金曜日, 1月 22, 2016

経済原論 宇野弘蔵 岩波文庫版:メモ



bは2016年岩波文庫版頁数:
               /\
              /  \
             / 利子 \
            /_C____\
           /\ <分配論>/\
          /  \    / D\
         / 利潤 \  / 地代 \
        B______\/______\
       /\              /A''
      / E\    宇野弘蔵    資本の\
     / 資本 \  『経済原論』  /再生産過程
    /______\        /______\
   /\<流通論> /\      A\ <生産論>/A'
  / G\    /  \    /  \    /  \
 / 商品 \  / 貨幣 \  /資本の \  /資本の \
/______\/___F__\/_生産過程_\/_流通過程_\
____
(以下、『経済原論』29頁b37における『資本論』1:1:3:Dからの引用。貨幣形態)G1:1

< 20エレのリンネル  =|
  1着の上着      =|
  10ポンドの茶    =|
  40ポンドのコーヒー = 〉2オンスの金
  1クォーターの小麦  =|
  1/2トンの鉄    =|
  x量の商品A     =| >

原著では末尾にさらに「その他の商品 =」が加わる。

参考:http://blog.goo.ne.jp/sihonron/e/27b9d76ea3bfb8c1506781375bba957f


(以下、同32頁b40)F1:2
G____W
 \  ↗︎
  \/
  /\
 /  ↘︎
W____G____W'
      \  ↗︎
       \/
       /\
      /  ↘︎
    W'____G____W''
           \  ↗︎
            \/
            /\
           /  ↘︎
        W''____G

       生産部面   流通市場   消費部面(著作集1:56参照)

< …商品は一般に売買されると流通界を脱して消費に入るのに反して、貨幣は商品の売買を
媒介しつつ常に流通市場に留まることになる。貨幣は、G-Wとしては価値尺度として機能
し、それを基礎としながらW-G-W'の関連においては流通手段として機能する。>
(宇野弘蔵『経済原論』岩波全書版32頁b41より)


(以下、経済原論43頁b52より)E1:3
<…この(産業資本の)形式ではG-Wで購入される商品は、単にW'の生産に必要な生産手段だけでなく、その生産手段をもって新しく商品W'を生産する労働者の労働力をも商品として購入するというのでなければならない。労働力自身を商品として買入れるとき始めて(産業)資本は自ら商品を生産しうることになるわけである。かくてこの形式は、
     Pm
G__W/  ……P……W'__G' (Aは労働力、Pmは生産手段)
    \A
ということになる。>
(宇野弘蔵『経済原論』岩波全書版43頁b52より)


_____
_____


「いわゆる労働日をできうる限り延長することが…資本にとっては…基本原理となる。…マルクスはこれを剰余価値率m/v(vは可変資本、mは剰余価値)をもってあらわし、労働力の搾取度を示すものとするのである。」(岩波全書版『経済原論』67頁b78)A2:1

http://plaza.rakuten.co.jp/monozuki226/8008/
資本論1:17より
 <「労働の価値及び価格」または「労賃」という現象形態は、現象となって現われる本質的な関係としての労働力の価値および価格とは区別されるのであって、このような現象形態については、すべての現象形態とその背後に隠されているものとについて言えるのと同じことが言えるのである。現象形態のほうは普通の思考形態として直接にひとりでに再生産されるが、その背後にあるものは科学によってはじめて発見されなければならない。古典派経済学は真実の事態にかなり近く迫っているが、それを意識的に定式化することはしていない。古典派経済学は、ブルジョアの皮にくるまれているかぎり、それができないのである。>
(経済原論80頁b91で引用)A2:1

