月曜日, 10月 07, 2019

ブランシャール2016→2019


シェイブテイル (@shavetail)
3年前、小黒一正が歓喜して引用したブランシャールの見解
→3年で変われば変わるもんだね。(おぐりんは今回の日経記事のブランシャール見解の方は死んでもスルーだろうけれど)

オリヴィエ・ブランシャール教授の日本財政への警鐘 agora-web.jp/archives/20193…



シェイブテイル (@shavetail)
ブランシャール:>以上のように現在の日本の状況では、財政赤字と公的債務残高の圧縮よりも成長の維持を重視すべきだ。財政出動には、短期的には需要を喚起し、長期的には供給を強化するという少なからぬメリットがある。

財政赤字拡大容認 効果大:日本経済新聞 nikkei.com/article/DGXKZO…☆☆

日本の財政政策の選択肢 日本語
ブランシャール 田代毅 2019年5月
《…要するに、プライマリーバランス赤字によるコストは小さく、高水準の国債によるリスクは低いのです。》


望月慎(望月夜) (@motidukinoyoru)
「オリヴィエ・ブランシャールの積極財政論」をトゥギャりました。 togetter.com/li/1414087




Olivier Blanchard @ojblanchard1
日本は特に悪性の「長期停滞」、つまり、国内の民間需要の不足に直面しています。完全雇用を維持するためには、積極的な金融政策と財政政策が必要になります。金融政策に可能なことは全て行いました。そこで、財政政策の役割が求められます。
Olivier Blanchard @ojblanchard1
プライマリーバランス赤字を維持し、更には拡大する理由は三点あります。第一に、需要を確保するためです。財政のスタンスが引き締めとなれば、何が需要を確保するのでしょうか?民間の需要が何らかの理由で拡大すれば、財政の引き締め余地があるでしょう。しかし、現時点ではそうではないでしょう。
Olivier Blanchard @ojblanchard1
第二に、インフレ率がインフレ目標を下回っていることです。インフレ目標の達成は望ましいことです。そのため、経済の過熱をある程度の期間継続する必要があります。それにより賃金と物価が上昇します。プライマリーバランス赤字の多少の拡大が、その達成の助けとなるでしょう。
Olivier Blanchard @ojblanchard1
第三に、金融政策への負担を和らげ、必要なときに金融政策を活用する余地を作ることです。超低金利は金融のリスクも伴います。プライマリーバランス赤字の多少の拡大が、多少の金利上昇をもたらすでしょう。
Olivier Blanchard @ojblanchard1
主なモチベーションは需要の確保ですが、プライマリーバランス赤字は供給サイド、成長のために用いられるべきです。橋やトンネルの必要性について懐疑的なことはもっともなことです。それでも、財政を用いるべき良いプロジェクトが数多くあります。例えば、出生率を向上させること、地球温暖化への対処
Olivier Blanchard @ojblanchard1
プライマリーバランス赤字の拡大や債務残高対GDP比の上昇は長期的なコストを伴うものでしょうか?その通りです。国債は資本をクラウドアウトするでしょう。しかし、超低金利を反映してリスク調整後の資本の収益率は低く、資本蓄積の阻害に伴う長期的な厚生コストは大きなものではないでしょう。
Olivier Blanchard @ojblanchard1
高水準の債務はリスキーではないか?その通りです。急停止のリスクは現在も存在し、しばらくは存在し続けるでしょう。しかし、純債務が160%でも、180%でも、140%でもリスクは概ね同じでしょう。流動性の危機に対処する手段を有し、また、意思も有することを日銀は示しています。


Olivier Blanchard @ojblanchard1
ペーパーへのリンクはこちらです(日本語のペーパーも公開しています)@takeshi_tashiro @PIIE piie.com/publications/p…
 

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財政赤字拡大容認論を問う(上) 債務、コスト限定的で効果大 
ピーターソン国際経済研究所 オリビエ・ブランシャール・シニア・フェロー 田代毅・客員研究員

経済教室
 
コラム(経済・金融)
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO50597290U9A001C1KE8000/







2019/10/7付
日本経済新聞 朝刊
ポイント
○国債金利が名目成長率を下回り前提変化
○政府支出は供給サイド強化のため活用を
○金利上昇時は財政・金融政策で対応可能

