動態経済学序説 / R.F.ハロッド 著 ; 高橋長太郎, 鈴木諒一 共訳.
有斐閣, 1953.
Kさんからいただいた論文の抜粋です。
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加速度原理と「ハロッドのナイフの刃」
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(北山孝信,2001,「ケインズ経済学の限界について(サムエルソン
と新古典派総合)」,福井県立大学修士論文,第2章より)
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■加速度原理
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不況期に財政支出を拡大する政策は、ISギャップを均衡させる
に過ぎず、この枠組では、高度成長は説明できない。
サムエルソンの成長理論の源泉は、加速度原理であった。
『経済学』の枠組みで、簡単に説明すると、社会が必要とする資本
ストックは、主として所得または生産の水準に依存し、資本ストッ
クへの追加分(純投資)は、所得が成長している時のみおこる。
その結果、好況期は、消費財の売上減のみならず、売上が横ばい、
あるいは以前より低成長になっただけで終わりがくる、というもの
だ。
この加速度原理は、政府の適度な市場介入により、成長が永遠に
続くことを前提としている。
その永遠の成長の前提となるケインズ派の成長モデルが、ロイ・
フォーブス・ハロッドの「ハロッドモデル」であった。
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■ハロッドモデル
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「ハロッドのナイフの刃」と称されることもあるハロッドモデルにつ
いて考えていく。
ハロッドモデルの基本式は、
経済成長率 G(=ΔY/Y)=s/C …①
である。
sは所得のうち貯蓄に回される割合である。この貯蓄Sは、投資
Iと均衡している(ハロッドモデルは、IS均衡を前提としている
(ハロッドの前提①)ので、貯蓄の高まりは、投資の高まりと同義で
ある。
次に、ハロッドは保証成長率を提示する。
保証成長率 Gw=sd/C …②
sdは各社会を構成する人々が、その時点で貯蓄しようとする割
合である。
これにより、国民経済は、保証される成長率をえる。なぜか?
ハロッドは、政府が経済活動に介入することで、市場経済が上手
く立ちまわることを確信している(ハロッドの前提②)。
よって、一時的に投資が抑制されても、財政政策等をとることで、
常に市場参加者が、将来に楽観的見とおしをもち、投資は結果的に
もとに戻り、経済は拡大するからだ。
また、ハロッドは、行き過ぎた投資も政府の介入により御しえる
と考えている。よって、一時的に不均衡が生じたとしても、長期的
にはISバランスは均衡することとなる。
もう少し貯蓄が増えると経済が成長するか考えよう。
経済学上において、投資は生産設備等、購入後も残って蓄積され、
以後も生産に寄与するものをさしている。
我々の投資は、株等の購入を意味するが、それは我々の貯蓄が、
株をとおして企業に貸付られたに過ぎない。企業が、銀行をとおし
て資金を調達したか、株式市場をとおして調達したかの違いしかな
い。
企業が設備等を投入してはじめて投資となる。よって、食料や衣
服等、購入して使えば何も残らない、もしくは、その後の生産に寄
与しないものは、消費になる。
ちょっと歴史の勉強をしよう。戦前の日本には地主がいた。
彼等はいきなり地主になったわけではない。
江戸時代、百姓でも水呑百姓は、年貢を払ってのこりの米で細々
と生活していた。
彼等には、余剰が残る余地がなかった。しかし、もともと土地を
もっていた本百姓たちは、大名に年貢は取られるが、水呑よりは余
裕があった。
そこで才覚のあったものが、千羽ごき等の作業が楽になるものに
投資し、それにより生じた労働余剰などを、当時需要が拡大しつつ
あった綿を作り売ることで、財を成していった。
それにより、もっと人を使って売れるものの生産を拡大し、また
上手くいかなかった者の土地を購入することを通じて、「さま」付
の大地主が形成されることとなった。
ここからも明らかなように、江戸時代や戦前の小作のように、せ