   _G'・G_
  /      \
 /        \
|          |
W'         W
・          ・
 ・        ・
  ・・・P・・・・

<(資本の運動は)G_W…P…W'…G'に対して、生産過程Pに始まるP…W'…G'・G_W…Pの生産過程の循環、さらにまた商品資本W'に始まるW'…G'・G_W…P…W'の商品資本の循環をもなすものとしなければならない。それは産業に投ぜられる資本の運動の三面を示すものとなるのである。>(同86頁)b98



        |G--W……P
W'--G'・〈
        |g--w

というように、剰余価値部分は、資本の流通過程に、いわば附属的な流通をなすわけである。かくして資本は、その再生産過程を展開するのである。>

(「経済原論』95~7頁b108)A'2:2

<…賃金を通して労働者の手に渡され
る消費資料によって再生産される労働力は、資本のもとに種々なる生産部面に配分せられ、
前年度の生産物たる生産手段をもって、新に生産手段と消費資料とを生産するのであるが、
そしてまたそれは同時に生産手段の価値cに、新に労働によって形成せられるv+mの価値
を加えることになるのであるが、資本にとってはv部分は、c部分と共に先きに投じた資
本部分を回収する、いわば資本のー部分の再生産されたものとしてあらわれる。これに対し
てm部分は、v部分と同様に労働によって新しく形成せられた、いわゆる価値生産物をなす
にもかかわらず、資本にとってはその価値増殖分をなし、資本家の所得となるのである。労
働者の賃金もー般に所得といわれるが、それは労働力の商品の代価としてえられるものであ
って、資本家の所得とは全く異っている。いかにも資本家の所得も商品の代価としての貨幣
には相違ないが、それは剩余価値生産物の代価にすぎない。労働力商品の場合は、その代価
によって自分らの労慟によって生産された価値生産物を買戻すのである。しかもそれだけで
はない。労働者にとっては、労働力商品は販売してしまえぱ、それで済むというものではな
い。また実際、労働力は、他の商品と異って、商品として販売しても労働者の手を離れるわ
けではない。労働者はその労働力を資本の生産過程に消費して、新なる生産物と共に新なる
価値を生産し、剩余価値部分と共に労働力商品の代価として支払われた価値部分をも再生産
するのである。いいかえれぱ労働者は、その労働力商品の販売によって、自らの生産物を買
戻して労働力を再生産しつつ、また再び買戻すべき生産物を生産するのである。>
(宇野弘蔵『経済原論』131~2頁、再生産表式関連)A''2:3
2016文庫版145~6頁
______
______
______

「剰余価値率がm/vとして、資本家と労働者との関係をあらわすのに対して、利潤率はm/c+vとして、剰余価値の
全資本に対する分配率を示し、資本家と資本家との関係をあらわすものになる。」(岩波全書版『経済原論』137頁b151) B3:1

地代192頁b209頁:
<…資本は、その生産物に対象化された剰余価値部分を利潤として他の資本と平均的に分配することを、土地所有によって阻止され、これを地代化するのである。> D3:2
(マルクスの記述はC利子D地代の順。宇野は意識的に逆にした。利子を資本主義社会のある種の到達点と考えているのだ。また、宇野が地代と利子を対立的に捉えていることも特筆される。これはマルクスは強調していない点だ。)
地代注(1)にヘーゲル擁護がある。b194頁
資本主義下ではヘーゲルのいう観念的人格は否定されるが、マルクスのいう個人的所有はその人格そのものである。

宇野の経済原論208-9頁にはこうある。

<利潤率に対する利子率の関係は、前者が一般に個々の資本にとってその投資部面を決定す
る基準となるのに対して、後者は個々の資本の運動中に生ずる遊休貨幣資本を資金として資
本家社会的に共同的に利用しつつ、利潤率の相違を補足的に均等化するものといってよい…。
…銀行資本は…間接的に剰余価値の生産増加に寄与することになる。>C3:3
b225~6頁


 
著者宇野 弘蔵
価格定価(本体 800円 + 税)
判型文庫判・並製(288頁)
対象一般・図書館
分類コードC0133
一般 / 文庫本
社会科学(経済・財政・統計)
経済・社会[白]
発行年月日2016年1月15日
ISBNコードISBN978-4-00-341512-2


目次

序 論
第一篇 流 通 論
第一章 商 品
第二章 貨 幣
第三章 資 本
第二篇 生産論
第一章 資本の生産過程
第一節 労働生産過程
第二節 価値形成増殖過程
第三節 資本家的生産方法の発展
第二章 資本の流通過程
第三章 資本の再生産過程
第一節 単純再生産
第二節 拡張再生産
第三節 社会総資本の再生産過程
第三篇 分 配 論
第一章 利 潤
第一節 一般的利潤率の形成
第二節 市場価格と市場価値(市場生産価格)
第三節 一般的利潤率の低落の傾向
第二章 地 代
第三章 利 子
第一節 貸付資本と銀行資本
第二節 商業資本と商業利潤
第三節 それ自身に利子を生むものとしての資本
第四節 資本主義社会の階級性
解 説 (伊藤誠)
索 引