10月1日、安倍政権は消費税率を8%から10%へ引き上げた。筆者は消費税増税をすべきではないという立場だった。日本経済の現状からすると、たとえしばらくの間、公的債務残高の国内総生産(GDP)比率を下げられないにしても、巨額の財政赤字を維持することは十分に正当化できる。

その根拠は単純明快だ。日本は「長期停滞」に陥っており、国内の民間需要が極めて弱いため、財政・金融政策でテコ入れしない限り完全雇用を維持できない。民需がこれほど弱い理由についてはなお議論の余地があるが、人口減少とそれに伴う高い民間貯蓄率が主因であるのは明らかだ。

この状況はしばらく変わらないだろう。金融政策は量的緩和からマイナス金利に至るまであらゆる手を打ってきたが、不十分だった。となれば、需要を刺激するために財政政策を動員するのは理にかなう。金利水準は将来にわたり極めて低いと見込まれるため、公的債務の財政・経済コストは小さくて済む一方で、財政出動による経済刺激効果は極めて大きいと期待できる。

◇   ◇

まず債務の財政コストを検討しよう。従来の分析では国債金利が名目成長率を上回ることが前提になっていた。この場合、債務膨張を防ぐには現在の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の赤字を将来の黒字で埋め合わせねばならない。黒字を捻出するには、増税か歳出抑制が必要になる。

だが国債金利が名目成長率を下回る場合、すなわち2013年以降の日本の状況では、この結論は当てはまらない(図参照)。現在の基礎的財政収支の赤字を将来の黒字で埋め合わせる必要はないので、政府は赤字を続けても債務残高GDP比を一定に維持できる。

現時点での国債金利と成長率の差および債務残高GDP比を勘案すると、日本政府は基礎的財政収支で2.5%近い赤字を続けても債務残高GDP比を一定に維持できる計算だ。現在の日本のように赤字が2.5%をやや上回る場合には、債務残高GDP比はいくらか上昇するが、爆発的に膨張することはない。

次に債務の経済コストに移ろう。従来の分析では、公的債務により生じる主な経済コストとして、資本のクラウディングアウト(公的部門による民間需要の押しのけ)が挙げられていた。公的債務が拡大すると、民間の資本投資が縮小して資本形成が滞り、将来の産出高を押し下げるからだ。

しかし国債金利が名目成長率を下回り、かつ金融政策が限界に直面する状況では、この結論もまた当てはまらない。第1に投資家がこれほど利回りの低い国債を保有したがる状況からは、他の投資先がさほど魅力的でないことがうかがえる。端的に言って、株式保有によるリスク調整後の資本収益率が低いということだ。だが収益率が低いのであれば、資本形成が減ってもさほど痛手ではない。

第2に実際にはクラウディングアウトは起きないだろう。財政出動により需要が上向き、産出高が増えれば、むしろ民間投資は増えると考えられる。上記2つの要因はいずれも現在の日本に当てはまるので、公的債務の経済コストも極めて小さいといえる。

ただしここで留意すべき重要な点がある。政府支出の拡大が短期的な需要維持のために必要としても、その支出は長期的に供給サイドを強化するために使わねばならないということだ。現在の低金利と将来の課題を考慮したとき、社会にとってのリスク調整後の投資収益率が、日本政府の借入金利を上回るような有意義なプロジェクト(出生率向上や気候変動への取り組みなど)は多数存在する。

人口減少により財政負担は膨らむ一方であり、将来への悲観的な見方が広がる主因となっている。従って人的資本に政府が投資することは、日本にとって極めて有効だ。保育の拡充や積極的な出生率向上策には、短期的な需要刺激に加えて、長期的な財政負担を緩和するという二重の効果が期待できる。社会保障の持続可能性は将来の人口増に懸かっているからだ。

◇   ◇

積極財政論は支持を得られるのか。財政赤字を継続しても構わないと主張すると、主に2つの反論に遭う。

第1は人手不足が発生していることから、実際のGDPは経済の実力に対応する潜在GDPを上回っており、必要以上に成長率を押し下げずに財政赤字を縮小できるというものだ。

Olivier Blanchard 48年生まれ。MIT博士(経済学)。元IMFチーフエコノミスト

Olivier Blanchard 48年生まれ。MIT博士(経済学)。元IMFチーフエコノミスト

実際のGDPが潜在GDPを上回っているのかどうかを判断するのは難しく、本稿ではその判断は差し控えたい。だが現在のGDPギャップの数値とは無関係に、筆者の主張は成り立つ。