っかく作った米のほとんどを年貢(地代)にとられていては、いくら
生産が拡大できるトラクターや肥料があっても、とてもそれを買え
ないことはわかるだろう。
今日でも途上国では、食べるのに精一杯で、とても投資に回らな
い国が多く存在する。
人は、何にもまして食べることを優先する。腹いっぱい食べるこ
とができて、はじめて違うものに手を出せるのである。
ハロッドの保証成長モデルは、このことを正に前提にしているの
である。
ハロッドの第二の基本式は、
自然成長率 Gn=労働成長率+技術進歩率 …③
である。
ここでの技術進歩率は、投資の拡大、蓄積に依存しているので、
自然成長率 Gn=so/Cr …④ と書きかえることができる。
ここでのsoは、自然成長率Gnに必要な人口成長と技術進歩に見
あった貯蓄率である。
ハロッドは、財政、金融政策により貯蓄率を調整し、経済の潜在
的成長率と調和する完全雇用と成長を合理的に維持するための過不
足ない貯蓄率を提供すると考えているので、これにより、経済は拡
大しつづけることができる。
次にハロッドのナイフの刃について考えよう。現実の成長率が保
証成長率を上回った時(G>Gw)、s>sdもしくはC<Crの時、
もしくは両方である。この場合、
G>Gw s↑=ΔI↑ ΔY↑
ΔC↑ (需要増) …⑤
(ΔS↑) ΔI↑
と投資、所得、消費と投資、さらにまた所得と限りなく拡大循環を
うみ、これにより、ますます、現実の成長率Gは、保証成長率Gw
から乖離していくことになる。
逆もまた真なりで、ますます下方へ乖離する。
ハロッドは、現実成長率が下回る場合の「底」は、難解な問題だ
とするが、現実社会においては、政府当局が金融・財政政策により
重大な落ち込みを防ぐため、この問題は緊急性をもたないとしてい
る。
また拡大期においては、資本の蓄積等のより、成長率は保証成長
率を上回り、元の均衡に戻らない、としている。
このように見ていくと「ハロッドモデルはなんなのか?」と思う
ことだろう。
現実の成長率が保証成長率と乖離していくのであれば「保証成長
率そのものが何なのか?」ということになる。
このような、ハロッドモデルの不安定性に対し、真っ向から異論
を唱えたのが、ロバート・ソローだった。
ハロッドは政府の介入により経済成長を維持しうることを大前提
しているが、これは正にバブルの論理である。
政府の市場介入、財政・金融政策の対し、市場参加者が信認を失
えば、将来の見通しは悲観的なものとなり、経済は成長できなくな
ってしまう。
ハロッドのモデルにしても、サムエルソンにしても、財政・金融
政策により不況期に適度に需要を喚起することで、国民が国民経済
に対し、楽観的見とおしをもつことを大前提とした。
事実、60年代までは、高度成長を謳歌し、永遠にこのような成長
が続くと考えられ、多くの人々が将来に楽観視した。
70年代に入ると政府の失敗等の弊害が目立ちはじめ、これまでな
ら上手くいったはずの、不況期の財政策でも高成長は元に戻らなか
った。
結果、フリードマン等市場を万能とする自由主義者、政府懐疑派
の影響力が強まることとなった。
「スタグフレーション」という厳然たる事実のもと、政府の財政政
策の神秘性は喪失し、ハロッド、サムエルソンが前提とした「将来
への楽観見通し」も崩壊した。
彼らの枠組みは、所詮「バブルの論理」だった。重要なことは、
成長するという「将来への期待」でなく「何故成長するか?」であ
り「成長のために何をなしうるか?」ということだったのである。
こうして、新古典派総合は、70年代急速に影響力を喪失すること
となった。
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■参考
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将来的に、不況になっても政府の介入により、成長が維持できる
(ΔY↑)と考えれば、企業は物が売れると期待し、投資を増やして
いく。一般の人々も消費を増やしていく。
しかし「上手くいかない」と考えれば、消費も投資も抑制される。
財政拡大によりISギャップは、一時的にリカバリーできるが、
将来見通しが悲観的であれば、企業も人々も消費と投資を抑制する。
結果、赤字国債は累積することとなる。
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経済変動の説明
