地域通貨談義から切り離すことには成功している)
ちなみに著者はケインズのバンコールを評価しているが元々ゲゼルのアイデアだとは考えてい
ないようだ。またゲゼルの土地政策案にも触れていない。
全体としては「ゲゼルの魔法のオカネ」という言い方が気になるが(2008年『貨幣の経済学』以来の用語)、基本的にはゲゼルのアイ
デアを最大限評価して、新たなテクノロジー(ビットコインの原理の解説が主だが)で蘇らせよう
としている。
経済学部出身なのに商学部所属ということはゲゼルが見直されるには商学の再興が必要という
ことだろうか?
索引がないのはわかるが、参考文献表がないのは不親切。また、生命地域主義的な観点は貨幣に関しても無視できない。
追記:
より体系的にゲゼル型貨幣の可能性を検討(ただし理論的なもので電子マネーを考えてはいない)している同著者による『新しい物価理論』(2004)と併読すべきだろう。こちらはゲゼル研究会のurlなども紹介している。
《交換手段としての貨幣から価値保蔵手段を切り離すという主張は,彼の代表的著作で
ある「自然的経済秩序」(Gesell 1916)第3.13章で“ I therefore propose a complete
separation of the medium of exchange from the medium of saving"として述られ
ている(1929年英訳版による,なお同版は http//www.systemfehler.de/en/index.htm
から入手できる),なお,ゲゼルに関連する様々な資料は非営利団体である「ゲゼル研究会」
によって提供されており(http//www.grsj.org/),本章の記述も同会の資料に多くを拠っ
ている.》195頁
以下も参考文献に挙げられている。
《Onken, Werner (1983),"Ein vergessenes Kapital der Wirtschaftsgeschichte,"
Zeitschrift fur Sozialokonomie[宮坂英一訳「経済史の忘れられたー章(上)」
「自由経済研究」(ぱる出版),2000年5月]》
貨幣の価値保蔵と交換機能を切り離すこと
ゲゼル式を採用する費用対効果
この2つは重要な観点だ。
理論的には『新しい物価理論』の方がしっかりしているが『中央銀行…』では電子的減価マネーを採用した際のデジタルとアナログの価値の乖離を検証している点が現実的で優れている
岩村充 『中央銀行が終わる日―ビットコインと通貨の未来―』 新潮社 2016
中央銀行が終わる日―ビットコインと通貨の未来―
岩村充/著
1,512円(税込)
発売日:2016/03/25
日本銀行の金融政策はなぜ効かなくなったのか? 仮想通貨はなぜお金として機能するようになったのか? 「金利付き貨幣」の出現は、経済の仕組みをどう変えるのか? 日銀を飛び出した異能の経済学者が、「貨幣発行独占」崩壊後の新しい通貨システムを洞察する。マイナス成長がもたらす大格差時代を生き抜くための必読書。
はじめに
第一章 協調の風景――良いが悪いに、悪いが良いに
一 協調か競争か
なぜ協調なのだろう/かつてハイエクがいた/固定相場制から変動相場制へ
二 戻ってきた流動性の罠
財政政策の時代とその終わり/金融政策リバイバル/流動性の罠、再現@
三 閉じた選択肢の前で
異次元緩和の登場/もう引き返せない、か?/不安の少数派たち/閉じた選択肢の前で
パネル1:各国の消費者物価上昇率(5年間平均)/パネル2:ケインジアンの基本図/パネル3:フィリップス曲線の発見/パネル4:フィリップス曲線と流動性の罠/パネル5:心のバイアスと心の呪縛/パネル6:日銀券発行高の推移
第二章 来訪者ビットコイン――枯れた技術とコロンブスの卵
一 ビットコインの要素技術
枯れた技術の水平思考/暗号の始まり/計量的安全性という概念/データに署名する技術/手形は電子化できるが現金は……/ハッシュ関数☆
二 コロンブスの卵はどこか
秘密鍵と公開鍵そして匿名性/P2Pへのブロードキャスト/ブロックチェーンというアイディア/仮想掲示板システムの悩み/プルーフ・オブ・ワーク/マイナーたちのインセンティブ/仮想掲示板の前のドラマ