【内容紹介】
 本書は,宇野弘蔵の理論のエッセンスをまとめた著作として,最も広く読まれ,論じられてきました.宇野弘蔵は,マルクスの『資本論』自体を,精確にかつ批判的に読むことで,日本のマルクス主義者の陥る政治的イデオロギーと峻別した社会科学としてのマルクス経済学を樹立しました.宇野理論は,戦後の経済学界,思想界に様々な論争を呼び起こしました.理論と実践の厳密な区別を要求する宇野理論は,従来の社会主義観の見直しを迫ることになりました.本書は,『資本論』によりながら,資本主義の基本原理を解明することで宇野独自の立場を凝縮したスタイルで表明しています.
 第一篇「流通論」では,『資本論』で「資本の生産過程」の内部の問題とされた「商品及び貨幣」「貨幣の資本への転化」を,「流通論」のテーマに括り出しています.商品,貨幣,資本それ自体には自律的根拠がなく,生産過程の外部的な流通形態に分類されています.マルクスの生産概念G-W-G(G(ゲルトGeld 貨幣)W(バーレWare 商品)G(貨幣+剰余価値))を,宇野は関係概念に捉え直しています.さらに,商品,貨幣,資本を循環流通させることで成立する資本主義的生産の基点が,「労働力の商品化」にあることが説かれています.第二篇「生産論」では,資本主義は,労働者が自らの労働力を商品化することで生産して得た賃銀により,生活諸資料を買い戻す関係に組み込まれることが指摘されます.諸資料の生産と交換関係には,商品,貨幣による資本の法則性が強制されます.資本は再生産されることを必須の前提とし,再生産のための資本の蓄積は,追加労働力を資本自身が調達し続けることになり,相対的過剰人口を生みます.第三篇「分配論」では,資本家と地主との間の剰余価値の分配が分析されます.資本―利子,土地―地代,労働―賃銀の類型的範式が,根本的に批判されます.最後に,相対的過剰人口の増大を含む資本の蓄積拡大は,過剰な生産,賃銀上昇,利潤の減少,再生産の停滞を生み,必然的に恐慌を発生させると結論されます.
 資本主義が暴走している現代こそ,世界と日本の現実を知るために『資本論』の重要性が,一層高まっています.『資本論』を批判的に読み解くことで,資本主義のシステム,論理を明らかにした宇野弘蔵が,今こそ注目されています.


【著者紹介】
宇野弘蔵(1897-1977) 経済学者.1921年東京帝大経済学部卒.大原社会問題研究所入所.ドイツ留学を経て,1924年東北帝大法文学部助教授.1938年,人民戦線事件に連座,起訴・拘留される.1941年東北帝大辞職.1947年東大社会科学研究所教授.宇野のマルクス研究は,社会主義イデオロギーから切り離した学としてのマルクス経済学研究を確立した.『経済原論』は,宇野理論の本質をまとめた代表作.Principles of Political Economyに翻訳され,海外の研究者にも注目された.

■白151-2
■体裁=文庫判・並製・288頁
■定価(本体 800円 + 税)
■2016年1月15日
■ISBN978-4-00-341512-2

宇野弘蔵(1897- 1977)は,『資本論』を,精確にかつ批判的に読むことで,社会科学としてのマルクス経済学を構築した.本書は,宇野経済理論の基礎を,その中心部分において集約的に述べた代表的著作.マルクス『資本論』への望みうる最良の手引書であると同時に,いまだマルクス経済学への根本的な問題提起を喚起し続けている内在的批判の書でもある.(解説=伊藤誠)