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CONTENTS
1. THE HUMAN FACTOR
(i) Preliminary
(ii) The Division of Labour
(iii) Capitalism
(iv) The Monetary System
II. INVESTMENT AND OUTPUT
(i) The Relation
(ii) The Multiplier
(iii) The Movements of Prices and Profits
(iv) The Three Dynamic Determinants
(v) The Inevitability of the Cycle
Note on Saving
III. INTEREST, MONEY, AND THE FOREIGN BALANCE
(i) The Rate of Interest
(ii ) Money
(iii) The Foreign Balance
IV. THE QUESTION OF REMEDIES
(i) Remedy and Diagnosis
(ii) Stable Money
(iii) Public Works and Public Finance
(iv) Subsidies
INDEX
The Trade Cycle, An Essay(1936):
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3020415
景気循環論
著者 R.F.ハロッド 著[他]
出版者 東洋経済新報社
出版年月日 1963(1955とほぼ同じ。中公は1、2章のみ)
目次
序文
日本版への序
凡例
第一章 人間的要因/p1
I 予備的考察/p1
II 分業/p14
III 資本主義/p27
IV 貨幣制度/p40
第二章 投資と産出量/p60
I リレーション/p60
II 乗数/p72
III 物価と利潤の動き/p83
IV 三つの動学的決定要因/p97
V 景気循環の不可避性/p112
補論 貯蓄にかんする覚え書/p118
第三章 利子・貨幣および国際収支/p123
I 利子率/p123
II 貨幣/p141
III 国際収支/p163
第四章 治療の問題/p178
I 治療と診断/p178
II 安定貨幣/p193
III 公共事業と財政/p214
IV 補助金/p251
訳者注/p261
訳者あとがき/p271
事項索引/p0
人名索引/p0
引用書名索引/p0
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http://homepage1.nifty.com/gujyo-economic-res/macro.files/harodo.htm
マンキューの「マクロ経済学」では、経済成長を語るために、新古典派のソローモデルを使っています。どうしてソローモデルなのか?それは、以前まではケインズ経済学の流れを汲むハロッド=ドーマー・モデルが主流でしたが、1950年代から1960年代には既に、新古典派経済学による経済成長理論がその中心的存在になっていました、そして、現在は、長い間のアメリカ経済の長期低迷とその後のIT革命等によるアメリカ経済の空前の長期的な好景気が手伝って、内生的成長理論が注目されるようになっています。
なぜ、ケインズ経済学の流れを汲むハロッド=ドーマー・モデルが注目されないのかというと、価格の硬直性が前提になっており、完全雇用は達成されず、経済成長も不安定になるという結論しか導かれていないからです。
確かに、ハロッド=ドーマー・モデルにおいては、「ナイフ・エッジ定理」と呼ばれるように、短期不安定性と長期不安定性が存在します。
まず、ハロッド・モデルについて説明すると、ハロッドは3つの成長率を想定しています。それは①現実成長率G、②適正成長率(保証成長率)Gw、③自然成長率Gnの3つです。
①現実成長率Gは、国民所得の決定の理論の出発点であるI=Sという投資と貯蓄が等しいということから導き出されます。産出量をY、その増分をΔYとして、両辺をYで割ると、
I=S
I/Y=S/Y
更に、両辺にΔY/Δ=1を掛けると ΔY/Y×I/ΔY=S/Y・・・①
ここで、 ΔY/Y=Gなので、 G×I/ΔY=S/Y
よって、 G=ΔY/I×S/Y
G=ΔY/Y