パネル7:機械式暗号機エニグマ/パネル8:デジタル署名と楕円曲線暗号/パネル9:ビザンチン将軍問題/パネル10:試行は絞り込みになるか/パネル11:口座番号F5R6I5D1A3XY/パネル12:伝言板あるいは掲示板/パネル13:至るところにあるPOW/パネル14:錬金術師ブラントの貢献/パネル15:300,001枚目のボード
第三章 ビットコインたちの今と未来――それはどこまで通貨になれるか
一 ビットコインからビットコインたちへ
アルトコインたちの出現/ビットコインの問題とビットコインたちの問題は違う/ブロックチェーンの活用法さまざま/暗号通貨あるいは仮想通貨そしてPOWモデル/産業化するマイニング/ビットコインのリスクと限界
二 それはどこまで通貨になれるか
貨幣と通貨の間にあるもの/ヤップ島の巨石貨幣/石貨の価値と金の価値/それを通貨にする方法/POWモデルにおける貨幣間競争/クリストファー・コロンブスとサトシ・ナカモト/捨てきれない疑い
パネル16:ビットコインの価格/パネル17:歴史の中のアルトコインたち/パネル18:誰が記録を公正に保持するか/パネル19:電子マネーと地域通貨/パネル20:産業化したマイニング/パネル21:四年に一度のチキンレース/パネル22:コインになったビットコイン/ パネル23:ヤップ島の石貨/パネル24:1ドル札が40億円?/パネル25:ムーアの法則/パネル26:コロンブスのサンタマリア号
第四章 対立の時代の中央銀行――行き詰る金融政策とゲゼルの魔法のオカネ
一 中央銀行は成長とともに生まれた
日本は運が良かった/今は病気か常態か/金融政策が始まったころ/銀行券の価値はどこから/フィッシャー方程式
二 金融政策は使命か重荷か
流動性の罠とインフレターゲット/デフレが逆転しても/拡がる所得格差/底辺への競い合い/企業ガバナンスと分配の問題/金融政策における不都合な現実
三 ゲゼルの魔法のオカネ ☆☆
ゲゼルの発想から/魔法のオカネの作り方/銀行券に時間情報を付ける/投信の発想からアナログ円を作る
パネル27:日本と米中そしてドイツ/パネル28:イングランド銀行は中央銀行でない?/パネル29:日本銀行のバランスシート/パネル30:フィッシャー方程式と金融政策の役割/パネル31:マイナス金利が観察される場合/パネル32:景気の循環と物価の循環/パネル33:企業の意思決定とコースの定理/パネル34:ゲゼル型貨幣の地域消費促進効果?☆☆☆/パネル35:「ゲゼルの魔法のオカネ」の収支計算/パネル36:投資信託/パネル37:デジタル円とアナログ円との分離
第五章 中央銀行は終わるのだろうか――ビットコインから見えてくる通貨の未来
一 ビットコインから何が見えるか
その安さはどこから/キャピタライゼーション自体は悪くない/仮想空間の使い方/デジタル銀行券かビットコインたちか
二 通貨独占発行権は必要か
二つの利子率と貨幣の供給量/ティンバーゲンの定理から/銀行券供給の限界費用問題/預金による信用創造という危うさ/通貨独占発行権は不祥の器
三 再びハイエク
貨幣利子率と通貨発行競争/自分の通貨圏を自分で選ぶ/中央銀行は終わるのだろうか/やがて秤座のように
パネル38:金と銀の価格/パネル39:POWは浪費の証明?/パネル40:銀行券モデルの運営費/パネル41:何を使って何を操作するか/パネル42:銀行監督が金融危機を作った?/パネル43:ナローバンク/パネル44:Is Big Brother Watching You?/パネル45:金利差と為替/パネル46:共通通貨という片道切符/パネル47:枡座と秤座
おわりに
_____
☆
ハッシュ関数というのは、対象となるデータの攪拌と圧縮を繰り返して一定の長さの要約値であるハッシュ値を算出するもので、このハッシュ値を通信データの後ろに付加しておくと、通信途上でのデータの欠落や改ざんを検知することができます。
☆☆
@
財政政策の役割:
物価水準を上下させる。
FTPLでは財政への見方が物価水準を決める
物価高 貨幣価値小
-------------------
⬆︎ 財政赤字は拡大するだろう
___________________________物価水準
⬇︎ 財政が再建されていくだろう
-------------------
現在 将来
物価低 貨幣価値大
金融政策の役割:
名目金利が物価の“坂”を作る
物価高 貨幣価値小