追記:
NAMs出版プロジェクト: 宇野弘蔵『価値論』:メモ
http://nam-students.blogspot.jp/2015/02/blog-post_99.html
宇野弘蔵、またはマルクスとスピノザ
http://nam-students.blogspot.jp/2013/11/blog-post_29.html
ヘーゲル『小論理学』と宇野弘蔵『経済原論』:メモ
http://nam-students.blogspot.jp/2013/12/blog-post_2835.html
NAMs出版プロジェクト: 宇野弘蔵と弁証法:メモ(過去の書き込みのまとめ)
http://nam-students.blogspot.jp/2014/12/blog-post_13.html 
「資本主義の世界史的諸段階」:メモ
http://nam-students.blogspot.jp/2013/12/blog-post_6.html
NAMs出版プロジェクト: 世界資本主義の諸段階(資本主義の世界史的諸段階):メモ
http://nam-students.blogspot.jp/2014/11/blog-post_11.html
2008年11月27日早稲田講演
http://nam-students.blogspot.jp/2008/12/20081127_26.html

「資本主義の世界史的諸段階」:メモ

                     (柄谷行人リンク:::::::::: 

資本主義の世界史的諸段階(柄谷行人『世界史の構造』412頁、2013年11月23日講演レジュメより)
_________________________________________
      |1750〜 |1810〜 |1870〜 |1930〜 |1990〜 
      |1810  |1870  |1930  |1990  |      
______|______|______|______|______|______
世界資本主義|後期重商主義|自由主義  |帝国主義  |後期資本主義|新自由主義 
______|______|______|______|______|______
覇権国家  |      |    イギリス     |    アメリカ     
______|______|_____________|_____________
経済政策  |帝国主義的 |自由主義的 \帝国主義的 |自由主義的 \帝国主義的 
______|______|_______\_____|_______\_____
資本    |商人資本  |産業資本  |金融資本  |国家独占資本|多国籍資本 
______|______|______|______|______|______
世界商品  |繊維産業  |軽工業   |      |耐久消費財 |情報    
  &   |(マニュファ|(機械生産)|重工業   |(フォーディ|(ポスト・フォ
(生産形態)| クチャー)|      |      | ズム   |ーディズム)
______|______|______|______|______|______
国家    |絶対主義王権|国民国家  |帝国主義国家|福祉国家  |地域主義  
______|______|______|______|______|______
対抗運動  |分散的   |集積的   \分散的   |集積的   \分散的   
______|______|__1848_\_____|__1968_\_____
宇野経済学 |        段階論        ☆|     現状分析
                          ロシア革命
                          国際連盟
商業資本、商人資本(G―W―G') 
           高利貸資本、金融資本(G…G')
    生産資本、産業資本(G - W ... P ... W' - G')

資本主義の循環的、反復的交互性を示す。対抗運動及び宇野弘蔵関連を補足及び改変(彩色)。
現代の集積的対抗運動の先駆はロシア革命。それ以後に関する考察を宇野は現状分析とした。
ただし1920年の国際連盟発足を柄谷はより高く評価する。
柄谷は、原理論とは区別したが、段階論と現状分析(状況論)は一つにした。
宇野の場合、循環は別途に恐慌論として原理論的に展開される。

「宇野経済学において、原理論で展開されるあたかも無限に繰り返すかの如く描き出される
資本の論理には始点も終点もないが、段階論として見た場合、資本主義は始点と終点をもつ。
宇野弘蔵においても円環的な時間と直線的時間が併存する。」
(佐藤優『国家と神とマルクス』文庫104頁)

むしろ柄谷は宇野の段階論と現状分析のなかに循環性を見出す。
参考:
資本主義の極意
明治維新から世界恐慌へ
佐藤 優
11 人中、9人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
投稿者 ウシン・ソージスト 投稿日 2016/1/10
形式: 新書 Amazonで購入
日本の近代における資本主義の流れを、宇野弘蔵のマルクス経
済学を通して、読み解いて行きます。

マルクスの『資本論』は、英国における資本主義の初期段階に
おいて、資本の自己増殖を考察した、純粋モデルを示していま
す。
このモデルには国家による介入が含まれていない為、これだけ
では、資本主義の後発国であるドイツを始めとする、その他の
国の資本主義は読み解けません。

