木曜日, 4月 16, 2020

サンフランシスコの「足」:車って古い?!

サンフランシスコの「足」:車って古い?! | IoT ビジネス/開発 お役立ちブログ
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サンフランシスコの「足」:車って古い?!

Vol. 214

春うららの良い季節の到来です。そこで、今月は、サンフランシスコの街で見かける新しい「足」のお話をいたしましょう。

<そこのけ、ウーバー!>
アメリカと聞くと、「どこに行くにも車」というイメージがあります。我が家のあるサンノゼ市郊外もご多分にもれず、ちょっとそこまでお買い物というときにも、車がないと困ってしまいます。まさに車は、サンダル代わりでしょうか。
一方、「車があると、かえって不便」なのが、サンフランシスコのダウンタウン地区。19世紀中頃から「ゴールドラッシュ」のベースステーションとして栄えた場所ですが、近年、スマートフォンの隆盛とともにテクノロジー業界のハブともなった街。ゴールドラッシュの全盛期よろしく、ダウンタウンにある大小さまざまな企業を目指して世界各地から人が集います。
おかげで、街の人口密度は年々悪化し、住宅難が続きます。が、同じく深刻なのは、交通事情。馬車やケーブルカーが唯一の「足」だった時代は遠く過ぎ去り、街には渋滞で動けなくなった車の波が押し寄せています。

そんなわけで、まず車の代わりにと思いつくのが、自転車。こちらは、ダウンタウンのミッション通りで見かけた配達自転車。あちらこちらの飲食店にウイスキーを配達しているようですが、これなら、パーキングを気にしなくていいし、小回りが効くし最適です(アメリカの都市にしては珍しく、大事な商品がむき出しになっています!)。

ご存じのように、サンフランシスコは、ウーバー(Uber)やリフト(Lyft)といった一般車両を用いた「配車サービス(ride-hailing service)」が生まれた街でもあります。
一般人が運転手となって、お客を乗せてあげるスマートフォンアプリを使ったシステムですが、それは、タクシーが極端に少なく移動が不便であるとともに、交通渋滞や駐車スペースの事情が悪く、車を持たない人が多いという理由もありました。だったら、車を持つ人が誰かを乗せてあげて、同時にお小遣いも稼げたら、両者がハッピーでしょう、という発想でスタートしました。
が、近年、サンフランシスコ市の方針転換にともない、公共交通機関や歩行者・自転車が優遇されるようになり、一般車両が通れない車線や通行禁止の区間が増えてきました。
たとえば、ダウンタウン地区で赤く塗られた車線は「バス・タクシー専用車線」です。配車サービスの車もタクシーではないので、ここに乗り入れると、背後に迫ったバスやトロリーバスからナンバープレートの写真を撮られて、あとで違反チケットが送られてくるとか。
そして、街一番のメインストリート・マーケット通りは、東寄りの3番通りから8番通りの区間は、一般車両は乗り入れ禁止となっています。いうまでもなく、公共交通機関や自転車を優先するために3年前の夏に施行されました。
こちらは、その施行日に撮影した写真ですが、それまで車でギューギュー詰めだったマーケット通りが、ウソのように空いています。

そんなこんなで、車よりも自転車が便利でしょう! と、街のあちらこちらには、貸自転車ステーションが登場しました。日本の都会でも見かけるようになりましたが、サンフランシスコの街では、早々と「市民の足」となっていた記憶があります。
もともとは、「ベイエリア・バイクシェア(Bay Area Bike Share)」という名でスタートしましたが、今は、自動車メーカーのフォードが「ゴーバイク(Ford GoBike)」と銘打って運営しています(英語で「バイク(bike)」というと、自転車(bicycle)をさす場合が多いです)。
メンバー登録をすると、好きなステーションで自転車を乗り降りできるシステムですが、利用頻度に応じて1回ごとの乗車か1日乗車を選んで料金を支払えます。現在、サンフランシスコから対岸のオークランド、バークレー、エメリーヴィル、そしてシリコンバレーのサンノゼと5都市に広がり、合わせて540のステーションには、7000台が常備されています。
サンフランシスコでは、「こんなに便利な乗り物はないわ!」と5年前に耳にした記憶があるので、そこから5都市に発展したということは、かなり人気の高い「足」なんでしょう。

<今年の新しい「足」は?>
すると、今度は、いちいち決められたステーションで自転車を借りて、別のステーションで降りるのが面倒になってきたようで、今年に入って、自由に乗り降りできるシステム(dockless bike-share)が登場しています。
こちらは、1月にお目見えしたばかりの「ジャンプ(Jump)」という真っ赤な、かわいらしい自転車のシェアサービスです。従来の「ゴーバイク」とは違って電動アシスト自転車で、前方には荷物を入れられる買い物かご、座席の後ろには利用コードを入力するテンキーが備え付けられています。
自転車は、GPSによる位置情報でトラックされていて、利用者はスマートフォンアプリで自転車を見つけて、4桁の暗証コードでロックを解除し、利用したあとは好きな場所で乗り捨てられます。そう、自転車を繋ぎとめる自転車ラックのある場所なら、どこでもOKです(こちらの写真のように、駐車メーターを利用する人も多いです)。