 ̄-_ _- ̄
 ̄-_ _- ̄
金利引き下げ⬆︎  ̄-_ _- ̄
___________ _- ̄____________物価水準
金利引き上げ⬇︎ _- ̄  ̄-_
_- ̄  ̄-_
_- ̄  ̄-_
現在 将来
物価低 貨幣価値大
穏やかな物価上昇[下降]を取り戻す手段
(名目金利が物価の“坂”を作る)
[金利引き下げすぐに物価上昇⬆︎] 物価高 貨幣価値小
 ̄-_ _- ̄穏やかな
 ̄-_  ̄-_ _- ̄ 物価上昇②
 ̄-_  ̄-_ _- ̄
_______ ̄-__ _- ̄____________物価水準
②金利引き上げて⬇︎ _- ̄_ ⬆︎  ̄-_ (財政政策が全体を上[下])
物価上昇を _- ̄  ̄-_  ̄-_
先送り_- ̄ ①  ̄-_  ̄-_
財政への見方の変化 ̄-_
 ̄-_デフレの現状
現在 将来
物価低 貨幣価値大
全体の底上げで財政政策①の有効性を表している。
左右、現在将来のバランスで貨幣の中立性を前提としたフィッシャー*的な金利政策②の
効果を表している。
デフレでは財政政策①が重要。公共政策による一時的財政悪化は必ずしも悪いとは限らない。
*フィッシャー方程式:
(1+名目金利)÷(1+自然利子率)=(1+予想物価上昇率)
《物価の「水準」を上下させるのが財政への見方で、「坂」を動かすのが金融政策とすると矛盾は解消されるというのが私たちの整理だった。金融政策の役割とは、物価に加わる圧力を、現在から将来にかけて分散させることに過ぎないわけだ。》★★★★
2008や2017のネット記事★★★★でも同様の解説がされていたが、金融政策がバランスをとり、財政政策が全体を押し上げると
いうように、財政政策①と金融政策②の協働をうまく説明している。
☆
ビットコインシステムはピア・トゥー・ピア型のネットワークにより運営され、トランザクション(ビットコインの所有権移転: 取引)は仲介者なしでユーザ間で直接に行われる。このトランザクションはネットワークに参加しているノードによって検証され、ブロックチェーンと呼ばれる公開分散元帳に記録されていく。トランザクションでは通貨単位としてビットコイン (BTC) が使用される。このシステムは中央格納サーバや単一の管理者を置かずに運営されるので、米国財務省はビットコインを分散化された仮想通貨というカテゴリーに分類している。ビットコインは最初の暗号通貨とも言われるが、DigiCashやRippleといった先行システムが存在し、それを最初の分散化されたデジタル通貨として説明するのがより正確である。ビットコインは、この種のシステムの中では最大の時価総額を持つものである。
ビットコインはトランザクション処理作業に対する報酬という形で新規に発行され、ユーザ達が計算能力を提供することでトランザクションは検証され、公開元帳に記録される。このトランザクションの検証・記録作業はマイニング(採掘)と呼ばれ、マイナー(採掘者)はトランザクション手数料と新規発行ビットコインを報酬として受け取る。ビットコインはマイニングにより入手される一方で、他の通貨や商品・サービスと交換することもできる。ビットコインを送信するときにユーザはマイナーに任意の額のトランザクション手数料を払うことができる。
ビットコインを商品やサービスの対価として受け容れる企業の数は、2015年2月に10万社を超えた。クレジットカード会社は通常2-3%の手数料を課すが、ビットコインでは多くの場合、企業は0%以上2%以下のトランザクション手数料を支払う。ビットコインを受け容れる企業の数が2014年に4倍に増加したにもかかわらず、暗号通貨は小売業界ではあまり普及していない。欧州銀行監督局(EBA)およびその他の情報提供元は、ビットコインユーザが返金を要求する権利やチャージバックにより保護されているとは言えないと警告している。犯罪者によるビットコインの利用は金融規制当局・立法機関・法執行機関・メディアの注意を惹きつけている。米国をはじめとする国々の当局者たちはビットコインを合法的な金融サービスを提供できるものと認識しているものの、闇ネット市場や盗難を中心として犯罪活動が行われている。
ビットコインは、採掘、もしくは商品・サービス・他の通貨との交換、また寄付を受けることにより入手できる。