宇野弘蔵の「三段階論」では、『資本論』の純粋モデルに当た
るものを「原理論」とし、資本と国家の結びつき以降を「段階
論」とし、ロシア革命以降を「現状分析」としています。

著者は、この「三段階論」を踏まえて、日本の近代の資本主義を
読み解いて行きます。

第一章は、明治維新から1880年代までを、マルクスの貨幣論や宇野
の「原理論」を踏まえて、説明します。
資本主義の起源は、「労働力の商品化」の発生による、という観点
で、その成立を探ります。

第二章では、1890年代から1900年代までの、恐慌から産業革命、
財閥形成の時代を、宇野の「段階論」を国家論として読み解き
ます。
日本の近代の成立状況が、よく見えて来ます。

第三章では、第一次世界大戦から終戦までを、宇野の国家論と
しての「段階論」や「現状分析」により、見て行きます。
この時代の最大のインパクトはロシア革命であり、それに対抗
する体制が「国家独占資本主義」となります。
ニューディール政策も、ナチスも、満州国建国も、これに含ま
れます。
国家独占資本主義は、社会主義革命を阻止する為、労働者階級
に譲歩して行くことになります。
この体制の延長が、ソ連崩壊まで続くとされます。
この観点が、とても新鮮でした。

またこの章では、「講座派」と「労農派」による、日本資本主
義論争も大きく取り上げられます。
両者の思考の違いが見えて来ます。

資本主義のリセット装置が、恐慌だけではなく、戦争もそうで
あることが示されます。

第四章では、著者による21世紀の「現状分析」が成されます。
ソ連崩壊以降、重しを外された資本主義は、新自由主義と新帝
国主義の両面で暴走して行くことになります。
アベノミクス、イスラム国、ピケティ、ウォーター・バロン等
が取り上げられます。

この状況下で、労働力商品たる我々は、資本主義に如何に対処
すべきかという問題について、心得が示されます。
それは、キリスト教徒が終末を「急ぎつつ待ち望む」ように、
資本主義の終焉を、高望みをせず、しかしけっして諦めないと
いうものです。
この心得は、予見される未来に資本主義に代わる新しいシステ
ムは到来しない、という考えの果てに導びかられています。

要するに、無理をせず、程々に、真面目に働くというになるで
しょうか。
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10 人中、8人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
投稿者 中西良太 / Ryota Nakanishi トップ1000レビュアー 投稿日 2016/1/9
形式: 新書
本書は、佐藤さんが日本のユニークなマルクス経済学の研究者宇野弘蔵(1897−1977年)の方法論に従って、明治維新以降の日本史を論述の材料にして、日本における資本主義の内在的論理(本質)を読解した良書です。

佐藤さんのマルクスとその体系的理論に対する基本的な立場は、宇野弘蔵と同様です。影響度では、マルクスよりも宇野弘蔵の方が大きいという方が理論的には正確です。

Q:宇野経済学とはどういうものか?マルクスをどうみるか?

佐藤さん:宇野は、マルクスには、二つの魂があると考える。一つ目は、観察者として、資本主義の内在的論理を解明しようとする魂だ。それは、マルクスの主著『資本論』に端的に現れている。

ただし、マルクスには、共産主義社会を実現しようとする二つ目の魂がある。『資本論』にも革命家としてのマルクスのイデオロギーが混在するが故に、論理が崩れている部分がある。そのような部分については、イデオロギーよりも論理を重視して、宇野は『資本論』を原理論として純化した。

そして、労働力の商品化がなされると、恐慌を繰り返し、資本主義は「あたかも永続するような」システムとなるのである。最も現実に存在する資本主義は純粋なものではない。

国家の経済政策に依って影響を受けるため、資本主義は、重商主義、自由主義、帝国主義という段階を経る。従って、原理論、段階論、現状分析という三段階論で重層的に資本主義を分析する科学(体系知)としての経済学を確立する必要があると宇野は説いた。
(本書、p.243)

宇野の方法は、弁証法ではありません。また佐藤さんが説くマルクスの論理破綻は、1930年代に既にソビエト官僚主義に対して散見された官僚階級論を採用していない点です。これらの見解は、そもそも宇野も佐藤さんもマルクス主義ではないからです。

Q:では、二つ目のマルクスの魂を継承して、我々は革命により資本主義を克服するべきか?