となります。
ここで、①式に戻るとS/Yは平均貯蓄率であり、I/ΔYはI=ΔKという「投資は資本ストックの増加分である」という仮定で変形すると、I/ΔY=ΔK/ΔYで、ハロッドは資本係数と呼んでいます。特に、現実の国民所得の増加分で、現実の資本ストックの増加分を割った値であるため現実資本係数と言います。
S/Y=s、ΔK/ΔY=Cとすれば、GC=s・・・②というハロッドの基本方程式が得られます。
次に、②適正成長率(保証成長率)Gwは、企業家の合理的行動を満足させ、資本設備の完全利用が実現される時に達成される企業均衡の生産成長率です。上記②のハロッドの基本方程式は、GwCr=s・・・③と変形されます。ここでの、Crは国民所得を1単位増加させるために生産技術にまさに必要とされる資本量の増加比率のことで、必要資本係数と呼ばれます。また、ここでのsは、②の基本方程式で得られる貯蓄率とは別物で、計画された貯蓄で、すべて実現されるという仮定の概念であることから、事後的貯蓄率に相当します。
なお、必要資本係数の考え方の根底には、投資決定理論として加速度原理が働くので、
投資関数を独立投資を無視して、誘発投資のみと仮定すれば、
誘発投資をIt =v(Yt-1-Yt-2)、貯蓄をSt=s・Yt-1とすれば、
I=Sより、 It =St
v(Yt-1-Yt-2)=s・Yt-1
s= v(Yt-1-Yt-2)/Yt-1
(Yt-1-Yt-2)/Yt-1=s/v
ここで、Yt-1-Yt-2=ΔY、Yt-1 =Yと置けば、
誘発投資はI=vΔY、v=It/ΔY=I/ΔYなので、vは必要資本係数Crと同じであることがわかります。
最後に、③自然成長率Gnは、完全雇用を持続し、しかも年々の技術進歩による労働生産性の上昇分を吸収したときに、達成できる最大可能な国民生産物の成長率をいいます。
ここで、ハロッドは労働の需要と供給の均衡に注目し、労働需要をL=l・Yとし、
l=L/Yを雇用係数と考えました。いま、労働人口が年々n%の割合で増加するものと仮定すると、労働人口の増加は、ΔL=nLとなり、右辺に労働需要(L=l・Y)を代入すると ΔL=n・l・Yとなり、
両辺をl・Yで割ると、 n=ΔL/l・Y=ΔL/L となります。
ここで、労働需要の増加分を考えると、ΔL=l・ΔYより、
l=ΔL/ΔY
ΔL=n・(ΔL/ΔY)・Y
ΔL=(n・ΔL・Y)/ΔY
両辺にΔYを掛けると n・ΔL・Y=ΔL・ΔY
nY=ΔY
n=ΔY/Y
ここで、ΔY/Y=Gnとすれば、Gn=n・・・④となります。
しかしながら、現実のデータでは高度成長期に、資本係数がほぼ3で、貯蓄率が30%位であることから、3Gw=30、よりGw=10%であり、ほぼG=Gwと考えても良さそうですが、労働人口の増加率も1%前後あり、Gn=Gwが成立しません。
そこで、労働生産性の向上、つまり技術進歩率の概念を導入して、これをλとして変形すると、④式より Gn=n+λ・・・⑤となります。
これまでのハロッド・モデルについてまとめると、以下のとおりです。 次に、ハロッドの3つの成長率の比較検討の考え方ですが、短期分析と長期分析の2種類あります。
まず、短期分析においては、現実成長率と保証成長率が乖離してしまうとどのようになるのか?ということに注目します。
最初に、現実成長率の基本方程式GC=sと保証成長率の基本方程式GwCr=sにおいて、貯蓄率がどちらもsなので、区別化するために現実成長率の貯蓄率Spを事後的貯蓄率、保証成長率の貯蓄率Saを事前的な貯蓄率とすると、それぞれ基本方程式は次のようになります。
現実成長率G=Sp/C、保証成長率Gw=Sa/Cr
まず、(A)として、現実成長率が保証成長率から上方へ乖離する場合を考えると、
G>Gwであるから、 Sp/C>Sa/Crであることから、2つのケースが考えられます。(下記の図を参照)
a)Sp=Saであれば、C<Crとなり、現実資本係数が必要資本係数よりも小さい ので、需要が活発で、生産増が求められます。現実資本ストックの不足分を純投資の 増加分で埋め合わせると、乗数理論により現実成長率はますます拡大するという不安 定な状態になります。
b)C=Crであれば、 Sp>Saとなり、実際の貯蓄率(事後的貯蓄率)が意図さ れた貯蓄率(事前的貯蓄率)を上回るので、予想よりも消費支出額が少なかったこと であり、消費財需要が予想外に低かったことを意味します。よって、次期以降も高貯 蓄が続くならば、消費支出がさらに増大して、加速度原理を媒介して誘発投資が招来 され、所得増加を引き起こします。 図1 ハロッド・モデルの短期不安定性