中央支配機関がないビットコインの信用は、ネットワーク参加者全体で相互に形成されている。
価値下落を防ぐ努力をするような中央組織は存在しないというリスクがある一方で、使用者の意図に反して価値をコントロールすることもできない [12]。
中国では金融機関における取引での使用が禁じられ[13]、欧州銀行監督局は利用者保護に欠けると警告している[14]。
ビットコインの盗難は可能であり実例があるものの[15]、オフラインでの防止策でこうした危険性は減らせる[16]。
現在[いつ?]の全般的な商業流通量は、価格変動を煽る投機目的に比べて小規模であるものの、実際に製品やサービスの支払いに使用されている[17]。
ビットコインはクレジットカードの手数料よりさらに安価な決済コストを実現でき、かつ土日祝祭日に左右されない。また、売り手買い手双方ともに、個人情報やカード番号など、外部に漏れたら問題になるような情報の入力も必要ない。そのためeコマースの決済手段として着実に地歩を固めている [12]。
頭文字の大小による意味の違いがあり、大文字表記 (Bitcoin) はプロトコルと取引ネットワークを、小文字 (bitcoin) は通貨自体を指す[25]。
ビットコインの通貨単位は「bitcoin(ビットコイン)」である。2014年現在、ビットコインを表わす記号にはBTC、XBT、
がある[26]:2。補助単位としては、「mBTC(ミリ・ビットコイン)」、「µBTC(マイクロ・ビットコイン)」、「satoshi(サトシ)」が存在する。サトシはビットコインの作者であるサトシ・ナカモトを記念してつけられたビットコインの最小単位で、1億分の1ビットコインにあたる[27]。マイクロビットコインは100万分の1ビットコインで、単にビットと呼ばれることもある。
2014年10月7日に、ビットコイン財団は、ビットコイン用のISO 4217通貨コードを申し込む計画を明らかにし[28]、BTCまたはXBTが主候補であるとした[29]。
ビットコインには中央銀行のような中央機関は存在せず、通貨の発行や取引はすべてピアツーピア・ネットワーク上で行われている。
ビットコインのすべての取引履歴はブロックチェーン[注釈 1]と呼ばれる台帳に記録される。ブロックチェーンはネットワーク上のノードに分散的に記録される。過去のすべての取引が記録されているため、これを見れば、取引の整合性を誰でも検証することができる。
支払いの際に売買間の電子的な記録や履歴は存在しない代わりに、買い手は公式トランザクションログ、ブロックチェーンの更新を要求する[32]。
全トランザクションリストには所有履歴が記載されており、分散ネットワークにより検証されている。
ネットワーク参加者達は採掘者として知られ、取引手数料や造幣収益を得ている[33]。
参加者達は、パソコン、モバイル端末、あるいはウェブ・アプリケーション上のウォレット(財布)ソフトウェアを使ってビットコインの受け渡しを行う。
取引の確認手続きとマイニング編集
送金者は、金額や受取人などの取引情報[注釈 2]を、ネットワークを構成するマイナー[注釈 3](採掘者)と呼ばれるノードにブロードキャストする。マイナーは、受け取った取引情報をブロックという形でまとめ、ブロックチェーンの末尾に追加する。ただし、新しいブロックを記録するためには計算量の大きな問題を解く必要がある。マイナーたちは競ってその問題を解き、最初にブロックを追加することに成功したマイナーだけが一定額の報酬を得ることができる。二重支払いなどの不整合性は、ブロックをブロックチェーンに記録する際に他のノードによってチェックされる。
問題は10分ほどで解けるように難易度が調整されており、送金者は、取引の整合性がマイナーたちによって確認され、ブロックチェーンに記録されるまで同程度の時間を待たねばならない。流通するすべての ビットコイン通貨は、このようにマイナーへの報酬という形で市場に供給される。
多数決による不正の防止編集
ブロックチェーンの概念図。最良のチェーン(黒)は最も長い取引履歴を持つチェーンである。その他に、孤立したチェーン(紫)も存在する。
ブロックチェーンは取引履歴が記録されたブロックが一本の鎖のように繋がったものと考えることができるが、場合によっては分岐することもある。例えば、悪意ある攻撃者が過去のブロックを改竄した場合や、複数のマイナーが同時にブロックを追加した場合である。