GDPギャップがマイナス(実際のGDPが潜在GDPを下回る状況)であれば、財政出動はギャップを減らすので望ましい。GDPギャップがプラス(実際のGDPが潜在GDPを上回る状況)であれば、財政出動により需要が一層増えるので、その分だけインフレ率を押し上げるだろう。

インフレ率の上昇は、日銀の目標値を下回る中で、現在の日本にとっては好ましい。金融政策の信認を高めると同時に、インフレ調整後の実質金利を押し下げるので、日銀には金融政策で対応する余地が増えることになるからだ。そうなれば最終的には、需要喚起を財政政策に依存する必要性も減じる。

たしろ・たけし 83年生まれ。ハーバード大修士(公共政策)。専門は日本経済論

たしろ・たけし 83年生まれ。ハーバード大修士(公共政策)。専門は日本経済論

第2の反論は、いずれ金利が上昇して債務コストが膨らむというものだ。確かに現在の債務返済コストは小さくても、債務残高自体が極めて大きいため、何らかの理由で金利が大幅に上昇した場合には懸念すべき事態となる。金利が大幅に上昇する可能性は低いにしても、あり得ないことではない。それを考慮に入れると今日の財政政策にどのような示唆があるだろうか。

これについては3つの視点から答えよう。

第1に政府は長期の国債を発行し、長期の資金調達を現在のゼロに近い金利で固定することでリスクを大幅に削減できる。

第2に金利の上昇がファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)の変化を反映する限りにおいて、上昇はゆっくりと時間をかけて進行するはずだ。そうであれば、財政政策には金利上昇に対応して赤字を縮小する時間的余裕があるし、金融政策には金利を引き下げ、財政引き締めの悪影響を打ち消す余地が十分に生まれる。

第3に金利上昇が支払い能力に対する懸念でなく流動性低下を反映するのならば、これこそ中央銀行の出番だ。長短金利を操作すればよい。日銀は既にコミット(約束)している。

以上のように現在の日本の状況では、財政赤字と公的債務残高の圧縮よりも成長の維持を重視すべきだ。財政出動には、短期的には需要を喚起し、長期的には供給を強化するという少なからぬメリットがある。しかも公的債務の財政・経済コストは限定的である。

財政赤字拡大容認論を問う(中) 超低金利下でも維持不可能 
星岳雄 東京大学教授

経済教室
 
コラム(経済・金融)
2019/10/8付
日本経済新聞 朝刊
ポイント
○利子率が成長率を下回る状況は想定せず
○超低金利下でも基礎的財政赤字には限度
○財政健全化のための具体的計画作り急げ

2014年に伊藤隆敏氏(現米コロンビア大教授)と共著の論文で、日本国債の量が家計の保有する金融資産総額を上回ることで、10年以内に財政が破綻する危険性があると論じた。日本の国債はほとんど国内で消化されているので財政は心配ないとの見方に対し、限界があることを示した。

だが現在でも全く危機の気配すら感じさせず、政府債務は拡大を続けている。消費税率引き上げはその後2度延期され、10月にようやく軽減税率やポイント還元などの増税対策により税収増の効果が著しくそがれる形で実現に至った。それでも市場は国債の将来を全然心配しないかのようだ。

◇   ◇

われわれの予想通りにならなかった原因はいくつかある。最も重要なのは、国債利回り(=利子率)が国内総生産(GDP)伸び率を下回ることはないという仮定が変化したことだ。その後も利子率は低下し、16年以降は10年物国債利回りがマイナスの場面もある。

利子率が成長率を下回ることがないというのは、経済学では標準的な仮定だ。10年以上前に経済財政諮問会議で、利子率が成長率をどれくらい上回ると考えるべきかについて、当時の吉川洋・東大教授と竹中平蔵総務相との論争があった。利子率が成長率を上回るのが正常な状態だと論じた吉川氏に対し、竹中氏は現実的には成長率が利子率を上回ることも多く、両者がほぼ同じ水準で推移する方がむしろ標準的だと論じた。

だがその後の利子率と成長率の動きは、竹中氏も想定していなかっただろう。利子率が成長率を下回る状態が普通になり、近い将来もこの状態が続くと予想する人が多くなったのだ。

利子率が成長率を上回っていれば、国債の量をGDPで割った国債GDP比率は、放っておけばどんどん上昇していく。分子の国債が増える速度(利子率)が分母のGDPが増える速度(成長率)を上回るので、国債GDP比率は上昇し続ける。この状況では、将来のどこかで基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字にしない限り、財政はいずれ破綻する。