次に、(B)として現実成長率が保証成長率から下方へ乖離する場合を考えると、
G<Gwであるから、 Sp/C<Sa/Crであることから、2つのケースが考えられます。(上記の図を参照)
a)Sp=Saであれば、C>Crなので、現実資本係数が必要資本係数を上回るの で、資本の食いつぶし、すなわち負の純投資が行われるので、次期の純投資が減少 し、ますます現実の成長率は下方へ乖離していきます。
b)C=Crであれば、Sp<Saなので、現実の貯蓄率が計画された貯蓄率を下回 るために、消費の減少から加速度原理により、負の誘発投資が行われ、所得水準が ますます下方へ乖離していきます。
このように、短期においては、現実成長率が保証成長率が非常に不安定な軌道上にあることが証明されたわけです。
次に、長期分析ですが自然成長率Gnと保証成長率Gwの乖離する場合に着目して、短期変動モデルである現実成長率Gと保証成長率Gwの乖離を長期モデルに組み入れて分析します。
まず、自然成長率Gnの成長軌道は完全雇用天井成長線なので、保証成長率Gwの軌道の上方に位置させることができます。
ある期に G>Gwという現実成長率が保証成長率から上方へ乖離する場合を考えると、図2のGn軌道<Gw軌道と仮定した場合で見る限り、現実経済がやがてGn成長軌道に衝突し、現実成長率Gが(a)の矢印のごとく下方に反転するか、(b)の矢印のごとくGn軌道に沿って進むかの2通りが考えられます。
図2 Gn軌道<Gw軌道となっている場合
最初に、Gn軌道<Gw軌道となっている場合を考えると、あくまでもGn軌道がGw軌道よりも小さいとは、Gn軌道の傾きが、Gw軌道の傾きよりも小さいという意味であり、Gnの国民所得水準が、Gwの国民所得水準を下回ってしまうということを意味していません。あくまでも経済成長「率」が小さいということなので留意してください。
さて、Gn<Gwであるのならば、G<Gwの関係が成り立つので、図2の(b)の矢印のように進み続けることはできません。よって現実の経済は下向きに反転し、経済は長期停滞状態に陥っていることになります。Gn<Gwにおいて、Gnは人口成長率、Gwは資本蓄積率を示しているので、Crを必要資本係数、Saを事前的な貯蓄率とすると、 GnCr<GwCr=Sa
と変形することができて、 GnCr<Sa となるので、GnCrは完全雇用水準での必要な投資率を意味し、投資率が貯蓄率を下回ることを意味します。
したがって、Gn<Gwは資本蓄積率が人口成長率を上回る先進諸国にみられる典型的な事例であり、この不等式関係は有効需要の不足から生じます。そこで生じる失業は有効需要不足から発生するので、ケインズ的失業が発生していると言われます。
次に、Gn軌道>Gw軌道となっている場合を考えると、Gn軌道の傾きが、Gw軌道の傾きよりも大きいので、図3のようになります。
図3 Gn軌道>Gw軌道となっている場合
さて、Gn>Gwであるのならば、G>Gwの関係が成り立つので、現実成長率Gは、完全雇用天井成長軌道に向かって図3の(a)の矢印のように進むことになります。ところが、GはGnを飛び越えて進むことができないので、持続的インフレーション傾向になります。
しかしながら、Gnはとめどなく完全雇用天井成長軌道に沿って上昇するのではなくて、
Gn>Gwなので、
GnCr>GwCr=Sa
の関係が成立するので、GnCr>Saとなり、人口成長率が資本蓄積率を上回り、慢性的に豊富な有効需要にこたえるだけの資本蓄積が不足しているために、図3の(b)のようにGは下方へ反転せざるをえません。このケースは発展途上国に典型的に見られるケースでジョン・ロビンソンによれば、ここで発生する失業をマルクス的失業と呼んでいます。 このように、ハロッド・モデルでは、G=Gw=Gnの均衡成長(ゴールデン・エイジ)を持続することを保証しえず、それは「かみそりの刃」の上を渡るほど不安定このうえないことからナイフエッジ定理とも呼ばれている訳です。
参考文献「現代経済学」(石橋春男著・成文堂・1993年)
http://homepage1.nifty.com/gujyo-economic-res/macro.files/me0101.jpg
http://homepage1.nifty.com/gujyo-economic-res/macro.files/me0102.jpg