こういった問題を、ビットコインは「最も長いブロックチェーンを信頼する」という原則で解決している。「長い」というのは単純にブロック数が多いという意味ではなく、そのチェーンを構成するのにかかった計算量が大きいという意味である。言い換えれば、計算量を単位とした多数決である。
攻撃者が過去の取引履歴を書き換えても、その履歴が信頼されるためには、そこから派生するチェーンが他のチェーンよりも長くならなければならない。しかし、チェーンを構成するためには大きな計算量が必要となる。善意のマイナーたちは常に最も長いチェーンにブロックを追加し続けているため、攻撃者は、その総計算能力を上回る計算資源を投じ、改竄したチェーンを伸ばしていかなければならない。つまり、単一の攻撃者がネットワーク全体の過半数の計算能力を保持していなければならない。ビットコインに参加するノードの数が十分大きければ、そのような計算資源を確保するのは困難である。ビットコインはこの考え方(プルーフ・オブ・ワーク(英語版))に基づいて堅牢性を担保している。
複数のマイナーがそれぞれ個別のブロックを追加し、チェーンが分岐してしまった場合は、ネットワーク上の各マイナーはそのうちどちらかのチェーンを選んでマイニングに取り組む。さらに新しいブロックがどちらかのチェーンに追加された時点で、他方のチェーンは放棄される。
アドレスと財布編集
ビットコインはアドレス[注釈 4]に対応付けられて格納される。アドレスは公開鍵暗号ペアとして生成され、そのアドレスから送金する際には対応する秘密鍵が必要になる。
財布[注釈 5]はアドレスの集合である。ビットコインのウォレットにはいくつか種類がある。
ソフトウェアウォレット編集
Windows、MacOS、iOS、Androidなどのオペレーティングシステム上で動作するソフトウェアのウォレットのことである。
ハードウェアウォレット編集
専用のハードウェアを使ったウォレットのことである。
ハードウェアウォレットのTrezor
ウェブウォレット編集
利用者に代わってウォレットを管理するウェブサービスのウォレットのことである。端末の種類にかかわらず利用できるため利便性は高いが、セキュリティ面はサービス提供機関に任せることになる。
ペーパーウォレット編集
紙にビットコインアドレスと秘密鍵を印刷したものである。クラッキングなどで秘密鍵が漏洩する危険性が無いため、最も安全である。
- 2008年 - 「サトシ・ナカモト」の名前で発表された論文で初めて紹介された[34]。
- 2009年 - Bitcoin-Qtという最初のオープンソースクライアント(ウォレットアプリケーション)がリリースされ、最初のビットコインが発行された[35][36]。
- 2009年 - 運用が開始される[11]。
- 2009年 - Bitcoin-Qtにある一つの機能が実装され、大量のビットコインが鋳造された。これは、ビットコインの取引と採掘を実施できるソフトウェアが Bitcoin-Qt しか存在しなかったためである。この機能は、採掘に特化したソフトウェアのほうがより効率が良いと判明したため、その後[いつ?]削除された。それ以降[いつから?]、ビットコインのオープンソースソフトウェアは、中核的な開発者と他の協力者のグループによりメンテナンスされ、拡張されている。
- 2009年5月 - サトシ・ナカモト[8][9]を名乗る人物によって論文が投稿される[10]。
- 2011年 - 1ビットコインの価値が約0.3米ドルから32米ドルまで急騰し、2米ドルに戻った。
- 2012年後半と2013年のキプロス金融危機の際には、ビットコインの価格は高騰し始め、2013年の4月10日には266米ドルのピークに達し、その後、約50米ドルまで下落した。
- 2013年 - 連邦捜査局 (FBI) はオンライン闇市のシルクロードを閉鎖し、2850万米ドル相当を押収した[37]。
- 2013年3月 - 技術的欠陥によりブロックチェーンの分岐が起こった。6時間の間、分岐した2つのビットコインネットワークは同時に運用され、各々が固有の取引履歴を持つことになった。激しい売り攻勢に直面し、中心的な開発者たち[誰?]は取引の一時的な停止を呼びかけた。ネットワークの大部分が、欠陥のあるバージョン0.8からバージョン0.7のビットコインソフトウェアにダウングレードされることにより、正常状態に復帰した[いつ?]。