ところが利子率が成長率を下回る世界では状況は全く異なる。分子の増加速度が分母の増加速度を下回るので、一切返済しなくても国債GDP比率は低下していく。従って日本をはじめ先進国が最近経験している利子率が成長率を下回る状況が長く続くなら、一見巨額に見える国債残高も問題にする必要はなくなる。

ここから低利子率が続きそうな現状では、財政赤字と国債の増加を気にする必要はないという「財政赤字容認論」が生まれる。さらにゼロ利子率の制約の下で金融政策の有効性が著しく損なわれているような状況では、財政赤字を拡大して景気を刺激する政策が必要だという議論も出てくる。

利子率が成長率を下回れば、返済がなくても国債GDP比率が低下するのは確かだ。しかし返済がないだけでなく財政赤字があれば、赤字をファイナンス(資金繰り)するために新たな国債発行が必要になる。さらに財政赤字の額が十分に大きければ、たとえ利子率が成長率を下回っていても国債GDP比率は上昇してしまう。

簡単な事例で説明しよう。前年度末の国債GDP比率が200%、今年度の利子率と成長率がそれぞれ0%と1%とする。

この場合、国債の返済がなくても利子率はゼロなので国債残高は今年度末も変わらない。一方、GDPは1%増えるので、国債GDP比率は2%(=200%×1%)低下する。今年度の基礎的財政赤字がGDPの2%以下なら、今年度末の国債GDP比率が前年度末を上回ることはない。しかし基礎的財政赤字がGDPの2%を超えれば、今年度末の国債GDP比率は前年度末より上昇する。

要するに、たとえ利子率が成長率を下回る状態が続いても、際限なしに財政赤字は続けられないということだ。低い利子率は財政費用を削減するが、それでも財政赤字には限度がある。

利子率が成長率を永久に1%下回るという極端な仮定の下で、200%の国債GDP比率が限りなく続けられることができるとしても、GDPの2%を超える基礎的財政赤字は続けられない。最近の日本のように2%を超える基礎的財政赤字が続く状態では、将来のどこかで赤字が2%を切らなければ、最終的には財政が破綻し、何らかの調整を余儀なくされる。

図によると、日本の基礎的財政赤字は最近減少しており、GDP比が2%を切る可能性もあるかのように見えるかもしれない。しかし現在の制度のままでは、年金、医療、介護の関連予算のさらなる増大が見込まれるので、基礎的財政赤字のGDP比は近い将来また上昇し始めるだろう。

冒頭の論文で論じたように、現在の日本の状況はやはり維持不可能なのだ。利子率が成長率を永久に1%程度下回るとしても。

◇   ◇

それでは、なぜ国債市場は危機に見舞われるどころか、利回りがむしろ低下するような状態なのか。

この問いに対する答えも14年の論文と基本的に変わらない。一番単純なのは、市場は日本政府が近い将来十分な財政改革を実施すると信じていて、それを織り込んで市場利子率が低く抑えられているとの仮説だ。もしそうであれば、これはかなり危うい均衡だ。均衡が将来の政策に関する期待に依存しており、その期待は突然変わりうるからだ。将来の値上がり期待に支えられた資産価格が、期待の突然の変化により急落してしまうのと同じ構図だ。

こうしたバブルの崩壊に類似した国債危機は、マイナス金利の状況でも起こりうる。金利が成長率を下回っても、維持できる財政赤字には限界があるからだ。国債危機を回避するには、財政健全化のための具体的プランとその工程表の作成が急務だとするわれわれの論文の結論は、低金利の今でも正しい。期待がいつ変わるかわからない状態で財政再建の好機を待つ余裕はない。

ほし・たけお 60年生まれ。MIT博士。専門は金融・日本経済。スタンフォード大教授などを経て現職

ほし・たけお 60年生まれ。MIT博士。専門は金融・日本経済。スタンフォード大教授などを経て現職

14年の論文は非常に単純なモデルに基づいたので、必要な財政健全化のプランの具体的内容に踏み込めなかった。この点に関して、北尾早霧・東大教授らの最近の論文が重要な貢献をしている。日本の社会保障制度を反映した重複世代モデルを使って、国民年金の支給額引き下げや医療・介護保険の自己負担引き上げ、消費税率のさらなる引き上げといった改革がどれだけ必要になるかを計算している。こうした研究が今後も積み上げられ、それに基づいた財政健全化の政策が形成されるのが望ましい。