「ジャンプ」は、いまだテスト稼働中で、市内には250台しか投入されていません。が、ダウンタウンを歩いていると、ブロックごとに赤い自転車を見かけるので、稼働率はかなり高いと見受けます。サンフランシスコ市交通局はジャンプに一年半の独占営業権を与えていて、当初9ヶ月間の利用状況に問題がなければ、秋には、250台の追加が許可されることになっています。
この赤い自転車の出現で、フォードの「ゴーバイク」は、電動アシスト自転車を250台投入し、充電ドックも130か所設けると発表しています。また、今まで3ドルだった利用料金(最初の30分)をジャンプと同じ2ドルに値下げしています。
そして、配車サービスの大御所ウーバーは、自転車を使ったシェアサービスにも目を付けていて、自社アプリ内でジャンプ自転車を利用可能とするとともに、4月に入り、ジャンプ社を買収するとも明らかにされています。

<自転車なんて古いよ!>
ところが、ジャンプと同じ時期に市に営業許可を申請したのに、ジャンプだけが独占営業権を与えられ、いい目を見ているのが面白くない競合が何社かいたんです。この競合たちは、「だったら、別のサービスを始めてやるぞ!」と、市内で新手のシェアサービスを始めました。なにかって、電動スクーターを貸し出すんです。
こちらは、3月末にサンフランシスコの街に登場したばかりの新しい足で、「スピン(Spin)」「バード(Bird)」「ライムバイク(LimeBike)」という三社が提供するサービスです。
自分の足で蹴って進む子供用のスクーターとは違って、こちらは電動で楽ですし、かなりのスピード(最大時速24キロ)が出ます。スマートフォンアプリで簡単に利用できますが、利用資格は18歳以上であること、そして電動なので運転免許証が必要です。
料金は、スタートするのに1ドル、その後は1分ごとに15セントと安価に設定されています。ダウンタウン地区は広くはないので、だいたい片道3ドル(約330円)で事足りるようです。

わたしが初めて電動スクーターサービスを見かけたのは、4月に入ってからですが、サンフランシスコの住人は「たったの2週間で、こんだけはびこったよ」と驚いていました。「雨後のタケノコ」と言わず、キノコの胞子が飛び散って芽吹いたように、ダウンタウン地区では、大きなビルの前に複数台乗り捨てられています。
サービス開始10日後には、「電動スクーターが歩道に乗り入れて危ない!」と話題になっていましたし、駅の前に乗り捨てられた何十台ものスクーターが、通勤の邪魔になると問題視されていました。スクーターの利用者に腹を立てた人の仕業なのか、ゴミ箱に突っ込まれたスクーターまで見かけるようになりました。
これに危機感を抱いたサンフランシスコ市は、「利用者が歩道に入らないように交通ルールを守らせること、安全のためにヘルメットをかぶらせること、利用後は歩行者の邪魔にならないように駐車することを徹底させよ」と、市弁護士の名で三社に対して警告状を送りつけました。4月30日までに徹底させないと、営業停止にしてやるぞ、と。
その一方で、市議会の方は、もう少し柔軟な態度を示していて、違法駐車のスクーターは市が撤去してもかまわないけれど、専用の駐車スペースを設けるなど、今後のあり方を一緒に模索していきましょう、と三社と協力することを決議しています。

突然街に現れて、急展開を見せる新手の「足」のシェアサービスですが、運営する側にとっては、自治体との折衝に加えて、現実的な問題にも頭を痛めます。たとえば、いったいどこで充電するのか? という課題。上に出てきた「ジャンプ」電動アシスト自転車だって、電動スクーターだって、電源が切れたらお話にもなりませんので。
ジャンプの場合は、市内二カ所に充電ステーションを保有していますが、ここまで運ばなければならないので、利用者がここで降りれば料金を割り引いてあげたり、代わりに充電してくれる会社や一般家庭を募ったりしています。電動スクーターの場合も、自社で充電する以外に、自宅で代行してくれる利用者をリクルートすると聞きます。

そして、競合が多いために、値段を抑えなければならない厳しい事情もあります。たとえば、ジャンプの出現によって、フォードの「ゴーバイク」は値下げしていますし、電動スクーター三社は、設備投資の大小にかかわらず、横並びの料金設定をしています。
懐の深いフォードや、大手ウーバーに買収されるジャンプ以上に、起業したばかりのスクーター三社にとっては、今は潤沢な投資に恵まれているものの、いずれは収支が気なってくることでしょう(ちなみに、サンフランシスコのスピン、サンマテオのライムバイク、南カリフォルニア・サンタモニカのバードと三社とも、昨年(2017年)起業したばかりの「できたてのホヤホヤ」です)。

というわけで、車社会からの脱却を図るアメリカの都市部。新手のシェアサービスは、サンフランシスコだけではなく、首都ワシントンD.C.、ダラス、マイアミ、シアトルと全米の諸都市で始まっています。
が、ダウンタウン地区や大学街、企業の集まるビジネスキャンパスを一歩外に出ると、途端に車が必要となるのがアメリカの厳しい現実ではあります。
自転車やスクーターのシェアサービスが、街の混雑に頭を抱える自治体や、投資先を探すベンチャーキャピタリストの「夢の一手」となるのかは、乞うご期待! といったところでしょうか。

夏来 潤(なつき じゅん)