- 2013年5月 - ビットコイン取引所のマウントゴックスに帰属する資産が米国の国土安全保障省により押収され、薬品売買を行うSilk RoadのウェブサイトがFBIにより閉鎖された[要出典]。
- 2013年10月 - 中国のIT大手バイドゥは、自社のウェブサイトセキュリティサービスの利用者にビットコインによる決済ができるようにした。ビットコインのATMは、2013年の10月にカナダのブリティッシュコロンビア州バンクーバーで初めて導入された。
- 2013年11月 - 採用する意向を示すブリック・アンド・モルタル企業は1000社に留まり[38]、オンライン企業2万社と対照的である[39]。中国を拠点とするビットコイン取引所のBTC Chinaは、日本を拠点とするマウントゴックスと欧州を拠点とするBitstampを追い抜き、取引量において世界最大のビットコイン取引所となった。
- 2013年11月19日 - 米国上院委員会の公聴会において、仮想通貨は合法的な金融サービスであるとされ、マウントゴックスのビットコインの価値は900米ドルのピークに達した。同日、あるビットコインが中国で6780人民元(1,100米ドル)で売買された。
- 2013年11月 - ビットコインはおよそ1,200万個存在しており、時価総額は少なくとも72億米ドルまでに達した。
- 2013年11月23日 - ビットコインの時価総額は初めて100億米ドルを超えた。
- 2013年12月5日 - 中国人民銀行は、中国の金融機関がビットコインを使用することを禁止した[要出典]。発表ののち、ビットコインの価値は下落し、バイドゥは特定のサービスについてはビットコインの受け入れを取りやめた[要出典]。中国では2009年以降、実世界の商品を仮想通貨で購入するのは違法となった。[要出典]
- 2014年1月 - ビットコインを使ったマネーロンダリングの容疑で2人の男が逮捕された[要出典]。BitInstant取引所の所長とビットコイン財団の副会長を務めるCharlie ShremとRobert Faiellaである。ShremはFaiellaに大量のビットコインを購入させ、それを使って闇市場サイトで非合法ドラッグを買わせた疑いが持たれている[誰によって?]。
- 2014年2月 - 最大級のビットコイン取引所のひとつであるマウントゴックスは、「トランザクション展性」という脆弱性に関する技術的問題を理由にして、ビットコインの引き出しを一時的に停止した[要出典]。同社がシステムの修正を進める中、一週間後にビットコインの価格は2月1日の800米ドルから400米ドルまで下落した。
- 2014年2月24日 - マウントゴックスのウェブサイトはネットワークから切り離され、全ての取引が停止された。決済プログラムの欠陥により、数年間にわたって計3億5000万米ドル相当のビットコインが盗難の被害に遭ったとの報告が行われた最中の出来事だった[要出典]。
- 2014年2月26日 - 大手取引所のマウントゴックスが全ての取引を停止した[40]。
- 2014年2月26日未明 - 大手取引所のマウントゴックス[注釈 6][注釈 7]が全ての取引を停止し[40]、「取引所のサイトと顧客を守るため、全ての取引を一時的に中断することを決めた」とした[41]。ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、25日、ニューヨーク南連邦地方検事局が捜査に着手し、マウントゴックスに召喚状を送り、書類の保全などを命じた[42]。28日、会社は東京地方裁判所に民事再生法の適用を申請し、受理された[43]。 会社は被害額が85万ビットコイン(114億円相当)および現金28億円としている。(480億円相当が正しい[44]。) グローコムの楠正憲客員研究員によれば、本来発行された取引IDを顧客が改ざんすることができ、もとのIDに問い合わせても取引IDがないため何回でも取引を要求できるという[45](トランザクション・ミュータビリティーといい、2011年に指摘済みだったがマウントゴックスは放置し、何回でも再送金したという)[要出典]。「ネットエージェント」の杉浦隆幸代表によれば、秘密鍵を管理する『財布』のパスワードを盗みとることができれば、大量の不正引き出しも可能だとする[45]。詳細は「マウントゴックス」を参照