経済学者の多くは、財政赤字を続けて国債を累積することの危険性を指摘してきたが、危機はいまだ訪れず「オオカミが来た」と叫ぶ嘘つき少年になぞらえられることもある。だがイソップの寓話(ぐうわ)でも最後は本当にオオカミがやってくる。危機の可能性を消し去るには、利子率が低いうちに政府が具体的な財政健全化の道筋を示す必要がある。



オリヴィエ・ブランシャール教授の日本財政への警鐘

約1か月前、IMFのチーフエコノミストであったオリヴィエ・ブランシャール教授に対する取材記事がネット上で話題となった(注:原文は「Olivier Blanchard eyes ugly ‘end game’ for Japan on debt spiral」、邦訳は本コラムの下部参照)。

この取材記事で、ブランシャール教授は、以下のような指摘をしている。

・「日銀に対し、国家予算に直接マネー投入を求める政治圧力が益々高まることとなり、そうなった時に、日本は突如としてデフレからインフレへと転換するリスクを冒すこととなる」

・「ある日、財務省から日銀に、『我々のことを考えて欲しい。生きるか死ぬかの問題なのだ。ゼロ金利を維持してくれ。』という電話がかかってきたとしても決して不思議ではない」

・「最終的に高インフレへとつながる財政的支配 (fiscal dominance) のリスクが存在することは確かだ。5年ないし10年以内にそうなったとしても私は驚かない

上記のシナリオは、一部の財政学者が日本財政の結末として懸念してきたシナリオに近いものであり、ブランシャール教授のような一流の海外の学者がここまで踏み込んだ発言をしたのは初めてであろう。

その際、財政再建の本丸が「社会保障改革」と「増税」であることは明らかだが、日本の政治やマスコミの危機感は弱まっており、いま増税延期ムードが高まりつつある。この背後には、2014年4月の消費税率引き上げの影響に対する評価も関係していると思われるが、日本の財政リスクも視野に、冷静に判断する必要がある。

私の少し前のコラムでも説明したように、やはり、「2014年の増税の影響はニュートラルで、低成長率の主因は潜在成長率の低下である」旨の可能性が高い。

これは最近のデータでも読み取れる。上記コラムで利用したデータは、2016年3月公表の四半期別GDP速報(平成27年10-12月期2次速報値)であるが、先般(5月18日)、新しい四半期別GDP速報(平成28年1-3月期1次速報値)が公表された。

このため、上記コラムの図表1や図表2のリニューを行ったものが、以下の図表1や図表2である。

アゴラ第123回_図表1・2

図表1や図表2をみると、「増税7期後(2016年1-3月)における「実際の実質GDP」は「トレンドの実質GDP」に概ね一致しており、現在のところ、増税の影響はニュートラルである」と判断できる。むしろ現在の低成長は、トレンド成長率(潜在成長率)が年々、低下傾向にあるためであり、成長には「潜在成長率を引き上げる新産業の創出や構造改革が必要」であるという認識を深めることが重要である。

なお、もし2017年4月の増税を先送りすれば、2020年度の基礎的財政収支(PB)赤字幅は拡大し、2020年度のPB黒字化のハードルは一層上昇するため、財政再建計画が破綻してしまう可能性も否定できない。

また、そもそも、増税判断は「増税延期 vs 増税」という二者択一の判断ではない。財政再建目標を堅持しつつ、もし景気循環の先行きにも配慮するならば、数兆円の経済対策とセットで、消費税率を2017年4月、18年4月で1%ずつ引き上げるという方法もある

責任政党としての自覚や誇りをもち、増税判断にあたっては、以上の事実や、オリヴィエ・ブランシャール教授の警鐘を含め、日本の将来に禍根を残さない政治判断を期待したい。

(法政大学経済学部教授 小黒一正)


【取材記事の邦訳(未定稿)】

オリヴィエ・ブランシャール教授、日本の債務スパイラルに醜悪な「最終局面」を予測 (by  アンブローズ・エヴァンズ・プリチャード、イタリア、コモ湖畔  2016年4月11日、17時59分)