佐藤さん:資本主義は、英国のエンクロージャー(囲い込み)運動という外部からの契機に依って生まれたので、与件が変化すれば、資本主義を超克することは可能である。

マルクス主義者の間違いは、システムの転換が内部から可能であると考えたことだ。資本主義は、キリスト教の千年王国が説く様に外部からのきっかけによって崩れると私は考えている。

それだから、人間を疎外するシステムである資本主義に振り回されないように細心の注意を払いつつ、いつか千年王国が到来することを私たちは「急ぎつつ、待つ」という態度をとらなくてはならない。(本書、p.244)

まず、佐藤さんはマルクス主義でもないし、革命的手段による現状克服の立場もとっていないことを表明しています。待機主義、逃避主義、日和見主義の積極性による他力本願的な形での外部からのキリスト教的な力に依る何らかの衝撃で資本主義が崩壊することを予見しています。
https://www.nhk-book.co.jp/ns/detail/201601_2.html
資本主義の極意
明治維新から世界恐慌へ
佐藤 優
将来不安が増す一方で、急速な世界株安が起こり、テロの暗雲が世界を覆う。なぜ、このような状況に陥ったのか? 戦争の時代は繰り返されるのか? 個々の生き方から国際情勢までを規定する資本主義の本質を解き明かす。明治期にまでさかのぼり日本独自の問題点を明らかにするとともに、資本主義の矛盾のなかで生き抜く心構えを説く。新境地を開く書き下ろし!

目次

序 章
資本主義を日本近代史から読み解く
第1章
日本資本主義はいかに離陸したか?――「明治日本」を読み解く極意
第2章
日本資本主義はいかに成熟したか?――「恐慌の時代」を読み解く極意
第3章
国家はいかに資本に介入したか?――「帝国主義の時代」を読み解く極意
第4章
資本主義はいかに変貌したか?――現下日本と国際情勢を読み解く極意

編集担当者より

 極端な成果主義の下で給料が下がる一方というビジネスパーソンから、就職の見通しがつかず結婚すらもおぼつかない若者まで。将来不安が増す一方で、急速な世界株安・株値の乱高下が起こり、テロの暗雲が世界を覆う。なぜ、このような状況に陥ったのか?──
 本書は、個々の生き方から国際情勢までを規定する「資本主義」の本質を見抜くためのレッスンです。ピケティの『21世紀の資本』をはじめ、資本主義について分析した本はたくさん出版されていますが、それら類書との大きな違いは2点。
 一つは、明治期にまでさかのぼり、日本独自の問題点を明らかにすることです。
 日本において資本主義はどのように発展し、そのプロセスのなかで国家はどのように資本に介入していったのか。この国では政府主導の下、西欧が何百年もかけて経験したプロセスを圧縮して通過しただけに、社会の二極化や労働状態の劣悪化など、資本主義の負の側面がより屈折した形で現れたこと。1930年代になると、資本の動きが帝国主義的政策と結びつき、戦争への途が開かれたことを鋭く読み解きます。
 もう一つは、日本近代史の知識を活かして、現在の日本と国際情勢をめぐるさまざまな出来事を掘り下げて分析すること。TPPからアベノミクス、そしてテロ事件にいたるまで、過去との異同を見極めることで、現下の問題点がより明確になるでしょう。
 ビジネスパーソンに役に立つ日本近代史の知識が効率よく習得できるのみならず、資本主義の矛盾のなかで生きる心構えまでもが身につく、著者の新境地を開く書き下ろしです。
(NHK出版 大場 旦)

著者プロフィール

佐藤 優(さとう・まさる)
著者写真
撮影:尾崎 誠
1960年、東京都生まれ。作家・元外務省主任分析官。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。2002年、背任と偽計業務妨害容疑で逮捕、起訴され、09年6月執行猶予有罪確定。13年6月執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失う。現在は、作家活動に精力的に取り組む。『国家の罠』(新潮社)で毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。そのほか『国家論』『はじめての宗教論(右巻・左巻)』『私のマルクス』『世界史の極意』『宗教改革の物語』など著書多数。