- 2014年6月13日 - 米オンライン旅行最大手エクスペディアがホテル予約でビットコイン利用を開始。[46]
- 2014年7月18日 - デルが公式ホームページを通じた自社製品の販売で、ビットコインによる支払いの受け付けを開始。[47]
- 2014年8月 - アメリカの楽天スーパーロジスティクスがビットコイン決済の取扱を開始。[48]
- 2014年9月末時点 - 投資額は330億円以上。[49]
- 2015年12月18日時点 - ビットコインの時価総額は約8400億円[50]。
- 2015年1月26日 - 大手取引所Coinbaseが、アメリカ24州の認可を受けたビットコイン取引所「Coinbase Exchange」をオープン。[51]
- 2015年10月22日 - 欧州司法裁判所はビットコインの売買は欧州付加価値税(英語版)の適用は除外されると判決を下した[52]。
電子フロンティア財団といった非営利団体など、メインストリームのサービスは、決済の方法としてビットコインを受け入れ始めた[いつ?]。
- 2017年4月29日時点 - ビットコインの時価総額は約23785億円,1BIC価145,934円 [53]。
ビットコインの価格は、流通開始当初から激しく変動し、さまざまなパターンの高騰と下落を経験した[いつ?]。
米国のビットコイン取引所は、通貨サービス事業を規制されて以来[いつから?]、マネーロンダリングが疑われる活動を報告するよう義務付けられている。
ブロックチェーンにより参加者は仲介者を必要とせず、絶対的な保証により、価値の交換を行う相手と互いに素性を知る必要も、信頼する必要も無い。よって、ブロックチェインはサードパーティの支払プロセッサや、チャージ料の必要性を大幅に減少させることができる。また、クレジットカード詐欺の可能性を無くし、マイクロペイメントの新たな可能性を創造できる。[54]
ドメイン名の署名や、デジタル契約、車や家のような物理的資産のデジタル権利証などのデジタル資産をもブロックチェイン・プロトコルで行うことが出来るようになる。また、ブロックチェインに保存されたデジタル資産に様々な条件と、将来的な権利行使の付与を行うことも可能。公証人サービスや配当金、エスクローサービスすらも自動実行プログラムの作成が可能になる。[55]
支払いや転送は短時間で済む点で予想変動率は実用性にほとんど影響せず、手数料はクレジットカードや送金よりも実質的に低い。 特に海外への送金が容易に可能である点で適しているという主張も出ている[56]。
2013年オランダ国内でカフェでの対応例
自国通貨のインフレーション率や資本規制や国際制裁に悩まされている国々で人気があると示されている。 インフレと厳格な資本規制によって窮地に陥っている一部のアルゼンチン人はアルゼンチン・ペソの代替通貨として使用している[57]ほか、 一部のイラン人は、通貨制裁を回避するために使用[58]している。
人気上昇に伴い通貨価値が増加すると予想する投機家により[60]頻繁に投機目的で取引されている[61]。 欧州銀行監督局はこのような投機リスクに対し警告している[62]。
本質的価値が欠けている理由として、価値自体が所有者の意思のみに依存するためだと説明されている[63]。
危険性と安全確保編集
不安定な価値評価の通貨を使用したがる人はごく少数である[65]。
ビットコイン・ネットワークそして支払いシステムとしてのそれの使用において種々の潜在的な攻撃は、実際にまたは理論的に、考えられてきた。ビットコイン・プロトコルは権限のない支払い、二重支払い、ビットコインの偽造そしてブロックチェーンの勝手な変更のようなものの、これらの攻撃の幾つかに対抗して保護するものである幾つかの仕様を含む。プライベート・キーの盗難のような、その他の攻撃は、利用者による正当な注意が要求される。
権限のない支払い編集