アゴラ第123回_1

世界でも最も影響力の大きいエコノミストの一人が、こう警鐘を鳴らした。国内に投資家がいなくなるにつれて、日本は、本格的な支払不能危機 (solvency crisis)へと向かいつつある。捨て身の最終局面では、インフレによって債務を帳消しにせざるを得なくなるかもしれない。

IMFの元チーフエコノミストのオリヴィエ・ブランシャール教授は、次のように語った。ゼロ金利が、日本の公的債務に内在する危険を覆い隠している。今年、政府債務は、対GDP比250%に達し、持続不可能な軌道を描きながら急上昇する可能性が高い。

「ある日、財務省から日銀に、『我々のことを考えて欲しい。生きるか死ぬかの問題なのだ。ゼロ金利を維持してくれ。』という電話がかかってきたとしても決して不思議ではない。」— オリヴィエ・ブランシャール

「日本人の退職者が、これまでゼロ金利の国債を快く保有してきたことには驚かされたが、限界投資家は、間もなく日本人退職者ではなくなる。」

ブランシャール教授によると、その不足分を埋めようとして、日本の財務当局は、海外ファンドを受け入れざるを得なくなるだろうが、その方が遥かにコストは高くつき、長年懸念されてきた資金調達の危機が現実味を帯びる恐れがあるとしている。

「もしアメリカのヘッジファンドが日本国債の限界投資家となったら、かなりのスプレッドを要求してくるだろう」と、オリヴィエ・ブランシャール教授は、コモ湖畔で開催された世界政策立案者によるアンブロセッティ・フォーラム (Ambrosetti forum of world policy-makers) でTelegraph紙に語った。

アナリストらは、こうした状況が日本の債務ダイナミクスを一変させ、支払能力にまつわる幻想を、恐らく突然、非線形に消滅させるだろうと言っている。

アゴラ第123回_2

現在、ワシントンのピーターソン国際経済研究所 (Peterson Institute for International Economics) に所属するブランシャール教授は、日銀に対し、国家予算に直接マネー投入を求める政治圧力が益々高まることとなり、そうなった時に、日本は突如としてデフレからインフレへと転換するリスクを冒すこととなる、と語った。

「ある日、財務省から日銀に、『我々のことを考えて欲しい。生きるか死ぬかの問題なのだ。ゼロ金利を維持してくれ。』という電話がかかってきたとしても決して不思議ではない。」

「最終的に高インフレへとつながる財政的支配 (fiscal dominance) のリスクが存在することは確かだ。5年ないし10年以内にそうなったとしても私は驚かない。」

議論の余地はあるかもしれないが、それが既に現実のものとなり始めている。究極の量的緩和策を追求する黒田東彦総裁の下、日銀は、財政赤字を全額引き受けている。

今年2月現在、日銀は、日本国債市場の34.5%を保有しているが、2017年までには、その保有率は50%に達する見通しだ。

アゴラ第123回_3

大規模な年金基金や生保が市場から撤退していく中で、「アベノミクス」の極めて重要な目的は、債務を引き受けて資金調達の危機を回避することだと、日本当局者らは内々に認めている。もう一つの言外の目標が、債務比率の軌道を「右肩下がり」にするために、名目GDP成長率を5%に押し上げることだが、言うは易し行うは難しである。

ブランシャール教授は、日本の苦悩が世界の金融システムに与える意味合いについて詳しい話はしなかったが、甚大な影響を及ぼすであろうことは確実であり、それが5年以内に起こるのではないかという不安が高まっている。日本は、今現在も、圧倒的に世界第3位の経済大国である。また、程度こそ違えど、我々他の国々が今後直面することになる高齢化危機の世界的な実験場でもある。

日本政府が、インフレという「ステルス・デフォルト」(‘stealth default’) によって、10兆ドルの公的債務の罠から抜け出そうと意図的に画策しているのではないか、と市場が一旦疑い始めたら、瞬く間に制御不能な事態に陥りかねない。 

これが、世界の他の地域で、公的債務リスクの再評価を突如として引き起こすかもしれない。日本と同様に、低成長であり、人口動態が不利な状況にある欧州は特に、である。世界中で、おおよそ7兆ドルの債務が、マイナス金利で取り引きされており、債券市場でいつアクシデントが発生してもおかしくはない。

ブランシャール教授は、ユーロ圏にとってのリスクとは、ブラッセル(EUの決定)を無視して成り行き任せで支出する、大衆迎合的な「ならず者政府」 (“rogue governments”) が選出されることだと語った。「そのような国のソブリン債の購入については、投資家は真剣に考えるだろう。」