http://homepage1.nifty.com/gujyo-economic-res/macro.files/me0103.jpg
http://homepage1.nifty.com/gujyo-economic-res/macro.files/me0104.jpg
ハロッド動学のアンティノミー理論は なぜ失われたのか? 中 村 ... - J-Stage (Adobe PDF)
www.jstage.jst.go.jp/article/jshet1963/41/41/41.../_pdf
いて, 乗数 とリレーション(加速度原理)の 相互. 関連 によって景気循環を解明する先駆 的な試み. を提示した. 乗数 と加速度の結合は, その後の. 経済変動論(景 気循環論 と 経済成長論)に 大 き. く影響を与 えた重要な業績である. しかしその. こと以上に, ハロッド ...
経済学者ハロッド
www2.gol.com/users/nojiri/harrod.html
ケインズの『一般理論』の出版の直後(1936年、『一般理論』と同年に出版)に刊行され た、ハロッドの『景気循環論』で、ハロッドは初めて乗数と加速度因子(ハロッド自らは「 リレーション」と呼んでいた)の相互作用による景気循環理論を提唱したが、この「乗数」 の ...
カレツキはハロッドの加速度原理を批判したらしいが、、、
ハロッドの「投資の生産力効果」と「適正成長率」Author(s)居城, 舜子
http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/31409/1/28%281%29_P139-169.pdf
ブルス148頁
《カレツキが「黄金律」的解決の発見に注意を集中しなかったのは、それが彼にとっては、技術進歩の型にかんする若干の仮定のもとでは、効果的なヴァリアントの上限を示すことができるだけだからであった。彼はこういっている。「資本集約度の選択における枢要問題は、鍛え直しの過程における生活水準の問題である☆」と「鍛え直し」とは、資本集約度のより低い水準からより高い水準ヘの、資本設備の漸次的転換をさす)。『社会主義経済成長論概要』の該当する章の注意ぶかい読者ならば、このばあいには成長率(およびそれに対応するすべてのパラメーター)がある水準から他の水準に切り換えられるのは、ある転換点においてだけのことではなく、事実上、移行期の全期間をつうじて変化が進行するのだ、という点にも気づくことであろう。カレツキがなぜ、彼のアプローチを伝統的な成長論のそれと対比させ、「異なった社会体制における成長論」にかんする論文のなかで、「長期経済成長についての下らぬ著作の大部分は、『比較静態学』の次元で書かれている」と言明している理由は、なによりもこのことによって説明される。》
☆(竹浪祥一郎訳『社会主義経済成長論概要』日本評論社、 一九六五年)
Kalecki, M., (1972), Selected Essays on the Economic Growth of the Socialist and the Mixed. Economy, Cambridge.
69頁
ハロッド=ドーマー・モデル(英語表記)Harrod-Domar Model
ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説
ハロッド=ドーマー・モデル
Harrod-Domar Model
J.M.ケインズが『一般理論』で示した完全雇用均衡のモデルを動学化したものであり,R.F.ハロッドと E.D.ドーマーによりほぼ同時期に開発された。この特徴は,新古典派のモデルと違い,生産要素を代替的でなく補完的に見るところにある。ある生産活動に振り向けられる資本と労働の関係を固定的であるとする。したがってこのモデルは,労働供給に制約がないとともに,資本係数が固定的である生産関係が前提になっている。そしてこのモデルにおいて,成長率は貯蓄率を (限界) 資本係数で割ったものとして定義される。この成長率を維持し続けることはきわめて不安定であるということも一つの特徴である。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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