権限の無い支払いは公開鍵暗号の暗号解読のビットコインの実装を緩める。例えば「乙」が「甲」へビットコインを一枚送るとき、「甲」はそのビットコインの新しい持ち主になる。その取引(トランザクション)を盗み見る「丙」は「甲」が受け取ったビットコインを盗もうとするかもしれない。しかし「甲」の秘密鍵が分からなければ「丙」はその取引に署名することはできない[67]。
通信網を使う支払いシステムが解決しなくてはならない問題の一つは、利用者が同じコインを複数の受取人へ支払うこと(重複決済)が出来ないようにすることである。つまり「丙」が「乙」へビットコインを一枚送りそして後でその同じビットコインを「甲」へ送る場合である。すべてのビットコイン取引について、一連のビットコイン取引を利用者全員が見れる帳簿(ブロックチェーン)に記録し、受け取るコインが既に別の取引で支払われたものでないことを確認できる仕組みを設けることによってビットコイン・ネットワークは重複決済を監視する[67]。
競合する攻撃編集
もし「丙」が商品などのための取引において或るビットコインを「乙」へ支払うと申し出ていて、まだその取引が完結していない場合、「丙」は「甲」へ同じビットコインを送る(別の)取引を開始できる。後者の取引は前者の取引と競合するので、「競合する攻撃」とよばれる。しかし規則によればネットワークは取引を一つだけ受け入れる。この規則により競合する攻撃の危険を減らすことができる[68]。
犯罪行為との関連性は利用人口拡大の妨げとなっており、流通動向は金融規制当局、立法機関、法執行機関の注目を集めており、実際に米連邦捜査局 (FBI)、米上院、ニューヨーク州により捜査された[69]。 FBIは「おそらく資金の移動や盗難手段としてサイバー犯罪者を惹きつける」と2012年の報告書で述べた[70]。
2013年3月に米国の金融犯罪取締ネットワーク (FinCEN) は、「分散型仮想通貨」の規制指針を制定し、アメリカで造幣販売を行う「採掘者」は通貨販売事業者と指定され事業登録やその他の法的義務が課せられた[71][73]。 2013年8月にはドイツ財務省は多国間決済の会計単位として使用可能であるとし[74][75]、1年以上保持する場合はキャピタルゲイン税が課せられた[75]。 ニューヨーク国務省金融サービスは、富の移転や犯罪行為(特にシルクロード)を懸念し規制する目的で、権限上可能な規制 (BitLicense) や指針に関わる調査の実施を2013年後半に発表しニューヨーク市で公聴会を開催した[76]。 またアメリカ合衆国内国歳入庁は、積極的に独自基準の作成に取り組んでいると述べている[65]。
同時に欧州銀行監督局 (EBA) は、使用状況を鑑みて微妙ながら承認を与えた。 以前はEUおよびEFTA地域の銀行による規定や認可が存在せず危険性が伴うことから公式に警告を発していたが、 各種規制の適応外であり不要であることを認め現状を認識し見方を変えた[77]。
報道機関は、ビットコインの人気を違法薬物の購入手段としての利用価値に拠るものと報じている[78]。 2013年にガーディアン紙は主にオンライン賭博や違法薬物購入に使われたと述べ[79]、 ハフィントン・ポストは「オンライン賭博が高割合を占める」と述べた[80]。 正規のトランザクションは、実際の薬物購入関与数より少ないと考えられており[81]、 全トランザクションの約半分は単一のオンラインゲームサイトで決済されている[82]。 2012年にカーネギーメロン大学と情報ネットワーク協会の研究で、 流通総額の4.5−9%が単一のオンライン市場、シルクロードの薬物購入目的であると推定した[83]。 取引の大半は実質的に投機目的であったが、当研究は商品やサービスに比べ薬物が遥かに大きな使用割合を占めると主張している[83]。 2013年にハフィントンポストは、身元確認をしないオンライン銃器商は決済に使用していると報じた[84]。
欧州銀行当局を含む各種の規制当局及び法執行機関は、資金洗浄用途を警戒している[85]。 米連邦捜査局 (FBI) による2012年度報告書では実現するおそれを認めたが、判明した事例が存在しなかったと述べている[70]。 資金洗浄の障害として取引履歴の公開性を挙げる意見もある[86]。
無許可採掘編集
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↙︎物価上昇率