こうした政府はEUの規則を順守しないため、欧州中央銀行が、金利急騰防止を目的としてバックストップメカニズム(OMT: outright monetary transaction —国債買い入れ策) を発動させることは法的に禁止されるだろう。「非常に多額の債務を抱えている政府もあり、デフォルトは避けられないだろう。」

ブランシャール教授は、その可能性のある政府を名指しすることは拒んだが、共産党が支持する社会党政権と左翼ブロックが、これまでベルギー政府と財政闘争を繰り広げてきたポルトガルが含まれていることは明らかである。昨年の赤字は対GDP比4.2%で、当初の目標である2.7%を大きく上回った。

アゴラ第123回_4

ポルトガルの公的債務は、対GDP比129%であり、最後の頼みの綱となる貸手を持たない国にとっては危険ラインに近く、10年物国債の金利は、ドイツ国債を325ベーシスポイント上回るまでに高騰した。

スペインも財政政策では図に乗っている。イタリアは、金融危機に直面しており、停滞気味の景気回復は、失速している。イタリア政府は、今年の成長予測を1.2%に引き下げたが、対GDP比132.7%と、依然として足踏み状態が続いている債務比率に何らかの影響を及ぼすには小さ過ぎる。

必要なのは、1970年代から不安視されてきた賃金と物価の悪循環を活性化させることだ— アダム・ポーゼン、オリヴィエ・ブランシャール

何が不安なのかと言うと、財政が既に能力限界の域に達していることを考慮すると、次の世界的な景気低迷が起こった時に、あるいは、原油安と量的緩和の影響が弱まった時に何が起こるかである。

ブランシャール教授が心配していないことが一つある。それは、金融政策の弾が尽きることで、「量的緩和策は、使えば使うほど、より効果的になるという説がある。」と語っている。

中央銀行が国債などの債券を買えば買うほど、最後まで手放そうとしない保有者を納得させて売却させるには、より多く支払わなければならなくなる。「価格への影響が益々強まるのだ。」

ブランシャール教授は、当局は、「奇策」 (“exotic stuff”) を試すよりも、シンプルな量的緩和 (plain vanilla QE) に専念すべきだと語った。

「ヘリコプター・マネー」の議論については、手段の異なる財政拡張策に過ぎないとして軽蔑したかのように一蹴した。金利がゼロであれば、通貨であろうが債券であろうが、支払いに大差はない。

アゴラ第123回_5

ブランシャール教授は、マイナス金利あるいはマイナス金利政策 (NIRP) には複雑な副作用があり、その金利を預金者に転嫁することができない銀行にダメージを与えるとし、「それでなくとも銀行は、問題でもう手一杯なのだ。」と語った。

ブランシャール教授は、脱EU (Brexit) に関する終末論的大合唱に組することを拒んではいるが、イギリス国民に対して、しっかりと目を見開いてこの未踏の領域に足を踏み出すよう助言している。「離婚」は、短期的なショックの後に、速やかに回復できるようなものとはならないだろう。

「離脱コストは一様ではなく、その後、不確実な状況が非常に長く続くだろう。工場を英国国内に建設するか欧州大陸にするかを決断しようとする企業は、待ちの姿勢に出るだろうし、投資は落ち込むだろう。」

しかし、イギリスの国債市場が崩壊することはないだろう。「EU離脱後は、資金繰りが困難になるのだろうか。英国政府のリスクが高まったと投資家は考えるのだろうか。私は、そうは思わない。」とブランシャール教授は語った。

ブランシャール教授は、過去四半世紀において、世界屈指の理論経済学者であり、同胞のドミニク・ストロス=カーンの甘言に乗せられてIMFに勤務していなければ、ノーベル賞を受賞していたかもしれない。

彼は、IMFを急進的「ケインズ主義」思考 — または厳密には、MITの新ケインズ主義と新古典派総合の派閥— の専門家集団へと変貌させて、ドイツ政府を激怒させた。ドイツ財務省から漏えいした文書には、同組織の名称を「インフレ最大化ファンド」 (‘Inflation Maximizing Fund’) に変更すべきだと書かれている。

そのジョークで最後に笑ったのはブランシャール教授だった。リーマン危機から7年経過し、ユーロ圏は本格的なデフレに陥っており、ドイツ国債10年物は史上最低の0.11%という金利で取り引きされている。一本取られた。